Gromov-Hausdorff距離

同義語:Gromov-Hausdorff distance

概要

Gromov-Hausdorff距離(Gromov–Hausdorff distance)とは、二つの距離空間 $X,Y$ を共通の距離空間 $Z$ に等長に埋め込んだときの Hausdorff 距離 $d_H(f(X),g(Y))$ の、あらゆる $Z$ と埋め込みにわたる下限 $d_{GH}(X,Y)$ のことである。外側の空間によらずに距離空間そのものの近さを測る量であり、$X$ と $Y$ の間の対応 $R\subset X\times Y$ の歪み $\sup|d_X(x,x')-d_Y(y,y')|$ の下限の半分に等しい。コンパクト距離空間の等長類の全体の上では距離になり、Gromov のプレコンパクト性定理により、一様に全有界な族はこの距離についてプレコンパクトである。リーマン多様体の族の収束と極限空間の研究の基礎となる。

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前提知識: 距離空間, Hausdorff距離, 等長写像, コンパクト空間, 上限, 下限

定義

以下、$(X,d_X)$、$(Y,d_Y)$ は空でない距離空間とし、文脈から明らかなときは距離をどれも $d$ と書く。距離空間 $Z$ の空でない部分集合 $A$ と点 $z\in Z$ に対し $d(z,A):=\inf_{a\in A}d(z,a)$ とおく。

部分集合の間の Hausdorff 距離

距離空間 $(Z,d)$ の空でない部分集合 $A,B$ に対し、
$$d_H(A,B):=\max\Bigl\{\sup_{a\in A}d(a,B),\ \sup_{b\in B}d(b,A)\Bigr\}\in[0,\infty]$$
を $A$ と $B$ の Hausdorff 距離(Hausdorff distance)という(Hausdorff距離)。$r\ge0$ について、$d_H(A,B)\le r$ であることは、任意の $a\in A$ について $d(a,B)\le r$ かつ任意の $b\in B$ について $d(b,A)\le r$ であることと同値である($d_H(A,B)< r$ ならば各 $a\in A$ に対し $d(a,b)< r$ なる $b\in B$ が存在する)。$d_H$ は $Z$ の空でない部分集合全体の上では拡張擬距離であり(異なる集合の間で $0$ になりうる。たとえば $A$ と閉包 $\overline{A}$。また $\infty$ にもなりうる)、空でない有界な閉集合全体の上では距離になる。

等長埋め込みと等長写像

写像 $f\colon X\to Z$ が等長埋め込み(isometric embedding)であるとは、任意の $x,x'\in X$ について $d_Z(f(x),f(x'))=d_X(x,x')$ が成り立つことをいう。等長埋め込みは単射である。全射な等長埋め込みを等長写像(isometry)といい(等長写像)、$X$ と $Y$ の間に等長写像が存在するとき $X$ と $Y$ は等長(isometric)であるという。等長は距離空間の間の同値関係であり、その同値類を等長類という。

Gromov–Hausdorff 距離

距離空間 $X,Y$ の Gromov–Hausdorff 距離(Gromov–Hausdorff distance)を
$$d_{GH}(X,Y):=\inf\bigl\{d_H(f(X),g(Y))\bigm|(Z,d_Z)\text{ は距離空間},\ f\colon X\to Z,\ g\colon Y\to Z\text{ は等長埋め込み}\bigr\}\in[0,\infty]$$
で定義する。すなわち、$X$ と $Y$ を共通の距離空間 $Z$ の中に等長に埋め込んだときの Hausdorff 距離の下限(あらゆる $Z$ と埋め込みにわたる)である。

$X$ と $X'$ が等長で $Y$ と $Y'$ が等長ならば、等長写像と等長埋め込みを合成することにより $d_{GH}(X,Y)=d_{GH}(X',Y')$ である。したがって $d_{GH}$ は等長類の間で定義された量である。

