Adams演算

同義語:Adams operationAdams作用素

概要

Adams演算(Adams operation)とは、pre-λ環 $R$ で $-t\frac{d}{dt}\log\lambda_{-t}(x)=\sum_k\psi^k(x)t^k$ の係数として定める演算 $\psi^k\colon R\to R$ である。λ演算を基本対称式とみたとき冪和に当たり、線元 $\ell$ には $\psi^k(\ell)=\ell^k$ と働く。λ環では $\psi^k$ は環準同型で、$\psi^k\psi^l=\psi^{kl}$ と、素数 $p$ について $\psi^p(x)\equiv x^p\pmod{pR}$ を満たす。表現環では指標を $\chi(g)\mapsto\chi(g^k)$ に変え、位相的 K 理論では $\widetilde K(S^{2n})$ に $k^n$ 倍で働いて、Hopf 不変量 1 の問題に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: λ環, Newtonの恒等式, 対称多項式, 位相的K理論

λ環の元を「線元 $\ell_1,\dots,\ell_N$ の和」とみなすと、外冪の演算 $\lambda^n$ は基本対称式 $e_n(\ell_1,\dots,\ell_N)$ に当たる。これに対し、冪和 $\ell_1^k+\cdots+\ell_N^k$ に当たる演算が Adams 演算 $\psi^k$ である。基本対称式は和と積の両立が複雑だが、冪和は和を和に、積を積に送る。このため Adams 演算は、λ環の上で環準同型になり、$\psi^k\psi^l=\psi^{kl}$ を満たす。J. F. Adams は 1962 年に球面上のベクトル場の問題でこの演算を導入した(Wei13 p. 28)。この記事では、定義と基本性質を述べ、λ環の上での主定理を普遍多項式の恒等式に帰着させて証明し、表現環と位相的 K 理論での計算と応用を示す。

準備

環はすべて単位元をもつ可換環とし、記号は λ環 に従う。pre-λ環 $(R,(\lambda^n)_{n\ge0})$ の元 $x$ の全λ類を $\lambda_t(x)=\sum_{n\ge0}\lambda^n(x)t^n\in R[\![t]\!]$ と書く。pre-λ環であることは、$\lambda_t$ が加法群 $R$ から定数項 $1$ の級数のなす乗法群への準同型で、$\lambda_t(x)\equiv1+xt\pmod{t^2}$ となることと同値である(λ環 の命題「全 $\lambda$ 類による言い換え」)。$\lambda_t(\ell)=1+\ell t$ を満たす元 $\ell$ を線元という。整数係数の普遍多項式 $P_n(a_1,\dots,a_n;b_1,\dots,b_n)$ と $P_{n,m}(a_1,\dots,a_{nm})$ は、変数の個数 $N,N'$ を十分大きくとった恒等式
$$ \prod_{i=1}^{N}\prod_{j=1}^{N'}(1+z_iw_jt)=\sum_{n\ge0}P_n\bigl(e(z);e(w)\bigr)t^n,\qquad\prod_{i_1<\cdots< i_m}(1+z_{i_1}\cdots z_{i_m}t)=\sum_{n\ge0}P_{n,m}\bigl(e(z)\bigr)t^n $$
で定まる(λ環 の定義「$\lambda$ 環の普遍多項式」)。ここで $e_n(z)$ は $z_1,\dots,z_N$ の $n$ 次基本対称式($n>N$ では $0$)である。pre-λ環 $R$ が λ環(特殊λ環)であるとは、$\lambda^n(1)=0$($n\ge2$)、$\lambda^n(xy)=P_n(\lambda^1x,\dots,\lambda^nx;\lambda^1y,\dots,\lambda^ny)$、$\lambda^n(\lambda^mx)=P_{n,m}(\lambda^1x,\dots,\lambda^{nm}x)$ がすべての $x,y$ と $n,m\ge1$ で成り立つことをいう(λ環 の定義「$\lambda$ 環と線元」)。変数 $z=(z_1,\dots,z_N)$ の冪和を $s_k(z):=z_1^k+\cdots+z_N^k$ と書く。

