円周角の定理(高校数学)は、円周角の定理を複素数で見直す見方である。単位円上の $A=e^{i\alpha}$、$B=e^{i\beta}$($\alpha<\beta<\alpha+360^\circ$)と、同じ単位円上の $A,B$ 以外の点 $P$ について $\frac{b-p}{a-p}=k\,e^{i(\beta-\alpha)/2}$($k$ は 0 でない実数)が成り立ち、$P$ が $A$ から反時計回りに $B$ へ向かう弧の上になければ $k>0$ で $\angle APB=\frac{\beta-\alpha}2$、その弧の上にあれば $k<0$ で角はその補角になる。角を $180^\circ$ の差を除いて測ると 2 つの場合は 1 つの式になる。逆に、相異なる 4 点が同じ円周上か同じ直線上にあることは、複比が実数であることと同値である。
前提知識: 複素数, 極形式, 三角関数, 加法定理, ベクトルの内積(高校数学)
円周上に 2 点 $A,B$ をとり、同じ円周上の別の点 $P$ から $A$ と $B$ を見込む角 $\angle APB$ を考える。これを弧 $AB$ に対する 円周角 という。教科書では次のことを習う。
原点を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上に、$x$ 軸の正の向きから反時計回りに $0^\circ,60^\circ,120^\circ,\dots$ の位置にある 6 点をとる。$A=(1,0)$($0^\circ$)、$B=\left(-\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$($120^\circ$)とする。$P$ から見た角は、ベクトル $\overrightarrow{PA}$、$\overrightarrow{PB}$ の 内積 を使って $\cos\angle APB=\dfrac{\overrightarrow{PA}\cdot\overrightarrow{PB}}{|\overrightarrow{PA}|\,|\overrightarrow{PB}|}$ で求まる。
(1) $P_1=(-1,0)$($180^\circ$)。$\overrightarrow{P_1A}=(2,0)$、$\overrightarrow{P_1B}=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ である。内積は $2\cdot\dfrac12+0=1$、長さは $2$ と $1$ なので、$\cos\angle AP_1B=\dfrac1{2\cdot1}=\dfrac12$、よって $\angle AP_1B=60^\circ$ である。
(2) $P_2=\left(-\dfrac12,-\dfrac{\sqrt3}2\right)$($240^\circ$)。$\overrightarrow{P_2A}=\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$\overrightarrow{P_2B}=(0,\sqrt3)$ である。内積は $0+\dfrac{\sqrt3}2\cdot\sqrt3=\dfrac32$、長さは $|\overrightarrow{P_2A}|=\sqrt{\dfrac94+\dfrac34}=\sqrt3$、$|\overrightarrow{P_2B}|=\sqrt3$ なので、$\cos\angle AP_2B=\dfrac{3/2}{3}=\dfrac12$、よって $\angle AP_2B=60^\circ$ である。
(3) $P_3=\left(\dfrac12,-\dfrac{\sqrt3}2\right)$($300^\circ$)。$\overrightarrow{P_3A}=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$\overrightarrow{P_3B}=(-1,\sqrt3)$ である。内積は $-\dfrac12+\dfrac32=1$、長さは $1$ と $2$ なので、$\cos\angle AP_3B=\dfrac12$、よって $\angle AP_3B=60^\circ$ である。
3 つとも $60^\circ$ である。$P_1,P_2,P_3$ を含まない方の弧 $AB$($0^\circ$ から $120^\circ$ までの弧)の中心角は $120^\circ$ で、$60^\circ$ はその半分である。
ex-iah-start-hexagon と同じ $A,B$ を、$Q=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$($60^\circ$)から見る。$\overrightarrow{QA}=\left(\dfrac12,-\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$\overrightarrow{QB}=(-1,0)$ で、内積は $-\dfrac12$、長さはどちらも $1$ なので、$\cos\angle AQB=-\dfrac12$、よって $\angle AQB=120^\circ$ である。
$Q$ は $0^\circ$ から $120^\circ$ までの弧の上にあるので、$Q$ を含まない方の弧は $120^\circ$ から $360^\circ$ までの弧で、その中心角は $240^\circ$ である。$120^\circ$ はその半分であり、定理と合っている。一方、$\angle AP_1B+\angle AQB=60^\circ+120^\circ=180^\circ$ である。四角形 $AQBP_1$ は円に内接していて、向かい合う角の和が $180^\circ$ になっている。
単位円上の A(0°)、B(120°)を、P₁(180°)、P₂(240°)、P₃(300°)から見るとどれも 60°、反対側の弧の Q(60°)から見ると 120°
図 1 で見たように、$A$ から反時計回りに $B$ へ向かう弧の中心角を $\theta$(図 1 では $120^\circ$)とすると、見る点がこの弧の外にあるか上にあるかで角が $\dfrac\theta2$ と $180^\circ-\dfrac\theta2$ に分かれる。教科書の証明が場合分けになるのは、このためでもある。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算・定理 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $P$ から $A,B$ を見込む角 $\angle APB$ | 見込む数 $\dfrac{b-p}{a-p}$ の偏角 | 複素数の偏角、回転 |
| 円周角は中心角の半分 | 弦の向きは両端の角の平均 $+90^\circ$ | 半角の公式、円の上の回転 |
| 2 つの弧で $\dfrac\theta2$ と $180^\circ-\dfrac\theta2$ | $180^\circ$ の差を除けば等しい | 有向角($\bmod 180^\circ$) |
| 円周角の定理の逆(共円の判定) | 複比が実数 | 複比、1 次分数変換で保たれる量 |
| 円に内接する四角形 | 見込む数の比が負の実数 | 4 点の複比の符号 |
