交換子部分群(commutator subgroup)とは、群 $G$ の元 $x,y$ の交換子 $[x,y]=xyx^{-1}y^{-1}$ の全体が生成する部分群 $[G,G]$ のことである。交換子は $x$ と $y$ が可換なときに限り単位元になるので、$[G,G]$ は群が可換からどれだけ離れているかを測り、$[G,G]$ が自明であることは $G$ がアーベル群であることと同値である。$[G,G]$ はすべての自己準同型で保たれる正規部分群であり、正規部分群 $N$ について $G/N$ がアーベル群であることと $[G,G]\subset N$ は同値である。剰余群 $G/[G,G]$ はアーベル化と呼ばれ、アーベル群への準同型はすべてこれを経由する。対称群 $S_n$ の交換子部分群は交代群 $A_n$ であり、この操作を繰り返した導来列は可解群の判定に使われる。
前提知識: 群, 部分群, 正規部分群, 剰余群, 群準同型
群 $G$ の単位元を $e$ と書く。部分集合 $S\subset G$ が生成する部分群を $\langle S\rangle$ と書く。$\langle S\rangle$ は $S$ を含む最小の部分群であり、その元は $S$ の元とその逆元の有限個の積($0$ 個の積は $e$)として書ける元の全体である(部分群 の記事の命題「生成される部分群の元の記述」)。
群 $G$ の元 $x,y$ に対し
$$
[x,y]:=xyx^{-1}y^{-1}
$$
を $x$ と $y$ の 交換子(commutator)という。交換子全体の集合が生成する部分群
$$
[G,G]:=\langle\,[x,y]\mid x,y\in G\,\rangle
$$
を $G$ の 交換子部分群(commutator subgroup)という。交換子群、導来部分群(derived subgroup)ともいい、$G'$ や $D(G)$ とも書く。
交換子を $x^{-1}y^{-1}xy$ で定める文献もある(DF04 §5.4 はこの流儀である)。$x^{-1}y^{-1}xy=[x^{-1},y^{-1}]$ であり、$x,y$ が $G$ 全体を動けば $x^{-1},y^{-1}$ も $G$ 全体を動くので、2 つの流儀で交換子全体の集合は同じであり、交換子部分群も同じである。
$G$ を群、$x,y,g\in G$ とする。
1:$xyx^{-1}y^{-1}=e$ の両辺に右から $y$、続いて $x$ を掛けると $xy=yx$ になり、逆に $xy=yx$ なら $xyx^{-1}y^{-1}=yxx^{-1}y^{-1}=e$ である。
2:$(xyx^{-1}y^{-1})^{-1}=(y^{-1})^{-1}(x^{-1})^{-1}y^{-1}x^{-1}=yxy^{-1}x^{-1}=[y,x]$ である。
3:群準同型は逆元を逆元に送る(群準同型 の記事の命題「単位元と逆元の保存」)ので、$f(xyx^{-1}y^{-1})=f(x)f(y)f(x)^{-1}f(y)^{-1}=[f(x),f(y)]$ である。$g$ による共役 $c_g(z)=gzg^{-1}$ は群準同型なので、後半は前半の特別な場合である。
4:部分群 の記事の命題「生成される部分群の元の記述」により、$[G,G]$ の元は交換子とその逆元の有限個の積である。2 により交換子の逆元は交換子なので、交換子の有限個の積だけで尽くされる。$\square$
4 の「交換子の積」を「交換子」に置き換えることはできない。交換子全体の集合は一般には部分群にならず(rem-commutator-subgroup-products)、そのために定義では交換子全体が生成する部分群をとる。
交換子 $[x,y]$ は、$xy$ と $yx$ の食い違い $xy=[x,y]\,yx$ を表す元であり、$x$ と $y$ が可換なときに限り $e$ になる。交換子部分群は、群の中のあらゆる食い違いを集めた部分群で、群がアーベル群からどれだけ離れているかを測る。$[G,G]$ が小さいほど群は可換に近く、$[G,G]=\{e\}$ はアーベル群であることそのものである。
逆向きに言うと、$[G,G]$ で割れば食い違いがすべて消えてアーベル群が得られる(prop-commutator-subgroup-abelian-quotient)。しかも $[G,G]$ は、割るとアーベル群になる正規部分群のうち最小のものである。したがって $G/[G,G]$ は、$G$ から得られる最も大きいアーベル群の商であり、$G$ からアーベル群への準同型はすべてこの商を経由する(prop-commutator-subgroup-universal)。
