Banach–Tarskiの逆理(Banach–Tarski paradox)とは、選択公理のもとで、3 次元の単位閉球を有限個の小片に分け、回転と平行移動で動かして組み直すと、互いに交わらない同じ大きさの閉球二つになる、という定理である。証明は、回転群 $SO(3)$ が階数 2 の自由群を含むことと、自由群が先頭の文字による分解で自分自身の二つ分に組み直せることを、選択公理で選んだ軌道の代表を通して球面へ移し、可算個の固定点と中心を吸収して得られる。小片の一部は Lebesgue 可測でなく、選択公理のもとでは$\mathbb R^3$ のすべての部分集合の上で有限加法的かつ等長変換で不変な測度で、単位閉球に正の有限値を与えるものは存在しない。
Banach–Tarskiの逆理(Banach–Tarski paradox)は、$3$ 次元の閉球を有限個の部分に分け、それぞれを回転と平行移動で動かして組み直すと、もとと同じ大きさの閉球が二つできる、という定理である。体積は回転と平行移動で変わらないのに体積が倍になるので「逆理」と呼ばれるが、証明に矛盾はない。小片の一部が体積をもたない(Lebesgue 可測でない)集合になることが、この現象を可能にしている(cor-bt-no-measure)。
証明は二つの部分からなる。一つは群論で、回転群 $SO(3)$ が階数 $2$ の自由群を含むこと(prop-bt-rotations)と、自由群がそれ自身の「二つ分」に組み直せること(prop-bt-free-group)である。もう一つは選択公理で、自由群の各軌道から代表を一つずつ選び、群の分解を球面へ写す(lem-bt-free-action)。軌道は非可算個あり、その代表を一斉に選ぶところで選択公理を使う。主定理(thm-bt)の証明は、球面から始めて、可算個の「悪い点」と中心を順に吸収していく。
$\mathbb R^3$ の向きを保つ等長変換とは、$x\mapsto Rx+t$($R\in SO(3)$、$t\in\mathbb R^3$)の形の写像であり、その全体は合成で群をなす。これを $G_3$ と書く。$SO(3)$ は原点を通る軸のまわりの回転全体である(回転群)。$\mathbb B=\{x\in\mathbb R^3\mid|x|\le1\}$ を単位閉球、$S^2=\{x\mid|x|=1\}$ を単位球面とする。
群 $G$ が集合 $X$ に作用しているとする(群作用)。
$A\sim B$ のとき、$A_i$ 上で $g_i$ に一致する写像 $\varphi\colon A\to B$ は全単射である。この $\varphi$ を分割合同を与える区分的な写像と呼ぶ。
選択公理を仮定する。$t=(3,0,0)$ とする。
$\mathbb Z$ の偶数と奇数はどちらも $\mathbb Z$ と一対一に対応するので、無限集合が「自分の二つ分」に分かれること自体は珍しくない。逆理の要点は、対応を有限個の小片の剛体の動きに限っても同じことが起こる点にある。平行移動だけを許すと $\mathbb Z$ ではこれが起こらない(ex-bt-z-not-paradoxical)。起こるのは、動きの群が自由群のように「先頭の文字で分けた小片を一文字ずらすと全体になる」構造をもつときである。$SO(3)$ はそのような部分群を含む(prop-bt-rotations)。
群 $G$ が集合 $X$ に作用しているとし、$A,B,C,E,E'\subset X$ とする。
要点:1・2・3 は小片を細かくすればよく、4 は Cantor–Bernsteinの定理 の証明を区分的な写像で行う。
1:反射律は $n=1$、$g_1=e$ で、対称律は $g_i^{-1}$ を使えばよい。推移律:$A\sim B$ を $(A_i,g_i,B_i)$ が、$B\sim C$ を $(B'_j,h_j,C_j)$ が与えるとき、小片 $A_{ij}=A_i\cap g_i^{-1}(B_i\cap B'_j)$ を $h_jg_i$ で動かすと $C_j\cap h_jg_i(A_i)$ たちになり、これは $C$ の分割である。2:$C$ を $C\cap A_i$ に分けて $g_i$ で動かすと、$\varphi(C)\cap B_i$ になる。3:二つの分割を並べればよい。
