L'Huilierの定理

同義語:リュイリエの定理L'Huilier's theorem

概要

L'Huilierの定理(L'Huilier's theorem)とは、単位球面の上の球面三角形の球過量 $E=A+B+C-\pi$(面積に等しい)を、3 辺 $a,b,c$ と半周長 $s=\frac{a+b+c}{2}$ で表す式 $\tan\frac E4=\sqrt{\tan\frac s2\tan\frac{s-a}{2}\tan\frac{s-b}{2}\tan\frac{s-c}{2}}$ である。角を求めずに 3 辺から面積が直接求まり、半径 $R$ の球面では面積は $R^2E$ になる。Delambre の類似式で角の和を辺に替え、和積の公式と球面の半角公式で整理して導かれる。平面の Heron の公式の球面版で、辺が半径に比べて小さい三角形では Heron の公式に近づく。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Napierの類似式, 球面三角形の半角公式, 球面三角形の面積, 三角形の面積の公式

高校での出発点:3 辺から球面三角形の面積を求める

平面の三角形の面積は、3 辺の長さだけから Heron の公式 $S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$($s$ は 3 辺の和の半分)で求まる(三角形の面積の公式)。球面三角形でも、3 辺から面積を直接求める式があるだろうか。
以下、単位球面の上の球面三角形 $ABC$ の辺を $a,b,c$(中心角、$0< a,b,c<\pi$)、角を $A,B,C$ とし、半周長を $s=\dfrac{a+b+c}2$ とする。球面三角形の面積は、球面三角形の面積 の主定理(Girard の定理)により、内角の和から $\pi$ を引いたもの
$$ A+B+C-\pi $$
に等しい(単位球面のとき)。そこで、まず 3 辺から角を出し、この式に入れてみる。

球面を 8 等分した三角形

$A(1,0,0)$、$B(0,1,0)$、$C(0,0,1)$ を頂点とする三角形は、3 辺がどれも $\dfrac\pi2$ で、3 つの角もどれも $\dfrac\pi2$ である(球面三角法 の最初の例、図 1)。面積は
$$ A+B+C-\pi=\frac{3\pi}2-\pi=\frac\pi2 $$
で、単位球面の表面積 $4\pi$ の $\dfrac18$ になっている。3 つの座標平面で球面が 8 つの合同な部分に分かれることとも合う。

単位球面を 3 つの座標平面で 8 等分した 1 つの球面三角形。3 辺も 3 つの角も 90 度で、面積は球面の 8 分の 1 単位球面を 3 つの座標平面で 8 等分した 1 つの球面三角形。3 辺も 3 つの角も 90 度で、面積は球面の 8 分の 1

辺が $90^\circ$、$60^\circ$、$60^\circ$ の球面三角形

球面三角形の半角公式 で調べた三角形である。3 辺から角を出すには、余弦定理を 3 回使う(2 つは同じ値)。
(1) $\cos A=\dfrac{\cos90^\circ-\cos60^\circ\cos60^\circ}{\sin60^\circ\sin60^\circ}=\dfrac{-\frac14}{\frac34}=-\dfrac13$ で、$A=109.471\ldots^\circ$ である。
(2) $\cos B=\dfrac{\cos60^\circ-\cos60^\circ\cos90^\circ}{\sin60^\circ\sin90^\circ}=\dfrac{\frac12}{\frac{\sqrt3}2}=\dfrac1{\sqrt3}$ で、$B=54.735\ldots^\circ$ である。$b=c$ なので $C=B$ である。
(3) 面積は
$$ A+B+C-\pi=109.471\ldots^\circ+2\times54.735\ldots^\circ-180^\circ=38.942\ldots^\circ $$
をラジアンに直した $0.67967\ldots$ である。

この方法では、面積を出す前に角を 3 つ求めなければならない。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 3 辺から球面三角形の面積を直接求める式はあるか。→ thm-lhu-main
  2. その式は、平面の Heron の公式とどう関係するか。→ rem-lhu-small
  3. 地球の上の大きな三角形の面積は、どう求めるか。→ ex-lhu-earth
    平面の三角形球面三角形(単位球面)
    面積 $S$球過量 $E=A+B+C-\pi$(=面積)
    Heron の公式 $S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$L'Huilier の定理 $\tan\dfrac E4=\sqrt{\tan\dfrac s2\tan\dfrac{s-a}2\tan\dfrac{s-b}2\tan\dfrac{s-c}2}$
    証明に使う式:半角公式(三角形の半角公式)証明に使う式:Delambre の類似式(Napierの類似式)と半角公式
    小さい三角形L'Huilier の定理が Heron の公式に近づく

