ネット

同義語:有向点族Moore–Smith列net

概要

ネット(net)とは、有向集合 $D$ を添字集合とする点の族 $(x_d)_{d\in D}$ のことであり、点列の添字集合 $\mathbb{N}$ を一般の有向集合に取り替えた概念である。有向点族、Moore–Smith 列ともいう。位相空間のネットが点 $x$ に収束するとは、$x$ の任意の近傍に対しある添字以降のすべての点がその近傍に入ることをいい、これは点列の収束をそのまま拡張したものである。一般の位相空間では点列だけでは閉包や連続性を捉えきれないが、ネットを用いれば任意の位相空間で、閉包・連続性・Hausdorff 性・コンパクト性(任意のネットが収束する部分ネットを持つこと)が収束の言葉で完全に特徴づけられる。ネットの末尾集合が生成するフィルターを通じてフィルターの理論と互いに翻訳できる。

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前提知識: 位相空間, 近傍系, 閉包, 点列の収束, 有向集合

定義

ネットの添字集合には有向集合を用いる。空でない集合 $D$ 上の反射律・推移律を満たす関係 $\le$ が、任意の $d_1,d_2\in D$ に対して $d_1\le d_3$ かつ $d_2\le d_3$ となる $d_3\in D$ を持つとき、$(D,\le)$ を有向集合というのであった(反対称律は要求しない)。

ネットとその収束

$X$ を集合、$(D,\le)$ を有向集合とする。写像 $x\colon D\to X$、すなわち $X$ の元の族 $(x_d)_{d\in D}$ を、$D$ を添字集合とする $X$ のネット(net)または有向点族という。Moore と Smith にちなんで Moore–Smith 列ともいう(MS22)。
$X$ が位相空間で $x\in X$ のとき、ネット $(x_d)_{d\in D}$ が $x$ に収束する(converge)とは、$x$ の任意の近傍 $V$ に対し、ある $d_0\in D$ が存在して
$$ d\ge d_0\ \Longrightarrow\ x_d\in V $$
がすべての $d\in D$ について成り立つことをいう。このとき $x_d\to x$ と書き、$x$ を $(x_d)_{d\in D}$ の極限の一つという。ある $d_0$ 以降のすべての $d$ で $x_d\in V$ となることを、ネットが最終的に $V$ に入るという。

部分ネットと集積点

$(x_d)_{d\in D}$ を $X$ のネットとする。

  1. 有向集合 $(E,\le)$ と写像 $\varphi\colon E\to D$ が共終(cofinal)であるとは、任意の $d\in D$ に対し、ある $e_0\in E$ が存在して $e\ge e_0\Rightarrow\varphi(e)\ge d$ となることをいう。このとき合成 $(x_{\varphi(e)})_{e\in E}$ を $(x_d)_{d\in D}$ の部分ネット(subnet)という。
  2. $X$ が位相空間のとき、点 $x\in X$ が $(x_d)_{d\in D}$ の集積点(cluster point)であるとは、$x$ の任意の近傍 $V$ と任意の $d\in D$ に対し、$d'\ge d$ かつ $x_{d'}\in V$ となる $d'\in D$ が存在することをいう。すなわち、ネットが繰り返し(frequently)$V$ に入ることをいう。

直感

点列の収束は「番号が十分大きければ近傍に入る」という言い回しで語られる。各点の近傍が可算個の近傍で「汲み尽くせる」空間(第1可算公理を満たす空間)では、この言い回しだけで閉包や連続性(連続写像)を点列で捉えられるが、添字が可算な $\mathbb{N}$ に限られる点列では、一般の位相空間の閉包や連続性を完全には捉えきれない。ネットは添字集合を有向集合に取り替えて、「十分先ではつねに」という言い回しを可算性に頼らず使えるようにしたものである。点 $x$ の近傍全体を逆包含で有向集合とみれば、「近傍が小さくなるにつれて」という近づき方そのものを添字にできる。

