三角形の半角公式(half-angle formulas for triangles)とは、三角形 $ABC$ の 3 辺 $a,b,c$ と半周長 $s=\frac{a+b+c}2$ で、角の半分の三角比を $\sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}}$、$\cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}}$、$\tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}$ と表す式である($B,C$ も同様)。余弦定理と半角の公式から出て、$\frac A2$ は鋭角なので平方根は正にとる。内接円の半径 $r$ で $\tan\frac A2=\frac r{s-a}$ とも書け、比べると Heron の公式が出る。
余弦定理(高校数学) を使うと、三角形の 3 辺の長さから角の余弦が求まる。さらに角の半分の三角比がほしいときは、加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の半角の公式
$$
\sin^2\frac\theta2=\frac{1-\cos\theta}2,\qquad \cos^2\frac\theta2=\frac{1+\cos\theta}2
$$
を使う。まず、数の決まった三角形で 2 つの公式を続けて使ってみる。
$a=BC=7$、$b=CA=5$、$c=AB=8$ の三角形 $ABC$ で、角 $A$ の半分の三角比を求める。
(1) 余弦定理により
$$
\cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{25+64-49}{2\cdot5\cdot8}=\frac{40}{80}=\frac12
$$
である。
(2) 半角の公式により
$$
\sin^2\frac A2=\frac{1-\frac12}2=\frac14,\qquad \cos^2\frac A2=\frac{1+\frac12}2=\frac34
$$
である。$0^\circ< A<180^\circ$ なので $0^\circ<\dfrac A2<90^\circ$ で、正弦も余弦も正である。よって $\sin\dfrac A2=\dfrac12$、$\cos\dfrac A2=\dfrac{\sqrt3}2$ で、$A=60^\circ$、$\dfrac A2=30^\circ$ と合っている。
(3) 3 辺の和の半分を $s=\dfrac{7+5+8}2=10$ とおくと、$s-a=3$、$s-b=5$、$s-c=2$ である。この数で
$$
\frac{(s-b)(s-c)}{bc}=\frac{5\cdot2}{5\cdot8}=\frac14,\qquad \frac{s(s-a)}{bc}=\frac{10\cdot3}{5\cdot8}=\frac34
$$
を計算すると、(2) で求めた $\sin^2\dfrac A2$、$\cos^2\dfrac A2$ がそのまま現れる。
$a=3$、$b=5$、$c=7$ の三角形で、いちばん長い辺 $c$ の向かいの角 $C$ を調べる。
(1) 余弦定理により
$$
\cos C=\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab}=\frac{9+25-49}{2\cdot3\cdot5}=\frac{-15}{30}=-\frac12
$$
で、$C=120^\circ$ の鈍角である。
(2) 半角の公式により $\sin^2\dfrac C2=\dfrac{1+\frac12}2=\dfrac34$、$\cos^2\dfrac C2=\dfrac{1-\frac12}2=\dfrac14$ で、$0^\circ<\dfrac C2<90^\circ$ から $\sin\dfrac C2=\dfrac{\sqrt3}2$、$\cos\dfrac C2=\dfrac12$ である。$\dfrac C2=60^\circ$ と合っている。
(3) $s=\dfrac{3+5+7}2=\dfrac{15}2$ で、$s-a=\dfrac92$、$s-b=\dfrac52$、$s-c=\dfrac12$ である。角 $C$ をはさむ 2 辺は $a$ と $b$ なので、ex-hat-start の (3) で $b,c$ の役を $a,b$ に替えて
$$
\frac{(s-a)(s-b)}{ab}=\frac{\frac92\cdot\frac52}{15}=\frac{45}{60}=\frac34,\qquad \frac{s(s-c)}{ab}=\frac{\frac{15}2\cdot\frac12}{15}=\frac{15}{60}=\frac14
$$
となり、やはり $\sin^2\dfrac C2$、$\cos^2\dfrac C2$ が現れる。角が鈍角でも同じである。
2 つの例では、余弦を経由せずに、3 辺と $s$ だけで角の半分の三角比が書けているように見える。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の式 | 見方 |
