ホーンと充填条件(horn and horn-filling condition)とは、標準単体 $\Delta^n$ から内部と $k$ 番目の頂点の向かいの面を除いた部分単体的集合 $\Lambda^n_k$(ホーン)と、ホーンからの写像が $\Delta^n$ へ延びる、あるいは写像 $p\colon X\to Y$ に沿って持ち上がるという条件のことである。すべてのホーンについての延長が Kan 複体、内側のホーン($0<k<n$)についての延長が準圏を定め、相対版として Kan ファイブレーション・内側ファイブレーション・左右のファイブレーションが定まる。これらの族は合成・引き戻し・積・レトラクトで閉じ、Kan ファイブレーションのファイバーは Kan 複体になる。
標準単体 $\Delta^n$ から、内部と $1$ つの面を取り除いた「角」の形の部分単体的集合を ホーン という。$2$ 次元なら、三角形の $2$ 辺だけが描かれて $3$ 本目の辺と面が欠けた形である。単体的集合への写像がホーンから標準単体全体へ延びるという 充填条件 は、単体的集合の「形」を規定する基本の条件で、どのホーンについて延長を求めるかによって、Kan複体(すべてのホーン)と準圏(内側のホーン)が分かれる。さらに写像 $p\colon X\to Y$ に対して、充填を「$Y$ の単体の上で」行う相対版を考えると、Kan ファイブレーション・内側ファイブレーション・左右のファイブレーションが得られる。この記事では、ホーンの定義と組合せ的な形、充填条件を持ち上げ性質として書く定義、持ち上げ性質で定まる写像の族の閉包性(合成・引き戻し・積・レトラクト)とその帰結、そして群・亜群の脈体の間の写像がいつ Kan ファイブレーションになるかを証明する。
記号は 単体的集合 と 単体圏Δ に従う。$[n]=\{0,1,\ldots,n\}$、標準 $n$ 単体 $\Delta^n$ の $m$ 単体は順序を保つ写像 $\alpha\colon[m]\to[n]$ であり、余面写像 $\delta^j\colon[n-1]\to[n]$ は値 $j$ をとらない単射である。$0\le j\le n$ に対し、$j$ を値にとらない $\alpha$ 全体を $\Delta^n$ の $j$ 番目の面 といい $F_j$ と書く。$F_j$ は $\delta^j$ を合成して得られる単体の全体で、$\Delta^{n-1}$ と同型な部分単体的集合である。
$n\ge1$、$0\le k\le n$ とする。$\Delta^n$ の部分単体的集合 $\Lambda^n_k$ を
$$
(\Lambda^n_k)_m=\{\alpha\colon[m]\to[n]\mid [n]\not\subseteq\alpha([m])\cup\{k\}\}
$$
で定め、$k$ 番目のホーン(horn)という。$0< k< n$ のとき 内側のホーン、$k=0$ または $k=n$ のとき 外側のホーン という。
条件は前合成で保たれる($\alpha\circ\beta$ の像は $\alpha$ の像に含まれる)ので、$\Lambda^n_k$ は部分単体的集合である(単体的集合 の命題「境界とホーンは部分単体的集合である」。そこでの条件 $[n]\setminus\{k\}\not\subseteq\alpha([m])$ はこの条件と同じ)。定義は Ker26 Construction 1.2.4.1(Tag 000U)による。
$$
\Lambda^n_k=\bigcup_{j\ne k}F_j\subseteq\partial\Delta^n\subseteq\Delta^n.
