三角形の半角公式

同義語:三角形の半角の公式half-angle formulas for triangles

概要

三角形の半角公式(half-angle formulas for triangles)とは、三角形 $ABC$ の 3 辺 $a,b,c$ と半周長 $s=\frac{a+b+c}2$ で、角の半分の三角比を $\sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}}$、$\cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}}$、$\tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}$ と表す式である($B,C$ も同様)。余弦定理と半角の公式から出て、$\frac A2$ は鋭角なので平方根は正にとる。内接円の半径 $r$ で $\tan\frac A2=\frac r{s-a}$ とも書け、比べると Heron の公式が出る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 余弦定理(高校数学), 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く, 三角形の面積の公式

高校での出発点:3 辺から角の半分を求める

余弦定理(高校数学) を使うと、三角形の 3 辺の長さから角の余弦が求まる。さらに角の半分の三角比がほしいときは、加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の半角の公式
$$ \sin^2\frac\theta2=\frac{1-\cos\theta}2,\qquad \cos^2\frac\theta2=\frac{1+\cos\theta}2 $$
を使う。まず、数の決まった三角形で 2 つの公式を続けて使ってみる。

3 辺が 7, 5, 8 の三角形

$a=BC=7$、$b=CA=5$、$c=AB=8$ の三角形 $ABC$ で、角 $A$ の半分の三角比を求める。
(1) 余弦定理により
$$ \cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{25+64-49}{2\cdot5\cdot8}=\frac{40}{80}=\frac12 $$
である。
(2) 半角の公式により
$$ \sin^2\frac A2=\frac{1-\frac12}2=\frac14,\qquad \cos^2\frac A2=\frac{1+\frac12}2=\frac34 $$
である。$0^\circ< A<180^\circ$ なので $0^\circ<\dfrac A2<90^\circ$ で、正弦も余弦も正である。よって $\sin\dfrac A2=\dfrac12$、$\cos\dfrac A2=\dfrac{\sqrt3}2$ で、$A=60^\circ$、$\dfrac A2=30^\circ$ と合っている。
(3) 3 辺の和の半分を $s=\dfrac{7+5+8}2=10$ とおくと、$s-a=3$、$s-b=5$、$s-c=2$ である。この数で
$$ \frac{(s-b)(s-c)}{bc}=\frac{5\cdot2}{5\cdot8}=\frac14,\qquad \frac{s(s-a)}{bc}=\frac{10\cdot3}{5\cdot8}=\frac34 $$
を計算すると、(2) で求めた $\sin^2\dfrac A2$、$\cos^2\dfrac A2$ がそのまま現れる。

3 辺が 3, 5, 7 の三角形(鈍角)

$a=3$、$b=5$、$c=7$ の三角形で、いちばん長い辺 $c$ の向かいの角 $C$ を調べる。
(1) 余弦定理により
$$ \cos C=\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab}=\frac{9+25-49}{2\cdot3\cdot5}=\frac{-15}{30}=-\frac12 $$
で、$C=120^\circ$ の鈍角である。
(2) 半角の公式により $\sin^2\dfrac C2=\dfrac{1+\frac12}2=\dfrac34$、$\cos^2\dfrac C2=\dfrac{1-\frac12}2=\dfrac14$ で、$0^\circ<\dfrac C2<90^\circ$ から $\sin\dfrac C2=\dfrac{\sqrt3}2$、$\cos\dfrac C2=\dfrac12$ である。$\dfrac C2=60^\circ$ と合っている。
(3) $s=\dfrac{3+5+7}2=\dfrac{15}2$ で、$s-a=\dfrac92$、$s-b=\dfrac52$、$s-c=\dfrac12$ である。角 $C$ をはさむ 2 辺は $a$ と $b$ なので、ex-hat-start の (3) で $b,c$ の役を $a,b$ に替えて
$$ \frac{(s-a)(s-b)}{ab}=\frac{\frac92\cdot\frac52}{15}=\frac{45}{60}=\frac34,\qquad \frac{s(s-c)}{ab}=\frac{\frac{15}2\cdot\frac12}{15}=\frac{15}{60}=\frac14 $$
となり、やはり $\sin^2\dfrac C2$、$\cos^2\dfrac C2$ が現れる。角が鈍角でも同じである。

