正則凸包(holomorphically convex hull)とは、複素多様体 $X$ のコンパクト集合 $K$ に対し、$X$ 上のどの正則関数の絶対値も $K$ の上の最大値を超えない点全体のことである。正則凸包は $K$ を含む閉集合で、正則写像で像に送られ、直積の正則凸包は正則凸包の直積になる。すべてのコンパクト集合の正則凸包がコンパクトであるとき $X$ を正則凸といい、これは集積点をもたない任意の点列の上で有界でない正則関数があることと同値である。平面の開集合では正則凸包は $K$ に相対コンパクトな穴を足したものになり、Stein 多様体では岡–Weil の近似定理が成り立つコンパクト集合を定める。
平面のコンパクト集合 $K$ を多項式の大きさで見ると、$K$ が囲む「穴」は $K$ と区別できない。最大値原理により、穴の中の点での多項式の絶対値は $K$ の上の最大値を超えないからである。このように、ある関数の族のどれを使っても $K$ の上の最大値より大きくできない点を $K$ に付け加えた集合を、その族についての $K$ の「凸包」という。族として複素多様体 $X$ 上の正則関数全体 $\mathcal{O}(X)$ をとったものが 正則凸包(holomorphically convex hull)である。
正則凸包がいつもコンパクトであるとき、$X$ を 正則凸 という。これは Stein多様体 の定義の条件の 1 つであり、$\mathbb{C}^n$ の領域では 正則領域 であることと同値である(Cartan–Thullen の定理)。この記事では、正則凸包の基本性質、正則写像や直積とのかかわりを述べ、正則凸性が「無限遠へ逃げる点列の上で有界でない正則関数がある」ことと同値であること(thm-hch-main)を示す。1 変数ではすべての開集合が正則凸であり、正則凸包は $K$ に相対コンパクトな穴を足したものになる(thm-hch-plane)。
この記事では、複素多様体 は Hausdorff で第 2 可算公理を満たすとし、連結とは限らないものとする。複素多様体 $X$ 上の正則関数全体を $\mathcal{O}(X)$ と書き、関数 $f$ と集合 $M\subset X$ に対し $\|f\|_M:=\sup_M|f|$ とおく。コンパクト集合 $K$ の上では $\|f\|_K< \infty$ である。
$X$ を複素多様体、$K\subset X$ をコンパクト集合とする。
$$
\widehat K_X:=\bigl\{x\in X\bigm||f(x)|\le\|f\|_K\ \ (\text{すべての }f\in\mathcal{O}(X))\bigr\}
$$
を $K$ の 正則凸包(holomorphically convex hull)という。$\widehat K_X=K$ となるコンパクト集合を $\mathcal{O}(X)$ 凸 であるという。$X$ のすべてのコンパクト集合 $K$ について $\widehat K_X$ がコンパクトであるとき、$X$ は 正則凸(holomorphically convex)であるという。
$X$ が $\mathbb{C}^n$ の領域のとき、これは 正則領域 の定義「正則凸包と正則凸」と同じである。Hor90 は $\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ について $\widehat K_\Omega$ を $A(\Omega)$-hull と呼び(Definition 2.5.2、p. 37)、正則凸性を Stein 多様体の条件 $(\alpha)$ として述べている(Definition 5.1.3、p. 116)。GR79 は一般の複素空間で同じ定義を採る(第 IV 章 §2 Definition 1・Definition 3、pp. 108–109)。
$\mathcal{O}(X)$ の代わりにほかの関数の族 $\mathcal{A}$ を使っても同じように凸包 $\widehat K_{\mathcal{A}}$ が定まる。$X=\mathbb{C}^n$ で $\mathcal{A}$ を多項式全体にとったものが多項式凸包である(岡潔(Kiyoshi Oka)と A. Weil による 岡–Weilの近似定理 の定義「多項式凸包と多項式凸」)。
$X$ を複素多様体、$K,L\subset X$ をコンパクト集合とする。
要点:1〜3 は定義から従う。4 は、実線形汎関数 $\lambda$ を実部にもつ複素線形関数 $\ell$ について $f=e^{\ell}$ を使うと、$\widehat K_X$ の上で $\lambda\le\max_K\lambda$ となることによる。
1:$K\subset\widehat K_X$ は定義から明らかである。$\widehat K_X$ は閉集合 $\{x\in X\mid|f(x)|\le\|f\|_K\}$ の、$f\in\mathcal{O}(X)$ にわたる共通部分なので閉である。2:$\|f\|_K\le\|f\|_L$ による。3:$K\subset\widehat K_X$ から $\ge$、定義から $\le$ が従う。$\widehat K_X$ がコンパクトなら、$x\in\widehat{(\widehat K_X)}_X$ は $|f(x)|\le\|f\|_{\widehat K_X}=\|f\|_K$ を満たすので $x\in\widehat K_X$ であり、逆の包含は 1 による。
