Thomのジェット横断性定理

同義語:ジェット横断性定理ジェットの横断性定理Thom jet transversality theoremjet transversality theorem

概要

Thomのジェット横断性定理(Thom jet transversality theorem)とは、多様体の間の写像 $f\colon M\to N$ の $r$ ジェット延長 $j^rf\colon M\to J^r(M,N)$ がジェットの空間の部分多様体 $A$ に横断的になるような $f$ の全体が、$r< s$ のとき強 $C^s$ 位相の写像空間の残留集合をなし、とくに稠密であるという定理である。$A$ が閉集合なら、この集合は開集合でもある。これから、一般の写像では微分の階数が落ちる点の集合が決まった余次元の部分多様体になり、$n\ge2m$ ならはめ込みが、実数値関数なら Morse 関数が一般的であることが従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ジェット, 横断性定理, 写像空間のWhitney位相(強C^r位相)

横断性定理 は、写像 $f\colon M\to N$ を少し動かせば部分多様体 $Z\subset N$ に横断的にできることを述べる。しかし写像の「特異点」、たとえば微分の階数が落ちる点や、関数の臨界点が退化する点は、写像の値ではなく微分によって決まるので、値だけを見る横断性では扱えない。Thom のジェット横断性定理(Thom jet transversality theorem)は、写像 $f$ の代わりにその $r$ 階までの微分をまとめた $r$ ジェット延長 $j^rf\colon M\to J^r(M,N)$ を考え、ジェットの空間の任意の部分多様体 $A$ について「$j^rf$ が $A$ に横断的である」という性質が一般的であること、すなわち $f$ の全体の中で残留集合をなすことを主張する。
$A$ を「微分の階数が $\rho$ の 1 ジェットの全体」にとると、一般の写像では階数が $\rho$ に落ちる点の全体が決まった余次元の部分多様体になり、余次元が $\dim M$ を超えればそのような点は現れない。これから、$n\ge2m$ ならはめ込みが稠密であることが次元の数え上げだけで従う。$A$ を「微分が $0$ の 1 ジェットの全体」にとれば、一般の関数が Morse 関数であることが従う。この記事では定理を証明し、これらの応用を示す。

定義

多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で境界をもたない $C^\infty$ 級多様体とし、$m=\dim M$、$n=\dim N$ とする。写像空間の強 $C^s$ 位相 $C^s_S(M,N)$、弱 $C^s$ 位相 $C^s_W(M,N)$、記号 $\mathcal{N}^s(f;\Delta,\varepsilon)$、$\|F\|_{s,K}$、局所有限な座標の組は、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の定義「弱 $C^r$ 位相と強 $C^r$ 位相」のとおりとする。
ジェットの空間. $r\ge0$ を整数とし、$J^r(M,N)$ を $r$ ジェットの全体(ジェットの記事の定義「ジェット」)、$\sigma(j^r_xf)=x$ を始点、$\tau(j^r_xf)=f(x)$ を終点とする。$C^s$ 級写像($s\ge r$)についても、$r$ 階までの偏導関数が一致することで同じようにジェットを定める。$M$ の座標近傍 $(U,\varphi)$ と $N$ の座標近傍 $(V,\psi)$ について、始点が $U$、終点が $V$ のジェットの全体 $J^r(U,V)$ に
$$ j^r_xf\longmapsto\bigl(\varphi(x),\ F(y),\ DF(y),\ \dots,\ D^rF(y)\bigr),\qquad F:=\psi f\varphi^{-1},\ y:=\varphi(x) $$
で座標を入れる(値は $\varphi(U)\times\psi(V)\times P^r$、$P^r$ は $k=1,\dots,r$ の対称 $k$ 重線形写像 $\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ の空間の積)。これらの座標により $J^r(M,N)$ は $C^\infty$ 級多様体になる(ジェットの記事の節「座標での表示」。この記事では証明しない)。$f\in C^s(M,N)$ について $j^rf(x):=j^r_xf$ と定めた $r$ ジェット延長 $j^rf\colon M\to J^r(M,N)$ は、座標で $x\mapsto(\varphi(x),F,DF,\dots,D^rF)$ と書けるので、$s\ge r+1$ なら $C^{s-r}$ 級、とくに $C^1$ 級である。
横断性定理の記事の定義「横断性」は微分だけを使うので、$C^1$ 級写像にもそのまま意味をもち、同記事の補題「横断性の局所的な言い換え」の 2 も(連鎖律と線形代数だけを使うので)$C^1$ 級写像に対して成り立つ。

