Grassmann多様体(Grassmannian)とは、$n$ 次元ベクトル空間 $V$ の $k$ 次元部分空間の全体 $\operatorname{Gr}(k,V)$ に多様体の構造を入れたものである。$k=1$ なら射影空間 $\mathbb{P}(V)$ である。部分空間を行列の行空間として表すと $\binom nk$ 個の座標近傍 $K^{k(n-k)}$ で覆われ、実数体・複素数体上では次元 $k(n-k)$ のコンパクトな多様体になる。基底の外積をとる Plücker 埋め込みにより射影空間の中の 2 次式で定まる図形として実現され、$\operatorname{Gr}(2,4)$ は $\mathbb{P}^5$ の 2 次超曲面になる。トートロジー束はベクトル束の分類と Chern 類の構成の基礎である。
ベクトル空間 $V$ の原点を通る直線(1 次元部分空間)の全体が射影空間 $\mathbb{P}(V)$ であった。直線を $k$ 次元部分空間に替えたもの、すなわち「$V$ の $k$ 次元部分空間を 1 点とみなした空間」が Grassmann 多様体 $\operatorname{Gr}(k,V)$ である。たとえば $\mathbb{R}^3$ の中の原点を通る平面の全体や、3 次元射影空間の中の直線の全体($\operatorname{Gr}(2,K^4)$)がそうである。部分空間を行列の行空間として書くと、Grassmann 多様体は $\binom nk$ 個の座標近傍で覆われた次元 $k(n-k)$ の多様体になり(thm-grass-manifold)、部分空間に基底の外積を対応させると射影空間の中の 2 次式で定まる図形として実現される(Plücker 埋め込み、thm-grass-plucker)。各点にその部分空間自身を対応させるトートロジー束は、次元を無限にした極限ではベクトル束を引き戻しで分類する普遍的な束になり、Grassmann 多様体は特性類・分類空間・Schubert 計算の舞台になる。
以下、$K$ を体、$V$ を $K$ 上の $n$ 次元ベクトル空間、$0\le k\le n$ とする。
$V$ の $k$ 次元部分空間の全体を $\operatorname{Gr}(k,V)$ と書き、$V$ の Grassmann 多様体(Grassmannian)という。$V=K^n$ のときは $\operatorname{Gr}(k,n):=\operatorname{Gr}(k,K^n)$ と書く。
$\operatorname{Gr}_k(V)$、$G(k,n)$、$G_k(K^n)$ とも書く。$V$ の $k$ 次元部分空間は射影空間 $\mathbb{P}(V)$ の中の $(k-1)$ 次元の線形部分空間に対応するので、射影幾何の文脈では同じものを $G(k-1,n-1)$ と書くこともある。$\operatorname{Gr}(1,V)=\mathbb{P}(V)$ であり、$\operatorname{Gr}(0,V)$ と $\operatorname{Gr}(n,V)$ は 1 点である。
$W\in\operatorname{Gr}(k,n)$ の基底 $w_1,\dots,w_k$ を行に並べると、階数 $k$ の $k\times n$ 行列 $A$ で行空間が $W$ のものが得られる。2 つの階数 $k$ の行列 $A,A'$ の行空間が等しいことは、ある $g\in GL_k(K)$ で $A'=gA$ となることと同値である(基底の取り替え)。したがって
$$
\operatorname{Gr}(k,n)=\{\text{階数 }k\text{ の }k\times n\text{ 行列}\}/GL_k(K)
$$
である。$k$ 元部分集合 $I\subset\{1,\dots,n\}$ について、$A$ の第 $I$ 列からなる $k\times k$ 小行列を $A_I$ と書く。$\det(gA)_I=\det g\cdot\det A_I$ なので、「$\det A_I\ne0$」は $W$ だけで決まる条件である。$K^{k(n-k)}$ の元を $k\times(n-k)$ 行列 $X$ とみなし、第 $I$ 列が単位行列 $I_k$、残りの列(番号の順)が $X$ である $k\times n$ 行列を $M_I(X)$ と書く。たとえば $I=\{1,\dots,k\}$ なら $M_I(X)=\begin{pmatrix}I_k&X\end{pmatrix}$ である。
$k$ 元部分集合 $I\subset\{1,\dots,n\}$ について
$$
U_I:=\{W\in\operatorname{Gr}(k,n)\mid W\text{ の行列表示 }A\text{ で }\det A_I\ne0\},\qquad \varphi_I\colon U_I\to K^{k(n-k)},\ \ W\mapsto A_I^{-1}A\text{ の第 }I\text{ 列以外の列}