$$
つまりホーン $\Lambda^n_k$ は、$k$ 番目の頂点の向かいの面 $F_k$ 以外のすべての面の和である。
$\alpha\colon[m]\to[n]$ について、$[n]\not\subseteq\alpha([m])\cup\{k\}$ は「$k$ 以外のある $j$ が $\alpha$ の値にならない」ことと同じであり、それは $\alpha\in F_j$ となる $j\ne k$ があることと同じである。$\partial\Delta^n$ は全射でない $\alpha$ の全体(どれかの面に入る単体の全体)なので、包含も従う。$\blacksquare$
$n=1$ では $\Lambda^1_0=F_1$ は頂点 $\{0\}$、$\Lambda^1_1=F_0$ は頂点 $\{1\}$ である($F_j$ は $j$ を値にとらないので、$F_1$ は頂点 $0$ だけからなる)。$n=2$ では、$\Lambda^2_1$ は辺 $\{0,1\}$ と $\{1,2\}$ の和で、$\Lambda^2_0$ は辺 $\{0,1\}$ と $\{0,2\}$ の和、$\Lambda^2_2$ は辺 $\{0,2\}$ と $\{1,2\}$ の和である(Ker26 Example 1.2.4.3(Tag 000X)、Example 1.2.4.4(Tag 000W))。
$n\ge1$ とする。
(R1) $\Delta^n$ の非退化な $m$ 単体は単射 $\alpha\colon[m]\to[n]$ であり、像をとる対応で $[n]$ の元が $m+1$ 個の部分集合と $1$ 対 $1$ に対応する。
(R2) $\Lambda^n_k$ の非退化単体は、空でない部分集合 $S\subseteq[n]$ で $S\cup\{k\}\ne[n]$ を満たすものと $1$ 対 $1$ に対応する。$\Delta^n$ の非退化単体のうち $\Lambda^n_k$ に入らないものは、$S=[n]$($n$ 単体 $\mathrm{id}_{[n]}$)と $S=[n]\setminus\{k\}$(面 $\delta^k$)のちょうど $2$ つである。
(R3) したがって $\Lambda^n_k$ の非退化単体の個数は $2^{n+1}-3$ である。
(i) 退化単体は退化写像 $s_x$ の像、つまり $\alpha'\circ\sigma^x$ の形の単体で、$\sigma^x$ が $x$ と $x+1$ を同じ値に送るので単射でない。逆に $\alpha$ が単射でなく $\alpha(x)=\alpha(x+1)$ なら、$\delta^{x+1}\sigma^x$ は $x+1$ を $x$ に送り他の点を動かさない写像なので $\alpha=\alpha\circ\delta^{x+1}\circ\sigma^x=s_x(\alpha\circ\delta^{x+1})$ と書け、退化している。単射は像で決まる(単体圏Δ の補題「射は像とつぶれる位置で決まる」)。
(ii) 部分単体的集合の単体が非退化であることは、$\Delta^n$ の単体として非退化であることと同じである($\alpha=s_x\beta$ なら $\beta=d_x\alpha$ なので、$\alpha$ が部分単体的集合に入れば $\beta$ も入る)。よって $\Lambda^n_k$ の非退化単体は、定義の条件を満たす単射、つまり像 $S$ が $S\cup\{k\}\ne[n]$ を満たすものである。$S\cup\{k\}=[n]$ となる空でない $S$ は $[n]$ と $[n]\setminus\{k\}$ だけである($n\ge1$ なので後者も空でない)。
(iii) $[n]$ の空でない部分集合は $2^{n+1}-1$ 個あり、そこから $2$ つを除く。$\blacksquare$
単体的集合の写像 $i\colon A\to B$ と $p\colon X\to Y$ を考える。任意の写像 $u\colon A\to X$、$v\colon B\to Y$ で $p\circ u=v\circ i$ を満たすものに対し、
$$
\xymatrix{
A \ar[r]^{u} \ar[d]_{i} & X \ar[d]^{p} \\
B \ar[r]_{v} \ar@{.>}[ur]^{h} & Y
}
$$