4:$C$ を $K$ の閉凸包とする。$K$ は有界なので $C$ も有界閉集合である。$z\notin C$ とし、$c\in C$ を $z$ に最も近い点とする($C$ はコンパクトなので存在する)。$\mathbb{R}^{2n}$ の内積で $\lambda(w):=\langle w,z-c\rangle$ とおくと、$C$ が凸であることから $w\in C$ で $\langle w-c,z-c\rangle\le0$($c+t(w-c)$ と $z$ の距離を $t\in[0,1]$ で微分する)、すなわち $\lambda(w)\le\lambda(c)< \lambda(c)+|z-c|^2=\lambda(z)$ である。$\ell(w):=\lambda(w)-i\lambda(iw)$ は複素線形で($\ell(iw)=\lambda(iw)+i\lambda(w)=i\ell(w)$)$\operatorname{Re}\ell=\lambda$ だから、$f:=e^{\ell}\in\mathcal{O}(X)$ について $|f(z)|=e^{\lambda(z)}>e^{\max_K\lambda}=\|f\|_K$ となり、$z\notin\widehat K_X$ である。
4 は Hor90 の Definition 2.5.2 の直後(p. 37)にある。正則凸包は正則写像で前へ送れる。
$\varphi\colon X\to Y$ を複素多様体の間の正則写像、$K\subset X$ をコンパクト集合とする。このとき $\varphi(\widehat K_X)\subset\widehat{\varphi(K)}_Y$ である。特に次が成り立つ。
$g\in\mathcal{O}(Y)$ なら $g\circ\varphi\in\mathcal{O}(X)$ なので、$x\in\widehat K_X$ について $|g(\varphi(x))|\le\|g\circ\varphi\|_K=\|g\|_{\varphi(K)}$ である。1・2 は包含写像に、3 は $\varphi$ と $\varphi^{-1}$ に使えばよい。$\square$
$U$ 上の正則関数は $X$ 上の正則関数より多いので、1 の包含は真になりうる。$K$ を単位円周、$X=\mathbb{C}$、$U=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ とすると、$\widehat K_X\cap U$ は閉単位円板から $0$ を除いたもの、$\widehat K_U$ は $K$ 自身である(ex-hch-circle)。一方 $X=\mathbb{C}^2$、$U=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ ではどちらも等しくなる例がある(正則領域 の例「多重円板の区別された境界の正則凸包」)。
$X,Y$ を複素多様体、$K\subset X$、$L\subset Y$ をコンパクト集合とする。このとき
$$
\widehat{(K\times L)}_{X\times Y}=\widehat K_X\times\widehat L_Y
$$
である。
$\subset$:射影 $p_1\colon X\times Y\to X$ は正則で $p_1(K\times L)=K$ なので、prop-hch-map により $p_1\bigl(\widehat{(K\times L)}_{X\times Y}\bigr)\subset\widehat K_X$ である。$p_2$ についても同様である。
$\supset$:$x\in\widehat K_X$、$y\in\widehat L_Y$、$f\in\mathcal{O}(X\times Y)$ とする。積の座標近傍で見ると、$y$ を止めた $f(\cdot,y)$ は $X$ 上の正則関数であり、$k$ を止めた $f(k,\cdot)$ は $Y$ 上の正則関数である。よって
$$
|f(x,y)|\le\sup_{k\in K}|f(k,y)|\le\sup_{k\in K}\sup_{l\in L}|f(k,l)|=\|f\|_{K\times L}
$$
である。$\square$
$\subset$ の向きは GR79 第 IV 章 §2.1(p. 109)に「積の規則」として述べられており、直積が正則凸であることを示すにはこの向きで足りる(cor-hch-inherit)。
正則凸性は、無限遠へ逃げる点列の上で有界でない正則関数があることと言い換えられる。点列 $(x_k)$ が $X$ に 集積点をもたない とは、$X$ のどの点にも、$x_k$ を含む番号 $k$ が有限個しかない近傍があることをいう。
