形式スキーム

同義語:formal scheme形式的スキーム

概要

形式スキーム(formal scheme)とは、スキーム $X$ を閉集合 $Y$ の無限小近傍で切り取った局所環付き空間で、位相空間は $Y$ のまま、構造層を閉部分スキーム $X_n=(Y,\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1})$ の構造層の射影極限に置き換えたものである。局所模型は Noether 進位環 $A$ の形式スペクトル $\operatorname{Spf}A$ で、$\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ は 1 点からなり、2 点をもつ $\operatorname{Spec}k[\![t]\!]$ と異なる。形式関数の定理と Grothendieck の存在定理により固有なスキームの連接層は完備化で失われず、標数 $p$ の多様体の持上げや結晶コホモロジーの基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, アフィンスキーム, 環付き空間, Noether環, 完備化, 射影極限, 連接層

定義

形式スキームは、スキーム $X$ を閉部分集合 $Y$ の「無限小近傍」で切り取ったもの、すなわち $Y$ を台とする閉部分スキームの列 $Y=X_0\subset X_1\subset X_2\subset\cdots$($X_n$ は $\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1}$ で定まる)をまとめて 1 個の局所環付き空間(環付き空間の記事を参照)にしたものである。位相空間は $Y$ のまま変わらず、構造層だけが $\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1}$ の射影極限 $\varprojlim_n\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1}$ に置き換わる。局所的な模型は、Noether環 $A$ とそのイデアル $I$ に対する $I$ 進完備化 $\hat{A}$ の形式スペクトル $\operatorname{Spf}\hat{A}$ である。まず環の側の言葉を定め、次に $\operatorname{Spf}$ と形式スキームを定義する。

進位環と定義イデアル

可換環 $A$ とそのイデアル $I$ に対し、$\{I^n\}_{n\ge1}$ を $0$ の基本近傍系とする $A$ の位相を $I$ 進位相($I$-adic topology)という。$A$ が 進位環(adic ring)であるとは、$A$ があるイデアル $I$ について $I$ 進位相に関して分離かつ完備であること、すなわち自然な準同型
$$ A\longrightarrow\varprojlim_nA/I^n $$
が同型であることをいう。このような $I$ を $A$ の定義イデアル(ideal of definition)という。$A$ が Noether 環でもあるとき、$A$ を Noether 進位環(noetherian adic ring)という。

定義イデアルは一意ではない。$A$ が Noether 進位環で $I$ がその定義イデアルなら、イデアル $J$ が定義イデアルであることと $I^m\subset J\subset\sqrt{I}$ をみたす $m\ge1$ が存在することは同値である。実際 $J$ 進位相が $I$ 進位相に一致するには $I^m\subset J$ と $J^k\subset I$ をみたす $m,k$ が要り、後者は $J\subset\sqrt{I}$ と同値である(Noether 環では根基 $\sqrt{I}$ が有限生成なので $\sqrt{I}^k\subset I$ となる $k$ がある)。とくに $\sqrt{I}$ は最大の定義イデアルであり、閉集合 $V(I)\subset\operatorname{Spec}A$ は定義イデアルの取り方によらない。

形式スペクトル

$A$ を Noether 進位環、$I$ をその定義イデアルとし、各 $n\ge0$ についてアフィンスキーム $X_n:=\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ をとる。$X_n$ の台となる位相空間はどれも $\operatorname{Spec}A$ の閉部分集合 $V(I)$($I$ を含む素イデアルの全体)に等しく、自然な全射 $A/I^{n+2}\to A/I^{n+1}$ は閉埋め込み $X_n\hookrightarrow X_{n+1}$ を与える。$A$ の形式スペクトル(formal spectrum)$\operatorname{Spf}A$ とは、位相空間 $V(I)$ の上に構造層
$$ \mathcal{O}_{\operatorname{Spf}A}:=\varprojlim_n\mathcal{O}_{X_n} $$
(環の層の射影極限。開集合 $U$ 上の切断は $\varprojlim_n\mathcal{O}_{X_n}(U)$)を載せた環付き空間をいう。$f\in A$ に対し $\mathfrak{D}(f):=D(f)\cap V(I)$ とおく。

構造層の射影極限は、開集合ごとに射影極限をとる前層がすでに層になっている(射影極限どうしは交換する)ので、層化は不要である。定義イデアルを $J$ に取り替えても、$\{I^n\}$ と $\{J^n\}$ が互いに共終なので射影極限は変わらず、$\operatorname{Spf}A$ は $A$ の位相だけで決まる。$I=0$(離散位相)のときは $X_n=\operatorname{Spec}A$ で $\operatorname{Spf}A=\operatorname{Spec}A$ であり、通常のアフィンスキームは形式スペクトルの特別な場合である。
次の命題は、$\operatorname{Spf}A$ が局所環付き空間であること、およびその切断と茎の記述を与える。ここで $A_f$ の $I$ 進完備化を $\widehat{A_f}:=\varprojlim_nA_f/I^{n+1}A_f$ と書く。

