Riesz–Fischerの定理

同義語:Riesz-Fischerの定理Fischer–Rieszの定理Riesz–Fischer theorem

概要

Riesz–Fischerの定理(Riesz–Fischer theorem)とは、測度空間上の $L^p$ 空間($1\le p\le\infty$)が完備である、すなわち $p$ ノルムについての Cauchy 列がつねに $L^p$ の中に極限をもつという定理である。証明では Cauchy 列から差のノルムが $2^{-k}$ 以下の部分列を選び、単調収束定理と優収束定理で極限を作るので、$L^p$ で収束する列はほとんど至るところ収束し、1 つの $L^p$ の関数で押さえられる部分列をもつことも同時に分かる。$L^2$ では、2 乗総和可能な係数の列がつねに正規直交系の係数(Fourier 係数)になるという形をとり、$L^p$ を舞台にする解析学の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lp空間, Lebesgue積分, Banach空間

数列 $a_n$ が Cauchy 列なら、実数の完備性により極限がある。関数の列 $f_n$ について「$\int\lvert f_m-f_n\rvert^p$ が $m,n\to\infty$ で $0$ に近づく」(平均の意味で Cauchy 列である)とき、極限の関数はあるだろうか。連続関数だけを考えていると答えは否であり、連続関数の列が平均の意味で段差のある関数に近づいていくことがある(Banach空間 の記事の例「反例:積分のノルムでは完備でない」)。
Riesz–Fischer の定理は、可測関数全体に広げて Lebesgue 積分で測れば答えが然りになること、すなわち $1\le p\le\infty$ について $L^p$ 空間が完備であることを主張する。証明の中で、平均の意味で収束する列からほとんど至るところ収束する部分列が取り出せることも分かる。平均の意味の収束は各点の収束を導かないが、部分列に移れば各点の情報が戻ってくる。この 2 つは、$L^p$ を舞台にする解析学(関数解析、偏微分方程式、確率論、Fourier 解析)での最も基本的な道具である。$L^2$ に当てると、2 乗総和可能な係数の列はつねにある関数の Fourier 係数になるという古典的な形も得られる。

設定

以下、$(X,\mathcal{F},\mu)$ を測度空間とし、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする。$1\le p\le\infty$ について、$p$ ノルム $\|\cdot\|_p$、本質的上限 $\|\cdot\|_\infty$、$L^p(\mu)$ は Lp空間 の記事の定義「$p$ ノルムと本質的上限」と定義「$L^p$ 空間」に従う。本質的上限は $\|f\|_\infty=\inf\{t\ge0\mid\mu(\{\lvert f\rvert>t\})=0\}$ であり、下限は $0$ 以上の $t$ についてとる。$L^p(\mu)$ の元はほとんど至るところ等しい関数を同一視した類であり、類の代表としては値が $F$ に入る(有限な)可測関数をとる。$L^p(\mu)$ がノルム空間であることは Lp空間 の記事の系「$L^p$ はノルム空間」、三角不等式は同じ記事の定理「Minkowskiの不等式」による。
ノルム空間 $V$ の点列 $(v_n)$ が Cauchy 列であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対し、$m,n\ge N$ なら $\|v_m-v_n\|<\varepsilon$ となる $N$ があることをいう。すべての Cauchy 列が $V$ の中に極限をもつとき $V$ は完備であり、完備なノルム空間を Banach 空間という(Banach空間 の記事の定義「Banach空間」)。

主定理

速く収束する Cauchy 列

証明の中心は、隣どうしの差のノルムの和が有限な列(速く収束する Cauchy 列)を扱う次の補題である。

差のノルムの和が有限な列

$1\le p<\infty$ とし、$f_k\in\mathcal{L}^p(\mu)$($k\ge1$)が
$$ S:=\sum_{k=1}^\infty\|f_{k+1}-f_k\|_p<\infty $$
を満たすとする。$G:=\sum_{k=1}^\infty\lvert f_{k+1}-f_k\rvert\in[0,\infty]$ とおく。このとき次が成り立つ。