対応と歪み

集合 $X,Y$ の間の対応(correspondence)とは、部分集合 $R\subset X\times Y$ であって、任意の $x\in X$ に対し $(x,y)\in R$ となる $y\in Y$ が存在し、任意の $y\in Y$ に対し $(x,y)\in R$ となる $x\in X$ が存在するもののことである。距離空間 $X,Y$ の間の対応 $R$ の歪み(distortion)を
$$\operatorname{dis}R:=\sup\bigl\{|d_X(x,x')-d_Y(y,y')|\bigm|(x,y),(x',y')\in R\bigr\}\in[0,\infty]$$
で定義する。

直感

Hausdorff 距離は、同じ空間の中に置かれた二つの図形の「ずれ」を測る。Gromov–Hausdorff 距離は、別々に与えられた二つの距離空間を「最も都合よく重ね合わせたとき」の Hausdorff 距離であり、外側の空間に依存しない、距離空間そのものの間の近さを測る。$d_{GH}(X,Y)$ が小さいことは、$X$ の各点に $Y$ の点を、$Y$ の各点に $X$ の点を対応させて、対応する点どうしの距離がほとんど保たれるようにできること(歪みの小さい対応があること)と同じである(prop-gromov-hausdorff-correspondence)。この見方により、距離空間の列の収束(Gromov–Hausdorff 収束)や、リーマン幾何学における多様体の族のコンパクト性を、等長類の空間の中の位相の言葉で扱えるようになる。

例と反例

一点との距離

$X$ を有界な距離空間、$P=\{p\}$ を一点空間とすると $d_{GH}(X,P)=\tfrac12\operatorname{diam}X$ である($\operatorname{diam}X:=\sup_{x,x'\in X}d(x,x')$ は $X$ の直径)。実際、$X$ と $P$ の間の対応は $R=X\times P$ しかなく、その歪みは $\sup_{x,x'}|d(x,x')-0|=\operatorname{diam}X$ なので、prop-gromov-hausdorff-correspondence から従う。

閉区間の間の距離

$a,b>0$ に対し、閉区間 $[0,a]$ と $[0,b]$(通常の距離)について $d_{GH}([0,a],[0,b])=\tfrac12|a-b|$ である。実際、対応 $R:=\{(t,\,tb/a)\mid t\in[0,a]\}$ の歪みは $\sup_{s,t}|\,|s-t|-|s-t|\,b/a\,|=a\,|1-b/a|=|a-b|$ なので $d_{GH}\le\tfrac12|a-b|$ であり、逆向きの不等式は prop-gromov-hausdorff-diameter による。同様に、有界な距離空間 $X$ と、距離を $\lambda>0$ 倍した空間 $\lambda X:=(X,\lambda d_X)$ について、恒等写像のグラフ $\{(x,x)\}$ を対応にとると $d_{GH}(X,\lambda X)\le\tfrac12|1-\lambda|\operatorname{diam}X$ である。

有限集合による近似と潰れる方向
  1. $X$ をコンパクト距離空間(コンパクト空間)、$\varepsilon>0$ とし、$S\subset X$ を有限な $\varepsilon$-ネット($X$ の各点から距離 $\varepsilon$ 以下に $S$ の点がある有限集合。全有界性により存在する)とする。$R:=\{(x,s)\in X\times S\mid d(x,s)\le\varepsilon\}$ は対応であり、三角不等式から $\operatorname{dis}R\le2\varepsilon$ なので $d_{GH}(X,S)\le\varepsilon$ である。したがって、どのコンパクト距離空間も有限距離空間の Gromov–Hausdorff 極限である。
  2. $X,Y$ を有界な距離空間とし、直積 $X\times Y$ に距離 $d((x,y),(x',y')):=\sqrt{d_X(x,x')^2+d_Y(y,y')^2}$ を入れる。対応 $R:=\{((x,y),x)\}$ の歪みは $\sup\bigl(\sqrt{d_X(x,x')^2+d_Y(y,y')^2}-d_X(x,x')\bigr)\le\operatorname{diam}Y$ なので、$d_{GH}(X\times Y,X)\le\tfrac12\operatorname{diam}Y$ である。たとえば円柱 $S^1\times[0,\varepsilon]$ は $\varepsilon\to0$ で円周 $S^1$ に Gromov–Hausdorff 収束する(次元が下がる「潰れ」)。
反例:コンパクトでない空間では距離 $0$ でも等長でない

