Van Aubelの定理(四角形)(van Aubel's theorem (quadrilateral))とは、四角形 $ABCD$(凸でも凹でもよい)の各辺の外側に正方形を立て、辺 $AB$、$BC$、$CD$、$DA$ の上の正方形の中心を $P$、$Q$、$R$、$S$ とすると、向かい合う正方形の中心を結ぶ線分 $PR$ と $QS$ は長さが等しく直交する、という定理である。頂点を反時計回りにとり複素数で表すと、辺 $XY$ の外側の正方形の中心は $\frac{(1+i)x+(1-i)y}{2}$ で、結論は恒等式 $s-q=i(r-p)$ になる。長さは $PR^2=\frac{AC^2+BD^2}{2}+2K$($K$ は四角形の面積)で、$0$ にならない。4 つの正方形を 1 つだけ内側に立てたり、正方形を長方形に替えたりすると成り立たない。
前提知識: 平行四辺形の条件, 複素数平面と図形, 複素数の掛け算は回転と拡大, 靴ひも公式
四角形 $ABCD$ の 4 つの辺それぞれの外側に正方形を立て、その中心(2 本の対角線の交点)を $P$(辺 $AB$)、$Q$(辺 $BC$)、$R$(辺 $CD$)、$S$(辺 $DA$)とする。向かい合う辺の正方形の中心を結んだ 2 本の線分 $PR$ と $QS$ を比べてみる。
正方形の中心は、座標で次のように求められる。ベクトル $(x,y)$ を時計回りに $90^\circ$ 回すと $(y,-x)$ になる。辺 $XY$ の右側に立てた正方形の中心は、辺の中点から、$\overrightarrow{XY}$ を時計回りに $90^\circ$ 回して半分にしたベクトルだけ進んだ点である。四角形の頂点を反時計回りにとると、各辺の近くでは内部が進む向きの左側にあるので、右側が外側になる。
$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(3,3)$、$D(0,2)$ とする(反時計回り)。
(1) 辺 $AB$。中点は $(2,0)$、$\overrightarrow{AB}=(4,0)$ を時計回りに $90^\circ$ 回すと $(0,-4)$、半分は $(0,-2)$ なので、$P=(2,-2)$ である。
(2) 辺 $BC$。中点は $\left(\dfrac72,\dfrac32\right)$、$\overrightarrow{BC}=(-1,3)$ を回すと $(3,1)$、半分は $\left(\dfrac32,\dfrac12\right)$ なので、$Q=(5,2)$ である。
(3) 辺 $CD$。中点は $\left(\dfrac32,\dfrac52\right)$、$\overrightarrow{CD}=(-3,-1)$ を回すと $(-1,3)$ なので、$R=\left(\dfrac32-\dfrac12,\ \dfrac52+\dfrac32\right)=(1,4)$ である。
(4) 辺 $DA$。中点は $(0,1)$、$\overrightarrow{DA}=(0,-2)$ を回すと $(-2,0)$ なので、$S=(-1,1)$ である。
2 本の線分を比べると
$$
\overrightarrow{PR}=(1-2,\ 4-(-2))=(-1,6),\qquad \overrightarrow{QS}=(-1-5,\ 1-2)=(-6,-1)
$$
で、$PR^2=1+36=37$、$QS^2=36+1=37$、内積は $(-1)(-6)+(6)(-1)=0$ である。$PR$ と $QS$ は長さが等しく、直交する。
$A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(3,1)$、$D(1,4)$ とする。頂点 $C$ の内角は $180^\circ$ より大きい(凹の四角形)。ex-vaq-start と同じ計算で
$$
P=(3,-3),\qquad Q=(5,2),\qquad R=\left(\frac72,\frac72\right),\qquad S=\left(-\frac32,\frac52\right)
$$
となる。たとえば辺 $CD$ では、中点 $(2,\tfrac52)$ に、$\overrightarrow{CD}=(-2,3)$ を時計回りに $90^\circ$ 回した $(3,2)$ の半分 $\left(\dfrac32,1\right)$ を足して $R$ を得る。
