Enriques–小平の分類

同義語:Enriques–Kodaira classification小平の曲面分類

概要

Enriques–小平の分類(Enriques–Kodaira classification)とは、代数閉体上の滑らかな射影曲面を、$(-1)$ 曲線を潰した極小曲面の小平次元 $\kappa$ で分ける定理である。$\kappa=-\infty$ は有理曲面と線織曲面、$\kappa=0$ は(標数が $2,3$ でなければ)K3 曲面・Enriques 曲面・アーベル曲面・双楕円曲面、$\kappa=1$ は楕円曲面、$\kappa=2$ は一般型の曲面である。$\kappa\ge0$ の極小曲面では標準因子 $K$ がネフで、$\kappa=2$ と $K^2>0$ が同値になる。複素数体上で $\kappa=0$ の極小曲面の幾何種数と不正則数の組は $4$ 通りに限られ、それぞれが 4 つの類に対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数曲面, 双有理幾何学, 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理, Noetherの公式

Enriques–小平の分類(Enriques–Kodaira classification)は、代数曲面を小平次元によって 4 つに分け、それぞれの極小曲面の種類を決める定理である。代数曲線は種数が $0$、$1$、$2$ 以上で射影直線・楕円曲線・一般型に分かれた。曲面では、点の爆発(ブローアップ)で同じ関数体の曲面がいくらでも作れるので、まず $(-1)$ 曲線を潰して極小曲面を選び(Castelnuovoの収縮定理)、そのうえで多重種数の増え方(小平次元 $\kappa$)で分類する。$\kappa=-\infty$ は有理曲面と線織曲面、$\kappa=0$ は K3 曲面・Enriques 曲面・アーベル曲面・双楕円曲面、$\kappa=1$ は楕円曲面、$\kappa=2$ は一般型の曲面である。
分類は Federigo Enriques が複素代数曲面について与え、小平邦彦(Kunihiko Kodaira)が射影的でないコンパクト複素曲面まで含めて現代的に作り直した。正標数の体の上では Mumford と Bombieri が完成させた(BHPV04 VI §1, p. 246)。
この記事では、分類定理の主張と各類の不変量を述べたうえで、分類の骨組みになる次の事実を証明する。$\kappa\ge0$ の極小曲面では標準因子がネフであり、$\kappa=2$ と $K^2>0$ が同値である。さらに複素数体上で、$\kappa=0$ の極小曲面の幾何種数と不正則数の組は 4 通りしかなく、そのうち 2 つが K3 曲面と Enriques 曲面になることを、Riemann–Roch の定理だけで示す。

規約と定義

この記事では $k$ を代数閉体とし、代数曲面 と同じく 曲面 は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲面、曲線 は曲面の整な 1 次元閉部分スキームを指す。$K=K_X$ は標準因子、$p_g=h^0(K)$ は幾何種数、$q=h^1(\mathcal{O}_X)$ は不正則数、$P_m=h^0(mK)$($m\ge1$)は $m$ 重種数、$\chi=\chi(\mathcal{O}_X)=1-q+p_g$ である。
小平次元 $\kappa(X)$ は 双有理幾何学 の定義「多重種数と小平次元」による。すべての $m\ge1$ で $P_m=0$ なら $\kappa=-\infty$、そうでなければ $P_m/m^\kappa$ が $m\ge1$ で有界になる最小の整数 $\kappa\ge0$ である。曲面では $\kappa\in\{-\infty,0,1,2\}$ で、$P_m$ と $\kappa$ は双有理不変量である(同記事の定理「多重種数の双有理不変性」)。

極小曲面とネフな因子

$\mathbb{P}^1$ と同型で自己交点数が $-1$ の曲線を $(-1)$ 曲線 といい、$(-1)$ 曲線をもたない曲面を 極小曲面 という。因子 $D$ がすべての曲線 $C$ について $D\cdot C\ge0$ をみたすとき、$D$ は ネフ であるという。

どの曲面も、$(-1)$ 曲線の縮約を有限回くり返して極小曲面へ双有理射で写せる(双有理幾何学 の定理「曲面の極小モデルの存在」)。分類に現れる曲面の類は次のとおりである。