置換の積 $\sigma\tau$ は「$\tau$ を先に、$\sigma$ を後に」施す合成とする。$k$ 文字の巡回置換を $(a_1\,a_2\,\cdots\,a_k)$ と書き、$2$ 文字の巡回置換(互換)を $(a\,b)$ と書く。置換 $\tau$ による共役は巡回置換の文字を付け替える:$\tau(a_1\,\cdots\,a_k)\tau^{-1}=(\tau(a_1)\,\cdots\,\tau(a_k))$(両辺を $\tau(a_i)$ と、それ以外の文字に施して確かめられる。対称群 の記事の定理「共役類の分類」の証明の 1 段目)。
prop-commutator-subgroup-basic の 1 により、群 $G$ について $[G,G]=\{e\}$ であることと、$G$ がアーベル群であることは同値である。たとえば $\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、Kleinの四元群 の交換子部分群は自明である。
$S_3$ では、互換は自分自身の逆元なので $[(1\,2),(1\,3)]=\bigl((1\,2)(1\,3)\bigr)^2=(1\,3\,2)^2=(1\,2\,3)$ である。よって $[S_3,S_3]$ は $(1\,2\,3)$ が生成する位数 $3$ の交代群 $A_3$ を含む。逆の包含 $[S_3,S_3]\subset A_3$ は、下の prop-commutator-subgroup-symmetric で一般の $n$ について示す(剰余群 の記事の例「アーベル化」にも同じ計算がある)。したがって $[S_3,S_3]=A_3$ であり、$S_3/[S_3,S_3]$ は位数 $2$ の巡回群である。
$n\ge1$ とし、位数 $2n$ の二面体群 $\operatorname{Dih}_n=\langle r,s\mid r^n=s^2=e,\ srs=r^{-1}\rangle$ を考える($r$ は回転、$s$ は鏡映にあたる)。このとき
$$
[\operatorname{Dih}_n,\operatorname{Dih}_n]=\langle r^2\rangle
$$
である。実際、$s=s^{-1}$ と $sr^{-1}s=r$ から $[r,s]=rsr^{-1}s^{-1}=r\cdot(sr^{-1}s)=r^2$ なので $\langle r^2\rangle\subset[\operatorname{Dih}_n,\operatorname{Dih}_n]$ である。逆に、$srs^{-1}=r^{-1}$ から $sr^2s^{-1}=r^{-2}$ であり、$r$ は $r^2$ と可換なので、$\langle r^2\rangle$ は生成元 $r,s$ による共役で閉じ、正規部分群である。剰余群 $\operatorname{Dih}_n/\langle r^2\rangle$ は $\bar r,\bar s$ で生成され、$\bar r^2=\bar e$ から $\bar r^{-1}=\bar r$ なので $\bar s\bar r\bar s^{-1}=\bar r^{-1}=\bar r$、すなわち $\bar r$ と $\bar s$ は可換である。生成元どうしが可換な群はアーベル群なので、prop-commutator-subgroup-abelian-quotient により $[\operatorname{Dih}_n,\operatorname{Dih}_n]\subset\langle r^2\rangle$ である。
$\langle r^2\rangle$ の位数は、$n$ が奇数なら $n$($r^2$ が $r$ を生成する)、$n$ が偶数なら $n/2$ である。たとえば正方形の対称性の群 $\operatorname{Dih}_4$(位数 $8$)では $[\operatorname{Dih}_4,\operatorname{Dih}_4]=\{e,r^2\}$ である。$n=1,2$ では $r^2=e$ であり、$\operatorname{Dih}_1,\operatorname{Dih}_2$ はアーベル群である。
$H:=\mathbb{Z}^3$ に積 $(a,b,c)(a',b',c'):=(a+a',\,b+b',\,c+c'+ab')$ を入れた群を考える(可解群 の記事の例「Heisenberg群」。単位元は $(0,0,0)$、$(a,b,c)$ の逆元は $(-a,-b,-c+ab)$)。定義どおり計算すると
$$
[(a,b,c),(a',b',c')]=(0,\,0,\,ab'-a'b)
$$
である。$ab'-a'b$ は $a=b'=1$、$a'=b=0$ で $1$ になり、交換子の積は第 3 成分の和になるので、$[H,H]=\{(0,0,c)\mid c\in\mathbb{Z}\}$ である。これは $H$ の中心でもあり、$H/[H,H]\cong\mathbb{Z}^2$ である。