言葉の準備:球過量

球過量

球面三角形 $ABC$ の内角の和から $\pi$ を引いた数
$$ E=A+B+C-\pi $$
を、球面三角形の 球過量 という。

球面三角形の面積 の主定理により、半径 $R$ の球面の上の球面三角形の面積は $R^2E$ である。単位球面では面積そのものが $E$ になる。また、同じ記事の系「球面三角形の内角の和の範囲」により $\pi< A+B+C<3\pi$ なので
$$ 0< E<2\pi,\qquad 0<\frac E4<\frac\pi2 $$
である。ex-lhu-octant では $E=\dfrac\pi2$、ex-lhu-start では $E=38.942\ldots^\circ$ である。

主定理:L'Huilier の定理

L'Huilier の定理

単位球面の上の球面三角形 $ABC$ の半周長を $s$、球過量を $E$ とすると
$$ \tan\frac E4=\sqrt{\tan\frac s2\,\tan\frac{s-a}2\,\tan\frac{s-b}2\,\tan\frac{s-c}2} $$
が成り立つ。根号の中は正である。

$\dfrac s2$、$\dfrac{s-a}2$、$\dfrac{s-b}2$、$\dfrac{s-c}2$ は、球面三角形の半角公式 の系「球面三角形の辺の不等式」($0< s-a$、$0< s-b$、$0< s-c$、$s<\pi$)により、どれも $0$ と $\dfrac\pi2$ の間にある。したがって 4 つの正接はどれも正で、根号の中は正である。定理の式は Wei26a と Wei26b に同じ形で載っている。

