構造(モデル)

同義語:構造(モデル理論)L構造L-構造structure (model theory)first-order structure

概要

構造(モデル)(structure)とは、一階言語 $L$ の定数記号・関数記号・関係記号に、空でない集合 $M$ の元・$M$ 上の写像・$M$ 上の関係を割り当てたものであり、群・環・順序集合・グラフ・ベクトル空間などを同じ形で扱う一階述語論理の基本的な対象である。構造の間には準同型・埋め込み・同型が定まり、部分集合 $A$ が生成する部分構造は項の値の全体で、その濃度は $\lvert A\rvert+\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以下である。全射準同型は否定を含まない論理式の真偽を保ち、構造の鎖の和は $\forall\exists$ 文を保つ。$M$ が $N$ に埋め込めることは、$N$ を $M$ の図式のモデルに拡張できることと同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, 写像, 濃度

群、環、順序集合、グラフ、ベクトル空間は、どれも「集合と、その上の決まった個数の演算・関係・特別な元」からなる。どの記号を使うかを先に決めておけば、これらは同じ形の対象として並べて扱える。それが一階述語論理の 構造(モデル)である。構造は論理式を読む舞台であると同時に、それ自体が数学的な対象でもあり、構造の間の写像(準同型・埋め込み・同型)や、部分構造・構造の和を考えることができる。
この記事では、構造と構造の間の写像、部分構造、言語の取り替え(簡約と拡張)を定義し、次を証明する。部分集合が生成する部分構造は項の値の全体であり、その濃度は $\lvert A\rvert+\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以下である。全射準同型は否定を含まない論理式の真偽を保つ。構造 $M$ が $N$ に埋め込めることは、$N$ が $M$ の図式を満たすように拡張できることと同値である(図式の補題)。構造の鎖の和では「$\forall\cdots\exists\cdots$」の形の文が保たれる。充足関係の定義と、同型な構造が同じ文を満たすこと(同型補題)は 一階述語論理 の記事にあるので、ここでは見出しで引く。

定義

言語と構造

一階言語 $L$ は、定数記号、項数を指定した関数記号、項数を指定した関係記号の集合である。$L$ の記号の個数を $\lvert L\rvert$ と書く。

構造

$L$ を一階言語とする。$L$ 構造($L$-structure)$M$ とは、空でない集合 $M$(台集合、構造と同じ文字で書く)と、各定数記号 $c$ の解釈 $c^M\in M$、各 $n$ 項関数記号 $f$ の解釈 $f^M\colon M^n\to M$、各 $n$ 項関係記号 $R$ の解釈 $R^M\subset M^n$ の組である。$L$ の文の集合 $T$ のすべての文が $M$ で真であるとき、$M$ を $T$ の モデル という。

これは 一階述語論理 の記事の定義「構造」、Zac25 Definition 7.1(pp. 114–115)と同じである。台集合を空でないとする理由は 一階述語論理 の記事の例「反例:空の台集合」にある。どの記号を言語に入れるかを 符号(signature)とよぶこともある。$L$ 構造 $M$ で真な文の全体を $\operatorname{Th}(M)$、文の集合 $T$ のモデル全体のクラスを $\operatorname{Mod}(T)$ と書く。

構造の間の写像

準同型・埋め込み・同型

$M,N$ を $L$ 構造とする。写像 $h\colon M\to N$ が 準同型(homomorphism)であるとは、すべての定数記号 $c$、$n$ 項関数記号 $f$、$n$ 項関係記号 $R$ と $a_1,\dots,a_n\in M$ について
$$ h(c^M)=c^N,\qquad h\bigl(f^M(a_1,\dots,a_n)\bigr)=f^N\bigl(h(a_1),\dots,h(a_n)\bigr),\qquad (a_1,\dots,a_n)\in R^M\Rightarrow(h(a_1),\dots,h(a_n))\in R^N $$
が成り立つことをいう。準同型 $h$ が単射で、関係について逆向きの「$\Leftarrow$」も成り立つとき 埋め込み(embedding)という。全単射な埋め込みを 同型写像 という。

