ネット

概要

ネット(Net)とは、位相空間論において点列(Sequence)の概念を有向集合を用いて一般化したものであり、Moore-Smith列とも呼ばれる。点列が自然数によって順序付けられるのに対し、ネットはより一般的な順序構造を持つ「有向集合」によって添字付けられるため、第1可算公理を満たさない一般の位相空間においても、収束性を用いて閉包や連続性、コンパクト性などの位相的性質を完全に特徴付けることができる。

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定義

ネットを定義するためには、まず自然数の一般化である「有向集合」を定義する必要がある。

(有向集合/Directed set)

集合 $\Lambda$ とその上の二項関係 $\le$ の組 $(\Lambda, \le)$有向集合であるとは、以下の3条件を満たすことをいう。

  1. 反射律: $\forall \lambda \in \Lambda, \lambda \le \lambda$
  2. 推移律: $\lambda \le \mu \land \mu \le \nu \implies \lambda \le \nu$
  3. 上界の存在(有向性): $\forall \lambda, \mu \in \Lambda, \exists \nu \in \Lambda \text{ s.t. } \lambda \le \nu \land \mu \le \nu$

自然数全体の集合 $\mathbb{N}$ (通常の大小関係)は有向集合の代表例である。また、点 $x$ の近傍系 $\mathcal{V}_x$ も、「包含関係の逆($U \le V \iff V \subseteq U$)」を順序とすることで有向集合となる。

ネットと収束

位相空間 $X$ において、有向集合 $\Lambda$ から $X$ への写像 $x: \Lambda \to X$ネット(net)と呼び、$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$ あるいは単に $(x_\lambda)$ と表記する。
ネット $(x_\lambda)$ が点 $x \in X$収束するとは、以下の条件を満たすことをいう。
任意の近傍 $U \in \mathcal{V}_x$ に対して、ある $\lambda_0 \in \Lambda$ が存在し、
$$\forall \lambda \ge \lambda_0, \quad x_\lambda \in U$$
が成り立つ。このとき $x_\lambda \to x$ と書く。

点列の限界とネットの必要性

なぜ点列だけでは不十分なのか。それは、第1可算公理(各点が可算な近傍基を持つ)を満たさない「大きすぎる」あるいは「複雑な」空間では、点列が届かない範囲が存在するからである。

点列の敗北例

非可算集合 $X$ 上の補有限位相(補集合が有限または空である集合を開集合とする位相)を考える。
この空間において、無限集合 $A \subseteq X$ は稠密($\overline{A} = X$)であるが、$A$ 内の点列で $A$ の外の点に収束するものは存在しない。
つまり、「点列による閉包」と「位相的な閉包」が一致しない現象が起こる。

ネットは、添字集合 $\Lambda$ として十分に大きな濃度を持つ有向集合(例えば近傍系そのもの)を採用できるため、どのような位相構造であっても「点 $x$ に限りなく近づく」プロセスを記述できる。

ネットによる位相の特徴付け

点列では不完全だった命題も、ネットを用いれば一般の位相空間で成立する定理(ネット原理)となる。

ネットによる位相的性質の記述

位相空間 $X$ とその部分集合 $A$、および写像 $f: X \to Y$ について以下が成り立つ。

  1. 閉包:
    $x \in \overline{A} \iff \exists \text{ net } (x_\lambda) \subseteq A \text{ s.t. } x_\lambda \to x$
  2. 閉集合:
    $A$ が閉集合 $\iff$ $A$ 内の任意の収束ネットの極限は $A$ に属する。
  3. 連続性:
    $f$ が連続 $\iff$ $x_\lambda \to x \implies f(x_\lambda) \to f(x)$
  4. Hausdorff性:
    $X$ がHausdorff空間 $\iff$ 任意の収束ネットの極限はただ一つである。

部分ネットとコンパクト性

点列における「部分列」に対応する概念として、部分ネット(Subnet)がある。ただし、定義は部分列よりも少し柔軟である。

部分ネット

ネット $(x_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}$部分ネットとは、別の有向集合 $M$ と写像 $h: M \to \Lambda$ を用いて $(x_{h(\mu)})_{\mu \in M}$ と表されるネットであって、以下の条件を満たすものである。

  1. 単調性: $\mu_1 \le \mu_2 \implies h(\mu_1) \le h(\mu_2)$ (仮定しない流儀もある)
  2. 共終性: $\forall \lambda \in \Lambda, \exists \mu_0 \in M \text{ s.t. } \forall \mu \ge \mu_0, h(\mu) \ge \lambda$
    (すなわち、$M$ が進めば $\Lambda$ も無限の彼方へ進むこと)

これを用いると、コンパクト性は次のように美しく特徴付けられる。

コンパクト性の特徴付け

位相空間 $X$コンパクト空間であるための必要十分条件は、
$X$ 内の任意のネットが、収束する部分ネットを持つことである。

これはBolzano-Weierstrassの定理(点列コンパクト性)の完全な一般化である。

フィルターとの関係

ネットと並んで現代数学でよく用いられる収束概念にフィルター(Filter)がある。両者は本質的に等価な概念であり、相互に翻訳可能である。

ネットとフィルター
  • ネット $\to$ フィルター: ネット $(x_\lambda)$ の「尾部」が生成するフィルター。
  • フィルター $\to$ ネット: フィルターに基づく有向集合を用いて構成されたネット。
  • 使い分け:
    • 直感的な「動き」や「極限」を扱う解析的な文脈ではネットが好まれる。
    • 代数的な構造や集合族の操作を重視する文脈ではフィルターが好まれる。

関連項目