定義と基本性質

Adams演算の定義

$R$ を pre-λ環とする。$x\in R$ に対し、$\lambda_{-t}(x)=\sum_n(-1)^n\lambda^n(x)t^n$ は定数項が $1$ なので $R[\![t]\!]$ で可逆である。$t$ についての形式的な微分を $\frac{d}{dt}$ として
$$ \psi_t(x):=-t\,\frac{\frac{d}{dt}\lambda_{-t}(x)}{\lambda_{-t}(x)}=\sum_{k\ge1}\psi^k(x)\,t^k $$
とおき、写像 $\psi^k\colon R\to R$($k\ge1$)を Adams 演算(Adams operation)という。

$\psi_t$ は $\lambda_{-t}$ の対数微分に $-t$ を掛けたものである。基本対称式の母関数の対数微分が冪和の母関数になる、という Newton の恒等式の形(Newtonの恒等式 の系「生成関数による言い換え」)を、そのまま定義に使っている。係数を比べると漸化式が得られる。整数係数の多項式 $Q_k\in\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_k]$ を
$$ Q_1=a_1,\qquad Q_k=\sum_{j=1}^{k-1}(-1)^{j+1}a_jQ_{k-j}+(-1)^{k+1}k\,a_k\quad(k\ge2) $$
で定める。たとえば $Q_2=a_1^2-2a_2$、$Q_3=a_1^3-3a_1a_2+3a_3$ である。

Adams演算の基本性質

$R$ を pre-λ環、$x,y\in R$、$k\ge1$ とする。

  1. $\psi^k(x)=Q_k\bigl(\lambda^1(x),\dots,\lambda^k(x)\bigr)$ である。とくに $\psi^1(x)=x$、$\psi^2(x)=x^2-2\lambda^2(x)$、$\psi^3(x)=x^3-3x\lambda^2(x)+3\lambda^3(x)$ である。
  2. $\psi^k(x+y)=\psi^k(x)+\psi^k(y)$ である。
  3. 線元 $\ell$ について $\psi^k(\ell)=\ell^k$ である。
  4. pre-λ環の間の λ準同型 $f\colon R\to S$(λ演算と可換な環準同型)について $f\circ\psi^k=\psi^k\circ f$ である。

1:$L:=\lambda_{-t}(x)$ とおくと、定義は $\psi_t(x)\,L=-t\frac{dL}{dt}$ と同値である。$L$ の $t^j$ の係数は $(-1)^j\lambda^j(x)$ なので、両辺の $t^n$ の係数は
$$ \sum_{j=0}^{n-1}(-1)^j\lambda^j(x)\,\psi^{n-j}(x)=(-1)^{n+1}n\,\lambda^n(x) $$
である。$j=0$ の項は $\psi^n(x)$ なので、$\psi^n(x)=\sum_{j=1}^{n-1}(-1)^{j+1}\lambda^j(x)\psi^{n-j}(x)+(-1)^{n+1}n\lambda^n(x)$ を得る。これは $Q_n$ の漸化式で $a_j=\lambda^j(x)$ としたものなので、$n$ についての帰納法で 1 が従う。
2:可逆な $f,g\in R[\![t]\!]$ について、積の微分の公式から $\frac{(fg)'}{fg}=\frac{f'}{f}+\frac{g'}{g}$ である。$\lambda_t$ は加法を積に変えるので、$t$ に $-t$ を代入した $\lambda_{-t}(x+y)=\lambda_{-t}(x)\lambda_{-t}(y)$ が成り立ち、$\psi_t(x+y)=\psi_t(x)+\psi_t(y)$ である。
3:$\lambda_{-t}(\ell)=1-\ell t$ なので $\psi_t(\ell)=\dfrac{\ell t}{1-\ell t}=\sum_{k\ge1}\ell^kt^k$ である。
4:1 の右辺は $\lambda^j(x)$ の整数係数多項式であり、$f$ は環準同型で $f(\lambda^j(x))=\lambda^j(f(x))$ を満たす。$\square$