例と反例

点列はネットである

$D=\mathbb{N}$ に通常の大小関係を入れたものは有向集合であり($\max(m,n)$ が共通の上界)、$X$ の点列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はそのままネットである。このとき定義中の「$d\ge d_0$ なる $d$」は「$n\ge N$ なる $n$」に一致し、ネットの収束は点列の収束と文字通り同じ条件になる。部分列 $(x_{n_k})_{k\in\mathbb{N}}$($n_0< n_1<\cdots$)は $\varphi(k)=n_k$ が共終なので部分ネットである。

点の近傍から作るネット

$X$ を位相空間、$x\in X$ とし、$x$ の近傍系 $\mathcal{N}(x)$ 上に逆包含 $U\le V:\Longleftrightarrow U\supset V$ で順序を入れると、$U\cap V\in\mathcal{N}(x)$ が $U,V$ の共通の上界となるので $(\mathcal{N}(x),\le)$ は有向集合である。各 $U\in\mathcal{N}(x)$ から点 $a_U\in U$ を一つずつ選んで得られるネット $(a_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}$ は $x$ に収束する。実際、$x$ の近傍 $V$ に対し $d_0:=V$ とおくと、$U\ge V$ すなわち $U\subset V$ なる任意の $U$ について $a_U\in U\subset V$ である。この構成は以下の証明で繰り返し用いる。

級数の無条件収束

実数列 $(a_n)_{n\in\mathbb{N}}$ に対し、$\mathbb{N}$ の有限部分集合全体 $\mathcal{P}_{\mathrm{fin}}(\mathbb{N})$ を包含で順序づけた有向集合($F_1\cup F_2$ が共通の上界)を添字集合とし、各 $F$ に部分和 $s_F:=\sum_{n\in F}a_n$ を対応させるとネット $(s_F)_{F\in\mathcal{P}_{\mathrm{fin}}(\mathbb{N})}$ が得られる。このネットが $s\in\mathbb{R}$ に収束することが、級数 $\sum_n a_n$ が $s$ に**無条件収束**することの定義であり、項の並べ方によらない和の概念をネットの言葉で表している。

反例:点列では届かない触点

$X$ を非可算集合とし、$\emptyset$ と補集合が高々可算な部分集合を開集合とする位相(補可算位相)を入れる。点 $p\in X$ を固定し、$A:=X\setminus\{p\}$ とおく。閉集合は $X$ と高々可算な集合だけなので、非可算集合 $A\neq X$ は閉でなく、$\overline{A}=X$、特に $p\in\overline{A}$ である(満たす性質:$p$ は $A$ の触点)。一方、$A$ の点列 $(a_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が $p$ に収束することはない。実際、$U:=X\setminus\{a_n\mid n\in\mathbb{N}\}$ は補集合が高々可算で $p$ を含むから $p$ の開近傍であり、$U$ にはどの $a_n$ も入らない(満たさない性質:$p$ に収束する $A$ 内の点列の存在)。よって「$p\in\overline{A}$ ⇒ $A$ 内の点列で $p$ に収束するものがある」という含意は一般の位相空間では破れる。しかし prop-net-closure により、$A$ 内のネットで $p$ に収束するものは存在する(ex-net-neighborhood の構成で各近傍 $U$ から $a_U\in U\cap A$ を選べばよい)。この例は、閉包の点列による特徴づけが一般には不十分であり、ネットへの一般化が真に必要であることを示す(Wil04 §11)。

反例:密着位相での極限

$X$ を二点以上を持つ集合とし、開集合が $\emptyset$ と $X$ だけの密着位相を入れる。任意の点の近傍は $X$ だけなので、どんなネットも(たとえば定数ネット $x_d=x_0$ も)$X$ のすべての点に収束する(満たす性質:収束する。満たさない性質:極限の一意性)。したがって「収束するネットの極限は一つ」という主張は Hausdorff 性(Hausdorff空間)なしには成り立たず、prop-net-hausdorff の仮定は落とせない。

性質

閉包のネットによる特徴づけ

$X$ を位相空間、$A\subset X$、$x\in X$ とする。次は同値である。

  1. $x\in\overline{A}$。
  2. $A$ の点からなるネットで $x$ に収束するものが存在する。
    したがって、$A$ が閉集合であることと、$A$ 内の任意の収束ネットの極限がすべて $A$ に属することとは同値である。

