モジュラー表現論(modular representation theory)とは、有限群 $G$ の表現を、標数 $p$ が群の位数 $|G|$ を割る体の上で調べる理論である。この場合は Maschke の定理が成り立たず、表現は一般に既約表現の直和に分かれず、直既約な加群が単純加群とは限らない。$p$ 群の単純加群は自明表現だけであり、一般の有限群でも、代数閉体上の単純加群の同型類の個数は、位数が $p$ と素な元の共役類の個数に等しい(Brauer の定理)。標数 $0$ の表現との関係は、法 $p$ の還元で現れる組成因子を並べた分解行列や Brauer 指標によって記述される。
有限群 $G$ の表現を、標数 $p$ の体の上で考え、しかも $p$ が群の位数 $|G|$ を割る場合を扱うのがモジュラー表現論である。この場合は Maschke の定理が成り立たず(半単純環 の定理「Maschke の定理」)、表現は一般に既約表現の直和に分かれない。たとえば標数 $p$ の体の上で、位数 $p$ の巡回群は行列 $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ で表現され、この表現は既約でも既約表現の直和でもない(群の表現 の例「反例:標数が群の位数を割る場合」)。そのため、それ以上分けられない表現(直既約表現)と、部分表現をもたない表現(既約表現・単純加群)を区別して調べる必要がある。
単純加群の側には、驚くほど整った答えがある。$p$ 群の単純加群は自明表現だけであり、一般の有限群でも、代数閉体上の単純加群の個数は、位数が $p$ と素な元の共役類の個数に等しい(Brauer の定理)。たとえば $S_3$ の単純加群は、標数 $2$ でも標数 $3$ でも 2 つしかなく、次数の 2 乗の和は $|S_3|=6$ に届かない。標数 $0$ の表現との関係は、法 $p$ で還元したときの組成因子を並べた分解行列と、固有値を複素数に持ち上げて作る Brauer 指標で記述される。
この記事を通して、$G$ を有限群、$p$ を素数、$k$ を標数 $p$ の体とする。$G$ の $k$ 上の表現は、群環 $kG:=k[G]$ 上の左加群と同じものであり(群環 の命題「群環上の加群と群の表現」)、以下では有限次元の表現を $kG$ 加群 と呼ぶ。既約表現は単純 $kG$ 加群(単純加群)である。$0$ でない加群が 2 つの $0$ でない部分加群の直和に分かれないとき、直既約 という。$p$ が $|G|$ を割らなければ $kG$ は半単純環なので、直既約な加群は単純加群であり、表現論は標数 $0$ の場合とよく似る。$p$ が $|G|$ を割る場合の $kG$ 加群の理論を モジュラー表現論(modular representation theory)という。
$G$ の元のうち、位数が $p$ と素なものを $p$ 正則元、位数が $p$ の冪($1$ を含む)のものを $p$ 元 という。$p$ 正則元の共役は $p$ 正則元なので、$p$ 正則元からなる共役類が考えられる。これを $p$ 正則共役類 という。
$x\in G$ は、互いに可換な $p$ 正則元 $s$ と $p$ 元 $t$ の積 $x=st$ に書ける。$s,t$ はどちらも $x$ の冪にとれる。
要点:$x$ の位数を $p^am$ と分け、$up^a+vm=1$ を使って $s=x^{up^a}$、$t=x^{vm}$ とおく。
$x$ の位数を $p^am$($p\nmid m$)とし、$up^a+vm=1$ となる整数 $u,v$ をとる。$s:=x^{up^a}$、$t:=x^{vm}$ とおくと $st=ts=x^{up^a+vm}=x$ である。$s^m=x^{up^am}=1$ なので $s$ の位数は $m$ の約数で $p$ 正則であり、$t^{p^a}=1$ なので $t$ は $p$ 元である。$\square$
このような分解はただ 1 つであることも知られている(Web16 Lemma 9.3.4、p. 146)が、この記事では存在だけを使う。
位数が $p$ の冪である群(p群)の表現は、標数 $p$ では極端に単純加群が少ない。
$P$ を有限 $p$ 群、$k$ を標数 $p$ の体とし、$\varepsilon\colon kP\to k$、$\sum_ga_gg\mapsto\sum_ga_g$ を添加写像、$I:=\ker\varepsilon$ を添加イデアルとする(群環 の定義「添加写像と添加イデアル」)。