同型写像の定義は 一階述語論理 の記事の定義「同型写像」と一致する。埋め込みは、初等埋め込み の記事の定義「埋め込みと初等埋め込み」の (i)(原子論理式の真偽を保つ写像)と同じものである。準同型は関係を片方向にしか保たないので、関係が「増える」ことを許す。

部分構造

部分構造

$L$ 構造 $M,N$ について、$M\subset N$ であり、各定数記号 $c$ で $c^M=c^N$、各関数記号 $f$ で $f^M=f^N|_{M^n}$、各関係記号 $R$ で $R^M=R^N\cap M^n$ となるとき、$M$ を $N$ の 部分構造(substructure)、$N$ を $M$ の 拡大 といい、$M\subset N$ と書く。

これは 初等部分モデル の記事の定義「部分構造」と同じである。$M\subset N$ であることと、包含写像 $M\to N$ が埋め込みであることは同値である。逆に、埋め込み $h\colon M\to N$ の像 $h(M)$ は $N$ の部分構造で、$h$ は $M$ から $h(M)$ への同型写像になる。
$N$ の部分集合 $B$ が $N$ の部分構造の台集合になるのは、$B$ が空でなく、定数 $c^N$ をすべて含み、関数 $f^N$ で閉じているときであり、そのとき部分構造はただ 1 つに決まる(関係は $R^N\cap B^n$ と決まる)。

言語の取り替え

簡約と拡張

$L\subset L'$ を一階言語とする。$L'$ 構造 $M'$ から、台集合を変えず、$L'\setminus L$ の記号の解釈を忘れて得られる $L$ 構造を、$M'$ の $L$ への 簡約(reduct)といい $M'|_L$ と書く。このとき $M'$ を $M'|_L$ の $L'$ への 拡張(expansion)という。

$L$ の論理式の充足は $L$ の記号の解釈だけで決まるので、$L$ の論理式 $\varphi$ について $M'\models\varphi[s]\iff M'|_L\models\varphi[s]$ である。実際、$L$ の項 $t$ の値が $t^{M'}[s]=t^{M'|_L}[s]$ となることを項の構成についての帰納法で示し、それを使って割り当て $s$ をすべて動かしたまま上の同値を論理式の構成についての帰納法で示せばよい。原子論理式・論理結合子・量化子のどの段でも使うのは台集合と $L$ の記号の解釈だけで、それらは $M'$ と $M'|_L$ で同じである。$\varphi$ が文の場合のこの主張は OLT26 Proposition 25.2(p. 383)にある。拡大は台集合を大きくし、拡張は言語を大きくする。名前は似ているが別の操作である。

例

言語によって部分構造が変わる

整数の加法を 3 つの言語で構造にする。

  • 言語 $\{+\}$:$(\mathbb{Z},+)$ の部分構造は、加法で閉じた空でない部分集合である。$\mathbb{N}$ や $\{1,2,3,\dots\}$ も部分構造で、部分群とは限らない。
  • 言語 $\{0,+\}$:部分構造は、$0$ を含み加法で閉じた部分集合(部分モノイド)である。$\mathbb{N}$ は部分構造だが、$\{1,2,\dots\}$ は $0$ を含まないので部分構造でない。
  • 言語 $\{0,+,-\}$($-$ は 1 項関数記号):部分構造は、$0$ を含み加法と符号の反転で閉じた部分集合、すなわち部分群 $n\mathbb{Z}$($n\ge0$)である。
    同じ群でも、言語に入れる記号によって部分構造・準同型の意味が変わる。群の公理で群を表すときに、単位元と逆元を言語に入れておくと、部分構造が部分群とちょうど一致する。
グラフの準同型と彩色

1 つの 2 項関係記号 $E$ の言語でグラフ($E$ が対称で反射的でない構造)を考える。

  • 部分構造は誘導部分グラフである。辺は $E^N\cap B^2$ と決まるので、頂点の部分集合を選べば辺は自動的に決まる。
  • 準同型 $h\colon G\to H$ は、辺を辺に写す写像である。$H$ を頂点 $n$ 個の完全グラフ $K_n$ とすると、準同型 $G\to K_n$ は「隣り合う頂点に違う色を塗る $n$ 色の彩色」と同じものである。
  • 埋め込みは、辺があることとないことの両方を保つ単射である。たとえば 3 頂点の道 $P_3$ から三角形 $K_3$ への単射は準同型だが、$P_3$ の端点どうしの非辺を辺に写すので埋め込みではない。
体上のベクトル空間