|---|---|---|
| 余弦定理のあとに半角の公式 | $\sin\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{bc}}$ など | $1\pm\cos A$ の因数分解 |
| 内接円の接点までの長さ $s-a$ | $\tan\dfrac A2=\dfrac r{s-a}$ | 直角三角形の正接 |
| Heron の公式 | $r^2=\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$ | 正接を 2 通りに書いて比べる |
| $t=\tan\dfrac\theta2$ による式 | $\cos A=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}$ | 円の上の有理点 |
以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とし、頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$ で表す。
三角形 $ABC$ の 3 辺の長さの和の半分
$$
s=\frac{a+b+c}2
$$
を、三角形の 半周長 という。
半周長から 1 辺を引いた数 $s-a$、$s-b$、$s-c$ が、この記事の式の材料になる。これらはいつも正である。
$$
s-a=\frac{a+b+c}2-a=\frac{b+c-a}2
$$
で、三角形の 2 辺の和は残りの 1 辺より大きい(三角不等式 $b+c>a$)ので、$s-a>0$ である。$s-b$、$s-c$ も同じである。
| 3 辺 $a,b,c$ | $s$ | $s-a$ | $s-b$ | $s-c$ | いちばん大きい角 |
|---|---|---|---|---|---|
| $7,5,8$ | $10$ | $3$ | $5$ | $2$ | $C$(鋭角、約 $81.8^\circ$) |
| $3,5,7$ | $\dfrac{15}2$ | $\dfrac92$ | $\dfrac52$ | $\dfrac12$ | $C=120^\circ$ |
| $5,5,8$ | $9$ | $4$ | $4$ | $1$ | $C$(鈍角、約 $106.3^\circ$) |
どの行でも $(s-a)+(s-b)+(s-c)=3s-2s=s$ になっている。たとえば 1 行目は $3+5+2=10$ である。
ex-hat-start と ex-hat-obtuse で見た一致は、どの三角形でも成り立つ。
三角形 $ABC$ の半周長を $s$ とすると
$$
\sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}},\qquad
\cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}},\qquad
\tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}
$$
が成り立つ。角 $B$、$C$ についても、文字を $a\to b\to c\to a$、$A\to B\to C\to A$ と回した式が成り立つ。たとえば $\sin\dfrac C2=\sqrt{\dfrac{(s-a)(s-b)}{ab}}$ である。
方針:半角の公式の右辺 $1-\cos A$、$1+\cos A$ に余弦定理を代入し、分子を 2 乗の差として因数分解する。最後に、角の半分が鋭角であることから平方根の符号を決める。
段 1($1-\cos A$)。余弦定理 $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ を代入して通分すると
$$
1-\cos A=\frac{2bc-(b^2+c^2-a^2)}{2bc}=\frac{a^2-(b^2-2bc+c^2)}{2bc}=\frac{a^2-(b-c)^2}{2bc}
$$
である。分子は 2 乗の差 $X^2-Y^2=(X-Y)(X+Y)$ の形なので
$$
a^2-(b-c)^2=\{a-(b-c)\}\{a+(b-c)\}=\underbrace{(a-b+c)}_{2(s-b)}\,\underbrace{(a+b-c)}_{2(s-c)}
$$
と因数分解できる。ここで $a-b+c=(a+b+c)-2b=2s-2b=2(s-b)$、$a+b-c=2s-2c=2(s-c)$ を使った。よって
$$
1-\cos A=\frac{4(s-b)(s-c)}{2bc}=\frac{2(s-b)(s-c)}{bc}
$$
である。
段 2(正弦の 2 乗)。半角の公式 $\sin^2\dfrac A2=\dfrac{1-\cos A}2$ に段 1 を代入すると
$$
\sin^2\frac A2=\frac{(s-b)(s-c)}{bc}
$$
である。
段 3($1+\cos A$ と余弦の 2 乗)。同じように
$$