$h\circ i=u$ かつ $p\circ h=v$ を満たす写像 $h\colon B\to X$ がある(一意でなくてよい)とき、$i$ は $p$ に対して 左持ち上げ性質 をもつ、$p$ は $i$ に対して 右持ち上げ性質 をもつという。
単体的集合の写像 $p\colon X\to Y$ が、次の範囲のすべてのホーンの包含 $\Lambda^n_k\hookrightarrow\Delta^n$($n\ge1$)に対して右持ち上げ性質をもつとき、それぞれ次のようにいう。
(R1) $0\le k\le n$(すべてのホーン):Kan ファイブレーション(Ker26 Definition 3.1.1.1(Tag 00T1))。
(R2) $0< k< n$(内側のホーン):内側ファイブレーション(同 Definition 4.1.1.1(Tag 01BA))。
(R3) $0\le k< n$:左ファイブレーション、$0< k\le n$:右ファイブレーション(同 Definition 4.2.1.1(Tag 00T9))。
単体的集合 $X$ から $1$ 点 $\Delta^0$ への写像が Kan ファイブレーションであるとき $X$ を Kan 複体、内側ファイブレーションであるとき 準圏(∞圏)という。
$\Delta^0$ は終対象なので、$Y=\Delta^0$ のとき図式の下の辺 $v$ は一通りに決まり、条件は「任意の $u\colon\Lambda^n_k\to X$ が $\Delta^n$ へ延びる」ことになる。これは Kan複体 と 準圏 の記事の定義そのものである(Ker26 Definition 1.2.5.1(Tag 002H)、Definition 1.4.0.1(Tag 003A)、Example 3.1.1.2(Tag 00T2)、Example 4.1.1.2(Tag 01BB))。「ホーンと充填条件」とは、この形の延長・持ち上げの条件の総称である。
| 持ち上げを求めるホーン | $Y=\Delta^0$ のとき | |
|---|---|---|
| Kan ファイブレーション | すべて($0\le k\le n$) | Kan 複体 |
| 内側ファイブレーション | 内側($0< k< n$) | 準圏 |
| 左ファイブレーション | $0\le k< n$ | — |
| 右ファイブレーション | $0< k\le n$ | — |
包含関係から、Kan ファイブレーションは左・右ファイブレーションであり、左・右ファイブレーションは内側ファイブレーションである。
$n\ge1$、$0\le k\le n$ とし、$p\colon X\to Y$ を単体的集合の写像とする。写像 $u\colon\Lambda^n_k\to X$ に対し $x_j:=u(\delta^j)\in X_{n-1}$($j\ne k$)とおく。
(R1) $u$ の $\Delta^n$ への延長は、$d_j\sigma=x_j$(すべての $j\ne k$)を満たす $n$ 単体 $\sigma\in X_n$ と $1$ 対 $1$ に対応する。
(R2) $n$ 単体 $\tau\in Y_n$ が $d_j\tau=p(x_j)$($j\ne k$)を満たすとき(これは $v\colon\Delta^n\to Y$ で $p\circ u=v\circ i$ となるものと同じ)、持ち上げは $d_j\sigma=x_j$($j\ne k$)かつ $p(\sigma)=\tau$ を満たす $\sigma\in X_n$ と $1$ 対 $1$ に対応する。
このとき残りの面 $d_k\sigma$ は、ホーンが指定しない「埋められた面」である。
単体的集合 の定理「標準単体による単体の表示」により、写像 $h\colon\Delta^n\to X$ は $\sigma=h(\mathrm{id}_{[n]})\in X_n$ と対応し、$h(\alpha)=\alpha^*\sigma$ である。とくに $h(\delta^j)=d_j\sigma$ である。$\Lambda^n_k$ の単体はどれも $\delta^j\circ\beta$($j\ne k$)の形なので(prop-hf-union-of-faces)、$\Lambda^n_k$ からの $2$ つの写像は、すべての $j\ne k$ で $\delta^j$ での値が一致すれば等しい。よって $h\circ i=u$ は $d_j\sigma=x_j$($j\ne k$)と同値である。(ii) は、さらに $p\circ h=v$ が $p(\sigma)=v(\mathrm{id}_{[n]})=\tau$ と同値であることによる。$\blacksquare$