2 から $\psi^k(0)=0$、$\psi^k(-x)=-\psi^k(x)$ である。

λ環の上の主定理

主定理の証明は、λ環の任意の元についての恒等式を、多項式環の中の対称式の恒等式に帰着させる。そのための補題を 2 つ用意する。

冪和と基本対称式

$N\ge1$、$k\ge1$ とする。多項式環 $\mathbb{Z}[z_1,\dots,z_N]$ の中で $Q_k\bigl(e_1(z),\dots,e_k(z)\bigr)=s_k(z)$ が成り立つ($n>N$ では $e_n(z)=0$ とする)。

$E:=\prod_{i=1}^N(1-z_it)$ とおくと、$E$ の $t^j$ の係数は $(-1)^je_j(z)$ であり、
$$ -t\,\frac{dE/dt}{E}=\sum_{i=1}^N\frac{z_it}{1-z_it}=\sum_{k\ge1}s_k(z)\,t^k $$
である。prf-adams-operation-basic の 1 と同じ係数比較により、左辺の $t^k$ の係数は $a_j=e_j(z)$ とした $Q_k$ の漸化式を満たすので、$Q_k(e_1(z),\dots,e_k(z))$ に等しい。これは Newtonの恒等式 の定理「Newton の恒等式」の言い換えである。$\square$

対称式による確かめ

$m\le N$ とし、$A$ を可換環とする。$a_n\mapsto e_n(z)$ で定まる $A$ 代数の準同型 $A[a_1,\dots,a_m]\to A[z_1,\dots,z_N]$ は単射である。とくに次が成り立つ。

  1. $m\le N$、$m'\le N'$ のとき、$a_n\mapsto e_n(z)$、$b_n\mapsto e_n(w)$ で定まる $\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_m,b_1,\dots,b_{m'}]\to\mathbb{Z}[z_1,\dots,z_N,w_1,\dots,w_{N'}]$ は単射である。
  2. 素数 $p$ と $F\in\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_m]$ について、$F(e_1(z),\dots,e_m(z))$ の係数がすべて $p$ で割り切れるなら、$F$ の係数もすべて $p$ で割り切れる。

要点:対称多項式 の定理「対称多項式の基本定理」(基本対称式の代数的独立性)を、係数環 $A$ を取り替えて使う。

詳しい証明を開く

同定理により、$y_n\mapsto e_n(z)$ で定まる $A[y_1,\dots,y_N]\to A[z_1,\dots,z_N]$ は単射である($A$ は任意の可換環でよい)。$A[a_1,\dots,a_m]$ は $a_n=y_n$ により $A[y_1,\dots,y_N]$ の部分環とみなせるので、最初の主張を得る。1:$A=\mathbb{Z}[w_1,\dots,w_{N'}]$ として最初の主張を使うと $\mathbb{Z}[w][a]\to\mathbb{Z}[w][z]$ が単射であり、$A=\mathbb{Z}$ の場合から $\mathbb{Z}[b]\to\mathbb{Z}[w]$ が単射なので、係数ごとに施した $\mathbb{Z}[b][a]\to\mathbb{Z}[w][a]$ も単射である。2 つを合成すればよい。2:$A=\mathbb{F}_p$ とし、$F$ の係数を $p$ で割った余りをとった $\bar F\in\mathbb{F}_p[a]$ を考える。$\bar F(e(z))$ は $F(e(z))$ の係数を $p$ で割った余りなので $0$ であり、単射性から $\bar F=0$ である。$\square$

$\lambda$ 環のAdams演算

$R$ をλ環とし、$k,l\ge1$ とする。

  1. $\psi^k$ は環準同型である:$\psi^k(x+y)=\psi^k(x)+\psi^k(y)$、$\psi^k(xy)=\psi^k(x)\psi^k(y)$、$\psi^k(1)=1$。
  2. $\psi^k\circ\psi^l=\psi^{kl}$ である。
  3. 素数 $p$ と $x\in R$ について $\psi^p(x)-x^p\in pR$ である。