体 $K$ を固定し、言語 $L_K:=\{0,+,-\}\cup\{\lambda_k\mid k\in K\}$($\lambda_k$ は 1 項関数記号)をとる。$K$ 上のベクトル空間 $V$ は、$\lambda_k^V(v)=kv$ と解釈して $L_K$ 構造になる。部分構造は部分空間、準同型は線形写像、埋め込みは単射線形写像である。$K$ が無限体なら言語は無限で、$\lvert L_K\rvert=\lvert K\rvert$ である。ベクトル空間の公理は $L_K$ の文の集合で書け、そのモデルがちょうど $K$ 上のベクトル空間である。

性質

生成された部分構造

項 $t$ の変数が $x_1,\dots,x_n$(相異なる)の中にあるとき $t=t(x_1,\dots,x_n)$ と書き、$x_i$ に $a_i$ を割り当てたときの値を $t^N[a_1,\dots,a_n]$ と書く。値は $x_i$ 以外の変数の割り当てによらない(一階述語論理 の記事の補題「一致補題」の 1)。

生成された部分構造

$N$ を $L$ 構造、$A\subset N$ とし、$A$ が空でないか、$L$ が定数記号をもつとする。
$$ \langle A\rangle:=\bigl\{t^N[a_1,\dots,a_n]\ \big|\ t=t(x_1,\dots,x_n)\text{ は }L\text{ の項},\ a_1,\dots,a_n\in A\bigr\} $$
とおく。

  1. $\langle A\rangle$ は $A$ を含む $N$ の部分構造の台集合であり、$A$ を含む $N$ の部分構造はどれも $\langle A\rangle$ を含む。この部分構造を $A$ が 生成する部分構造 という。
  2. $\lvert\langle A\rangle\rvert\le\lvert A\rvert+\lvert L\rvert+\aleph_0$ である。

1:$A$ の元 $a$ は変数 $x$ の値 $x^N[a]$ なので $A\subset\langle A\rangle$ であり、定数 $c^N$ は項 $c$ の値なので $\langle A\rangle$ に属する。仮定から $\langle A\rangle$ は空でない。関数で閉じていることを示す。$n$ 項関数記号 $f$ と $\langle A\rangle$ の元 $b_i=t_i^N[\bar a_i]$($1\le i\le n$)をとる。変数の名前を付け替えても項の値は変わらない(一階述語論理 の記事の補題「代入補題」の 1)ので、$t_1,\dots,t_n$ の変数は互いに異なるとしてよい。すると $t:=f(t_1,\dots,t_n)$ は項で、その変数に $\bar a_1,\dots,\bar a_n$ を並べて割り当てると、一致補題により各 $t_i$ の値は $b_i$ のままなので、$t$ の値は $f^N(b_1,\dots,b_n)$ である。よって $f^N(b_1,\dots,b_n)\in\langle A\rangle$。def-str-substructure の後の注意により、$\langle A\rangle$ は部分構造の台集合である。
$B$ を $A$ を含む部分構造の台集合とする。項 $t$ の組み立て方についての帰納法で、$a_i\in A$ なら $t^N[\bar a]\in B$ を示す。変数の値は $A\subset B$ に、定数は $B$ に属し、$t=f(t_1,\dots,t_n)$ では帰納法の仮定と $B$ が $f^N$ で閉じていることから従う。よって $\langle A\rangle\subset B$ である。
2:$\kappa:=\lvert A\rvert+\lvert L\rvert+\aleph_0$ とおく。項は、$L$ の記号・可算個の変数・括弧とコンマからなる、濃度 $\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以下の集合の上の有限列なので、項の全体の濃度は $\lvert L\rvert+\aleph_0\le\kappa$ 以下である。各項 $t(x_1,\dots,x_n)$ について、割り当てる組 $\bar a\in A^n$ は $\lvert A\rvert^n\le\kappa$ 個以下である。よって $\langle A\rangle$ は濃度 $\kappa$ 以下の集合を $\kappa$ 個以下集めた和集合であり、$\lvert\langle A\rangle\rvert\le\kappa\cdot\kappa=\kappa$ である(無限濃度の積は大きいほうに等しい。濃度 の記事)。$\square$