$$
\overrightarrow{PR}=\left(\frac12,\frac{13}2\right),\qquad \overrightarrow{QS}=\left(-\frac{13}2,\frac12\right)
$$
で、$PR^2=QS^2=\dfrac{1+169}4=\dfrac{85}2$、内積は $-\dfrac{13}4+\dfrac{13}4=0$ である。凹の四角形でも、$PR$ と $QS$ は長さが等しく直交する。
凸の四角形の 4 辺の外側に正方形を立てると、中心を結ぶ赤の線分 PR と青の線分 QS は長さが等しく直交する
凹の四角形でも、向かい合う正方形の中心を結ぶ 2 本の線分は長さが等しく直交する
どちらの例でも、$\overrightarrow{QS}$ は $\overrightarrow{PR}$ を反時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルになっている($(-1,6)$ を回すと $(-6,-1)$)。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| ベクトルを時計回りに $90^\circ$ 回す:$(x,y)\mapsto(y,-x)$ | $-i$ を掛ける | 回転は複素数の掛け算 |
| 正方形の中心の座標 | $\dfrac{(1+i)x+(1-i)y}2$(lem-vaq-center) | 頂点の 1 次式 |
| $PR=QS$ かつ $PR\perp QS$ | $s-q=i(r-p)$(thm-vaq-main) | 複素数の恒等式 |
以下、点 $A$、$B$、$C$、$D$ を複素数平面の点とみて、対応する複素数を小文字 $a$、$b$、$c$、$d$ で表す(複素数平面と図形)。複素数 $z$ に $i$ を掛けると、点 $z$ は原点のまわりに反時計回りに $90^\circ$ 回り、$-i$ を掛けると時計回りに $90^\circ$ 回る(複素数の掛け算は回転と拡大)。座標では $z=x+yi$ に対して $-iz=y-xi$ で、高校の計算の $(x,y)\mapsto(y,-x)$ と同じである。
異なる 2 点 $X$、$Y$(複素数 $x$、$y$)について、4 点
$$
x,\qquad y,\qquad y-i(y-x),\qquad x-i(y-x)
$$
を頂点とする四角形を、辺 $XY$ の右側に立てた正方形 という。点 $x-i(y-x)$ は、$X$ から $\overrightarrow{XY}$ を時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルだけ進んだ点である。$X$ から $Y$ へ進むとき、この正方形は進む向きの右側にある。
4 点が本当に正方形の頂点であることは、隣り合う頂点を結ぶベクトルが $y-x$、$-i(y-x)$、$-(y-x)$、$i(y-x)$ と、同じ長さで $90^\circ$ ずつ回っていくことから分かる。
四角形 $ABCD$ の頂点を反時計回りにとったとき、各辺の右側に立てた正方形が 外側に立てた正方形 である。この記事では、四角形はいつも頂点を反時計回りにとる。凹の四角形でも、辺の右側は、その辺の近くでは四角形の外側である。
辺 $XY$ の右側に立てた正方形の中心(2 本の対角線の交点)は
$$
\frac{x+y}2-\frac{i(y-x)}2=\frac{(1+i)x+(1-i)y}2
$$
である。
正方形は平行四辺形なので、中心は対角線の中点である(平行四辺形の条件 の平行四辺形の性質)。対角線の 1 本は $x$ と $y-i(y-x)$ を結ぶので、その中点は
$$
\frac{x+y-i(y-x)}2=\frac{x+y}2-\frac{i(y-x)}2
$$
である。右辺は $\dfrac{x+y-iy+ix}2=\dfrac{(1+i)x+(1-i)y}2$ と整理できる。
座標で読むと、辺 $XY$ の中点 $\dfrac{x+y}2$ から、$\dfrac{y-x}2$ を時計回りに $90^\circ$ 回したベクトル $-\dfrac{i(y-x)}2$ だけ進んだ点である。これは ex-vaq-start で使った求め方と同じである。