ジェットの横断性

$0\le r< s\le\infty$ とし、$A\subset J^r(M,N)$ を(埋め込まれた)部分多様体とする。$f\in C^s(M,N)$ の $r$ ジェット延長 $j^rf$ が $A$ に横断的であるとき、$f$ は $A$ にジェット横断的であるという。そのような $f$ の全体を
$$ \mathcal{T}^s(A):=\{f\in C^s(M,N)\mid j^rf\pitchfork A\} $$
と書く。コンパクト集合 $K\subset M$ と、$J^r(M,N)$ の閉集合 $C\subset A$ について、条件を $K\cap(j^rf)^{-1}(C)$ の点だけで課した集合を $\mathcal{T}^s(A;K,C)$ と書く。

0 ジェットの横断性

$J^0(M,N)=M\times N$ であり、$j^0f(x)=(x,f(x))$ はグラフの写像である。$Z\subset N$ を部分多様体とすると、$j^0f\pitchfork M\times Z$ と $f\pitchfork Z$ は同値である。実際、$f(x)\in Z$ の点で $d(j^0f)_x(u)=(u,df_x(u))$ なので
$$ d(j^0f)_x(T_xM)+T_xM\oplus T_{f(x)}Z=T_xM\oplus\bigl(df_x(T_xM)+T_{f(x)}Z\bigr) $$
であり、左辺が $T_xM\oplus T_{f(x)}N$ に等しいことと $f$ が $x$ で $Z$ に横断的であることは同値である。したがって $r=0$ の場合の主定理は、写像の横断性についての定理である。

主定理

Thomのジェット横断性定理

$0\le r< s\le\infty$ とし、$A\subset J^r(M,N)$ を部分多様体とする。

  1. $\mathcal{T}^s(A)$ は $C^s_S(M,N)$ の残留集合であり、したがって稠密である。
  2. $A$ が $J^r(M,N)$ の閉集合なら、$\mathcal{T}^s(A)$ は $C^s_S(M,N)$ の開集合である。
証明の方針

証明は、条件をコンパクトな部分に分けて、それぞれが開かつ稠密であることを示し、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の定理「強位相の Baire 性」でまとめる、という形をとる。稠密性の核心は、写像に多項式を足す摂動の族を考えると、族全体のジェットが沈め込みになることである。

コンパクトな部分への分割

部分多様体 $A\subset J^r(M,N)$ は、可算個の部分集合 $C_1,C_2,\dots$ で覆え、各 $C_\ell$ は $J^r(M,N)$ のコンパクト集合で、$A$ に含まれ、ある座標近傍の組について $J^r(U_\ell,V_\ell)$ に含まれ、$C_\ell$ の $A$ での内部の和は $A$ である。

$a\in A$ について、$\sigma(a)\in U$、$\tau(a)\in V$ となる座標近傍をとる。$A$ は局所コンパクトなので、$a$ の $A$ での開近傍 $O_a$ で、$A$ での閉包 $C_a$ がコンパクトで $J^r(U,V)$ に含まれるものがある。$C_a$ は Hausdorff 空間 $J^r(M,N)$ のコンパクト集合なので閉集合である。$A$ は第 2 可算なので Lindelöf であり、可算個の $O_a$ で覆える。$\square$

横断性の開条件

$0\le r< s\le\infty$、$A\subset J^r(M,N)$ を部分多様体、$C\subset A$ を $J^r(M,N)$ の閉集合、$K\subset M$ をコンパクト集合とする。$\mathcal{T}^s(A;K,C)$ は $C^s_W(M,N)$ の開集合であり、したがって $C^s_S(M,N)$ の開集合でもある。さらに $K\subset U$、$f(K)\subset V$ となる座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ があるなら、$f\in\mathcal{T}^s(A;K,C)$ に対し $\delta>0$ があって、$g(K)\subset V$ かつ $\|\psi g\varphi^{-1}-\psi f\varphi^{-1}\|_{r+1,\varphi(K)}<\delta$ を満たす $g\in C^s(M,N)$ はすべて $\mathcal{T}^s(A;K,C)$ に入る。