BS12 Chapter V Definition 1.21(p. 200)が同じ評価を述べている。$L$ が関数記号をもたなければ $\langle A\rangle=A\cup\{c^N\mid c\text{ は定数記号}\}$ である。$L$ が関数記号をもつと、有限集合でも無限の部分構造を生成しうる。言語 $\{0,+,-\}$ の $(\mathbb{Z},0,+,-)$ では、$\langle\{6,10\}\rangle$ は $6$ と $10$ の整数係数の 1 次結合の全体 $2\mathbb{Z}$ である。
$A$ が空で $L$ が定数記号をもたないと、部分構造のうちで最小のものはない。たとえば 1 項関数記号 $f$ だけの言語の構造 $(\mathbb{Z},n\mapsto n+1)$ では、部分構造 $\{k\in\mathbb{Z}\mid k\ge m\}$($m\in\mathbb{Z}$)がいくらでも小さくとれ、その共通部分は空である。台集合を空でないと定めたので、空集合は部分構造にならない。

準同型が保つ論理式

正論理式 とは、原子論理式から $\land$、$\lor$、$\forall$、$\exists$ だけを使って作られる論理式(否定 $\lnot$ と含意 $\to$ を使わないもの)をいう。$\forall$ も使わないものを 正存在論理式 という。

準同型と正論理式

$h\colon M\to N$ を $L$ 構造の準同型、$s$ を $M$ の割り当てとする。

  1. 正存在論理式 $\varphi$ について、$M\models\varphi[s]$ なら $N\models\varphi[h\circ s]$ である。
  2. $h$ が全射なら、正論理式 $\varphi$ について、$M\models\varphi[s]$ なら $N\models\varphi[h\circ s]$ である。

まず、すべての項 $t$ について $h(t^M[s])=t^N[h\circ s]$ である。これは 一階述語論理 の記事の定理「同型補題」の 1 と同じ項の帰納法で示され、その証明は $h$ が定数と関数を保つことしか使わない。
論理式の組み立て方についての帰納法で示す。

  • $t_1=t_2$:$t_1^M[s]=t_2^M[s]$ なら、両辺を $h$ で写して上の等式を使えば $t_1^N[h\circ s]=t_2^N[h\circ s]$ である。
  • $R(t_1,\dots,t_n)$:値の組が $R^M$ に属すれば、準同型の条件により $h$ で写した組は $R^N$ に属し、上の等式によりそれは $(t_1^N[h\circ s],\dots,t_n^N[h\circ s])$ である。
  • $\psi\land\chi$、$\psi\lor\chi$:帰納法の仮定からただちに従う。
  • $\exists x\,\psi$:ある $a\in M$ で $M\models\psi[s_x^a]$ とする。$h\circ s_x^a=(h\circ s)_x^{h(a)}$ なので、帰納法の仮定により $N\models\psi[(h\circ s)_x^{h(a)}]$、よって $N\models\exists x\,\psi[h\circ s]$ である。
  • $\forall x\,\psi$(2 の場合):すべての $a\in M$ で $M\models\psi[s_x^a]$ とする。$b\in N$ を任意にとると、$h$ が全射なので $b=h(a)$ となる $a$ があり、帰納法の仮定により $N\models\psi[(h\circ s)_x^{b}]$ である。よって $N\models\forall x\,\psi[h\circ s]$ である。$\square$

BS12 Chapter V §1 の Exercise 20(p. 203)は、準同型の像が正の文を満たすことを演習としている。否定の場合で帰納法が進まないのは、準同型が関係や等号の「成り立たないこと」を保たないからである。同型補題の証明では、単射性が等号の否定に、関係の逆向きの条件が関係の否定に使われていた。