開区間 $X=(0,1)$ と閉区間 $Y=[0,1]$ について、$Z=\mathbb{R}$ への包含写像を等長埋め込みにとると $d_H((0,1),[0,1])=0$ なので $d_{GH}(X,Y)=0$ である。しかし $Y$ はコンパクトで $X$ はコンパクトでないので、$X$ と $Y$ は同相写像で結ばれず、特に等長でない。より一般に、距離空間 $X$ とその完備化 $\overline{X}$ について $d_{GH}(X,\overline{X})=0$ である。この例は「Gromov–Hausdorff 距離が $0$」を満たし「等長」を満たさず、thm-gromov-hausdorff-metric の非退化性におけるコンパクト性の仮定が落とせないことを示す。

性質

対応による特徴付け

空でない距離空間 $X,Y$ について
$$d_{GH}(X,Y)=\frac12\inf\{\operatorname{dis}R\mid R\text{ は }X\text{ と }Y\text{ の間の対応}\}$$
が成り立つ。

$\ge$:$d_{GH}(X,Y)< r$ とし、距離空間 $Z$ と等長埋め込み $f\colon X\to Z$、$g\colon Y\to Z$ で $d_H(f(X),g(Y))< r$ となるものをとる。$X,Y$ をそれぞれ $f(X),g(Y)$ と同一視し、$R:=\{(x,y)\in X\times Y\mid d_Z(x,y)< r\}$ とおく。$d_H(X,Y)< r$ により各 $x$ に対し $d_Z(x,y)< r$ となる $y$ があり、各 $y$ に対しても同様なので、$R$ は対応である。$(x,y),(x',y')\in R$ に対し、三角不等式から
$$d_X(x,x')=d_Z(x,x')\le d_Z(x,y)+d_Z(y,y')+d_Z(y',x')< d_Y(y,y')+2r$$
であり、同様に $d_Y(y,y')< d_X(x,x')+2r$ なので $\operatorname{dis}R\le2r$ である。よって $\tfrac12\inf_R\operatorname{dis}R\le r$ であり、$r>d_{GH}(X,Y)$ は任意なので $\tfrac12\inf_R\operatorname{dis}R\le d_{GH}(X,Y)$ を得る。
$\le$:$R$ を対応とし、$\operatorname{dis}R<\infty$ としてよい。$r>\tfrac12\operatorname{dis}R$ を任意にとる。非交和 $Z:=X\sqcup Y$ の上に、$X$ の二点、$Y$ の二点の間ではもとの距離を、$x\in X$、$y\in Y$ の間では
$$d(x,y)=d(y,x):=\inf\{d_X(x,x')+r+d_Y(y',y)\mid(x',y')\in R\}$$
を与える。$d(x,y)\ge r>0$ であり、$d$ が三角不等式を満たすことを確かめる。三点のうち二点が同じ側にある場合、たとえば $x,x''\in X$、$y\in Y$ について $d(x,y)\le d(x,x'')+d(x'',y)$ は、$d(x'',y)$ を定める下限の各項に三角不等式 $d_X(x,x')\le d_X(x,x'')+d_X(x'',x')$ を用いれば従う。残るのは $d_X(x,x'')\le d(x,y)+d(y,x'')$ の形の不等式(および $X,Y$ を入れ替えたもの)である。$\varepsilon>0$ に対し $(x',y'),(x''',y''')\in R$ を $d(x,y)+\varepsilon\ge d_X(x,x')+r+d_Y(y',y)$、$d(y,x'')+\varepsilon\ge d_Y(y,y''')+r+d_X(x''',x'')$ となるようにとると、
\begin{align*} d(x,y)+d(y,x'')+2\varepsilon &\ge d_X(x,x')+d_X(x''',x'')+2r+d_Y(y',y)+d_Y(y,y''')\\ &\ge d_X(x,x')+d_X(x''',x'')+2r+d_Y(y',y''')\\ &\ge d_X(x,x')+d_X(x''',x'')+2r+d_X(x',x''')-\operatorname{dis}R\\ &\ge d_X(x,x'') \end{align*}
となる(最後から二つ目で $|d_X(x',x''')-d_Y(y',y''')|\le\operatorname{dis}R$、最後で $2r\ge\operatorname{dis}R$ と三角不等式を用いた)。$\varepsilon$ は任意なので三角不等式が成り立ち、$(Z,d)$ は距離空間で、包含写像 $X\to Z$、$Y\to Z$ は等長埋め込みである。各 $x\in X$ に対し $(x,y)\in R$ となる $y$ をとると $d(x,y)\le r$ であり、各 $y$ についても同様なので $d_H(X,Y)\le r$、したがって $d_{GH}(X,Y)\le r$ である。$r>\tfrac12\operatorname{dis}R$ と $R$ は任意なので $d_{GH}(X,Y)\le\tfrac12\inf_R\operatorname{dis}R$ を得る。$\square$