要点:横断性は「ある沈め込みとの合成の微分が全射」という開条件であり、$j^rg$ の微分は $g$ の $r+1$ 階までの微分で決まる。$C^{r+1}$ で近い写像の列で横断性が壊れる点の列をとると、極限の点で $f$ の横断性に反する。

詳しい証明を開く

$K$ を有限個のコンパクト集合 $K_q\subset U_q$($f(K_q)\subset V_q$)に分ければ、最後の主張の近傍の有限個の共通部分は弱 $C^{r+1}$ 位相の近傍なので、最後の主張だけを示せばよい($s\ge r+1$ なので $\|\cdot\|_{r+1,K}\le\|\cdot\|_{s,K}$、$s=\infty$ では $\mathcal{N}^{r+1}\cap C^\infty$ が生成元である)。

結論が成り立たないとすると、$g_\nu\in C^s(M,N)$ で $g_\nu(K)\subset V$、$\|G_\nu-F\|_{r+1,\varphi(K)}< 1/\nu$($G_\nu:=\psi g_\nu\varphi^{-1}$、$F:=\psi f\varphi^{-1}$)を満たし、点 $x_\nu\in K$ で $j^rg_\nu(x_\nu)\in C$ かつ $j^rg_\nu$ が $x_\nu$ で $A$ に横断的でないものがある。部分列をとって $x_\nu\to x\in K$ とする。$J^r(U,V)$ の座標で $j^rg_\nu(x_\nu)=(\varphi(x_\nu),G_\nu,DG_\nu,\dots,D^rG_\nu)$($\varphi(x_\nu)$ での値)であり、$G_\nu$ の $r+1$ 階までの微分は $\varphi(K)$ の上で $F$ のそれに一様収束し、$F$ の微分は連続なので、$j^rg_\nu(x_\nu)\to j^rf(x)=:a$ である。$C$ は閉集合なので $a\in C\subset A$ である。

$a$ のまわりの $A$ のスライス座標から、$a$ の開近傍 $O$ と滑らかな沈め込み $h\colon O\to\mathbb{R}^c$($c$ は $A$ の余次元)で $A\cap O=h^{-1}(0)$ となるものをとる(横断性定理の記事の補題「横断性の局所的な言い換え」の 1)。同じ補題の 2 により、$j^rf$ が $x$ で $A$ に横断的であることは $d(h\circ j^rf)_x$ が全射であることと同値である。座標で $d(h\circ j^rg_\nu)$ は $Dh(j^rg_\nu)\circ(I,DG_\nu,D^2G_\nu,\dots,D^{r+1}G_\nu)$ であり、$x_\nu$ での値は $\nu\to\infty$ で $d(h\circ j^rf)_x$ に収束する。全射な線形写像の全体は開集合なので、$\nu$ が大きければ $d(h\circ j^rg_\nu)_{x_\nu}$ は全射であり、$j^rg_\nu(x_\nu)\in A\cap O$ なので、$j^rg_\nu$ は $x_\nu$ で $A$ に横断的である。これは $x_\nu$ の選び方に反する。$\square$

多項式による摂動

$0\le r< s\le\infty$、$A\subset J^r(M,N)$ を部分多様体、$C\subset A$ を $J^r(U,V)$ に含まれるコンパクト集合とし($(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ は座標近傍)、$K:=\sigma(C)$ とする。$\mathcal{T}^s(A;K,C)$ は $C^s_S(M,N)$ で稠密である。