1+\cos A=\frac{2bc+b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{(b+c)^2-a^2}{2bc}=\frac{\overbrace{(b+c+a)}^{2s}\,\overbrace{(b+c-a)}^{2(s-a)}}{2bc}=\frac{2s(s-a)}{bc}
$$
で、半角の公式 $\cos^2\dfrac A2=\dfrac{1+\cos A}2$ から
$$
\cos^2\frac A2=\frac{s(s-a)}{bc}
$$
である。
段 4(符号)。三角形の角は $0^\circ< A<180^\circ$ を満たすので $0^\circ<\dfrac A2<90^\circ$ で、$\sin\dfrac A2>0$、$\cos\dfrac A2>0$ である。また $s$、$s-a$、$s-b$、$s-c$ は正なので(def-hat-s の後の説明)、段 2・段 3 の右辺は正である。正の数の正の平方根をとって、$\sin\dfrac A2$ と $\cos\dfrac A2$ の式を得る。
段 5(正接)。$\tan\dfrac A2=\dfrac{\sin\frac A2}{\cos\frac A2}$ に段 4 の式を代入すると、分母の $bc$ が約分されて
$$
\tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{\cancel{bc}}\cdot\frac{\cancel{bc}}{s(s-a)}}=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}
$$
である。
角 $B$、$C$ についても、余弦定理を $\cos B=\dfrac{c^2+a^2-b^2}{2ca}$、$\cos C=\dfrac{a^2+b^2-c^2}{2ab}$ に替えて段 1〜5 を繰り返せばよい。$\square$
式の形は次のように覚えられる。角 $A$ の式では、分母に $A$ をはさむ 2 辺の積 $bc$ が来る。正弦の分子には $A$ をはさむ辺 $b$、$c$ に対応する $s-b$、$s-c$ が、余弦の分子には $s$ と $s-a$ が来る。
$a=5$、$b=5$、$c=8$ とする。ex-hat-s の表から $s=9$、$s-a=4$、$s-b=4$、$s-c=1$ である。
(1) 鈍角の $C$。$C$ をはさむ辺は $a$、$b$ なので
$$
\sin\frac C2=\sqrt{\frac{(s-a)(s-b)}{ab}}=\sqrt{\frac{4\cdot4}{25}}=\frac45,\qquad \cos\frac C2=\sqrt{\frac{s(s-c)}{ab}}=\sqrt{\frac{9\cdot1}{25}}=\frac35,\qquad \tan\frac C2=\frac43
$$
である。2 倍角の公式で元の角にもどすと
$$
\cos C=1-2\sin^2\frac C2=1-\frac{32}{25}=-\frac7{25},\qquad \sin C=2\sin\frac C2\cos\frac C2=\frac{24}{25}
$$
で、余弦定理 $\cos C=\dfrac{25+25-64}{50}=-\dfrac{14}{50}=-\dfrac7{25}$ と一致する。
(2) 角 $A$。$A$ をはさむ辺は $b$、$c$ なので
$$
\sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}}=\sqrt{\frac{4\cdot1}{40}}=\frac1{\sqrt{10}},\qquad \cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}}=\sqrt{\frac{9\cdot4}{40}}=\frac3{\sqrt{10}},\qquad \tan\frac A2=\frac13
$$
である。$a=b$ なので $B=A$ で、$\tan\dfrac B2=\dfrac13$ でもある。
$\dfrac A2+\dfrac B2+\dfrac C2=90^\circ$ なので、$\tan\left(\dfrac A2+\dfrac B2\right)$ は $\dfrac1{\tan\frac C2}=\dfrac34$ に等しいはずである。正接の加法定理で
$$\tan\left(\frac A2+\frac B2\right)=\frac{\frac13+\frac13}{1-\frac13\cdot\frac13}=\frac{\frac23}{\frac89}=\frac34$$
となり、たしかに一致する。
3 つの式を比べておく。
| 式 | 根号の中の分子 | 根号の中の分母 | 鈍角の角でも使えるか | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| $\sin\dfrac A2$ | $(s-b)(s-c)$ | $bc$ | 使える | 面積 $\dfrac12bc\sin A$ と組み合わせる |
| $\cos\dfrac A2$ | $s(s-a)$ | $bc$ | 使える | 2 倍角の公式 $\sin A=2\sin\dfrac A2\cos\dfrac A2$ で $\sin A$ にもどす |
