Virasoro代数(Virasoro algebra)とは、Laurent 多項式環の導分の Lie 環である Witt 代数 $W$(基底 $L_n=-t^{n+1}\frac{d}{dt}$、$[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}$)に中心元 $C$ を加え、$[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}+\frac{m^3-m}{12}\delta_{m+n,0}C$ とした中心拡大である。標数 $0$ の体の上で、$W$ の 2-コサイクルはコバウンダリを除いて $\frac{m^3-m}{12}\delta_{m+n,0}$ の定数倍に限られ、ここから Virasoro 代数は $W$ の普遍中心拡大になる。最高ウェイト表現が正定値の不変エルミート形式をもつなら、中心電荷 $c$ と $L_0$ の固有値 $h$ は $0$ 以上である。
前提知識: Lie環, 導分, Laurent多項式
Laurent 多項式環 $K[t,t^{-1}]$ の導分は $f(t)\frac{d}{dt}$ の形をしており、括弧積 $[D,D']=DD'-D'D$ で無限次元の Lie 環をなす。これを Witt 代数という。$t=e^{i\theta}$ とおけば、円周上の(複素係数の)三角多項式のベクトル場の Lie 環である。Virasoro 代数(Virasoro algebra)は、Witt 代数に $1$ 次元の中心 $KC$ を付け加えた中心拡大で、基底 $L_n$($n\in\mathbb{Z}$)と $C$ の括弧積は
$$
[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}+\frac{m^3-m}{12}\,\delta_{m+n,0}\,C
$$
で与えられる。
Witt 代数の中心拡大は、本質的にこれ 1 つしかない。この記事では、Witt 代数の 2-コサイクルをすべて決定し、そこから Virasoro 代数が Witt 代数の普遍中心拡大であることを証明する。後半では最高ウェイト表現を定義し、エルミート形式が正定値なら $L_0$ の固有値 $h$ と中心の値 $c$ がともに $0$ 以上であることを示す。Virasoro 代数は 2 次元の共形場理論や 弦理論 の世界面の対称性として現れるが、この記事では代数としての構造を扱う。
この記事では $K$ を標数 $0$ の体とする(後半の表現の節では $K=\mathbb{C}$)。$A:=K[t,t^{-1}]$ とし、$K$ 線形写像 $D\colon A\to A$ で $D(fg)=D(f)g+fD(g)$ を満たすものを $A$ の導分という(導分)。導分の全体 $\operatorname{Der}_K(A)$ は交換子で Lie 環になる(Lie環 の例「代数の導分の Lie 環」)。
$\operatorname{Der}_K(A)=\{f\frac{d}{dt}\mid f\in A\}$ であり、
$$
L_n:=-t^{n+1}\frac{d}{dt}\qquad(n\in\mathbb{Z})
$$
はその $K$ 上の基底をなし、
$$
[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}\qquad(m,n\in\mathbb{Z})
$$
を満たす。この Lie 環 $W:=\operatorname{Der}_K(A)$ を Witt 代数という。
要点:導分は $t$ での値 $D(t)$ で決まり、括弧積は $h\in A$ に当てて計算する。
導分 $D$ について $g:=D(t)$ とおく。$0=D(1)=D(t\cdot t^{-1})=gt^{-1}+tD(t^{-1})$ から $D(t^{-1})=-t^{-2}g$ である。Leibniz 則から、$D$ と $g\frac{d}{dt}$ は生成元 $t,t^{-1}$ で一致し、したがって $A$ 全体で一致する。逆に $f\frac{d}{dt}$ は導分である。$\{t^{n+1}\}_{n\in\mathbb{Z}}$ は $A$ の基底なので $\{L_n\}$ は $W$ の基底である。括弧積は、$h\in A$ に当てて $$ [t^{m+1}\tfrac{d}{dt},t^{n+1}\tfrac{d}{dt}]h=t^{m+1}\bigl((n+1)t^nh'+t^{n+1}h''\bigr)-t^{n+1}\bigl((m+1)t^mh'+t^{m+1}h''\bigr)=(n-m)t^{m+n+1}h' $$ となる。符号を付けると $[L_m,L_n]=(n-m)\cdot t^{m+n+1}\frac{d}{dt}=(m-n)L_{m+n}$ である。$\square$