4:区分的な写像 $\varphi\colon A\to B_1\subset B$($A\sim B_1$)と $\psi\colon B\to A_1\subset A$($B\sim A_1$)をとる。どちらも単射である。$D_0=A\setminus\psi(B)$、$D_{k+1}=\psi(\varphi(D_k))$、$D=\bigcup_kD_k$ とおく。$\psi$ は $B\setminus\varphi(D)$ を $A\setminus D$ の上へ全単射に写す。実際、$a\in A\setminus D$ なら $a\notin D_0$ より $a=\psi(b)$ となる $b$ があり、$b\in\varphi(D_k)$ なら $a\in D_{k+1}$ となるので $b\notin\varphi(D)$ である。逆に $b\notin\varphi(D)$ なら $\psi(b)\notin D_0$ で、$\psi(b)\in D_{k+1}=\psi(\varphi(D_k))$ なら $\psi$ の単射性から $b\in\varphi(D_k)$ となるので $\psi(b)\notin D$ である。2 により $D\sim\varphi(D)$、$B\setminus\varphi(D)\sim\psi(B\setminus\varphi(D))=A\setminus D$ であり、$A=D\sqcup(A\setminus D)$、$B=\varphi(D)\sqcup(B\setminus\varphi(D))$ なので、3 と 1 により $A\sim B$ である。
5:$E$ と $E'$ の分割合同を与える区分的な写像 $\varphi\colon E'\to E$ をとる。$E'$ の互いに交わらない部分集合 $P',Q'$ で $P'\sim E'\sim Q'$ となるものをとり、$P=\varphi(P')$、$Q=\varphi(Q')$ とおく。$\varphi$ は単射なので $P\cap Q=\emptyset$ であり、2 と 1 により $P\sim P'\sim E'\sim E$、同様に $Q\sim E$ である。$\square$
$F$ を二つの元 $a,b$ 上の自由群とする。$F$ の各元は既約語(自由群 の定義「語と既約語」)でただ一通りに表される。文字 $\sigma\in\{a,a^{-1},b,b^{-1}\}$ に対し、既約語が $\sigma$ で始まる(左端の文字が $\sigma$ である)元の全体を $W(\sigma)$ と書く。
$F$ を左からの積で自分自身に作用させる。このとき
$$
F=\{e\}\sqcup W(a)\sqcup W(a^{-1})\sqcup W(b)\sqcup W(b^{-1}),\qquad F=W(a)\sqcup aW(a^{-1}),\qquad F=W(b)\sqcup bW(b^{-1})
$$
が成り立つ。とくに $F$ は $F$-逆理的である。
一つ目は既約語の左端の文字による分類である。二つ目を示す。$u\in F$ の既約語が $a$ で始まらないとき、$a^{-1}u$ の既約語は $u$ の既約語の左に $a^{-1}$ を付けたもの(簡約が起こらない)なので $a^{-1}u\in W(a^{-1})$ であり、$u=a(a^{-1}u)\in aW(a^{-1})$ となる。逆に $w\in W(a^{-1})$ を $w=a^{-1}u$($u$ の既約語は $a$ で始まらない)と書くと $aw=u\notin W(a)$ である。よって $aW(a^{-1})=F\setminus W(a)$ であり、$e$ もこちらに入る。三つ目も同じである。
$P=W(a)\sqcup W(a^{-1})$、$Q=W(b)\sqcup W(b^{-1})$ は互いに交わらず、二つ目の式により $P$ の小片 $W(a)$ を $e$ で、$W(a^{-1})$ を $a$ で動かすと $F$ になるので $P\sim F$ である。同様に $Q\sim F$ である。$\square$
$F$ は $P$ と $Q$ のほかに $\{e\}$ も含むので、$F$ を「二つの $F$ と一点」に分けたことになる。この分解を幾何に移すのが次の補題である。