ex-vaq-start の $a=0$、$b=4$、$c=3+3i$、$d=2i$ で確かめる。
(1) $p=\dfrac{(1+i)\cdot0+(1-i)\cdot4}2=2-2i$ で、$P=(2,-2)$ である。
(2) $(1-i)(3+3i)=3+3i-3i-3i^2=6$ なので、$q=\dfrac{(1+i)\cdot4+6}2=\dfrac{10+4i}2=5+2i$ で、$Q=(5,2)$ である。
(3) $(1+i)(3+3i)=3+3i+3i+3i^2=6i$、$(1-i)\cdot2i=2i-2i^2=2+2i$ なので、$r=\dfrac{6i+2+2i}2=1+4i$ で、$R=(1,4)$ である。
四角形 $ABCD$(頂点は反時計回り。凸でも凹でもよい)の各辺の外側に正方形を立て、辺 $AB$、$BC$、$CD$、$DA$ の上の正方形の中心を $P$、$Q$、$R$、$S$ とする。このとき
$$
s-q=i\,(r-p)
$$
が成り立つ。したがって $PR=QS$ であり、さらに $PR\perp QS$ である($\overrightarrow{QS}$ は $\overrightarrow{PR}$ を反時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルである)。
方針:lem-vaq-center で 4 つの中心を $a$、$b$、$c$、$d$ の式で書き、$r-p$ に $i$ を掛けたものが $s-q$ に一致することを、係数を比べて確かめる。
段 1(中心の式)。lem-vaq-center を 4 つの辺に使うと
$$
2p=(1+i)a+(1-i)b,\quad 2q=(1+i)b+(1-i)c,\quad 2r=(1+i)c+(1-i)d,\quad 2s=(1+i)d+(1-i)a
$$
である(辺 $DA$ では $X=D$、$Y=A$)。
段 2(差をとる)。段 1 から
$$
2(r-p)=(1+i)c+(1-i)d-(1+i)a-(1-i)b,
$$
$$
2(s-q)=(1+i)d+(1-i)a-(1+i)b-(1-i)c
$$
である。
段 3($i$ を掛ける)。$i(1+i)=i+i^2=-1+i=-(1-i)$、$i(1-i)=i-i^2=1+i$ なので、段 2 の 1 つ目の式に $i$ を掛けると
$$
2i(r-p)=\underbrace{-(1-i)c}_{i(1+i)c}+\underbrace{(1+i)d}_{i(1-i)d}\ \underbrace{+(1-i)a}_{-i(1+i)a}\ \underbrace{-(1+i)b}_{-i(1-i)b}
$$
となる。右辺の 4 つの項は、段 2 の 2 つ目の式の右辺の 4 つの項と(順番を除いて)同じである。よって $2i(r-p)=2(s-q)$、つまり $s-q=i(r-p)$ である。
段 4(長さと角)。$\lvert i\rvert=1$ なので $\lvert s-q\rvert=\lvert i\rvert\,\lvert r-p\rvert=\lvert r-p\rvert$、つまり $QS=PR$ である。$s-q$ は $r-p$ に $i$ を掛けたものなので、$\overrightarrow{QS}$ は $\overrightarrow{PR}$ を反時計回りに $90^\circ$ 回したベクトルである。prop-vaq-length により $P\ne R$ なので、$\overrightarrow{PR}\ne\vec 0$ で、$PR\perp QS$ である。
段 3 の計算には、四角形であること(辺が交わらないこと)も、凸であることも使っていない。等式 $s-q=i(r-p)$ は、どんな 4 つの複素数 $a$、$b$、$c$、$d$ についても成り立つ恒等式である。四角形であることを使うのは、段 4 の $P\ne R$(prop-vaq-length)と、「右側に立てた正方形が外側の正方形である」という言いかえだけである。
ex-vaq-start-concave の $P=(3,-3)$、$Q=(5,2)$、$R=\left(\dfrac72,\dfrac72\right)$、$S=\left(-\dfrac32,\dfrac52\right)$ では
$$