$K=\mathbb{C}$ で $t=e^{i\theta}$ とおくと、$\frac{d}{d\theta}=it\frac{d}{dt}$ なので $L_n=ie^{in\theta}\frac{d}{d\theta}$ である。実数値のベクトル場 $\cos(n\theta)\frac{d}{d\theta}$、$\sin(n\theta)\frac{d}{d\theta}$ は $L_{\pm n}$ の一次結合なので、$W$ は円周上の三角多項式係数のベクトル場の Lie 環を複素化したものとみなせる(Mic08 §3.33、p. 41 はこの見方を演習として述べている)。$L_{-1},L_0,L_1$ は $[L_1,L_{-1}]=2L_0$、$[L_0,L_{\pm1}]=\mp L_{\pm1}$ を満たし、$\mathfrak{sl}_2(K)$ と同型な部分 Lie 環を張る($e=-L_{-1}$、$f=L_1$、$h=2L_0$ とおくと Lie環 の命題「$\mathfrak{sl}_2$ の構造」の関係式になる)。これは $\frac{d}{dt}$、$t\frac{d}{dt}$、$t^2\frac{d}{dt}$ の張る空間で、それぞれ $t\mapsto t+a$、$t\mapsto e^at$、$t\mapsto t/(1-at)$ を $a=0$ で微分したものにあたる。
$W$ は完全($[W,W]=W$)である。$n\neq0$ なら $L_n=\frac1n[L_n,L_0]$、また $L_0=\frac12[L_1,L_{-1}]$ だからである。
$\mathfrak{g}$ を $K$ 上の Lie 環、$M$ を $K$ 上のベクトル空間とする。
要点:どちらも Jacobi 恒等式の巡回和を成分ごとに見る。中心の元は括弧積で消える。
1. 交代性は明らかである。Jacobi 恒等式の巡回和の第 1 成分は $\mathfrak{g}$ の Jacobi 恒等式で $0$、第 2 成分は $\beta([x,y],z)$ の巡回和で $0$ である。$(0,a)$ との括弧積は $\beta(0,\cdot)=0$ により $0$ なので、$M$ は中心に入る。
2. $\pi(\beta_s(x,y))=[x,y]-[x,y]=0$ なので $\beta_s$ は $\ker\pi$ に値をもち、交代的である。$M=\ker\pi$ は中心なので、$[s(x)+a,s(y)+b]=[s(x),s(y)]$($a,b\in M$)である。$\mathfrak{e}$ の Jacobi 恒等式を $s(x),s(y),s(z)$ に当て、$[s(x),s(y)]=s([x,y])+\beta_s(x,y)$ を代入すると、中心の元は括弧積で消えるので $$ 0=\textstyle\sum_{\mathrm{cyc}}[{[s(x),s(y)]},s(z)]=\sum_{\mathrm{cyc}}\bigl(s([{[x,y]},z])+\beta_s([x,y],z)\bigr) $$ であり、$\mathfrak{g}$ の Jacobi 恒等式で第 1 項の和は $s(0)=0$ なので、$\beta_s$ は 2-コサイクルである。最後に $[s'(x),s'(y)]=[s(x),s(y)]$ なので $\beta_{s'}(x,y)=\beta_s(x,y)+s([x,y])-s'([x,y])=\beta_s(x,y)-\mu([x,y])$ である。$\square$