(1 ⇒ 2) $x\in\overline{A}$ なので、閉包の触点による特徴づけにより、各 $U\in\mathcal{N}(x)$ に対し $U\cap A\neq\emptyset$ である。選択公理により $a_U\in U\cap A$ を選ぶと、ex-net-neighborhood によりネット $(a_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}$ は $x$ に収束し、その点はすべて $A$ に属する。
(2 ⇒ 1) $A$ 内のネット $(x_d)_{d\in D}$ が $x$ に収束するとする。$x$ の任意の近傍 $V$ に対し、ある $d_0\in D$ が存在して $d\ge d_0$ なら $x_d\in V$ である。反射律より $d_0\ge d_0$ なので $x_{d_0}\in V\cap A$、すなわち $V\cap A\neq\emptyset$。$V$ は任意だったので $x\in\overline{A}$ である。
最後の主張:$A$ が閉なら $\overline{A}=A$ なので、(2 ⇒ 1) により $A$ 内の収束ネットの極限は $A$ に属する。逆に $A$ 内の収束ネットの極限がつねに $A$ に属するなら、(1 ⇒ 2) により $\overline{A}\subset A$、よって $A$ は閉である。$\square$

連続性のネットによる特徴づけ

$X,Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を写像、$x_0\in X$ とする。次は同値である。

  1. $f$ は $x_0$ で連続である($f(x_0)$ の任意の近傍 $V$ に対し、$x_0$ のある近傍 $U$ で $f(U)\subset V$ となるものがある)。
  2. $x_0$ に収束する $X$ の任意のネット $(x_d)_{d\in D}$ に対し、$(f(x_d))_{d\in D}$ は $f(x_0)$ に収束する。
    特に、$f$ が連続であることと、$X$ の任意の収束ネットの像が対応する極限の像に収束することとは同値である。

(1 ⇒ 2) $(x_d)_{d\in D}$ を $x_0$ に収束するネットとし、$V$ を $f(x_0)$ の近傍とする。連続性より $x_0$ の近傍 $U$ で $f(U)\subset V$ となるものがあり、$x_d\to x_0$ より、ある $d_0$ が存在して $d\ge d_0$ なら $x_d\in U$、したがって $f(x_d)\in V$ である。よって $f(x_d)\to f(x_0)$。
(2 ⇒ 1) 対偶を示す。$f$ が $x_0$ で連続でないとすると、$f(x_0)$ のある近傍 $V$ が存在して、$x_0$ のどの近傍 $U$ についても $f(U)\not\subset V$、すなわち $f(x_U)\notin V$ となる $x_U\in U$ がとれる。ex-net-neighborhood によりネット $(x_U)_{U\in\mathcal{N}(x_0)}$ は $x_0$ に収束するが、すべての $U$ で $f(x_U)\notin V$ なので $(f(x_U))_U$ は $f(x_0)$ の近傍 $V$ に最終的に入ることがなく、$f(x_0)$ に収束しない。これは 2 の否定である。$\square$