r-p=\frac12+\frac{13}2i,\qquad i(r-p)=\frac12i+\frac{13}2i^2=-\frac{13}2+\frac12i,\qquad s-q=\left(-\frac32-5\right)+\left(\frac52-2\right)i=-\frac{13}2+\frac12i
$$
で、$s-q=i(r-p)$ が成り立っている。
対角線 BD の中点 M のまわりに 90° 回すと、赤の三角形 MSP の S が P に、青の三角形 MQR の Q が R に移る
図 3 のように、対角線 $BD$ の中点を $M$ とする。三角形 $MSP$ と三角形 $MQR$ は、どちらも $M$ を直角の頂点とする直角二等辺三角形である。つまり $M$ のまわりに反時計回りに $90^\circ$ 回すと、$S$ は $P$ に、$Q$ は $R$ に移る。回転で線分 $SQ$ は線分 $PR$ に移るので、$PR=SQ$ で、$PR$ は $SQ$ を $90^\circ$ 回した向きになる。これが thm-vaq-main の別証明である。
$m=\dfrac{b+d}2$ とする。$M$ のまわりの反時計回りの $90^\circ$ 回転は $z\mapsto m+i(z-m)$ である。段 1 の式から $2(s-m)=(1+i)d+(1-i)a-b-d=id+(1-i)a-b$ なので
$$2\bigl(m+i(s-m)\bigr)=(b+d)+i\bigl(id+(1-i)a-b\bigr)=b+d-d+(i+1)a-ib=(1+i)a+(1-i)b=2p$$
で、回転は $S$ を $P$ に移す。同じく $2(q-m)=(1+i)b+(1-i)c-b-d=ib+(1-i)c-d$ なので
$$2\bigl(m+i(q-m)\bigr)=(b+d)+i\bigl(ib+(1-i)c-d\bigr)=b+d-b+(i+1)c-id=(1+i)c+(1-i)d=2r$$
で、回転は $Q$ を $R$ に移す。回転は長さを変えず向きを $90^\circ$ 回すので、$r-p=i(q-s)$、つまり $s-q=i(r-p)$ である。
thm-vaq-main の記号で、四角形 $ABCD$ の面積を $K$ とすると
$$
PR^2=QS^2=\frac{AC^2+BD^2}2+2K
$$
である。特に $PR>0$ で、$P\ne R$ である。
要点:$\vec u=\overrightarrow{AC}=(u_1,u_2)$、$\vec v=\overrightarrow{BD}=(v_1,v_2)$ とおく。段 2 の式を $2(r-p)=(1+i)(c-a)+(1-i)(d-b)$ と並べかえて絶対値の 2 乗を展開すると $4PR^2=2AC^2+2BD^2+4(u_1v_2-u_2v_1)$ となり、靴ひも公式から $u_1v_2-u_2v_1=2K$ である。
段 1(並べかえ)。thm-vaq-main の証明の段 2 から $2(r-p)=(1+i)(c-a)+(1-i)(d-b)$ である。$\alpha=c-a=u_1+u_2i$、$\beta=d-b=v_1+v_2i$ とおく。
段 2(展開)。$(1+i)\alpha=(u_1-u_2)+(u_1+u_2)i$、$(1-i)\beta=(v_1+v_2)+(v_2-v_1)i$ なので、その和の実部は $u_1-u_2+v_1+v_2$、虚部は $u_1+u_2+v_2-v_1$ である。2 乗して足すと
$$4PR^2=(u_1-u_2+v_1+v_2)^2+(u_1+u_2-v_1+v_2)^2=2(u_1^2+u_2^2)+2(v_1^2+v_2^2)+4(u_1v_2-u_2v_1)$$
である($(X+Y)^2+(Z+W)^2$ の形で、$X=u_1-u_2$、$Y=v_1+v_2$、$Z=u_1+u_2$、$W=v_2-v_1$ とすると $X^2+Z^2=2(u_1^2+u_2^2)$、$Y^2+W^2=2(v_1^2+v_2^2)$、$2(XY+ZW)=4(u_1v_2-u_2v_1)$)。
段 3(面積)。頂点の座標を $A(x_1,y_1)$、…、$D(x_4,y_4)$ とすると、靴ひも公式 により、反時計回りの四角形の面積は $K=\dfrac12\bigl[(x_1y_2-x_2y_1)+(x_2y_3-x_3y_2)+(x_3y_4-x_4y_3)+(x_4y_1-x_1y_4)\bigr]$ である。右辺の括弧の中は $(x_3-x_1)(y_4-y_2)-(y_3-y_1)(x_4-x_2)=u_1v_2-u_2v_1$ と等しい(両辺を展開すると同じ 8 項になる)。よって $u_1v_2-u_2v_1=2K$ である。