$k$ を体とし、$n\ge1$ とする。一般線形群 $\mathrm{GL}_n(k)$ の交換子 $[X,Y]$ の行列式は $\det X\det Y(\det X)^{-1}(\det Y)^{-1}=1$ なので、$[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]$ は特殊線形群 $\mathrm{SL}_n(k)$ に含まれる。$n=2$ かつ $k=\mathbb{F}_2$ の場合を除いて等号 $[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$ が成り立つ。
$n\ge2$ の場合の根拠は次のとおりである。$n\ge3$、または $n=2$ かつ $k$ の元の個数が $4$ 以上なら、$\mathrm{SL}_n(k)$ は自分自身の交換子部分群に等しい:$[\mathrm{SL}_n(k),\mathrm{SL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$(Lan02 Chapter XIII §8–§9。ここでは言明だけを引く)。$\mathrm{SL}_n(k)\subset\mathrm{GL}_n(k)$ なので $\mathrm{SL}_n(k)=[\mathrm{SL}_n(k),\mathrm{SL}_n(k)]\subset[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]$ となり、上の包含と合わせて等号を得る。
残る $n=2$、$k=\mathbb{F}_3$ はこの引用に含まれない($[\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3),\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)]$ は位数 $8$ で、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$ より小さい)ので、直接示す。一般に体 $k$ 上で $\mathrm{SL}_2(k)$ は $U(x):=\begin{pmatrix}1&x\\0&1\end{pmatrix}$ と $L(x):=\begin{pmatrix}1&0\\x&1\end{pmatrix}$($x\in k$)で生成される。実際、$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\mathrm{SL}_2(k)$ で $c\neq0$ なら、掛け算して $ad-bc=1$ を使うと $A=U\bigl((a-1)/c\bigr)\,L(c)\,U\bigl((d-1)/c\bigr)$ と確かめられる。$c=0$ なら $a\neq0$ なので $L(1)A$ の左下の成分 $a$ は $0$ でなく、前の場合により $L(1)A$ は $U(\cdot)$ と $L(\cdot)$ の積であり、$A=L(-1)\bigl(L(1)A\bigr)$ もそうである。$\mathbb{F}_3$ では $U(x)=U(1)^x$、$L(x)=L(1)^x$ なので、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$ は $U(1)$ と $L(1)$ で生成される。$D:=\begin{pmatrix}-1&0\\0&1\end{pmatrix}$、$D':=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ とおくと、$DU(1)D^{-1}=U(-1)$、$D'L(1)D'^{-1}=L(-1)$ なので
$$
[D,U(1)]=U(-1)U(1)^{-1}=U(-2)=U(1),\qquad [D',L(1)]=L(-2)=L(1)
$$
である($\mathbb{F}_3$ では $-2=1$)。よって $U(1),L(1)\in[\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3),\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3)]$ であり、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)\subset[\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3),\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3)]$ となって等号が成り立つ。