2 つの例では、余弦を経由せずに、3 辺と $s$ だけで角の半分の三角比が書けているように見える。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 3 辺から角の半分の正弦・余弦・正接を直接求める式はあるか。→ thm-hat-main
  2. 正接 $\tan\dfrac A2$ は、図の上で何の比か。→ prop-hat-incircle
  3. 2 つの見方を合わせると何が分かるか。→ cor-hat-heron、cor-hat-product
    高校の計算この記事の式見方
    余弦定理のあとに半角の公式$\sin\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}}$ など$1\pm\cos A$ の因数分解
    内接円の接点までの長さ $s-a$$\tan\dfrac A2=\dfrac r{s-a}$直角三角形の正接
    Heron の公式$r^2=\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$正接を 2 通りに書いて比べる
    $t=\tan\dfrac\theta2$ による式$\cos A=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}$円の上の有理点

記号の準備:半周長

以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とし、頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$ で表す。

半周長

三角形 $ABC$ の 3 辺の長さの和の半分
$$ s=\frac{a+b+c}2 $$
を、三角形の 半周長 という。

半周長から 1 辺を引いた数 $s-a$、$s-b$、$s-c$ が、この記事の式の材料になる。これらはいつも正である。
$$ s-a=\frac{a+b+c}2-a=\frac{b+c-a}2 $$
で、三角形の 2 辺の和は残りの 1 辺より大きい(三角不等式 $b+c>a$)ので、$s-a>0$ である。$s-b$、$s-c$ も同じである。

半周長から 1 辺を引いた数
3 辺 $a,b,c$$s$$s-a$$s-b$$s-c$いちばん大きい角
$7,5,8$$10$$3$$5$$2$$C$(鋭角、約 $81.8^\circ$)
$3,5,7$$\dfrac{15}2$$\dfrac92$$\dfrac52$$\dfrac12$$C=120^\circ$
$5,5,8$$9$$4$$4$$1$$C$(鈍角、約 $106.3^\circ$)

どの行でも $(s-a)+(s-b)+(s-c)=3s-2s=s$ になっている。たとえば 1 行目は $3+5+2=10$ である。

主定理:3 辺で書いた半角の式

ex-hat-start と ex-hat-obtuse で見た一致は、どの三角形でも成り立つ。

三角形の半角公式

三角形 $ABC$ の半周長を $s$ とすると
$$ \sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}},\qquad \cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}},\qquad \tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}} $$
が成り立つ。角 $B$、$C$ についても、文字を $a\to b\to c\to a$、$A\to B\to C\to A$ と回した式が成り立つ。たとえば $\sin\dfrac C2=\sqrt{\dfrac{(s-a)(s-b)}{ab}}$ である。