群の準同型像

群の言語 $\{e,\cdot,\mathrm{inv}\}$ で、結合法則・単位元・逆元の公理はどれも $\forall$ と等式と $\land$ だけでできた正論理式である。準同型 $h\colon G\to H$ の像 $h(G)$ は $H$ の部分構造で、$h\colon G\to h(G)$ は全射準同型なので、thm-str-positive の 2 により $h(G)$ は群である。可換性 $\forall x\,\forall y\,(x\cdot y=y\cdot x)$ や「どの元も $n$ 乗すると単位元」$\forall x\,(x\cdot\cdots\cdot x=e)$ も正論理式なので、全射準同型で保たれる。一方、「位数が $n$ を割る元は単位元だけ」を表す $\forall x\,(x\cdot\cdots\cdot x=e\to x=e)$ は含意を含み、$\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n\ge2$)で保たれない。

図式の補題

$M$ を $L$ 構造とする。$M$ の各元 $a$ に新しい定数記号 $c_a$ を用意し、$L_M:=L\cup\{c_a\mid a\in M\}$ とおく。$M$ を $c_a\mapsto a$ で $L_M$ 構造に拡張したものを $M_M$ と書く。

図式

$L_M$ の文のうち、原子論理式または原子論理式の否定であって $M_M$ で真なもの全体を、$M$ の 図式(diagram)といい、$\operatorname{Diag}(M)$ と書く。

たとえば $R^M$ に属する組 $(a,b)$ について $R(c_a,c_b)$、属さない組について $\lnot R(c_a,c_b)$、$a\ne b$ について $\lnot(c_a=c_b)$、$f^M(a)=b$ について $f(c_a)=c_b$ が $\operatorname{Diag}(M)$ に入る。図式は、$M$ の演算の表と関係の表を文の形で書き出したものである。

図式の補題

$M,N$ を $L$ 構造とする。

  1. $j\colon M\to N$ が埋め込みなら、$N$ を $c_a\mapsto j(a)$ で $L_M$ 構造に拡張したもの $N_j$ は $\operatorname{Diag}(M)$ のモデルである。
  2. 逆に、$N$ の $L_M$ への拡張 $N'$ が $\operatorname{Diag}(M)$ のモデルなら、$j(a):=c_a^{N'}$ で定まる $j\colon M\to N$ は埋め込みである。
    したがって、$M$ が $N$ に埋め込めることと、$N$ を $\operatorname{Diag}(M)$ のモデルに拡張できることは同値である。

1:$\operatorname{Diag}(M)$ の文は、$L$ の原子論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ を使って $\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ または $\lnot\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ と書ける。代入補題により、$M_M\models\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ は $M\models\varphi[a_1,\dots,a_n]$ と、$N_j\models\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ は $N\models\varphi[j(a_1),\dots,j(a_n)]$ と同値である。埋め込みは原子論理式の真偽を両方向に保つ(def-str-maps の後の注意。等号は単射性、関係は両方向の条件による)ので、両者は同値であり、$\operatorname{Diag}(M)$ の文は $N_j$ でも真である。
2:$\operatorname{Diag}(M)$ の次の文を使う。

  • 定数記号 $c$:$M_M$ で $c=c_{c^M}$ は真なので $N'$ でも真で、$c^N=c_{c^M}^{N'}=j(c^M)$ である。
  • 関数記号 $f$ と $\bar a\in M^n$:$f(c_{a_1},\dots,c_{a_n})=c_{f^M(\bar a)}$ が真なので、$f^N(j(a_1),\dots,j(a_n))=j(f^M(\bar a))$ である。
  • 関係記号 $R$:$\bar a\in R^M$ なら $R(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$、そうでなければ $\lnot R(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ が $\operatorname{Diag}(M)$ に入るので、$\bar a\in R^M\iff(j(a_1),\dots,j(a_n))\in R^N$ である。
  • 単射性:$a\ne b$ なら $\lnot(c_a=c_b)$ が入るので、$j(a)\ne j(b)$ である。
    よって $j$ は埋め込みである。$\square$

2 の証明で否定を含む文を使ったのは、関係の否定と等号の否定の 2 か所だけである。否定を含まない文(正の図式)だけを満たす拡張からは、準同型しか得られない。
図式の補題とコンパクト性定理を組み合わせると、ある理論のモデルに埋め込める構造を、全称文で特徴づけられる。$\forall x_1\cdots\forall x_n\,\psi$($\psi$ は量化記号を含まない)の形の文を 全称文 といい、$L$ の文の集合 $T$ の論理的帰結である全称文の全体を $T_\forall$ と書く。

