集合論

同義語:set theory

概要

集合論(set theory)とは、集合・写像・関係・順序・無限濃度と、それらの形成を規制する公理を研究する数学の分野である。数学の共通言語として集合演算を使う初等的段階から、基数と順序数、選択公理、超限帰納法、公理系と独立性を研究する公理的段階へ広がる。集合の演算、集合族、写像、同値関係、順序、基数、順序数は順に積み重なる概念であり、Cantorの定理はどの集合 $X$ についても冪集合 $\mathcal{P}(X)$ の濃度が $X$ の濃度より真に大きいことを主張する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 論理と命題, 集合の基本的な用語、集合の演算

集合論が扱うもの

集合論(set theory)は、対象を集めて集合を作る操作、集合のあいだの写像と関係、無限の大きさと順序、そしてそれらを支える公理を研究する分野である。ほかの数学で集合を「共通言語」として使う段階と、集合そのものを公理から研究する段階はつながっているが、同じではない。
初等数学では、集合 $X$、元 $x\in X$、部分集合 $A\subset X$、写像 $f:X\to Y$ を使って対象を整理する。この段階では、和集合や共通部分を計算し、関係を集合として表し、有限集合や可算集合の大きさを比較する。一方、公理的集合論では「どのような集合の形成を認めるか」を明示する。外延性、対、和集合、冪集合、無限、置換、正則性などの公理と、必要に応じて選択公理を加えた体系が、通常の数学の一つの基盤になるJec03。
本記事は個々の概念を再定義し尽くす記事ではなく、それらの依存関係と学習順序を示す分野案内である。集合の演算と冪集合は集合の基本的な用語、集合の演算、添字付きの集まりは集合族、写像と像・逆像は写像、像、逆像、写像のグラフ、無限の大きさは基数、整列の型は順序数が詳しく扱う。

集合論

集合・写像・関係・順序・無限濃度と、それらの形成を規制する公理を研究する数学の分野を集合論という。
初等的集合論は、集合を数学の共通言語として使うための演算と構成を中心にする。公理的集合論は、集合の宇宙を一階述語論理で公理化し、公理から何が証明できるか、何が独立であるか、どのようなモデルがあるかを研究する。

四つの層

集合論の概念は、次の四層に分けると見通しがよい。

  1. 論理と言語:命題、量化記号、等号、含意を読む。集合の等式を示すときは、任意の元についての同値へ翻訳する。
  2. 集合の構成:部分集合、和集合、共通部分、差集合、直積、冪集合、集合族を扱う。
  3. 構造と比較:写像、同値関係、商集合、順序関係を用いて、対象を分類し比較する。
  4. 無限と公理:可算性、基数、整列順序、順序数、超限帰納法、選択公理、独立性へ進む。
    この順序には理由がある。写像の単射・全射・全単射が分からなければ、二つの集合が同じ大きさだという定義を読めない。関係と商集合が分からなければ、同値な対象を一つの類へまとめる構成を扱えない。順序関係が分からなければ、整列順序と順序数を区別できない。したがって、無限集合から先に読むより、演算から写像、関係、順序へ進む方が依存関係に沿っているMat68。

集合の等しさと外延性

集合論の最初の原理は、集合が元によって決まることである。二つの集合 $A,B$ が等しいことは、すべての対象 $x$ について
$$ x\in A\iff x\in B $$
が成り立つことと同値である。この外延性により、集合の等式は二つの包含 $A\subset B$ と $B\subset A$ に分解できる。

二つの包含による集合の相等

集合 $A,B$ に対し、
$$ A=B\iff (A\subset B\ \text{かつ}\ B\subset A) $$
である。

$A=B$ なら、任意の $x\in A$ は $B$ の元であり、任意の $x\in B$ は $A$ の元なので、両方の包含が成り立つ。
逆に $A\subset B$ かつ $B\subset A$ とする。任意の対象 $x$ について、$x\in A$ なら第1の包含から $x\in B$ であり、$x\in B$ なら第2の包含から $x\in A$ である。したがって $x\in A\iff x\in B$ がすべての $x$ について成り立つ。外延性により $A=B$ である。

この証明様式は、集合の基本演算だけでなく、関数の像、位相の開集合族、代数構造の部分対象にも繰り返し現れる。ただし、数列や添字付き集合族では「値として現れる対象の集合」が等しいだけでは、どの添字に何が対応するかまでは一致しない。そこで集合そのものの等しさと、写像としての族の等しさを区別する必要がある。