選択公理を仮定する。$F$ が集合 $Y$ に自由に作用する($g\ne e$ なら $gy\ne y$ がすべての $y\in Y$ で成り立つ)とき、$Y$ は $F$-逆理的である。
選択公理により、各軌道 $Fy$ とちょうど一点で交わる集合 $M\subset Y$ がとれる。$S\subset F$ に対し $SM=\{gm\mid g\in S,\ m\in M\}$ とおく。$gm=hm'$($m,m'\in M$)なら $m,m'$ は同じ軌道にあるので $m=m'$、自由性から $g=h$ である。よって $Y=\bigsqcup_{g\in F}gM$ であり、$S\mapsto SM$ は互いに交わらない和集合を互いに交わらない和集合に移し、$(gS)M=g(SM)$ を満たす。prop-bt-free-group の式をこれで写すと、$Y=W(a)M\sqcup aW(a^{-1})M=W(b)M\sqcup bW(b^{-1})M$ となり、$P=W(a)M\sqcup W(a^{-1})M$ と $Q=W(b)M\sqcup W(b^{-1})M$ は互いに交わらず、$P\sim Y\sim Q$ である。$\square$
$\cos\theta=1/3$、$\sin\theta=2\sqrt2/3$ とし、$z$ 軸のまわりの角 $\theta$ の回転 $A$ と、$x$ 軸のまわりの角 $\theta$ の回転 $B$ を考える。
$$
A^{\pm1}=\frac13\begin{pmatrix}1&\mp2\sqrt2&0\\ \pm2\sqrt2&1&0\\ 0&0&3\end{pmatrix},\qquad
B^{\pm1}=\frac13\begin{pmatrix}3&0&0\\ 0&1&\mp2\sqrt2\\ 0&\pm2\sqrt2&1\end{pmatrix}.
$$
$A,B$ が生成する $SO(3)$ の部分群 $H$ は、$A,B$ 上の自由群である。すなわち、$A^{\pm1},B^{\pm1}$ からなる空でない既約語は単位行列にならない。
整数 $\alpha,\beta,\gamma$ と $k\ge0$ によるベクトル $3^{-k}(\alpha,\beta\sqrt2,\gamma)$ に $A^{\pm1}$、$B^{\pm1}$ を施すと、行列の積を計算して
$$
A^{\pm1}:\ (\alpha,\beta,\gamma)\mapsto(\alpha\mp4\beta,\ \beta\pm2\alpha,\ 3\gamma),\qquad
B^{\pm1}:\ (\alpha,\beta,\gamma)\mapsto(3\alpha,\ \beta\mp2\gamma,\ \gamma\pm4\beta)
$$
となり、$k$ は $1$ 増える(複号同順)。
右端が $A^{\pm1}$ の既約語。 既約語 $w=\sigma_1\cdots\sigma_k$($\sigma_k$ が $A^{\pm1}$)を $(1,0,0)$ に右から順に施し、$j$ 文字施した後の整数の組を $(\alpha_j,\beta_j,\gamma_j)$ とする($(\alpha_0,\beta_0,\gamma_0)=(1,0,0)$)。$\beta_j$ が $3$ で割り切れないことを $j$ についての帰納法で示す。$j=1$ では $\beta_1=\pm2$ である。$j\ge2$ では、$j$ 番目と $j-1$ 番目に施す文字によって四つの場合がある(異なる文字の場合、二つの複号は独立である)。
右端が $B^{\pm1}$ の既約語。 $w$ の左端の文字が $A^{-\epsilon}$ でないように $\epsilon\in\{1,-1\}$ を選び、$w'=A^{\epsilon}wA^{-\epsilon}$ とおく。両端で簡約が起こらないので $w'$ は右端が $A^{-\epsilon}$ の空でない既約語であり、前半により $w'\ne I$、したがって $w\ne I$ である。$\square$
$\cos\theta=1/3$ と選ぶと、成分が $3^{-k}\mathbb Z[\sqrt2]$ に入り、単位行列にならないことを $3$ を法とする合同式だけで確かめられる。
