単葉関数(univalent function)とは、領域の上で単射な正則関数のことである。単葉関数の導関数は $0$ にならず、逆に導関数が $0$ でない点の近くでは正則関数は単射になるが、局所的な単射性から領域全体での単射性は出ない。単位円板上で $f(0)=0$、$f'(0)=1$ と正規化した単葉関数の族 $S$ では、Bieberbach の不等式 $|a_2|\le2$ から $|z|/(1+|z|)^2\le|f(z)|\le|z|/(1-|z|)^2$ などの歪曲定理が従い、Koebe 関数 $z/(1-z)^2$ が等号を与える。その帰結として $S$ は局所一様収束についてコンパクトであり、係数の極値問題(Bieberbach 予想)や等角写像の理論の基礎になる。
前提知識: 正則関数, 開写像定理(複素解析), 偏角の原理, Taylor展開(複素解析)
単葉関数 は、領域の上で単射な正則関数のことである。正則関数は一般には同じ値を何度もとる($z^2$ は $z$ と $-z$ で同じ値をとり、$e^z$ は $2\pi i$ ずらすと同じ値に戻る)が、単射という「大域的」な条件を課すと、関数の大きさ・導関数の大きさ・Taylor 係数のすべてに、定義域だけで決まる強い制約がかかる。この記事では、単葉性の基本的な判定法を述べたあと、単位円板上の正規化された単葉関数の族 $S$ について、Koebe 関数を極値とする歪曲定理を証明し、その帰結として $S$ が局所一様収束についてコンパクトであることを示す。単葉関数の係数についての問題(Bieberbach 予想)は de Brangesの定理 で扱う。
以下、領域 とは $\mathbb{C}$ の空でない連結な開集合のことをいう。$\mathbb{D}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$ を単位円板、$\Delta:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|>1\}$ をその外側とする。
$S$ は Koebeの1/4定理 の定義「正規化された単葉関数」の $S$ と同じものである。$\mathbb{D}$ 上の単葉関数 $f$ は、後の prop-uf-basic により $f'(0)\neq0$ を満たすので、$(f-f(0))/f'(0)$ は $S$ に属する。したがって $\mathbb{D}$ 上の単葉関数についての問いは、多くの場合 $S$ についての問いに帰着する。$f\in S$ なら $g(z):=1/f(1/z)$ は $\Sigma$ に属する($f$ の零点は $0$ だけなので $g$ は $\Delta$ 上で正則、単射の合成で単射であり、$1/f(u)=u^{-1}(1+a_2u+\cdots)^{-1}=u^{-1}-a_2+\cdots$ から $g(z)=z-a_2+\cdots$)。
1 は 開写像定理(複素解析) の系「単射な正則写像の逆写像」である。2:$f'(a)\neq0$ なら、同じ記事の補題「正則関数の局所的な逆写像」により $a$ の開近傍 $V$ で $f|_V$ が全単射(像の上へ)になるので、$f$ は $a$ で局所単葉である。逆に $f|_V$ が単射なら、$a$ を中心とする開円板 $B\subset V$ をとると $f|_B$ は領域 $B$ 上の単葉関数なので、1 により $f'(a)\neq0$ である。$\square$
2 の「局所」は外せない。局所単葉であることは単葉であることより弱い。
$e^z$ の導関数 $e^z$ は $0$ にならないので、$e^z$ は $\mathbb{C}$ のすべての点で局所単葉である。しかし $e^{z+2\pi i}=e^z$ なので $\mathbb{C}$ 上の単葉関数ではない。帯領域 $\{z\mid|\operatorname{Im}z|<\pi\}$ の上では単葉である:$e^{z_1}=e^{z_2}$ なら $z_1-z_2\in2\pi i\mathbb{Z}$ であり、$|\operatorname{Im}(z_1-z_2)|<2\pi$ から $z_1=z_2$ となる。
導関数の値から大域的な単射性を導く判定法として、次がある。
$D$ を凸な領域、$f$ を $D$ 上の正則関数とし、すべての $z\in D$ で $\operatorname{Re}f'(z)>0$ とする。このとき $f$ は $D$ 上の単葉関数である。
$z_1\neq z_2$ を $D$ の点とする。$D$ は凸なので線分 $z_1+t(z_2-z_1)$($0\leq t\leq1$)は $D$ に含まれる。$f'$ は正則(Cauchyの積分公式 の定理「導関数の積分表示」)なので連続であり、$t\mapsto f(z_1+t(z_2-z_1))$ の導関数は $f'(z_1+t(z_2-z_1))(z_2-z_1)$ である。微分積分学の基本定理を実部と虚部に当てて
$$f(z_2)-f(z_1)=(z_2-z_1)\int_0^1f'\bigl(z_1+t(z_2-z_1)\bigr)\,dt$$