複素多様体 $X$ には、コンパクト集合 $L_1\subset L_2\subset\cdots$ で、$L_j$ が $L_{j+1}$ の内部に含まれ、$\bigcup_jL_j=X$ となるものがある。このとき $X$ のコンパクト集合はある $L_j$ の内部に含まれ、$x_j\notin L_j$ となる点列 $(x_j)$ は集積点をもたない。
要点:閉包がコンパクトな開集合からなる可算開基 $V_1,V_2,\dots$ をとり、$L_j$ を有限個の $\overline{V_i}$ の和として帰納的に大きくする。
$X$ は局所コンパクト Hausdorff で可算開基をもつので、閉包がコンパクトな開集合 $V_1,V_2,\dots$ からなる開基がある。$L_1:=\overline{V_1}$ とし、$L_j$ を決めたら、$L_j$ を覆う有限個の $V_i$ をとって、$L_j\subset V_1\cup\cdots\cup V_m$ となる $m\ge j+1$ を選び、$L_{j+1}:=\overline{V_1}\cup\cdots\cup\overline{V_m}$ とする。$L_j$ は開集合 $V_1\cup\cdots\cup V_m\subset L_{j+1}$ に含まれ、$V_{j+1}\subset L_{j+1}$ なので $\bigcup_jL_j=X$ である。コンパクト集合 $C$ は増大する開集合 $\operatorname{int}L_j$ で覆われるので、ある $\operatorname{int}L_j$ に含まれる。$p\in X$ は、ある $\operatorname{int}L_m$ に入り、$j\ge m$ なら $x_j\notin L_j\supset L_m$ なので、近傍 $\operatorname{int}L_m$ には $x_1,\dots,x_{m-1}$ しか入らない。
$X$ を複素多様体とする。次の 3 条件は同値である。
lem-hch-exhaustion の $L_j$ を固定する。
1 ⇒ 2.$K_1:=\widehat{(L_1)}_X$ とする。コンパクトな $K_j$ を決めたら、lem-hch-exhaustion により $K_j\cup L_{j+1}\subset\operatorname{int}L_m$ となる $m$ をとり、$K_{j+1}:=\widehat{(L_m)}_X$ とおく。1 により $K_{j+1}$ はコンパクトで、prop-hch-basic の 3 により $\mathcal{O}(X)$ 凸である。$K_j\subset\operatorname{int}L_m\subset\operatorname{int}K_{j+1}$、$L_{j+1}\subset K_{j+1}$ なので、$K_j$ は条件 2 を満たす。
2 ⇒ 3.$X$ のコンパクト集合は増大する開集合 $\operatorname{int}K_j$ で覆われるので、ある $K_j$ に含まれる。$(x_k)$ が集積点をもたなければ、$x_k\in K_j$ となる番号 $k$ は各 $j$ について有限個である(無限個あれば、コンパクトな $K_j$ の中にその部分列の集積点ができる)。そこで、番号 $j_1< j_2< \cdots$ と部分列 $y_l:=x_{k_l}$ を
$$
y_l\notin K_{j_l},\qquad y_l\in K_{j_{l+1}}
$$
となるように帰納的に選べる($j_l$ を決めたら $K_{j_l}$ に入らない $x_k$($k>k_{l-1}$)を $y_l$ とし、$y_l\in K_j$ となる $j>j_l$ を $j_{l+1}$ とする)。
$y_l\notin K_{j_l}=\widehat{(K_{j_l})}_X$ なので、$g_l\in\mathcal{O}(X)$ で $|g_l(y_l)|>\|g_l\|_{K_{j_l}}$ となるものがある。定数倍して $\|g_l\|_{K_{j_l}}<1<|g_l(y_l)|$ とする。$f_1,\dots,f_{l-1}$ を決めたら、正の整数 $N$ を大きくとって $f_l:=g_l^N$ が
$$
\|f_l\|_{K_{j_l}}\le2^{-l},\qquad|f_l(y_l)|\ge l+1+\sum_{i< l}|f_i(y_l)|
$$
を満たすようにする。$f:=\sum_{l\ge1}f_l$ とおく。コンパクト集合 $C$ がある $K_j$ に含まれれば、$j_l\ge j$ となる $l$ では $C$ の上で $|f_l|\le2^{-l}$ なので、級数は $C$ の上で一様に収束する。座標近傍の中で 多変数の正則関数 の定理「局所一様極限」を使うと $f\in\mathcal{O}(X)$ である。$i>l$ なら $y_l\in K_{j_{l+1}}\subset K_{j_i}$ なので $|f_i(y_l)|\le2^{-i}$ であり、
$$
|f(y_l)|\ge|f_l(y_l)|-\sum_{i< l}|f_i(y_l)|-\sum_{i>l}2^{-i}\ge l
$$
となる。よって $f$ は $(x_k)$ の上で有界でない。