1:加法性は prop-adams-operation-basic の 2 である。λ環では $\lambda^n(1)=0$($n\ge2$)なので $1$ は線元であり、同 3 により $\psi^k(1)=1$ である。乗法性を示す。$x,y\in R$ について $\alpha=(\lambda^1x,\dots,\lambda^kx)$、$\beta=(\lambda^1y,\dots,\lambda^ky)$ とおく。prop-adams-operation-basic の 1 とλ環の積の条件から
$$ \psi^k(xy)=Q_k\bigl(\lambda^1(xy),\dots,\lambda^k(xy)\bigr)=F(\alpha;\beta),\qquad F(a;b):=Q_k\bigl(P_1(a;b),\dots,P_k(a;b)\bigr) $$
であり、$\psi^k(x)\psi^k(y)=G(\alpha;\beta)$、$G(a;b):=Q_k(a)Q_k(b)$ である。$F,G\in\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_k,b_1,\dots,b_k]$ が多項式として等しいことを示せば十分である。lem-adams-operation-check の 1 により、$N=k$ 個ずつの変数 $z,w$ をとって $a_n=e_n(z)$、$b_n=e_n(w)$ を代入した値が等しいことを確かめればよい。$P_n$ の定義により $P_n(e(z);e(w))$ は $N^2$ 個の積 $u=(z_iw_j)_{i,j}$ の基本対称式 $e_n(u)$ である($n\le k=N$ なので変数の個数の条件を満たす)。よって lem-adams-operation-power-sums を $u$ に使うと
$$ F(e(z);e(w))=Q_k\bigl(e_1(u),\dots,e_k(u)\bigr)=s_k(u)=\sum_{i,j}z_i^kw_j^k=s_k(z)\,s_k(w)=G(e(z);e(w)) $$
である。
2:1 により $\psi^k$ は環準同型なので、prop-adams-operation-basic の 1 から $\psi^k(\psi^l(x))=Q_l\bigl(\psi^k(\lambda^1x),\dots,\psi^k(\lambda^lx)\bigr)$ である。さらに反復の条件から
$$ \psi^k(\lambda^mx)=Q_k\bigl(\lambda^1(\lambda^mx),\dots,\lambda^k(\lambda^mx)\bigr)=Q_k\bigl(P_{1,m}(\lambda x),\dots,P_{k,m}(\lambda x)\bigr) $$
であり($\lambda x=(\lambda^1x,\dots,\lambda^{kl}x)$)、$\psi^k\psi^l(x)=H(\lambda x)$ となる $H\in\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_{kl}]$ がある。一方 $\psi^{kl}(x)=Q_{kl}(\lambda x)$ である。$H=Q_{kl}$ を示す。$N=kl$ 個の変数 $z$ をとり $a_n=e_n(z)$ を代入する。$m\le l$ について $v^{(m)}=(z_{i_1}\cdots z_{i_m})_{i_1<\cdots< i_m}$ とおくと、$P_{n,m}$ の定義により $P_{n,m}(e(z))=e_n(v^{(m)})$ である($nm\le kl=N$)。lem-adams-operation-power-sums を $v^{(m)}$ に使うと
$$ Q_k\bigl(e_1(v^{(m)}),\dots,e_k(v^{(m)})\bigr)=s_k(v^{(m)})=\sum_{i_1<\cdots< i_m}(z_{i_1}\cdots z_{i_m})^k=e_m(z_1^k,\dots,z_N^k) $$
である。よって、もう一度同じ補題を $z^k=(z_1^k,\dots,z_N^k)$ に使って
$$ H(e(z))=Q_l\bigl(e_1(z^k),\dots,e_l(z^k)\bigr)=s_l(z^k)=\sum_iz_i^{kl}=s_{kl}(z)=Q_{kl}(e(z)) $$
を得る。lem-adams-operation-check の単射性により $H=Q_{kl}$ である。
3:$D:=Q_p(a_1,\dots,a_p)-a_1^p\in\mathbb{Z}[a_1,\dots,a_p]$ とおくと $\psi^p(x)-x^p=D(\lambda^1x,\dots,\lambda^px)$ である。$N=p$ 個の変数で $D(e(z))=\sum_iz_i^p-(\sum_iz_i)^p$ であり、多項定理により右辺の各単項式 $z^\mu$($\mu$ は $p$ を 2 個以上の正の数に分けたもの)の係数は $-p!/(\mu_1!\cdots\mu_N!)$ で、$p$ で割り切れる。lem-adams-operation-check の 2 により $D=pD'$($D'\in\mathbb{Z}[a]$)と書けるので、$\psi^p(x)-x^p=p\,D'(\lambda^1x,\dots,\lambda^px)\in pR$ である。$\square$