を得る。右辺の積分の実部は $\int_0^1\operatorname{Re}f'(z_1+t(z_2-z_1))\,dt$ であり、正の連続関数の積分なので正である。よって積分は $0$ でなく、$z_2-z_1\neq0$ から $f(z_2)\neq f(z_1)$ である。$\square$
凸性は外せない。$f(z):=z+1/z$ と $G:=\{z\in\mathbb{C}\setminus\{0\}\mid\operatorname{Re}(z^{-2})<1\}$ を考える。$z=re^{i\theta}$ と書けば条件は $\cos2\theta< r^2$ であり、$G$ はレムニスケート $r^2=\cos2\theta$ が囲む閉じた部分(原点を含む)の外側である。これは領域だが、$\pm2i\in G$ の中点 $0$ が $G$ にないので凸でない。$G$ 上で $\operatorname{Re}f'(z)=1-\operatorname{Re}(z^{-2})>0$ だが、$2i$ と $-i/2$ はどちらも $G$ に属し($\theta=\pm\pi/2$ では $\cos2\theta=-1$)、$f(2i)=2i-\frac{i}{2}=\frac{3i}{2}=-\frac{i}{2}+2i=f(-\tfrac{i}{2})$ なので $f$ は $G$ 上で単射でない。
$c\in\mathbb{C}$ について $f_c(z):=z+cz^2$ が $\mathbb{D}$ 上の単葉関数であることと $|c|\leq\frac12$ は同値である。実際、$z_1,z_2\in\mathbb{D}$ について
$$f_c(z_1)-f_c(z_2)=(z_1-z_2)\bigl(1+c(z_1+z_2)\bigr)$$
であり、$|c|\leq\frac12$ なら $|c(z_1+z_2)|\leq\frac12|z_1+z_2|<1$ なので第 2 因子は $0$ でない。逆に $|c|>\frac12$ なら $z_0:=-1/(2c)$ は $\mathbb{D}$ に属し $f_c'(z_0)=1+2cz_0=0$ なので、prop-uf-basic の 1 により $f_c$ は単葉でない。$|c|\leq\frac12$ のとき $f_c\in S$ で $a_2=c$ である。
Koebe 関数 $k(z)=z/(1-z)^2=\sum_{n\geq1}nz^n$ は $S$ に属し、$\mathbb{D}$ を $\mathbb{C}\setminus(-\infty,-\frac14]$ の上に写す(Koebeの1/4定理 の例「Koebe 関数」)。$h(z):=z/(1-z^2)=\sum_{m\geq0}z^{2m+1}$ は $h(z)^2=k(z^2)$ を満たす奇関数で、$S$ に属する。単射であることは、$h(z_1)=h(z_2)$ を払って $(z_1-z_2)(1+z_1z_2)=0$ となり、$|z_1z_2|<1$ から $z_1=z_2$ となることから分かる。$h(z)=iy$($y\in\mathbb{R}$)なら $-y^2=k(z^2)\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,-\frac14]$ なので $y^2<\frac14$ であり、$h$ は虚軸上の 2 本の半直線 $\{iy\mid|y|\geq\frac12\}$ の点を値にとらない。
$S$ の関数は単射であるというだけで、$|f(z)|$ と $|f'(z)|$ が $|z|$ だけで決まる範囲に入る。鍵は、Bieberbach の不等式 $|a_2|\leq2$(Koebeの1/4定理 の定理「Bieberbach の不等式」)を、$f$ を円板の自己同型でずらした関数に当てることである。
$f\in S$ と $\zeta\in\mathbb{D}$ について、$\varphi_\zeta(z):=\dfrac{z+\zeta}{1+\bar\zeta z}$ とおき
$$F_\zeta(z):=\frac{f(\varphi_\zeta(z))-f(\zeta)}{(1-|\zeta|^2)f'(\zeta)}\qquad(z\in\mathbb{D})$$
と定める。このとき $F_\zeta\in S$ であり、その第 2 係数は $\dfrac12\Bigl((1-|\zeta|^2)\dfrac{f''(\zeta)}{f'(\zeta)}-2\bar\zeta\Bigr)$ である。したがって
$$\Bigl|(1-|\zeta|^2)\frac{f''(\zeta)}{f'(\zeta)}-2\bar\zeta\Bigr|\leq4$$
が成り立つ。
$z\in\mathbb{D}$ なら $|\bar\zeta z|<1$ なので分母 $1+\bar\zeta z$ は $0$ でなく、展開して確かめられる恒等式
$$|1+\bar\zeta z|^2-|z+\zeta|^2=(1-|z|^2)(1-|\zeta|^2)>0$$