1:$0\neq v\in V$ をとり、$Pv=\{gv\mid g\in P\}$ の元の $\mathbb{F}_p$ 係数の 1 次結合の全体を $M$ とする($\mathbb{F}_p\subset k$)。$M$ は有限個の元が生成する $\mathbb{F}_p$ 上のベクトル空間なので有限集合で、$|M|=p^d$($d\ge1$)である。$P$ は線形に作用するので $M$ を $M$ に移す。$P$ の作用の各軌道の大きさは、固定部分群の指数として $|P|$ の約数、すなわち $p$ の冪であり、大きさ $1$ の軌道が固定点である。軌道に分けて数えると $|M|\equiv(\text{固定点の個数})\pmod p$ で、$|M|\equiv0$ なので固定点の個数は $p$ の倍数である。$0$ は固定点なので、固定点は $p\ge2$ 個以上あり、$0$ でない固定点がある。
2:単純加群 $S$ に 1 を当てると $0$ でない固定ベクトル $y$ があり、$ky$ は自明表現と同型な部分加群である。$S$ は単純なので $S=ky$ である。
3:$kP$ を左 $kP$ 加群とみて、組成列 $kP=M_0\supsetneq M_1\supsetneq\cdots\supsetneq M_n=0$(各 $M_{i-1}/M_i$ が単純)をとる(単純加群 の定義「組成列と組成因子」。有限次元なので存在する)。2 により各 $M_{i-1}/M_i$ は自明表現で、$I$ の元は自明表現に $0$ で作用する($x\cdot c=\varepsilon(x)c$)ので、$IM_{i-1}\subset M_i$ である。したがって $x_1,\dots,x_n\in I$ について $x_1\cdots x_n\cdot kP\subset M_n=0$ である。各組成因子は 1 次元なので $n=\dim kP=|P|$ である。
4:$\varepsilon(x)=c\neq0$ なら $y:=1-c^{-1}x\in I$ で、3 により $y^{|P|}=0$ なので $x=c(1-y)$ は逆元 $c^{-1}(1+y+\cdots+y^{|P|-1})$ をもつ。逆に単元 $x$ について $\varepsilon(x)\varepsilon(x^{-1})=\varepsilon(1)=1$ なので $\varepsilon(x)\neq0$ である。よって単元でない元の全体は $I$ である。$\square$
1 と 2 は Web16 Proposition 6.2.1(p. 88)に、3 は同 Proposition 6.3.3(p. 92)に別の形で述べられている。4 から、$kP$ は左 $kP$ 加群として直既約である。実際、$kP=L_1\oplus L_2$ と分かれれば $1=e_1+e_2$($e_i\in L_i$)は冪等元 $e_1\neq0,1$ を与えるが、局所環の冪等元は $0$ か $1$ に限る($\varepsilon(e_1)\in\{0,1\}$ で、$\varepsilon(e_1)=1$ なら $e_1$ は単元で $e_1^2=e_1$ から $e_1=1$、$\varepsilon(e_1)=0$ なら $e_1\in I$ は冪零で $e_1=e_1^{|P|}=0$)。標数 $0$ では正則表現は既約表現の直和に分かれるのと、まったく対照的である。
$G=\langle g\rangle$ を位数 $p^n$ の巡回群とする。$k[X]$ から $kG$ への環準同型 $X\mapsto g-1$ は全射で、$(g-1)^{p^n}=g^{p^n}-1=0$(標数 $p$ では $(a-b)^{p^n}=a^{p^n}-b^{p^n}$)なので、次元を比べて $kG\cong k[X]/(X^{p^n})$ である。したがって $kG$ 加群は、$X=g-1$ が冪零に作用する $k[X]$ 加群であり、Jordan 標準形(Jordan標準形)により、$g$ が固有値 $1$ の Jordan 細胞 $J_r(1)$($1\le r\le p^n$)で作用する加群 $U_r=k[X]/(X^r)$ の直和に分かれる。各 $U_r$ は直既約で、単純なのは $U_1$(自明表現)だけである。実際、$U_r$ で $X$ 倍が $0$ になる元は $X^{r-1}$ の定数倍だけである。$0$ でない部分加群 $N$ の元 $v\neq0$ について $X^jv\neq0$、$X^{j+1}v=0$ となる $j$ をとれば、$N$ は $X$ で消える $0$ でない元を含むので、$0$ でない部分加群はすべて $kX^{r-1}$ を含む。よって $U_r$ は 2 つの $0$ でない部分加群の直和に分かれず、$r\ge2$ なら $kX^{r-1}$ が $0$ でも全体でもない部分加群なので単純でない(Web16 Proposition 6.1.1・Theorem 6.1.2、pp. 85–86)。$p^n=p$、$r=2$ の $U_2$ が冒頭の $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ の表現である。