2-コサイクルからコバウンダリを引いても、中心拡大は同型なまま変わらない(切断を取り替えるだけ)。したがって $\mathfrak{g}$ の中心拡大を調べることは、2-コサイクルをコバウンダリの差を除いて調べることに帰着する。この商空間は $\mathfrak{g}$ の $M$ 係数の 2 次の Lie 環コホモロジー $H^2(\mathfrak{g};M)$ であり、拡大をこの群で分類する定理は Wei94 Classification Theorem 7.6.3(p. 235)にある(中心拡大は同書 §7.9、p. 248 で自明な加群による拡大として扱われる)。
$W$ 上の $K$ 値の交代双線形形式 $\omega$ を
$$
\omega(L_m,L_n):=\frac{m^3-m}{12}\,\delta_{m+n,0}\qquad(m,n\in\mathbb{Z})
$$
で定める($\delta_{m+n,0}$ は $m+n=0$ のとき $1$、それ以外で $0$)。$m\mapsto m^3-m$ が奇関数なので $\omega$ は交代的である。
$M$ を $K$ 上のベクトル空間とする。
段 1($L_0$ との値を消す):$\beta$ を $M$ 値の 2-コサイクルとする。$n\neq0$ について $\mu_1(L_n):=-\frac1n\beta(L_0,L_n)$、$\mu_1(L_0):=0$ と定め、$\beta_1:=\beta-\delta\mu_1$ とおく。$[L_0,L_n]=-nL_n$ なので
$$
\beta_1(L_0,L_n)=\beta(L_0,L_n)-\mu_1(-nL_n)=\beta(L_0,L_n)-\beta(L_0,L_n)=0\qquad(n\neq0)
$$
であり、交代性から $\beta_1(L_0,L_0)=0$ でもある。
段 2($m+n\neq0$ の値は $0$):コサイクルの条件を $L_0,L_m,L_n$ に当てると
$$
\beta_1([L_0,L_m],L_n)+\beta_1([L_m,L_n],L_0)+\beta_1([L_n,L_0],L_m)=0,
$$
すなわち $-m\beta_1(L_m,L_n)+(m-n)\beta_1(L_{m+n},L_0)+n\beta_1(L_n,L_m)=0$ である。段 1 から中央の項は $0$ で、交代性から $n\beta_1(L_n,L_m)=-n\beta_1(L_m,L_n)$ なので、$(m+n)\beta_1(L_m,L_n)=0$ を得る。よって $m+n\neq0$ なら $\beta_1(L_m,L_n)=0$ である。
段 3(漸化式):$a_m:=\beta_1(L_m,L_{-m})\in M$ とおく。$a_{-m}=-a_m$、$a_0=0$ である。$m+n+k=0$ となる $L_m,L_n,L_k$ にコサイクルの条件を当てると、段 2 により $\beta_1(L_{m+n},L_k)=a_{m+n}$ などとなり
$$
(m-n)a_{m+n}+(n-k)a_{n+k}+(k-m)a_{k+m}=0
$$
である。$k=-m-n$ を代入し $a_{-j}=-a_j$ を使うと
$$
(m-n)a_{m+n}-(m+2n)a_m+(2m+n)a_n=0\qquad(m,n\in\mathbb{Z})
$$
を得る(以下この式を漸化式と呼ぶ)。$n=1$ とすると $(m-1)a_{m+1}=(m+2)a_m-(2m+1)a_1$ であり、$m\ge2$ では $m-1\neq0$ で割れるので、$a_3,a_4,\dots$ は $a_1,a_2$ からすべて決まる。
段 4(解の形):$a_m=m$ と $a_m=m^3$ はどちらもすべての $m,n$ で漸化式を満たす。実際、$(m-n)(m+n)-(m+2n)m+(2m+n)n=0$ であり、$(m-n)(m+n)^3-(m+2n)m^3+(2m+n)n^3$ を展開すると $m^4+2m^3n-2mn^3-n^4-m^4-2m^3n+2mn^3+n^4=0$ である。$\alpha+\gamma=a_1$、$2\alpha+8\gamma=a_2$ を満たす $\alpha,\gamma\in M$ は(係数の行列式が $6\neq0$ なので)ただ 1 組あり、$\alpha m+\gamma m^3$ は $m=1,2$ で $a_m$ と一致する。段 3 により、$m\ge1$ で $a_m=\alpha m+\gamma m^3$ であり、奇関数なのですべての $m$ で成り立つ。$c:=12\gamma$ とおくと $a_m=(\alpha+\gamma)m+c\,\frac{m^3-m}{12}$ である。