から $|\varphi_\zeta(z)|<1$ である。$\varphi_{-\zeta}(\varphi_\zeta(z))$ を計算すると分子・分母がともに $(1-|\zeta|^2)/(1+\bar\zeta z)$ 倍になって $z$ に戻り、$\zeta$ を $-\zeta$ に替えた式も同じなので、$\varphi_\zeta$ は $\mathbb{D}$ からそれ自身への全単射である。$f'(\zeta)\neq0$(prop-uf-basic)なので $F_\zeta$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数で、単射の合成と定数倍・平行移動なので単射である。$\varphi_\zeta(0)=\zeta$、
$$\varphi_\zeta'(z)=\frac{1-|\zeta|^2}{(1+\bar\zeta z)^2},\qquad\varphi_\zeta''(z)=\frac{-2\bar\zeta(1-|\zeta|^2)}{(1+\bar\zeta z)^3}$$
より $\varphi_\zeta'(0)=1-|\zeta|^2$、$\varphi_\zeta''(0)=-2\bar\zeta(1-|\zeta|^2)$ である。合成の微分により $F_\zeta(0)=0$、$F_\zeta'(0)=f'(\zeta)\varphi_\zeta'(0)/((1-|\zeta|^2)f'(\zeta))=1$、
$$F_\zeta''(0)=\frac{f''(\zeta)\varphi_\zeta'(0)^2+f'(\zeta)\varphi_\zeta''(0)}{(1-|\zeta|^2)f'(\zeta)}=(1-|\zeta|^2)\frac{f''(\zeta)}{f'(\zeta)}-2\bar\zeta$$
であり、第 2 係数は $F_\zeta''(0)/2$ である。$F_\zeta\in S$ に Bieberbach の不等式を当てれば最後の不等式を得る。$\square$
$f\in S$ と $z\in\mathbb{D}$ について、$r:=|z|$ とおくと
$$\frac{1-r}{(1+r)^3}\leq|f'(z)|\leq\frac{1+r}{(1-r)^3},\qquad\frac{r}{(1+r)^2}\leq|f(z)|\leq\frac{r}{(1-r)^2}$$
が成り立つ。$0< r<1$ のとき、Koebe 関数 $k$ は $z=r$ で 2 つの上からの評価の等号を、$z=-r$ で 2 つの下からの評価の等号を与える。
段 1(導関数の対数微分の評価)。 lem-uf-koebe-transform の不等式に $|\zeta|/(1-|\zeta|^2)$ を掛けると、$\bar\zeta\zeta=|\zeta|^2$ より
$$\Bigl|\zeta\frac{f''(\zeta)}{f'(\zeta)}-\frac{2|\zeta|^2}{1-|\zeta|^2}\Bigr|\leq\frac{4|\zeta|}{1-|\zeta|^2}$$
である。実部をとると、$\rho:=|\zeta|$ について
$$\frac{2\rho^2-4\rho}{1-\rho^2}\leq\operatorname{Re}\Bigl(\zeta\frac{f''(\zeta)}{f'(\zeta)}\Bigr)\leq\frac{2\rho^2+4\rho}{1-\rho^2}.$$
段 2($|f'|$ の評価)。 $\theta\in\mathbb{R}$ を固定し、$u(\rho):=\log|f'(\rho e^{i\theta})|$($0\leq\rho<1$)とおく。$f'$ は $0$ にならないので $|f'(\rho e^{i\theta})|^2=f'\,\overline{f'}$ は $\rho$ について $C^1$ 級で正であり、$\dfrac{d}{d\rho}|f'|^2=2\operatorname{Re}\bigl(\overline{f'}\,f''e^{i\theta}\bigr)$ から
$$u'(\rho)=\frac{1}{2|f'|^2}\frac{d}{d\rho}|f'|^2=\operatorname{Re}\Bigl(e^{i\theta}\frac{f''(\rho e^{i\theta})}{f'(\rho e^{i\theta})}\Bigr)$$
である。$0<\rho<1$ では $\rho u'(\rho)$ が段 1 の $\zeta=\rho e^{i\theta}$ での実部に等しいので、$\rho$ で割って
$$\frac{2\rho-4}{1-\rho^2}\leq u'(\rho)\leq\frac{2\rho+4}{1-\rho^2}$$
を得る。部分分数 $\dfrac{2\rho+4}{1-\rho^2}=\dfrac{3}{1-\rho}+\dfrac{1}{1+\rho}$、$\dfrac{2\rho-4}{1-\rho^2}=-\dfrac{1}{1-\rho}-\dfrac{3}{1+\rho}$ を使って $0$ から $r$ まで積分すると、$u(0)=\log|f'(0)|=0$ より