3 ⇒ 1.$K\subset X$ をコンパクトとする。$\widehat K_X$ がある $L_j$ に含まれれば、$\widehat K_X$ はコンパクト集合の閉部分集合(prop-hch-basic の 1)としてコンパクトである。どの $L_j$ にも含まれないとすると、$x_j\in\widehat K_X\setminus L_j$ がとれ、lem-hch-exhaustion により $(x_j)$ は集積点をもたない。3 の $f$ について $|f(x_j)|\le\|f\|_K< \infty$ だから、これは矛盾である。$\square$
3 ⇒ 1 は GR79 第 IV 章 §2 Theorem 4(p. 110)、逆向きは同 Theorem 12(p. 114、複素多様体の場合の証明は pp. 114–116)にある。Theorem 12 は、集積点をもたない点列の各点で $|f(x_k)|$ が指定した値以上になるようにできるという、より強い形である。$\mathbb{C}^n$ の領域では、境界の点に収束する点列についての同じ構成が 正則領域 の補題「境界に近づく点列の上で有界でない関数」で、Cartan–Thullen の定理の証明に使われている。
1:コンパクトな $X$ では閉集合 $\widehat K_X$ はコンパクトである。Stein 多様体の定義は正則凸性を含む(Stein多様体 の定義「Stein 多様体」)。2:コンパクト集合 $C\subset X\times Y$ は $K\times L$($K,L$ は $C$ の射影の像でコンパクト)に含まれ、prop-hch-basic の 2 と prop-hch-product により $\widehat C_{X\times Y}\subset\widehat K_X\times\widehat L_Y$ である。右辺はコンパクトなので、閉集合 $\widehat C_{X\times Y}$ もコンパクトである。3:prop-hch-map の 2 により $\widehat K_Y\subset\widehat K_X\cap Y$ であり、$Y$ は閉なので右辺はコンパクトである。$\widehat K_Y$ は $Y$ の閉集合なのでコンパクトである。$\square$
3 で $Y$ が閉であることは外せない。開部分多様体 $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}\subset\mathbb{C}^2$ は正則凸でない(正則領域 の例「多重円板の区別された境界の正則凸包」の 2)。
平面の開集合 $\Omega\subset\mathbb{C}$ の部分集合 $O$ が $\Omega$ で 相対コンパクト とは、$\mathbb{C}$ での閉包 $\overline O$ がコンパクトで $\Omega$ に含まれることをいう。
$\Omega\subset\mathbb{C}$ を開集合、$K\subset\Omega$ をコンパクト集合とする。$\widehat K_\Omega$ は、$K$ と、$\Omega\setminus K$ の連結成分のうち $\Omega$ で相対コンパクトなものすべての和集合である。また $\widehat K_\Omega$ はコンパクトであり、特に $\mathbb{C}$ の開集合はすべて正則凸である。
要点:$p\notin\Omega$ での $1/(z-p)$ で凸包が境界から離れることを見る。相対コンパクトな成分は最大値原理で凸包に入り、残りの点 $z_0$ は、$K$ の近くで $0$、$z_0$ の近くで $1$ の関数を Runge の定理で $\Omega$ の外にだけ極をもつ有理関数で近似して凸包から外す。
コンパクト性.$\Omega=\mathbb{C}$ なら prop-hch-basic の 1・4 により $\widehat K_\Omega$ は有界閉集合である。$\Omega\ne\mathbb{C}$ とし、$\delta>0$ を $K$ と $\mathbb{C}\setminus\Omega$ の距離とする。$p\notin\Omega$ について $f(z)=\frac{1}{z-p}\in\mathcal{O}(\Omega)$ を使うと、$z\in\widehat K_\Omega$ では $\frac{1}{|z-p|}\le\max_{w\in K}\frac{1}{|w-p|}\le\frac1\delta$、すなわち $|z-p|\ge\delta$ である。よって $\widehat K_\Omega$ の $\mathbb{C}$ での閉包は $\mathbb{C}\setminus\Omega$ と交わらず、$\widehat K_\Omega$ は $\Omega$ で閉なので $\mathbb{C}$ でも閉である。有界でもあるのでコンパクトである。
