Krull次元(Krull dimension)とは、可換環 $A$ の素イデアルの鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\mathfrak{p}_1\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ の長さ $n$ の上限 $\dim A$ である。体は $0$ 次元、$\mathbb{Z}$ や体でない単項イデアル整域は $1$ 次元、体上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ は $n$ 次元で、体上有限生成な整域では商体の超越次数に一致する。素イデアルでの局所化の次元はその素イデアルの高さであり、素スペクトル $\operatorname{Spec}A$ の既約閉集合の列の長さ(位相空間の Krull次元)と一致する。Noether 局所環の次元は有限だが、永田の例のように無限次元の Noether 環もある。
前提知識: 可換環, 素イデアル, 極大イデアル, 局所化, 剰余環
Krull次元は、可換環の「次元」を素イデアルの鎖の長さで測る量である。点・曲線・曲面のように次元が 1 ずつ増える図形の列は、環の側では素イデアルが真に小さくなっていく列にあたる(図形が大きいほど、それを定める素イデアルは小さい)。そこで素イデアルの真の包含の列がどこまで長くとれるかを環の次元とする。体の次元は $0$、整数環 $\mathbb{Z}$ や体上の一変数多項式環の次元は $1$、体上の $n$ 変数多項式環の次元は $n$ であり、素イデアル全体に Zariski位相 を入れた空間の位相的な次元とも一致する。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつ可換環とし、零環も許す。
$A$ を可換環とする。$A$ の素イデアルの有限列
$$
\mathfrak{p}_0\subsetneq\mathfrak{p}_1\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n
$$
を長さ $n$ の素イデアルの鎖(chain of prime ideals)という。長さは真の包含の個数であり、素イデアル 1 つだけの列は長さ $0$ の鎖である。素イデアルの鎖の長さ全体の上限
$$
\dim A:=\sup\{n\mid A\text{ に長さ }n\text{ の素イデアルの鎖がある}\}\in\{-\infty\}\cup\mathbb{N}\cup\{\infty\}
$$
を $A$ の Krull次元(Krull dimension)、または単に $A$ の次元という。長さに上限がないとき $\dim A=\infty$ と書く。
零環は素イデアルをもたないので、上の集合は空であり、本記事では $\dim 0=-\infty$ とする($-1$ とする流儀もある)。零環でない環は極大イデアルをもち(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)、極大イデアルは素イデアルなので、$A\ne0$ なら $\dim A\ge0$ である。$\dim A=0$ であることは、$A\ne0$ かつ真の包含 $\mathfrak{p}\subsetneq\mathfrak{q}$ をもつ素イデアルの組がないこと、すなわち $A$ のすべての素イデアルが極大イデアルであることと同値である(素イデアル $\mathfrak{p}$ が極大でなければ、$\mathfrak{p}$ を真に含む極大イデアルがあり、長さ $1$ の鎖ができる)。
$A$ を可換環、$\mathfrak{p}$ を $A$ の素イデアルとする。$\mathfrak{p}_n=\mathfrak{p}$ で終わる素イデアルの鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ の長さの上限を $\mathfrak{p}$ の高さ(height)といい、$\operatorname{ht}\mathfrak{p}$ と書く。
高さは「$\mathfrak{p}$ の下に何段の素イデアルが積み重なっているか」を測る。定義から $\dim A=\sup_{\mathfrak{p}}\operatorname{ht}\mathfrak{p}$ である。高さ $0$ の素イデアルとは、それより真に小さい素イデアルがないもの、すなわち極小素イデアルである。幾何学では $\operatorname{ht}\mathfrak{p}$ を $\mathfrak{p}$ の定める既約閉集合の余次元とよぶ。
同じ考え方は位相空間にもそのまま使える。