$$\log(1-r)-3\log(1+r)\leq u(r)\leq\log(1+r)-3\log(1-r)$$
となり、$z=re^{i\theta}$ での $|f'(z)|$ の評価を得る。
段 3($|f|$ の上からの評価)。 $f(0)=0$ なので $f(z)=\int_0^1f'(tz)\,z\,dt$ であり、段 2 から
$$|f(z)|\leq\int_0^r\frac{1+\rho}{(1-\rho)^3}\,d\rho=\frac{r}{(1-r)^2}$$
である(右辺の関数 $\rho/(1-\rho)^2$ を微分すると $(1+\rho)/(1-\rho)^3$ になる)。
段 4($|f|$ の下からの評価)。 $z=0$ なら明らかなので $z\neq0$ とし、$w_0:=f(z)$ とおく。$f$ は単射で $f(0)=0$ なので $w_0\neq0$ である。$(1-r)^2>0$ から $\frac{r}{(1+r)^2}<\frac14$ なので、$|w_0|\geq\frac14$ なら主張は成り立つ。$|w_0|<\frac14$ とする。Koebeの1/4定理 により円板 $\{|w|<\frac14\}$ は $f(\mathbb{D})$ に含まれるので、線分 $\{tw_0\mid0\leq t\leq1\}$ も $f(\mathbb{D})$ に含まれる。$f^{-1}$ は正則(prop-uf-basic)なので $\gamma(t):=f^{-1}(tw_0)$ は $0$ から $z$ への $C^1$ 級の道で、$f'(\gamma(t))\gamma'(t)=w_0$ を満たす。$\gamma(t)=0$ となるのは $t=0$ のときだけなので、$\rho(t):=|\gamma(t)|$ は $(0,1]$ で $C^1$ 級であり、$\rho'=\operatorname{Re}(\bar\gamma\gamma')/|\gamma|\leq|\gamma'|$ である。$g(\rho):=(1-\rho)/(1+\rho)^3>0$、$G(\rho):=\rho/(1+\rho)^2$ とおくと $G'=g$ であり、段 2 の $|f'(\gamma(t))|\geq g(\rho(t))$ から、$0<\varepsilon<1$ について
$$|w_0|\geq\int_\varepsilon^1|f'(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\,dt\geq\int_\varepsilon^1g(\rho(t))\,\rho'(t)\,dt=G(r)-G(\rho(\varepsilon))$$
である。$\varepsilon\to0$ とすると $\rho(\varepsilon)\to0$、$G(0)=0$ なので $|f(z)|=|w_0|\geq G(r)=r/(1+r)^2$ を得る。
等号。 $k'(z)=(1+z)/(1-z)^3$ だから $k'(r)=(1+r)/(1-r)^3$、$k'(-r)=(1-r)/(1+r)^3$、また $k(r)=r/(1-r)^2$、$|k(-r)|=r/(1+r)^2$ である。$\square$
上からの評価により、$S$ のどの関数も $|f(z)|\leq|z|/(1-|z|)^2$ を満たし、境界に近づくときの増大は高々 $(1-|z|)^{-2}$ の速さである。Koebe 関数は実軸の正の向きでこの速さを実現する。下からの評価で $r\to1$ とすると、$f(z)$ は $|z|\to1$ のとき $\liminf|f(z)|\geq\frac14$ を満たし、像の境界が原点から $\frac14$ 以上離れていることと合う。
$\mathbb{D}$ 上の関数の列 $f_m$ が $f$ に 局所一様収束 するとは、$\mathbb{D}$ の各コンパクト部分集合の上で一様収束することをいう。
$S$ の任意の列 $(f_m)$ は、$\mathbb{D}$ 上で局所一様収束する部分列をもち、その極限は $S$ に属する。
$0< R<1$ について、$|z|\leq R$ なら thm-uf-distortion により $|f_m(z)|\leq R/(1-R)^2$ である。$\mathbb{D}$ の各点はある閉円板 $\{|z|\leq R\}$($R<1$)の内部にあるので、族 $\{f_m\}$ は $\mathbb{D}$ 上で局所有界である。複素解析 の定理「Montel の定理」(Leb26 Theorem 6.2.2(p. 154))により、局所一様収束する部分列 $f_{m_j}\to f$ がある。Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」により $f$ は $\mathbb{D}$ 上で正則で、$f_{m_j}'\to f'$ も局所一様収束する。よって $f(0)=\lim f_{m_j}(0)=0$、$f'(0)=\lim f_{m_j}'(0)=1$ であり、とくに $f$ は定数でない。偏角の原理 の系「零点をもたない関数と単射な関数の極限」の 2(Leb26 Corollary 5.4.9(p. 143)にも同じ主張がある)により、単射な $f_{m_j}$ の局所一様極限で定数でない $f$ は単射である。ゆえに $f\in S$ である。$\square$
