Kleinの四元群

同義語:Klein four-groupKlein四元群クラインの四元群Vierergruppe

概要

Kleinの四元群(Klein four-group)とは、二元巡回群二つの直積 $V_4=C_2\times C_2$ である。本記事では四元の具体表示から、三つの非単位元がすべて位数2であること、可換だが巡回群でないこと、位数4の群が $C_4$ か $V_4$ に同型であること、三つの位数2部分群と菱形の部分群束を証明する。長方形の対称性、$S_4$ の正規部分群、低次数の二面体群、双二次拡大の自己同型群としての実現も示す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 部分群, 巡回群

定義

Klein の四元群は、二つの二元巡回群の直積として得られる非巡回アーベル群である。

Klein の四元群

二元巡回群を $C_2=\mathbb Z/2\mathbb Z$ とする。直積群
$$ V_4:=C_2\times C_2 $$
を Klein の四元群(Klein four-group)という。$V_4$ は群を表す記号であり、別名として Klein 四元群、Vierergruppe も用いられる。

基本構造

位数と非単位元

$V_4$ の位数(群)は $4$ であり、三つの非単位元はすべて位数 $2$ である。

四元を列挙する

$V_4$ の元は
$$ (0,0),\quad (1,0),\quad (0,1),\quad (1,1) $$
の四つであり、演算は各座標での法 $2$ の加法である。非単位元 $(a,b)$ では $(a,b)+(a,b)=(0,0)$ であるから、その位数は $2$ である。

可換性

$V_4$ は可換群である。

座標ごとの可換性

法 $2$ の加法は可換であり、直積の演算は座標ごとに行うので、任意の二元の和は順序を入れ替えても変わらない。

非巡回性

$V_4$ は巡回群ではない。

元の位数による判定

もし位数 $4$ の群 $V_4$ が一元で生成されるなら、その生成元の位数は $4$ である(巡回群の分類により)。しかし prop-klein-orders により、どの非単位元の位数も $2$ である。したがって $V_4$ は巡回群ではない。

位数4の群の分類

位数 $4$ の群は $C_4$ か $V_4$ に同型である。

位数 $4$ の群 $G$ が位数 $4$ の元をもてば、$G$ はその元で生成される巡回群であり、$C_4$ と同型である。そうでなければ、Lagrangeの定理により非単位元の位数は $4$ の約数のうち $1$ を除いたもの、すなわち $2$ か $4$ に限られるので、位数 $4$ の元がないという仮定からすべての非単位元の位数は $2$ である。このとき相異なる非単位元 $a,b$ に対して $ab\notin\{e,a,b\}$ である。実際 $ab=e$ なら $b=a^{-1}=a$ となり $a\neq b$ に反し、$ab=a$ または $ab=b$ なら消去して $b=e$ または $a=e$ となり非単位元であることに反する。したがって $G=\{e,a,b,ab\}$ の乗積表は $V_4$ の乗積表と一致し、$G\cong V_4$ である。

$S_4$ の正規部分群としての実現

$S_4$ の部分集合 $\{e,(12)(34),(13)(24),(14)(23)\}$ は $V_4$ と同型な部分群であり、$S_4$ の正規部分群である。実際、$S_4$ の共役は互換の積の型(互いに素な二つの互換の積)を保つので、この四元集合は共役で閉じている。

部分群と部分群束

$V_4$ の部分群は
$$ \{(0,0)\},\quad H_1=\{(0,0),(1,0)\},\quad H_2=\{(0,0),(0,1)\},\quad H_3=\{(0,0),(1,1)\},\quad V_4 $$
の五つに限る。とくに、位数 $2$ の部分群は $H_1,H_2,H_3$ の三つである。

非単位元で場合分けする

各 $H_i$ は単位元と一つの位数 $2$ の元からなり、演算と逆元について閉じているので部分群である。部分群 $H$ が非単位元 $x$ を一つだけ含むなら、$H=\{(0,0),x\}$ である。異なる二つの非単位元を含むなら、その和は残りの非単位元であるため、$H$ は四元をすべて含んで $H=V_4$ となる。したがって、これ以外の部分群はない。

包含関係では、自明な部分群の上に $H_1,H_2,H_3$ が互いに比較不能な形で並び、その上に $V_4$ がある。この菱形が $V_4$ の部分群束である。

具体的な現れ方

長方形の対称性

正方形でない長方形を自分自身へ移す平面合同変換は、恒等変換、$180$ 度回転、横軸に関する反射、縦軸に関する反射の四つである。恒等変換以外を二回行うと恒等変換になり、どの二つも交換する。二つの軸に関する反射の合成は $180^\circ$ 回転に等しいので、恒等変換、横軸の反射、縦軸の反射、$180^\circ$ 回転をそれぞれ $(0,0),(1,0),(0,1),(1,1)$ に対応させると演算が保たれ、この対称性群は $V_4$ と同型である。

二面体群の低次数

正多角形の幾何学的定義は $n\geq3$ で用いる一方、生成元と関係式による二面体群は $n=2$ でも定義できる。抽象的な二面体群 $\operatorname{Dih}_2$ と $V_4$ の同型は、二面体群 の記事の $\operatorname{Dih}_2$ と Klein の四元群の命題で証明されている。

双二次拡大の自己同型

$\mathbb Q(\sqrt2,\sqrt3)$ という双二次拡大の $\mathbb Q$ 上の自己同型は、$\sqrt2$ と $\sqrt3$ の符号をそれぞれ独立に選んで定まる四つの写像である。写像の合成は二つの符号を座標ごとに掛ける演算なので、この自己同型群(Galois群)は $V_4$ と同型である。

巡回四元群との違い

$C_4$ も位数 $4$ の可換群だが、位数 $4$ の元をもつので $V_4$ と同型ではない。したがって「位数 $4$ の可換群なら $V_4$ と同型である」という含意は破れる。破れている条件は、すべての非単位元の位数が $2$ であることだ。位数 $4$ の群の分類は本記事のprop-klein-order-four-classificationで扱った。上の双二次拡大の例は DF04 §14.2 を参照した。

「四元」という語が共通していても、Klein の四元群 $V_4$、四元数群 $Q_8$、四元数体 $\mathbb H$ は別の対象である。$V_4$ は四元をもつ可換群、$Q_8$ は八元をもつ非可換群、$\mathbb H$ は実数体上四次元の多元環である。
群の直積と有限群の標準例について DF04 を参照した。

関連項目

参考文献

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