要点:どちらも、$D$(または中心)を無限に続く軌道の始点にとり、軌道を一歩ずらすと始点が消えることを使う。
1:原点を通る直線は非可算個あり、$D\cup(-D)$ と交わるものは可算個なので、$D$ と交わらない直線 $\ell$ がとれる。$\ell$ のまわりの角 $\phi$ の回転を $\rho_\phi$ とする。$p,q\in D$ について、$p\notin\ell$ なので $\rho_\phi p=q$ となる $\phi\in[0,2\pi)$ は高々一つであり、$n\ge1$ について $\rho_{n\phi}p=q$ となる $\phi\in[0,2\pi)$ は高々 $n$ 個である。$(p,q,n)$ は可算個なので、どの $n\ge1$ についても $\rho_\phi^nD\cap D=\emptyset$ となる $\phi$ がとれる。$\rho=\rho_\phi$ とおくと、$0\le m< n$ なら $\rho^mD\cap\rho^nD=\rho^m(D\cap\rho^{n-m}D)=\emptyset$ である。$\widetilde D=\bigcup_{n\ge0}\rho^nD$ とおくと $\rho\widetilde D=\widetilde D\setminus D$ なので、$S^2=\widetilde D\sqcup(S^2\setminus\widetilde D)$ の小片 $\widetilde D$ を $\rho$ で、残りを恒等写像で動かすと $S^2\setminus D$ になる。
2:直線 $\ell'=\{(s,0,1/2)\mid s\in\mathbb R\}$ のまわりの角 $1$(ラジアン)の回転を $\sigma$ とする。$\sigma\in G_3$ であり、原点の軌道 $\sigma^n(0)$ は中心 $(0,0,1/2)$、半径 $1/2$ の円の上にあるので $\mathbb B$ に含まれる。$\pi$ は無理数なので $n\ne0$ なら $n\notin2\pi\mathbb Z$ であり、$0\notin\ell'$ より $\sigma^n(0)\ne0$、したがって $\sigma^n(0)$($n\ge0$)はすべて異なる。$E=\{\sigma^n(0)\mid n\ge0\}$ とおくと $\sigma E=E\setminus\{0\}$ なので、$\mathbb B=E\sqcup(\mathbb B\setminus E)$ の小片 $E$ を $\sigma$ で動かすと $\mathbb B\setminus\{0\}$ になる。$\square$
段 1:球面から可算集合を除いた部分。 prop-bt-rotations の群 $H\cong F$ は可算である。$SO(3)$ の単位行列でない元は $S^2$ の点をちょうど二つ固定する(下の注)ので、$H$ の単位元でない元に固定される点全体 $D\subset S^2$ は可算である。$Y=S^2\setminus D$ は $H$ で保たれる:$x\in Y$、$h\in H$ で $hx$ が $g\ne e$ に固定されるなら、$h^{-1}gh\ne e$ が $x$ を固定して $x\in D$ となり矛盾する。$H$ は $Y$ に自由に作用するので、lem-bt-free-action により $Y$ は $H$-逆理的、したがって $SO(3)$-逆理的である。
段 2:球面全体。 lem-bt-absorb の 1 により $S^2\sim_{SO(3)}Y$ なので、lem-bt-basic の 5 により $S^2$ は $SO(3)$-逆理的である。
段 3:中心を除いた球。 $T\subset S^2$ に対し $T^*=\{rx\mid0< r\le1,\ x\in T\}$ とおく。$R\in SO(3)$ について $R(T^*)=(RT)^*$ であり、$T\mapsto T^*$ は互いに交わらない和集合を保つ。よって $S^2$ の部分集合の間の $SO(3)$ による分割合同は、小片に $*$ を施せば $(\cdot)^*$ の間の分割合同になる。段 2 の $P,Q\subset S^2$ から $P^*,Q^*\subset(S^2)^*=\mathbb B\setminus\{0\}$ が得られ、$\mathbb B\setminus\{0\}$ は $SO(3)$-逆理的である。