段 5($m$ の項はコバウンダリ):$\mu_2(L_0):=\frac12(\alpha+\gamma)$、$\mu_2(L_n):=0$($n\neq0$)とおくと、$[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}$ から $\delta\mu_2(L_m,L_n)=\mu_2((m-n)L_{m+n})$ は $m+n=0$ のときだけ $0$ でなく、$\delta\mu_2(L_m,L_{-m})=2m\,\mu_2(L_0)=(\alpha+\gamma)m$ である。よって $\beta_1-\delta\mu_2$ と $\omega\,c$ は基底のすべての組で一致し、$\beta=\omega\,c+\delta(\mu_1+\mu_2)$ である。
段 6(1 とその一意性):$a_m=\frac{m^3-m}{12}$ は段 4 の 2 つの解の一次結合なので漸化式を満たし、$m+n+k\neq0$ の組では $\omega$ の 3 項がすべて $0$ なので、$\omega$ は 2-コサイクルである。$\omega\,c=\delta\mu$ とすると、$\delta\mu(L_m,L_{-m})=2m\,\mu(L_0)$ なので、$m=1$ で $0=2\mu(L_0)$、$m=2$ で $\frac{c}{2}=4\mu(L_0)=0$ となり $c=0$ である。$\beta=\omega c+\delta\mu=\omega c'+\delta\mu'$ なら、$M$ 上の任意の線形汎関数 $\ell$ について $\omega\,\ell(c-c')=\delta(\ell\circ(\mu'-\mu))$ はコバウンダリなので $\ell(c-c')=0$ であり、$c=c'$ である。$\square$
$\omega$ を $\frac{m^3}{12}\delta_{m+n,0}$ に取り替えても、差は $\frac{m}{12}\delta_{m+n,0}$ でコバウンダリなので、同じ中心拡大を与える。$m^3-m$ の形に正規化すると、$\mathfrak{sl}_2$ にあたる $L_{-1},L_0,L_1$ の上で $\omega$ が $0$ になる($m^3-m=0$ となるのは $m=0,\pm1$)。Witt 代数の 2 次のコホモロジーが $1$ 次元であることは、Gelfand–Fuks の結果として知られている(Fre87 §2、p. 822)。
lem-vir-extension の 1 で $\beta=\omega$、$M=K$ とした Lie 環 $\mathrm{Vir}:=W\oplus_\omega K$ を Virasoro 代数という。$L_n$ を $(L_n,0)$、$C:=(0,1)$ と書くと、基底 $\{L_n\}_{n\in\mathbb{Z}}\cup\{C\}$ について
$$
[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}+\frac{m^3-m}{12}\delta_{m+n,0}\,C,\qquad[L_n,C]=0
$$
である。
この括弧積は Fre87 の式 (2)(p. 823)と同じ正規化である。
射影 $p\colon\mathrm{Vir}\to W$ は $W$ の普遍中心拡大である。すなわち、$W$ の任意の中心拡大 $\pi\colon\mathfrak{e}\to W$ に対して、Lie 環の準同型 $\varphi\colon\mathrm{Vir}\to\mathfrak{e}$ で $\pi\circ\varphi=p$ となるものがただ 1 つある。
存在:$M:=\ker\pi$ とし、線形な切断 $s$($\pi\circ s=\mathrm{id}$)をとる。lem-vir-extension の 2 により $\beta_s$ は $M$ 値の 2-コサイクルであり、thm-vir-cocycle により $\beta_s=\omega\,c+\delta\mu$($c\in M$)と書ける。切断を $s':=s+\mu$ に替えると、同じ補題により $\beta_{s'}=\beta_s-\delta\mu=\omega\,c$ である。$\varphi(L_n):=s'(L_n)$、$\varphi(C):=c$ と線形に定めると、