証明は「λ環の元はあたかも線元の和であるかのように計算してよい」という分裂原理の代数版を、必要な恒等式ごとに確かめたものである。証明で使ったのは、λ環の積と反復の条件だけである。

例

整数環と表現環
  1. 整数環. $\mathbb{Z}$ に二項係数 $\lambda^n(a)=\binom an$ でλ環の構造を入れる(λ環 の命題「整数環の二項係数による $\lambda$ 構造」)。$\lambda_{-t}(a)=(1-t)^a$ なので $\psi_t(a)=\dfrac{at}{1-t}=\sum_{k\ge1}at^k$ であり、すべての $k$ で $\psi^k=\mathrm{id}$ である。
  2. 有限群の表現環. 有限群 $G$ の複素表現環 $R(G)$ は外冪 $\lambda^n[V]=[\bigwedge^nV]$ によりλ環である(λ環 の命題「有限群の表現環は $\lambda$ 環」)。$V$ の指標を $\chi_V$ とすると、$\psi^k$ は指標の上で
    $$ \chi_{\psi^kV}(g)=\chi_V(g^k)\qquad(g\in G) $$
    と働く。実際、$g$ は $V$ の上で対角化でき、固有値を $\zeta_1,\dots,\zeta_d$ とすると $\chi_{\bigwedge^nV}(g)=e_n(\zeta)$ なので、指標をとる写像(類関数の環への単射環準同型)を通して $\lambda_{-t}(V)$ は $\prod_i(1-\zeta_it)$ に移る。lem-adams-operation-power-sums と同じ計算で $\psi^k$ の指標は $\sum_i\zeta_i^k$ になり、$g^k$ の固有値は $\zeta_i^k$ なのでこれは $\chi_V(g^k)$ である。
  3. 3 次対称群. $G=S_3$ の既約表現を自明表現 $1$、符号表現 $\varepsilon$、2 次元表現 $\rho$ とし、指標を単位元・互換・3 次巡回置換の順に書くと $\chi_1=(1,1,1)$、$\chi_\varepsilon=(1,-1,1)$、$\chi_\rho=(2,0,-1)$ である。互換の 2 乗は単位元、3 次巡回置換の 2 乗は 3 次巡回置換なので $\chi_{\psi^2\rho}=(2,2,-1)=\chi_1-\chi_\varepsilon+\chi_\rho$、すなわち
    $$ \psi^2\rho=1-\varepsilon+\rho $$
    である。$\psi^2(x)=x^2-2\lambda^2(x)$ と $\rho^2=1+\varepsilon+\rho$、$\lambda^2\rho=\det\rho=\varepsilon$ からも同じ結果が出る。$\psi^2\rho$ は実際の表現の類ではない。Adams 演算は表現(ベクトル束)の類を表現の類に送るとは限らない。

位相的 K 理論での Adams 演算

コンパクト Hausdorff 空間 $X$ の複素ベクトル束の K 群 $K(X)$ は、外冪によりλ環である(λ環 の定理「ベクトル束の $K$ 群は $\lambda$ 環」)。したがって thm-adams-operation-special により $\psi^k$ は $K(X)$ の環準同型で、$\psi^k\psi^l=\psi^{kl}$ を満たす。連続写像による引き戻しはλ準同型なので、prop-adams-operation-basic の 4 により $\psi^k$ は引き戻しと可換であり、基点への制限の核である簡約 K 群 $\widetilde K(X)$ を保つ。直線束 $L$ の類は線元なので $\psi^k[L]=[L^{\otimes k}]$ である。