  1. $\|G\|_p\le S$ であり、零集合 $N$ の外で $G<\infty$ である。
  2. $x\notin N$ では $(f_k(x))$ は $F$ の中で収束する。$f:=\lim_kf_k1_{X\setminus N}$ は可測で、$N$ の外ですべての $k$ について $\lvert f-f_k\rvert\le G$、$\lvert f_k\rvert\le\lvert f_1\rvert+G$ である。
  3. $f\in\mathcal{L}^p(\mu)$ であり、$\|f_k-f\|_p\to0$ である。

1:$G_n:=\sum_{k=1}^n\lvert f_{k+1}-f_k\rvert$ とおく。Lp空間 の記事の定理「Minkowskiの不等式」を繰り返し使うと $\|G_n\|_p\le\sum_{k\le n}\|f_{k+1}-f_k\|_p\le S$ である。$G_n^p$ は非負可測関数の増加列で、各点で $G^p$ に収束するので($t\mapsto t^p$ は $[0,\infty]$ 上で増加かつ連続)、Lebesgue積分 の記事の定理「単調収束定理」により
$$ \int G^p\,d\mu=\lim_{n\to\infty}\int G_n^p\,d\mu\le S^p<\infty $$
である。よって $\|G\|_p\le S$ であり、同じ記事の補題「零集合と積分」の 2 から $N:=\{G=\infty\}$ は零集合である。
2:$x\notin N$ と $m>k$ について、三角不等式から
$$ \lvert f_m(x)-f_k(x)\rvert\le\sum_{j=k}^{m-1}\lvert f_{j+1}(x)-f_j(x)\rvert\le\sum_{j\ge k}\lvert f_{j+1}(x)-f_j(x)\rvert $$
であり、右辺は収束する級数 $G(x)$ の尾なので $k\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $(f_k(x))$ は $F$ の Cauchy 列であり、$F$ の完備性により収束する。$f_k1_{X\setminus N}$ は可測関数で、各点で $f$ に収束するので、$f$ は可測である(実部・虚部ごとに、極限は上極限に等しく、上極限と下極限 の記事の命題「可測関数列の上極限と下極限」により可測)。上の不等式で $m\to\infty$ とすると、$N$ の外で $\lvert f-f_k\rvert\le\sum_{j\ge k}\lvert f_{j+1}-f_j\rvert\le G$ である。$\lvert f_k\rvert\le\lvert f_1\rvert+\sum_{j< k}\lvert f_{j+1}-f_j\rvert\le\lvert f_1\rvert+G$ も三角不等式から分かる。
3:$N$ の外で $\lvert f\rvert\le\lvert f_1\rvert+G$ なので、Minkowski の不等式から $\|f\|_p\le\|f_1\|_p+\|G\|_p<\infty$ である。$h_k:=\lvert f_k-f\rvert^p1_{X\setminus N}$ は、各点で $0$ に収束し(2)、$N$ の外で $h_k\le G^p$ を満たす。$G^p1_{X\setminus N}$ は実数値で可積分なので、Lebesgue積分 の記事の定理「優収束定理」により $\int h_k\to0$ である。$h_k$ は $\lvert f_k-f\rvert^p$ とほとんど至るところ等しいので、$\|f_k-f\|_p^p=\int h_k\,d\mu\to0$ である。$\square$

補題の要は、ノルムの和の有限性 $\sum\|f_{k+1}-f_k\|_p<\infty$ を、単調収束定理によって関数の和の有限性 $\sum\lvert f_{k+1}(x)-f_k(x)\rvert<\infty$(ほとんどすべての $x$ で)に移すところにある。積分が有限な関数はほとんど至るところ有限だからである。ノルムが小さいことだけからは各点の値について何も言えないが、和が有限になるほど速く小さくなれば、各点の収束が従う。

$L^p$ の完備性

Riesz–Fischerの定理

$1\le p\le\infty$ とする。$L^p(\mu)$ の任意の Cauchy 列は $L^p(\mu)$ の中で収束する。すなわち $L^p(\mu)$ は Banach 空間である。