$1\pm\cos A$ を因数分解する

方針:半角の公式の右辺 $1-\cos A$、$1+\cos A$ に余弦定理を代入し、分子を 2 乗の差として因数分解する。最後に、角の半分が鋭角であることから平方根の符号を決める。
段 1($1-\cos A$)。余弦定理 $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ を代入して通分すると
$$ 1-\cos A=\frac{2bc-(b^2+c^2-a^2)}{2bc}=\frac{a^2-(b^2-2bc+c^2)}{2bc}=\frac{a^2-(b-c)^2}{2bc} $$
である。分子は 2 乗の差 $X^2-Y^2=(X-Y)(X+Y)$ の形なので
$$ a^2-(b-c)^2=\{a-(b-c)\}\{a+(b-c)\}=\underbrace{(a-b+c)}_{2(s-b)}\,\underbrace{(a+b-c)}_{2(s-c)} $$
と因数分解できる。ここで $a-b+c=(a+b+c)-2b=2s-2b=2(s-b)$、$a+b-c=2s-2c=2(s-c)$ を使った。よって
$$ 1-\cos A=\frac{4(s-b)(s-c)}{2bc}=\frac{2(s-b)(s-c)}{bc} $$
である。
段 2(正弦の 2 乗)。半角の公式 $\sin^2\dfrac A2=\dfrac{1-\cos A}2$ に段 1 を代入すると
$$ \sin^2\frac A2=\frac{(s-b)(s-c)}{bc} $$
である。
段 3($1+\cos A$ と余弦の 2 乗)。同じように
$$ 1+\cos A=\frac{2bc+b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{(b+c)^2-a^2}{2bc}=\frac{\overbrace{(b+c+a)}^{2s}\,\overbrace{(b+c-a)}^{2(s-a)}}{2bc}=\frac{2s(s-a)}{bc} $$
で、半角の公式 $\cos^2\dfrac A2=\dfrac{1+\cos A}2$ から
$$ \cos^2\frac A2=\frac{s(s-a)}{bc} $$
である。
段 4(符号)。三角形の角は $0^\circ< A<180^\circ$ を満たすので $0^\circ<\dfrac A2<90^\circ$ で、$\sin\dfrac A2>0$、$\cos\dfrac A2>0$ である。また $s$、$s-a$、$s-b$、$s-c$ は正なので(def-hat-s の後の説明)、段 2・段 3 の右辺は正である。正の数の正の平方根をとって、$\sin\dfrac A2$ と $\cos\dfrac A2$ の式を得る。
段 5(正接)。$\tan\dfrac A2=\dfrac{\sin\frac A2}{\cos\frac A2}$ に段 4 の式を代入すると、分母の $bc$ が約分されて
$$ \tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{\cancel{bc}}\cdot\frac{\cancel{bc}}{s(s-a)}}=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}} $$
である。
角 $B$、$C$ についても、余弦定理を $\cos B=\dfrac{c^2+a^2-b^2}{2ca}$、$\cos C=\dfrac{a^2+b^2-c^2}{2ab}$ に替えて段 1〜5 を繰り返せばよい。$\square$

式の形は次のように覚えられる。角 $A$ の式では、分母に $A$ をはさむ 2 辺の積 $bc$ が来る。正弦の分子には $A$ をはさむ辺 $b$、$c$ に対応する $s-b$、$s-c$ が、余弦の分子には $s$ と $s-a$ が来る。

3 辺が 5, 5, 8 の三角形

$a=5$、$b=5$、$c=8$ とする。ex-hat-s の表から $s=9$、$s-a=4$、$s-b=4$、$s-c=1$ である。
(1) 鈍角の $C$。$C$ をはさむ辺は $a$、$b$ なので
$$ \sin\frac C2=\sqrt{\frac{(s-a)(s-b)}{ab}}=\sqrt{\frac{4\cdot4}{25}}=\frac45,\qquad \cos\frac C2=\sqrt{\frac{s(s-c)}{ab}}=\sqrt{\frac{9\cdot1}{25}}=\frac35,\qquad \tan\frac C2=\frac43 $$
である。2 倍角の公式で元の角にもどすと
$$ \cos C=1-2\sin^2\frac C2=1-\frac{32}{25}=-\frac7{25},\qquad \sin C=2\sin\frac C2\cos\frac C2=\frac{24}{25} $$
で、余弦定理 $\cos C=\dfrac{25+25-64}{50}=-\dfrac{14}{50}=-\dfrac7{25}$ と一致する。
(2) 角 $A$。$A$ をはさむ辺は $b$、$c$ なので
$$ \sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}}=\sqrt{\frac{4\cdot1}{40}}=\frac1{\sqrt{10}},\qquad \cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}}=\sqrt{\frac{9\cdot4}{40}}=\frac3{\sqrt{10}},\qquad \tan\frac A2=\frac13 $$
である。$a=b$ なので $B=A$ で、$\tan\dfrac B2=\dfrac13$ でもある。