複素射影空間上の Adams 演算

$\mathbb{C}\mathrm{P}^d$ のトートロジー直線束を $\gamma$、$v:=[\gamma]-1$ とし、$K(\mathbb{C}\mathrm{P}^d)=\mathbb{Z}[v]/(v^{d+1})$ と表す(位相的K理論 の命題「複素射影空間の K 環」)。このとき $k\ge1$ について
$$ \psi^k(v)=(1+v)^k-1=\sum_{j=1}^{\min\{k,d\}}\binom kj v^j,\qquad\psi^k(v^j)=\bigl((1+v)^k-1\bigr)^j $$
である。とくに $d=1$、すなわち $\widetilde K(S^2)=\mathbb{Z}x$($x=[\gamma]-1$、$x^2=0$)の上で $\psi^k(x)=kx$ である。

$[\gamma]$ と $1$ は線元なので、加法性と prop-adams-operation-basic の 3 から $\psi^k(v)=[\gamma]^k-1=(1+v)^k-1$ であり、$v^{d+1}=0$ により和は $j\le d$ で切れる。$\psi^k$ は環準同型なので $\psi^k(v^j)=\psi^k(v)^j$ である。$d=1$ では $(1+x)^k-1=kx$ である。$\square$

偶数次元球面上の Adams 演算

$n\ge1$ とする。$\widetilde K(S^{2n})$ は無限巡回群であり、その生成元 $\beta_n$ について $\psi^k(\beta_n)=k^n\beta_n$($k\ge1$)である。

2 次元球面の積への引き戻し

次の 2 つの事実はこの記事では証明しない。(a) Bott周期性定理 の注意「懸垂と球面の K 群」により $\widetilde K(S^{2n})\cong\mathbb{Z}$ である。(b) $q\colon(S^2)^n\to S^{2n}$ を、$S^2$ の $n$ 個の積から $n$ 重のスマッシュ積 $S^2\wedge\cdots\wedge S^2=S^{2n}$ への商写像とすると、$q^*\colon\widetilde K(S^{2n})\to K((S^2)^n)$ は単射で、$q^*\beta_n=a_1\cdots a_n$ と書ける。ここで $a_i=[\zeta_i]-1$ は $(S^2)^n$ 上の直線束 $\zeta_i$ から作った元で、$a_i^2=0$ を満たす(Hus94 第 11 章 Theorem 5.5、p. 150、第 13 章 §11、pp. 187–188)。
これを認めると、prf-adams-operation-cpd と同じ計算で $\psi^k(a_i)=(1+a_i)^k-1=ka_i$ である。$\psi^k$ は引き戻しと可換な環準同型なので
$$ q^*\psi^k(\beta_n)=\psi^k(a_1\cdots a_n)=\prod_{i=1}^n\psi^k(a_i)=k^n\,a_1\cdots a_n=k^n\,q^*\beta_n $$
であり、$q^*$ の単射性から $\psi^k(\beta_n)=k^n\beta_n$ である。$\square$

定理は Hus94 第 13 章 Theorem 11.2(p. 188)にある。
Hopf 不変量 1 の問題への応用. $f\colon S^{4n-1}\to S^{2n}$ の写像錐 $C_f$ について、$\widetilde K(C_f)$ は $\widetilde K(S^{4n})$ から来る元 $b$ と、$\widetilde K(S^{2n})$ の生成元に制限される元 $a$ を基底とする自由アーベル群で、$a^2=h\,b$ となる整数 $h$ は $f$ の Hopf 不変量に等しい(Hus94 第 20 章 Proposition 10.2、p. 309)。thm-adams-operation-spheres と自然性から $\psi^k(b)=k^{2n}b$、$\psi^k(a)=k^na+\mu_kb$($\mu_k\in\mathbb{Z}$)と書ける。$\psi^k\psi^l=\psi^l\psi^k$ の $b$ の係数を比べると $\mu_k\,l^n(l^n-1)=\mu_l\,k^n(k^n-1)$ を得る。一方 thm-adams-operation-special の 3 から $\psi^2(a)\equiv a^2=h\,b\pmod2$ なので $\mu_2\equiv h\pmod 2$ である。$h$ が奇数なら、$k=2$、$l=3$ の式から $2^n$ が $\mu_2\,3^n(3^n-1)$ を割り、$\mu_23^n$ は奇数なので $2^n\mid3^n-1$ となる。これが成り立つのは $n=1,2,4$ に限る。こうして Hopf 不変量が奇数の写像 $S^{4n-1}\to S^{2n}$ は $n=1,2,4$ でしか存在しない。$\widetilde K(C_f)$ の構造と数論の部分の証明は Hopf不変量1の定理 にある。