逆に、どの $(n-1)$ 単体の族 $(x_j)_{j\ne k}$ が写像 $\Lambda^n_k\to X$ を与えるかは、脈体 の補題「ホーンからの写像」に述べられている(条件は $d_ix_j=d_{j-1}x_i$($i< j$、$i,j\ne k$))。$n=1$ のホーンは $1$ 点なので、Kan 複体・準圏の条件としては自動的に満たされる(退化した辺 $s_0x$ が延長になる)。しかしファイブレーションの条件としては $n=1$ も意味をもつ。$\Lambda^1_0\hookrightarrow\Delta^1$ に対する持ち上げは「$Y$ の辺 $e$ と、その始点の上にある $X$ の頂点 $x$ に対し、$x$ を始点とし $e$ の上にある $X$ の辺がある」という、辺の持ち上げの条件である。
頂点を対象、辺を射と読むと、内側のホーン $\Lambda^2_1$ は「つながった $2$ 本の辺」で、その充填は合成とそれを証言する三角形を与える。外側のホーン $\Lambda^2_0$ の充填は「割り算」、とくに逆向きの辺を与える(Kan複体 の節「低次元のホーンの意味」)。高次のホーンの充填は、合成の結合律や逆の整合性を、等式ではなく「高次の単体による証言」として要求する。Kan 複体は位相空間の道の世界(どの道も逆にたどれる)の模型であり、準圏は向きのある射の世界(圏)の模型である。ファイブレーションは、この充填を底空間 $Y$ の単体の上で行う条件で、位相空間のファイブレーション(道やホモトピーの持ち上げ)の組合せ的な類似である。
小さな圏の間の関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が定める脈体の写像 $N(F)\colon N(\mathcal C)\to N(\mathcal D)$ は内側ファイブレーションである。実際、内側のホーン $u\colon\Lambda^n_k\to N(\mathcal C)$ と $v\colon\Delta^n\to N(\mathcal D)$ が $N(F)\circ u=v\circ i$ を満たすとする。脈体 の命題「脈体のホーンと境界の充填」により $u$ はただ 1 つの延長 $h\colon\Delta^n\to N(\mathcal C)$ をもつ。$N(F)\circ h$ と $v$ はどちらも内側のホーン $N(F)\circ u$ の延長なので、同じ命題を $\mathcal D$ に使うと一致する。よって $h$ が持ち上げである。とくに $N(\mathcal C)\to\Delta^0$ を考えると、圏の脈体は準圏である。
$X=\Delta^0$、$Y=\Delta^0\sqcup\Delta^0$ とし、$p\colon X\to Y$ を $1$ つ目の成分への包含とする。$p$ は Kan ファイブレーションである。実際、$v\colon\Delta^n\to Y$ は $n$ 単体 $\tau=v(\mathrm{id}_{[n]})$ で決まり($v(\alpha)=\alpha^*\tau$)、$Y$ の単体の集合は $2$ つの成分の単体の非交和で構造写像は成分ごとなので、$v$ 全体が $\tau$ の属する一方の成分に入る。$n\ge1$ ではホーン $\Lambda^n_k$ は空でなく、$p\circ u=v\circ i$ から $v$ は $1$ つ目の成分に入るので、$\Delta^n\to X=\Delta^0$ の唯一の写像が持ち上げになる。一方 $p$ は $2$ つ目の成分の頂点に届かないので全射でない。Kan ファイブレーションは全射とは限らない(Ker26 Example 3.1.1.4(Tag 01GE))。
写像の集まり $\mathcal I$ に対し、$\mathcal I$ のすべての写像に対して右持ち上げ性質をもつ写像の全体を $\mathcal I^{\pitchfork}$ と書く。Kan ファイブレーションの全体は、ホーンの包含全体 $\{\Lambda^n_k\hookrightarrow\Delta^n\}$ に対する $\mathcal I^{\pitchfork}$ であり、内側・左・右ファイブレーションも同様である。単体的集合の引き戻しと積は、次数ごとに集合の引き戻しと積をとって作れる(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)。