$$
と定め、$(U_I,\varphi_I)$ を アフィン座標近傍 という。
$W\in U_I$ であることは、$W$ が $e_j$($j\notin I$)の張る $(n-k)$ 次元部分空間と $0$ でしか交わらないことと同値である($A$ の行を $e_i$($i\in I$)の成分へ射影した $k$ 個のベクトルが 1 次独立であることと同じなので)。座標によらない形では、$k$ 次元部分空間 $W_0$ と補空間 $W'$($V=W_0\oplus W'$)を 1 組選ぶと、$W'$ と $0$ でしか交わらない $W$ は、線形写像 $\psi\colon W_0\to W'$ のグラフ $\{w+\psi(w)\mid w\in W_0\}$ としてただ 1 通りに書ける(Nic26 Example 1.2.22)。$U_I$ は $W_0=\operatorname{span}(e_i\mid i\in I)$、$W'=\operatorname{span}(e_j\mid j\notin I)$ の場合で、$X$ はグラフを定める写像の行列である。
要点:$W\in U_I$ の行列表示は、左から $A_I^{-1}$ を掛けて第 $I$ 列を単位行列にしたもの $M_I(X)$ にただ 1 通りに正規化できる。
1:階数 $k$ の $k\times n$ 行列は、ある $k$ 個の列が 1 次独立なので、$0$ でない $k\times k$ 小行列式をもつ。
2:$A$ を $gA$ に替えると $(gA)_I^{-1}(gA)=A_I^{-1}g^{-1}gA=A_I^{-1}A$ なので、$\varphi_I$ は $W$ だけで決まる。$A_I^{-1}A$ は第 $I$ 列が $I_k$ の行列で、行空間は $W$ のままである。すなわち $A_I^{-1}A=M_I(\varphi_I(W))$ であり、$W$ は $M_I(\varphi_I(W))$ の行空間として復元できる。逆に任意の $X$ について $M_I(X)$ の行空間 $W$ は $\det M_I(X)_I=1\ne0$ より $U_I$ に入り、$\varphi_I(W)=X$ である。
3:$\varphi_I^{-1}(X)$ の行列表示として $M_I(X)$ がとれるので、1 つ目の主張と座標変換の式は定義からただちに従う。逆行列の成分は Cramer の公式により余因子を $\det M_I(X)_J$ で割ったものであるから、最後の主張を得る。$\square$
$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする。階数 $k$ の $k\times n$ 行列の全体 $\mathrm{St}$ は $K^{kn}$ の開集合($k\times k$ 小行列式のどれかが $0$ でない集合)であり、行空間をとる写像 $q\colon\mathrm{St}\to\operatorname{Gr}(k,n)$ は全射である。$\operatorname{Gr}(k,n)$ に $q$ による商空間の位相を入れる。
$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする。
1:$q^{-1}(U_I)=\{A\in\mathrm{St}\mid\det A_I\ne0\}$ は開集合なので $U_I$ は開集合である。$\varphi_I\circ q(A)$ は $A_I^{-1}A$ の成分の一部で、Cramer の公式により $A$ の成分の有理式(分母 $\det A_I\ne0$)なので連続である。$q^{-1}(U_I)$ は $q$ について飽和した開集合なので、$q$ のそこへの制限は商写像であり(射影空間 の記事の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」の証明と同じ議論)、$\varphi_I$ は連続である。逆写像 $X\mapsto q(M_I(X))$ は連続写像 $X\mapsto M_I(X)$ と $q$ の合成なので連続である。座標変換は prop-grass-charts の 3 により有理式なので、実解析的で、$K=\mathbb{C}$ なら正則である。