段 4(まとめ)。$u_1^2+u_2^2=AC^2$、$v_1^2+v_2^2=BD^2$ なので、$4PR^2=2AC^2+2BD^2+8K$ で、両辺を $4$ で割ると主張の式になる。$K>0$ なので $PR^2>0$ である。$QS=PR$ は thm-vaq-main の段 4 による。
$D$ を $A$ に近づけていくと、辺 $DA$ の正方形はつぶれて点 $A$ になり、四角形は三角形 $ABC$ になる。thm-vaq-main の等式は恒等式なので、$d=a$ を代入してもそのまま成り立つ。
三角形 $ABC$(頂点は反時計回り)の各辺の外側に正方形を立て、辺 $AB$、$BC$、$CA$ の上の正方形の中心を $P$、$Q$、$R$ とする。このとき $a-q=i(r-p)$ で、線分 $AQ$ と線分 $PR$ は長さが等しく、直交する。
thm-vaq-main の段 1〜3 は $a$、$b$、$c$、$d$ についての恒等式の計算なので、$d=a$ としても成り立つ。このとき $R$ は辺 $CA$ の正方形の中心で、$2s=(1+i)a+(1-i)a=2a$ より $s=a$ である。よって $a-q=i(r-p)$ である。$A$、$B$、$C$ は一直線上にないので三角形 $ABC$ の面積 $K$ は正で、prop-vaq-length の証明と同じ計算で $PR^2=\dfrac{AC^2+BA^2}2+2K>0$ である($BD$ が $BA$ になる)。したがって $AQ=PR>0$ で、$AQ\perp PR$ である。
三角形の 3 辺に正方形を立てると、頂点 A と向かいの正方形の中心 Q を結ぶ線分は、PR と長さが等しく直交する
ex-vaq-start の $A$、$B$、$C$ で三角形 $ABC$ を考える(図 4)。$P=(2,-2)$、$Q=(5,2)$ は同じで、辺 $CA$ の正方形の中心は $r=\dfrac{(1+i)(3+3i)+(1-i)\cdot0}2=\dfrac{6i}2=3i$、つまり $R=(0,3)$ である。$\overrightarrow{PR}=(-2,5)$、$\overrightarrow{QA}=(-5,-2)$ で、長さの 2 乗はどちらも $29$、内積は $10-10=0$ である。$\dfrac{AC^2+BA^2}2+2K=\dfrac{18+16}2+2\cdot6=29$ とも一致する。
名前の似た Van Aubelの定理(三角形) は、三角形の Ceva 線が分ける線分の比についての別の定理である。
三角形の 3 辺の外側に正三角形を立てると、3 つの正三角形の重心は正三角形をなす(Napoleonの定理)。Van Aubel の定理は、同じ「辺に正多角形を立てて中心をとる」操作を四角形と正方形で行ったものである。
| Napoleon の定理 | Van Aubel の定理(四角形) | |
|---|---|---|
| もとの図形 | 三角形 | 四角形 |
| 辺に立てる図形 | 正三角形 | 正方形 |
| 回転の角 | $60^\circ$ | $90^\circ$ |
| 使う複素数 | $\omega=\dfrac{-1+\sqrt3\,i}2$ など | $i$ |
| 結論 | 3 つの中心が正三角形をなす | $PR=QS$ かつ $PR\perp QS$ |
| 4 つ(3 つ)の中心の形 | いつも正三角形 | 一般には正方形でない(rem-vaq-not-square) |
ex-vaq-start の $P(2,-2)$、$Q(5,2)$、$R(1,4)$、$S(-1,1)$ では $PQ^2=3^2+4^2=25$、$QR^2=4^2+2^2=20$ で、四角形 $PQRS$ の隣り合う辺の長さが違う。$PQRS$ は 2 本の対角線 $PR$、$QS$ が等しく直交する四角形だが、対角線が互いの中点で交わるとは限らないので、正方形とは限らない(平行四辺形の条件 の系「対角線による長方形・ひし形・正方形の判定」)。もとの四角形が平行四辺形のときに限って $PQRS$ は正方形になる。これが次の記事 Thébaultの定理 である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 4 つの正方形を同じ側(すべて外側)に立てる | ex-vaq-start の四角形で、辺 $CD$ の正方形だけ内側に立てる | $PR=QS$、$PR\perp QS$ |