(3) 角の和で検算する計算を開く

$\dfrac A2+\dfrac B2+\dfrac C2=90^\circ$ なので、$\tan\left(\dfrac A2+\dfrac B2\right)$ は $\dfrac1{\tan\frac C2}=\dfrac34$ に等しいはずである。正接の加法定理で

$$\tan\left(\frac A2+\frac B2\right)=\frac{\frac13+\frac13}{1-\frac13\cdot\frac13}=\frac{\frac23}{\frac89}=\frac34$$

となり、たしかに一致する。

3 つの式を比べておく。

式根号の中の分子根号の中の分母鈍角の角でも使えるか向いている場面
$\sin\dfrac A2$$(s-b)(s-c)$$bc$使える面積 $\dfrac12bc\sin A$ と組み合わせる
$\cos\dfrac A2$$s(s-a)$$bc$使える2 倍角の公式 $\sin A=2\sin\dfrac A2\cos\dfrac A2$ で $\sin A$ にもどす
$\tan\dfrac A2$$(s-b)(s-c)$$s(s-a)$使える辺の積が要らない。内接円の半径と結びつく
余弦定理 → $\cos A$——使える角そのものの余弦がほしいとき

角 $A$ の半分はいつも鋭角なので、3 つの式に「鋭角のときだけ」という制限はない。角を求めるときも、$\tan\dfrac A2$ の値から $\dfrac A2$ を $0^\circ$ と $90^\circ$ の間でただ 1 つに決め、2 倍すればよい。

内接円で見る:正接は半径と接線の長さの比

thm-hat-main の正接の式の $s-a$ には、図の上の意味がある。三角形の内接円が辺 $CA$、$AB$ に接する点を $E$、$F$ とすると、頂点 $A$ から接点までの長さは $AE=AF=s-a$ である。これは 1 点から円に引いた 2 本の接線の長さが等しいことから出る事実で、証明は 三角形の面積の公式 の命題「頂点から接点までの長さ」にある(Ravi置換 では $x=s-a$ とおいて同じ長さを使う)。

内接円の半径と半角の正接

三角形 $ABC$ の内接円の半径を $r$、半周長を $s$ とすると
$$ \tan\frac A2=\frac r{s-a},\qquad \tan\frac B2=\frac r{s-b},\qquad \tan\frac C2=\frac r{s-c} $$
が成り立つ。

内心・頂点・接点の直角三角形

方針:内心 $I$、頂点 $A$、接点 $F$ を結ぶと、$F$ で直角の三角形ができる。その三角形で正接の定義を使う(図 1)。
段 1(角)。内心 $I$ は 3 つの角の二等分線の交点なので、半直線 $AI$ は角 $A$ を 2 等分する。$F$ は辺 $AB$ の上にあるので、$\angle IAF=\dfrac A2$ である。
段 2(直角と長さ)。円の接線は接点を通る半径に垂直なので、$\angle AFI=90^\circ$ で、$IF=r$ である。上で述べたとおり $AF=s-a$ である。
段 3(正接)。直角三角形 $AFI$ で、角 $\angle IAF$ の向かいの辺は $IF$、となりの辺は $AF$ なので
$$ \tan\frac A2=\tan\angle IAF=\frac{IF}{AF}=\frac r{s-a} $$
である。頂点 $B$、$C$ でも、接点までの長さ $s-b$、$s-c$ を使って同じように示せる。$\square$