2:第 2 可算性は、$\operatorname{Gr}(k,n)$ が $K^{k(n-k)}$ と同相な有限個の開集合で覆われることから従う。Hausdorff 性は、$W$ にその上への直交射影の行列を対応させる写像 $\bar P\colon\operatorname{Gr}(k,n)\to M_n(K)$ が連続な単射であることから従う(Hausdorff 空間への連続な単射があるため)。コンパクト性は、行が正規直交な $k\times n$ 行列の集合 $F=\{A\mid AA^*=I_k\}$($A^*$ は共役転置)がコンパクトで、Gram–Schmidt の直交化により $q(F)=\operatorname{Gr}(k,n)$ となることから従う。$\square$
$\bar P$ について:$K^n$ に標準内積($K=\mathbb{C}$ では Hermite 内積)を入れる。$A\in\mathrm{St}$ について $AA^*$ は行の Gram 行列で正則であり、$P(A):=A^*(AA^*)^{-1}A$ とおく。行ベクトル $x$ について $y:=xP(A)=\bigl(xA^*(AA^*)^{-1}\bigr)A$ は $A$ の行の線形結合なので行空間 $W$ に入り、$(x-y)A^*=xA^*-xA^*(AA^*)^{-1}AA^*=0$ なので $x-y$ は $A$ のすべての行と直交する。したがって $x\mapsto xP(A)$ は $W$ への直交射影であり、$P(gA)=P(A)$ である。$q$ は商写像なので $\bar P$ は連続であり、直交射影の像は $W$ なので $\bar P$ は単射である。
$F$ について:$F$ は $K^{kn}$ の有界閉集合なのでコンパクトである。$W$ の基底を Gram–Schmidt の直交化で正規直交基底にして行に並べれば $F$ の元になるので $q(F)=\operatorname{Gr}(k,n)$ であり、$\operatorname{Gr}(k,n)$ はコンパクト集合の連続像としてコンパクトである。
$0< k< n$ なら $\operatorname{Gr}(k,n)$ は次元が $1$ 以上のコンパクトな多様体なので、1 つの座標近傍では覆えない(局所座標 の記事の定理「コンパクトな多様体は 1 つの局所座標では覆えない」)。Nicolaescu は $\operatorname{Gr}(k,V)$ を階数 $k$ の直交射影の全体と同一視して位相を入れ、上のグラフによる座標近傍で多様体の構造を与えている(Nic26 Example 1.2.22、Lemma 1.2.23)。どちらの方法でも、$\bar P$ が単射連続でコンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので像への同相になり、同じ位相を与える。
$k=1$ では $\operatorname{Gr}(1,n)=\mathbb{P}^{n-1}(K)$ であり、$I=\{i\}$ について $M_{\{i\}}(X)$ は第 $i$ 成分が $1$ の行ベクトル、$\varphi_{\{i\}}([a_1:\cdots:a_n])=(a_j/a_i)_{j\ne i}$ である。これは 射影空間 の記事の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」の座標近傍そのものであり、thm-grass-manifold はその一般化である。
$\operatorname{Gr}(2,4)$ の点 $W$ は、3 次元射影空間 $\mathbb{P}^3=\mathbb{P}(K^4)$ の直線 $\mathbb{P}(W)$ と一対一に対応する。$\operatorname{Gr}(2,4)$ の次元は $2\cdot2=4$ であり、$\mathbb{P}^3$ の直線は 4 つのパラメータで動く。$I=\{1,2\}$ の座標近傍では
$$
W=\text{行空間}\begin{pmatrix}1&0&a&b\\0&1&c&d\end{pmatrix},\qquad \varphi_{\{1,2\}}(W)=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}
$$
であり、これは直線 $x_1=x_2=0$ と交わらない直線を、2 点 $[1:0:a:b]$ と $[0:1:c:d]$ を通る直線として表したものである。
$V^*$ を $V$ の双対ベクトル空間、$W^0:=\{\xi\in V^*\mid\xi|_W=0\}$ を零化空間とする。$W\mapsto W^0$ は全単射 $\operatorname{Gr}(k,V)\to\operatorname{Gr}(n-k,V^*)$ である。$K=\mathbb{R},\mathbb{C}$ で $V=K^n$、$V^*=K^n$(双対基底)とすると、これは多様体の微分同相であり、座標近傍では $X\mapsto-X^{\top}$ で与えられる。