| $\tan\dfrac A2$ | $(s-b)(s-c)$ | $s(s-a)$ | 使える | 辺の積が要らない。内接円の半径と結びつく |
| 余弦定理 → $\cos A$ | — | — | 使える | 角そのものの余弦がほしいとき |
角 $A$ の半分はいつも鋭角なので、3 つの式に「鋭角のときだけ」という制限はない。角を求めるときも、$\tan\dfrac A2$ の値から $\dfrac A2$ を $0^\circ$ と $90^\circ$ の間でただ 1 つに決め、2 倍すればよい。
thm-hat-main の正接の式の $s-a$ には、図の上の意味がある。三角形の内接円が辺 $CA$、$AB$ に接する点を $E$、$F$ とすると、頂点 $A$ から接点までの長さは $AE=AF=s-a$ である。これは 1 点から円に引いた 2 本の接線の長さが等しいことから出る事実で、証明は 三角形の面積の公式 の命題「頂点から接点までの長さ」にある(Ravi置換 では $x=s-a$ とおいて同じ長さを使う)。
三角形 $ABC$ の内接円の半径を $r$、半周長を $s$ とすると
$$
\tan\frac A2=\frac r{s-a},\qquad \tan\frac B2=\frac r{s-b},\qquad \tan\frac C2=\frac r{s-c}
$$
が成り立つ。
方針:内心 $I$、頂点 $A$、接点 $F$ を結ぶと、$F$ で直角の三角形ができる。その三角形で正接の定義を使う(図 1)。
段 1(角)。内心 $I$ は 3 つの角の二等分線の交点なので、半直線 $AI$ は角 $A$ を 2 等分する。$F$ は辺 $AB$ の上にあるので、$\angle IAF=\dfrac A2$ である。
段 2(直角と長さ)。円の接線は接点を通る半径に垂直なので、$\angle AFI=90^\circ$ で、$IF=r$ である。上で述べたとおり $AF=s-a$ である。
段 3(正接)。直角三角形 $AFI$ で、角 $\angle IAF$ の向かいの辺は $IF$、となりの辺は $AF$ なので
$$
\tan\frac A2=\tan\angle IAF=\frac{IF}{AF}=\frac r{s-a}
$$
である。頂点 $B$、$C$ でも、接点までの長さ $s-b$、$s-c$ を使って同じように示せる。$\square$
3 辺 7、5、8 の三角形の内接円。頂点 A、内心 I、接点 F の直角三角形で、A の角は A/2、AF は s−a=3、IF は半径 r になる
3 辺 3、5、7 の三角形で、鈍角 C=120° の頂点、内心 I、接点 D の直角三角形。C の角は 60°、CD は s−c=1/2 になる
図 1 と図 2 のどちらでも、頂点・内心・接点を結ぶと直角三角形ができる。鈍角の頂点でも、角の半分は $90^\circ$ より小さいので、同じ形の直角三角形になる。
正接を 2 通りに書けたので、比べると新しい等式が出る。
三角形 $ABC$ の内接円の半径を $r$、面積を $S$ とすると
$$
r^2=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s,\qquad S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}
$$
が成り立つ。
段 1。thm-hat-main と prop-hat-incircle は同じ $\tan\dfrac A2$ を表すので
$$
\frac r{s-a}=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}
$$
である。両辺は正なので、2 乗しても同値である。2 乗すると $\dfrac{r^2}{(s-a)^2}=\dfrac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}$ で、両辺に $(s-a)^2$ を掛けると
$$
r^2=\frac{(s-a)^2(s-b)(s-c)}{s(s-a)}=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s
$$
である。
段 2。三角形の面積は $S=rs$ である(内心と 3 頂点を結んで 3 つの三角形に分け、高さがどれも $r$ であることから出る。三角形の面積の公式)。段 1 を使うと
$$
S^2=r^2s^2=\frac{(s-a)(s-b)(s-c)}s\cdot s^2=s(s-a)(s-b)(s-c)
$$
で、$S>0$ なので $S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$ である。$\square$
2 つ目の式は Heron の公式 である。三角形の面積の公式 では座標をおいて高さを計算して示しているが、ここでは余弦定理・半角の公式・接線の長さから導いた。1 つ目の式 $r^2=\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}s$ は、三角形の面積の公式 では逆に、Heron の公式と $S=rs$ から導いている。