反例

主定理と prop-adams-operation-basic の 4 の仮定を 1 つずつ外すと結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
λ環であること(pre-λ環にとどめる)$\mathbb{Z}$ に $\lambda_t(a)=(1+t+t^2)^a$ で入れた pre-λ構造$\psi^2$ の乗法性
$p$ が素数であること$\mathbb{Z}[\ell_1,\ell_2]$ の $x=\ell_1+\ell_2$ と $k=4$$\psi^k(x)\equiv x^k\pmod{kR}$
$f$ がλ演算と可換であること$\mathbb{Z}[\ell]$ の環準同型 $\ell\mapsto2\ell$$f\circ\psi^k=\psi^k\circ f$
表の確かめ

1 行目:この構造は pre-λ環だがλ環ではない(λ環 の例「反例:特殊でない pre-$\lambda$ 構造」)。$\lambda^1(1)=1$、$\lambda^2(1)=1$ なので $\psi^2(1)=1^2-2\lambda^2(1)=-1$ であり、$\psi^2(1\cdot1)=-1\ne1=\psi^2(1)^2$ である。
2 行目:$M$ を $\ell_1,\ell_2$ で生成される自由可換モノイドとし、モノイド環 $R=\mathbb{Z}[M]=\mathbb{Z}[\ell_1,\ell_2]$ に $\ell_1,\ell_2$ を線元とする構造を入れると、$R$ はλ環である(λ環 の命題「線元のモノイド環は $\lambda$ 環」)。$\psi^4(x)=\ell_1^4+\ell_2^4$ なので $\psi^4(x)-x^4=-(4\ell_1^3\ell_2+6\ell_1^2\ell_2^2+4\ell_1\ell_2^3)$ であり、$\ell_1^2\ell_2^2$ の係数 $-6$ は $4$ で割り切れない。$R$ は単項式を基底とする自由アーベル群なので、これは $4R$ に属さない。
3 行目:$R=\mathbb{Z}[\ell]$ に $\ell$ を線元とする同様のλ環の構造を入れ、環準同型 $f(\ell)=2\ell$ をとる。$f(\psi^2\ell)=f(\ell^2)=4\ell^2$ だが、$2\ell=\ell+\ell$ なので $\psi^2(f(\ell))=2\ell^2$ である。$f$ はλ演算と可換でない($\lambda^2(2\ell)=\ell^2\ne0=f(\lambda^2\ell)$)。

補足

Adams 演算は γ フィルトレーションとも結びつく。λ環が分裂原理を満たすとき、$\psi^k$ は γフィルトレーション の次数付き商 $F^n/F^{n+1}$ に $k^n$ 倍で働く(Wei13 Proposition 4.9、p. 32)。また Adams は $KO$ 理論の Adams 演算を使って、球面 $S^{n-1}$ 上の線形独立な接ベクトル場の最大本数を決定した(球面上の独立なベクトル場)。

関連項目

参考文献

[2]
Dale Husemoller, Fibre Bundles, Springer, 1994, 第 11 章 Theorem 5.5(p. 150、球面の K 群)、第 13 章 Theorem 10.5(p. 187、Adams 演算は環準同型)、§11(pp. 187–188、$\widetilde K(S^{2m})$ から $\widetilde K(S^2\times\cdots\times S^2)$ への単射と Theorem 11.2)、第 20 章 Proposition 10.2(p. 309、K 理論とコホモロジーの Hopf 不変量の一致)

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