相対コンパクトな成分は凸包に入る.$O$ を $\Omega\setminus K$ の成分で $\Omega$ で相対コンパクトなものとする。$O$ の境界点 $q$ は $\overline O\subset\Omega$ に属する。$q\notin K$ なら、$q$ を含む $\Omega\setminus K$ の成分は $q$ の開近傍として $O$ と交わるので $O$ に等しく、$O$ は開集合だから $q$ は境界点でなくなる。よって $\partial O\subset K$ である。$f\in\mathcal{O}(\Omega)$ とする。$|f|$ はコンパクト集合 $\overline O$ の上で最大値をとる。開写像定理(複素解析) の系「正則関数の最大値原理」により、最大値を $O$ の点でとるなら $f$ は連結な $O$ の上で定数、したがって $\overline O$ の上で定数である。どちらの場合も最大値は $\partial O$($O$ は有界なので空でない)でとられ、$z\in O$ では $|f(z)|\le\max_{\partial O}|f|\le\|f\|_K$ となる。
それ以外の点は凸包に入らない.$K_1$ を、$K$ と相対コンパクトな成分すべての和集合とする。前段により $K_1\subset\widehat K_\Omega$ である。$\Omega\setminus K_1$ は残りの成分の和で開集合なので、$K_1$ は $\Omega$ で閉であり、コンパクトな $\widehat K_\Omega$ の閉部分集合としてコンパクトである。$\Omega\setminus K_1$ の成分は、$\Omega\setminus K$ の成分のうち相対コンパクトでないものそのものである。
$z_0\in\Omega\setminus K_1$ とし、$K_2:=K_1\cup\{z_0\}$ とおく。Riemann球面 $\hat{\mathbb{C}}$ の開集合 $\hat{\mathbb{C}}\setminus K_2$ の各成分 $W$ が $\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega$ と交わることを示す。$W\subset\Omega$ と仮定する。$W$ の境界は $K_2$ に含まれるので、$\overline W=W\cup\partial W$ は $\Omega$ に含まれ、$\infty$ を含まないから $\mathbb{C}$ のコンパクト集合である。一方 $W$ は $\Omega\setminus K_1$ のある成分 $O'$ に含まれる。$O'$ から $z_0$ を除いた集合($z_0\notin O'$ なら $O'$ 自身)は、連結な開集合から 1 点を除いたものなので連結であり、$\hat{\mathbb{C}}\setminus K_2$ に含まれて $W$ と交わるから $W$ に含まれる。その閉包は $O'$ の閉包に等しく、$O'$ は相対コンパクトでないので、$\overline W\subset\Omega$ がコンパクトであることに反する。
$K_1$ と $z_0$ の交わらない開近傍 $U_1,U_2$ をとり、$U_1$ の上で $0$、$U_2$ の上で $1$ となる関数 $g$ を考える。$g$ は $U_1\cup U_2$ の上で正則である。Rungeの定理 の定理「Runge の定理(コンパクト集合)」を $S=\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega$ として使うと、極がすべて $\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega$ にある有理関数 $R$ で、$K_2$ の上で $|R-g|< \frac13$ となるものがある。$R\in\mathcal{O}(\Omega)$ であり、$\|R\|_K< \frac13< \frac23<|R(z_0)|$ だから $z_0\notin\widehat K_\Omega$ である。$\square$
この定理は Hor90 Theorem 1.3.3(pp. 8–9)である。
$K=\{|z|=1\}$ とする。$\mathbb{C}\setminus K$ の成分は $\{|z|<1\}$ と $\{|z|>1\}$ である。
Stein 多様体 $X$ では、$\mathcal{O}(X)$ 凸なコンパクト集合 $K$ の近傍で正則な関数は、$K$ の上で $\mathcal{O}(X)$ の関数によって一様に近似できる(岡–Weilの近似定理 の定理「Stein 多様体の上の近似定理」、Hor90 Corollary 5.2.9、p. 127)。逆向きの観察は易しい。$z_0\notin K$ のとき、$K$ の近くで $0$、$z_0$ の近くで $1$ の関数が $K\cup\{z_0\}$ の上で $\mathcal{O}(X)$ の関数 $f$ で誤差 $\frac13$ 未満に近似できれば、$\|f\|_K<|f(z_0)|$ なので $z_0\notin\widehat K_X$ である。
正則凸包は、$\mathcal{O}(X)$ の環準同型で表すこともできる。単位元を保つ $\mathbb{C}$ 代数の準同型 $\chi\colon\mathcal{O}(X)\to\mathbb{C}$($\chi(1)=1$)を 指標 という。$x\in X$ での値をとる写像 $\chi_x(f):=f(x)$ は指標であり、定義から $x\in\widehat K_X$ と「すべての $f$ で $|\chi_x(f)|\le\|f\|_K$」は同値である。