| 立てる図形が正方形である | 高さが辺の長さの半分の長方形を外側に立てる | $PR=QS$、$PR\perp QS$ |
すべて内側にそろえて立てた場合は、結論はそのまま成り立つ(ex-vaq-inward)。崩れるのは「向きがそろっていない」ときと「正方形でない」ときである。
辺 CD の正方形だけを内側に立てると、PR′ と QS は長さも違い、直交もしない
ex-vaq-start の四角形で、辺 $CD$ の正方形だけを内側(左側)に立てる(図 5)。左側の正方形の中心は、lem-vaq-center の $-i$ を $i$ に替えた $\dfrac{x+y}2+\dfrac{i(y-x)}2$ である。辺 $CD$ では中点 $\left(\dfrac32,\dfrac52\right)$ から $\overrightarrow{CD}=(-3,-1)$ を反時計回りに $90^\circ$ 回した $(1,-3)$ の半分だけ進んで、$R'=(2,1)$ となる。$P=(2,-2)$、$Q=(5,2)$、$S=(-1,1)$ はそのままで
$$
\overrightarrow{PR'}=(0,3),\qquad \overrightarrow{QS}=(-6,-1)
$$
である。$PR'^2=9$、$QS^2=37$ で長さが違い、内積は $0\cdot(-6)+3\cdot(-1)=-3\ne0$ で直交もしない。
外した条件:4 つの正方形を同じ側に立てること。崩れること:$PR=QS$ と $PR\perp QS$。thm-vaq-main の段 3 は、4 つの中心の式の係数が同じ形 $(1+i,\,1-i)$ にそろっていることを使っていた。1 つだけ $(1-i,\,1+i)$ に変わると、係数の比べ合わせが合わなくなる。
ex-vaq-start の四角形の各辺 $XY$ の外側に、高さが $\dfrac12XY$ の長方形を立てる。中心は、辺の中点から $\dfrac{y-x}2$ を時計回りに $90^\circ$ 回して半分にしたベクトルだけ進んだ点 $\dfrac{x+y}2-\dfrac{i(y-x)}4$ である。計算すると中心は $(2,-1)$、$\left(\dfrac{17}4,\dfrac74\right)$、$\left(\dfrac54,\dfrac{13}4\right)$、$\left(-\dfrac12,1\right)$ で、辺 $AB$ と $CD$、$BC$ と $DA$ の中心を結ぶベクトルは
$$
\left(-\frac34,\frac{17}4\right),\qquad \left(-\frac{19}4,-\frac34\right)
$$
である。長さの 2 乗は $\dfrac{149}8$ と $\dfrac{185}8$ で違い、内積は $\dfrac{57}{16}-\dfrac{51}{16}=\dfrac38\ne0$ である。
外した条件:立てる図形が正方形であること。崩れること:2 本の線分が等しく直交すること。中心の式の係数が $\dfrac12\pm\dfrac i4$($x$ に $+$、$y$ に $-$)になり、$i\left(\dfrac12+\dfrac i4\right)=-\dfrac14+\dfrac i2$ が $-\left(\dfrac12-\dfrac i4\right)$ に等しくないので、段 3 の計算が通らない。
4 つの正方形をすべて内側(左側)に立てると、中心の式は $\dfrac{(1-i)x+(1+i)y}2$ になる。thm-vaq-main の段 1〜3 で $i$ を $-i$ に替えた計算がそのまま通り、$s-q=-i(r-p)$ となる。したがって $PR=QS$、$PR\perp QS$ はやはり成り立つ。