Delambre の類似式で角を辺に替える

方針:$\dfrac E4$ を、$X=\dfrac{A+B}2$ と $Y=\dfrac\pi2-\dfrac C2$ の差の半分と見る。$\tan\dfrac{X-Y}2$ を $\sin X-\sin Y$ と $\cos X+\cos Y$ の比で書き、Napierの類似式 の主定理「Delambre の類似式」で $\sin X$、$\cos X$ を辺で書く。最後に和積の公式と半角公式で整理する。
段 1($\dfrac E4$ を差の半分と見る)。$X=\dfrac{A+B}2$、$Y=\dfrac\pi2-\dfrac C2$ とおくと
$$ X-Y=\frac{A+B}2-\frac\pi2+\frac C2=\frac{A+B+C-\pi}2=\frac E2 $$
なので、$\dfrac E4=\dfrac{X-Y}2$ である。また $\sin Y=\cos\dfrac C2$、$\cos Y=\sin\dfrac C2$ である。
段 2(Delambre の類似式を使う)。Delambre の類似式の (D1)、(D3)
$$ \sin\frac{A+B}2=\frac{\cos\frac{a-b}2}{\cos\frac c2}\cos\frac C2,\qquad \cos\frac{A+B}2=\frac{\cos\frac{a+b}2}{\cos\frac c2}\sin\frac C2 $$
から
$$ \sin X-\sin Y=\frac{\cos\frac C2}{\cos\frac c2}\left(\cos\frac{a-b}2-\cos\frac c2\right),\qquad \cos X+\cos Y=\frac{\sin\frac C2}{\cos\frac c2}\left(\cos\frac{a+b}2+\cos\frac c2\right) $$
である。
段 3(和積の公式)。和積の公式 $\cos P-\cos Q=-2\sin\dfrac{P+Q}2\sin\dfrac{P-Q}2$、$\cos P+\cos Q=2\cos\dfrac{P+Q}2\cos\dfrac{P-Q}2$(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)を使う。$P=\dfrac{a-b}2$、$Q=\dfrac c2$ のとき $\dfrac{P+Q}2=\dfrac{a-b+c}4=\dfrac{s-b}2$、$\dfrac{P-Q}2=\dfrac{a-b-c}4=-\dfrac{s-a}2$ なので
$$ \cos\frac{a-b}2-\cos\frac c2=-2\sin\frac{s-b}2\sin\left(-\frac{s-a}2\right)=2\sin\frac{s-a}2\sin\frac{s-b}2 $$
である。$P=\dfrac{a+b}2$、$Q=\dfrac c2$ のとき $\dfrac{P+Q}2=\dfrac s2$、$\dfrac{P-Q}2=\dfrac{s-c}2$ なので
$$ \cos\frac{a+b}2+\cos\frac c2=2\cos\frac s2\cos\frac{s-c}2 $$
である。$\dfrac C2$、$\dfrac c2$、$\dfrac s2$、$\dfrac{s-a}2$ などはどれも $0$ と $\dfrac\pi2$ の間にあるので、段 2 の 2 つの式の右辺はどちらも正である。特に $\cos X+\cos Y>0$ である。
段 4(正接を比で書く)。和積の公式から
$$ \sin X-\sin Y=2\cos\frac{X+Y}2\sin\frac{X-Y}2,\qquad \cos X+\cos Y=2\cos\frac{X+Y}2\cos\frac{X-Y}2 $$
である。段 3 より $\cos X+\cos Y\ne0$ なので、$\cos\dfrac{X+Y}2\ne0$ かつ $\cos\dfrac{X-Y}2\ne0$ で、2 式を割ると $\cos\dfrac{X+Y}2$ が約分されて
$$ \tan\frac{X-Y}2=\frac{\sin X-\sin Y}{\cos X+\cos Y} $$
である。段 1〜3 を代入すると、$\cos\dfrac c2$ と $2$ が約分されて
$$ \tan\frac E4=\frac{\cos\frac C2}{\sin\frac C2}\cdot\frac{\sin\frac{s-a}2\sin\frac{s-b}2}{\cos\frac s2\cos\frac{s-c}2}=\cot\frac C2\cdot\frac{\sin\frac{s-a}2\sin\frac{s-b}2}{\cos\frac s2\cos\frac{s-c}2} $$
となる。右辺は正である。
段 5($\cot\dfrac C2$ を辺で書く)。球面三角形の半角公式 の主定理から $\tan\dfrac C2=\sqrt{\dfrac{\sin(s-a)\sin(s-b)}{\sin s\,\sin(s-c)}}$ なので
$$ \cot^2\frac C2=\frac{\sin s\,\sin(s-c)}{\sin(s-a)\sin(s-b)} $$
である。2 倍角の公式 $\sin x=2\sin\dfrac x2\cos\dfrac x2$ で 4 つの正弦を書き直すと、分子と分母の $2\cdot2$ が約分されて
$$ \cot^2\frac C2=\frac{\sin\frac s2\cos\frac s2\,\sin\frac{s-c}2\cos\frac{s-c}2}{\sin\frac{s-a}2\cos\frac{s-a}2\,\sin\frac{s-b}2\cos\frac{s-b}2} $$
である。
段 6(2 乗して整理する)。段 4 の式を 2 乗して段 5 を代入すると
$$ \tan^2\frac E4=\frac{\sin\frac s2\cos\frac s2\,\sin\frac{s-c}2\cos\frac{s-c}2}{\sin\frac{s-a}2\cos\frac{s-a}2\,\sin\frac{s-b}2\cos\frac{s-b}2}\cdot\frac{\sin^2\frac{s-a}2\,\sin^2\frac{s-b}2}{\cos^2\frac s2\,\cos^2\frac{s-c}2} $$
である。$\cos\dfrac s2$、$\cos\dfrac{s-c}2$ は分子に 1 つ、分母に 2 つあるので 1 つずつ約分でき、$\sin\dfrac{s-a}2$、$\sin\dfrac{s-b}2$ は分子に 2 つ、分母に 1 つあるので 1 つずつ約分できる。約分すると
$$ \tan^2\frac E4=\frac{\sin\frac s2\,\sin\frac{s-a}2\,\sin\frac{s-b}2\,\sin\frac{s-c}2}{\cos\frac s2\,\cos\frac{s-a}2\,\cos\frac{s-b}2\,\cos\frac{s-c}2}=\tan\frac s2\,\tan\frac{s-a}2\,\tan\frac{s-b}2\,\tan\frac{s-c}2 $$
である。
段 7(符号)。$0<\dfrac E4<\dfrac\pi2$ なので $\tan\dfrac E4>0$ である(段 4 の右辺が正であることからも分かる)。正の平方根をとって定理の式を得る。$\square$