直径の評価

有界な距離空間 $X,Y$ について
$$\tfrac12\,|\operatorname{diam}X-\operatorname{diam}Y|\le d_{GH}(X,Y)\le\tfrac12\max\{\operatorname{diam}X,\operatorname{diam}Y\}<\infty.$$

右側:$R:=X\times Y$ は対応であり、$|d_X(x,x')-d_Y(y,y')|\le\max\{d_X(x,x'),d_Y(y,y')\}\le\max\{\operatorname{diam}X,\operatorname{diam}Y\}$ なので、prop-gromov-hausdorff-correspondence から従う。左側:任意の対応 $R$ と $x,x'\in X$ に対し、$(x,y),(x',y')\in R$ となる $y,y'$ をとると $d_X(x,x')\le d_Y(y,y')+\operatorname{dis}R\le\operatorname{diam}Y+\operatorname{dis}R$ であり、$x,x'$ について上限をとると $\operatorname{diam}X\le\operatorname{diam}Y+\operatorname{dis}R$ である。$X,Y$ を入れ替えて $|\operatorname{diam}X-\operatorname{diam}Y|\le\operatorname{dis}R$ を得るので、prop-gromov-hausdorff-correspondence から左側が従う。$\square$

対応の合成

$R_1$ を $X$ と $Y$ の間の対応、$R_2$ を $Y$ と $Z$ の間の対応とし、
$$R_2\circ R_1:=\{(x,z)\in X\times Z\mid\text{ある }y\in Y\text{ について }(x,y)\in R_1,\ (y,z)\in R_2\}$$
とおく。このとき $R_2\circ R_1$ は $X$ と $Z$ の間の対応であり、$\operatorname{dis}(R_2\circ R_1)\le\operatorname{dis}R_1+\operatorname{dis}R_2$ が成り立つ。

$x\in X$ に対し $(x,y)\in R_1$ となる $y$、次いで $(y,z)\in R_2$ となる $z$ をとれば $(x,z)\in R_2\circ R_1$ である。$z\in Z$ についても同様なので $R_2\circ R_1$ は対応である。$(x,z),(x',z')\in R_2\circ R_1$ に対し、仲介する $y,y'$ をとると
$$|d_X(x,x')-d_Z(z,z')|\le|d_X(x,x')-d_Y(y,y')|+|d_Y(y,y')-d_Z(z,z')|\le\operatorname{dis}R_1+\operatorname{dis}R_2$$
である。$\square$