写像が大きさを測る

有限集合では元を数えればよいが、無限集合では単射・全射・全単射によって大きさを比較する。全単射 $X\to Y$ が存在するとき、$X$ と $Y$ は対等であるという。自然数全体 $\mathbb N$ と偶数全体のあいだには $n\mapsto2n$ という全単射があるため、真部分集合が元の集合と同じ大きさを持つことがある。
写像は単なる対応表ではない。合成により構成を段階化でき、逆像により部分集合を定義域へ引き戻せる。関係 $R\subset X\times Y$ は、各 $x\in X$ に複数の $y$ が対応し得る一般化された対応であり、各 $x$ にただ一つの $y$ が対応するとき写像になる。したがって学習上は、直積の後に関係を、関係の特殊例として写像を読む方法もある。実際の計算では写像を先に習い、その後で関係へ広げてもよい。
同値関係は「同じものとみなす」規則を与える。反射律・対称律・推移律を満たす関係から同値類ができ、同値類全体が商集合になる。これは有理数の構成、合同類、軌道空間などに共通する型である。順序関係は一方、対象を比較する規則を与え、包含関係は冪集合上の基本的な半順序になる。

冪集合と対角線

集合 $X$ の部分集合全体からなる冪集合 $\mathcal P(X)$ は、集合から新しい、より大きな集合を作る基本操作である。部分集合 $A\subset X$ と特性関数 $\chi_A:X\to\{0,1\}$ は対応するため、$\mathcal P(X)$ は二値関数全体の集合 $\{0,1\}^X$ と同じ情報を持つ。
有限集合なら $|X|=n$ のとき $|\mathcal P(X)|=2^n$ である。無限集合でも「冪集合は必ず元の集合より真に大きい」という結論は変わらない。この事実が無限の階層を作るEnd77。

Cantorの定理

任意の集合 $X$ に対し、全射 $f:X\to\mathcal P(X)$ は存在しない。したがって $X$ と $\mathcal P(X)$ のあいだに全単射は存在しない。

全射 $f:X\to\mathcal P(X)$ が存在すると仮定する。対角集合
$$ D=\{x\in X\mid x\notin f(x)\} $$
を考える。$D\subset X$ なので $D\in\mathcal P(X)$ である。$f$ は全射だから、ある $d\in X$ が存在して $f(d)=D$ となる。
ここで $d\in D$ と仮定すると、$D$ の定義から $d\notin f(d)=D$ となり矛盾する。逆に $d\notin D$ と仮定すると、定義から $d\in f(d)=D$ となり、やはり矛盾する。ゆえにそのような全射 $f$ は存在しない。全単射は特に全射なので、全単射も存在しない。

最大の集合はない

Cantorの定理により、集合を一つ得るたびに、それより大きい冪集合を作れる。したがって「すべての集合からなる集合」を通常の集合として置くことはできない。集合論では、集合でない大きな集まりをクラスと呼んで区別することがある。

順序数と基数

無限を扱うとき、「何個あるか」と「どの順に並んでいるか」を分ける必要がある。基数は全単射を通して集合の大きさを表す。順序数は整列集合の順序型を表し、同じ基数を持つ異なる並び方を区別する。
例えば自然数の通常の順序
$$ 0<1<2<\cdots $$
の順序型は $\omega$ である。先頭に1点を付けた順序 $1+\omega$ は $\omega$ と同型である一方、末尾に1点を付けた $\omega+1$ は最大元を持つため $\omega$ と同型でない。しかし、どちらも基数は可算無限である。この例は、順序数の加法が可換でない一方、基数は並べ方を忘れることを示す。
整列順序の重要性は、自然数帰納法を超限帰納法へ拡張できる点にある。順序数を段階として、前のすべての段階から次の対象を定義する超限再帰も使える。集合論内部で階層を作るとき、後続段階では冪集合を取り、極限段階ではそれ以前の段階の和集合を取る、という構成が典型である。

公理は何を制御するか

素朴に「条件を満たすもの全体は集合である」と認めると、自己言及的な矛盾が生じる。公理的集合論では、既に与えられた集合から部分集合を切り出す、対を作る、和集合や冪集合を作る、といった許された構成を公理として列挙する。
外延性公理は集合の同一性を、分出公理図式は既存集合の内部で条件を満たす元を集める操作を、置換公理図式は集合を一意的な対応で移した像が集合になることを支える。無限公理は自然数全体を構成する出発点を与え、正則性公理は所属関係の循環を排除する。選択公理は、空でない集合からなる任意の集合族について選択関数の存在を保証する。

初等的集合論との境界

通常の代数・解析・幾何で「集合を使う」たびに公理を列挙する必要はない。どの構成原理を使っているかが問題になるのは、選択公理の有無、非常に大きい無限、独立命題、集合論的宇宙などを検討するときである。初等的な操作を学ぶ段階と、公理系の強さを研究する段階を区別するとよい。