3 辺 7、5、8 の三角形の内接円。頂点 A、内心 I、接点 F の直角三角形で、A の角は A/2、AF は s−a=3、IF は半径 r になる 3 辺 7、5、8 の三角形の内接円。頂点 A、内心 I、接点 F の直角三角形で、A の角は A/2、AF は s−a=3、IF は半径 r になる
3 辺 3、5、7 の三角形で、鈍角 C=120° の頂点、内心 I、接点 D の直角三角形。C の角は 60°、CD は s−c=1/2 になる 3 辺 3、5、7 の三角形で、鈍角 C=120° の頂点、内心 I、接点 D の直角三角形。C の角は 60°、CD は s−c=1/2 になる

図 1 と図 2 のどちらでも、頂点・内心・接点を結ぶと直角三角形ができる。鈍角の頂点でも、角の半分は $90^\circ$ より小さいので、同じ形の直角三角形になる。

内接円の半径から正接を求める
  1. ex-hat-start の 3 辺 $7,5,8$ の三角形。$A=60^\circ$ なので面積は $S=\dfrac12bc\sin A=\dfrac12\cdot5\cdot8\cdot\dfrac{\sqrt3}2=10\sqrt3$ である。内接円の半径は $S=rs$(三角形の面積の公式)から $r=\dfrac{10\sqrt3}{10}=\sqrt3$ である。prop-hat-incircle により
    $$ \tan\frac A2=\frac{\sqrt3}3,\qquad \tan\frac B2=\frac{\sqrt3}5,\qquad \tan\frac C2=\frac{\sqrt3}2 $$
    である。$\tan\dfrac A2=\dfrac{\sqrt3}3=\tan30^\circ$ は $A=60^\circ$ と合う。$\tan\dfrac B2$ は thm-hat-main の式でも $\sqrt{\dfrac{(s-c)(s-a)}{s(s-b)}}=\sqrt{\dfrac{2\cdot3}{10\cdot5}}=\sqrt{\dfrac3{25}}=\dfrac{\sqrt3}5$ となり、一致する。
  2. ex-hat-obtuse の 3 辺 $3,5,7$ の三角形。$C=120^\circ$ なので $S=\dfrac12ab\sin C=\dfrac12\cdot3\cdot5\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\dfrac{15\sqrt3}4$、$r=\dfrac Ss=\dfrac{15\sqrt3}4\cdot\dfrac2{15}=\dfrac{\sqrt3}2$ である。よって
    $$ \tan\frac C2=\frac r{s-c}=\frac{\sqrt3/2}{1/2}=\sqrt3 $$
    で、$\dfrac C2=60^\circ$ と合う。図 2 の直角三角形 $CDI$ は、$CD=\dfrac12$、$DI=\dfrac{\sqrt3}2$ の、角が $30^\circ$、$60^\circ$、$90^\circ$ の三角形である。

系:Heron の公式と正接の積

正接を 2 通りに書けたので、比べると新しい等式が出る。

内接円の半径と Heron の公式

三角形 $ABC$ の内接円の半径を $r$、面積を $S$ とすると
$$ r^2=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s,\qquad S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} $$
が成り立つ。

2 つの正接の式を等しいとおく

段 1。thm-hat-main と prop-hat-incircle は同じ $\tan\dfrac A2$ を表すので
$$ \frac r{s-a}=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}} $$
である。両辺は正なので、2 乗しても同値である。2 乗すると $\dfrac{r^2}{(s-a)^2}=\dfrac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}$ で、両辺に $(s-a)^2$ を掛けると
$$ r^2=\frac{(s-a)^2(s-b)(s-c)}{s(s-a)}=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s $$
である。
段 2。三角形の面積は $S=rs$ である(内心と 3 頂点を結んで 3 つの三角形に分け、高さがどれも $r$ であることから出る。三角形の面積の公式)。段 1 を使うと
$$ S^2=r^2s^2=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s\cdot s^2=s(s-a)(s-b)(s-c) $$
で、$S>0$ なので $S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$ である。$\square$