形式スペクトルの切断と茎

$A$ を Noether 進位環、$I$ を定義イデアル、$\mathfrak{X}=\operatorname{Spf}A$ とする。

  1. 任意の $f\in A$ について $\Gamma(\mathfrak{D}(f),\mathcal{O}_{\mathfrak{X}})=\widehat{A_f}$ である。とくに $\Gamma(\mathfrak{X},\mathcal{O}_{\mathfrak{X}})=A$ である。
  2. 点 $\mathfrak{p}\in V(I)$ における茎 $\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}=\varinjlim_{f\notin\mathfrak{p}}\widehat{A_f}$ は局所環であり、その極大イデアルは $A_{\mathfrak{p}}$ の剰余体 $\kappa(\mathfrak{p})$ への自然な準同型 $\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}\to\kappa(\mathfrak{p})$ の核である。したがって $\mathfrak{X}$ は局所環付き空間であり、$\mathfrak{m}_{\mathfrak{p}}$ の $A$ への引き戻しは $\mathfrak{p}$ である。
  1. $X_n=\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ において $\mathfrak{D}(f)$ は $\bar{f}\in A/I^{n+1}$ の基本開集合 $D(\bar{f})$ であるから、$\Gamma(\mathfrak{D}(f),\mathcal{O}_{X_n})=(A/I^{n+1})_{\bar{f}}=A_f/I^{n+1}A_f$ である。射影極限は切断ごとにとるので $\Gamma(\mathfrak{D}(f),\mathcal{O}_{\mathfrak{X}})=\varprojlim_nA_f/I^{n+1}A_f=\widehat{A_f}$ となる。$f=1$ のとき $\mathfrak{D}(1)=V(I)=\mathfrak{X}$ で、$\widehat{A_1}=\varprojlim A/I^{n+1}=A$ は $A$ が $I$ 進完備分離であることそのものである。
  2. $\{\mathfrak{D}(f)\}_{f\notin\mathfrak{p}}$ は $\mathfrak{p}$ の開近傍の基本近傍系をなす($D(f)$ が $\operatorname{Spec}A$ の開基をなすから)ので、茎の記述は 1 から従う。各 $n$ について射影 $\widehat{A_f}\to A_f/IA_f$($n=0$ の成分)があり、$A_f/IA_f=(A/I)_{\bar f}\to(A/I)_{\bar{\mathfrak{p}}}\to\kappa(\mathfrak{p})$ と合成して $\widehat{A_f}\to\kappa(\mathfrak{p})$ を得る($\mathfrak{p}\supset I$ ゆえ $(A/I)_{\bar{\mathfrak{p}}}$ の剰余体は $A_{\mathfrak{p}}$ の剰余体 $\kappa(\mathfrak{p})$ に等しい)。これらは $f$ について両立するので、環準同型 $\theta\colon\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}\to\kappa(\mathfrak{p})$ が定まる。$\theta(1)=1\neq0$ なので $\ker\theta$ は真のイデアルである。
    $\ker\theta$ に属さない元がすべて単元であることを示せば、$\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}$ の非単元の全体がイデアル $\ker\theta$ に一致し、$\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}$ は極大イデアル $\ker\theta$ をもつ局所環になる。$s\in\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}$ を $\theta(s)\neq0$ なる元とし、$f\notin\mathfrak{p}$ と $s_f\in\widehat{A_f}$ で代表する。$s_f$ の $n=0$ 成分 $\bar{s}\in A_f/IA_f$ は $X_0=\operatorname{Spec}A/I$ の開集合 $D(\bar{f})$ 上の構造層の切断で、$\bar{\mathfrak{p}}$ での剰余体への像が $\theta(s)\neq0$ である。局所環 $\mathcal{O}_{X_0,\bar{\mathfrak{p}}}=(A/I)_{\bar{\mathfrak{p}}}$ において $\bar{s}$ は極大イデアルに属さないので単元であり、その逆元 $\bar{u}$ はある $g\notin\mathfrak{p}$ について $(A/I)_{\overline{fg}}=A_{fg}/IA_{fg}$ の元で代表され、$\bar{s}\bar{u}=1$ が $A_{fg}/IA_{fg}$ で成り立つ($X_0$ の構造層の茎は切断の帰納極限だから)。
    $B_n:=A_{fg}/I^{n+1}A_{fg}$ とおき、$s_{fg}\in\widehat{A_{fg}}=\varprojlim_nB_n$ を $s_f$ の像、$t_n\in B_n$ をその $n$ 成分とする。$B_n$ の中で $IB_n$ は $(IB_n)^{n+1}=0$ をみたす冪零イデアルであり、$t_n$ の $B_0$ での像 $\bar{s}$ は単元である。$u_n\in B_n$ を $\bar{u}$ の任意の持ち上げとすると $t_nu_n=1-y_n$、$y_n\in IB_n$ と書け、$y_n^{n+1}=0$ から $1-y_n$ は逆元 $1+y_n+\cdots+y_n^n$ をもつので、$t_n$ は $B_n$ の単元である。逆元は一意なので $t_n^{-1}$ は $n$ について両立し、$(t_n^{-1})_n\in\varprojlim B_n$ は $s_{fg}$ の逆元を与える。よって $s$ は $\mathcal{O}_{\mathfrak{X},\mathfrak{p}}$ の単元である。
    最後に、$a\in A$ について $\theta(a)$ は $a$ の $\kappa(\mathfrak{p})$ での像だから、$\theta(a)=0$ と $a\in\mathfrak{p}$ は同値であり、極大イデアルの $A$ への引き戻しは $\mathfrak{p}$ である。
形式スキームと形式スキームの射

局所環付き空間 $(\mathfrak{X},\mathcal{O}_{\mathfrak{X}})$ が局所 Noether 形式スキーム(locally noetherian formal scheme)であるとは、$\mathfrak{X}$ の開被覆 $\{\mathfrak{U}_i\}$ で、各 $(\mathfrak{U}_i,\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}|_{\mathfrak{U}_i})$ がある Noether 進位環 $A_i$ の形式スペクトル $\operatorname{Spf}A_i$ に局所環付き空間として同型なものが存在することをいう。さらに $\mathfrak{X}$ が準コンパクト(有限個の $\operatorname{Spf}A_i$ で覆える)とき Noether 形式スキームという。$\operatorname{Spf}A$ の形の形式スキームをアフィン形式スキームという。形式スキームの射とは局所環付き空間としての射をいい、Noether 進位環 $A$ に対して $\operatorname{Spf}A$ への射をもつ形式スキームを $\operatorname{Spf}A$ 上の形式スキームという。以下、単に形式スキームといえば局所 Noether 形式スキームを指す。