理論のモデルに埋め込める構造

$T$ を $L$ の文の集合、$M$ を $L$ 構造とする。$M\models T_\forall$ であることと、$M$ が $T$ のあるモデルに埋め込めることは同値である。

$M$ が $T$ のモデル $N$ に埋め込めるとする。$\forall\bar x\,\psi\in T_\forall$ は $N$ で真であり、埋め込みは量化記号を含まない論理式の真偽を保つ(初等埋め込み の記事の命題「埋め込みが保つ式」の (i))ので、$M$ の元をどう割り当てても $\psi$ は $M$ で真である。
逆に $M\models T_\forall$ とし、$T\cup\operatorname{Diag}(M)$ がモデルをもたないと仮定する。コンパクト性定理(一階論理) により、有限個の $\delta_1,\dots,\delta_m\in\operatorname{Diag}(M)$ で $T\cup\{\delta_1,\dots,\delta_m\}$ がモデルをもたないものがある。$\delta_1\land\cdots\land\delta_m$ に現れる新しい定数を $c_{a_1},\dots,c_{a_k}$($a_i$ は相異なる)とし、それを新しい変数に置き換えた論理式を $\theta(x_1,\dots,x_k)$ と書く。$\theta$ は量化記号を含まない $L$ の論理式である。$T$ の任意のモデル $N$ と $b_1,\dots,b_k\in N$ をとり、$N$ を $c_{a_i}\mapsto b_i$(ほかの $c_a$ は任意の元)で $L_M$ 構造 $N'$ に拡張する。$N'$ は $T$ のモデルである($L$ の文の真偽は簡約で変わらない)から、$\delta_1\land\cdots\land\delta_m$ は $N'$ で偽であり、代入補題により $N\models\lnot\theta[b_1,\dots,b_k]$ である。よって $\forall\bar x\,\lnot\theta\in T_\forall$ で、$M\models\lnot\theta[a_1,\dots,a_k]$ となる。ところが $\delta_i$ は $M_M$ で真なので $M\models\theta[a_1,\dots,a_k]$ であり、矛盾する。
したがって $T\cup\operatorname{Diag}(M)$ はモデル $N'$ をもち、thm-str-diagram-lemma の 2 により $M$ は $N'|_L$ に埋め込める。$N'|_L$ は $T$ のモデルである。$\square$

たとえば $T$ を環の言語 $\{0,1,+,-,\cdot\}$ での体の公理とする。整域の公理(可換環の公理、$0\ne1$、$\forall x\,\forall y\,(x\cdot y=0\to x=0\lor y=0)$)はどれも全称文で、体で真なので $T_\forall$ に属する。逆に整域は商体に埋め込める。系と合わせると、$T_\forall$ のモデルはちょうど整域であることが分かる。

構造の鎖の和

構造の鎖と和

$(I,\le)$ を空でない全順序集合とし、$L$ 構造の族 $(M_i)_{i\in I}$ が $i\le j$ なら $M_i\subset M_j$(部分構造)を満たすとき、構造の鎖 という。和集合 $M:=\bigcup_{i\in I}M_i$ を台集合とし、$c^M:=c^{M_i}$、$f^M(\bar a):=f^{M_i}(\bar a)$($\bar a\in M_i^n$ となる $i$ をとる)、$R^M:=\bigcup_{i\in I}R^{M_i}$ と定めた $L$ 構造を、鎖の 和 という。

$M$ の元の有限個の組 $\bar a$ は、各成分の属する $M_i$ のうち添字が最大のものにまとめて属する。部分構造の鎖なので $c^{M_i}$ は $i$ によらず、$f^{M_i}(\bar a)$ と $R^{M_i}\cap M_i^n$ は $\bar a$ を含むどの $M_i$ で計算しても同じである。よって和は矛盾なく定まり、各 $M_i$ は $M$ の部分構造である。
$\forall x_1\cdots\forall x_m\,\exists y_1\cdots\exists y_n\,\psi$($\psi$ は量化記号を含まない)の形の文を $\forall\exists$ 文 という。