平面の点を複素数で表す(複素数平面)。点 $A,B,P,\dots$ を表す複素数を小文字 $a,b,p,\dots$ で書く。$0$ でない複素数 $z$ の 偏角 とは、$z=|z|(\cos\theta+i\sin\theta)$ となる角 $\theta$ のことであり、$360^\circ$ の整数倍の差を除いて決まる(極形式)。$-180^\circ<\theta\le180^\circ$ の範囲にとったものを $\operatorname{Arg}z$ と書く。複素数の積では偏角が足され、商では引かれる(複素数の掛け算は回転と拡大)。
相異なる 3 点 $A,B,P$ について、複素数
$$
w_P:=\frac{b-p}{a-p}
$$
を、$P$ から $A,B$ を 見込む数 とよぶ(この記事だけの呼び名)。$a-p$ は $P$ から $A$ へ向かうベクトル、$b-p$ は $P$ から $B$ へ向かうベクトルを表す。
$w_P$ の偏角は、ベクトル $\overrightarrow{PA}$ を何度回すと $\overrightarrow{PB}$ の向きになるかを表す。これを角 $\angle APB$ と結びつけておく。
相異なる 3 点 $A,B,P$ について、$\angle APB=|\operatorname{Arg}w_P|$ である。また、$w_P$ の虚部が正なら $\overrightarrow{PA}$ から $\overrightarrow{PB}$ へは反時計回りに $\angle APB$ だけ回り、負なら時計回りに回る。
方針:$\cos\angle APB$ を内積で表し、それが $\cos(\operatorname{Arg}w_P)$ に等しいことを示す。
段 1(記号)。$u:=a-p=u_1+u_2i$、$v:=b-p=v_1+v_2i$ とおく($u_1,u_2,v_1,v_2$ は実数)。$u,v$ は $\overrightarrow{PA}$、$\overrightarrow{PB}$ の成分 $(u_1,u_2)$、$(v_1,v_2)$ を表す。
段 2($v\bar u$ を計算する)。$\bar u=u_1-u_2i$ なので
$$
v\bar u=(v_1+v_2i)(u_1-u_2i)=(u_1v_1+u_2v_2)+(u_1v_2-u_2v_1)i
$$
である。実部 $u_1v_1+u_2v_2$ は内積 $\overrightarrow{PA}\cdot\overrightarrow{PB}$ に等しい。
段 3($w_P$ と $v\bar u$ の偏角は同じ)。$u\bar u=|u|^2$ なので $w_P=\dfrac vu=\dfrac{v\bar u}{u\bar u}=\dfrac{v\bar u}{|u|^2}$ である。正の実数 $|u|^2$ で割っても偏角は変わらないので、$\psi:=\operatorname{Arg}w_P$ は $v\bar u$ の偏角でもある。また $|v\bar u|=|v|\,|u|$ である。
段 4(余弦を比べる)。段 2・段 3 から
$$
\cos\psi=\frac{\operatorname{Re}(v\bar u)}{|v\bar u|}=\frac{\overrightarrow{PA}\cdot\overrightarrow{PB}}{|\overrightarrow{PA}|\,|\overrightarrow{PB}|}=\cos\angle APB
$$
である。$|\psi|$ と $\angle APB$ はどちらも $0^\circ$ 以上 $180^\circ$ 以下で、この範囲では余弦の値から角がただ 1 つに決まる。$\cos|\psi|=\cos\psi$ なので、$\angle APB=|\psi|$ である。
段 5(回る向き)。$w_P=|w_P|(\cos\psi+i\sin\psi)$ なので、$w_P$ の虚部の符号は $\sin\psi$ の符号と同じである。$v=w_Pu$ であり、$w_P$ を掛けることは偏角 $\psi$ の回転と拡大である。$\sin\psi>0$ なら $0^\circ<\psi<180^\circ$ で反時計回り、$\sin\psi<0$ なら $-180^\circ<\psi<0^\circ$ で時計回りである。$\square$
ex-iah-start-hexagon の点を複素数で書く。$\omega:=\dfrac{-1+\sqrt3\,i}2$($120^\circ$ の点)とすると $a=1$、$b=\omega$ である。
(1) $p_2=\bar\omega=\dfrac{-1-\sqrt3\,i}2$($240^\circ$)。$b-p_2=\sqrt3\,i$、$a-p_2=\dfrac{3+\sqrt3\,i}2$ なので
$$
w_{P_2}=\frac{2\sqrt3\,i}{3+\sqrt3\,i}=\frac{2\sqrt3\,i\,(3-\sqrt3\,i)}{(3+\sqrt3\,i)(3-\sqrt3\,i)}=\frac{6+6\sqrt3\,i}{12}=\frac12+\frac{\sqrt3}2i
$$
である。偏角は $60^\circ$ で、lem-iah-angle-arg により $\angle AP_2B=60^\circ$ である。
(2) $q=\dfrac{1+\sqrt3\,i}2$($60^\circ$)。$b-q=-1$、$a-q=\dfrac{1-\sqrt3\,i}2$ なので
$$
w_Q=\frac{-2}{1-\sqrt3\,i}=\frac{-2(1+\sqrt3\,i)}{(1-\sqrt3\,i)(1+\sqrt3\,i)}=\frac{-2-2\sqrt3\,i}{4}=-\frac12-\frac{\sqrt3}2i
$$
である。$\operatorname{Arg}w_Q=-120^\circ$ なので $\angle AQB=120^\circ$ で、虚部が負だから $\overrightarrow{QA}$ から $\overrightarrow{QB}$ へは時計回りに回る。どちらも ex-iah-start-hexagon・ex-iah-start-other-arc の内積による計算と一致する。
以下では、円を単位円とし、円周上の点を $e^{i\xi}:=\cos\xi+i\sin\xi$ と書く($\xi$ は $x$ 軸の正の向きから反時計回りに測った角)。一般の円への移し方は rem-iah-general-circle で述べる。鍵になるのは、弦の向きを両端の角で表す次の等式である。
実数 $\xi,\varphi$ について
$$
e^{i\xi}-e^{i\varphi}=2\sin\frac{\xi-\varphi}2\cdot i\,e^{i(\xi+\varphi)/2}
$$
が成り立つ。したがって、単位円上の相異なる 2 点 $P=e^{i\varphi}$、$X=e^{i\xi}$ を結ぶ弦 $PX$ は、偏角 $\dfrac{\xi+\varphi}2+90^\circ$ の向き(またはその逆向き)をもつ。
方針:両端の角の平均 $\dfrac{\xi+\varphi}2$ の分だけ回したものをくくり出し、残りを正弦で表す。
段 1(くくり出す)。$m:=\dfrac{\xi+\varphi}2$、$h:=\dfrac{\xi-\varphi}2$ とおくと、$\xi=m+h$、$\varphi=m-h$ である。偏角の足し算($e^{i(s+t)}=e^{is}e^{it}$、加法定理と同じ内容)により
$$
e^{i\xi}-e^{i\varphi}=e^{im}e^{ih}-e^{im}e^{-ih}=e^{im}\left(e^{ih}-e^{-ih}\right)
$$
である。