ここで既約とは、空でなく、2 つの真の閉部分集合の和に書けないことである(Zariski位相 の記事の定義「既約な位相空間と生成点」)。Hausdorff空間の既約閉集合は一点だけなので、空でない Hausdorff 空間の Krull次元は $0$ であり、この次元は Zariski 位相のような Hausdorff でない空間のための概念である。可換環 $A$ の素スペクトル $\operatorname{Spec}A$ については $\dim\operatorname{Spec}A=\dim A$ となる(prop-krull-dimension-spec)。
体 $k$ 上の平面 $k^2$ で、原点 $P$、$P$ を通る直線 $L=\{y=0\}$、平面全体 $k^2$ の列 $P\subsetneq L\subsetneq k^2$ を考える。これらを定める多項式のイデアルは $(x,y)\supsetneq(y)\supsetneq(0)$ であり、いずれも $k[x,y]$ の素イデアルである。図形が大きくなるとイデアルは小さくなり、長さ $2$ の素イデアルの鎖が得られる。平面の中でこれより長い「既約な図形の列」はとれない、というのが $\dim k[x,y]=2$ の意味である。次元を座標の個数ではなく包含の段数で数えるので、座標を使わない任意の環にも定義が及ぶ。その代わり、一般の環では鎖の長さが場所によって違ったり(ex-krull-dimension-non-catenary-type)、Noether 環でも次元が無限になったり(thm-krull-dimension-nagata)する。
体 $k$ のイデアルは $0$ と $k$ だけなので、素イデアルは $(0)$ だけであり、$\dim k=0$ である。
より一般に、$A\ne0$ が有限環であるか、体 $k$ 上有限次元の $k$ 代数であるとき、$\dim A=0$ である。実際、素イデアル $\mathfrak{p}$ について $A/\mathfrak{p}$ は整域であり(素イデアル の記事の命題「剰余環が整域であることとの同値」)、しかも有限集合であるか有限次元の $k$ ベクトル空間である。$0\ne a\in A/\mathfrak{p}$ に対し、$a$ 倍写像 $A/\mathfrak{p}\to A/\mathfrak{p}$ は整域なので単射であり、有限集合または有限次元ベクトル空間の単射な($k$ 線形)写像なので全射でもある。よって $ab=1$ となる $b$ があり、$A/\mathfrak{p}$ は体、すなわち $\mathfrak{p}$ は極大イデアルである(極大イデアル の記事の命題「剰余環が体であることとの同値」)。すべての素イデアルが極大なので $\dim A=0$ である。たとえば $n\ge2$ に対する $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、$k[x]/(x^m)$($m\ge1$)、体の有限個の直積環は $0$ 次元である。零でないArtin環はすべて $0$ 次元である(Artin環 の記事)。
$A$ を体でない単項イデアル整域とする。$A$ は整域なので $(0)$ は素イデアルであり、体でないので $0$ でも $A$ でもない元 $a$ で単元でないものがあり、$(a)$ を含む極大イデアル $\mathfrak{m}\ne0$ がある。よって $(0)\subsetneq\mathfrak{m}$ は長さ $1$ の鎖で、$\dim A\ge1$ である。一方、単項イデアル整域の $0$ でない素イデアルはすべて極大である(単項イデアル整域 の記事の命題「零でない素イデアルは極大」)から、長さ $2$ の鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\mathfrak{p}_1\subsetneq\mathfrak{p}_2$ があれば $\mathfrak{p}_1\ne0$ が極大となって $\mathfrak{p}_1\subsetneq\mathfrak{p}_2$ に反する。よって $\dim A=1$ である。
$\mathbb{Z}$、体上の一変数多項式環 $k[x]$、素数 $p$ での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$、形式的冪級数の環 $k[\![t]\!]$ はいずれも $1$ 次元である(後の 2 つは離散付値環)。Dedekind整域は整閉な Noether 整域で Krull次元が $1$ 以下のものである(Dedekind整域 の記事)。同じ $1$ 次元でも、$\mathbb{Z}$ は無限個の極大イデアルをもち、$\mathbb{Z}_{(p)}$ は素イデアルが $(0)\subsetneq p\mathbb{Z}_{(p)}$ の 2 つだけである。