  • 有理曲面:$\mathbb{P}^2$ と双有理同値な曲面。双有理線織曲面:ある曲線 $C$ について $C\times\mathbb{P}^1$ と双有理同値な曲面(線織曲面 の定義「双有理線織曲面と有理曲面」)。
  • K3 曲面:$K\sim0$ かつ $q=0$ の曲面(K3曲面)。Enriques 曲面:$q=p_g=0$、$2K\sim0$ の曲面(Enriques曲面。$p_g=0$ なので $K\not\sim0$)。アーベル曲面:2 次元のアーベル多様体。双楕円曲面:楕円曲線 $E,F$ と $E$ の有限部分群 $G$ について、$G$ を $E\times F$ に、$E$ の成分には平行移動で、$F$ の成分には平行移動でない元を含むように忠実に働かせた商 $(E\times F)/G$(双楕円曲面)。
  • 楕円曲面:曲線 $B$ への全射 $f\colon X\to B$ で、ほとんどすべてのファイバーが滑らかな楕円曲線になるものをもつ曲面(楕円曲面)。一般型の曲面:$\kappa=2$ の曲面。

分類定理

Enriques–小平の分類

$X$ を極小曲面とする。

  1. $\kappa(X)=-\infty$ であることは $P_{12}(X)=0$ と同値であり、そのとき $X$ は有理曲面か双有理線織曲面である。極小なものは $\mathbb{P}^2$、Hirzebruch 曲面 $\mathbb{F}_e$($e\ge0$、$e\ne1$)、種数 $1$ 以上の曲線上の線織曲面に限る。
  2. $\kappa(X)=0$ であることは $12K\sim0$ と同値である。$k$ の標数が $2,3$ でなければ、$X$ は K3 曲面、Enriques 曲面、アーベル曲面、双楕円曲面のどれかである。
  3. $\kappa(X)=1$ で、$k$ の標数が $2,3$ でなければ、$X$ は楕円曲面である。
  4. $\kappa(X)=2$ であることは、ある $n\ge1$ について $|nK|$ が定める有理写像が像への双有理写像になることと同値である。
  5. $\kappa(X)\ge0$ なら、$X$ と双有理同値な極小曲面は $X$ だけである。
分類定理の所在

この記事では証明しない。1–4 は Har77 V §6 の定理 6.1–6.5(pp. 421–422)、極小なものの一覧は Poo17 §9.3.2.1(p. 272)と BHPV04 VI 章 Table 10 の後(p. 244)、5 は Har77 V 注意 5.8.4(p. 419)にある。複素数体上の証明は BHPV04 VI 章 §2–§4(pp. 247–255)にあり、射影的でないコンパクト複素曲面も含めた 10 の類への分類が同章 定理 1.1(p. 243)である。極小曲面について「$\kappa\ge0$ と $K$ がネフであることが同値」も分類の一部である(Poo17 定理 9.3.14, p. 272、BHPV04 VI 定理 2.1, p. 247)。この記事で証明するのはその「$\Rightarrow$」の向きである(thm-ekc-nef)。

各類の極小曲面の不変量は次のとおりである($e$ は位相的 Euler 数で、正標数では $\ell$ 進コホモロジーで定める)。

$\kappa$極小曲面$p_g$$q$$K^2$$e$
$-\infty$$\mathbb{P}^2$$0$$0$$9$$3$
$-\infty$$\mathbb{F}_e$($e\ne1$)$0$$0$$8$$4$
$-\infty$種数 $g\ge1$ の曲線上の線織曲面$0$$g$$8(1-g)$$4(1-g)$
$0$K3 曲面$1$$0$$0$$24$
$0$Enriques 曲面$0$$0$$0$$12$
$0$アーベル曲面$1$$2$$0$$0$
$0$双楕円曲面$0$$1$$0$$0$
$1$楕円曲面——$0$—
$2$一般型の曲面——正—

$p_g,q,K^2$ は 代数曲面・線織曲面 の定理「線織曲面の不変量」と定理「線織曲面の交点形式と標準因子」・K3曲面・Enriques曲面・双楕円曲面 の各記事と上の定義から読め、$e$ は Noetherの公式 $12\chi=K^2+e$ で決まる。$\kappa=0,1$ で $K^2=0$、$\kappa=2$ で $K^2>0$ となることは下の thm-ekc-k2 で証明する。

多重種数と標準因子

多重種数が 2 以上なら小平次元は 1 以上

曲面 $X$ のある $m\ge1$ について $P_m(X)\ge2$ なら、$\kappa(X)\ge1$ である。とくに $\kappa(X)=0$ ならすべての $m$ で $P_m(X)\le1$ である。