段 2(括弧の中)。$e^{ih}=\cos h+i\sin h$、$e^{-ih}=\cos h-i\sin h$ なので、$e^{ih}-e^{-ih}=2i\sin h$ である。段 1 に代入して $e^{i\xi}-e^{i\varphi}=2\sin h\cdot i\,e^{im}$ を得る。これが示す等式である。
段 3(向き)。$P\ne X$ なので左辺は $0$ でなく、$2\sin h$ は $0$ でない実数である。$i=e^{i\cdot90^\circ}$ なので $i\,e^{im}=e^{i(m+90^\circ)}$ である。したがって $x-p$ は、偏角 $m+90^\circ$ の単位ベクトルの $2\sin h$ 倍であり、$\sin h>0$ なら同じ向き、$\sin h<0$ なら逆向きである。$\square$
単位円上の P(200°)と X(320°)。弦 PX は、両端の角の平均 260° の方向の半径に垂直で、向きは 260° + 90° = 350°(180° の差を除いて)
lem-iah-chord の見方では、$P$ を固定して $X$ を円周上で角 $\xi$ だけ動かすと、弦 $PX$ の向きは $\dfrac\xi2$ だけ変わる。円周上の角の半分だけ直線の向きが回る。これが円周角が中心角の半分になる理由である。ex-iah-chord (4) のように $P=-1$ とすると傾きは $\tan\dfrac\xi2$ になり、ピタゴラス数と円の有理点 で有理点を求めるときに使う、点 $(-1,0)$ を通る直線の傾きによる媒介変数表示と同じになる。定理として述べる。
$\alpha<\beta<\alpha+360^\circ$ とし、単位円上の点 $A=e^{i\alpha}$、$B=e^{i\beta}$、$P=e^{i\varphi}$($P\ne A,B$)をとる。このとき
$$
w_P=\frac{b-p}{a-p}=k\,e^{i(\beta-\alpha)/2},\qquad k=\frac{\sin\dfrac{\varphi-\beta}2}{\sin\dfrac{\varphi-\alpha}2}
$$
であり、$k$ は $0$ でない実数である。さらに、$A$ から反時計回りに $B$ へ向かう弧(中心角 $\theta:=\beta-\alpha$)を $\widehat{AB}$ とすると、
方針:$b-p$ と $a-p$ を lem-iah-chord で書き、割り算で共通の因数を消す。残る実数 $k$ の符号を、角の範囲から決める。
段 1(分子と分母)。lem-iah-chord により
$$
b-p=2\sin\frac{\beta-\varphi}2\cdot i\,e^{i(\beta+\varphi)/2},\qquad a-p=2\sin\frac{\alpha-\varphi}2\cdot i\,e^{i(\alpha+\varphi)/2}
$$
である。$P\ne A$ なので $a-p\ne0$、したがって $\sin\dfrac{\alpha-\varphi}2\ne0$ である。同じく $P\ne B$ から $\sin\dfrac{\beta-\varphi}2\ne0$ である。
段 2(割る)。$2i$ が約分され、偏角は引き算になるので
$$
w_P=\frac{\sin\dfrac{\beta-\varphi}2}{\sin\dfrac{\alpha-\varphi}2}\cdot e^{i\left(\frac{\beta+\varphi}2-\frac{\alpha+\varphi}2\right)}=\frac{\sin\dfrac{\beta-\varphi}2}{\sin\dfrac{\alpha-\varphi}2}\cdot e^{i(\beta-\alpha)/2}
$$
である。$\sin(-x)=-\sin x$ を分子と分母に使うと、係数は $\dfrac{\sin\frac{\varphi-\beta}2}{\sin\frac{\varphi-\alpha}2}=k$ に等しい。段 1 により $k$ は $0$ でない実数である。
段 3($P$ が $\widehat{AB}$ の上にないとき)。$P$ を表す角 $\varphi$ は $360^\circ$ の差を除いて決まるので、$\beta<\varphi<\alpha+360^\circ$ の範囲にとれる。このとき
$$
0<\frac{\varphi-\beta}2<\frac{\alpha+360^\circ-\beta}2<180^\circ,\qquad 0<\frac{\beta-\alpha}2<\frac{\varphi-\alpha}2<180^\circ
$$
である(1 つ目の最後の不等号は $\alpha<\beta$ から、2 つ目の最後の不等号は $\varphi<\alpha+360^\circ$ から)。$0^\circ$ と $180^\circ$ の間の角の正弦は正なので、$k>0$ である。
段 4($P$ が $\widehat{AB}$ の上にあるとき)。$\alpha<\varphi<\beta$ にとれる。このとき
$$
-180^\circ<\frac{\alpha-\beta}2<\frac{\varphi-\beta}2<0,\qquad 0<\frac{\varphi-\alpha}2<\frac{\beta-\alpha}2<180^\circ
$$
である($\beta-\alpha<360^\circ$ を使った)。分子の正弦は負、分母の正弦は正なので、$k<0$ である。
段 5(角を読む)。$0<\dfrac\theta2<180^\circ$ である。$k>0$ なら、$w_P$ は偏角 $\dfrac\theta2$ の複素数の正の数倍なので $\operatorname{Arg}w_P=\dfrac\theta2$ であり、lem-iah-angle-arg により $\angle APB=\dfrac\theta2$ である。$k<0$ なら、$-1=e^{i\cdot180^\circ}$ により $w_P=|k|\,e^{i(\theta/2-180^\circ)}$ で、$-180^\circ<\dfrac\theta2-180^\circ<0^\circ$ なので $\operatorname{Arg}w_P=\dfrac\theta2-180^\circ$ である。lem-iah-angle-arg により $\angle APB=180^\circ-\dfrac\theta2$ である。$\square$
1 の場合、$P$ を含まない方の弧は $\widehat{AB}$ そのものなので、これは教科書の「円周角は、$P$ を含まない弧の中心角の半分」である。2 の場合、$P$ を含まない方の弧はもう一方の弧で、その中心角は $360^\circ-\theta$ である。$180^\circ-\dfrac\theta2=\dfrac{360^\circ-\theta}2$ なので、2 も同じ言い方にまとまる。$P$ を動かしても $e^{i(\beta-\alpha)/2}$ の部分は変わらず、変わるのは実数 $k$ だけである。円周角が $P$ によらないのは、このためである。
$\alpha=0^\circ$、$\beta=120^\circ$(ex-iah-start-hexagon の $A,B$)とする。$\theta=120^\circ$、$e^{i\theta/2}=e^{i\cdot60^\circ}=\dfrac{1+\sqrt3\,i}2$ である。