段 4:球全体(主張 1)。 lem-bt-absorb の 2 により $\mathbb B\sim_{G_3}\mathbb B\setminus\{0\}$ なので、lem-bt-basic の 5 により $\mathbb B$ は $G_3$-逆理的である。
主張 2。 主張 1 の $P,Q\subset\mathbb B$ をとり、$C=P$、$C'=\mathbb B\setminus P$ とおく。$C\sim\mathbb B$ である。$C'\subset\mathbb B$ より $C'\preceq\mathbb B$ であり、$\mathbb B\sim Q\subset C'$ より $\mathbb B\preceq C'$ である。lem-bt-basic の 4 により $C'\sim\mathbb B$ である。
主張 3。 $|t|=3> 2$ なので $\mathbb B$ と $\mathbb B+t$ は交わらない。$C\sim\mathbb B$、$C'\sim\mathbb B\sim\mathbb B+t$(平行移動 $x\mapsto x+t$ は $G_3$ の元)なので、lem-bt-basic の 3 により $\mathbb B=C\sqcup C'\sim\mathbb B\sqcup(\mathbb B+t)$ である。$\square$
$R\in SO(3)$ について $\det(R-I)=\det(R)\det(I-R^{\mathsf T})=\det(I-R)=-\det(R-I)$ なので $\det(R-I)=0$ であり、固定部分空間 $L=\ker(R-I)$ は $0$ でない。$\dim L\ge2$ とすると、$R$ は直交補空間 $L^\perp$(次元 $1$ 以下)を保ち、そこに $\pm1$ 倍で作用する。$\dim L=3$ なら $R=I$ で、$\dim L=2$ なら $\det R=1$ から $L^\perp$ 上でも $+1$ 倍となり $R=I$ である。よって $R\ne I$ なら $\dim L=1$ で、$L\cap S^2$ はちょうど二点である。
証明の流れは Jech73 §1.3(pp. 3–6)と同じく、球面の逆理的分解から球の分解を導くものだが、Jech は位数 $2$ と位数 $3$ の回転が生成する群(自由積 $\mathbb Z/2*\mathbb Z/3$)を使い、その自由性の証明は概略にとどめている。この記事では階数 $2$ の自由群を使い、自由性を prf-bt-rotations で示した。段 1 で得た「球面から可算集合を除いた部分の逆理的分解」は、Hausdorff による球面の分解(Jech73 Theorem 1.1, p. 3)と同じ種類の主張である。
選択公理を仮定する。$\mathbb R^3$ のすべての部分集合の上で定義された写像 $\mu\colon\mathcal P(\mathbb R^3)\to[0,\infty]$ で、有限加法的(互いに交わらない $X,Y$ について $\mu(X\sqcup Y)=\mu(X)+\mu(Y)$)かつ $G_3$ で不変($\mu(gX)=\mu(X)$)なものは、$\mu(\mathbb B)=0$ または $\mu(\mathbb B)=\infty$ を満たす。とくに、thm-bt の 2 の分割合同 $C\sim\mathbb B$、$C'\sim\mathbb B$ に現れる小片のうち少なくとも一つは Lebesgue 可測でない。
$X\sim Y$ を小片 $X_i$ と $g_i$ が与えるとき、$\mu(X)=\sum_i\mu(X_i)=\sum_i\mu(g_iX_i)=\mu(Y)$ である。よって $\mu(\mathbb B)=\mu(C)+\mu(C')=2\mu(\mathbb B)$ であり、$\mu(\mathbb B)\in\{0,\infty\}$ となる。