一般の進位環と射の連続性

Grothendieck EGA1 §10 は、Noether とは限らない進位環(さらに一般に「許容環」)に対して $\operatorname{Spf}A$ を定義し、形式スキームの射を「位相環の層の射」すなわち切断の準同型が連続であるものとして定める。Noether 進位環 $A,B$ に対しては、形式スキームの射 $\operatorname{Spf}B\to\operatorname{Spf}A$ の全体は連続な環準同型 $A\to B$ の全体と 1 対 1 に対応する(EGA1 §10.2、Har77 II §9)。この場合、局所環付き空間の射 $\operatorname{Spf}B\to\operatorname{Spf}A$ は大域切断の準同型 $\varphi\colon A\to B$ を誘導し、prop-formal-scheme-spf-sections の 2 により各点 $\mathfrak{q}\in V(J)$ で $\varphi^{-1}(\mathfrak{q})\supset I$ となるから、$\varphi(I)\subset\bigcap_{\mathfrak{q}\supset J}\mathfrak{q}=\sqrt{J}$、$B$ が Noether なので $\varphi(I^m)\subset J$ となる $m$ があり、$\varphi$ は自動的に連続になる。Noether の仮定を外すと、定義イデアル $I$ が有限生成でない場合に $I$ 進完備化 $\hat{A}$ が $I\hat{A}$ 進位相について完備でないことや $\hat{A}/I\hat{A}\neq A/I$ となることがあり、完備化と連接層に関するこの記事の主張の多くは Noether の仮定のもとでだけ述べる。一般の場合は Stacks「Formal Algebraic Spaces」の章の Formal schemes à la EGA の節に譲る。

スキームから形式スキームを作る基本操作が、閉部分集合に沿った完備化である。

閉部分集合に沿った完備化

$X$ を局所Noetherスキーム、$Y\subset X$ を閉部分集合とし、$\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_X$ を $Y$ を台とする閉部分スキームのイデアル層とする(たとえば $Y$ の被約な閉部分スキーム構造のもの)。$n\ge0$ について $X_n:=(Y,\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1})$ は $Y$ を台とする閉部分スキームで、閉埋め込み $X_0\hookrightarrow X_1\hookrightarrow\cdots$ をなす。$X$ の $Y$ に沿った完備化(completion of $X$ along $Y$、形式的完備化)$\hat{X}_{/Y}$ とは、位相空間 $Y$ の上に構造層
$$ \mathcal{O}_{\hat{X}_{/Y}}:=\varprojlim_n\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1} $$
($\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1}$ は $Y$ に台をもつ $X$ 上の層で、その $Y$ への制限 $\mathcal{O}_{X_n}$ と同一視する)を載せた環付き空間をいう。$Y$ が文脈から明らかなときは $\hat{X}$ とも書く。

完備化は局所 Noether 形式スキームである

上の状況で、$\hat{X}_{/Y}$ は局所 Noether 形式スキームであり、$\mathcal{I}$ の取り方($Y$ を台とする閉部分スキーム構造の取り方)によらない。より正確に、$X$ の任意のアフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A$ について $\mathcal{I}|_U=\widetilde{I}$($I\subset A$ はイデアル)、$Y\cap U=V(I)$ と書くと、$A$ の $I$ 進完備化 $\hat{A}=\varprojlim_nA/I^{n}$ は $\hat{I}:=I\hat{A}$ を定義イデアルとする Noether 進位環であり、局所環付き空間の同型
$$ \hat{X}_{/Y}\big|_{Y\cap U}\cong\operatorname{Spf}\hat{A} $$
がある。$Y=X$ のとき $\hat{X}_{/X}=X$ であり、スキームは形式スキームである。

可換環論の次の事実を使う(AM69 第 10 章、Mat89 §8):Noether 環 $A$ とイデアル $I$ について、$I$ 進完備化 $\hat{A}$ は Noether 環で、$\hat{I}=I\hat{A}$ について $\hat{I}^{\,n}=I^n\hat{A}$、$\hat{A}/\hat{I}^{\,n}\cong A/I^n$ が成り立ち、$\hat{A}$ は $\hat{I}$ 進位相について分離完備である。とくに $\hat{A}$ は Noether 進位環で $\hat{I}$ はその定義イデアルである。
$\operatorname{Spf}\hat{A}$ の位相空間は $V(\hat{I})=\operatorname{Spec}\hat{A}/\hat{I}=\operatorname{Spec}A/I=V(I)=Y\cap U$ であり、この同一視のもとで $\operatorname{Spec}\hat{A}/\hat{I}^{\,n+1}=\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ である。一方、閉部分スキーム $X_n$ の $U$ への制限は $\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ で、$\mathcal{O}_{X_n}|_{Y\cap U}=\widetilde{A/I^{n+1}}$ である。両者の構造層は、$Y\cap U$ 上の環の層の同じ射影系 $\{\widetilde{A/I^{n+1}}\}_n$ の射影極限だから一致する:
$$ \mathcal{O}_{\hat{X}_{/Y}}\big|_{Y\cap U}=\varprojlim_n\widetilde{A/I^{n+1}}=\mathcal{O}_{\operatorname{Spf}\hat{A}}. $$
ここで層の射影極限が開集合への制限と交換すること(切断ごとにとるから)を使った。よって $\hat{X}_{/Y}|_{Y\cap U}\cong\operatorname{Spf}\hat{A}$ で、prop-formal-scheme-spf-sections によりこれは局所環付き空間である。アフィン開集合 $U$ は $X$ を覆うので $\hat{X}_{/Y}$ は局所 Noether 形式スキームである。
$\mathcal{I}$ によらないこと:$Y$ を台とするもう 1 つのイデアル層 $\mathcal{I}'$ をとると、$U$ 上で $\sqrt{I}=\sqrt{I'}$ であり、$A$ が Noether なので $I^m\subset I'$、$I'^{m'}\subset I$ をみたす $m,m'$ がある。したがって射影系 $\{\mathcal{O}_X/\mathcal{I}^{n+1}\}$ と $\{\mathcal{O}_X/\mathcal{I}'^{n+1}\}$ は互いに共終で、射影極限は同型である。
$Y=X$ のときは、$\mathcal{I}$ の各茎が冪零元からなり $X$ が局所 Noether なので、各アフィン開集合 $U$ 上で $\mathcal{I}^{n+1}|_U=0$ となる $n$ があり、そこから先で射影系は $\mathcal{O}_X|_U$ で定値になる。よって $\hat{X}_{/X}=X$ である。

帰納極限としての形式スキーム

$\hat{X}_{/Y}$ の構造層は $\varprojlim_n\mathcal{O}_{X_n}$ であって、決して $\varinjlim$ ではない。一方で局所環付き空間としては、$\hat{X}_{/Y}$ は閉埋め込みの列 $X_0\hookrightarrow X_1\hookrightarrow\cdots$ の帰納極限(余極限)である(prop-formal-scheme-colimit)。この意味で $\hat{X}_{/Y}=\varinjlim_nX_n$ と書く文献も多い。「空間の帰納極限」と「関数の層の射影極限」は同じ対象の 2 つの側面であり、対象の側の $\varinjlim$ が関数の側では $\varprojlim$ に反転している。