$G$ を有限群、$k$ を標数 $p$ の代数閉体とする。単純 $kG$ 加群の同型類の個数は、$G$ の $p$ 正則共役類の個数に等しい。
$p\nmid|G|$ ならすべての元が $p$ 正則なので、右辺は共役類の個数であり、標数 $0$ の 群環 の命題「既約表現の個数と共役類の個数」と同じ形になる。$p$ が $|G|$ を割ると、$p$ の倍数の位数をもつ元の共役類の分だけ単純加群が減る。証明は、有限次元代数の「交換子の空間」を使う Brauer の方法による。以下、$A$ を $k$ 上有限次元の代数とし、
$$
[A,A]:=\{ab-ba\mid a,b\in A\}\text{ が張る部分空間},\qquad T(A):=\{a\in A\mid\text{ある }n\ge1\text{ で }a^{p^n}\in[A,A]\}
$$
とおく。
要点:$(a+b)^p$ を展開した長さ $p$ の語は、巡回的なずらしで大きさ $p$ の組に分かれ、同じ組の語は $[A,A]$ を法として等しい。
1:$(a+b)^p$ は $a,b$ からなる長さ $p$ の語 $2^p$ 個の和である。位数 $p$ の巡回群を、語の文字の位置を巡回的にずらすことで作用させる。$p$ は素数なので、$1$ 以外のずらしで動かない語はすべてのずらしで動かず、$a^p$ と $b^p$ だけである。残りの語は大きさ $p$ の軌道に分かれる。語 $uv$ をずらした $vu$ について $uv-vu\in[A,A]$ なので、同じ軌道の語は $[A,A]$ を法として等しく、軌道の和は $p\cdot(\text{1 つの語})=0$ と合同である。
2:$c=xy-yx$ なら、1 から $c^p\equiv(xy)^p+(-yx)^p=(xy)^p-(yx)^p$($p=2$ では $-1=1$)であり、$(xy)^p-(yx)^p=x\bigl(y(xy)^{p-1}\bigr)-\bigl(y(xy)^{p-1}\bigr)x\in[A,A]$ である。一般の $c=\sum_i\mu_ic_i$($c_i$ は交換子)では、1 を繰り返し使って $c^p\equiv\sum_i\mu_i^pc_i^p\equiv0$ である。$a=a'+c$ なら $a^p\equiv a'^p+c^p\equiv a'^p$ である。
3:1 と $(\lambda a)^p=\lambda^pa^p$ から $n=1$ の場合を得る。2 により $p$ 乗は $[A,A]$ を法とする合同を保つので、$p$ 乗を $n$ 回繰り返せばよい。
4:3 と 2 により、$a\mapsto a^p$ は $\bar A:=A/[A,A]$ の加法的な写像 $\phi$ で $\phi(\lambda\bar a)=\lambda^p\phi(\bar a)$ を満たすものを引き起こす。$\ker\phi^n$ は $\bar A$ の部分空間で、$n$ について増加するので、その合併 $T(A)/[A,A]$ も部分空間である。$a\in[A,A]$ なら $a^p\in[A,A]$ なので $[A,A]\subset T(A)$ であり、冪零元 $a$ は十分大きい $n$ で $a^{p^n}=0$ なので $T(A)$ に属する。$\square$
要点:行列環では $[A,A]$ が跡 $0$ の行列の空間で、$T(A)$ もそれに等しい。一般の $A$ では Jacobson根基 $J$ が $T(A)$ に含まれ、$A/T(A)\cong B/T(B)$($B=A/J$)となるので、Wedderburn–Artin の構造定理で行列環の直積に帰着する。
1:$\operatorname{tr}(ab-ba)=0$ なので $[A,A]$ は跡 $0$ の行列の空間に含まれる。行列単位 $E_{ij}$ について、$i\neq j$ なら $E_{ij}=E_{ij}E_{jj}-E_{jj}E_{ij}$、$E_{ii}-E_{jj}=E_{ij}E_{ji}-E_{ji}E_{ij}$ であり、これらは跡 $0$ の行列の空間を張るので、$[A,A]$ はちょうどその空間で、余次元は $1$ である。$[A,A]\subset T(A)\subset A$ で $T(A)$ は部分空間なので、$T(A)$ は $[A,A]$ か $A$ である。$E_{11}$ は $E_{11}^{p^m}=E_{11}$ の跡が $1$ なので $T(A)$ に属さず、$T(A)=[A,A]$ である。