双対ベクトル空間 の記事の定理「零化空間の次元」により $\dim W^0=n-k$ であり、$W$ は $W^0$ の元の共通零点として復元されるので、$W\mapsto W^0$ は単射である。同じ定理を $V^*$ と $V^{**}\cong V$ に適用すると、$V^*$ の $(n-k)$ 次元部分空間 $U$ はある $k$ 次元部分空間の零化空間であり、全射である。座標での表示 $X\mapsto-X^{\top}$ は線形同型なので微分同相である。$\square$
$I=\{1,\dots,k\}$ とし、$W$ を $\begin{pmatrix}I_k&X\end{pmatrix}$ の行空間とする。$W$ の元は $(a,aX)$($a\in K^k$ は行ベクトル)、$V^*$ の元を $(b',b)$($b'\in K^k$、$b\in K^{n-k}$)と書くと、$(b',b)$ が $W$ 上で $0$ であることは、すべての $a$ で $a\cdot b'+aX\cdot b=0$、すなわち $b'=-Xb$ と同値である。したがって $W^0$ は $\begin{pmatrix}-X^{\top}&I_{n-k}\end{pmatrix}$ の行空間であり、$J=\{k+1,\dots,n\}$ の座標近傍で $\varphi_J(W^0)=-X^{\top}$ である。一般の $I$ でも列の並べ替えで同じ形になる。
$k=n-1$ では $\operatorname{Gr}(n-1,V)\cong\mathbb{P}(V^*)$、すなわち $V$ の超平面の全体は双対空間の射影空間である。$K=\mathbb{R}$ で内積を使えば、零化空間の代わりに直交補空間 $W\mapsto W^{\perp}$ で $\operatorname{Gr}(k,\mathbb{R}^n)\cong\operatorname{Gr}(n-k,\mathbb{R}^n)$ となる。
$q$ 元体 $\mathbb{F}_q$ について
$$
\lvert\operatorname{Gr}(k,\mathbb{F}_q^n)\rvert=\binom nk_q:=\prod_{i=0}^{k-1}\frac{q^n-q^i}{q^k-q^i}
$$
である。右辺を Gauss の 2 項係数($q$ 2 項係数)という。
1 次独立な $k$ 個のベクトルの順序付きの組 $(w_1,\dots,w_k)$ の個数を 2 通りに数える。$w_1$ は $0$ 以外の $q^n-1$ 通り、$w_{i+1}$ は $w_1,\dots,w_i$ の張る $q^i$ 個の元以外の $q^n-q^i$ 通りなので、組の個数は $\prod_{i=0}^{k-1}(q^n-q^i)$ である。一方、各組はその張る $k$ 次元部分空間 $W$ の順序付き基底であり、$W\cong\mathbb{F}_q^k$ の順序付き基底の個数は同じ数え方で $\prod_{i=0}^{k-1}(q^k-q^i)$ である。$W$ ごとに同じ個数ずつ数えているので、割り算で主張を得る。$\square$
3 の多項式の係数には意味がある。行空間 $W$ の行列表示を行既約階段形にすると、主成分の列の集合 $I$ ごとに、残りの自由な成分が $K^{d_I}$ を動く。$\operatorname{Gr}(k,n)$ はこれらの部分集合(Schubert 胞体)に分かれ、各部分は $K^{d_I}$ と同じ形をしている(Vak25 7.7 の冒頭の注意)。$\operatorname{Gr}(2,4)$ では $d_I$ は $4,3,2,2,1,0$ で、$\mathbb{F}_q$ 上の点を数えると $q^4+q^3+2q^2+q+1$ になる。複素 Grassmann 多様体の Betti 数も同じ多項式で与えられ、$\operatorname{Gr}(k,\mathbb{C}^n)$ の Poincaré 多項式は $\binom nk_{t^2}$ に等しい(Nic26 §7.4.5 の最後の式)。たとえば $\operatorname{Gr}(2,\mathbb{C}^4)$ の Poincaré 多項式は $1+t^2+2t^4+t^6+t^8$ で、Euler 標数は $6$ である。
$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする。
$$
\gamma_{k,n}:=\{(W,v)\in\operatorname{Gr}(k,n)\times K^n\mid v\in W\}
$$
に部分空間の位相と射影 $(W,v)\mapsto W$ を与えたものは、階数 $k$ の $K$ ベクトル束である。これを $\operatorname{Gr}(k,n)$ 上の トートロジー束(tautological bundle)という。