例と反例

同じ元数、異なる構造

$\mathbb Z$ と $\mathbb N$ は全単射で結べるので同じ基数を持つ。しかし通常の順序では、$\mathbb N$ は最小元を持ち整列されているのに対し、$\mathbb Z$ は空でない部分集合 $\mathbb Z$ 自身に最小元を持たない。基数が等しいことから順序構造が同じだとは結論できない。

商集合

整数上で $a\sim b$ を「$a-b$ が $n$ の倍数である」と定めると、これは同値関係である。同値類は剰余類で、商集合 $\mathbb Z/{\sim}$ は $n$ 個の元を持つ。関係から分類を作り、その分類を一つの集合として扱う、という集合論の基本設計が見える。

選択を必要としない有限の場合

有限個の空でない集合 $X_1,\ldots,X_n$ から一つずつ元を選ぶことは、有限回の選択でできる。選択公理が問題にするのは、一般の添字集合 $I$ による族 $(X_i)_{i\in I}$ について、一つの選択関数を同時に得られるかである。

反例:全射は単射とは限らない

写像 $f:\mathbb Z\to\{0,1\}$ を整数の偶奇で定めると全射だが単射でない。したがって「値域の各元が少なくとも一度現れる」ことから「異なる元が異なる値へ行く」とは結論できない。基数比較では単射・全射・全単射の区別が不可欠である。

学習経路

初めて学ぶ場合は、次の順序が安定しているHal74Mat68。

  1. 論理と命題で「かつ」「または」「否定」「含意」と量化記号を読む。
  2. 集合の基本的な用語、集合の演算で部分集合、和・共通部分、差、直積、冪集合を学ぶ。
  3. 集合族で添字集合、任意和、任意交叉を学ぶ。
  4. 写像、像、逆像、写像のグラフと単射・全射・全単射を学ぶ。
  5. 同値関係と商集合、半順序と全順序を学ぶ。
  6. 可算集合、基数、Cantorの対角線論法で無限の大きさを比較する。
  7. 整列順序、順序数、超限帰納法へ進む。
  8. 選択公理とZornの補題を学び、公理的集合論へ接続する。
    位相空間論を急ぐ場合は第4段階まで進んだ後、開集合族と写像の逆像を使って位相空間へ進める。代数学を急ぐ場合は、写像と同値関係を学んだ後に二項演算、群、環へ進める。数理論理学へ進む場合は、第7段階の後に形式言語、モデル、証明可能性を学び、集合論の公理系自体を数学的対象として扱う。

主要定理の地図

  • Cantor--Bernsteinの定理:$X\to Y$ と $Y\to X$ の単射があれば全単射 $X\to Y$ がある。基数比較の基本である。
  • Cantorの定理:$X$ より $\mathcal P(X)$ が真に大きい。無限基数の階層を保証する。
  • 整列可能定理:選択公理のもとで、任意の集合を整列できる。
  • Zornの補題:鎖が上界を持つ半順序集合に極大元が存在する。選択公理と同値で、代数学の存在証明に頻出する。
  • 超限帰納法・超限再帰:順序数に沿った証明と構成を可能にする。
  • 独立性定理:標準的な無矛盾性の仮定のもとで、連続体仮説や選択公理にはZFCの一部から決定できない形がある。ここでは個々の証明ではなく、公理を変えたモデル比較という集合論固有の研究段階を指すJec03。

読書案内

初等的な集合演算、写像、関係、濃度から位相への接続には松坂『集合・位相入門』が向くMat68。短く概念を整理するにはHalmosの Naive Set Theory が使いやすいHal74。公理から順序数・基数までを系統的に学ぶにはEndertonの Elements of Set Theory があるEnd77。選択公理、構成可能集合、強制法、大基数など現代集合論の広い地図にはJechの Set Theory を参照するJec03。

関連項目

参考文献

[1]
松坂和夫, 集合・位相入門, 岩波書店, 1968, 第1章(集合・写像・関係)、第2章(集合の濃度)、第3章(順序集合・整列集合)
[2]
Paul R. Halmos, Naive Set Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, 1974, 全体(集合演算、関係、写像、順序、選択公理)
[3]
Herbert B. Enderton, Elements of Set Theory, Academic Press, 1977, Chapters 1–8(公理、関係と写像、自然数、集合の濃度、順序数・基数)
[4]
Thomas Jech, Set Theory, Springer Monographs in Mathematics, Springer-Verlag, 2003, Chapters 1–6(公理・順序数・基数・選択公理)、Chapters 13–16(構成可能集合・強制法)

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