2:$J$ を $A$ の Jacobson根基(極大左イデアルの共通部分)とする。$J$ は冪零な両側イデアルで、$B:=A/J$ は半単純環であり、$J$ はすべての単純 $A$ 加群に $0$ で作用するので、単純 $A$ 加群は単純 $B$ 加群と同じものである(Web16 Proposition 6.3.2、p. 91。この記事では証明しない)。半単純環 の定理「Wedderburn–Artin の構造定理」により $B\cong\prod_{i=1}^rM_{n_i}(D_i)$ で、$r$ は単純 $B$ 加群の同型類の個数である。$k$ は $A$ の中心に入るので $B$ の中心に入り、成分への射影により $M_{n_i}(D_i)$ の中心、すなわち $D_i$ の中心の元のスカラー行列の全体に入る。これにより $k\subset D_i$ とみると、$D_i$ は $M_{n_i}(D_i)$ の $(1,1)$ 成分の部分空間として $k$ 上有限次元である。各 $d\in D_i$ について、$k$ と $d$ が生成する部分環は可換で $k$ 上有限次元の整域なので $k$ の有限次拡大体であり、$k$ が代数閉体なら $d\in k$ となる。よって $D_i=k$ であり、$B\cong\prod_iM_{n_i}(k)$ は $k$ 代数の同型である。
$q\colon A\to B$ を商写像とする。$q([A,A])=[B,B]$ である。$a\in T(A)$ なら $q(a)^{p^n}=q(a^{p^n})\in[B,B]$ なので $q(T(A))\subset T(B)$ である。逆に $q(a)\in T(B)$ なら $a^{p^n}\in[A,A]+J$ となる $n$ があり、lem-mrt-power の 4 により $[A,A]+J\subset T(A)$ なので、ある $m$ で $(a^{p^n})^{p^m}\in[A,A]$、すなわち $a\in T(A)$ である。よって $T(A)=q^{-1}(T(B))$、$A/T(A)\cong B/T(B)$ である。最後に、直積では交換子も冪も成分ごとに計算でき、lem-mrt-power の 2 により $n$ を大きくしてもよいので、$T(\prod_iB_i)=\prod_iT(B_i)$ である。1 により $\dim B/T(B)=r$ である。$\square$
群環については、交換子の空間が共役類で記述できる。
$[kG,kG]$ は、$\sum_ga_gg\in kG$ で、各共役類 $C$ について $\sum_{g\in C}a_g=0$ を満たすものの全体である。
要点:$gh-hg$ は共役な 2 元 $gh$ と $hg=h(gh)h^{-1}$ の差である。
$[kG,kG]$ は $g,h\in G$ について $gh-hg$ で張られ、$hg=h(gh)h^{-1}$ なので、これは共役な 2 元の差である。逆に、共役な 2 元の差 $x-yxy^{-1}$ は $a=xy^{-1}$、$b=y$ とおけば $ab-ba$ である。共役な 2 元の差が張る空間は、各共役類の上の係数の和が $0$ である元の全体に等しい(そのような元から、各共役類の中で 1 つの元を基準に差を引いていけばよい)。$\square$
thm-mrt-brauer を示す。lem-mrt-count の 2 により、$\dim kG/T(kG)$ が $p$ 正則共役類の個数 $r$ に等しいことを示せばよい。$T:=T(kG)$ と書き、$x_1,\dots,x_r$ を $p$ 正則共役類の代表元とする。
張ること:$g\in G$ を lem-mrt-decomposition により $g=st$ と分け、$t$ の位数を $p^m$ とする。$g$ と $s$ は可換なので、標数 $p$ の二項定理により
$$
(g-s)^{p^m}=g^{p^m}-s^{p^m}=s^{p^m}t^{p^m}-s^{p^m}=0
$$
である。よって $g-s$ は冪零で、lem-mrt-power の 4 により $g\equiv s\pmod T$ である。共役な元の差は $[kG,kG]\subset T$ に属するので、$s$ はその共役類の代表元 $x_i$ と $T$ を法として合同である。$G$ の元は $kG$ を張るので、$x_1,\dots,x_r$ の像は $kG/T$ を張る。
1 次独立であること:$a=\sum_i\lambda_ix_i\in T$ とする。ある $n_0$ で $a^{p^{n_0}}\in[kG,kG]$ であり、lem-mrt-power の 2 により $n\ge n_0$ ならすべて $a^{p^n}\in[kG,kG]$ である。$x_i$ の位数の最小公倍数 $m'$ は $p$ と素なので、$p^n\equiv1\pmod{m'}$ となる $n\ge n_0$ がある($p$ の $(\mathbb{Z}/m'\mathbb{Z})^\times$ での位数の倍数をとる)。このとき $x_i^{p^n}=x_i$ で、lem-mrt-power の 3 により
$$
\sum_i\lambda_i^{p^n}x_i\equiv a^{p^n}\equiv0\pmod{[kG,kG]}