ベクトル束 の記事の補題「直積の部分束と局所的な枠」を使う。$W$ 上のファイバーは $k$ 次元部分空間 $W$ である。$U_I$ 上で $s_r(W)$ を $M_I(\varphi_I(W))$ の第 $r$ 行($r=1,\dots,k$)とすると、$\varphi_I$ が連続なので $s_r\colon U_I\to K^n$ は連続であり、各 $W\in U_I$ で $s_1(W),\dots,s_k(W)$ は $W$ の基底である(prop-grass-charts の 2)。$U_I$ は $\operatorname{Gr}(k,n)$ を覆うので、補題の仮定が満たされる。$\square$
$k=1$ のとき、これは ベクトル束 の記事の例「射影空間上のトートロジー束」である(Nic26 Example 2.1.36 も参照)。$n\to\infty$ の極限 $\operatorname{Gr}(k,K^\infty)=\bigcup_n\operatorname{Gr}(k,K^n)$(無限 Grassmann 多様体)とその上のトートロジー束は普遍的であり、パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上の階数 $k$ のベクトル束の同型類は、$B\to\operatorname{Gr}(k,K^\infty)$ のホモトピー類と一対一に対応する(ベクトル束 の記事の定理「ホモトピー不変性と分類」)。$\operatorname{Gr}(k,\mathbb{C}^\infty)$ は $U(k)$ の分類空間であり(同記事の例「ユニタリ群とGrassmann多様体」)、そのコホモロジー環の生成元を引き戻したものが Chern類 である(同記事の注意「存在の証明の出典」)。
$W\in\operatorname{Gr}(k,V)$ の基底 $w_1,\dots,w_k$ をとり、$k$ 次の外冪 $\bigwedge^kV$ の元 $w_1\wedge\cdots\wedge w_k$ を考える。基底を取り替えるとこの元は $0$ でない定数倍だけ変わる(外積代数 の記事の命題「分解可能な $k$ ベクトルと部分空間」)ので、射影空間 $\mathbb{P}(\bigwedge^kV)$ の点が定まる。
1:外積代数 の記事の命題「分解可能な $k$ ベクトルと部分空間」の最後の主張そのものである。
2:$A$ の第 $r$ 行を $w_r=\sum_ia_{ri}e_i$ とすると、外積代数 の記事の定理「自由加群の外冪の基底」の 1(行と列を入れ替えた形)により $w_1\wedge\cdots\wedge w_k=\sum_I\det A_I\,e_I$ である。$U_I$ の定義と見比べれば 2 つ目の主張を得る。
3:$A=M_I(X)$ としてよく、$p_I=\det I_k=1$ である。$M_I(X)$ の第 $I'$ 列からなる小行列は、第 $I\setminus\{i\}$ 列が単位ベクトル $e_s$($s\ne r$)、第 $j$ 列が $X$ の $j$ に対応する列 $(x_{1j},\dots,x_{kj})^{\top}$ である。列を並べ替えて $X$ の列を $r$ 番目に置くと、第 $r$ 列以外が単位行列の列に一致する行列になり、その行列式は第 $r$ 行の成分 $x_{rj}$ である。列の並べ替えは行列式の符号だけを変える。
4:$\mathbb{P}(\bigwedge^kK^n)$ の開集合 $D_I:=\{p_I\ne0\}$ は $p_J/p_I$($J\ne I$)を座標とするアフィン座標近傍である(射影空間 の記事の命題「アフィン座標近傍と多様体構造」)。2 により $p^{-1}(D_I)=U_I$ であり、この座標で $p\circ\varphi_I^{-1}(X)=\bigl(\det M_I(X)_J\bigr)_{J\ne I}$ は $X$ の多項式なので、$p$ は滑らかである。3 の座標 $\pm p_{I'}/p_I$ を並べた線形写像 $\lambda_I\colon D_I\to K^{k(n-k)}$ は $\lambda_I\circ p\circ\varphi_I^{-1}=\mathrm{id}$ を満たす。したがって $p|_{U_I}$ の微分は単射(はめ込み)であり、$p(U_I)=p(\operatorname{Gr}(k,n))\cap D_I$ の上で $p$ の逆写像は連続写像 $\varphi_I^{-1}\circ\lambda_I$ の制限である。$D_I$ たちは像を覆うので、$p$ は像への同相写像であり、滑らかな埋め込みである。$\operatorname{Gr}(k,n)$ はコンパクトなので、像はコンパクトで閉集合である。$\square$