任意の写像の集まり $\mathcal I$ について、$\mathcal I^{\pitchfork}$ は次の性質をもつ。
(R1) 同型写像を含む。
(R2) 合成で閉じる:$p\colon X\to Y$ と $q\colon Y\to Z$ が $\mathcal I^{\pitchfork}$ に入れば $q\circ p$ も入る。
(R3) 引き戻しで閉じる:$p\colon X\to Y$ が $\mathcal I^{\pitchfork}$ に入り $g\colon Y'\to Y$ が任意の写像なら、引き戻し $p'\colon X\times_YY'\to Y'$ も入る。
(R4) 積で閉じる:$p_\lambda\colon X_\lambda\to Y_\lambda$($\lambda\in\Lambda$)がすべて入れば $\prod_\lambda p_\lambda\colon\prod_\lambda X_\lambda\to\prod_\lambda Y_\lambda$ も入る。
(R5) レトラクトで閉じる:写像 $a\colon X\to X'$、$r\colon X'\to X$、$b\colon Y\to Y'$、$s\colon Y'\to Y$ が $r\circ a=\mathrm{id}_X$、$s\circ b=\mathrm{id}_Y$、$p'\circ a=b\circ p$、$p\circ r=s\circ p'$ を満たし、$p'$ が入れば $p$ も入る。
$i\colon A\to B$ を $\mathcal I$ の写像とし、各場合に持ち上げの問題 $(u,v)$ を解く。
(i) $p$ が同型なら $h=p^{-1}\circ v$ とおく。$h\circ i=p^{-1}\circ v\circ i=p^{-1}\circ p\circ u=u$、$p\circ h=v$ である。
(ii) $u\colon A\to X$、$v\colon B\to Z$ が $q\circ p\circ u=v\circ i$ を満たすとする。まず $q$ に対する問題 $(p\circ u,v)$ を解いて、$h_1\circ i=p\circ u$、$q\circ h_1=v$ となる $h_1\colon B\to Y$ を得る。次に $p$ に対する問題 $(u,h_1)$ を解いて、$h\circ i=u$、$p\circ h=h_1$ となる $h\colon B\to X$ を得る。$q\circ p\circ h=q\circ h_1=v$ なので $h$ が求める持ち上げである。
(iii) $\mathrm{pr}\colon X\times_YY'\to X$ を射影とする。$u\colon A\to X\times_YY'$、$v\colon B\to Y'$ が $p'\circ u=v\circ i$ を満たせば、$p\circ\mathrm{pr}\circ u=g\circ p'\circ u=g\circ v\circ i$ なので、$p$ に対する問題 $(\mathrm{pr}\circ u,g\circ v)$ の解 $h_0\colon B\to X$ がある。$p\circ h_0=g\circ v$ なので、引き戻しの普遍性により $h=(h_0,v)\colon B\to X\times_YY'$ が定まる。$h\circ i$ と $u$ は、$\mathrm{pr}$ との合成がともに $\mathrm{pr}\circ u$、$p'$ との合成がともに $v\circ i$ なので等しい。$p'\circ h=v$ である。
(iv) 持ち上げの問題を成分ごとに解き、得られた $h_\lambda$ を並べて $h=(h_\lambda)_\lambda$ とすればよい(添字集合が無限のときは、各成分の解を 1 つずつ選ぶのに選択公理を使う)。
(v) $p$ に対する問題 $(u,v)$ から、$p'$ に対する問題 $(a\circ u,b\circ v)$ を作る($p'\circ a\circ u=b\circ p\circ u=b\circ v\circ i$)。その解 $h'$ に対し $h=r\circ h'$ とおくと、$h\circ i=r\circ a\circ u=u$、$p\circ h=p\circ r\circ h'=s\circ p'\circ h'=s\circ b\circ v=v$ である。$\blacksquare$