$1\le p<\infty$ の場合.$(f_n)$ を $L^p(\mu)$ の Cauchy 列とし、代表を 1 つずつとる(可算選択公理)。各 $k\ge1$ について、$m,n\ge N$ なら $\|f_m-f_n\|_p\le2^{-k}$ となる最小の $N$ を $N_k$ とし、$n_1:=N_1$、$n_k:=\max(N_k,n_{k-1}+1)$($k\ge2$)と定める。すると $n_1< n_2<\cdots$ で $n_k\ge N_k$ なので、
$$ \|f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\|_p\le2^{-k}\qquad(k\ge1) $$
であり、$\sum_k\|f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\|_p\le1$ である。部分列 $(f_{n_k})$ に lem-rf-fast を使うと、$f\in\mathcal{L}^p(\mu)$ があって $\|f_{n_k}-f\|_p\to0$ となる。
元の列も $f$ に収束することを示す。$\varepsilon>0$ に対し、$m,n\ge M$ なら $\|f_m-f_n\|_p<\frac\varepsilon2$ となる $M$ をとり、$n_k\ge M$ かつ $\|f_{n_k}-f\|_p<\frac\varepsilon2$ となる $k$ をとる($n_k\ge k$ なので $k$ を大きくとればよい)。$n\ge M$ ならば
$$ \|f_n-f\|_p\le\|f_n-f_{n_k}\|_p+\|f_{n_k}-f\|_p<\varepsilon $$
である。よって $f_n\to f$ である。
$p=\infty$ の場合.$(f_n)$ を $L^\infty(\mu)$ の Cauchy 列とし、代表をとる。Lp空間 の記事の補題「本質的上限は達成される」により、各 $m,n$ について $E_{m,n}:=\{\lvert f_m-f_n\rvert>\|f_m-f_n\|_\infty\}$ は零集合であり、$f_n$ についても $E_n:=\{\lvert f_n\rvert>\|f_n\|_\infty\}$ は零集合である。これら可算個の和を $E$ とすると $E$ は零集合で、$E$ の外ではすべての $m,n$ について $\lvert f_m(x)-f_n(x)\rvert\le\|f_m-f_n\|_\infty$ が成り立つ。
$k\ge1$ について、$m,n\ge N$ なら $\|f_m-f_n\|_\infty\le\frac1k$ となる最小の $N$ を $N_k$ とする。$x\notin E$ では $(f_n(x))$ は $F$ の Cauchy 列なので収束し、$f:=\lim_nf_n1_{X\setminus E}$ は可測である。$n\ge N_k$ と $x\notin E$ について、$m\ge N_k$ での $\lvert f_m(x)-f_n(x)\rvert\le\frac1k$ で $m\to\infty$ とすると $\lvert f(x)-f_n(x)\rvert\le\frac1k$ である。したがって $E$ の外で $\lvert f\rvert\le\lvert f_{N_1}\rvert+1\le\|f_{N_1}\|_\infty+1$ となり $f\in\mathcal{L}^\infty(\mu)$ であり、$n\ge N_k$ で $\|f-f_n\|_\infty\le\frac1k$、すなわち $f_n\to f$ である。$\square$

$p<\infty$ の証明の流れは、Cauchy 列から速く収束する部分列を取り出し($2^{-k}$ の和は有限)、補題で部分列の極限を作り、最後に「Cauchy 列が収束する部分列をもてば列全体も収束する」で戻る、という 3 段である。$p=\infty$ では、零集合を 1 つ除けば列が一様に Cauchy 列になるので、部分列は要らない。部分列の番号は「条件を満たす最小の番号」として 1 通りに決まる。
同じ定理の別の証明が Lp空間 の記事の定理「$L^p$ 空間の完備性(Riesz–Fischer)」にある。そちらは「絶対収束する級数がつねに収束するノルム空間は完備」という特徴づけ(Banach空間 の記事の定理「絶対収束する級数による完備性の特徴づけ」)を経由し、級数の部分和の誤差を単調収束定理で直接評価している。上の証明は Cauchy 列から部分列を取り出し、優収束定理で $L^p$ の収束を導く。部分列の各点の収束が証明の途中で現れるので、次の定理がそのまま得られる。