切断の冪の一次独立性

$s,t\in H^0(mK)$ を一次独立な切断とし、$f:=t/s$ を $X$ の関数体 $k(X)$ の元とみる($\omega_X^{\otimes m}$ の生成点での茎は $k(X)$ 上 1 次元なので、商が定まる)。一次独立性から $f\notin k$ である。$k$ は代数閉体なので、$k(X)$ の元で $k$ 上代数的なものは $k$ に入り、$f$ は $k$ 上超越的である。$l\ge1$ について $s^{l-j}t^j\in H^0(lmK)$($0\le j\le l$)を考える。$\sum_jc_js^{l-j}t^j=0$($c_j\in k$)なら、$s^l$ で割って $\sum_jc_jf^j=0$ となり、$f$ が超越的なのですべての $c_j$ が $0$ である。よって $P_{lm}\ge l+1$ で、$P_n$ は有界でない。$P_m\neq0$ なので $\kappa\ne-\infty$ であり、$P_n/n^0$ が有界でないので $\kappa\ne0$ である。$\square$

極小曲面の標準因子はネフ

$X$ を $\kappa(X)\ge0$ の極小曲面とする。このとき $K$ はネフであり、$K^2\ge0$ である。

$K$ 負の曲線は $(-1)$ 曲線になる

$\kappa\ge0$ なので、ある $m\ge1$ で $P_m\ge1$ であり、$mK$ は有効因子 $E$ と線形同値である。曲線 $C$ が $K\cdot C<0$ をみたすと仮定する。$E\cdot C=mK\cdot C<0$ である。共通成分のない曲線どうしの交点数は $0$ 以上なので(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「交点形式」の 3)、$C$ は $E$ の成分である。$E=aC+E'$($a\ge1$、$E'$ は $C$ を成分にもたない有効因子)と書くと $E'\cdot C\ge0$ なので $aC^2=E\cdot C-E'\cdot C<0$、すなわち $C^2<0$ である。双有理幾何学 の定理「$K$ 負で自己交点数が負の曲線」により $C$ は $(-1)$ 曲線となり、$X$ の極小性に反する。よって $K$ はネフである。$E=\sum a_iC_i$($a_i>0$)と書くと $K^2=\frac1m K\cdot E=\frac1m\sum a_iK\cdot C_i\ge0$ である。$\square$

小平次元と $K^2$

$X$ を $\kappa(X)\ge0$ の極小曲面とする。このとき $\kappa(X)=2$ であることと $K^2>0$ であることは同値である。とくに $\kappa(X)\in\{0,1\}$ なら $K^2=0$ である。

証明には次の初等的な評価を使う。滑らかで連結な射影曲線 $C$ の上の次数 $d$ の可逆層 $\mathcal{M}$ について、$d<0$ なら $h^0(\mathcal{M})=0$、$d\ge0$ なら $h^0(\mathcal{M})\le d+1$ である。実際、$h^0(\mathcal{M})\ge d+2$ なら、相異なる $d+1$ 個の閉点で消えるという $d+1$ 個の一次条件を課しても $0$ でない切断が残り、その零因子の次数が $d+1$ 以上になって矛盾する($d<0$ の場合も零因子の次数が負になることから同様)。