$\mathbb R^3$ の Lebesgue 測度 $\lambda$ は、可測集合の上で有限加法的であり、可測集合を向きを保つ等長変換で写した像も可測で測度が等しい(平行移動と線形変換による変数変換。Tao11 Exercise 1.2.20・1.2.21, p. 41。この記事では証明しない)。$C\sim\mathbb B$ と $C'\sim\mathbb B$ の小片がすべて可測なら、それらを動かした像も可測なので、上と同じ計算で $\lambda(\mathbb B)=2\lambda(\mathbb B)$ となる。しかし $0< \lambda(\mathbb B)< \infty$ なので矛盾する。$\square$
逆理の小片は「測れない」ので、体積の保存と矛盾しない。この結論は選択公理なしでは得られないことが知られている。Solovay の定理により、到達不能基数の存在が無矛盾なら、選択公理を除いた集合論には Banach–Tarskiの逆理が起こらないモデルがある。また、小片は $5$ 個あれば足りる。一方、$1$ 次元・$2$ 次元では対応する逆理は起こらない(到達不能基数の仮定は Jech73 Theorem 10.10(p. 144)、それ以外は Tao11 §1.1, p. 3 とその脚注による。この記事では証明しない)。
thm-bt と prop-bt-free-group の条件を一つずつ外すと、逆理的な分解ができなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 動きに平行移動を含める($G_3$ を $SO(3)$ に替える) | 単位閉球 $\mathbb B$ を $SO(3)$ の作用で考える | 中心 $0$ がどの回転でも動かないので、$\mathbb B$ は $SO(3)$-逆理的でない |
| 群が自由群であること(prop-bt-free-group) | 整数の加法群 $\mathbb Z$ を平行移動で自分自身に作用させる | $\mathbb Z$ は $\mathbb Z$-逆理的でない(ex-bt-z-not-paradoxical) |
| 集合が無限であること | 空でない有限集合 $E$ に任意の群を作用させる | 分割合同は全単射を与えるので $\lvert P\rvert=\lvert Q\rvert=\lvert E\rvert$ となり、互いに交わらない $P,Q\subset E$ はとれない |
$P,Q\subset\mathbb B$ が互いに交わらず $P\sim_{SO(3)}\mathbb B\sim_{SO(3)}Q$ とする。$\mathbb B$ の小片のうち $0$ を含むものは回転で動かしても $0$ を含むので、$0\in P$ である。同様に $0\in Q$ となり、$P\cap Q=\emptyset$ に反する。
$\mathbb Z$ を平行移動 $x\mapsto x+s$($s\in\mathbb Z$)で自分自身に作用させる。互いに交わらない $P,Q\subset\mathbb Z$ で $P\sim\mathbb Z\sim Q$ となるものはない。
$\mathbb Z\sim P$ を小片 $Z_i$ と移動量 $s_i$ が、$\mathbb Z\sim Q$ を小片 $Z'_j$ と移動量 $s'_j$ が与えるとし、$|s_i|,|s'_j|$ がすべて $T$ 以下となる整数 $T\ge0$ をとる。$N> T$ について、$|x|\le N-T$ の整数 $x$ は $2(N-T)+1$ 個あり、区分的な写像(単射)でそれぞれ $|y|\le N$ の $P$ の点に移る。よって $P$ は $[-N,N]$ に少なくとも $2(N-T)+1$ 個の点をもち、$Q$ も同じである。$P\cap Q=\emptyset$ なので $4(N-T)+2\le2N+1$、すなわち $2N\le4T-1$ となるが、$N$ を大きくとればこれは成り立たない。
自由群 $F$ では prop-bt-free-group の分解が平行移動(左からの積)だけでできるので、$\mathbb Z$ と $F$ の違いは群の構造そのものにある。
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