三角形 $ABC$ で
$$
\tan\frac A2\tan\frac B2\tan\frac C2=\frac rs
$$
が成り立つ。
prop-hat-incircle の 3 つの式を掛けると
$$
\tan\frac A2\tan\frac B2\tan\frac C2=\frac{r^3}{(s-a)(s-b)(s-c)}
$$
である。cor-hat-heron の 1 つ目の式から $(s-a)(s-b)(s-c)=r^2s$ なので、右辺は $\dfrac{r^3}{r^2s}=\dfrac rs$ である。$\square$
$a=9$、$b=10$、$c=17$ とする。$s=18$、$s-a=9$、$s-b=8$、$s-c=1$ で、$r^2=\dfrac{9\cdot8\cdot1}{18}=4$、$r=2$ である。正接は $\dfrac29$、$\dfrac28=\dfrac14$、$\dfrac21=2$ で、積は $\dfrac29\cdot\dfrac14\cdot2=\dfrac19=\dfrac rs$ である。
辺 $BC$ と、辺 $AB$、$AC$ の延長に接する円を、頂点 $A$ の向かいの 傍接円 という(三角形の内心と傍心)。その半径を $r_a$ とすると、$r_a=\dfrac S{s-a}$ である(同記事の命題「内接円・傍接円の半径と面積」)。
$r_a=\dfrac S{s-a}$ と $S=rs$ から
$$
\frac{r_a}s=\frac S{s(s-a)}=\frac{rs}{s(s-a)}=\frac r{s-a}=\tan\frac A2
$$
である。
図の上では次のように読める(図 3)。傍接円の中心 $I_a$ も角 $A$ の二等分線の上にある。傍接円が直線 $AB$、$AC$、$BC$ に接する点を $F'$、$E'$、$D'$ とすると、1 点から引いた 2 本の接線の長さは等しいので $AF'=AE'$、$BF'=BD'$、$CE'=CD'$ である。$F'$ は $AB$ の $B$ の先に、$E'$ は $AC$ の $C$ の先にあり、$D'$ は辺 $BC$ の上にあるので
$$
AF'+AE'=(c+BF')+(b+CE')=b+c+(BD'+D'C)=a+b+c=2s
$$
となり、$AF'=s$ である。直角三角形 $AF'I_a$ で $\tan\dfrac A2=\dfrac{I_aF'}{AF'}=\dfrac{r_a}s$ となる。直角三角形 $AFI$ と $AF'I_a$ は、角 $\dfrac A2$ を共有する相似な三角形である。
3 辺 $7,5,8$ では $S=10\sqrt3$、$s-a=3$ なので $r_a=\dfrac{10\sqrt3}3$ で、$\dfrac{r_a}s=\dfrac{\sqrt3}3=\tan30^\circ$ となる。
3 辺 7、5、8 の三角形の内接円と、A の向かいの傍接円。A から接点までの長さは内接円で s−a=3、傍接円で s=10 で、2 つの直角三角形は相似になる
thm-hat-main を使うときに起こりやすい誤りと、仮定を外した場合を並べる。
| 外す条件・取り違え | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 平方根を正にとる($\dfrac A2$ は鋭角) | 3 辺 $3,5,7$ で $\cos\dfrac C2=-\dfrac12$ とする | $C$ が三角形の角($0^\circ$ と $180^\circ$ の間)になる |
| 分母は $s-a$($s$ ではない) | 3 辺 $7,5,8$ で $\dfrac rs$ を使う | $\tan\dfrac A2$ の値が正しい |
| 3 辺が三角不等式を満たす | 3 つの数 $1,2,4$ | 根号の中が正になる |
3 辺 $3,5,7$ で $\cos^2\dfrac C2=\dfrac{s(s-c)}{ab}=\dfrac14$ である(ex-hat-obtuse)。ここで負の平方根 $\cos\dfrac C2=-\dfrac12$ をとり、$\sin\dfrac C2=\dfrac{\sqrt3}2$ と組み合わせると、$\dfrac C2=120^\circ$、つまり $C=240^\circ$ となる。これは $180^\circ$ を超え、三角形の角ではない。
一般の角の半角の公式では、平方根の符号は角の半分がどの象限にあるかで決まる(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く の反例「半角の公式で符号を決めずに平方根をとる」)。三角形の角では $\dfrac C2$ がいつも $0^\circ$ と $90^\circ$ の間にあるので、正の平方根だけが正しい。