滑らかな場合に帰着. $f\in C^s(M,N)$ の開近傍 $\mathcal{N}$ をとる。写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の定理「$C^s$ 級写像の稠密性」により $\mathcal{N}$ は $C^\infty$ 級写像を含むので、$f$ は $C^\infty$ 級としてよい。
摂動の族. $E:=K\cap f^{-1}(\tau(C))$ はコンパクトで $U\cap f^{-1}(V)$ に含まれる。$C^\infty$ 級関数 $\lambda\colon M\to[0,1]$ で、$E$ の開近傍 $W$ の上で $1$ になり、台がコンパクトで $U\cap f^{-1}(V)$ に含まれるものをとる(1の分割の記事の定理「滑らかな Urysohn の補題」)。$\mathcal{P}$ を次数 $r$ 以下の多項式写像 $\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^n$ の空間(有限次元のベクトル空間)とし、$b\in\mathcal{P}$ について
$$ f_b:=\psi^{-1}\circ\bigl(\psi\circ f+\lambda\cdot(b\circ\varphi)\bigr)\quad(U\cap f^{-1}(V)\text{ の上}),\qquad f_b:=f\quad(\text{その外}) $$
とおく。$b$ が十分小さい開球 $B\subset\mathcal{P}$ に入れば $f_b$ は定義されて $C^\infty$ 級である。
族のジェットは沈め込み. $W$ の上では $\lambda=1$ なので、$\Phi(b,x):=j^r_xf_b$ は座標で
$$ \Phi(b,x)=\bigl(y,\ (F+b)(y),\ D(F+b)(y),\ \dots,\ D^r(F+b)(y)\bigr),\qquad y=\varphi(x) $$
である。$x$ を止めると $\beta\mapsto(\beta(y),D\beta(y),\dots,D^r\beta(y))$ は $\mathcal{P}$ から $\mathbb{R}^n\times P^r$ への線形写像で、単射($r$ 階までの微分が $y$ で消える次数 $r$ 以下の多項式は $0$。Taylor 展開による)であり、両辺の次元は等しいので全単射である(ジェットの記事の命題「Taylor 多項式による表示」)。$x$ 方向の微分の第 1 成分は $d\varphi_x$ で全単射なので、$\Phi\colon B\times W\to J^r(M,N)$ の微分は全射、すなわち $\Phi$ は沈め込みであり、とくに $A$ に横断的である。横断性定理の記事の定理「パラメータ族の横断性定理」により、測度零集合の外のすべての $b\in B$ について $j^rf_b|_W$ は $A$ に横断的である。
$W$ の外. $K\setminus W$ はコンパクトで、$f(K\setminus W)$ は $\tau(C)$ と交わらない。$b$ が小さければ $f_b$ は $f$ に一様に近いので $f_b(K\setminus W)$ も $\tau(C)$ と交わらず、$K\setminus W$ の点 $x$ では $j^r_xf_b\notin C$ である。$K$ の外の点では $\sigma(C)=K$ なので $j^r_xf_b\notin C$ である。
結論. $f_b$ は $f$ と $\lambda$ の台の外で一致し、$b\to0$ で $\psi f_b\varphi^{-1}-\psi f\varphi^{-1}=(\lambda\circ\varphi^{-1})\,b$ の各階の微分は台の上で一様に $0$ に近づくので、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の補題「局所的な変形」($s=\infty$ では、同記事の命題「近傍の基本系」により $\mathcal{N}$ が含む有限の階数 $k$ の基本近傍 $\mathcal{N}^k(f;\Delta,\varepsilon)\cap C^\infty(M,N)$ に当てる)により、$b$ が小さければ $f_b\in\mathcal{N}$ である。測度零集合の補集合は稠密なので、そのような $b$ で $j^rf_b|_W\pitchfork A$ となるものがとれ、前段により $f_b\in\mathcal{T}^s(A;K,C)$ である。$\square$

Thomのジェット横断性定理

1.lem-tjt-pieces の $C_\ell$ について $K_\ell:=\sigma(C_\ell)$ とおく。$j^rf(x)\in A$ となる点は、$j^rf(x)$ を内部に含むある $C_\ell$ について $x\in K_\ell$、$j^rf(x)\in C_\ell$ を満たすので、
$$ \mathcal{T}^s(A)=\bigcap_\ell\mathcal{T}^s(A;K_\ell,C_\ell) $$
である。右辺の各集合は prop-tjt-open により開集合、prop-tjt-dense により稠密なので、$\mathcal{T}^s(A)$ は残留集合であり、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の定理「強位相の Baire 性」により稠密である。
2.$f\in\mathcal{T}^s(A)$ とし、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の補題「座標の組の存在」で $f$ に合う座標の組 $\Delta=\{(U_i,\varphi_i,V_i,\psi_i,K_i)\}$($K_i$ は $M$ を覆う)をとる。$A$ は閉集合なので、prop-tjt-open の最後の主張を $K:=K_i$、$C:=A$ に当てて $\delta_i>0$ を得る。$\delta:=\{\delta_i\}$ とおくと、$\mathcal{N}^{r+1}(f;\Delta,\delta)$ の元 $g$($s=\infty$ では $C^\infty$ 級のもの)はすべての $\mathcal{T}^s(A;K_i,A)$ に入り、$\bigcup K_i=M$ なので $g\in\mathcal{T}^s(A)$ である。$\Delta$ は局所有限なので、これは $C^s_S(M,N)$ での $f$ の近傍である。$\square$