2 つ目の式は Heron の公式 である。三角形の面積の公式 では座標をおいて高さを計算して示しているが、ここでは余弦定理・半角の公式・接線の長さから導いた。1 つ目の式 $r^2=\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$ は、三角形の面積の公式 では逆に、Heron の公式と $S=rs$ から導いている。

半角の正接の積

三角形 $ABC$ で
$$ \tan\frac A2\tan\frac B2\tan\frac C2=\frac rs $$
が成り立つ。

分母に Heron の形を作る

prop-hat-incircle の 3 つの式を掛けると
$$ \tan\frac A2\tan\frac B2\tan\frac C2=\frac{r^3}{(s-a)(s-b)(s-c)} $$
である。cor-hat-heron の 1 つ目の式から $(s-a)(s-b)(s-c)=r^2s$ なので、右辺は $\dfrac{r^3}{r^2s}=\dfrac rs$ である。$\square$

積と Heron の公式を数で確かめる
  1. 3 辺 $3,5,7$。$s(s-a)(s-b)(s-c)=\dfrac{15}2\cdot\dfrac92\cdot\dfrac52\cdot\dfrac12=\dfrac{675}{16}$ なので
    $$ S=\sqrt{\frac{675}{16}}=\frac{15\sqrt3}4 $$
    で、ex-hat-incircle (2) の面積と一致する。$r^2=\dfrac{\frac92\cdot\frac52\cdot\frac12}{\frac{15}2}=\dfrac{45/8}{15/2}=\dfrac34$ から $r=\dfrac{\sqrt3}2$ で、これも一致する。
  2. 3 辺 $7,5,8$。ex-hat-incircle (1) の 3 つの正接の積は
    $$ \frac{\sqrt3}3\cdot\frac{\sqrt3}5\cdot\frac{\sqrt3}2=\frac{3\sqrt3}{30}=\frac{\sqrt3}{10} $$
    で、$\dfrac rs=\dfrac{\sqrt3}{10}$ と一致する。
    (3) 3 辺 9、10、17 の三角形での計算を開く

    $a=9$、$b=10$、$c=17$ とする。$s=18$、$s-a=9$、$s-b=8$、$s-c=1$ で、$r^2=\dfrac{9\cdot8\cdot1}{18}=4$、$r=2$ である。正接は $\dfrac29$、$\dfrac28=\dfrac14$、$\dfrac21=2$ で、積は $\dfrac29\cdot\dfrac14\cdot2=\dfrac19=\dfrac rs$ である。

傍接円で見る

辺 $BC$ と、辺 $AB$、$AC$ の延長に接する円を、頂点 $A$ の向かいの 傍接円 という(三角形の内心と傍心)。その半径を $r_a$ とすると、$r_a=\dfrac S{s-a}$ である(同記事の命題「内接円・傍接円の半径と面積」)。

傍接円の半径で書いた正接

$r_a=\dfrac S{s-a}$ と $S=rs$ から
$$ \frac{r_a}s=\frac S{s(s-a)}=\frac{rs}{s(s-a)}=\frac r{s-a}=\tan\frac A2 $$
である。
図の上では次のように読める(図 3)。傍接円の中心 $I_a$ も角 $A$ の二等分線の上にある。傍接円が直線 $AB$、$AC$、$BC$ に接する点を $F'$、$E'$、$D'$ とすると、1 点から引いた 2 本の接線の長さは等しいので $AF'=AE'$、$BF'=BD'$、$CE'=CD'$ である。$F'$ は $AB$ の $B$ の先に、$E'$ は $AC$ の $C$ の先にあり、$D'$ は辺 $BC$ の上にあるので
$$ AF'+AE'=(c+BF')+(b+CE')=b+c+(BD'+D'C)=a+b+c=2s $$
となり、$AF'=s$ である。直角三角形 $AF'I_a$ で $\tan\dfrac A2=\dfrac{I_aF'}{AF'}=\dfrac{r_a}s$ となる。直角三角形 $AFI$ と $AF'I_a$ は、角 $\dfrac A2$ を共有する相似な三角形である。
3 辺 $7,5,8$ では $S=10\sqrt3$、$s-a=3$ なので $r_a=\dfrac{10\sqrt3}3$ で、$\dfrac{r_a}s=\dfrac{\sqrt3}3=\tan30^\circ$ となる。