平面の Heron の公式は、三角形の半角公式 の系「内接円の半径と Heron の公式」で、半角公式と「$S=rs$」から導いた。球面では、面積(球過量)が角の和で決まるので、角の和の半分 $\dfrac{A+B}2$ を Delambre の類似式で辺に替えるところが鍵になる。

2 つの三角形で確かめる
  1. ex-lhu-octant の三角形。$s=\dfrac{3\pi}4$、$s-a=s-b=s-c=\dfrac\pi4$ なので
    $$ \tan^2\frac E4=\tan\frac{3\pi}8\tan^3\frac\pi8 $$
    である。$\tan\dfrac{3\pi}8=\tan\left(\dfrac\pi2-\dfrac\pi8\right)=\dfrac1{\tan\frac\pi8}$ なので、右辺は $\tan^2\dfrac\pi8$ で、$\tan\dfrac E4=\tan\dfrac\pi8$、つまり $E=\dfrac\pi2$ である。ex-lhu-octant と一致する。
  2. ex-lhu-start の三角形。$s=105^\circ$ で、$\dfrac s2=52.5^\circ$、$\dfrac{s-a}2=7.5^\circ$、$\dfrac{s-b}2=\dfrac{s-c}2=22.5^\circ$ である。積和の公式から
    $$ \tan52.5^\circ\tan7.5^\circ=\frac{\cos45^\circ-\cos60^\circ}{\cos45^\circ+\cos60^\circ}=\frac{\sqrt2-1}{\sqrt2+1}=(\sqrt2-1)^2 $$
    である($\tan x\tan y=\dfrac{\sin x\sin y}{\cos x\cos y}$ の分子と分母を積和の公式で書き、$x-y=45^\circ$、$x+y=60^\circ$ を使った。最後は分母と分子に $\sqrt2-1$ を掛けた)。また半角の公式から $\tan22.5^\circ=\sqrt2-1$ である。よって
    $$ \tan^2\frac E4=(\sqrt2-1)^2(\sqrt2-1)^2,\qquad \tan\frac E4=(\sqrt2-1)^2=\boxed{3-2\sqrt2}=0.17157\ldots $$
    で、$\dfrac E4=9.7356\ldots^\circ$、$E=38.942\ldots^\circ$ である。ex-lhu-start で角を 3 つ求めて出した値と一致する。
    (3) 3 辺がどれも $60^\circ$ の三角形での計算を開く

    $s=90^\circ$、$s-a=s-b=s-c=30^\circ$ なので、$\tan^2\dfrac E4=\tan45^\circ\tan^315^\circ=(2-\sqrt3)^3$ で、$\tan\dfrac E4=(2-\sqrt3)^{\frac32}=0.13870\ldots$、$E=0.55128\ldots$ である。球面三角法 の例「3 辺がどれも $60^\circ$ の三角形」で角から求めた $3\arccos\dfrac13-\pi=0.5512\ldots$ と一致する。

地球の上の三角形の面積

半径 $R$ の球面の上の三角形では、辺の長さ(弧の長さ)を $R$ で割った中心角を $a,b,c$ として thm-lhu-main で $E$ を求め、面積を $R^2E$ とする($E$ はラジアン)。

東京・シンガポール・シドニーの三角形

地球を半径 $R=6371\ \mathrm{km}$ の球とみなし、東京(北緯 $35.68^\circ$・東経 $139.69^\circ$)、シンガポール(北緯 $1.35^\circ$・東経 $103.82^\circ$)、シドニー(南緯 $33.87^\circ$・東経 $151.21^\circ$)を頂点とする球面三角形の面積を求める(図 2)。
(1) 3 辺。球面三角法 の系「大円距離の公式」で中心角を求めると、シンガポールとシドニーの間が $a=56.712\ldots^\circ$($6306\ \mathrm{km}$)、シドニーと東京の間が $b=70.378\ldots^\circ$($7826\ \mathrm{km}$)、東京とシンガポールの間が $c=47.794\ldots^\circ$($5314\ \mathrm{km}$)である。
(2) 半周長と 4 つの半分。$s=87.442\ldots^\circ$ で
$$ \frac s2=43.721\ldots^\circ,\qquad \frac{s-a}2=15.364\ldots^\circ,\qquad \frac{s-b}2=8.532\ldots^\circ,\qquad \frac{s-c}2=19.824\ldots^\circ $$
である。
(3) L'Huilier の定理。
$$ \tan\frac E4=\sqrt{0.95633\ldots\times0.27478\ldots\times0.15002\ldots\times0.36050\ldots}=\sqrt{0.014212\ldots}=0.11921\ldots $$
で、$\dfrac E4=6.7985\ldots^\circ$、$E=27.194\ldots^\circ=0.47463\ldots$(ラジアン)である。
(4) 面積は
$$ R^2E=6371^2\times0.47463\ldots=1.9265\ldots\times10^7\ \mathrm{km}^2 $$
である。余弦定理で 3 つの角(東京 $62.401^\circ$、シンガポール $93.046^\circ$、シドニー $51.748^\circ$)を出して Girard の定理を使っても、$E=207.194^\circ-180^\circ=27.194^\circ$ で同じ値になる。