形式スキームは閉部分スキームの列の帰納極限である

$X$、$Y$、$X_n$、$\hat{X}=\hat{X}_{/Y}$ を def-formal-scheme-completion のとおりとし、$i_n\colon X_n\to\hat{X}$ を自然な射(位相空間は恒等、層は射影 $\mathcal{O}_{\hat{X}}\to\mathcal{O}_{X_n}$)とする。任意の局所環付き空間 $Z$ について、
$$ \operatorname{Hom}(\hat{X},Z)\longrightarrow\varprojlim_n\operatorname{Hom}(X_n,Z),\qquad g\longmapsto(g\circ i_n)_n $$
は全単射である。

$i_n$ が局所環付き空間の射であること:位相空間は恒等写像、層の射は射影 $\pi_n\colon\mathcal{O}_{\hat{X}}\to\mathcal{O}_{X_n}$ で、茎の射 $\mathcal{O}_{\hat{X},x}\to\mathcal{O}_{X_n,x}$ が局所射であることを見ればよい。prop-formal-scheme-spf-sections の 2 により $\mathcal{O}_{\hat{X},x}$ の極大イデアル $\mathfrak{m}_x$ は $\theta\colon\mathcal{O}_{\hat{X},x}\to\kappa(x)$ の核で、$\theta$ は $\mathcal{O}_{\hat{X},x}\to\mathcal{O}_{X_n,x}\to\mathcal{O}_{X_0,x}\to\kappa(x)$ と分解するから、$\mathfrak{m}_x$ は $\mathcal{O}_{X_n,x}$ の極大イデアルの引き戻しであり、射は局所射である。とくに $\mathfrak{m}_x=\pi_n^{-1}(\mathfrak{m}_{X_n,x})$ である。
単射性:$g,g'\colon\hat{X}\to Z$ が $g\circ i_n=g'\circ i_n$(すべての $n$)をみたすとする。位相空間の写像は $i_n$ が恒等なので一致し、これを $g$ と書く。層の射 $g^\sharp,g'^\sharp\colon\mathcal{O}_Z\to g_*\mathcal{O}_{\hat{X}}=g_*\varprojlim_n\mathcal{O}_{X_n}=\varprojlim_ng_*\mathcal{O}_{X_n}$(順像は切断ごとに定まるので射影極限と交換する)は、各 $g_*\pi_n$ との合成が一致するので、射影極限の普遍性により一致する。
全射性:両立する族 $(g_n\colon X_n\to Z)_n$、すなわち $g_{n+1}\circ(X_n\hookrightarrow X_{n+1})=g_n$ をみたす族が与えられたとする。位相空間の写像はすべて同じ連続写像 $g\colon Y\to Z$ である。層の射 $g_n^\sharp\colon\mathcal{O}_Z\to g_*\mathcal{O}_{X_n}$ は $n$ について両立するので、射影極限の普遍性により $g^\sharp\colon\mathcal{O}_Z\to\varprojlim_ng_*\mathcal{O}_{X_n}=g_*\mathcal{O}_{\hat{X}}$ が定まり、$g_*\pi_n\circ g^\sharp=g_n^\sharp$ をみたす。$(g,g^\sharp)$ が局所環付き空間の射であることを確かめる。点 $x\in Y$ について茎の射 $g^\sharp_x\colon\mathcal{O}_{Z,g(x)}\to\mathcal{O}_{\hat{X},x}$ を $\pi_{0,x}$ と合成したものは $g_{0,x}^\sharp$ で、$g_0$ が局所環付き空間の射なので局所射である。$a\in\mathfrak{m}_{Z,g(x)}$ とすると $\pi_{0,x}(g^\sharp_x(a))\in\mathfrak{m}_{X_0,x}$ であり、上で示した $\mathfrak{m}_x=\pi_0^{-1}(\mathfrak{m}_{X_0,x})$ により $g^\sharp_x(a)\in\mathfrak{m}_x$ である。よって $g^\sharp_x$ は局所射で、$(g,g^\sharp)$ は $\hat{X}\to Z$ の射であり、$g\circ i_n=g_n$ をみたす。

直感

$\operatorname{Spec}A/I$ は閉集合 $V(I)$ を「関数の値」だけで見る。$\operatorname{Spec}A/I^2$ は接方向の 1 次の情報、$\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ は $n$ 次までの Taylor 展開の情報を加える。形式スペクトル $\operatorname{Spf}A$ は、すべての次数の無限小情報を同時にもつが、点は $V(I)$ の点しかもたない。関数は $V(I)$ に沿った形式冪級数のようにふるまい、$\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ の関数環 $k[\![t]\!]$ は「原点のまわりの形式冪級数」であって、原点以外の点で評価することはできない。
これに対して $\operatorname{Spec}k[\![t]\!]$ は、閉点 $(t)$ に加えて生成点 $(0)$ をもち、そこでは関数体 $k(\!(t)\!)$ が見える。形式スキームは、この生成点を切り捨て、閉集合の周りの「厚み」だけを残した対象である(ex-formal-scheme-spec-vs-spf)。
形式スキームが役に立つのは、次の 2 つの場面である。1 つは固有射 $f\colon X\to Y$ の連接層のコホモロジーを点 $y$ の近くで調べるとき、$y$ 上のファイバーの無限小近傍 $X_n$ のコホモロジーの射影極限が $(R^if_*\mathcal{F})_y$ の完備化を与える(形式関数の定理、thm-formal-scheme-formal-functions)。もう 1 つは変形・持上げの問題で、標数 $p$ のスキーム $X_0$ を $W(k)/p^{n+1}$ 上に一段ずつ持ち上げた列 $(X_n)$ は $\operatorname{Spf}W(k)$ 上の形式スキームであり、それが実際のスキームから来るか(代数化可能か)を Grothendieck の存在定理(thm-formal-scheme-existence)が判定する。