3 辺 7、5、8 の三角形の内接円と、A の向かいの傍接円。A から接点までの長さは内接円で s−a=3、傍接円で s=10 で、2 つの直角三角形は相似になる 3 辺 7、5、8 の三角形の内接円と、A の向かいの傍接円。A から接点までの長さは内接円で s−a=3、傍接円で s=10 で、2 つの直角三角形は相似になる

例と反例

thm-hat-main を使うときに起こりやすい誤りと、仮定を外した場合を並べる。

外す条件・取り違え反例成り立たなくなること
平方根を正にとる($\dfrac A2$ は鋭角)3 辺 $3,5,7$ で $\cos\dfrac C2=-\dfrac12$ とする$C$ が三角形の角($0^\circ$ と $180^\circ$ の間)になる
分母は $s-a$($s$ ではない)3 辺 $7,5,8$ で $\dfrac rs$ を使う$\tan\dfrac A2$ の値が正しい
3 辺が三角不等式を満たす3 つの数 $1,2,4$根号の中が正になる
反例:負の平方根をとる

3 辺 $3,5,7$ で $\cos^2\dfrac C2=\dfrac{s(s-c)}{ab}=\dfrac14$ である(ex-hat-obtuse)。ここで負の平方根 $\cos\dfrac C2=-\dfrac12$ をとり、$\sin\dfrac C2=\dfrac{\sqrt3}2$ と組み合わせると、$\dfrac C2=120^\circ$、つまり $C=240^\circ$ となる。これは $180^\circ$ を超え、三角形の角ではない。
一般の角の半角の公式では、平方根の符号は角の半分がどの象限にあるかで決まる(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の反例「半角の公式で符号を決めずに平方根をとる」)。三角形の角では $\dfrac C2$ がいつも $0^\circ$ と $90^\circ$ の間にあるので、正の平方根だけが正しい。

反例:分母を $s$ にする

3 辺 $7,5,8$ で $r=\sqrt3$、$s=10$ である(ex-hat-incircle)。$\tan\dfrac A2$ を $\dfrac rs$ と取り違えると $\dfrac{\sqrt3}{10}\approx0.173$ となり、正しい値 $\dfrac r{s-a}=\dfrac{\sqrt3}3\approx0.577$ と合わない。$\dfrac rs$ から角を出すと $\dfrac A2\approx9.83^\circ$、$A\approx19.65^\circ$ となり、$A=60^\circ$ とかけ離れる。
$\dfrac rs$ は 3 つの半角の正接の積である(cor-hat-product)。分母に $s$ が来る正しい式は、傍接円の半径を使う $\dfrac{r_a}s$ の方である(rem-hat-excircle)。

反例:三角形にならない 3 つの数

$a=1$、$b=2$、$c=4$ とすると $s=\dfrac72$、$s-a=\dfrac52$、$s-b=\dfrac32$、$s-c=-\dfrac12$ で、$s-c$ が負になる。式に代入すると
$$ \frac{(s-b)(s-c)}{bc}=\frac{\frac32\cdot\left(-\frac12\right)}{8}=-\frac3{32}<0 $$
で、根号の中が負になり、$\sin\dfrac A2$ が実数として定まらない。余弦定理の式に代入しても $\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\dfrac{19}{16}>1$ で、余弦がこの値になる角はない。$1+2<4$ で三角不等式が成り立たず、この 3 つの長さの三角形はない。def-hat-s の後で見たとおり、$s-a$、$s-b$、$s-c$ がすべて正であることは、三角不等式が 3 つとも成り立つことと同じである。