鎖の和は $\forall\exists$ 文を保つ

構造の鎖 $(M_i)_{i\in I}$ のすべての $M_i$ で $\forall\exists$ 文 $\sigma$ が真なら、和 $M$ でも $\sigma$ は真である。

$\sigma=\forall\bar x\,\exists\bar y\,\psi(\bar x,\bar y)$ とし、$\bar a\in M^m$ を任意にとる。上の注意により $\bar a\in M_i^m$ となる $i$ がある。$M_i\models\sigma$ なので、ある $\bar b\in M_i^n$ で $M_i\models\psi[\bar a,\bar b]$ である。包含写像 $M_i\to M$ は埋め込みで、埋め込みは量化記号を含まない論理式の真偽を保つ(初等埋め込み の記事の命題「埋め込みが保つ式」の (i))ので、$M\models\psi[\bar a,\bar b]$ である。よって $M\models\exists\bar y\,\psi[\bar a]$ で、$\bar a$ は任意だったので $M\models\sigma$ である。$\square$

群・環・体の公理は $\forall\exists$ 文で書ける(体の逆元の公理は $\forall x\,\exists y\,(x=0\lor x\cdot y=1)$)。代数閉体の公理「次数 $n$ のモニック多項式は根をもつ」も、$n$ ごとに $\forall a_0\cdots\forall a_{n-1}\,\exists y\,(y^n+a_{n-1}y^{n-1}+\cdots+a_0=0)$ という $\forall\exists$ 文である。したがって、群の鎖の和は群、体の鎖の和は体、代数閉体の鎖の和は代数閉体である。BS12 Chapter V §1 の Exercise 24・25(p. 203)が同じ主張を演習としている。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
準同型が全射1 元の構造から 2 元の構造への写像(言語は空)正論理式 $\forall x\,\forall y\,(x=y)$ の保存
論理式が正(否定を含まない)群 $\mathbb{Z}$ から自明な群への準同型$\exists x\,\lnot(x=e)$ の保存
図式に否定の原子文を入れる2 元の集合の正の図式を 1 元の集合で満たす図式から得られる写像が単射であること
文が $\forall\exists$ の形鎖 $(\{0,1,\dots,n\},<)$ と和 $(\mathbb{N},<)$$\exists x\,\forall y\,(y< x\lor y=x)$ の保存
$A$ が空でないか定数記号がある言語 $\{f\}$ の $(\mathbb{Z},n\mapsto n+1)$ で $A=\emptyset$最小の部分構造の存在
反例の確かめ

1 行目:等号だけの言語(記号のない言語)で、$M=\{0\}$、$N=\{0,1\}$、$h(0)=0$ とする。関係も関数もないので $h$ は準同型(しかも埋め込み)で、$M\models\forall x\,\forall y\,(x=y)$ だが $N$ では偽である。全射でないと $\forall$ の場合が使えない。
2 行目:群の言語で $h\colon\mathbb{Z}\to\{e\}$ は全射準同型である。$\mathbb{Z}\models\exists x\,\lnot(x=e)$($x=1$)だが、自明な群では偽である。否定を含む論理式は全射準同型でも保たれない。
3 行目:記号のない言語で $M=\{a,b\}$($a\ne b$)、$N=\{0\}$ とする。$N$ を $c_a,c_b\mapsto0$ で拡張すると、否定を含まない $\operatorname{Diag}(M)$ の文($c_a=c_a$ と $c_b=c_b$)はすべて真だが、$\lnot(c_a=c_b)$ は偽である。得られる写像 $a,b\mapsto0$ は単射でない。
4 行目:$M_n=(\{0,1,\dots,n\},<)$ は通常の順序の構造の鎖で、和は $(\mathbb{N},<)$ である。$\exists x\,\forall y\,(y< x\lor y=x)$(最大元がある)は各 $M_n$ で $x=n$ により真だが、$\mathbb{N}$ では偽である。この文は $\exists\forall$ の形で、thm-str-chain の形でない。
5 行目は thm-str-generated の後の注意で確かめた。

4 行目と対照的に、初等部分モデル の記事の定理「初等鎖の和」では、各段が初等部分モデルであることを仮定するので、形を制限せずすべての文が和に伝わる。

関連項目

参考文献

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