例と反例

形式冪級数環の形式スペクトルとアフィン直線の原点での完備化

$k$ を体とする。$A=k[t]$、$I=(t)$ の $I$ 進完備化は形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ であり、$k[\![t]\!]$ は $(t)$ を定義イデアルとする Noether 進位環である。prop-formal-scheme-completion により、アフィン直線 $\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ の原点 $0=V(t)$ に沿った完備化は
$$ \widehat{(\mathbb{A}^1_k)}_{/0}=\operatorname{Spf}k[\![t]\!] $$
である。これは 1 点 $\{(t)\}$ からなる位相空間に環 $k[\![t]\!]$ を載せた局所環付き空間で、prop-formal-scheme-spf-sections により茎も $k[\![t]\!]$ である。同様に $\mathbb{A}^n_k$ の原点での完備化は $\operatorname{Spf}k[\![x_1,\dots,x_n]\!]$ である。より一般に、$k$ 上の代数多様体 $X$ の閉点 $x$ での完備化 $\hat{X}_{/x}$ は $\operatorname{Spf}\widehat{\mathcal{O}_{X,x}}$ であり、$x$ が $k$ 有理点で $X$ が $x$ で滑らかな $n$ 次元なら、正則局所環の完備化に関する Cohen の構造定理により $\widehat{\mathcal{O}_{X,x}}\cong k[\![x_1,\dots,x_n]\!]$ となる(Mat89 §29)。完備化は $x$ の無限小近傍しか見ないので、$X$ の情報はほとんど失われる(ex-formal-scheme-nonuniqueness)。

p 進整数環と制限冪級数環

p進数の整数環 $\mathbb{Z}_p=\varprojlim_n\mathbb{Z}/p^n$ は $(p)$ を定義イデアルとする Noether 進位環(離散付値環)であり、$\operatorname{Spf}\mathbb{Z}_p$ は 1 点 $\{(p)\}$ に環 $\mathbb{Z}_p$ を載せたものである。それは $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の閉点 $(p)$ に沿った完備化でもあり、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_p$ の閉点に沿った完備化でもある。同様に、標数 $p$ の完全体 $k$ の Wittベクトル環 $W=W(k)$ について $\operatorname{Spf}W$ は 1 点である。
$W$ 上のアフィン直線 $\mathbb{A}^1_W=\operatorname{Spec}W[t]$ を特殊ファイバー $\mathbb{A}^1_k=V(p)$ に沿って完備化すると、prop-formal-scheme-completion により $\operatorname{Spf}W\{t\}$ が得られる。ここで $W\{t\}=\varprojlim_nW[t]/p^{n+1}W[t]$ は制限冪級数環、すなわち係数が $p$ 進的に $0$ に収束する冪級数 $\sum a_nt^n$ の環である。$\operatorname{Spf}W\{t\}$ の位相空間は $\mathbb{A}^1_k$ であり、$W\{t\}/pW\{t\}=k[t]$ である。同じ $\mathbb{A}^1_W$ を原点 $V(p,t)$ に沿って完備化すると $\operatorname{Spf}W[\![t]\!]$ となり、閉集合の選び方で完備化はまったく異なる。$\operatorname{Spf}W\{t\}$ は $\mathbb{A}^1_k$ の $W$ 上への形式的持上げの典型例である(rem-formal-scheme-lifting)。

反例:形式スペクトルとスペクトルの区別

$k[\![t]\!]$ を通常の環とみて $\operatorname{Spec}k[\![t]\!]$ を作ると、これは $\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ と異なる。$k[\![t]\!]$ の $0$ でない元は $t^nu$($n\ge0$、$u$ は単元)と一意に書けるので、$0$ でないイデアルは $(t^n)$ の形に限り、素イデアルは $(0)$ と $(t)$ の 2 個である。よって $\operatorname{Spec}k[\![t]\!]$ は生成点 $(0)$ と閉点 $(t)$ からなる 2 点空間で、生成点の茎は商体 $k(\!(t)\!)$ である。一方 $\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ は $V((t))=\{(t)\}$ の 1 点だけからなる。
自然な射 $\operatorname{Spf}k[\![t]\!]\to\operatorname{Spec}k[\![t]\!]$(閉点の包含。層の射は $k[\![t]\!]$ の恒等)は大域切断に同型 $k[\![t]\!]\cong k[\![t]\!]$ を誘導するが、環付き空間の同型ではない。したがって「大域切断の環が同型なら同型」という含意はアフィンスキームの間では成り立つ($\operatorname{Hom}(\operatorname{Spec}B,\operatorname{Spec}A)=\operatorname{Hom}(A,B)$)が、形式スキームとスキームの間では成り立たない。さらに $\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ はスキームではない。実際、1 点からなるスキームは局所環 $R$ で $\operatorname{Spec}R$ が 1 点になるもの、すなわち唯一の素イデアルをもつ $R$ のスペクトルだが、$k[\![t]\!]$ は素イデアルを 2 個もつ。ここで破れているのは「局所的に $\operatorname{Spec}$ の形をもつ」というスキームの性質であり、形式スキームはスキームの真の一般化である。

反例:完備化はもとのスキームを決めない

射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の点 $0$ での完備化も、任意の滑らかな曲線 $C$ の $k$ 有理点 $x$ での完備化も、ex-formal-scheme-power-series によりすべて $\operatorname{Spf}k[\![t]\!]$ である。したがって形式スキーム $\hat{X}_{/Y}$ から $X$ を復元することは一般にはできず、「$\hat{X}_{/Y}\cong\hat{X'}_{/Y'}$ ならば $X\cong X'$」という含意は破れる。より一般に、$X$ の開部分スキーム $U$ で $Y\subset U$ なるものをとれば $\hat{U}_{/Y}=\hat{X}_{/Y}$ であり、完備化は $Y$ の外の情報をすべて忘れる。$X$ が Noether 進位環 $A$ 上固有で、完備化が $V(I)$ の逆像に沿ったものであるときは、Grothendieck の存在定理(thm-formal-scheme-existence)によって $\hat{X}$ 上の連接層から $X$ 上の連接層が復元され、この意味で固有な場合には完備化は情報を失わない。