除かれる場合は実際に等号が成り立たない。$\mathbb{F}_2$ 上では行列式は常に $1$ なので $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)=\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)$ であり、この群は $\mathbb{F}_2^2$ の $3$ 個の $0$ でないベクトルを置換することで $S_3$ と同型になる。よって ex-commutator-subgroup-s3 により交換子部分群は位数 $3$ であり、位数 $6$ の $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ に一致しない。$n=1$ では $\mathrm{GL}_1(k)=k^\times$ は可換で、両辺とも $\{1\}$ である。
部分群 $K\subset G$ について、$K$ の交換子は $G$ の交換子なので $[K,K]\subset K\cap[G,G]$ が常に成り立つ(prop-commutator-subgroup-image の 3)。しかし等号は一般に成り立たない。$G=S_4$、$K=A_4$ とすると、$[S_4,S_4]=A_4$(prop-commutator-subgroup-symmetric)なので $K\cap[G,G]=A_4$ であるが、$[A_4,A_4]$ は位数 $4$ の Klein の四元群 $V=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ である(prop-commutator-subgroup-alternating の 2)。この例は「$K$ は $G$ の部分群である」を満たすが「$[K,K]=K\cap[G,G]$」を満たさず、交換子部分群をとる操作が部分群への制限と交換しないことを示す。$K$ の中の交換子 $[a,b]$ は $a,b\in K$ に限られ、$G$ の元を使った交換子のほうが多いからである。
$G/[G,G]$ は常にアーベル群である(prop-commutator-subgroup-abelian-quotient)が、$[G,G]$ 自身がアーベル群であるとは限らない。$S_5$ では $[S_5,S_5]=A_5$ であり(prop-commutator-subgroup-symmetric)、$A_5$ は可換でない($(1\,2\,3)(1\,4\,5)=(1\,4\,5\,2\,3)$、$(1\,4\,5)(1\,2\,3)=(1\,2\,3\,4\,5)$)。この例は「$G/[G,G]$ はアーベル群である」を満たすが「$[G,G]$ はアーベル群である」を満たさず、含意「剰余群 $G/[G,G]$ がアーベル群なら交換子部分群 $[G,G]$ もアーベル群である」を破る。さらに $[A_5,A_5]=A_5$ である(prop-commutator-subgroup-alternating の 3)。この例は「$G\neq\{e\}$」を満たすが「$[G,G]\subsetneq G$」を満たさず、含意「自明でない群の交換子部分群は真部分群である」を破る。交換子部分群が群全体に一致する群を完全群といい、完全群ではアーベル化 $G/[G,G]$ が自明群になって、$G$ についての情報がすべて失われる。
交換子全体の集合は逆元で閉じ、$e=[e,e]$ を含むが、積で閉じるとは限らない。すなわち 2 つの交換子の積が交換子にならない群がある。そのような有限群で位数が最小のものは位数 $96$ であり、位数 $96$ の群のうちちょうど 2 つ(同型を除いて)がこの性質をもつ(Gur82)。位数が $96$ より小さい有限群では、$[G,G]$ の元はすべて 1 つの交換子として書ける。この事実は本記事の他の部分では使わない。
$f\colon G\to H$ を群準同型とする。
1:prop-commutator-subgroup-basic の 4 により、$[G,G]$ の元は交換子の積 $[x_1,y_1]\cdots[x_m,y_m]$ である。同命題の 3 により、その像は $[f(x_1),f(y_1)]\cdots[f(x_m),f(y_m)]$ であり、$[H,H]$ に属する。
2:$[H,H]$ の元は交換子の積 $[u_1,v_1]\cdots[u_m,v_m]$($u_i,v_i\in H$)である。$f$ が全射なので $f(x_i)=u_i$、$f(y_i)=v_i$ となる $x_i,y_i\in G$ がとれ、この元は $[G,G]$ の元 $[x_1,y_1]\cdots[x_m,y_m]$ の像である。1 と合わせて等号が成り立つ。
3:包含写像 $K\to G$ に 1 を適用すればよい。$\square$
前半は prop-commutator-subgroup-image の 1 を $H=G$ に、自己同型についての等式は同命題の 2 を全射 $\sigma$ に適用したものである。$g\in G$ による共役 $c_g(x)=gxg^{-1}$ は $G$ の自己同型なので、$g[G,G]g^{-1}=[G,G]$ がすべての $g$ で成り立ち、$[G,G]$ は正規部分群である。$\square$