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半角の正接と円の上の有理点

$t=\tan\dfrac A2$ とおくと
$$ \cos A=\frac{1-t^2}{1+t^2},\qquad \sin A=\frac{2t}{1+t^2} $$
である(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の $t=\tan\frac\theta2$ による式)。$t$ が有理数なら、点 $(\cos A,\sin A)$ は座標が有理数の、単位円の上の点になる。
3 辺が整数で面積も整数の三角形では、prop-hat-incircle により $t=\dfrac r{s-a}=\dfrac S{s(s-a)}$ は有理数である。たとえば 3 辺 $a=14$、$b=15$、$c=13$ では、$s=21$、面積 $84$、$r=4$ で、$t=\dfrac r{s-a}=\dfrac47$、$\dfrac r{s-b}=\dfrac23$、$\dfrac r{s-c}=\dfrac12$ から
$$ (\cos A,\sin A)=\left(\frac{33}{65},\frac{56}{65}\right),\qquad (\cos B,\sin B)=\left(\frac5{13},\frac{12}{13}\right),\qquad (\cos C,\sin C)=\left(\frac35,\frac45\right) $$
が得られ、どれも $x^2+y^2=1$ の有理点である(たとえば $33^2+56^2=65^2$)。辺と面積が整数の三角形の角が、ピタゴラス数と円の有理点 の有理点と結びつく。辺が整数で面積が有理数なら面積は整数になることは、Heronの公式 で示されている。

小さい角を丸めた数で求めるとき

余弦定理で $\cos A$ を出してから角を求める方法と、thm-hat-main の正接の式から角を求める方法は、数学としては同じ答えを与える。しかし、途中の数を決まった桁数に丸めて計算すると、結果に差が出ることがある。下の例では、とても細い三角形の小さい角で、正接の式の方が正確だった。一般にどちらがどれだけ正確かは、この記事では論じない。

3 辺 0.002、1、1.001 の三角形での比較を開く

$a=0.002$、$b=1$、$c=1.001$ とする。$a+b=1.002>1.001$ なので三角形がある。本当の角は $A\approx0.0991896311^\circ$ である。

(1) 余弦定理では $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=0.9999985014985\ldots$ である。これを 8 桁に丸めた $0.99999850$ から角を出すと $A\approx0.0992392^\circ$ となり、4 桁目から違う。$\cos A$ が $1$ にとても近いと、$\cos$ のグラフが平らなところで角を読むことになり、$\cos A$ の小さな誤差が角の大きな誤差になる。

(2) 正接の式では $s=1.0015$、$s-a=0.9995$、$s-b=0.0015$、$s-c=0.0005$ で、どれも丸めなしに書ける。$\tan\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{0.0015\times0.0005}{1.0015\times0.9995}}$ を 8 桁で計算して 2 倍の角を出すと $A\approx0.09918963^\circ$ で、8 桁まで正しい。$s-b$、$s-c$ のような小さな差を、丸める前の辺の長さから直接作っていることが効いている。

さらに先へ

  • 半角の式を 2 つの角について組み合わせると、3 辺と 3 つの角をすべて含む式が得られる。次の記事 Mollweideの公式 では、正弦定理と和積の公式からその式を導く。
  • 互いに外接する 3 つの円の中心を結んだ三角形では、辺が「2 つの半径の和」になり、$s-a$ などが半径そのものになる。Descartesの円定理 の証明で使う半角の式(外接する場合)は、この記事の正弦・余弦の式をその三角形に当てはめたものである。
  • $x=s-a$、$y=s-b$、$z=s-c$ とおくと、この記事の式は $\tan\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{yz}{x(x+y+z)}}$ のように $x,y,z$ だけで書ける。3 辺の不等式をこの置き換えで扱うのが Ravi置換 である。

関連項目

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