$$
[\varphi(L_m),\varphi(L_n)]=s'([L_m,L_n])+\omega(L_m,L_n)c=\varphi\bigl((m-n)L_{m+n}+\omega(L_m,L_n)C\bigr)
$$
であり、$c$ は中心にあるので $[\varphi(x),\varphi(C)]=0=\varphi([x,C])$ である。よって $\varphi$ は準同型で、$\pi\circ\varphi=p$ である。
一意性:まず $\mathrm{Vir}$ は完全である。実際 $n\neq0$ なら $[L_n,L_0]=nL_n$、$[L_1,L_{-1}]=2L_0$($\omega(L_1,L_{-1})=0$)、$[L_2,L_{-2}]=4L_0+\frac12C$ なので、すべての基底元が $[\mathrm{Vir},\mathrm{Vir}]$ に入る。$\varphi,\varphi'$ がともに条件を満たすとすると、$\pi\circ(\varphi'-\varphi)=0$ なので $\varphi'-\varphi$ は $M$ に値をもち、$M$ は中心なので
$$
\varphi'([x,y])=[\varphi'(x),\varphi'(y)]=[\varphi(x),\varphi(y)]=\varphi([x,y])
$$
である。$\mathrm{Vir}=[\mathrm{Vir},\mathrm{Vir}]$ なので $\varphi'=\varphi$ である。$\square$
普遍中心拡大は存在すれば同型を除いて一意であり、Lie 環が普遍中心拡大をもつのは完全なときに限る(Wei94 §7.9 と Theorem 7.9.2、pp. 248–249)。thm-vir-universal は、Witt 代数の中心拡大がすべて $\mathrm{Vir}$ から一意に得られることを、コホモロジーの一般論を使わずに示している。とくに $W$ の $1$ 次元の中心拡大で分裂しないもの(切断を準同型にとれないもの)は、thm-vir-cocycle の $c\neq0$ の場合にあたり、$C$ を $c$ に送る取り替えによって Lie 環として $\mathrm{Vir}$ に同型である。
この節では $K=\mathbb{C}$ とし、$\mathrm{Vir}$ の表現を 普遍包絡環 の命題「表現と加群」により $U(\mathrm{Vir})$ 加群とみなす。
$\mathrm{Vir}$ の表現 $V$ の $0$ でないベクトル $v$ が、複素数 $c,h$ について
$$
L_nv=0\ (n\ge1),\qquad L_0v=hv,\qquad Cv=cv
$$
を満たすとき、$v$ を重さ $(c,h)$ の最高ウェイトベクトルという。$c$ を中心電荷という。$V=U(\mathrm{Vir})v$ のとき、$V$ を最高ウェイト表現という。
$V=U(\mathrm{Vir})v$ を重さ $(c,h)$ の最高ウェイト表現とする。$V$ は
$$
L_{-n_1}L_{-n_2}\cdots L_{-n_k}v\qquad(k\ge0,\ n_1\ge n_2\ge\cdots\ge n_k\ge1)
$$
で張られ、このベクトルは $L_0$ の固有値 $h+n_1+\cdots+n_k$ の固有ベクトルである($0$ でなければ)。したがって $V=\bigoplus_{N\ge0}V_{h+N}$($V_{h+N}$ は固有値 $h+N$ の固有空間)で、$V_h=\mathbb{C}v$、$\dim V_{h+N}$ は $N$ の分割の個数以下である。
要点:PBW の順序付き単項式を「負の添字・$C,L_0$・正の添字」の順に並べ、正の添字の因子は $v$ を消す。