$A$ が閉でないとき開集合にならない例は、下の反例の表にある。同じ定理は Hir76 Ch. 3 Theorem 2.8(pp. 80–81)にある(そこでは $1\le r$ とし、パラメータ族の横断性定理と、局所的な条件を大域に貼り合わせる一般的な枠組み(Theorem 2.2、p. 75)を使っている)。

有限個の部分多様体

$A_1,\dots,A_p$ をそれぞれ $J^{r_i}(M,N)$ の部分多様体とし、$\max_ir_i< s\le\infty$ とする。すべての $i$ について $j^{r_i}f\pitchfork A_i$ となる $f$ の全体は $C^s_S(M,N)$ の残留集合で、稠密である。$A_i$ がすべて閉集合なら開集合でもある。

残留集合の有限個の共通部分は残留集合であり(可算個の稠密開集合の可算個の和をとる)、開集合の有限個の共通部分は開集合である。thm-tjt-main による。$\square$

$A$ がコンパクトなら、$K:=\sigma(A)$ はコンパクトで、$\mathcal{T}^s(A)=\mathcal{T}^s(A;K,A)$ なので、prop-tjt-open により $\mathcal{T}^s(A)$ は弱位相 $C^s_W(M,N)$ でも開集合である。コンパクトでない閉集合 $A$ では、弱位相で開にならないことがある(反例の表の 2 行目)。

応用:微分の階数が落ちる点

階数が一定の行列の全体

$0\le\rho\le\min\{k,n\}$ とする。階数 $\rho$ の線形写像 $\mathbb{R}^k\to\mathbb{R}^n$ の全体 $L_\rho$ は、$\mathrm{Hom}(\mathbb{R}^k,\mathbb{R}^n)\cong\mathbb{R}^{nk}$ の余次元 $(n-\rho)(k-\rho)$ の部分多様体である。

$T_0\in L_\rho$ とする。行と列の並べ替え($\mathrm{Hom}(\mathbb{R}^k,\mathbb{R}^n)$ の線形同型で、階数を保つ)を施して、$T_0$ の左上の $\rho\times\rho$ 小行列が正則としてよい。左上の小行列 $T_{11}$ が正則な $T$ の全体 $O$ は開集合で、$T=\begin{pmatrix}T_{11}&T_{12}\\T_{21}&T_{22}\end{pmatrix}$ と区分けすると
$$ \begin{pmatrix}I&0\\-T_{21}T_{11}^{-1}&I\end{pmatrix}T\begin{pmatrix}I&-T_{11}^{-1}T_{12}\\0&I\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}T_{11}&0\\0&T_{22}-T_{21}T_{11}^{-1}T_{12}\end{pmatrix} $$
なので、$\operatorname{rank}T=\rho+\operatorname{rank}(T_{22}-T_{21}T_{11}^{-1}T_{12})$ である。よって $L_\rho\cap O=\Psi^{-1}(0)$、$\Psi(T):=T_{22}-T_{21}T_{11}^{-1}T_{12}$($(n-\rho)\times(k-\rho)$ 行列)である。$\Psi$ は $C^\infty$ 級で、$T_{22}$ の方向の微分は恒等写像なので沈め込みであり、正則値定理により $L_\rho\cap O$ は余次元 $(n-\rho)(k-\rho)$ の部分多様体である。$\square$