極限の一意性とHausdorff性

位相空間 $X$ について次は同値である。

  1. $X$ はHausdorff空間である。
  2. $X$ の任意のネットは高々一つの点にしか収束しない。

(1 ⇒ 2) ネット $(x_d)_{d\in D}$ が $x$ と $y$ に収束し、$x\neq y$ と仮定する。Hausdorff 性より $x\in U$、$y\in V$、$U\cap V=\emptyset$ となる開集合 $U,V$ がとれる。$d\ge d_1$ なら $x_d\in U$、$d\ge d_2$ なら $x_d\in V$ となる $d_1,d_2$ をとり、有向性により $d_3\ge d_1,d_2$ をとると $x_{d_3}\in U\cap V=\emptyset$ となり矛盾する。
(2 ⇒ 1) 対偶を示す。$X$ が Hausdorff でないとすると、相異なる $x,y$ で、$x$ の任意の近傍 $U$ と $y$ の任意の近傍 $V$ が交わるものがある。$D:=\mathcal{N}(x)\times\mathcal{N}(y)$ に $(U,V)\le(U',V'):\Longleftrightarrow U\supset U'$ かつ $V\supset V'$ と定めると、$(U\cap U',V\cap V')$ が共通の上界となるので $D$ は有向集合である(有向集合の直積)。各 $(U,V)\in D$ に対し $z_{(U,V)}\in U\cap V$ を選ぶ。$x$ の近傍 $U_0$ に対し $d_0:=(U_0,X)$ とおくと、$(U,V)\ge d_0$ なら $z_{(U,V)}\in U\subset U_0$ なので $z\to x$ であり、同様に $z\to y$ である。よって二点に収束するネットが存在し、2 が破れる。$\square$

集積点と収束する部分ネット

$X$ を位相空間、$(x_d)_{d\in D}$ を $X$ のネット、$x\in X$ とする。次は同値である。

  1. $x$ は $(x_d)_{d\in D}$ の集積点である。
  2. $(x_d)_{d\in D}$ の部分ネットで $x$ に収束するものが存在する。

(1 ⇒ 2) $E:=\{(d,U)\in D\times\mathcal{N}(x)\mid x_d\in U\}$ とおき、$(d,U)\le(d',U'):\Longleftrightarrow d\le d'$ かつ $U\supset U'$ と定める。反射律・推移律は明らかである。$E\neq\emptyset$ かつ有向であることを示す。$(d_1,U_1),(d_2,U_2)\in E$ に対し、$D$ の有向性より $d\ge d_1,d_2$ をとり、$U:=U_1\cap U_2\in\mathcal{N}(x)$ とおく。$x$ は集積点なので $d'\ge d$ かつ $x_{d'}\in U$ となる $d'$ があり、$(d',U)\in E$ は両者の共通の上界である。また $D\neq\emptyset$ と $x_d\in X$ より $(d,X)\in E$ なので $E\neq\emptyset$ である。$\varphi(d,U):=d$ とおく。$\varphi$ は共終である:$d\in D$ に対し $e_0:=(d,X)\in E$ とすると、$(d'',U)\ge e_0$ なら $\varphi(d'',U)=d''\ge d$ である。部分ネット $(x_{\varphi(e)})_{e\in E}$ は $x$ に収束する:$x$ の近傍 $V$ に対し、$x$ が集積点であることから $x_{d_1}\in V$ なる $d_1$ がとれるので $e_0:=(d_1,V)\in E$ とおくと、$(d,U)\ge e_0$ なら $U\subset V$ かつ $x_d\in U$ より $x_{\varphi(d,U)}=x_d\in V$ である。
(2 ⇒ 1) 部分ネット $(x_{\varphi(e)})_{e\in E}$ が $x$ に収束するとする。$x$ の近傍 $V$ と $d\in D$ に対し、共終性より $e\ge e_1\Rightarrow\varphi(e)\ge d$ なる $e_1$、収束より $e\ge e_2\Rightarrow x_{\varphi(e)}\in V$ なる $e_2$ がある。$E$ の有向性で $e\ge e_1,e_2$ をとり $d':=\varphi(e)$ とすれば $d'\ge d$ かつ $x_{d'}\in V$ である。$\square$

コンパクト性のネットによる特徴づけ

位相空間 $X$ について次は同値である。

  1. $X$ はコンパクト空間である(任意の開被覆が有限部分被覆を持つ)。
  2. $X$ の任意のネットは集積点を持つ。
  3. $X$ の任意のネットは収束する部分ネットを持つ。