(1) $P_3$($\varphi=300^\circ$):$\widehat{AB}$ の上にない。$k=\dfrac{\sin90^\circ}{\sin150^\circ}=\dfrac1{1/2}=2$ なので $w_{P_3}=2e^{i\cdot60^\circ}=1+\sqrt3\,i$ である。直接計算しても $b-p_3=-1+\sqrt3\,i$、$a-p_3=\dfrac{1+\sqrt3\,i}2$ で、$\dfrac{2(-1+\sqrt3\,i)}{1+\sqrt3\,i}=\dfrac{2(-1+\sqrt3\,i)(1-\sqrt3\,i)}{4}=\dfrac{2(2+2\sqrt3\,i)}4=1+\sqrt3\,i$ と一致する。$\angle AP_3B=60^\circ$ である。
(2) $Q$($\varphi=60^\circ$):$\widehat{AB}$ の上にある。$k=\dfrac{\sin(-30^\circ)}{\sin30^\circ}=-1$ なので $w_Q=-e^{i\cdot60^\circ}=-\dfrac12-\dfrac{\sqrt3}2i$ で、ex-iah-view-hexagon (2) と一致する。$\angle AQB=180^\circ-60^\circ=120^\circ$ である。
中心 $c$、半径 $r$ の円の点は $c+re^{i\xi}$ と書ける。3 点 $A,B,P$ がこの円の上にあるとき、$a=c+ra'$、$b=c+rb'$、$p=c+rp'$($a',b',p'$ は単位円上の点)とおくと
$$
\frac{b-p}{a-p}=\frac{r(b'-p')}{r(a'-p')}=\frac{b'-p'}{a'-p'}
$$
である。平行移動 $c$ は引き算で消え、正の数 $r$ は約分される。したがって見込む数は単位円の場合と同じであり、thm-iah-main はどの円でも成り立つ。
thm-iah-main の 1 と 2 を合わせると、円に内接する四角形の性質がすぐに出る。
円周上の 4 点 $A,Q,B,P$ がこの順に並ぶ($Q$ と $P$ が $A,B$ で分けられる別々の弧の上にある)とき、$\angle AQB+\angle APB=180^\circ$ である。
方針:thm-iah-main の 1 を $P$ に、2 を $Q$ に使う。
必要なら $A$ と $B$ の名前を入れ替え、rem-iah-general-circle により単位円で考えて、$Q$ が $\widehat{AB}$ の上に、$P$ が $\widehat{AB}$ の上にないようにできる。$\theta$ を $\widehat{AB}$ の中心角とすると、thm-iah-main の 1 により $\angle APB=\dfrac\theta2$、2 により $\angle AQB=180^\circ-\dfrac\theta2$ である。足すと $180^\circ$ である。$\square$
$A=1$、$B=-1$($\alpha=0^\circ$、$\beta=180^\circ$)とすると $\theta=180^\circ$ で、thm-iah-main のどちらの場合も $\angle APB=90^\circ$ である。たとえば $P=i$ では $w_P=\dfrac{-1-i}{1-i}=\dfrac{(-1-i)(1+i)}{(1-i)(1+i)}=\dfrac{-2i}{2}=-i$ で、偏角は $-90^\circ$ である。$P=-i$ では $w_P=\dfrac{-1+i}{1+i}=\dfrac{(-1+i)(1-i)}2=\dfrac{2i}2=i$ で、偏角は $90^\circ$ である。どちらも $\angle APB=90^\circ$ で、見込む数は純虚数になる。この場合は 直径に対する円周角 で詳しく扱う。
円周角の定理 の証明は、中心 $O$ が角 $\angle APB$ の内部・辺上・外部のどこにあるかで 3 つに分け、二等辺三角形の底角と外角の定理を使う。prf-iah-main では場合分けが「$k$ の符号」だけになり、それも $P$ が弧 $\widehat{AB}$ の上にあるかどうかの 2 通りである。中心の位置による 3 通りの区別は、正弦の符号の計算(段 3・段 4)に吸収されている。代わりに使ったのは、偏角の足し算(加法定理)と $e^{ih}-e^{-ih}=2i\sin h$ だけである。$e^{ih}-e^{-ih}=2i\sin h$ は半角の公式の仲間であり、加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く と同じ計算である。
thm-iah-main の 1 と 2 は、$w_P$ が $e^{i(\beta-\alpha)/2}$ の 正の数倍か負の数倍か の違いだけである。負の数倍は偏角が $180^\circ$ ずれることにあたる。そこで、角を $180^\circ$ の差を除いて測ることにすると、2 つの場合が 1 つになる。
2 本の直線 $\ell,m$ の向きを、$0$ でない複素数 $u$($\ell$ に平行なベクトル)と $v$($m$ に平行なベクトル)で表す。$\dfrac vu$ の偏角を $180^\circ$ の整数倍の差を除いて考えたものを、$\ell$ から $m$ への 有向角 といい、$\measuredangle(\ell,m)$ と書く。等式 $\measuredangle(\ell,m)\equiv\gamma\pmod{180^\circ}$ は「$\dfrac vu$ の偏角と $\gamma$ の差が $180^\circ$ の整数倍」という意味である。点 $P,A,B$ については、直線 $PA$ から直線 $PB$ への有向角を $\measuredangle APB$ と書く。
$u$ を $su$($s$ は $0$ でない実数)に取り替えると、$\dfrac vu$ は $\dfrac1s$ 倍になり、偏角は $s>0$ なら変わらず、$s<0$ なら $180^\circ$ ずれる。$v$ についても同じである。したがって有向角は、ベクトル $u,v$ の選び方によらず、直線だけで決まる。$\measuredangle APB$ は見込む数 $w_P$ の偏角を $180^\circ$ の差を除いて見たものである。
単位円上の相異なる 2 点 $A=e^{i\alpha}$、$B=e^{i\beta}$ をとる。円周上の $A,B$ 以外のすべての点 $P$ について
$$
\measuredangle APB\equiv\frac{\beta-\alpha}2\pmod{180^\circ}
$$
である。特に $\measuredangle APB$ は $P$ によらない。rem-iah-general-circle と同じ理由で、どの円でも(その円の中心から測った角 $\alpha,\beta$ について)同じことが成り立つ。
方針:thm-iah-main の等式 $w_P=k\,e^{i(\beta-\alpha)/2}$ を、$180^\circ$ の差を除いて読む。
段 1(角のとり方)。$A,B$ を表す角は $360^\circ$ の差を除いて決まるので、$\alpha<\beta<\alpha+360^\circ$ となるように選び直す。$\beta$ に $360^\circ$ の整数倍 $360^\circ n$ を足すと $\dfrac{\beta-\alpha}2$ は $180^\circ n$ だけ変わるので、主張の右辺は選び直しによって $180^\circ$ の差を除いて変わらない。$\alpha$ についても同じである。