$k$ を体、$A=k[x_1,\dots,x_n]$ とする。$i=0,1,\dots,n$ に対し $\mathfrak{p}_i:=(x_1,\dots,x_i)$($\mathfrak{p}_0=(0)$)とおくと、
$$
A/\mathfrak{p}_i\cong k[x_{i+1},\dots,x_n]
$$
($x_1,\dots,x_i$ に $0$ を代入する写像の核が $\mathfrak{p}_i$)は整域なので $\mathfrak{p}_i$ は素イデアルである。$x_{i+1}\notin\mathfrak{p}_i$(右辺で $x_{i+1}\ne0$)なので $\mathfrak{p}_i\subsetneq\mathfrak{p}_{i+1}$ であり、長さ $n$ の鎖
$$
(0)\subsetneq(x_1)\subsetneq(x_1,x_2)\subsetneq\cdots\subsetneq(x_1,\dots,x_n)
$$
が得られる。よって $\dim k[x_1,\dots,x_n]\ge n$ である。実際には等号が成り立つ(thm-krull-dimension-finitely-generated)が、逆向きの不等式は鎖を 1 本示すだけでは得られず、超越次数などの道具が要る。
$k$ を体、$A=k[x_1,x_2,\dots]$ を可算無限個の変数の多項式環とする。ex-krull-dimension-polynomial と同じ理由で、すべての $n$ について長さ $n$ の鎖 $(0)\subsetneq(x_1)\subsetneq\cdots\subsetneq(x_1,\dots,x_n)$ があるので $\dim A=\infty$ である。$A$ はNoether環でない(Noether環 の記事の例「反例:無限変数の多項式環」)。この例は「次元が有限である」を満たさない環が自然に現れることを示す。Noether 環に限っても次元は無限になりうる(thm-krull-dimension-nagata)。
$k$ を体とし、$A=k[x_1,x_2,\dots]/(x_1^2,x_2^2,\dots)$、$\bar x_i$ を $x_i$ の類とする。各 $\bar x_i$ は冪零($\bar x_i^{\,2}=0$)なので、すべての素イデアルに含まれる。$\mathfrak{m}:=(\bar x_1,\bar x_2,\dots)$ について $A/\mathfrak{m}\cong k$ は体なので $\mathfrak{m}$ は極大イデアルであり、素イデアルはすべて $\mathfrak{m}$ を含むから $\mathfrak{m}$ に等しい。よって $A$ の素イデアルは $\mathfrak{m}$ ただ 1 つで、$\dim A=0$ である。
一方 $A$ は Noether 環でない。イデアルの昇鎖 $(\bar x_1)\subset(\bar x_1,\bar x_2)\subset\cdots$ は真に増大する。実際 $A/(\bar x_1,\dots,\bar x_n)\cong k[x_{n+1},x_{n+2},\dots]/(x_{n+1}^2,x_{n+2}^2,\dots)$ で $\bar x_{n+1}$ の像は $0$ でない(この環は単項式 $x_{j_1}\cdots x_{j_r}$($j_1<\cdots< j_r$)を基底とする $k$ ベクトル空間である)から、$\bar x_{n+1}\notin(\bar x_1,\dots,\bar x_n)$ である。
この環は「$0$ 次元」を満たすが「Noether 環」を満たさず、Noether 環の上で成り立つ含意「$0$ 次元の環はArtin環である」(Artin環 の記事)が Noether 性の仮定なしには成り立たないことを示す。実際、$A/(\bar x_{n+1},\bar x_{n+2},\dots)\cong k[x_1,\dots,x_n]/(x_1^2,\dots,x_n^2)$ で $\bar x_n\ne0$ なので、降鎖 $(\bar x_1,\bar x_2,\dots)\supsetneq(\bar x_2,\bar x_3,\dots)\supsetneq\cdots$ は止まらず、$A$ は Artin環でない。
$p$ を素数、$R=\mathbb{Z}_{(p)}$、$B=R[t]$ とする。$B$ は整域で、次の 2 本の素イデアルの鎖はどちらも、間に素イデアルを挟むことも両端を延ばすこともできない(極大な鎖である)が、長さが異なる。
$$
(0)\subsetneq(t)\subsetneq(p,t),\qquad (0)\subsetneq(pt-1).