ほとんど至るところ収束する部分列

収束列の部分列の概収束

$1\le p<\infty$ とし、$L^p(\mu)$ で $f_n\to f$ とする。このとき部分列 $(f_{n_k})$ と、値が $[0,\infty)$ の $h\in\mathcal{L}^p(\mu)$ があって、

  1. ほとんどすべての $x$ で $f_{n_k}(x)\to f(x)$($k\to\infty$)、
  2. すべての $k$ について、ほとんど至るところ $\lvert f_{n_k}\rvert\le h$
    が成り立つ。$p=\infty$ の場合は、部分列をとらなくても、ある零集合の外で $f_n\to f$ が一様に成り立つ。

$1\le p<\infty$ とする。収束する列は Cauchy 列なので($\|f_m-f_n\|_p\le\|f_m-f\|_p+\|f-f_n\|_p$)、prf-rf-main と同じように部分列 $(f_{n_k})$ を選ぶと $\sum_k\|f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\|_p\le1$ である。lem-rf-fast により、零集合 $N$ の外で $f_{n_k}$ が収束する可測関数 $f^\ast\in\mathcal{L}^p(\mu)$ があって、$\|f_{n_k}-f^\ast\|_p\to0$ であり、$G:=\sum_k\lvert f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\rvert$ について $N$ の外で $\lvert f_{n_k}\rvert\le\lvert f_{n_1}\rvert+G$ である。
ノルム空間の極限は 1 つしかないので($\|f-f^\ast\|_p\le\|f-f_{n_k}\|_p+\|f_{n_k}-f^\ast\|_p\to0$)、$\|f-f^\ast\|_p=0$、すなわちほとんど至るところ $f=f^\ast$ である(Lp空間 の記事の系「$L^p$ はノルム空間」の正値性)。よって零集合を除いて $f_{n_k}\to f^\ast=f$ であり、1 が成り立つ。$h:=(\lvert f_{n_1}\rvert+G)1_{X\setminus N}$ とおけば、$h$ は値が $[0,\infty)$ の可測関数で、Minkowski の不等式から $\|h\|_p\le\|f_{n_1}\|_p+1<\infty$ であり、2 が成り立つ。
$p=\infty$ の場合:Lp空間 の記事の補題「本質的上限は達成される」により $E_n:=\{\lvert f_n-f\rvert>\|f_n-f\|_\infty\}$ は零集合で、$E:=\bigcup_nE_n$ の外では $\sup_x\lvert f_n(x)-f(x)\rvert\le\|f_n-f\|_\infty\to0$ である。$\square$

部分列が各点で収束することは Lp空間 の記事の系「各点収束する部分列」にもある。この定理は、それに加えて部分列全体を 1 つの $L^p$ の関数 $h$ で押さえられることを主張する。2 は、部分列について優収束定理を使うための優関数を与える。たとえば $f_n\to f$($L^p$)で $\varphi$ が連続かつ $\lvert\varphi(t)\rvert\le C\lvert t\rvert^p$ なら、部分列について $\varphi(f_{n_k})\to\varphi(f)$ がほとんど至るところ成り立ち、$\lvert\varphi(f_{n_k})\rvert\le Ch^p$ なので $\int\varphi(f_{n_k})\to\int\varphi(f)$ となる。列全体についての主張は「どの部分列もさらに収束する部分列をもつ」ことから戻せる。

二つの極限の一致

$1\le p\le\infty$ とし、$L^p(\mu)$ で $f_n\to f$、かつほとんど至るところ $f_n\to g$ とする。このとき、ほとんど至るところ $f=g$ である。

thm-rf-subsequence の部分列 $(f_{n_k})$ はほとんど至るところ $f$ に収束し($p=\infty$ では列全体がそうである)、ほとんど至るところ $g$ にも収束する。2 つの零集合の和の外では、数列 $f_{n_k}(x)$ の極限は 1 つなので $f(x)=g(x)$ である。$\square$