段 2(読む)。thm-iah-main により $w_P=k\,e^{i(\beta-\alpha)/2}$ で、$k$ は $0$ でない実数である。$k>0$ なら $w_P$ の偏角は $\dfrac{\beta-\alpha}2$、$k<0$ なら $\dfrac{\beta-\alpha}2+180^\circ$ である。どちらの場合も、$180^\circ$ の差を除いて $\dfrac{\beta-\alpha}2$ に等しい。$w_P=\dfrac{b-p}{a-p}$ の偏角は $\measuredangle APB$ を表すので(def-iah-directed で $u=a-p$、$v=b-p$ とする)、主張が成り立つ。$\square$
有向角を使うと、「$P$ が弧のどちら側にあるか」を気にしなくてよい。cor-iah-cyclic-quad の「対角の和が $180^\circ$」も、有向角では「$\measuredangle AQB\equiv\measuredangle APB$」という、同じ弧の場合と同じ式になる。
円周上の点 $P$ を $A$ に近づけると、直線 $PA$ は $A$ における接線に近づく。接線でも同じ式が成り立つ。ここで、円の点 $A$ における 接線 とは、$A$ を通り半径 $OA$ に垂直な直線のことである。単位円の点 $a$ では、$ia$($a$ を $90^\circ$ 回したもの)が接線の向きを表す。
単位円上の相異なる 2 点 $A=e^{i\alpha}$、$B=e^{i\beta}$ について、$A$ における接線を $t_A$ とすると
$$
\frac{b-a}{ia}=2\sin\frac{\beta-\alpha}2\cdot e^{i(\beta-\alpha)/2},\qquad \measuredangle(t_A,AB)\equiv\frac{\beta-\alpha}2\pmod{180^\circ}
$$
である。したがって、円周上の $A,B$ 以外の点 $P$ について $\measuredangle(t_A,AB)\equiv\measuredangle APB$ である。
方針:lem-iah-chord で $\varphi=\alpha$、$\xi=\beta$ とし、$ia$ で割る。
lem-iah-chord により $b-a=2\sin\dfrac{\beta-\alpha}2\cdot i\,e^{i(\alpha+\beta)/2}$ である。$ia=i\,e^{i\alpha}$ で割ると、$i$ が約分され、偏角は $\dfrac{\alpha+\beta}2-\alpha=\dfrac{\beta-\alpha}2$ になるので、1 つ目の等式を得る。$A\ne B$ なので $2\sin\dfrac{\beta-\alpha}2$ は $0$ でない実数であり、$\dfrac{b-a}{ia}$ の偏角は $180^\circ$ の差を除いて $\dfrac{\beta-\alpha}2$ である。$ia$ は $t_A$ の向き、$b-a$ は直線 $AB$ の向きを表すので、2 つ目の式が成り立つ。最後の主張は thm-iah-directed と合わせて得られる。$\square$
$A=1$、$B=i$($\alpha=0^\circ$、$\beta=90^\circ$)とする。$A$ における接線は直線 $x=1$ で、向きは $ia=i$ である。$\dfrac{b-a}{ia}=\dfrac{i-1}{i}=\dfrac{(i-1)(-i)}{1}=1+i$ で、偏角は $45^\circ=\dfrac{90^\circ}2$ である。一方、$P=-i$ から見ると $w_P=\dfrac{i-(-i)}{1-(-i)}=\dfrac{2i}{1+i}=\dfrac{2i(1-i)}2=1+i$ で、偏角は同じ $45^\circ$ である。接線と弦のつくる角が、弦の反対側の弧から見た円周角に等しい。これは 接弦定理 であり、接弦定理 で詳しく扱う。
thm-iah-directed は「円周上の点 $P$ から見た $\measuredangle APB$ はすべて等しい」と言っている。逆に「$\measuredangle APB$ が等しい点は同じ円周上にある」と言えるか。これを 1 つの数で表す。同じ定理(thm-iah-cross-ratio)は 複素数平面と図形 でも扱い、そこでは Möbius 変換の性質を認めて証明している。ここでは円周角の定理だけを使う証明を与える。
相異なる 4 つの複素数 $z_1,z_2,z_3,z_4$ について
$$
(z_1,z_2;z_3,z_4):=\frac{(z_1-z_3)(z_2-z_4)}{(z_1-z_4)(z_2-z_3)}
$$
を 複比 という。$z_1,z_2$ を見る 2 点 $z_3,z_4$ からの見込む数 $w_{z_3}=\dfrac{z_2-z_3}{z_1-z_3}$、$w_{z_4}=\dfrac{z_2-z_4}{z_1-z_4}$ を使うと
$$
(z_1,z_2;z_3,z_4)=\frac{w_{z_4}}{w_{z_3}}
$$
である。
最後の等式は、$\dfrac{w_{z_4}}{w_{z_3}}=\dfrac{z_2-z_4}{z_1-z_4}\cdot\dfrac{z_1-z_3}{z_2-z_3}$ を並べ替えると定義の式になることから分かる。複比が実数であることは、$w_{z_3}$ と $w_{z_4}$ の偏角の差が $180^\circ$ の整数倍であること、つまり $\measuredangle z_1z_3z_2\equiv\measuredangle z_1z_4z_2\pmod{180^\circ}$ と同じである。
正方形の頂点 0, 2, 2+2i, 2i は 1 つの円の上にあり複比は 2(実数)。2i を円の外の点 1+3i に替えると複比は 7/5 − i/5 で実数でない
(1)(2) は円周上、(3) は直線上の 4 点で、どれも複比が実数である。(4) は 4 点が円周上にも直線上にもなく、複比が実数でない。これが一般に成り立つことを示す。準備として、見込む数が実数になる場合と、円と直線の交わり方を調べておく。
相異なる 2 点 $A,B$ と、$A,B$ と異なる点 $P$ について、$w_P=\dfrac{b-p}{a-p}$ が実数であることと、$P$ が直線 $AB$ の上にあることは同値である。
方針:直線 $AB$ の点を $a+s(b-a)$($s$ は実数)と書き、両方向を計算で確かめる。
段 1(直線上なら実数)。$p=a+s(b-a)$ とすると、$b-p=(1-s)(b-a)$、$a-p=-s(b-a)$ である。$P\ne A$ なので $s\ne0$ であり、$w_P=\dfrac{1-s}{-s}=\dfrac{s-1}{s}$ は実数である。
段 2(実数なら直線上)。$w_P=t$($t$ は実数)とすると $b-p=t(a-p)$ である。$a\ne b$ なので $t\ne1$ である($t=1$ なら $b-p=a-p$ となる)。式を $p$ について解くと $(t-1)p=ta-b$、つまり
$$
p=\frac{ta-b}{t-1}=a+\frac{1}{1-t}(b-a)
$$
である(右辺を通分すると $\dfrac{(1-t)a+b-a}{1-t}=\dfrac{b-ta}{1-t}$ で、左の式と等しい)。$\dfrac1{1-t}$ は実数なので、$P$ は直線 $AB$ の上にある。$\square$
単位円上の点 $A=a$ を通り、向きが $0$ でない複素数 $d$ で表される直線 $L$ を考える。$d$ が $ia$ の実数倍でなければ、$L$ は単位円と $A$ のほかにちょうど 1 点で交わる。$d$ が $ia$ の実数倍なら($L$ が $A$ における接線なら)、$L$ と単位円の共有点は $A$ だけである。