$p$ の像は、Plücker 座標のあいだの 2 次の関係式(Plücker の関係式)で定まる $\mathbb{P}(\bigwedge^kV)$ の閉部分集合であり、任意の体の上で $\operatorname{Gr}(k,n)$ を射影多様体として実現する(Vak25 16.4.2、Exercise 16.4.G、16.4.3)。最も簡単な場合を完全に示す。
$K$ を任意の体とする。$\omega=\sum_{i< j}p_{ij}\,e_i\wedge e_j\in\bigwedge^2K^4$、$\omega\ne0$ について、$\omega$ が分解可能であることと
$$
Q(\omega):=p_{12}p_{34}-p_{13}p_{24}+p_{14}p_{23}=0
$$
は同値である。したがって Plücker 埋め込みは $\operatorname{Gr}(2,4)$ を $\mathbb{P}^5=\mathbb{P}(\bigwedge^2K^4)$ の 2 次超曲面 $Q=0$ の上への全単射に写す。
まず、$\omega\wedge\omega=2Q(\omega)\,e_1\wedge e_2\wedge e_3\wedge e_4$ である。実際、$e_{ij}\wedge e_{kl}$ が $0$ でないのは $\{i,j,k,l\}=\{1,2,3,4\}$ のときで、$e_{12}\wedge e_{34}=e_{1234}$、$e_{13}\wedge e_{24}=-e_{1234}$、$e_{14}\wedge e_{23}=e_{1234}$ であり、順序を入れ替えた組も同じ値を与える(偶数次の元は可換)。
分解可能なら $Q=0$:$\omega=u\wedge v$ なら、成分を不定元とする $2\times4$ 行列の $2\times2$ 小行列式について $Q=0$ が $\mathbb{Z}$ 係数の多項式の恒等式として成り立つ。実際、$\mathbb{Z}$ 上の多項式環(ねじれのない環)では $2Q\,e_{1234}=\omega\wedge\omega=u\wedge v\wedge u\wedge v=0$ から $Q=0$ である。これを $K$ に代入すればよい。
$Q=0$ なら分解可能:$\omega\ne0$ なので、ある $p_{ij}\ne0$ である。基底の置換 $\sigma$($e_i\mapsto e_{\sigma(i)}$)で $\omega$ を写すと、$\bigwedge^4\sigma$ は $\operatorname{sgn}(\sigma)$ 倍なので、上と同じく $\mathbb{Z}$ 係数の恒等式として $Q(\sigma\omega)=\operatorname{sgn}(\sigma)Q(\omega)$ である。$p_{ij}\ne0$ の $\{i,j\}$ を $\{1,2\}$ に写す $\sigma$ をとれば、$\sigma\omega$ は $e_1\wedge e_2$ の係数が $0$ でなく $Q(\sigma\omega)=0$ を満たし、$\sigma\omega$ が分解可能なら $\omega$ も分解可能である。したがって $p_{12}\ne0$ としてよく、定数倍して $p_{12}=1$ とする。$a:=-p_{23}$、$b:=-p_{24}$、$c:=p_{13}$、$d:=p_{14}$ とおくと、
$$
u\wedge v,\qquad u=e_1+a\,e_3+b\,e_4,\quad v=e_2+c\,e_3+d\,e_4
$$
の Plücker 座標は $(p_{12},p_{13},p_{14},p_{23},p_{24},p_{34})=(1,c,d,-a,-b,ad-bc)$ である。$p_{34}$ 以外は $\omega$ と一致し、$ad-bc=p_{13}p_{24}-p_{14}p_{23}$ は $Q(\omega)=0$ により $\omega$ の $p_{34}$ に等しい。よって $\omega=u\wedge v$ である。最後の主張は thm-grass-plucker の 1 から従う。$\square$
$\mathbb{P}^3$ の直線の全体は、$\mathbb{P}^5$ の中の 2 次超曲面(Klein の 2 次曲面)と同一視される(Vak25 Exercise 16.4.J)。標数が $2$ でなければ $Q(\omega)=0$ は $\omega\wedge\omega=0$ と同値であり、分解可能でない $2$ ベクトル $e_1\wedge e_2+e_3\wedge e_4$(外積代数 の記事の例「反例:分解可能でない 2 ベクトル」)は $Q=1\ne0$ で、実際に像に入らない。
$GL_n(K)$ は $K^n$(列ベクトル)に左から作用し、部分空間を部分空間に写すので、$\operatorname{Gr}(k,n)$ に $g\cdot W:=g(W)$ で作用する。$W_0:=\operatorname{span}(e_1,\dots,e_k)$ とおく。