アーベル多様体の形式群

$G$ を体 $k$ 上の滑らかな群スキーム(たとえばアーベル多様体や楕円曲線)、$e\in G(k)$ を単位元とする。$G$ の $e$ に沿った完備化 $\hat{G}:=\hat{G}_{/e}=\operatorname{Spf}\widehat{\mathcal{O}_{G,e}}$ は、$G$ が $e$ で滑らかな $g$ 次元なので $\operatorname{Spf}k[\![x_1,\dots,x_g]\!]$ と同型である。群演算 $m\colon G\times G\to G$ は $(e,e)$ を $e$ に送るので、完備化の関手性により射 $\hat{m}\colon\widehat{(G\times G)}_{/(e,e)}\to\hat{G}$ を誘導し、$\widehat{(G\times G)}_{/(e,e)}=\operatorname{Spf}k[\![x_1,\dots,x_g,y_1,\dots,y_g]\!]$ であるから、$\hat{m}$ は $g$ 個の形式冪級数 $F_i(x,y)\in k[\![x,y]\!]$ で与えられる。これらが $g$ 次元の形式群法則をなし、$\hat{G}$ を $G$ の形式群という(Mum70、楕円曲線については Sil09 IV)。楕円曲線 $E$ では $z=-x/y$ を局所座標として $\hat{E}=\operatorname{Spf}k[\![z]\!]$ で、$F(z_1,z_2)=z_1+z_2-a_1z_1z_2-\cdots$ である。標数 $p$ では $\hat{G}$ が $p$ 捩れの構造(通常・超特異の区別)を担う。

性質

以下 $A$ は Noether 進位環、$I$ はその定義イデアル、$\mathfrak{X}=\operatorname{Spf}A$ とする。有限生成加群 $M$($A$ 上)に対し、$\mathfrak{X}$ 上の $\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ 加群層
$$ M^{\triangle}:=\varprojlim_n\widetilde{M/I^{n+1}M} $$
を定める($\widetilde{M/I^{n+1}M}$ は $X_n=\operatorname{Spec}A/I^{n+1}$ 上の準連接層で、$\mathcal{O}_{X_n}$ 加群の射影極限は $\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ 加群である)。$M=A$ のとき $A^{\triangle}=\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ である。

形式スペクトル上の連接層
  1. 有限生成 $A$ 加群 $M$ と $f\in A$ について $\Gamma(\mathfrak{D}(f),M^{\triangle})=\widehat{M_f}=M\otimes_A\widehat{A_f}$ であり、とくに $\Gamma(\mathfrak{X},M^{\triangle})=M$ である。また $M^{\triangle}\cong M\otimes_A\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ である。
  2. $M\mapsto M^{\triangle}$ は有限生成 $A$ 加群の圏から $\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ 加群の圏への完全関手であり、充満忠実関手である。
  3. $\mathfrak{X}$ 上の $\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ 加群 $\mathcal{F}$ が連接であることと、ある有限生成 $A$ 加群 $M$ について $\mathcal{F}\cong M^{\triangle}$ となることは同値である。とくに $\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ は連接である。
  4. $X$ を Noether スキーム、$Y\subset X$ を閉部分集合、$\hat{X}=\hat{X}_{/Y}$、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層とし、$\hat{\mathcal{F}}:=\varprojlim_n\mathcal{F}/\mathcal{I}^{n+1}\mathcal{F}$ とおく。$\hat{\mathcal{F}}$ は $\hat{X}$ 上の連接層で、$\hat{\mathcal{F}}\cong i^*\mathcal{F}=i^{-1}\mathcal{F}\otimes_{i^{-1}\mathcal{O}_X}\mathcal{O}_{\hat{X}}$($i\colon\hat{X}\to X$ は自然な射、$i^*$ は $\mathcal{O}$ 加群の逆像)であり、$\mathcal{F}\mapsto\hat{\mathcal{F}}$ は完全関手である。
連接層の定理の証明の筋と出典

証明は Har77 II §9 と EGA1 §10.10 に譲る。筋は次のとおりである。Noether 環 $A$ 上の有限生成加群の短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ に対し、Artin–Reesの補題により $M'$ 上の $I$ 進位相と $M$ から誘導される位相が一致し、したがって $I$ 進完備化 $0\to\widehat{M'}\to\hat{M}\to\widehat{M''}\to0$ は完全である(AM69 第 10 章、Mat89 §8)。また有限生成加群では $\hat{M}=M\otimes_A\hat{A}$ で、$\hat{A}$ は $A$ 上の平坦加群である。これを $A_f$ に適用すると 1 の切断の記述と 2 の完全性が得られる。層の完全性は茎で確かめるが、$M^{\triangle}$ の茎は $\varinjlim_f\widehat{M_f}$ で帰納極限は完全なので、$\widehat{M_f}$ の完全性から従う。同じことは、$M^{\triangle}$ が射影系 $\{\widetilde{M/I^{n+1}M}\}$ の射影極限で、その遷移射がすべて全射なので Mittag-Leffler 条件をみたし、$\varprojlim$ が完全列を保つ(射影極限の記事の $\varprojlim^1$ の消滅)ことからも確かめられる。3 の「$M^{\triangle}$ は連接」は、$\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}$ の連接性($\mathcal{O}_{\mathfrak{X}}^{\oplus n}$ の有限生成部分層の核が有限生成であること。$\widehat{A_f}$ の Noether 性と 2 の完全性による)と、$M$ の有限表示 $A^{\oplus m}\to A^{\oplus n}\to M\to0$ に 2 を当てることによる。逆に $\mathcal{F}$ が連接なら、$\mathcal{F}_n:=\mathcal{F}/I^{n+1}\mathcal{F}$ はスキーム $X_n$ 上の連接層なので有限生成 $A/I^{n+1}$ 加群 $M_n$ により $\widetilde{M_n}$ と書け、$M:=\varprojlim_nM_n$ が有限生成 $A$ 加群で $M/I^{n+1}M=M_n$ をみたし、$\mathcal{F}=\varprojlim_n\mathcal{F}_n=M^{\triangle}$ となる。4 はアフィン開集合上で $\mathcal{F}|_U=\widetilde{M}$ とおくと $\hat{\mathcal{F}}|_{Y\cap U}=(M\otimes_A\hat{A})^{\triangle}$ となることから 1 から 3 に帰着する。