正規性は 正規部分群 の記事の例「交換子のなす部分群」でも、特性部分群であることは 特性部分群 の記事の命題「交換子部分群は特性部分群」でも示されている。本記事の cor-commutator-subgroup-invariant は、自己同型に限らずすべての自己準同型で保たれるという、より強い形で述べている。
$G$ を群とする。
1:$\pi\colon G\to G/N$ を標準射影とする。$\pi$ は全射なので、$G/N$ がアーベル群であることは、すべての $x,y\in G$ について $\pi(x)$ と $\pi(y)$ が可換であること、すなわち(prop-commutator-subgroup-basic の 1・3 により)$\pi([x,y])=[\pi(x),\pi(y)]$ が単位元であることと同値である。$\ker\pi=N$ なので、これはすべての交換子が $N$ に属することと同値であり、$N$ は部分群なので、それは $[G,G]\subset N$ と同値である。
2:cor-commutator-subgroup-invariant により $[G,G]$ は正規部分群なので、1 を $N=[G,G]$ に適用すればよい。
3:$g\in G$、$h\in K$ とすると
$$
ghg^{-1}=(ghg^{-1}h^{-1})\,h=[g,h]\,h
$$
であり、$[g,h]\in[G,G]\subset K$、$h\in K$ なので $ghg^{-1}\in K$ である。よって $K$ は正規部分群であり、1 により $G/K$ はアーベル群である。$\square$
1 と 2 は、$[G,G]$ が「割るとアーベル群になる正規部分群」のうち最小のものであることを述べている(可解群 の記事の補題「交換子部分群とアーベル商」も同じ内容を示す)。3 により、$[G,G]$ を含む部分群を扱うときは正規性を別に確かめる必要がない。
剰余群 $G^{\mathrm{ab}}:=G/[G,G]$ を $G$ のアーベル化という。
$\pi\colon G\to G^{\mathrm{ab}}$ を標準射影とする。アーベル群 $A$ への任意の群準同型 $f\colon G\to A$ に対し、$\bar f\circ\pi=f$ となる群準同型 $\bar f\colon G^{\mathrm{ab}}\to A$ がただ一つ存在する。
$A$ は可換なので、prop-commutator-subgroup-basic の 1・3 により $f([x,y])=[f(x),f(y)]=e_A$ であり、交換子はすべて $\ker f$ に属する。$\ker f$ は部分群なので $[G,G]\subset\ker f$ である。剰余群 の記事の定理「剰余群の普遍性」を $N=[G,G]$ に適用すると、$\bar f(x[G,G])=f(x)$ で与えられる $\bar f$ がただ一つ存在する。$\square$
同じ主張は 剰余群 の記事の命題「アーベル群への準同型とアーベル化」にもある。これにより、$G$ からアーベル群 $A$ への準同型は、$G^{\mathrm{ab}}$ から $A$ への準同型と一対一に対応する。また、アーベル群になる剰余群 $G/N$ はすべて $G^{\mathrm{ab}}$ の剰余群である(prop-commutator-subgroup-abelian-quotient の 1 により $[G,G]\subset N$ なので、$\pi$ を経由する全射 $G^{\mathrm{ab}}\to G/N$ がある)。この意味で $G^{\mathrm{ab}}$ は $G$ のアーベル群の剰余群のうち最大のものである。
$n\ge1$ について $[S_n,S_n]=A_n$ である。
置換の符号 $\operatorname{sgn}\colon S_n\to\{\pm1\}$ はアーベル群 $\{\pm1\}$ への群準同型であり、その核が $A_n$ である(交代群 の記事の命題「符号準同型」と定義「交代群」)。prop-commutator-subgroup-universal の証明の前半と同じく、交換子はすべて $\ker\operatorname{sgn}=A_n$ に属するので、$[S_n,S_n]\subset A_n$ である。
逆の包含を示す。$n\le2$ なら $A_n=\{e\}$ なので明らかである。$n\ge3$ とする。ex-commutator-subgroup-s3 の計算は $S_n$ の中でもそのまま成り立ち、$(1\,2\,3)=[(1\,2),(1\,3)]$ である。相異なる文字 $a,b,c$ に対し、$\tau(1)=a$、$\tau(2)=b$、$\tau(3)=c$ となる置換 $\tau\in S_n$ をとると、共役による文字の付け替えと prop-commutator-subgroup-basic の 3 により