各 $n\geq2$ について $A_n:=\sup_{f\in S}|a_n(f)|$ は有限で、ある $f\in S$ で最大値として達成される。ここで $a_n(f)$ は $f$ の $z^n$ の係数である。
Cauchyの積分公式 の命題「Cauchy の評価式」を半径 $\frac12$ の円周に当てると、thm-uf-distortion から $|a_n(f)|=|f^{(n)}(0)|/n!\leq2^n\cdot\frac{1/2}{(1/2)^2}=2^{n+1}$ なので $A_n\leq2^{n+1}<\infty$ である。$|a_n(f_m)|\to A_n$ となる $f_m\in S$ をとり、thm-uf-compact の部分列 $f_{m_j}\to f\in S$ をとると、Weierstrass の定理により $a_n(f_{m_j})=f_{m_j}^{(n)}(0)/n!\to f^{(n)}(0)/n!=a_n(f)$ なので $|a_n(f)|=A_n$ である。$\square$
Koebe 関数の係数は $a_n=n$ なので $A_n\geq n$ である。$A_n=n$ がすべての $n$ で成り立つ(Bieberbach 予想)ことは de Brangesの定理 である。
thm-uf-distortion の上からの評価と thm-uf-compact は、$S$ を定める 3 つの条件のどれを外しても成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 単射性 | $f_m(z):=(e^{mz}-1)/m$($f_m(0)=0$、$f_m'(0)=1$) | $\lvert f_m(\frac12)\rvert =(e^{m/2}-1)/m\to\infty$ で、$\lvert f(\frac12)\rvert \leq2$ が $m\geq5$ で破れ、$\frac12$ で収束する部分列がない |
| $f(0)=0$ | $f_m(z):=z+m$(単射、$f_m'(0)=1$) | $\lvert f_m(0)\rvert =m$ で $\lvert f(0)\rvert \leq0$ が破れ、$0$ で収束する部分列がない |
| $f'(0)=1$ | $f_m(z):=mz$(単射、$f_m(0)=0$) | $\lvert f_m(\frac12)\rvert =\frac m2$ で $m\geq5$ のとき $\lvert f(\frac12)\rvert \leq2$ が破れ、収束する部分列がない |
1 行目:$f_m'(z)=e^{mz}$ より $f_m'(0)=1$ である。$m\geq4$ なら $\pm\pi i/m\in\mathbb{D}$ で $e^{\pi i}=e^{-\pi i}$ なので $f_m$ は単射でない。$e^{5/2}>12$ より $(e^{5/2}-1)/5>2$ であり、$(e^{m/2}-1)/m$ は $m\geq2$ で増加して $\infty$ に発散する($m$ を実数とみて微分すると、分子 $e^{m/2}(m/2-1)+1$ は $m\geq2$ で正)。2 行目・3 行目の関数は 1 次式なので単射である。どの行でも、ある点での値の列が発散するので、その点で収束する部分列はない。$f'(0)=1$ を $f'(0)\neq0$ にゆるめただけでも、$f_m(z):=z/m$ は単射で $f_m(0)=0$ だが、極限 $0$ は定数で単射でない。
単葉関数は、領域を別の領域の上へ等角に写す写像として現れる。単連結な領域 $\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ は $\mathbb{D}$ からの単葉関数の像として表せる(等角写像 の定理「Riemann の写像定理」)ので、$S$ の性質は単連結領域の形についての情報になる。たとえば Koebeの1/4定理 は、$\Omega$ の点 $w_0$ から境界までの距離を写像の微分係数で下から押さえる(同じ記事の系「双曲計量の密度の下からの評価」)。thm-uf-compact は極値問題(ある量を $S$ 全体で最大にする関数を探す問題)に解があることを保証し、単葉関数論の多くの議論の出発点になる。係数の評価については de Brangesの定理 で、Littlewood の評価 $|a_n|< en$ を thm-uf-distortion から導く。
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