$$
1 本目:$B/(t)\cong R$ は整域、$B/(p,t)\cong R/pR\cong\mathbb{F}_p$ は体なので、$(t)$ は素イデアル、$(p,t)$ は極大イデアルである。$(t)$ に含まれる定数は $0$ だけなので $p\notin(t)$ であり、包含は真である。よって $\dim B\ge2$ である。後で述べるように $\dim B=2$ なので、長さ $2$ のこの鎖は極大である。
2 本目:局所化 の記事の注意「1 つの元による局所化の多項式表示」により $B/(pt-1)=R[t]/(pt-1)\cong R[1/p]$ であり、$\mathbb{Q}$ の $0$ でない元はすべて $p^mu$($m\in\mathbb{Z}$、$u\in R$ は単元)と書けるので $R[1/p]=\mathbb{Q}$ は体である。よって $(pt-1)$ は極大イデアルである。$\operatorname{ht}(pt-1)=1$ を示す。$(0)\subsetneq\mathfrak{q}\subsetneq(pt-1)$ となる素イデアル $\mathfrak{q}$ があったとする。$c\in R$ が $c=(pt-1)g$($g\in B$)と書けたとすると、$g\ne0$ なら右辺の $t$ についての次数は $1+\deg g\ge1$ なので $g=0$、$c=0$ である。よって $(pt-1)\cap R=0$、とくに $\mathfrak{q}$ は積閉集合 $S=R\setminus\{0\}$ と交わらない。$S^{-1}B=\mathbb{Q}[t]$ であり($\mathbb{Q}[t]$ の元は係数の分母を払えば $g/s$($g\in B$、$s\in S$)と書ける)、局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」により $S^{-1}\mathfrak{q}\subsetneq S^{-1}(pt-1)$ は $\mathbb{Q}[t]$ の素イデアルの真の包含で、$\mathfrak{q}\ne0$ と $B$ が整域であることから $S^{-1}\mathfrak{q}\ne0$ である。ところが単項イデアル整域 $\mathbb{Q}[t]$ の $0$ でない素イデアルは極大なので $S^{-1}\mathfrak{q}=S^{-1}(pt-1)$ となり、矛盾する。よって $(0)\subsetneq(pt-1)$ の間に素イデアルはなく、$\operatorname{ht}(pt-1)=1$ である。
実際には $\dim B=2$ である(thm-krull-dimension-noetherian の 2 により $\dim R[t]=\dim R+1$)。この環は「整域」「Noether 環」「有限次元」を満たすが、「極大な鎖はすべて長さ $\dim B$ をもつ」「すべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $\operatorname{ht}\mathfrak{m}=\dim B$」「$\operatorname{ht}\mathfrak{m}+\dim B/\mathfrak{m}=\dim B$」をいずれも満たさない($\operatorname{ht}(pt-1)+\dim B/(pt-1)=1+0<2$)。体上有限生成な整域ではこれらがすべて成り立つ(thm-krull-dimension-finitely-generated)ので、この違いは底が体でなく $1$ 次元の局所環であることから来ている。局所環 $B_{(pt-1)}$ と $B_{(p,t)}$ の次元はそれぞれ $1$ と $2$ である(prop-krull-dimension-localization)。
$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の点は $(0)$ と素数 $p$ に対する $(p)$ であり、既約閉集合は各点の閉包 $V((p))=\{(p)\}$ と $V((0))=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ である(Zariski位相 の記事の例「整数環のスペクトル」と命題「既約閉集合と素イデアルの対応」)。既約閉集合の真の列は $\{(p)\}\subsetneq\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ が最長で、$\dim\operatorname{Spec}\mathbb{Z}=1=\dim\mathbb{Z}$ である。同じ集合に離散位相を入れると既約閉集合は一点集合だけになり、位相的な次元は $0$ になる。位相的な次元は位相で決まり、点の集合だけでは決まらない。
$A$ を可換環とする。
局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」により、$\mathfrak{p}\mapsto S^{-1}\mathfrak{p}$ は $S$ と交わらない $A$ の素イデアルの全体から $S^{-1}A$ の素イデアルの全体への全単射で、逆写像 $\mathfrak{P}\mapsto\iota^{-1}(\mathfrak{P})$($\iota\colon A\to S^{-1}A$ は標準写像)とともに包含関係を保つ。包含を保つ全単射で逆も包含を保つものは真の包含も保つから、$S^{-1}A$ の長さ $n$ の素イデアルの鎖は、$S$ と交わらない $A$ の素イデアルからなる長さ $n$ の鎖と一対一に対応する。
1:後者の鎖は $A$ の鎖でもあるので $\dim S^{-1}A\le\dim A$ である。
2:$S=A\setminus\mathfrak{p}$ とすると、$S$ と交わらない素イデアルとは $\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアルのことである。$\mathfrak{p}$ で終わる鎖はこの種の鎖なので $\operatorname{ht}\mathfrak{p}\le\dim A_{\mathfrak{p}}$ である。逆に $\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアルの鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ は、$\mathfrak{p}_n\ne\mathfrak{p}$ なら末尾に $\mathfrak{p}$ を付け加えて長さ $n+1$ の、$\mathfrak{p}$ で終わる鎖にできる。いずれにせよ $n\le\operatorname{ht}\mathfrak{p}$ なので $\dim A_{\mathfrak{p}}\le\operatorname{ht}\mathfrak{p}$ である。