$X$ を Stein 多様体、$K\subset X$ をコンパクト集合とし、指標 $\chi$ がすべての $f\in\mathcal{O}(X)$ について $|\chi(f)|\le\|f\|_K$ を満たすとする。このとき、ある $x\in\widehat K_X$ について $\chi=\chi_x$ である。
$L:=\widehat K_X$ はコンパクトで $\mathcal{O}(X)$ 凸である(cor-hch-inherit の 1、prop-hch-basic の 3)。$B$ を、$\mathcal{O}(X)$ の関数の $L$ への制限全体の、$L$ 上の一様ノルムでの閉包とする。$f|_L=g|_L$ なら $\|f-g\|_K\le\|f-g\|_L=0$ なので $\chi(f)=\chi(g)$ であり、$|\chi(f)|\le\|f\|_K=\|f\|_L$(prop-hch-basic の 3)だから、$\chi$ は $B$ 上の連続な指標に一意に延びる。Hor90 Theorem 7.2.10(p. 191)により、$B$ の 0 でない乗法的線形汎関数は $L$ のある点 $x$ での値をとる写像なので、$\chi(f)=f(x)$($f\in\mathcal{O}(X)$)となる。$\square$
ここで引いた Theorem 7.2.10 は、この記事では証明しない。証明には、共通零点をもたない正則関数の組から $\sum_jg_jf_j=1$ を作る Cartan の定理の帰結が要る(Cartanの定理A・B)。$\mathbb{C}^n$ の Stein 領域では、すべての指標が点での値をとる写像であることが GR79 第 V 章 §4 Theorem 7(p. 162)にある。一般の有限次元の Stein 空間でも、$|\chi(f)|\le\|f\|_K$ のような有界性を仮定せずに、すべての指標が点での値をとる写像であることが Stein代数 の定理「有限次元の Stein 空間の指標」で示される。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 次元が 1 | $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ | 開集合は正則凸(thm-hch-plane) |
| 部分多様体が閉 | $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}\subset\mathbb{C}^2$ | 正則凸性の遺伝(cor-hch-inherit の 3) |
| 取り尽くしの各 $K_j$ が $\mathcal{O}(X)$ 凸 | $X=\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$、$K_j$ は原点からの距離が $1/j$ 以上 $j$ 以下の点の集合 | 2 ⇒ 3(thm-hch-main) |
| 成分が $\Omega$ で相対コンパクト | $\Omega=\mathbb{C}\setminus\{0\}$、$K$ は単位円周 | 内側の成分(穴あき円板)が凸包に入ること(thm-hch-plane) |
| $K$ が $\mathcal{O}(X)$ 凸 | $X=\mathbb{C}$、$K$ は単位円周、関数 $1/z$ | $K$ の近傍で正則な関数の、$\mathcal{O}(X)$ の関数による一様近似 |
1・2 行目:$\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は、正則領域 の例「多重円板の区別された境界の正則凸包」の 2 によりトーラスの凸包がコンパクトでないので正則凸でない。$\mathbb{C}^2$ は凸なので ex-hch-cn の 2 から正則凸である。
3 行目:$K_j$ はコンパクトで、$K_j$ は $K_{j+1}$ の内部に含まれ、和は $X$ である。$x_k:=(1/k,0)$ は $X$ に集積点をもたない。$f\in\mathcal{O}(X)$ は Hartogsの拡張定理 により $\mathbb{C}^2$ 上の正則関数に延びるので、$\{x_k\}$ の上で有界である。
4 行目:ex-hch-circle の 2 である。
5 行目:ex-hch-circle の 1 により $\widehat K_{\mathbb{C}}$ は閉単位円板なので、$K$ は $\mathcal{O}(\mathbb{C})$ 凸でない。$1/z$ は $K$ の近傍で正則だが、Rungeの定理 の例「単位円周と $1/z$」により、$K$ の上で $1/z$ との差が $1$ 未満の多項式はない。整関数は $K$ の上で多項式の一様極限(ex-hch-cn の 1 の議論)なので、整関数でも近似できない。
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