方針:$L$ の点を $a+sd$($s$ は実数)と書き、$|a+sd|^2=1$ を $s$ の 2 次方程式として解く。
段 1(方程式)。$|z|^2=z\bar z$ と $|a|=1$ を使うと
$$
|a+sd|^2=(a+sd)(\bar a+s\bar d)=|a|^2+s(a\bar d+\bar ad)+s^2|d|^2=1+2s\operatorname{Re}(\bar ad)+s^2|d|^2
$$
である($a\bar d=\overline{\bar ad}$ なので $a\bar d+\bar ad=2\operatorname{Re}(\bar ad)$)。これが $1$ に等しい条件は $s\bigl(s|d|^2+2\operatorname{Re}(\bar ad)\bigr)=0$ である。
段 2(解)。解は $s=0$(点 $A$)と $s=-\dfrac{2\operatorname{Re}(\bar ad)}{|d|^2}$ である。2 つ目の解が $0$ と異なるのは $\operatorname{Re}(\bar ad)\ne0$ のときである。
段 3(接線の場合)。$\operatorname{Re}(\bar ad)=0$ は、$\bar ad$ が純虚数、つまり $\bar ad=ci$($c$ は実数)であることと同じである。$a\bar a=1$ なので、これは $d=cia$ と同じである。$d\ne0$ なので $c\ne0$ であり、このとき $L$ は $A$ における接線(向き $ia$)である。$\square$
相異なる 4 点 $z_1,z_2,z_3,z_4$ について、次の 2 つは同値である。
方針:2 ⇒ 1 は thm-iah-directed と lem-iah-real-line から出る。1 ⇒ 2 は、$z_1,z_2,z_3$ を通る円 $\Gamma$ をとり、直線 $z_1z_4$ が $\Gamma$ と交わるもう 1 つの点が $z_4$ そのものであることを示す。記号を $w_p:=\dfrac{z_2-p}{z_1-p}$ とすると、def-iah-cross-ratio により複比は $\dfrac{w_{z_4}}{w_{z_3}}$ である。
段 1(2 ⇒ 1、直線の場合)。4 点が 1 本の直線の上にあれば、lem-iah-real-line($A=z_1$、$B=z_2$)により $w_{z_3}$ と $w_{z_4}$ は $0$ でない実数であり、その比である複比も実数である。
段 2(2 ⇒ 1、円の場合)。4 点が 1 つの円の上にあれば、thm-iah-directed($A=z_1$、$B=z_2$)により $w_{z_3}$ と $w_{z_4}$ の偏角は $180^\circ$ の差を除いて等しい。したがって比 $\dfrac{w_{z_4}}{w_{z_3}}$ の偏角は $180^\circ$ の整数倍であり、複比は実数である。
段 3(1 ⇒ 2、$z_1,z_2,z_3$ が一直線上の場合)。lem-iah-real-line により $w_{z_3}$ は実数である。複比が実数なので $w_{z_4}=(\text{複比})\cdot w_{z_3}$ も実数で、lem-iah-real-line により $z_4$ も直線 $z_1z_2$ の上にある。4 点は 1 本の直線の上にある。
段 4(1 ⇒ 2、準備)。以下、$z_1,z_2,z_3$ は一直線上にないとする。このとき 3 点を通る円 $\Gamma$ がただ 1 つある(3 辺の垂直二等分線の交点が中心になる。三角形の外心)。複比は、すべての点を $z\mapsto\dfrac{z-c}r$($c$ は $\Gamma$ の中心、$r$ は半径)で移しても変わらない(各差が $\dfrac1r$ 倍になり、分子と分母で約分される)。そこで $\Gamma$ を単位円とし、$z_1=e^{i\alpha}$、$z_2=e^{i\beta}$ とする。thm-iah-directed により $w_{z_3}$ の偏角は $180^\circ$ の差を除いて $\dfrac{\beta-\alpha}2$ であり、複比が実数なので $w_{z_4}$ の偏角も同じである。
段 5($z_4$ は直線 $z_1z_2$ の上にない)。もし $z_4$ が直線 $z_1z_2$ の上にあれば、lem-iah-real-line により $w_{z_4}$ は実数で、複比が実数だから $w_{z_3}=\dfrac{w_{z_4}}{(\text{複比})}$ も実数になり、$z_3$ が直線 $z_1z_2$ の上にあることになる。これは段 4 の仮定に反する。よって $z_1,z_2,z_4$ は一直線上にない。
段 6(直線 $z_1z_4$ は接線でない)。直線 $L:=z_1z_4$ が $z_1$ における接線だとする。すると $z_4-z_1$ は $iz_1$ の実数倍で、$\measuredangle(L,z_4z_2)$、つまり $\dfrac{z_2-z_4}{z_1-z_4}=w_{z_4}$ の偏角は、$180^\circ$ の差を除いて「$iz_1$ から $z_2-z_4$ への回転角」に等しい。段 4 によりこれは $\dfrac{\beta-\alpha}2$ である。一方 lem-iah-tangent により、$iz_1$ から $z_2-z_1$ への回転角も $180^\circ$ の差を除いて $\dfrac{\beta-\alpha}2$ である。よって $z_2-z_4$ と $z_2-z_1$ は互いに実数倍であり、$z_4$ は直線 $z_1z_2$ の上にある。これは段 5 に反する。
段 7(もう 1 つの交点)。段 6 と lem-iah-second-point により、$L$ は $\Gamma$ と $z_1$ のほかにちょうど 1 点 $u$ で交わる。$u\ne z_2$ である($u=z_2$ なら $z_2$ が直線 $z_1z_4$ の上にあり、段 5 に反する)。$u$ は $\Gamma$ の上の $z_1,z_2$ と異なる点なので、thm-iah-directed により $w_u$ の偏角は $180^\circ$ の差を除いて $\dfrac{\beta-\alpha}2$ で、段 4 により $w_{z_4}$ の偏角と等しい。したがって $\dfrac{w_{z_4}}{w_u}=\dfrac{z_2-z_4}{z_2-u}\cdot\dfrac{z_1-u}{z_1-z_4}$ は実数である。$u$ と $z_4$ はどちらも $L$ の上にあるので $\dfrac{z_1-u}{z_1-z_4}$ は $0$ でない実数である。よって $\dfrac{z_2-z_4}{z_2-u}$ も実数であり、$u$ は直線 $z_2z_4$ の上にある。
段 8(まとめ)。$u$ は直線 $z_1z_4$ と直線 $z_2z_4$ の両方の上にある。段 5 によりこの 2 直線は異なり、共有点は $z_4$ だけである。よって $u=z_4$ であり、$z_4$ は $\Gamma$ の上にある。4 点は 1 つの円の上にある。$\square$
段 6 と段 7 で、$z_4$ を「直線 $z_1z_4$ と円のもう 1 つの交点」と比べた。教科書の逆の証明(円周角の定理 の「逆」の節)は、円の内部の点から見た角は円周角より大きく、外部の点から見た角は小さいことを使う。ここでは代わりに、直線と円の交点が高々 2 つであることを使った。