$\mathrm{Vir}$ の基底に、$\cdots< L_{-2}< L_{-1}< C< L_0< L_1< L_2<\cdots$ という全順序を入れる。普遍包絡環 の補題「順序付き単項式は張る」により $U(\mathrm{Vir})$ は順序付き単項式で張られ、順序付き単項式は(負の添字の部分)×($C,L_0$ の冪)×(正の添字の部分)の形である。正の添字の因子を含むものは $v$ を $0$ に送り、$C,L_0$ は $v$ をスカラー倍するので、$U(\mathrm{Vir})v$ は負の添字の順序付き単項式を $v$ に当てたもの、すなわち $L_{-n_1}\cdots L_{-n_k}v$($n_1\ge\cdots\ge n_k\ge1$)で張られる。$[L_0,L_{-n}]=nL_{-n}$ なので $L_0L_{-n}u=L_{-n}(L_0+n)u$ であり、帰納法で固有値が $h+\sum n_i$ と分かる。固有値 $h+N$ のベクトルは $\sum n_i=N$ の積で張られ、その個数は $N$ の分割の個数である。$\square$
各 $(c,h)$ について、$L_{-n_1}\cdots L_{-n_k}v$($n_1\ge\cdots\ge n_k\ge1$)が基底になる最高ウェイト表現 $M(c,h)$(Verma 加群)がある。$\mathfrak{b}:=\bigoplus_{n\ge0}\mathbb{C}L_n\oplus\mathbb{C}C$ は部分 Lie 環で、$[\mathfrak{b},\mathfrak{b}]$ は $L_n$($n\ge1$)で張られるから、$L_n\mapsto0$($n\ge1$)、$L_0\mapsto h$、$C\mapsto c$ は $\mathfrak{b}$ の $1$ 次元表現 $\mathbb{C}_{c,h}$ を与える。$M(c,h):=U(\mathrm{Vir})\otimes_{U(\mathfrak{b})}\mathbb{C}_{c,h}$ とおけば、普遍包絡環 の系「PBW の定理の帰結」の 4(左右を入れ替えた形:$\mathfrak{b}$ の基底を残りより後に並べると順序付き単項式は(負の添字の部分)×($\mathfrak{b}$ の部分)にただ一通りに分かれるので、同じ証明により $U(\mathrm{Vir})$ は右 $U(\mathfrak{b})$ 加群として負の添字の順序付き単項式を基底に自由)から、上の基底が得られる(基底の順序は prop-vir-grading の証明のものをとる)。
$V$ を重さ $(c,h)$ の最高ウェイトベクトル $v$ をもつ表現とし、$V$ 上に正定値エルミート形式 $\langle\cdot,\cdot\rangle$(第 2 変数について線形とする)で、すべての $n$ と $x,y\in V$ について $\langle L_nx,y\rangle=\langle x,L_{-n}y\rangle$ を満たすものがあるとする。このとき $c$ と $h$ は実数で、$h\ge0$、$c\ge0$ である。さらに $h=0$ なら $L_{-1}v=0$ である。
$n\ge1$ について $L_nv=0$ なので
$$
L_nL_{-n}v=[L_n,L_{-n}]v=\Bigl(2nL_0+\frac{n^3-n}{12}C\Bigr)v=\Bigl(2nh+\frac{n^3-n}{12}c\Bigr)v
$$
であり、
$$
0\le\langle L_{-n}v,L_{-n}v\rangle=\langle v,L_nL_{-n}v\rangle=\Bigl(2nh+\frac{n^3-n}{12}c\Bigr)\langle v,v\rangle
$$
である。$\langle v,v\rangle>0$ なので、$2nh+\frac{n^3-n}{12}c$ はすべての $n\ge1$ で $0$ 以上の実数である。$n=1$ から $h$ は実数で $h\ge0$、$n=2$ から $4h+\frac c2$ が実数なので $c$ も実数である。$n^3$ で割って $n\to\infty$ とすると $\frac{c}{12}\ge0$ を得る。$h=0$ なら $\langle L_{-1}v,L_{-1}v\rangle=2h\langle v,v\rangle=0$ で、正定値性から $L_{-1}v=0$ である。$\square$
prop-vir-unitary の状況で、$u_1:=L_{-1}^2v$、$u_2:=L_{-2}v$ の内積の行列を求める。$[L_1,L_{-1}]=2L_0$、$[L_2,L_{-1}]=3L_1$、$[L_2,L_{-2}]=4L_0+\frac12C$ を使うと
$$