Riemann–Roch の定理と超平面切断への制限

$K^2>0$ ならば $\kappa=2$.$mK\sim E\ge0$ とする。$E=0$ なら $mK\sim0$ で $K^2=0$ となるので、$E\neq0$ である。豊富な因子 $H$ をとると、代数曲面 の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」により $K\cdot H=\frac1mE\cdot H>0$ である。同記事の命題「自己交点数が正の因子の倍数」を $D=K$ に使うと、十分大きな $n$ で
$$ P_n=h^0(nK)\ \ge\ \frac{K^2}2\,n(n-1)+\chi(\mathcal{O}_X) $$
となり、$P_n/n$ は有界でない。よって $\kappa\ge2$、したがって $\kappa=2$ である。
$\kappa=2$ ならば $K^2>0$.$H$ を非常に豊富な因子とする。Bertini の定理(Har77 II 定理 8.18, p. 179 と III 注意 7.9.1, p. 245)により、滑らかで連結な曲線 $C\in|H|$ がとれる。完全列 $0\to\mathcal{O}_X(nK-C)\to\mathcal{O}_X(nK)\to\mathcal{O}_C(nK)\to0$ から
$$ h^0(nK)\ \le\ h^0(nK-H)+h^0(C,\mathcal{O}_C(nK))\ \le\ h^0(nK-H)+nK\cdot H+1 $$
である($K$ はネフなので $\mathcal{O}_C(nK)$ の次数 $nK\cdot H$ は $0$ 以上。thm-ekc-nef)。$\kappa=2$ なので $P_n/n$ は有界でなく、$P_n>nK\cdot H+1$ となる $n$ がある。その $n$ で $h^0(nK-H)\ge1$ であり、$nK-H$ は有効因子 $E'$ と線形同値である。$H^2>0$ と $E'\cdot H\ge0$ から $nK\cdot H=H^2+E'\cdot H>0$、$K$ がネフなので $K\cdot E'\ge0$ であり、
$$ nK^2=K\cdot(H+E')\ \ge\ K\cdot H\ >\ 0 $$
を得る。最後の主張は、thm-ekc-nef の $K^2\ge0$ と合わせて従う。$\square$

$\kappa=2$ から $K^2>0$ を出すとき極小性を使った(thm-ekc-nef のネフ性)。極小でない曲面では成り立たない(下の反例の表)。

小平次元が 0 の曲面の数値的な分類

複素数体上では、Hodge 理論から $b_1=2q$、$b_2=2p_g+h^{1,1}$、$h^{1,1}\ge1$ が成り立つ(Hodge分解。$h^{1,1}\ge1$ は豊富な因子の類が $0$ でないことによる)。ここで $b_i$ は Betti 数で、Poincaré 双対性から位相的 Euler 数は $e=2-2b_1+b_2$ である。

小平次元が 0 の極小曲面の不変量

$k=\mathbb{C}$ とし、$X$ を $\kappa(X)=0$ の極小曲面とする。

  1. $K^2=0$、$p_g\in\{0,1\}$ であり、$(p_g,q)$ は $(0,0)$、$(0,1)$、$(1,0)$、$(1,2)$ のどれかである。$b_2=10+12p_g-8q$ である。
  2. $(p_g,q)=(1,0)$ なら $K\sim0$ で、$X$ は K3 曲面である。
  3. $(p_g,q)=(0,0)$ なら $2K\sim0$ かつ $K\not\sim0$ で、$X$ は Enriques 曲面である。
Noether の公式と Riemann–Roch の定理