3:$A$ の鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ をとる。$\mathfrak{p}_n$ は真のイデアルなので、それを含む極大イデアル $\mathfrak{m}$ がある(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。$\mathfrak{p}_n\ne\mathfrak{m}$ なら末尾に $\mathfrak{m}$ を付け加えれば、$\mathfrak{m}$ で終わる長さ $n$ 以上の鎖が得られるので $n\le\operatorname{ht}\mathfrak{m}$ である。よって $\dim A\le\sup_{\mathfrak{m}}\operatorname{ht}\mathfrak{m}$ であり、逆向きの不等式は高さの定義から明らかである。2 により $\operatorname{ht}\mathfrak{m}=\dim A_{\mathfrak{m}}$ である。$\square$
3 により、次元は局所環の次元の上限として局所的に計算される。ただし局所環の次元は極大イデアルごとに違いうる(ex-krull-dimension-non-catenary-type)。直積環 $k\times k[x]$($k$ は体)でも、極大イデアル $0\times k[x]$ の高さは $0$、極大イデアル $k\times(x)$ の高さは $1$ である。$A_f$ のような局所化では次元が真に下がることがあり、たとえば $\mathbb{Z}_{(p)}[1/p]=\mathbb{Q}$ の次元は $0$ である。
$A$ を可換環、$I$ を $A$ のイデアルとする。
1:剰余環 の記事の定理「イデアルの対応定理」により、$J\mapsto J/I$ は $I$ を含む $A$ のイデアル全体から $A/I$ のイデアル全体への、包含を保ち逆も包含を保つ全単射であり、$(A/I)/(J/I)\cong A/J$ である。$J/I$ が素イデアルであることは $(A/I)/(J/I)\cong A/J$ が整域であること、すなわち $J$ が素イデアルであることと同値である(素イデアル の記事の命題「剰余環が整域であることとの同値」)。よって $A/I$ の素イデアルの鎖は、$I$ を含む $A$ の素イデアルの鎖と長さを保って一対一に対応する。後者は $A$ の鎖なので $\dim A/I\le\dim A$ である。
2:$\mathfrak{p}$ で終わる鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_m=\mathfrak{p}$ と、1 により $A/\mathfrak{p}$ の鎖に対応する $\mathfrak{p}$ を含む素イデアルの鎖 $\mathfrak{q}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{q}_n$ をとる。$\mathfrak{q}_0\ne\mathfrak{p}$ なら先頭に $\mathfrak{p}$ を付け加えてよいので $\mathfrak{q}_0=\mathfrak{p}$ としてよく、つなげた列 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_m=\mathfrak{q}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{q}_n$ は長さ $m+n$ の鎖である。$m$、$n$ の上限をとって結論を得る(どちらかが $\infty$ なら右辺も $\infty$ である)。
3:鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ をとる。任意の素イデアルはある極小素イデアルを含む(Zornの補題による。AM69 Chapter 1 の演習)ので、$\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}_0$ となる極小素イデアル $\mathfrak{q}$ がある。$\mathfrak{q}\ne\mathfrak{p}_0$ なら先頭に $\mathfrak{q}$ を付け加えれば、$\mathfrak{q}$ を含む素イデアルからなる長さ $n$ 以上の鎖が得られ、1 により $n\le\dim A/\mathfrak{q}$ である。よって $\dim A\le\sup_{\mathfrak{q}}\dim A/\mathfrak{q}$ で、逆向きは 1 による。
4:冪零元 $x$($x^n=0$)はすべての素イデアル $\mathfrak{p}$ に属する($x^n=0\in\mathfrak{p}$ から $x\in\mathfrak{p}$)。よって $\operatorname{nil}(A)$ はすべての素イデアルに含まれ、1 により $A/\operatorname{nil}(A)$ の鎖は $A$ のすべての鎖と長さを保って対応する。$\square$
2 の等号は一般には成り立たない(ex-krull-dimension-non-catenary-type の $\mathfrak{p}=(pt-1)$)。3 は、図形の次元がその既約成分の次元の最大値であることの環の側での表現である。たとえば $A=k[x,y,z]/(xy,xz)$ は平面 $V(x)$ と直線 $V(y,z)$ の和に当たり、$(xy,xz)=(x)\cap(y,z)$($f=xg\in(y,z)$ なら、$(y,z)$ は素で $x\notin(y,z)$ なので $g\in(y,z)$)であり、素イデアルが $(x)\cap(y,z)\supset(x)(y,z)$ を含めば $(x)$ か $(y,z)$ を含み、この 2 つは互いに他を含まないので、$A$ の極小素イデアルは $(\bar x)$ と $(\bar y,\bar z)$ である。$A/(\bar x)\cong k[y,z]$、$A/(\bar y,\bar z)\cong k[x]$ なので $\dim A=\max(2,1)=2$ である(次元の値は thm-krull-dimension-finitely-generated による)。4 は、次元が冪零元による「太り」に左右されないことを表す。$k[x]/(x^2)$ と $k$ はどちらも $0$ 次元である。
可換環 $A$ について、Zariski位相を入れた $\operatorname{Spec}A$ の位相空間としての Krull次元は、環 $A$ の Krull次元に等しい。
$$
\dim\operatorname{Spec}A=\dim A.