固有射に対しては、連接層のコホモロジーを完備化と交換できる。これが形式関数の定理であり、形式スキームの最初の主要な応用である。

形式関数の定理の言明

$f\colon X\to Y$ を Noether スキームの固有射、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層、$Y'\subset Y$ を閉部分集合とし、$X'=f^{-1}(Y')$ とおく。$\hat{X}=\hat{X}_{/X'}$、$\hat{Y}=\hat{Y}_{/Y'}$、$\hat{f}\colon\hat{X}\to\hat{Y}$ を誘導される射とすると、すべての $i\ge0$ について自然な同型
$$ \widehat{(R^if_*\mathcal{F})}\;\cong\;R^i\hat{f}_*\hat{\mathcal{F}}\;\cong\;\varprojlim_nR^if_{n*}(\mathcal{F}_n) $$
がある。ここで $X_n$ は $X'$ を台とする $n$ 次の無限小近傍、$f_n\colon X_n\to Y$ はその制限、$\mathcal{F}_n=\mathcal{F}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{O}_{X_n}$、左辺は高次順像 $R^if_*\mathcal{F}$ の $Y'$ に沿った完備化である。とくに $Y=\operatorname{Spec}B$ が Noether 環 $B$ のスペクトル、$Y'=V(J)$ で、$B$ が $J$ 進完備なら、
$$ H^i(X,\mathcal{F})\;\cong\;H^i(\hat{X},\hat{\mathcal{F}})\;\cong\;\varprojlim_nH^i(X_n,\mathcal{F}_n) $$
である。閉点 $y\in Y$ とその極大イデアル $\mathfrak{m}_y$ について $Y'=\{y\}$ ととれば、$\widehat{(R^if_*\mathcal{F})_y}\cong\varprojlim_nH^i(X\times_Y\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{Y,y}/\mathfrak{m}_y^{n+1},\ \mathcal{F}_n)$ となる(左辺は茎の $\mathfrak{m}_y$ 進完備化。閉点でない $y$ についても、$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{Y,y}$ への平坦な底変換で $y$ を閉点にすれば同じ式が成り立つ)。

形式関数の定理の出典

証明は EGA3 4.1.5(一般の固有射)と Har77 III.11.1(射影的な場合。$\mathcal{F}(n)$ のコホモロジーの消滅と Artin–Rees の補題による)に譲る。$B$ が $J$ 進完備な場合の形は EGA3 4.1.7 である($H^i(X,\mathcal{F})$ は有限生成 $B$ 加群なので、$J$ 進完備化してもそのままである)。この定理の帰結として Zariski の連結性定理と Stein 分解、Zariski の主定理が得られる。定理の証明と応用は形式関数の定理の記事に譲り、この記事では形式スキームの言葉での言い換え(中央の項 $R^i\hat{f}_*\hat{\mathcal{F}}$)だけを強調する。固有性は外せない。$X=\mathbb{A}^2_k\setminus\{0\}$、$Y=\mathbb{A}^2_k$、$f$ を開埋め込み、$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$、$Y'=\{0\}$ とすると、$f$ は Noether スキームの間の分離的な有限型の射で $\mathcal{F}$ は連接(定理の固有性以外の仮定はみたす)だが、$f$ は固有でない。このとき$X'=f^{-1}(0)=\emptyset$ なので右辺 $\varprojlim_nH^0(X_n,\mathcal{F}_n)$ は $0$ である。一方 $H^0(\mathbb{A}^2_k\setminus\{0\},\mathcal{O})=k[x,y]$($\mathbb{A}^2_k\setminus\{0\}=D(x)\cup D(y)$ 上の正則関数は $k[x,y]_x\cap k[x,y]_y=k[x,y]$ の元である)なので $f_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_Y$ であり、その $0$ に沿った完備化は $k[\![x,y]\!]\neq0$ である。したがって $i=0$ で同型 $\widehat{(R^if_*\mathcal{F})}\cong\varprojlim_nR^if_{n*}(\mathcal{F}_n)$ が破れ、固有性を外すと定理の結論は成り立たない。

Grothendieck の存在定理は、固有なスキームの上では連接層の理論が完備化で何も失わないことを述べる。

Grothendieck の存在定理

$A$ を Noether 進位環、$I$ をその定義イデアル、$X\to\operatorname{Spec}A$ を固有射とし、$\hat{X}$ を $X$ の閉部分集合 $V(I\mathcal{O}_X)$ に沿った完備化とする。このとき $\mathcal{F}\mapsto\hat{\mathcal{F}}$ は $X$ 上の連接層の圏から $\hat{X}$ 上の連接層の圏への圏同値である。

存在定理の出典と代数化可能性

証明は EGA3 5.1.4 に譲る(射影的な場合に帰着し、$\hat{X}$ 上の連接層 $\mathfrak{F}$ に対して $\varprojlim_n\Gamma(X_n,\mathfrak{F}_n(m))$ を $m\gg0$ でとり、thm-formal-scheme-formal-functions と組み合わせて $X$ 上の連接層を構成する)。現代的な解説は FGAex 第 8 章にある。この定理は連接層だけでなく形式スキームそのものにも及ぶ。$\operatorname{Spf}A$ 上の Noether 形式スキーム $\mathfrak{X}$ が代数化可能(algebraizable)であるとは、$\operatorname{Spec}A$ 上のスキーム $X$ で $\hat{X}\cong\mathfrak{X}$ となるものが存在することをいう。$\mathfrak{X}$ が $\operatorname{Spf}A$ 上固有で、$\mathfrak{X}$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ でその $X_0=\mathfrak{X}\times_{\operatorname{Spf}A}\operatorname{Spec}A/I$ への制限が豊富な可逆層であるものが存在すれば、$\mathfrak{X}$ は代数化可能で、しかも $X$ は $\operatorname{Spec}A$ 上射影的にとれ、$\mathcal{L}$ も $X$ 上の豊富な可逆層の完備化になる(EGA3 5.4.5)。豊富な可逆層の存在は落とせない。代数閉体 $k$ 上の K3 曲面の $W(k)$ 上の形式的変形には代数化可能でないものがあることが知られている(Del81 の議論による。形式的変形空間は $20$ 次元で、代数化可能な変形はその中で可逆層の持ち上がる $19$ 次元の部分たちの上に限られる。本記事はこの主張の細部を確かめていない)。