$$
である。$x_i$ は相異なる共役類に属するので、lem-mrt-commutator により各 $\lambda_i^{p^n}=0$、すなわち $\lambda_i=0$ である。$\square$
この証明は Web16 §9.3(Lemma 9.3.1–Theorem 9.3.6、pp. 145–147)の Brauer による証明の筋に従っており、そこでは $k$ を $G$ の分解体(代数閉体でなくてよい)として述べている。Ser77 §18.2 Corollary 3(p. 150)は、Brauer 指標が基底をなすこと(後述)から同じ主張を導いている。
$k$ を標数 $p$ の代数閉体、$G=S_3$ とする。共役類は $\{1\}$、互換(位数 $2$)、長さ $3$ の巡回置換(位数 $3$)の 3 つである。$k^3$ に座標の置換で $G$ を作用させ、$L:=k(e_1+e_2+e_3)$、$W_0:=\{x\in k^3\mid x_1+x_2+x_3=0\}$ とおく。$W_0$ の基底 $w_1=e_1-e_2$、$w_2=e_2-e_3$ に関する行列は、群の表現 の例「$S_3$ の置換表現の分解と 2 次元表現」のとおり $c=(1\,2\,3)\mapsto\begin{pmatrix}0&-1\\1&-1\end{pmatrix}$、$\tau=(1\,2)\mapsto\begin{pmatrix}-1&1\\0&1\end{pmatrix}$ である。
$G$ の複素表現が、整数係数の行列で与えられているとする(一般には $p$ 進整数環などの上の $G$ 安定な格子をとる)。成分を法 $p$ で還元すると $\mathbb{F}_p$ 上の表現が得られ、係数を $k$ に広げると $kG$ 加群になる。この $kG$ 加群の組成因子は重複度も込めて格子の選び方によらない(Ser77 §15.2 Theorem 32、p. 125。$\mathbb{Z}$ 上の格子は、$p$ と素な整数を分母に許す有理数の環 $\mathbb{Z}_{(p)}$ 上の格子とみればこの定理が当たり、完備性が要らないことは同 p. 126 の注意 (1) にある。この記事では証明しない)。複素既約表現 $E$ の還元に単純 $kG$ 加群 $F$ が組成因子として現れる回数 $d_{EF}$ を 分解数 といい、それを並べた行列を 分解行列 という(同 p. 126)。$S_3$ の 2 次元既約表現 $W$ は格子 $\{x\in\mathbb{Z}^3\mid x_1+x_2+x_3=0\}$ の上で ex-mrt-s3 の整数行列で与えられ、その還元は ex-mrt-s3 の $W_0$ である。したがって $S_3$ の分解行列は次のとおりである。
| 複素既約表現 | $p=2$:$\mathbf 1$ | $p=2$:$W_0$ | $p=3$:$\mathbf 1$ | $p=3$:$\operatorname{sgn}$ |
|---|---|---|---|---|
| $\mathbf 1$ | $1$ | $0$ | $1$ | $0$ |
| $\operatorname{sgn}$ | $1$ | $0$ | $0$ | $1$ |
| $W$ | $0$ | $1$ | $1$ | $1$ |
$p=3$ の列から、複素数体上では既約な $W$ が、法 $3$ では 2 つの組成因子に分かれることが分かる。
$k$ を代数閉体とする。$kG$ 加群 $E$ と $p$ 正則元 $s$ について、$s$ の位数は $p$ と素なので $s$ の作用は対角化でき、固有値は $1$ の冪根である。$p$ と素な位数の $1$ の冪根を $k$ から $\mathbb{C}$ へ持ち上げる対応を 1 つ固定し、固有値の持ち上げの和を $\varphi_E(s)$ とおく。$\varphi_E$ を $E$ の Brauer 指標 という。$\varphi_E$ は $p$ 正則元の集合上の類関数で、$\varphi_E(1)=\dim E$ であり、短完全列について加法的で、複素表現の還元の Brauer 指標はもとの指標の $p$ 正則元への制限に等しい(Ser77 §18.1、pp. 147–148。そこでは剰余体が $k$ の $p$ 進体で持ち上げる。この記事では証明しない)。同じ設定で、単純加群の Brauer 指標は、$p$ 正則元上の類関数の空間の基底をなす(同 §18.2 Theorem 42、p. 149。この記事では証明しない)。基底の個数を比べれば thm-mrt-brauer がもう一度得られる。$S_3$、$p=3$ では $p$ 正則元 $1$、互換の上で $\varphi_{\mathbf 1}=(1,1)$、$\varphi_{\operatorname{sgn}}=(1,-1)$ であり、$W$ の指標の制限 $(2,0)$ は $\varphi_{\mathbf 1}+\varphi_{\operatorname{sgn}}$ で、分解行列の $W$ の行と一致する。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $k$ が代数閉体である(thm-mrt-brauer) | $k=\mathbb{F}_2$、$G=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ | 単純加群の個数と $p$ 正則共役類の個数の一致 |