コンパクト距離空間の等長埋め込み

$X$ をコンパクト距離空間とする。等長埋め込み $h\colon X\to X$ は全射、したがって等長写像である。

$x\in X\setminus h(X)$ が存在したとする。$h$ は連続写像で $X$ はコンパクトなので $h(X)$ はコンパクト、特に閉集合であり、$\varepsilon:=d(x,h(X))>0$ である。$x_0:=x$、$x_{k+1}:=h(x_k)$ とおくと、$i< j$ に対し $d(x_i,x_j)=d(h^i(x),h^{j}(x))=d(x,h^{j-i}(x))\ge\varepsilon$ である($h^{j-i}(x)\in h(X)$)。よって点列 $(x_k)$ は収束する部分列をもたず、$X$ が点列コンパクトであることに反する。$\square$

等長類の上の距離

$d_{GH}$ は次を満たす。

  1. 対称性:$d_{GH}(X,Y)=d_{GH}(Y,X)$。
  2. 三角不等式:$d_{GH}(X,Z)\le d_{GH}(X,Y)+d_{GH}(Y,Z)$。
  3. 非退化性:$X,Y$ がコンパクト距離空間で $d_{GH}(X,Y)=0$ ならば、$X$ と $Y$ は等長である。
    したがって、コンパクト距離空間の等長類全体の集合 $\mathcal{M}$ の上で $d_{GH}$ は有限な値をとる距離である。

1 は定義から明らかである。2:prop-gromov-hausdorff-correspondence により、$X,Y$ の間の対応 $R_1$ と $Y,Z$ の間の対応 $R_2$ に対し、lem-gromov-hausdorff-composition から $d_{GH}(X,Z)\le\tfrac12\operatorname{dis}(R_2\circ R_1)\le\tfrac12\operatorname{dis}R_1+\tfrac12\operatorname{dis}R_2$ であり、$R_1,R_2$ について下限をとればよい。
3:prop-gromov-hausdorff-correspondence により、対応の列 $R_k$ で $\operatorname{dis}R_k\to0$ となるものがある。コンパクト距離空間は可分空間なので、$X$ の稠密な可算部分集合 $S=\{s_1,s_2,\dots\}$ をとる。各 $k$ と $i$ に対し $(s_i,f_k(s_i))\in R_k$ となる $f_k(s_i)\in Y$ を選ぶ。$Y$ がコンパクト(点列コンパクト)なので、対角線論法により、部分列 $(k_m)$ で、すべての $i$ について $f_{k_m}(s_i)$ が $m\to\infty$ で収束するものがとれる。その極限を $f(s_i)$ とおく。$|d_Y(f_k(s_i),f_k(s_j))-d_X(s_i,s_j)|\le\operatorname{dis}R_k\to0$ と距離の連続性から $d_Y(f(s_i),f(s_j))=d_X(s_i,s_j)$、すなわち $f\colon S\to Y$ は等長埋め込みである。
$f$ を $X$ 全体に延ばす。$x\in X$ に対し $S$ の点列 $t_m\to x$ をとると、$d_Y(f(t_m),f(t_l))=d_X(t_m,t_l)$ から $(f(t_m))$ は Cauchy列であり、コンパクト距離空間 $Y$ は完備距離空間なので収束する。極限は $x$ に収束する $S$ の点列のとり方によらない(二つの列を交互に並べた列も $x$ に収束するから)ので、それを $f(x)$ とおく。距離の連続性から $d_Y(f(x),f(x'))=d_X(x,x')$ であり、$f\colon X\to Y$ は等長埋め込みである。
$X$ と $Y$ の役割を入れ替えて等長埋め込み $g\colon Y\to X$ を得る。$g\circ f\colon X\to X$ は等長埋め込みなので、lem-gromov-hausdorff-surjective により全射であり、したがって $g$ は全射である。等長埋め込みは単射なので $g$ は全単射な等長埋め込み、すなわち等長写像である。
最後の主張:prop-gromov-hausdorff-diameter により $\mathcal{M}$ 上で $d_{GH}$ は有限であり、等長類の上で well-defined であることは定義の直後に述べた。1〜3 と、等長な空間の距離が $0$ であること(等長写像で $Z=Y$ に埋め込めばよい)から、$d_{GH}$ は $\mathcal{M}$ 上の距離である。$\square$