(i) $X\to\Delta^0$ は $p$ と $Y\to\Delta^0$ の合成なので、thm-hf-closure の (ii) による。(ii) $X_y\to\Delta^0$ は $p$ の $y$ による引き戻しなので、(iii) による。(iii) $\prod_\lambda X_\lambda\to\prod_\lambda\Delta^0=\Delta^0$ に (iv) を使う。$\blacksquare$
これらは Ker26 Remark 3.1.1.5(Tag 00T4)、Remark 3.1.1.6(Tag 00T5)、Remark 3.1.1.9(Tag 00T6)、Remark 3.1.1.10(Tag 00T7)、Remark 3.1.1.11(Tag 01C5)、Example 1.2.5.3(Tag 00H8)に述べられている事実である。準圏の積については 準圏 の定理「準圏の積」も見よ。
亜群(すべての射が可逆な小さな圏)の脈体は Kan 複体であり、$n\ge2$ のホーンの延長はただ 1 つである(Kan複体 の定理「脈体が Kan 複体であるための条件」)。このことから、亜群の間の関手についてファイブレーションの条件が $1$ 次元の条件に帰着する。
亜群の間の関手 $F\colon\mathcal G\to\mathcal H$ について、次は同値である。
(R1) $N(F)\colon N(\mathcal G)\to N(\mathcal H)$ は Kan ファイブレーションである。
(R2) 任意の対象 $c\in\mathcal G$ と、$\mathcal H$ の射 $g\colon F(c)\to d$ に対し、$F(f)=g$ となる $\mathcal G$ の射 $f\colon c\to c'$ がある。
脈体の頂点は対象、辺 $e$ は $e(0)$ から $e(1)$ への射であり、$N(F)$ は頂点と辺の上で $F$ として働く。
$n\ge2$ のホーンは (ii) なしで持ち上がる。$u\colon\Lambda^n_k\to N(\mathcal G)$、$v\colon\Delta^n\to N(\mathcal H)$ が $N(F)\circ u=v\circ i$ を満たすとする。$\mathcal G$ は亜群なので $u$ は延長 $h\colon\Delta^n\to N(\mathcal G)$ をもつ。$N(F)\circ h$ と $v$ はどちらもホーン $N(F)\circ u\colon\Lambda^n_k\to N(\mathcal H)$ の延長であり、$\mathcal H$ は亜群なので延長はただ 1 つ、よって $N(F)\circ h=v$ である。
$n=1$ のホーンの持ち上げが (ii) と同値であることを示す。$\Lambda^1_0$ は頂点 $\{0\}$ なので、$\Lambda^1_0\hookrightarrow\Delta^1$ に対する持ち上げの問題は「対象 $c$ と、$F(c)$ を始点とする射 $g\colon F(c)\to d$」であり、その解は「$c$ を始点とし $F(f)=g$ となる射 $f$」である。これは (ii) そのものである。$\Lambda^1_1$ は頂点 $\{1\}$ なので、問題は「対象 $c'$ と射 $g\colon d\to F(c')$」、解は「$c'$ を終点とし $F(f)=g$ となる射 $f$」である。(ii) を仮定し、$g^{-1}\colon F(c')\to d$ に (ii) を使って $F(f')=g^{-1}$ となる $f'\colon c'\to c$ をとれば、$f=f'^{-1}$ が解である。
以上より、(ii) なら $n\ge1$ のすべてのホーンが持ち上がり、逆に Kan ファイブレーションなら $\Lambda^1_0$ の持ち上げから (ii) が従う。$\blacksquare$