東京、シンガポール、シドニーを頂点とする地球の上の球面三角形。面積は約 1.93 × 10 の 7 乗 平方キロメートル 東京、シンガポール、シドニーを頂点とする地球の上の球面三角形。面積は約 1.93 × 10 の 7 乗 平方キロメートル
3 辺から面積を求める方法を比べておく。

方法使う式正確さ手間
角を出して Girard の定理余弦定理を 3 回、$E=A+B+C-\pi$正確余弦定理 3 回と逆余弦 3 回
L'Huilier の定理$\tan\dfrac E4=\sqrt{\tan\frac s2\tan\frac{s-a}2\tan\frac{s-b}2\tan\frac{s-c}2}$正確正接 4 つと逆正接 1 回
弧の長さで平面の Heron の公式$S\approx\sqrt{\sigma(\sigma-\alpha)(\sigma-\beta)(\sigma-\gamma)}$小さい三角形でだけ近い平面と同じ

表の 3 行目の $\alpha,\beta,\gamma$ は弧の長さ、$\sigma$ はその和の半分である。ex-lhu-earth の三角形に平面の Heron の公式をそのまま使うと $1.667\times10^7\ \mathrm{km}^2$ となり、正しい値より $13.5\%$ 小さい。どれだけ小さければ平面の式で間に合うかを、次の節で調べる。

小さい三角形では Heron の公式に戻る

小さい三角形での近似

半径 $R$ の球面の上で、辺の長さが $\alpha,\beta,\gamma$、その和の半分が $\sigma$ の三角形を考える。中心角は $\dfrac\alpha R$ などで、半周長は $\dfrac\sigma R$ である。辺が $R$ に比べて小さいとき、$x$ が $0$ に近いときの近似 $\tan x\approx x$(関数の近似とTaylor展開)を 4 つの正接に使うと
$$ \tan\frac E4\approx\sqrt{\frac\sigma{2R}\cdot\frac{\sigma-\alpha}{2R}\cdot\frac{\sigma-\beta}{2R}\cdot\frac{\sigma-\gamma}{2R}}=\frac{\sqrt{\sigma(\sigma-\alpha)(\sigma-\beta)(\sigma-\gamma)}}{4R^2} $$
である。$E$ も小さいので左辺は $\tan\dfrac E4\approx\dfrac E4$ で、両辺に $4R^2$ を掛けると
$$ \underbrace{R^2E}_{\text{球面三角形の面積}}\approx\underbrace{\sqrt{\sigma(\sigma-\alpha)(\sigma-\beta)(\sigma-\gamma)}}_{\text{平面の Heron の公式}} $$
となる。L'Huilier の定理は、小さい三角形では Heron の公式に近づく。ここでは近似の形を示しただけで、誤差の大きさは評価しない。

3 辺が $3h$、$4h$、$5h$ の三角形

地球($R=6371\ \mathrm{km}$)の上で、3 辺の長さが $3h$、$4h$、$5h$(km)の三角形の面積を、L'Huilier の定理と平面の Heron の公式(直角三角形なので $6h^2$)で比べる。差の割合は、2 つの面積の差を L'Huilier の定理による面積で割ったものである。

3 辺(km)L'Huilier の定理による面積($\mathrm{km}^2$)Heron の公式($\mathrm{km}^2$)差の割合
$3,4,5$$6.0000003$$6$$0.000005\%$
$30,40,50$$600.0031$$600$$0.0005\%$
$300,400,500$$60030.8$$60000$$0.051\%$
$3000,4000,5000$$6326622$$6000000$$5.2\%$