1:$W$ の基底 $w_1,\dots,w_k$ を $K^n$ の基底 $w_1,\dots,w_n$ に延ばし、$g$ を $ge_i=w_i$ で定めれば $g(W_0)=W$ である。$g(W_0)=W_0$ は $ge_i\in W_0$($i\le k$)、すなわち $g$ の第 $1,\dots,k$ 列の第 $k+1$ 行以下が $0$ であることと同値である。推移的な作用の軌道は固定部分群による剰余類の集合と一対一に対応する。
2:Gram–Schmidt の直交化で $W$ の正規直交基底を $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底に延ばせば、1 と同じく $g\in O(n)$ がとれる。固定部分群がブロック対角になるのは、$W_0$ を保つ直交行列が $W_0^{\perp}$ も保つからである。$g\mapsto g(W_0)$ から連続な全単射 $O(n)/(O(k)\times O(n-k))\to\operatorname{Gr}(k,\mathbb{R}^n)$ が得られ、左辺はコンパクト、右辺は Hausdorff(thm-grass-manifold)なので同相写像である。複素の場合も同じである。$\square$
連続性:$g(W_0)$ は $g$ の最初の $k$ 列の張る空間なので、$g$ の最初の $k$ 列を行に並べた行列を $q$ で送ったものであり、$g$ について連続である。商 $O(n)/(O(k)\times O(n-k))$ はコンパクト群の商なのでコンパクトであり、連続な全単射はコンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので閉写像、したがって同相写像である。
完全旗の全体についての同じ記述が 旗多様体 の記事の命題「等質空間としての記述」である。$P_{k,n}$ は放物型部分群の例であり、代数群の言葉では $\operatorname{Gr}(k,n)=GL_n/P_{k,n}$ は一般化された旗多様体の 1 つである(同記事の注意「一般の旗多様体と実形」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $k$ ベクトルが分解可能 | $e_1\wedge e_2+e_3\wedge e_4\in\bigwedge^2K^4$ | 類が Plücker 埋め込みの像に入る |
| $K=\mathbb{C}$ | $\operatorname{Gr}(1,\mathbb{R}^3)=\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ | 向き付け可能 |
| $k=0$ または $k=n$ | $0< k< n$ の $\operatorname{Gr}(k,n)$ | 1 つの座標近傍で全体を覆える |
1 行目は prop-grass-klein の直後の段落で確かめた。2 行目:複素多様体はつねに向き付け可能であり、とくに複素 Grassmann 多様体は向き付け可能である(Nic26 Proposition 3.4.12)。一方、実の Grassmann 多様体 $\operatorname{Gr}(1,\mathbb{R}^3)=\mathbb{R}\mathrm{P}^2$ は Möbius の帯を含むので向き付け不可能である(射影平面 の記事の命題「実射影平面は Möbius の帯を含む」とその直後の段落)。3 行目:$k=0,n$ では $\operatorname{Gr}(k,n)$ は 1 点で 1 つの座標近傍 $U_I$ が全体であるが、$0< k< n$ ではコンパクトで次元 $k(n-k)\ge1$ なので 1 つでは覆えない(thm-grass-manifold の直後の段落)。
任意の体、さらに任意の環 $A$ の上でも、prop-grass-charts の座標近傍と座標変換の式をそのまま使って、$\binom nk$ 個のアフィン空間 $\mathbb{A}^{k(n-k)}_A$ を貼り合わせたスキーム $G(k,n)$ が作られる(Vak25 §7.7、Exercise 7.7.B・7.7.C)。Plücker 埋め込みは閉埋め込み $G(k,n)\to\mathbb{P}^{\binom nk-1}$ であり、$G(k,n)$ は射影的である(Vak25 Exercise 16.4.G)。とくに体上の Grassmann 多様体は射影多様体であり、完備(固有射)である。
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