持上げ問題への使いどころ

標数 $p>0$ の完全体 $k$ 上のスキーム $X_0$ と $W=W(k)$、$W_n=W/p^{n+1}W$ について、$X_0$ の $W$ 上への形式的持上げとは、$\operatorname{Spf}W$ 上の平坦な形式スキーム $\mathfrak{X}$ と同型 $\mathfrak{X}\times_{\operatorname{Spf}W}\operatorname{Spec}k\cong X_0$ の組をいう。prop-formal-scheme-colimit の見方では、これは $W_n$ 上平坦なスキーム $X_n$ の両立する列 $(X_n)_{n\ge0}$($X_{n+1}\times_{W_{n+1}}W_n\cong X_n$)と同じものであり($\mathfrak{X}$ から列を作るには $X_n:=\mathfrak{X}\times_{\operatorname{Spf}W}\operatorname{Spec}W_n$ とおく。逆に両立する列から形式スキーム $\varinjlim_nX_n$ を貼り合わせる構成は EGA1 §10.6 に譲る)、$X_0$ を $W_1$、$W_2$、$\dots$ へ一段ずつ持ち上げる問題の答えを 1 個の対象にまとめたものである。$X_0$ が滑らかなら、各段の持上げの障害は $H^2(X_0,T_{X_0})$ に、持上げの同型類の集合は $H^1(X_0,T_{X_0})$ のトーサーに住む(一般の平方零拡大に沿った持上げについて FGAex 第 8 章。$k$ 上の Artin 局所環上の変形については HarDT 第 2 章)。したがってアフィンで滑らかな $X_0=\operatorname{Spec}A_0$ はつねに形式的持上げ $\operatorname{Spf}\mathfrak{A}$ をもち($\mathfrak{A}$ は $W$ 上平坦で $p$ 進完備、$\mathfrak{A}/p\mathfrak{A}=A_0$)、それは同型を除いて一意である。$X_0=\mathbb{A}^1_k$ のときの答えが ex-formal-scheme-zp の $\operatorname{Spf}W\{t\}$ である。滑らかな固有曲線 $X_0$ も $H^2=0$ により形式的持上げをもち、$H^2(X_0,\mathcal{O}_{X_0})=0$ から豊富な可逆層も持ち上がるので、rem-formal-scheme-existence により $W$ 上の固有滑らかなスキームに代数化される。一方、Serre が構成した滑らかな射影多様体には $W$ 上(さらに剰余体 $k$ をもつ標数 $0$ のどの完備局所環上にも)持ち上がらないものがある(Ill96)。
形式的持上げは結晶コホモロジーの出発点である。$X_0$ が $W$ 上の固有滑らかな形式的持上げ $\mathfrak{X}$ をもつとき、$X_0$ の結晶コホモロジーは $\mathfrak{X}$ の de Rhamコホモロジー $H^i(\mathfrak{X},\Omega^{\bullet}_{\mathfrak{X}/W})=\varprojlim_nH^i_{dR}(X_n/W_n)$ に一致し(Gro68c が述べ Berthelot が証明した比較定理。本記事では言明だけを引く)、$H^i(\mathfrak{X},\Omega^j_{\mathfrak{X}/W})$ の計算は各 $\Omega^j$ に thm-formal-scheme-formal-functions を当てて $\varprojlim_nH^i(X_n,\Omega^j_{X_n/W_n})$ に帰着する。しかしアフィンな持上げでは de Rham コホモロジーが大きすぎる。$\operatorname{Spf}W\{t\}$ では閉 1 形式 $\sum a_nt^n\,dt$ の原始関数 $\sum\frac{a_n}{n+1}t^{n+1}$ の係数が $W$ に入らないことがあり、$H^1_{dR}$ は $W[1/p]$ をテンソルしても無限次元になる。この病理が、係数の増大条件を課した過収束級数環(Monsky–Washnitzer)や、持上げを局所的にしか要求しない結晶景の設計へつながる。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II §9(形式スキーム、$\operatorname{Spf}$、完備化、連接層 $M^{\triangle}$)、III.11.1(形式関数の定理)
[2]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique I : Le langage des schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS 4, pp. 5–228, 1960, §10(形式スキーム。10.2 形式スペクトルと射、10.6 閉埋め込みの列の帰納極限としての形式スキーム、10.10 連接層)
[3]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique III : Étude cohomologique des faisceaux cohérents, Première partie, Publications Mathématiques de l'IHÉS 11, pp. 5–167, 1961, §4(形式関数の定理 4.1.5・4.1.7)、§5(存在定理 5.1.4、代数化 5.4.5)
[4]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, 第 10 章($I$ 進完備化、Artin–Rees の補題、完備化の完全性と平坦性、$\hat{A}$ の Noether 性)
[5]
Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1989, §8(完備化)、§29(Cohen の構造定理)
[6]
Barbara Fantechi, Lothar Göttsche, Luc Illusie, Steven L. Kleiman, Nitin Nitsure, Angelo Vistoli, Fundamental Algebraic Geometry: Grothendieck's FGA Explained, American Mathematical Society, 2005, 第 8 章(Illusie, Grothendieck's existence theorem in formal geometry。存在定理と、平方零拡大に沿った滑らかなスキームの持上げの障害類)
[7]
Robin Hartshorne, Deformation Theory, Springer, 2010, 第 2 章(高次の無限小変形、持上げの障害類)
[10]
Alexander Grothendieck, Crystals and the de Rham cohomology of schemes, Dix exposés sur la cohomologie des schémas, Advanced Studies in Pure Mathematics 3, North-Holland / Masson, pp. 306–358, 1968, §2(形式的持上げと de Rham コホモロジー)
[11]
Luc Illusie, Frobenius et dégénérescence de Hodge, Introduction à la théorie de Hodge, Panoramas et Synthèses 3, Société Mathématique de France, pp. 113–168, 1996, $W_2$ への持上げと持ち上がらない多様体(Serre の例)
[12]
Pierre Deligne(付録:Luc Illusie), Relèvement des surfaces K3 en caractéristique nulle, Algebraic Surfaces (Orsay 1976–78), Lecture Notes in Mathematics 868, Springer, pp. 58–79, 1981, K3 曲面の形式的変形と代数化可能な変形
[13]
The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する