辺を $10$ 倍にすると、差の割合はおよそ $100$ 倍になる(図 3)。数百 km までの三角形なら平面の式との差は $0.1\%$ に満たないが、大陸の大きさでは数 % の差になる。小さい球面三角形の角と面積を平面の三角形と比べる話は、Legendreの球面三角形の定理 で扱う。

地球の上の 3 辺 3h、4h、5h の三角形について、L'Huilier の定理による面積と平面の Heron の公式の差の割合を両対数で描いたグラフ。辺が 10 倍になると差の割合はおよそ 100 倍になる 地球の上の 3 辺 3h、4h、5h の三角形について、L'Huilier の定理による面積と平面の Heron の公式の差の割合を両対数で描いたグラフ。辺が 10 倍になると差の割合はおよそ 100 倍になる

例と反例

外す条件・誤り反例成り立たなくなること
左辺は $\tan\dfrac E4$($\tan\dfrac E2$ ではない)球面を 8 等分した三角形面積が正しく求まる
球過量はラジアンで測って $R^2$ を掛ける東京・シンガポール・シドニーの三角形面積が正しく求まる
平面の Heron の公式は小さい三角形でだけ使う球面を 8 等分した三角形面積が正しく求まる
反例:$\tan\frac{E}{4}$ を $\tan\frac{E}{2}$ にする

ex-lhu-main (1) では、右辺の根号の値が $\tan\dfrac\pi8$ だった。これを $\tan\dfrac E2$ と取り違えると $\dfrac E2=\dfrac\pi8$、$E=\dfrac\pi4$ となり、正しい値 $\dfrac\pi2$(球面の $\dfrac18$)の半分になってしまう。
$\dfrac E4$ になる理由は、prf-lhu-main の段 1 にある。$E$ は角の和から出るので、$\dfrac{A+B}2$ と $\dfrac C2$ から作った $X-Y$ が $\dfrac E2$ になり、その半分の正接を段 4 で求めている。

反例:球過量を度のまま使う

ex-lhu-earth で、$E=27.194^\circ$ を度の数のまま $R^2$ に掛けると $27.194\times6371^2=1.10\times10^9\ \mathrm{km}^2$ となる。これは地球全体の表面積 $4\pi R^2=5.10\times10^8\ \mathrm{km}^2$ より大きく、あり得ない。Girard の定理の $E$ はラジアンで測った値である($27.194^\circ=0.4746\ldots$)。$R^2$ を掛け忘れて $0.4746$ を面積とするのも誤りで、これは半径 $1$ の球面での面積である。

反例:大きい三角形に平面の Heron の公式を使う

球面を 8 等分した三角形の 3 辺(弧の長さ $\dfrac\pi2$)に平面の Heron の公式を使うと、$s=\dfrac{3\pi}4$、$s-a=s-b=s-c=\dfrac\pi4$ で
$$ \sqrt{\frac{3\pi}4\left(\frac\pi4\right)^3}=\frac{\sqrt3\,\pi^2}{16}=1.0684\ldots $$
となる。正しい面積 $\dfrac\pi2=1.5707\ldots$ より $3$ 割以上小さい。rem-lhu-small の近似は、辺が半径に比べて小さいときだけのものである。

大学数学で見る

球過量と立体角

単位球面の上の図形の面積は、球の中心からその図形を見込む 立体角 の大きさ(単位はステラジアン)と呼ばれる。Wei26b は、球過量が球面三角形の見込む立体角に等しいことを述べている。L'Huilier の定理は、3 本の辺の長さ(中心から見た頂点どうしの角)だけで立体角を求める式と読める。
球過量が面積に等しいことは、曲面の曲がり方(曲率)と三角形の角の和を結ぶ Gauss–Bonnet の定理の、球面での特別な場合である。球面三角形の面積 の「大学数学で見ると」で扱っている。

さらに先へ

  • 小さい球面三角形の角を平面の三角形の角で近似するときの補正(球過量の $\dfrac13$ ずつ)は、Legendreの球面三角形の定理 で扱う。
  • 3 辺が分かっている球面三角形の角は 球面三角形の半角公式 で、2 辺と間の角が分かっているときの角は Napierの類似式 で求まる。どちらでも角を出せば、Girard の定理で面積が求まる。
  • 平面の三角形の 3 辺と面積の関係は Heronの公式 で、整数の辺と面積の話も含めて扱っている。

関連項目

参考文献

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