2 と 3 の同値は prop-net-cluster-subnet による。
(1 ⇒ 2) $(x_d)_{d\in D}$ をネットとし、各 $d\in D$ に対し $A_d:=\overline{\{x_{d'}\mid d'\ge d\}}$ とおく。$\bigcap_{d\in D}A_d=\emptyset$ と仮定すると $\{X\setminus A_d\mid d\in D\}$ は $X$ の開被覆なので、有限個の $d_1,\dots,d_n$ で $X=\bigcup_i(X\setminus A_{d_i})$、すなわち $A_{d_1}\cap\cdots\cap A_{d_n}=\emptyset$ となる。しかし有向性により $d\ge d_1,\dots,d_n$ なる $d$ がとれ、$x_d$ はすべての $A_{d_i}$ に属するので矛盾する。よって $x\in\bigcap_d A_d$ が存在する。この $x$ は集積点である:$x$ の近傍 $V$ と $d\in D$ に対し、$x\in A_d=\overline{\{x_{d'}\mid d'\ge d\}}$ なので $V$ は $\{x_{d'}\mid d'\ge d\}$ と交わり、$d'\ge d$ かつ $x_{d'}\in V$ となる $d'$ がある。
(2 ⇒ 1) 対偶を示す。$X$ がコンパクトでないとし、有限部分被覆を持たない開被覆 $\mathcal{U}$ をとる。$D:=\mathcal{P}_{\mathrm{fin}}(\mathcal{U})$($\mathcal{U}$ の有限部分族全体)を包含で順序づけると有向集合であり、各 $F\in D$ は $X$ を覆わないので $x_F\in X\setminus\bigcup F$ が選べる。ネット $(x_F)_{F\in D}$ が集積点 $x$ を持つと仮定する。$\mathcal{U}$ は被覆なので $x\in U$ なる $U\in\mathcal{U}$ があり、$U$ は $x$ の近傍である。集積点の定義を $V=U$、$d=\{U\}$ に適用すると、$F\supset\{U\}$ かつ $x_F\in U$ なる $F$ が存在するが、$U\in F$ より $x_F\notin\bigcup F\supset U$ であり矛盾する。よって $(x_F)$ は集積点を持たず、2 が破れる。$\square$

補足:フィルターとの対応

一般の位相空間での収束を記述する枠組みとしては、ネットのほかにフィルターが使われる。集合 $X$ 上のフィルターとは、$X$ を含み $\emptyset$ を含まず、有限交叉と上への拡大で閉じた部分集合族 $\mathcal{F}$ であり、位相空間 $X$ 上のフィルター $\mathcal{F}$ が $x$ に収束するとは $\mathcal{N}(x)\subset\mathcal{F}$ となることをいう(詳細はフィルター)。両者は次の意味で互いに翻訳できる。

ネットとフィルターの対応

$X$ を位相空間、$x\in X$ とする。

  1. ネット $(x_d)_{d\in D}$ に対し、末尾集合 $T_d:=\{x_{d'}\mid d'\ge d\}$ の全体はフィルター基であり、それが生成するフィルター
    $$ \mathcal{F}_{(x_d)}:=\{A\subset X\mid \text{ある }d\in D\text{ について }T_d\subset A\} $$
    を $(x_d)_{d\in D}$ の末尾フィルターという。このとき、$x_d\to x$ と $\mathcal{F}_{(x_d)}\to x$ は同値である。
  2. フィルター $\mathcal{F}$ に対し、$D_{\mathcal{F}}:=\{(a,A)\mid A\in\mathcal{F},\ a\in A\}$ に $(a,A)\le(b,B):\Longleftrightarrow B\subset A$ と定めると $D_{\mathcal{F}}$ は有向集合であり、$x_{(a,A)}:=a$ で定まるネット $(x_{(a,A)})_{(a,A)\in D_{\mathcal{F}}}$ の末尾フィルターは $\mathcal{F}$ に一致する。特に、$\mathcal{F}\to x$ とこのネットが $x$ に収束することは同値である。
  1. $D\neq\emptyset$ より末尾集合は少なくとも一つあり、各 $T_d$ は $x_d$ を含むので空でない。$d_1,d_2$ に対し $d_3\ge d_1,d_2$ をとると $T_{d_3}\subset T_{d_1}\cap T_{d_2}$ なので、$\{T_d\}$ はフィルター基であり、$\mathcal{F}_{(x_d)}$ はフィルターである(フィルターの「フィルター基が生成するフィルター」)。$x_d\to x$ は「任意の $V\in\mathcal{N}(x)$ に対しある $d$ で $T_d\subset V$」と同値であり、これは $\mathcal{N}(x)\subset\mathcal{F}_{(x_d)}$ にほかならない。
  2. $X\in\mathcal{F}$ かつ $\emptyset\notin\mathcal{F}$ より $X\neq\emptyset$ なので $D_{\mathcal{F}}\neq\emptyset$ である。反射律・推移律は包含のそれから従う。$(a,A),(b,B)\in D_{\mathcal{F}}$ に対し $A\cap B\in\mathcal{F}$ は空でないので $c\in A\cap B$ がとれ、$(c,A\cap B)$ が共通の上界である。$(a_0,A_0)$ 以降の末尾集合は $\{a\mid\text{ある }A\in\mathcal{F},\ A\subset A_0,\ a\in A\}=A_0$($a\in A_0$ なら $(a,A_0)\ge(a_0,A_0)$)なので、末尾集合の全体は $\mathcal{F}$ 自身であり、末尾フィルターは $\mathcal{F}$ である。最後の主張は (1) から従う。$\square$