等長類の「集合」について

コンパクト距離空間は可分なので、その濃度は連続体濃度以下である。したがって、固定した集合(たとえば $\mathbb{R}$)の部分集合の上の距離だけを考えれば各等長類の代表がとれ、$\mathcal{M}$ は集合として定まる。

補足

Gromov–Hausdorff 収束

コンパクト距離空間の列 $(X_k)_{k\in\mathbb{N}}$ がコンパクト距離空間 $X$ に Gromov–Hausdorff 収束(Gromov–Hausdorff convergence)するとは、$d_{GH}(X_k,X)\to0$($k\to\infty$)となることをいう。thm-gromov-hausdorff-metric により極限は等長を除いて一意である。

Gromov のプレコンパクト性定理

コンパクト距離空間の等長類の族 $\mathfrak{X}\subset\mathcal{M}$ について、次は同値である。

  1. $\mathfrak{X}$ は $(\mathcal{M},d_{GH})$ においてプレコンパクト(全有界、閉包がコンパクト)である。
  2. $\mathfrak{X}$ は一様に全有界である:ある $D>0$ が存在してすべての $X\in\mathfrak{X}$ について $\operatorname{diam}X\le D$ であり、任意の $\varepsilon>0$ に対しある $N(\varepsilon)\in\mathbb{N}$ が存在して、すべての $X\in\mathfrak{X}$ が高々 $N(\varepsilon)$ 個の点からなる $\varepsilon$-ネットをもつ。
    また距離空間 $(\mathcal{M},d_{GH})$ は完備である。
出典と応用

thm-gromov-hausdorff-precompactness の証明は BBI01 §7.4 に、$(\mathcal{M},d_{GH})$ の完備性は同書 §7.3–§7.4 に譲る。逆(プレコンパクトならば一様全有界であること)は、$\varepsilon/3$-被覆の各代表空間の $\varepsilon/3$-ネットを対応で移せば $\varepsilon$-ネットが得られることから従う。thm-gromov-hausdorff-metric の非退化性も同書 Theorem 7.3.30 にあり、本記事の証明はそれに従った。Gromov–Hausdorff 距離を導入したのは M. Gromov であり、その動機はリーマン多様体の族に対するコンパクト性定理であった:次元 $n$、直径の上界 $D$、Ricci 曲率(リッチテンソル)の下界 $(n-1)\kappa$ を固定すると、これらを満たす閉リーマン多様体の族は、Bishop-Gromovの体積比較定理により一様に全有界であり、したがって $(\mathcal{M},d_{GH})$ でプレコンパクトである(Pet16 Chapter 11、BBI01 §7.4)。極限空間は一般には多様体でなく、ex-gromov-hausdorff-approximation の 2 のように次元が下がる「潰れ」も起こる。極限空間の構造(Alexandrov空間、Ricci極限空間)の研究がここから展開する。コンパクトでない空間の列には、基点を固定した「基点付き Gromov–Hausdorff 収束」を用いる(BBI01 §8.1)。

関連項目

参考文献

[1]
Dmitri Burago, Yuri Burago, Sergei Ivanov, A Course in Metric Geometry, Graduate Studies in Mathematics 33, 1st ed., American Mathematical Society, 2001, §7.3(Gromov–Hausdorff 距離、Theorem 7.3.25・Theorem 7.3.30)、§7.4(Gromov–Hausdorff 収束、Theorem 7.4.15)、§8.1(基点付き収束)
[2]
Peter Petersen, Riemannian Geometry, Graduate Texts in Mathematics 171, 3rd ed., Springer, 2016, Chapter 11(Convergence:Gromov–Hausdorff 収束と Ricci 曲率の下界によるプレコンパクト性)

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