$$
(a\,b\,c)=\tau(1\,2\,3)\tau^{-1}=[\tau(1\,2)\tau^{-1},\tau(1\,3)\tau^{-1}]=[(a\,b),(a\,c)]
$$
である。よって 3 文字の巡回置換(3 サイクル)はすべて交換子である。$A_n$ は 3 サイクル全体で生成される(交代群 の記事の定理「3 サイクルによる生成」)ので、$A_n\subset[S_n,S_n]$ である。$\square$
$n\ge2$ では符号 $\operatorname{sgn}$ は全射なので、群準同型 の記事の定理「群の第1同型定理」により $S_n^{\mathrm{ab}}=S_n/A_n\cong\{\pm1\}$ である。prop-commutator-subgroup-universal と合わせると、$S_n$ からアーベル群への準同型は、すべて符号を経由する。
1:$A_1=A_2=\{e\}$、$A_3$ は位数 $3$ の巡回群であり、いずれもアーベル群なので ex-commutator-subgroup-abelian による。
2:$V$ は $A_4$ の正規部分群である(交代群 の記事の例「Kleinの四元群と A4 の正規部分群」)。剰余群 $A_4/V$ は位数 $12/4=3$ の群であり、素数位数の群は巡回群なのでアーベル群である。prop-commutator-subgroup-abelian-quotient の 1 により $[A_4,A_4]\subset V$ である。逆に、定義どおり計算すると
$$
[(1\,2\,3),(1\,2\,4)]=(1\,2)(3\,4)
$$
であり、$(1\,2)(3\,4)\in[A_4,A_4]$ である。$[A_4,A_4]$ は $A_4$ の正規部分群(cor-commutator-subgroup-invariant)なので、$(1\,2\,3)$ による共役で閉じている。文字の付け替えにより $(1\,2\,3)\,(1\,2)(3\,4)\,(1\,2\,3)^{-1}=(2\,3)(1\,4)$、もう一度共役して $(3\,1)(2\,4)=(1\,3)(2\,4)$ を得る。よって $V$ の元はすべて $[A_4,A_4]$ に属し、$[A_4,A_4]=V$ である。
3:$n\ge5$ とする。相異なる文字 $a,b,c$ をとり、$\sigma=(a\,b\,c)$ とおく。$n\ge5$ なので $a,b,c$ と異なる相異なる 2 文字 $d,e'$ がとれ、$g:=(b\,c)(d\,e')$ は 2 つの互換の積なので偶置換であり、$g\in A_n$ である。文字の付け替えにより $g\sigma g^{-1}=(g(a)\,g(b)\,g(c))=(a\,c\,b)=\sigma^{-1}$ なので、
$$
[g,\sigma]=(g\sigma g^{-1})\,\sigma^{-1}=\sigma^{-2}=\sigma
$$
である($\sigma^3=e$)。よって 3 サイクルはすべて $A_n$ の元どうしの交換子であり、$A_n$ は 3 サイクルで生成されるので $[A_n,A_n]=A_n$ である。$\square$
3 は $n\ge5$ で $A_n$ が完全群であることを述べている。これは、可換でない単純群の交換子部分群が群全体であること(単純群 の記事の命題「可換でない単純群の中心と交換子部分群」)と $A_n$ の単純性からも従うが、上の証明は単純性を使わない。$n=4$ で 3 の議論が使えないのは、$(b\,c)$ に掛けて偶置換に直すための 2 文字 $d,e'$ が残らないからである。実際 $A_4$ では $(1\,2\,3)$ は $[A_4,A_4]=V$ に属さない。
交換子部分群をとる操作を繰り返し、$D_0:=G$、$D_{i+1}:=[D_i,D_i]$ と定めた部分群の列 $G=D_0\supset D_1\supset D_2\supset\cdots$ を $G$ の導来列という。cor-commutator-subgroup-invariant を繰り返し使うと、各 $D_i$ は $G$ の特性部分群である($G$ の自己同型 $\sigma$ が $\sigma(D_i)=D_i$ を満たせば、$\sigma$ の $D_i$ への制限は $D_i$ の自己同型なので $\sigma(D_{i+1})=D_{i+1}$)。ある $r$ で $D_r=\{e\}$ となることは、$G$ が可解群であることと同値である(可解群 の記事の定理「可解性の同値な特徴づけ」)。
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