この対応のもとで、部分ネットは「より細かいフィルター」(末尾フィルターを含むフィルター)に、集積点は「フィルターの触点」に対応し、thm-net-compactness はフィルターの言葉では「任意の超フィルターが収束する」という形になる(フィルター、Kel75 第 2 章、Bou98 第 I 章 §6)。直感的な「動き」や極限を扱う解析的な文脈ではネットが、集合族の演算を重視する文脈ではフィルターが好まれるが、表現力は同等である。

部分ネットの流儀

部分ネットの定義には複数の流儀がある。本記事は Kelley に従い共終性だけを要求した(Kel75 第 2 章)。Willard は $\varphi$ に単調性($e\le e'\Rightarrow\varphi(e)\le\varphi(e')$)を課し、$\varphi(E)$ が $D$ の共終部分集合であることを要求する(Wil04 §11, Def. 11.2)。Willard の意味の部分ネットは本記事の意味でも部分ネットである($d\in D$ に対し $\varphi(e_0)\ge d$ なる $e_0$ をとれば、$e\ge e_0$ で $\varphi(e)\ge\varphi(e_0)\ge d$)。prf-net-cluster-subnet で構成した $\varphi(d,U)=d$ は単調かつ像が共終なので、prop-net-cluster-subnet と thm-net-compactness はどちらの流儀でも成り立つ。

補足:使われ方

解析学では、級数の無条件収束(ex-net-unconditional)、分割の細分で添字づけた Riemann 和(Riemann和)・Riemann–Stieltjes 和の収束、関数の $x\to a$ における極限($\mathbb{R}\setminus\{a\}$ を $a$ に近いほど先とみなして有向集合としたもの。有向集合の例を参照)などがネットの収束として統一的に述べられる。位相空間論では、第1可算公理を満たさない空間での閉包・連続性・コンパクト性の議論は、点列ではなくネットまたはフィルターで行うのが標準である。圏論では、有向集合 $D$ を薄い圏とみると、ネットは $D$ を添字とする図式であり、部分ネットの共終性は共終関手の概念に対応する。

関連項目

参考文献

[1]
John L. Kelley, General Topology, Graduate Texts in Mathematics 27, Springer-Verlag, 1975, Chapter 2(Moore–Smith収束。ネット・部分ネット・集積点、閉包・連続性・コンパクト性の特徴づけ、フィルターとの対応)
[2]
Stephen Willard, General Topology, Dover Books on Mathematics, Dover Publications, 2004, Chapter 4 §11(ネット・部分ネット・集積点、補可算位相の例)、§12(フィルター)、§17(コンパクト性のネットによる特徴づけ)
[3]
Nicolas Bourbaki, General Topology: Chapters 1–4, Elements of Mathematics, Springer-Verlag, 1998, Chapter I §6(フィルター)、§7(フィルターによる極限)、§9(コンパクト空間)
[4]
E. H. Moore, H. L. Smith, A general theory of limits, American Journal of Mathematics, 1922, 102–121(有向集合とネットの導入)

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