群 $G$ を対象 $1$ つの亜群とみなすと、その脈体 $BG$ の $n$ 単体は $G^n$ の元 $(g_1,\ldots,g_n)$ である(脈体 の例「群の脈体 $BG$」)。群の準同型 $\varphi\colon G\to H$ について、$B\varphi\colon BG\to BH$ が Kan ファイブレーションであることと $\varphi$ が全射であることは同値である。thm-hf-groupoid-fibration の (ii) が「任意の $h\in H$ に対し $\varphi(g)=h$ となる $g$ がある」ことだからである。このとき $BH$ の唯一の頂点の上のファイバーの $n$ 単体は $\varphi(g_1)=\cdots=\varphi(g_n)=1$ となる $(g_1,\ldots,g_n)$ なので、ファイバーは核の脈体 $B(\ker\varphi)$ であり、cor-hf-kan-consequences の (ii) のとおり Kan 複体である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $n=1$ のホーンの持ち上げ | $B\iota\colon B\{1\}\to B(\mathbb Z/2)$ | Kan ファイブレーションである |
| cor-hf-kan-consequences の (i) の逆(仮定を「両端が Kan 複体」に替える) | $B\iota\colon B\{1\}\to B(\mathbb Z/2)$ | 写像が Kan ファイブレーションである |
| 外側のホーンの持ち上げ | $\Delta^1\to\Delta^0$ | Kan ファイブレーションである(内側ファイブレーションではある) |
自明な群 $\{1\}$ から $\mathbb Z/2$ への包含 $\iota$ を考える。$B\{1\}=\Delta^0$ であり、$B\iota\colon\Delta^0\to B(\mathbb Z/2)$ は唯一の頂点を選ぶ写像である。$\{1\}$ と $\mathbb Z/2$ は亜群なので、thm-hf-groupoid-fibration の証明の前半により $n\ge2$ のすべてのホーンは持ち上がる。しかし $\iota$ は全射でないので、ex-hf-group-hom により $B\iota$ は Kan ファイブレーションでない。具体的には、$\mathbb Z/2$ の生成元に当たる辺を $\Lambda^1_0\hookrightarrow\Delta^1$ に沿って持ち上げることができない。Kan 複体の条件では $n=1$ が自動的に成り立つのに対し、ファイブレーションの条件では $n=1$ が本質的であることを示す例である。また、$\Delta^0$ も $B(\mathbb Z/2)$ も Kan 複体なので、「始域と終域がともに Kan 複体なら Kan ファイブレーション」という含意も成り立たない。
$\Delta^1=N([1])$ は圏 $[1]$ の脈体なので、ex-hf-nerve-inner により $\Delta^1\to\Delta^0$ は内側ファイブレーション、つまり $\Delta^1$ は準圏である。しかし $\Delta^1$ は Kan 複体でない(Kan複体 の例「標準単体は Kan 複体でない」)。外側のホーン $\Lambda^2_0$ に辺 $0\to1$ と退化した辺 $s_0(0)$ を与えると、延長には $1$ から $0$ への辺が要るが、$\Delta^1$ にはない。
また ex-hf-summand は、「Kan ファイブレーションなら全射」という含意が成り立たないことを示す反例でもある。
位相空間 $X$ の特異単体的集合 $\operatorname{Sing}X$ はいつも Kan 複体である(Kan複体 の定理「特異単体的集合は Kan 複体である」)。その証明の要点は、ホーンの幾何学的実現 $\lvert\Lambda^n_k\rvert$($k$ 番目以外の座標のどれかが $0$ である点の集合)が位相的単体 $\lvert\Delta^n\rvert$ のレトラクトであることにある。一般に、ホーンの包含に対する持ち上げの問題 $\Lambda^n_k\to\operatorname{Sing}X$ は、幾何学的実現 と $\operatorname{Sing}$ の随伴により、連続写像 $\lvert\Lambda^n_k\rvert\to X$ の $\lvert\Delta^n\rvert$ への延長の問題と同じものになる。ホーンの充填条件は、位相空間ではレトラクションによっていつも解ける延長の問題を、組合せ的な条件として取り出したものである。
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