教科書で習う「円周角の定理の逆」は、thm-iah-cross-ratio から次の形で出る。「同じ側」を式で表すため、点 $P$ が有向線分 $A\to B$ の左側にあることを、$\dfrac{p-a}{b-a}$ の虚部が正であることと定める($B-A$ を正の実軸の向きに回したとき、$P$ が上半分にあるということ)。右側は虚部が負であることとする。
一直線上にない 3 点 $A,B,C$ と、$A,B,C$ と異なる点 $P$ について、$P$ と $C$ が直線 $AB$ の同じ側にあり、$\angle APB=\angle ACB$ ならば、$P$ は $A,B,C$ を通る円の上にある。
方針:同じ側にあることから $w_P$ と $w_C$ の虚部の符号がそろうことを示し、角が等しいことと合わせて偏角が等しいことを出す。そうすると複比が正の実数になる。
段 1(虚部の符号と側)。$w_P=\dfrac{b-p}{a-p}=\dfrac{(b-p)\overline{(a-p)}}{|a-p|^2}$ なので、$w_P$ の虚部の符号は $\overline{(a-p)}(b-p)$ の虚部の符号と同じである。展開して整理すると、恒等式
$$
\operatorname{Im}\bigl(\overline{(a-p)}(b-p)\bigr)=\operatorname{Im}\bigl(\overline{(b-a)}(p-a)\bigr)
$$
が成り立つ($a=a_1+a_2i$ などと成分で書くと、左辺は $(a_1-p_1)(b_2-p_2)-(a_2-p_2)(b_1-p_1)$、右辺は $(b_1-a_1)(p_2-a_2)-(b_2-a_2)(p_1-a_1)$ で、どちらも展開すると $a_1b_2-a_2b_1+b_1p_2-b_2p_1+p_1a_2-p_2a_1$ になる)。右辺の符号は $\dfrac{p-a}{b-a}=\dfrac{\overline{(b-a)}(p-a)}{|b-a|^2}$ の虚部の符号、つまり $P$ が $A\to B$ の左右どちらにあるかを表す。$C$ についても同じである。
段 2(偏角が等しい)。$P$ と $C$ は同じ側にあるので、段 1 により $w_P$ と $w_C$ の虚部は同じ符号で、どちらも $0$ でない。lem-iah-angle-arg により $|\operatorname{Arg}w_P|=\angle APB=\angle ACB=|\operatorname{Arg}w_C|$ であり、$\operatorname{Arg}$ の符号は虚部の符号と同じなので、$\operatorname{Arg}w_P=\operatorname{Arg}w_C$ である。
段 3(複比)。$A=z_1$、$B=z_2$、$C=z_3$、$P=z_4$ とすると、$w$ の定義が prf-iah-cross-ratio の $w_p=\dfrac{z_2-p}{z_1-p}$ と同じなので、複比は $\dfrac{w_P}{w_C}$ である。段 2 によりこれは正の実数である。thm-iah-cross-ratio により 4 点は 1 つの円か 1 本の直線の上にある。$A,B,C$ は一直線上にないので直線ではなく、4 点は円の上にある。3 点を通る円はただ 1 つなので、それは $A,B,C$ を通る円である。$\square$
段 3 で複比が 正 の実数になったことに注意する。$P$ と $C$ が直線 $AB$ の反対側にあって同じ円周上にあれば、thm-iah-main の $k$ の符号が逆になり、複比は負の実数になる。複比の符号は、4 点が円周上にどんな順に並ぶかを表している(ex-iah-cross-ratio-calc (1) の $1,i,-1,-i$ では、$z_3=-1$ と $z_4=-i$ はどちらも $z_1=1$ から反時計回りに $z_2=i$ へ向かう弧の上になく、複比は正の $2$ である)。
thm-iah-cross-ratio は、円と直線を区別しない形をしている。円と直線をまとめて扱う理由は、複比を変えない変換を調べると見えてくる。
相異なる 4 つの複素数 $z_1,z_2,z_3,z_4$ について、次が成り立つ。
方針:複比に現れる 4 つの差 $z_j-z_k$ が、変換でそれぞれ何倍になるかを調べる。
段 1($T$ の場合)。$T(z_j)-T(z_k)=(az_j+b)-(az_k+b)=a(z_j-z_k)$ である。複比の分子の 2 つの差と分母の 2 つの差がどれも $a$ 倍になるので、分子は $a^2$ 倍、分母も $a^2$ 倍になり、複比は変わらない。
段 2($S$ の場合の差)。通分すると
$$
\frac1{z_j}-\frac1{z_k}=\frac{z_k-z_j}{z_jz_k}=-\frac{z_j-z_k}{z_jz_k}
$$
である。
段 3($S$ の場合の複比)。段 2 を複比の 4 つの差に使うと、符号 $-1$ は分子に 2 つ、分母に 2 つ出て消えるので
$$
(S(z_1),S(z_2);S(z_3),S(z_4))=\frac{(z_1-z_3)(z_2-z_4)}{(z_1-z_4)(z_2-z_3)}\cdot\frac{z_1z_4\cdot z_2z_3}{z_1z_3\cdot z_2z_4}
$$
である。2 つ目の分数は、分子と分母がどちらも $z_1z_2z_3z_4$ なので $1$ である。よって複比は変わらない。$\square$
$K$ を円または直線とする。$K$ の上の $0$ でない点 $z$ の像 $\dfrac1z$ は、すべて 1 つの円または 1 本の直線の上にある。
方針:像の 3 点を固定し、そこを通る円か直線 $K'$ を決める。4 点目の像も $K'$ に乗ることを、複比で示す。
段 1($K'$ を決める)。$K$ の上に $0$ でない相異なる 3 点 $z_1,z_2,z_3$ をとる($K$ には無数の点がある)。$w_j:=\dfrac1{z_j}$ は相異なる($\dfrac1{z_j}=\dfrac1{z_k}$ なら $z_j=z_k$)。$w_1,w_2,w_3$ が一直線上にあればその直線を、そうでなければ 3 点を通るただ 1 つの円を $K'$ とする。
段 2(4 点目)。$z$ を $K$ の上の $0$ でない点で $z_1,z_2,z_3$ と異なるものとする。4 点 $z_1,z_2,z_3,z$ は $K$ の上にあるので、thm-iah-cross-ratio(2 ⇒ 1)により $(z_1,z_2;z_3,z)$ は実数である。prop-iah-invariance の 2 により $(w_1,w_2;w_3,\tfrac1z)$ も同じ実数である。thm-iah-cross-ratio(1 ⇒ 2)により、$w_1,w_2,w_3,\dfrac1z$ は 1 つの円か 1 本の直線 $K''$ の上にある。
段 3($K''=K'$)。$w_1,w_2,w_3$ が一直線上にあれば、$K''$ は円ではありえない(prf-iah-cross-ratio 段 4 と同じく $z\mapsto\dfrac{z-c}r$ で円 $K''$ を単位円に移すと lem-iah-second-point が使えて、直線と円の共有点は 2 個以下である)ので、$K''$ はその直線 $K'$ である。一直線上になければ $K''$ は直線ではありえず、3 点を通る円はただ 1 つなので $K''=K'$ である。どちらの場合も $\dfrac1z$ は $K'$ の上にある。$\square$