$$
Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 2 により、$\mathfrak{p}\mapsto V(\mathfrak{p})=\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ は $A$ の素イデアル全体から $\operatorname{Spec}A$ の既約閉集合全体への全単射である。この全単射は包含を逆にする。実際、$\mathfrak{p}\subset\mathfrak{q}$ なら $V(\mathfrak{q})\subset V(\mathfrak{p})$ は定義から明らかであり、逆に $V(\mathfrak{q})\subset V(\mathfrak{p})$ なら $\mathfrak{q}\in V(\mathfrak{q})\subset V(\mathfrak{p})$ より $\mathfrak{p}\subset\mathfrak{q}$ である。全単射なので真の包含も逆向きの真の包含に移る。したがって素イデアルの鎖 $\mathfrak{p}_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak{p}_n$ と既約閉集合の列 $V(\mathfrak{p}_n)\subsetneq\cdots\subsetneq V(\mathfrak{p}_0)$ は長さを保って一対一に対応し、上限も一致する。$A=0$ のときは両辺とも $-\infty$ である。$\square$
この命題により、ex-krull-dimension-spec-z で見たように、環の次元は $\operatorname{Spec}A$ の幾何学的な次元として読める。代数閉体 $k$ 上のアフィン代数的集合 $X\subset k^n$ に古典的な Zariski 位相を入れた空間でも、Hilbertの零点定理により $X$ の既約閉集合は座標環 $k[X]$ の素イデアルと包含を逆にして一対一に対応するので、$\dim X=\dim k[X]$ である(Har77 Chapter I, §1)。
体上有限生成環(有限生成 $k$ 代数)では次元が非常によくふるまい、座標の個数・超越次数・素イデアルの鎖の長さがすべて一致する。
$k$ を体とする。
証明は Mat86 §5、Eis95 Chapter 13 に譲る(代数幾何学の言葉では Har77 Chapter I, §1)。筋は次のとおりである。Noether正規化定理により、$d=\operatorname{trdeg}_k\operatorname{Frac}(A)$ 個の代数的に独立な元 $z_1,\dots,z_d$ で、$A$ が $k[z_1,\dots,z_d]$ 上有限(とくに整拡大)となるものがとれる。整拡大 $R\subset A$ では、lying over・going up・incomparability の 3 定理(AM69 Chapter 5)により素イデアルの鎖が長さを保って上下に移り、$\dim R=\dim A$ となる。こうして 2 は 1 に帰着する。1 の $\ge$ は ex-krull-dimension-polynomial で示した。$\le$ は、有限生成な整域 $C$ とその $0$ でない素イデアル $\mathfrak{q}$ について $\operatorname{trdeg}_k\operatorname{Frac}(C/\mathfrak{q})<\operatorname{trdeg}_k\operatorname{Frac}(C)$ が成り立ち、鎖を 1 段上がるごとに超越次数が $1$ 以上下がることから従う。3 は、正規化を $\mathfrak{p}$ に合わせて選ぶ議論($\mathfrak{p}\cap k[z_1,\dots,z_d]=(z_{r+1},\dots,z_d)$ となるようにとる)で示される。
たとえば $k[x,y]$ の素イデアル $(x)$ では $\operatorname{ht}(x)=1$、$\dim k[x,y]/(x)=\dim k[y]=1$ で和は $2$ である。2 により、$k$ 上の既約な代数多様体の次元はその関数体の超越次数、すなわち「独立に動ける座標の個数」である。たとえば平面曲線 $y^2=x^3$ の座標環 $k[x,y]/(y^2-x^3)$ は $x=t^2$、$y=t^3$ によって $k[t]$ の部分環と同型で、商体は $k(t)$ なので次元は $1$ である。3 のように極大な鎖の長さがそろう性質は、catenary(鎖状)とよばれる性質の強い形である(Mat86 §5)。ex-krull-dimension-non-catenary-type の環 $\mathbb{Z}_{(p)}[t]$ は Noether 整域だが 3 の結論を満たさない。