1. $K^2=0$ は thm-ekc-k2、$p_g=P_1\le1$ は lem-ekc-pm による。Noetherの公式 $12\chi=K^2+e$ に $K^2=0$、$\chi=1-q+p_g$、$e=2-4q+b_2$ を入れると $b_2=10+12p_g-8q$ を得る。$b_2\ge2p_g+1$ から $8q\le9+10p_g$ で、$p_g=0$ なら $q\le1$、$p_g=1$ なら $q\le2$ である。残る $(p_g,q)=(1,1)$ を除く。$q\ge1$ なので、$c_1=0$ の可逆層の群 $\operatorname{Pic}^0(X)\cong H^1(X,\mathcal{O}_X)/H^1(X,\mathbb{Z})$ は $q$ 次元の複素トーラスで、自明でない $2$ 等分点、すなわち $\mathcal{L}\not\cong\mathcal{O}_X$、$\mathcal{L}^{\otimes2}\cong\mathcal{O}_X$ となる可逆層 $\mathcal{L}$ をもつ。$c_1(\mathcal{L})=0$ なので $\mathcal{L}$ はすべての曲線と交点数 $0$ である。$\mathcal{L}$ が $0$ でない切断をもつと、その零因子 $Z\ge0$ は豊富な $H$ と $Z\cdot H=0$ をみたし、代数曲面 の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」から $Z=0$、$\mathcal{L}\cong\mathcal{O}_X$ となるので、$h^0(\mathcal{L})=0$ である。Riemann–Roch の定理から $\chi(\mathcal{L})=\chi(\mathcal{O}_X)=1$ なので、Serre 双対性により $h^0(K-\mathcal{L})=h^2(\mathcal{L})\ge1$ である($K-\mathcal{L}$ は $\omega_X\otimes\mathcal{L}^{-1}$ を表す)。$D\in|K-\mathcal{L}|$、$K_0\in|K|$ をとると $2D$ と $2K_0$ はどちらも $|2K|$ に入る。$P_2\le1$ なので $|2K|$ は 1 つの因子だけからなり、$2D=2K_0$、したがって $D=K_0$ である。すると $\mathcal{L}\cong\mathcal{O}_X(K_0-D)=\mathcal{O}_X$ となり矛盾する。
2. $\chi=2$ である。Riemann–Roch の定理から $\chi(-K)=\chi+\frac12(-K)\cdot(-2K)=2+K^2=2$ で、Serre 双対性 $h^2(-K)=h^0(2K)=P_2\le1$ から $h^0(-K)\ge1$ である。$K_0\in|K|$、$F\in|-K|$ をとると $K_0+F$ は $0$ と線形同値な有効因子なので $0$ であり(大域関数は定数)、$K_0=F=0$、すなわち $K\sim0$ である。
3. $\chi=1$ である。$X$ は $\kappa=0$ なので有理曲面でなく、Castelnuovo の判定法($q=P_2=0$ なら有理曲面。Har77 V 定理 6.2, p. 422、BHPV04 VI 3.4, p. 252)により $P_2\ge1$、lem-ekc-pm から $P_2=1$ である。$P_3=0$ を示す。$P_3=1$ なら $D_2\in|2K|$、$D_3\in|3K|$ について $3D_2$ と $2D_3$ はどちらも $|6K|$ に入り、$P_6\le1$ から $3D_2=2D_3$ である。各成分の重複度を比べると $D_2=2D$、$D_3=3D$ となる有効因子 $D$ があり、$D=D_3-D_2\sim K$ となって $p_g=0$ に反する。よって $P_3=0$ である。Riemann–Roch の定理から $\chi(3K)=1+\frac12\cdot3K\cdot2K=1$ で、$h^0(3K)+h^0(-2K)\ge1$(Serre 双対性 $h^2(3K)=h^0(-2K)$)から $h^0(-2K)\ge1$ である。2 と同じく $|2K|$ と $|-2K|$ の元の和が $0$ になるので $2K\sim0$ である。$p_g=0$ なので $K\not\sim0$ である。$\square$

残りの 2 つの場合

$(p_g,q)=(0,1)$ の極小曲面は双楕円曲面、$(1,2)$ の極小曲面はアーベル曲面である。どちらも Albanese 写像を調べて示される(BHPV04 VI §4, pp. 253–255。この記事では証明しない)。上の証明の 1 で $(1,1)$ を除く議論と、2・3 の議論は同所(pp. 253–254)と同じ筋である。双楕円曲面 と K3曲面 の記事では、それぞれの類の曲面の不変量を直接計算している。

例:曲線の積

2 つの曲線の積の小平次元

$C_1,C_2$ を種数 $g_1,g_2$ の滑らかで連結な射影曲線とし、$X=C_1\times C_2$ とする。$\omega_X\cong p_1^*\omega_{C_1}\otimes p_2^*\omega_{C_2}$(Har77 II 演習 8.3 (b), p. 187)と Künneth の公式(Stacks Tag 0BED)から $P_m(X)=P_m(C_1)P_m(C_2)$ である。曲線の $m$ 重種数は、Riemann–Roch の定理により、$g=0$ なら $0$、$g=1$ なら $1$、$g\ge2$ なら $P_1=g$、$m\ge2$ で $P_m=(2m-1)(g-1)$ である($\deg mK=m(2g-2)>2g-2$ なので $h^1(mK)=0$)。よって次のようになる(対称なので $g_1\le g_2$ とする)。

$(g_1,g_2)$$\kappa(X)$分類での位置
$g_1=0$$-\infty$有理曲面($g_2=0$)または双有理線織曲面
$(1,1)$$0$アーベル曲面
$(1,\ \ge2)$$1$楕円曲面(第 2 射影のファイバーが楕円曲線)
$(\ge2,\ \ge2)$$2$一般型の曲面

$g_1,g_2\ge1$ のとき $X$ は極小である。$(-1)$ 曲線 $E\cong\mathbb{P}^1$ があると、$\mathbb{P}^1$ から種数正の曲線への射は定数なので(有理曲線 の Lüroth の定理)、$E$ は両方の射影で 1 点に写り、$E$ は 1 点に含まれることになって矛盾するからである。$g_1=g_2=1$ のとき $K_X\sim0$ で $K^2=0$、$g_1,g_2\ge2$ のとき $K_X^2=8(g_1-1)(g_2-1)>0$ であり(Noetherの公式 の定理「曲線の積での Noether の公式」)、thm-ekc-k2 と合っている。