1 ジェットの空間の座標 $J^1(U,V)\cong\varphi(U)\times\psi(V)\times\mathrm{Hom}(\mathbb{R}^m,\mathbb{R}^n)$ では、座標の取り替えは第 3 成分に可逆な行列を左右から掛ける(連鎖律)ので、階数を保つ。したがって
$$ \Sigma_\rho:=\{j^1_xf\in J^1(M,N)\mid\operatorname{rank}df_x=\rho\} $$
は座標で $\varphi(U)\times\psi(V)\times L_\rho$ と表され、lem-tjt-rank により余次元 $(m-\rho)(n-\rho)$ の部分多様体である。

階数の落ちる点の集合
  1. $C^\infty_S(M,N)$ のある残留集合に属するすべての $f$ について、各 $\rho$ で $S_\rho(f):=\{x\in M\mid\operatorname{rank}df_x=\rho\}$ は空集合であるか、$M$ の余次元 $(m-\rho)(n-\rho)$ の部分多様体である。
  2. $n\ge2m$、$2\le s\le\infty$ なら、はめ込みの全体は $C^s_S(M,N)$ の残留集合を含み、稠密である。

1.cor-tjt-finite を $\Sigma_0,\dots,\Sigma_{\min\{m,n\}}$ に当て、$f$ を、すべての $\rho$ で $j^1f\pitchfork\Sigma_\rho$ となるものとする。$S_\rho(f)=(j^1f)^{-1}(\Sigma_\rho)$ なので、横断性定理の記事の定理「横断的な逆像は部分多様体」により、空でなければ余次元 $(m-\rho)(n-\rho)$ の部分多様体である。
2.$\rho\le m-1$ なら $(m-\rho)(n-\rho)\ge n-m+1>m$ である。$j^1f\pitchfork\Sigma_\rho$ で $j^1f(x)\in\Sigma_\rho$ となる点 $x$ があれば、$\dim d(j^1f)_x(T_xM)+\dim\Sigma_\rho\le m+\dim\Sigma_\rho< \dim J^1(M,N)$ となって横断性に反する。よって $j^1f\pitchfork\Sigma_\rho$($\rho=0,\dots,m-1$)となる $f\in C^s(M,N)$ では $j^1f(M)$ はこれらと交わらず、$f$ ははめ込みである。cor-tjt-finite($r=1< s$)により、その全体は残留集合で、稠密である。$\square$

2 は 写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の定理「はめ込みと埋め込みの稠密性」の 1 と同じ結論を、余次元の数え上げだけで示したものである($s=1$ の場合と開集合であることはその記事による)。Hir76 は 2 の証明を p. 82 で、階数 $\rho$ の行列の全体の余次元を Theorem 2.6 の証明(p. 79)で述べている。

平面から平面への折り目

$f(x,y)=(x,y^2)\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$ では $df=\begin{pmatrix}1&0\\0&2y\end{pmatrix}$ なので、$S_1(f)=\{y=0\}$、$S_0(f)=\emptyset$ である。左上の成分が $1$ の行列の近くで prf-tjt-rank の $\Psi$ をとると、$\Psi(df_{(x,y)})=2y$ で、その微分 $(0,2)$ は全射なので、横断性定理の記事の補題「横断性の局所的な言い換え」により $j^1f\pitchfork\Sigma_1$ である。$S_1(f)$ は余次元 $(2-1)(2-1)=1$ の部分多様体(直線)であり、$\Sigma_0$ は余次元 $4>2$ なので、一般の写像 $\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$ には微分が $0$ になる点はない。

Morse関数は一般的

$N=\mathbb{R}$ とし、$Z:=\{j^1_xf\mid df_x=0\}\subset J^1(M,\mathbb{R})$ とおく。座標では $Z=\varphi(U)\times\mathbb{R}\times\{0\}$ なので、$Z$ は余次元 $m$ の閉部分多様体である。臨界点 $x$ で、$j^1f$ の第 3 成分 $y\mapsto D(f\varphi^{-1})(y)$ の微分は Hesse 行列なので、横断性定理の記事の補題「横断性の局所的な言い換え」により、$j^1f$ が $x$ で $Z$ に横断的であることは、Hesse 行列が正則であること、すなわち $x$ が非退化臨界点であること(Morse関数の記事の定義「非退化臨界点・指数・Morse関数」)と同値である。よって $\mathcal{T}^s(Z)$ は Morse 関数の全体であり、$2\le s\le\infty$ について $C^s_S(M,\mathbb{R})$ の開かつ稠密な集合である(thm-tjt-main)。コンパクトな $M$ の場合は Morse関数の存在 でも示されている。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が閉集合$A=\{(x,0)\mid x>0\}\subset J^0(\mathbb{R},\mathbb{R})$、$f(x)=x^2$$\mathcal{T}^s(A)$ が開集合
$A$ がコンパクト(弱位相での開性)$A=\mathbb{R}\times\{0\}\subset J^0(\mathbb{R},\mathbb{R})$、$f\equiv1$$\mathcal{T}^s(A)$ が $C^s_W$ の開集合
$n\ge2m$$M=S^1$、$N=\mathbb{R}$はめ込みの全体が稠密
表の反例の確認