$A$ をNoether環とする。
1 は AM69 Chapter 11、Mat86 §13、Eis95 Chapter 10、2 は Mat86 §15 に証明がある。本記事では証明しない。1 の $r=1$ の場合(単項イデアルを含む極小素イデアルの高さは $1$ 以下)を Krull の単項イデアル定理(Krullの単項イデアル定理)という。1 の不等式で等号が成り立つ Noether 局所環が正則局所環である。2 から、Noether 環 $R$ について $\dim R[x_1,\dots,x_n]=\dim R+n$ であり、$R=k$ とすれば thm-krull-dimension-finitely-generated の 1 が再び得られる。
1 によれば Noether 環の局所環はすべて有限次元である。しかし次の例が示すように、prop-krull-dimension-localization の 3 の上限は無限になりうる。
$k$ を体、$A=k[x_1,x_2,\dots]$ とし、変数を順に大きさ $1,2,3,\dots$ の組に分ける。すなわち $i$ 番目の組は $i$ 個の変数 $x_{m_i+1},\dots,x_{m_i+i}$($m_i=i(i-1)/2$)からなる。$\mathfrak{p}_i:=(x_{m_i+1},\dots,x_{m_i+i})$ は $A$ の素イデアルであり、$S:=A\setminus\bigcup_{i\ge1}\mathfrak{p}_i$ は積閉集合である。このとき $B:=S^{-1}A$ について次が成り立つ。
永田雅宜による例で、証明は AM69 Chapter 11 の演習、Stacks の Examples の章の節「A Noetherian ring of infinite dimension」に譲る。要点は、各 $\mathfrak{p}_i$ が有限個の変数で生成されるので $B_{S^{-1}\mathfrak{p}_i}$ が Noether 局所環であること、$B$ の $0$ でない元は有限個の極大イデアルにしか含まれないこと、この 2 つから「局所的に Noether で、$0$ でない元が有限個の極大イデアルにしか含まれない環は Noether 環である」という判定法で $B$ が Noether 環になることである。$\operatorname{ht}S^{-1}\mathfrak{p}_i\ge i$ は、$i$ 番目の組の変数を 1 つずつ加えていく長さ $i$ の鎖からわかる。この例は「Noether 環」を満たすが「有限次元」を満たさず、含意「Noether 環の次元は有限である」を破る。Noether 局所環では 1 によりこの含意は成り立つ。
$\dim A=0$ とは、すべての素イデアルが極大であることであった。零でない Noether 環 $A$ については、$\dim A=0$ であることと $A$ が Artin環(イデアルの降鎖条件を満たす環)であることは同値である(Artin環 の記事の定理「Noether性と次元による特徴づけ」、AM69 Chapter 8)。Noether 性を外すとこれは成り立たない(ex-krull-dimension-zero-not-noetherian)。幾何学的には、$0$ 次元の Noether 環のスペクトルは有限個の点からなる離散空間であり、各点に冪零元による「太さ」が載っている。
Krull次元は他の「次元」と区別して使う。体上のベクトル空間の次元(基底と次元)とは別物で、体 $k$ 上の $n$ 次元ベクトル空間でもある $k$ 代数 $k^n$ の Krull次元は $0$、無限次元ベクトル空間である $k[x]$ の Krull次元は $1$ である。加群 $M$ の次元は $\dim A/\operatorname{Ann}(M)$ で定める。大域次元や射影次元はホモロジー代数的な不変量で、Krull次元とは一般に異なる(正則局所環では一致する。正則局所環 の記事)。距離空間の被覆次元のような位相次元論の次元も、Hausdorff 空間では Krull次元(常に $0$ 以下)とは別の量である。
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