cor-iah-reciprocal が示すのは、像がすべて $K'$ の 上にある ことだけである。像が $K'$ の全体(から 1 点を除いたもの)になることは、ここでは示さない。$w=\dfrac1z$ による円・直線の移り方は w=1/z による図形の変換 で詳しく扱う。
直線 $\operatorname{Re}z=1$ の点 $1,\ 1+i,\ 1-i,\ 1+2i$ の像は
$$
\frac11=1,\quad \frac1{1+i}=\frac{1-i}2,\quad \frac1{1-i}=\frac{1+i}2,\quad \frac1{1+2i}=\frac{1-2i}5
$$
である。どれも中心 $\dfrac12$、半径 $\dfrac12$ の円の上にある。実際、$\left|1-\dfrac12\right|=\dfrac12$、$\left|\dfrac{1-i}2-\dfrac12\right|=\left|-\dfrac i2\right|=\dfrac12$、$\left|\dfrac{1+i}2-\dfrac12\right|=\dfrac12$、$\left|\dfrac{1-2i}5-\dfrac12\right|=\left|\dfrac{-3-4i}{10}\right|=\dfrac{5}{10}=\dfrac12$ である。直線の点が $1/z$ で円の上に移った。一般の $z=1+ti$ では $\dfrac1z=\dfrac{1-ti}{1+t^2}$ で、$\left|\dfrac{1-ti}{1+t^2}-\dfrac12\right|^2=\dfrac{(1-t^2)^2+4t^2}{4(1+t^2)^2}=\dfrac14$ となる。
ここから先は大学で学ぶ内容の紹介であり、証明しない。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $P$ が円周上にある | 弦 $AB$ を見込む角は円周角に等しい | ex-iah-off-circle |
| $P$ と $Q$ が同じ弧の上にある | $\angle APB=\angle AQB$(通常の角) | ex-iah-start-other-arc |
| 4 点が一直線上にない | 複比が実数なら 4 点は 1 つの円の上にある(直線の場合を結論から外せない) | ex-iah-cross-ratio-calc (3) |
| 平面の上で考える | 円周角は中心角の半分 | ex-iah-sphere |
単位円上の $A=1$、$B=i$ を考える。$A$ から反時計回りに $B$ へ向かう弧の中心角は $90^\circ$ である。
単位円上の A = 1、B = i を、円周上の −i から見ると 45°、円の内部の (−1−i)/2 から見ると約 53.13°、円の外部の −1−i から見ると約 36.87°
原点 $O$ を中心とする半径 $1$ の球面の上で、2 点の間を球面に沿って最短で結ぶ道(大円の弧)を「線分」とし、北極 $N=(0,0,1)$ から球面に沿った距離(中心角で測る)が一定の点の集合を「$N$ を中心とする円」とみなす。$N$ からの距離が $45^\circ$ の円は、経度 $\lambda$ の点 $\left(\dfrac{\cos\lambda}{\sqrt2},\dfrac{\sin\lambda}{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2}\right)$ の全体である。
この円の上に、経度 $0^\circ$ の点 $A=\left(\dfrac1{\sqrt2},0,\dfrac1{\sqrt2}\right)$ と経度 $90^\circ$ の点 $B=\left(0,\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2}\right)$ をとる。中心 $N$ における角 $\angle ANB$ は経線どうしのなす角で $90^\circ$ である。平面なら、$A$ から $B$ へ向かう $90^\circ$ の弧の上にない点から見た角は、どれも $45^\circ$ になるはずである。
球面の上の点 $P$ における角 $\angle APB$ は、$P$ から $A$、$B$ へ向かう大円の弧が $P$ で出る向きのなす角である。$P$ から $A$ への大円は $O$・$P$・$A$ を通る平面の上にあり、$P$ で半径 $OP$ に垂直な向きに出るので、その向きは $\overrightarrow{OA}$ から $\overrightarrow{OP}$ 方向の成分を除いた $\boldsymbol t_A:=\overrightarrow{OA}-(\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OP})\overrightarrow{OP}$ である($|\overrightarrow{OP}|=1$ を使った)。$B$ についても同じく $\boldsymbol t_B$ を定める。
(1) 経度 $180^\circ$ の点 $P=\left(-\dfrac1{\sqrt2},0,\dfrac1{\sqrt2}\right)$:$\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OP}=-\dfrac12+\dfrac12=0$、$\overrightarrow{OB}\cdot\overrightarrow{OP}=\dfrac12$ なので、$\boldsymbol t_A=\overrightarrow{OA}$、$\boldsymbol t_B=\overrightarrow{OB}-\dfrac12\overrightarrow{OP}=\left(\dfrac1{2\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{2\sqrt2}\right)$ である。$\boldsymbol t_A\cdot\boldsymbol t_B=\dfrac14+\dfrac14=\dfrac12$、$|\boldsymbol t_A|=1$、$|\boldsymbol t_B|^2=\dfrac18+\dfrac12+\dfrac18=\dfrac34$ なので
$$
\cos\angle APB=\frac{1/2}{1\cdot\sqrt3/2}=\frac1{\sqrt3},\qquad \angle APB\approx54.74^\circ
$$
である。
(2) 経度 $225^\circ$ の点 $P$:同じ計算で $\cos\angle APB=\dfrac{8\sqrt2-3}{17}$ となり、$\angle APB\approx60.72^\circ$ である。
どちらの $P$ も、$A$ から $B$ へ向かう $90^\circ$ の弧の上にない。それでも角は $45^\circ$ にならず、約 $54.74^\circ$ と約 $60.72^\circ$ で、$P$ によって変わる。$N$ からの距離が $90^\circ$ の円(赤道)を使っても反例は作れるが、赤道はそれ自身が大円なので、$A,P,B$ が 1 本の「直線」の上に並ぶ、つぶれた三角形の例になる。
円周角の定理は平面の定理であり、その証明(円周角の定理 では三角形の内角の和が $180^\circ$ であること、この記事では複素数平面の計算)は平面であることを使っている。球面三角形では内角の和が $180^\circ$ より大きくなる(球面三角形の面積)。内角の和が $180^\circ$ であることは平行線公準と深く結びついている(平行線公準)。
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