| $P$ が $p$ 群である(thm-mrt-p-group の 2) | 標数 $3$ の代数閉体、$G=S_3$ | 単純加群が自明表現だけであること |
| $k$ の標数が $p$ である(同) | $k=\mathbb{C}$、$P=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ | 単純加群が自明表現だけであること |
| 標数が $\lvert G\rvert$ を割らない(Maschke の定理) | 標数 $3$、$G=S_3$、$W_0$ | すべての表現が既約表現の直和に分かれること |
$k=\mathbb{F}_2$、$G=\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ とする。$G$ は可換で位数 $3$ は $2$ と素なので、$2$ 正則共役類は 3 つある。一方 $kG\cong\mathbb{F}_2[x]/(x^3-1)$ で、$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$ の 2 つの因子は互いに素、$x^2+x+1$ は $\mathbb{F}_2$ に根をもたず既約なので、中国式剰余定理 により $kG\cong\mathbb{F}_2\times\mathbb{F}_4$ である。体の直積の単純加群は各成分の体だけなので、単純 $kG$ 加群は自明表現と 2 次元の $\mathbb{F}_4$ の 2 つしかない。この例は「$G$ が有限群、$k$ の標数が $p$」を満たすが「$k$ が代数閉体」を満たさない。係数を代数閉包に広げると $\mathbb{F}_4$ は、生成元 $1\in\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ が $\omega$ 倍で作用するものと $\omega^2$ 倍で作用するもの($\omega$ は $x^2+x+1$ の根)の 2 つの 1 次元表現に分かれ、個数は 3 になる。
2 行目:$S_3$ は $3$ 群でなく、ex-mrt-s3 の符号表現が自明でない単純加群である。3 行目:標数 $0$ では $a\bmod p\mapsto\zeta^{ja}$($\zeta=e^{2\pi i/p}$、$0\le j\le p-1$)の $p$ 個の 1 次元表現が互いに同型でない単純加群である。4 行目:ex-mrt-s3 の $W_0$ は直既約で単純でないので、既約表現の直和に分かれない。
$kG$ は一般に半単純でないので、射影的な $kG$ 加群(射影加群)は単純加群と一致しない。単純加群 $S'$ の射影被覆 $P_{S'}$(全射 $P_{S'}\to S'$ をもつ射影加群で、その核と足して $P_{S'}$ 全体になる真の部分加群がないもの)の組成因子に単純加群 $S$ が現れる回数を並べた行列を Cartan 行列 という(Ser77 §15.1、p. 124)。剰余体が $k$ の $p$ 進体が十分大きいとき、Cartan 行列は対称で、行列式は $p$ の冪である(同 §16.1 Theorem 35 の Corollary 3、p. 132。この記事では証明しない)。$p$ 群 $P$ では thm-mrt-p-group により単純加群は自明表現 1 つで、自由加群 $kP$ は射影的で、添加写像 $\varepsilon\colon kP\to k$ は自明表現への全射である。真の左イデアル $L$ が $L+I=kP$ を満たせば $L\not\subset I$ なので、$L$ は $\varepsilon$ の値が $0$ でない元、すなわち単元を含み(thm-mrt-p-group の 4)、$L=kP$ となって矛盾する。よって $kP$ は自明表現の射影被覆である。その組成因子は thm-mrt-p-group の 3 の証明のとおり $\lvert P\rvert$ 個の自明表現なので、Cartan 行列は $1\times1$ の行列 $(\lvert P\rvert)$ である。
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