L_1L_{-1}^2v=2(h+1)L_{-1}v+L_{-1}\,2hv=(4h+2)L_{-1}v,\qquad L_1^2L_{-1}^2v=(4h+2)\cdot2h\,v,
$$
$$
L_2L_{-1}^2v=3L_1L_{-1}v+L_{-1}L_2L_{-1}v=6hv+L_{-1}(3L_1v)=6hv,\qquad L_2L_{-2}v=\Bigl(4h+\frac c2\Bigr)v
$$
である。よって $\langle v,v\rangle=1$ のとき
$$
\bigl(\langle u_i,u_j\rangle\bigr)=\begin{pmatrix}4h(2h+1)&6h\\6h&4h+\frac c2\end{pmatrix},\qquad\det=2h\bigl(16h^2+2(c-5)h+c\bigr)
$$
であり、正定値なら $\det\ge0$ でなければならない。たとえば $c=0$ なら $\det=4h^2(8h-5)$ で、$0< h<\frac58$ の最高ウェイトベクトルは正定値の形式をもつ表現に入らない。$h=0$ では $u_1=0$(prop-vir-unitary)で、行列式の因子 $h$ はこれに対応している。
一般に、固有値 $h+N$ の空間の Gram 行列の行列式(Kac の行列式公式)と、正定値の形式をもつ最高ウェイト表現の分類($0\le c<1$ では $c=1-\frac{6}{(m+1)(m+2)}$、$m=1,2,\dots$ の離散系列に限られる)が知られている。前者は Kac と Feigin–Fuks、後者は Friedan–Qiu–Shenker の発見と Goddard–Kent–Olive の構成による(Fre87 §7、p. 832)。この記事ではこれらを証明しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| Laurent 多項式(添字が両方向に無限) | 多項式環の導分 $\operatorname{Der}_K(K[t])=\bigoplus_{n\ge-1}KL_n$ | 2-コサイクルはすべてコバウンダリで、分裂しない中心拡大がない |
| 完全であること($[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\mathfrak{g}$) | $W_{>0}:=\bigoplus_{n\ge1}KL_n$ | 普遍中心拡大が存在しない |
1 行目は thm-vir-cocycle の証明の段 1・段 2 を、2 行目は導来環の添字を見る。
1 行目:$K[t]$ の導分は prop-vir-witt と同じ議論で $f\frac{d}{dt}$($f\in K[t]$)の形であり、$L_n$($n\ge-1$)が基底である。thm-vir-cocycle の証明の段 1・段 2 は添字を $-1$ 以上に限ってもそのまま通り、$\beta_1(L_m,L_n)$ は $m+n=0$ のときだけ $0$ でない。添字が $-1$ 以上でこうなる組は $(1,-1)$ と $(-1,1)$ と $(0,0)$ だけなので、$a_1$ だけが残り、$\mu_2(L_0):=\frac12a_1$ のコバウンダリで消える。よって 2-コサイクルはすべてコバウンダリで、lem-vir-extension の 2 により任意の中心拡大は準同型な切断をもち分裂する。$\omega$ の制限も $0$ である($m^3-m=0$、$m=0,\pm1$)。
2 行目:$m,n\ge1$ なら $[L_m,L_n]=(m-n)L_{m+n}$ で $m+n\ge2$、さらに $m\neq n$ でなければ $0$ なので $m+n\ge3$ である。よって $[W_{>0},W_{>0}]\subset\bigoplus_{n\ge3}KL_n$ で $L_1$ を含まず、$W_{>0}$ は完全でない。普遍中心拡大をもつ Lie 環は完全である(Wei94 §7.9、p. 248)ので、$W_{>0}$ は普遍中心拡大をもたない。$W$ 自身は完全で(prop-vir-witt の後の注意)、thm-vir-universal が成り立つ。
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