ex-vaq-start の四角形では、内側の中心は $P=(2,2)$、$Q=(2,1)$、$R=(2,1)$、$S=(1,1)$ で($Q$ と $R$ がたまたま重なる)、$\overrightarrow{PR}=(0,-1)$、$\overrightarrow{QS}=(-1,0)$ である。長さはどちらも $1$ で直交し、$-i\cdot(-i)=i^2=-1$ から $s-q=-i(r-p)$ も確かめられる。
thm-vaq-main の等式 $s-q=i(r-p)$ は、$a$、$b$、$c$、$d$ の 1 次式どうしの恒等式である。「辺に正方形を立てて中心をとる」操作は、4 つの頂点 $(a,b,c,d)$ を 4 つの中心 $(p,q,r,s)$ に移す 1 次の写像で、Van Aubel の定理はその写像の像がいつも満たす 1 本の式を言っている。
この操作に続けて、四角形 $PQRS$ の各辺の中点をとると、どんな四角形 $ABCD$ から始めても正方形ができる(図 6)。理由は次のとおりである。4 辺の中点を結んだ四角形は、Varignonの定理 により、辺がもとの四角形の対角線に平行で長さがその半分の平行四辺形である。$PQRS$ の対角線 $PR$、$QS$ は等しく直交するので、この平行四辺形の隣り合う辺は等しく直交し、正方形になる(Varignonの定理 の命題「長方形・ひし形・正方形になる条件」の (iii))。
四角形 PQRS(緑の破線)の各辺の中点を結ぶと、緑の正方形になる
1 回目は頂角 $90^\circ$ の二等辺三角形の頂点(正方形の中心)、2 回目は頂角 $180^\circ$ の二等辺三角形の頂点(辺の中点)をとる操作と見ることができる。$n$ 角形で、頂角を $\dfrac{360^\circ k}n$($k=1,2,\dots,n-2$)とする操作を 1 回ずつ行うと正 $n$ 角形ができる、というのが Petr–Douglas–Neumannの定理 で、ここで見たのはその $n=4$ の場合である(この記事では一般の場合を証明しない)。$n=3$ の場合は Napoleonの定理 になる。Wei26 も、Van Aubel の定理をこの定理の特別な場合として挙げている。
三角形 $A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(2,4)$ の各辺の外側に立てた正方形の中心 $P$(辺 $AB$)、$Q$(辺 $BC$)、$R$(辺 $CA$)を求め、cor-vaq-triangle が成り立つことを確かめよ。
lem-vaq-center から $p=\dfrac{(1-i)\cdot6}2=3-3i$。$(1+i)\cdot6=6+6i$、$(1-i)(2+4i)=2+4i-2i+4=6+2i$ なので $q=\dfrac{12+8i}2=6+4i$。$(1+i)(2+4i)=2+4i+2i-4=-2+6i$ なので $r=\dfrac{-2+6i}2=-1+3i$。よって $P(3,-3)$、$Q(6,4)$、$R(-1,3)$ である。$\overrightarrow{PR}=(-4,6)$、$\overrightarrow{AQ}=(6,4)$ で、長さの 2 乗はどちらも $52$、内積は $-24+24=0$ である。複素数では $i(r-p)=i(-4+6i)=-6-4i=a-q$ である。
縦 $h$、横 $w$ の長方形 $ABCD$ について、prop-vaq-length を使って $PR=w+h$ を示せ。また、図をかいて直接確かめよ。
長方形の対角線は $AC=BD=\sqrt{w^2+h^2}$、面積は $K=wh$ なので、$PR^2=\dfrac{2(w^2+h^2)}2+2wh=(w+h)^2$、$PR=w+h$ である。直接には、$A(0,0)$、$B(w,0)$、$C(w,h)$、$D(0,h)$ とすると、辺 $AB$ の正方形の中心は $\left(\dfrac w2,-\dfrac w2\right)$、辺 $CD$ の正方形の中心は $\left(\dfrac w2,h+\dfrac w2\right)$ で、距離は $h+w$ である。
この定理の主張(四角形の各辺の外側に正方形を立てると、向かい合う正方形の中心を結ぶ 2 本の線分は長さが等しく直交する)と、Petr–Douglas–Neumann の定理の特別な場合であることは Wei26 による。証明はこの記事で完結させた。
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