3 辺 $7,5,8$ で $r=\sqrt3$、$s=10$ である(ex-hat-incircle)。$\tan\dfrac A2$ を $\dfrac rs$ と取り違えると $\dfrac{\sqrt3}{10}\approx0.173$ となり、正しい値 $\dfrac r{s-a}=\dfrac{\sqrt3}3\approx0.577$ と合わない。$\dfrac rs$ から角を出すと $\dfrac A2\approx9.83^\circ$、$A\approx19.65^\circ$ となり、$A=60^\circ$ とかけ離れる。
$\dfrac rs$ は 3 つの半角の正接の積である(cor-hat-product)。分母に $s$ が来る正しい式は、傍接円の半径を使う $\dfrac{r_a}s$ の方である(rem-hat-excircle)。
$a=1$、$b=2$、$c=4$ とすると $s=\dfrac72$、$s-a=\dfrac52$、$s-b=\dfrac32$、$s-c=-\dfrac12$ で、$s-c$ が負になる。式に代入すると
$$
\frac{(s-b)(s-c)}{bc}=\frac{\frac32\cdot\left(-\frac12\right)}{8}=-\frac3{32}<0
$$
で、根号の中が負になり、$\sin\dfrac A2$ が実数として定まらない。余弦定理の式に代入しても $\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\dfrac{19}{16}>1$ で、余弦がこの値になる角はない。$1+2<4$ で三角不等式が成り立たず、この 3 つの長さの三角形はない。def-hat-s の後で見たとおり、$s-a$、$s-b$、$s-c$ がすべて正であることは、三角不等式が 3 つとも成り立つことと同じである。
$t=\tan\dfrac A2$ とおくと
$$
\cos A=\frac{1-t^2}{1+t^2},\qquad \sin A=\frac{2t}{1+t^2}
$$
である(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の $t=\tan\frac\theta2$ による式)。$t$ が有理数なら、点 $(\cos A,\sin A)$ は座標が有理数の、単位円の上の点になる。
3 辺が整数で面積も整数の三角形では、prop-hat-incircle により $t=\dfrac r{s-a}=\dfrac S{s(s-a)}$ は有理数である。たとえば 3 辺 $a=14$、$b=15$、$c=13$ では、$s=21$、面積 $84$、$r=4$ で、$t=\dfrac r{s-a}=\dfrac47$、$\dfrac r{s-b}=\dfrac23$、$\dfrac r{s-c}=\dfrac12$ から
$$
(\cos A,\sin A)=\left(\frac{33}{65},\frac{56}{65}\right),\qquad (\cos B,\sin B)=\left(\frac5{13},\frac{12}{13}\right),\qquad (\cos C,\sin C)=\left(\frac35,\frac45\right)
$$
が得られ、どれも $x^2+y^2=1$ の有理点である(たとえば $33^2+56^2=65^2$)。辺と面積が整数の三角形の角が、ピタゴラス数と円の有理点 の有理点と結びつく。辺が整数で面積が有理数なら面積は整数になることは、Heronの公式 で示されている。
余弦定理で $\cos A$ を出してから角を求める方法と、thm-hat-main の正接の式から角を求める方法は、数学としては同じ答えを与える。しかし、途中の数を決まった桁数に丸めて計算すると、結果に差が出ることがある。下の例では、とても細い三角形の小さい角で、正接の式の方が正確だった。一般にどちらがどれだけ正確かは、この記事では論じない。
$a=0.002$、$b=1$、$c=1.001$ とする。$a+b=1.002>1.001$ なので三角形がある。本当の角は $A\approx0.0991896311^\circ$ である。
(1) 余弦定理では $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=0.9999985014985\ldots$ である。これを 8 桁に丸めた $0.99999850$ から角を出すと $A\approx0.0992392^\circ$ となり、4 桁目から違う。$\cos A$ が $1$ にとても近いと、$\cos$ のグラフが平らなところで角を読むことになり、$\cos A$ の小さな誤差が角の大きな誤差になる。
(2) 正接の式では $s=1.0015$、$s-a=0.9995$、$s-b=0.0015$、$s-c=0.0005$ で、どれも丸めなしに書ける。$\tan\dfrac A2=\sqrt{\dfrac{0.0015\times0.0005}{1.0015\times0.9995}}$ を 8 桁で計算して 2 倍の角を出すと $A\approx0.09918963^\circ$ で、8 桁まで正しい。$s-b$、$s-c$ のような小さな差を、丸める前の辺の長さから直接作っていることが効いている。
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