各行は表の条件だけを外している。

確かめを開く

1.$j^0f(x)=(x,x^2)$ が $A$ に入るのは $x>0$ かつ $x^2=0$ のときで、そのような点はないので $f\in\mathcal{T}^s(A)$ である。$[-1,1]$ の上で $1$ の台がコンパクトな $C^\infty$ 級関数 $\lambda$ と $\epsilon\in(0,1)$ について $g_\epsilon:=f+\lambda\cdot(\epsilon^2-2\epsilon x)$ とおくと、$[-1,1]$ の上で $g_\epsilon(x)=(x-\epsilon)^2$ なので $j^0g_\epsilon(\epsilon)=(\epsilon,0)\in A$ で、$d(j^0g_\epsilon)$ の像は $(1,g_\epsilon'(\epsilon))=(1,0)$ で張られ、$T A$ と合わせても 1 次元なので横断的でない。$\epsilon\to0$ で $\lambda\cdot(\epsilon^2-2\epsilon x)$ の各階の微分は一様に $0$ に近づくので、写像空間のWhitney位相(強C^r位相)の記事の補題「局所的な変形」により $g_\epsilon$ は $f$ の任意の近傍に入る。$A$ は原点を閉包に含むので閉集合でない。

2.ex-tjt-zero-jet により $\mathcal{T}^s(A)$ は $\{0\}$ に横断的な写像の全体で、$f\equiv1$ を含む。$f$ の弱い近傍は有限個のコンパクト集合でしか近さを測らず、それらは $[-a,a]$ に含まれる。$[-a,a]$ で $0$、$[a+1,a+2]$ で $1$ の $C^\infty$ 級関数 $\mu$ について $g:=1-\mu$ はこの近傍に入るが、$[a+1,a+2]$ で $g=0$、$g'=0$ なので $\{0\}$ に横断的でない。$A$ は閉集合なので、強位相では thm-tjt-main の 2 により開集合である。

3.$S^1$ はコンパクトなので、任意の $f\colon S^1\to\mathbb{R}$ は最大値をとり、そこで $df=0$ である。よってはめ込みは存在しない。$n=1<2=2m$ であり、$\Sigma_0$ の余次元 $(1-0)(1-0)=1$ は $m=1$ を超えないので、thm-tjt-rank-strata の 2 の議論が使えない。

補足

  • 有限個の部分多様体:cor-tjt-finite の形は Hir76 Ch. 3 Theorem 2.9(p. 82)にある。とくに $A$ を $J^0(M,N)=M\times N$ の $M\times Z$ にとると、横断性定理 の写像の横断性が残留集合をなすこと($Z$ が閉なら開かつ稠密)が得られる。
  • 弱位相とコンパクトな $A$:$A$ がコンパクトなら、主定理の集合は弱位相でも開である(prop-tjt-open の後の注意)。コンパクトでない $M$ の上で弱位相を使うと、無限遠で横断性が壊れる写像が近くに現れる(反例の表の 2 行目)。

関連項目

参考文献

[1]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 3 §2:Theorem 2.2(局所的な条件の大域化、p. 75)、Theorem 2.6 の証明(階数 ρ の行列の全体の余次元、p. 79)、Theorem 2.7(パラメータ族の横断性定理、pp. 79–80)、Theorem 2.8(ジェット横断性定理、pp. 80–81)、Theorem 2.9 と直後の段落(有限個の部分多様体、ジェットの横断性によるはめ込みの稠密性、p. 82)

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