正標数での注意

thm-ekc-nef・thm-ekc-k2 の証明は標数を使わない。thm-ekc-kappa0 は Hodge 理論($b_1=2q$ と $b_2\ge2p_g+1$)を使うので複素数体上に限った。正標数では $q$ と $b_1/2$ が一致しないことがあり、分類は次のように変わる。

  • 標数 $2,3$ では、$\kappa=1$ の曲面に、ファイバーが算術種数 $1$ の特異曲線になるファイブレーションをもつ 準楕円曲面 が加わる(Poo17 §9.3.2.3, p. 273)。標数 $2$ の $\kappa=0$ の曲面の詳細は Bombieri–Mumford による(Poo17 §9.3.2.2, p. 272 の引用)。
  • Castelnuovo の判定法は正標数でも成り立ち、Zariski による(Har77 V 定理 6.2 の証明の注, p. 422)。一方、「単有理な曲面は有理曲面」は、関数体の拡大が分離的であるという仮定なしには正標数で成り立たない(同 注意 6.2.1, p. 422)。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
thm-ekc-nef の極小性K3 曲面 $S$ の 1 点の爆発 $X$$K_X$ がネフであること
thm-ekc-nef の $\kappa\ge0$$\mathbb{P}^2$$K$ がネフであること
thm-ekc-k2 の極小性$\mathbb{P}^3$ の滑らかな 5 次曲面を 5 点で爆発した曲面$\kappa=2$ ならば $K^2>0$ であること
thm-ekc-main の射影性1 次 Kodaira 曲面(コンパクト複素曲面)$\kappa=0$ の極小曲面が 4 つの類のどれかであること
反例の確かめ

1 行目.爆発で多重種数は変わらないので $\kappa(X)=\kappa(S)=0$ である(双有理幾何学 の定理「多重種数の双有理不変性」)。例外曲線 $E$ は $(-1)$ 曲線で、随伴公式から $K_X\cdot E=-2-E^2=-1<0$ なので $K_X$ はネフでない。$X$ は $(-1)$ 曲線 $E$ をもつので極小でない。
2 行目.$\mathbb{P}^2$ の曲線は自己交点数が正なので $(-1)$ 曲線はなく、$\mathbb{P}^2$ は極小である。$K=-3L$($L$ は直線)で $K\cdot L=-3<0$ なのでネフでない。$\kappa(\mathbb{P}^2)=-\infty$ である。
3 行目.$\mathbb{P}^3$ の滑らかな 5 次曲面 $Y$ は $\kappa(Y)=2$、$K_Y^2=5(5-4)^2=5$ である(代数曲面 の定理「空間の滑らかな曲面の不変量」と Noetherの公式 の例「$\mathbb{P}^3$ の超曲面」)。1 点の爆発ごとに $K^2$ は $1$ 減り(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「爆発と交点形式」)、小平次元は変わらないので、5 点で爆発した $X$ は $\kappa(X)=2$、$K_X^2=0$ である。
4 行目.1 次 Kodaira 曲面は、楕円曲線上の楕円曲線をファイバーとする局所自明なファイブレーションをもつコンパクト複素曲面で、$\kappa=0$、第 1 Betti 数 $b_1=3$ の極小なものである(BHPV04 VI 章 Table 10 と p. 245 の定義)。K3 曲面・Enriques 曲面・アーベル曲面・双楕円曲面の $b_1$ はそれぞれ $0,0,4,2$ なので(同 Table 10)、どの類にも入らない。$b_1$ が奇数なので射影的でない(Hodge分解)。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II 定理 8.18(p. 179)・演習 8.3 (b)(p. 187)、III 注意 7.9.1(p. 245)、V 注意 5.8.4(p. 419)、V §6 定理 6.1–6.5 と注意 6.2.1(pp. 421–422)
[2]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, Springer, 2004, VI 章 定理 1.1・Table 10(pp. 243–245)、p. 246 の歴史の注、定理 2.1(p. 247)、3.4(p. 252)、§4(pp. 253–255)

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