この系により、ある列が $L^p$ でも各点でも収束するなら、極限は同じ関数(の類)であり、どちらの意味の極限を調べてもよい。

正規直交系の係数

$L^2(\mu)$ は内積 $\langle f,g\rangle:=\int f\,\overline g\,d\mu$ をもち、そのノルムが $\|\cdot\|_2$ である(Lp空間 の記事の例「$L^2$ と内積」)。thm-rf-main により $L^2(\mu)$ は完備な内積空間、すなわち Hilbert空間である。$L^2(\mu)$ の元の族 $(e_k)$ が正規直交系であるとは、$\langle e_k,e_l\rangle$ が $k=l$ のとき $1$、$k\ne l$ のとき $0$ であることをいう(Besselの不等式 の記事の定義「正規直交系と係数」)。

正規直交系の係数による形

$(e_k)_{k\ge1}$ を $L^2(\mu)$ の正規直交系とし、$(a_k)_{k\ge1}$ を $\sum_k\lvert a_k\rvert^2<\infty$ を満たす $F$ の数列とする。このとき $f\in L^2(\mu)$ で
$$ \langle f,e_k\rangle=a_k\quad(k\ge1),\qquad \Bigl\|f-\sum_{k=1}^na_ke_k\Bigr\|_2\to0,\qquad \|f\|_2^2=\sum_{k=1}^\infty\lvert a_k\rvert^2 $$
を満たすものがある。

$s_n:=\sum_{k\le n}a_ke_k$ とおく。$m< n$ なら、正規直交性から交差項が消えて
$$ \|s_n-s_m\|_2^2=\Bigl\langle\sum_{k=m+1}^na_ke_k,\sum_{l=m+1}^na_le_l\Bigr\rangle=\sum_{k=m+1}^n\lvert a_k\rvert^2 $$
であり、右辺は収束する級数 $\sum_k\lvert a_k\rvert^2$ の尾の部分なので、$m,n\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $(s_n)$ は $L^2(\mu)$ の Cauchy 列であり、thm-rf-main により極限 $f\in L^2(\mu)$ がある。
$n\ge j$ なら $\langle s_n,e_j\rangle=a_j$ である。積分の形の Cauchy–Schwarz の不等式(Lp空間 の記事の定理「Hölderの不等式」の $p=2$)により $\lvert\langle f-s_n,e_j\rangle\rvert\le\|f-s_n\|_2\|e_j\|_2\to0$ なので、$\langle f,e_j\rangle=\lim_n\langle s_n,e_j\rangle=a_j$ である。最後に、ノルムの三角不等式から $\bigl\lvert\|f\|_2-\|s_n\|_2\bigr\rvert\le\|f-s_n\|_2\to0$ であり、$\|s_n\|_2^2=\sum_{k\le n}\lvert a_k\rvert^2$ なので $\|f\|_2^2=\sum_k\lvert a_k\rvert^2$ である。$\square$

逆向きの「$f\in L^2(\mu)$ の係数 $\langle f,e_k\rangle$ は 2 乗総和可能である」は Bessel の不等式(Besselの不等式 の記事の定理「Besselの不等式」)である。2 つを合わせると、正規直交系の係数をとる写像 $f\mapsto(\langle f,e_k\rangle)_k$ は $L^2(\mu)$ から $\ell^2$ への全射になる。同じ主張は一般の Hilbert 空間について Besselの不等式 の記事の系「係数の列と級数の収束」にあり、そこでは完備性が仮定に入っている。$L^2(\mu)$ ではその完備性を thm-rf-main が与える。正規直交系が完全なら、この写像は内積を保つ全単射になる(Hilbert空間 の記事の系「数列空間との同一視」)。

Fourier 係数

$[-\pi,\pi]$ 上の Lebesgue 測度について、$e_k(x):=\frac{e^{ikx}}{\sqrt{2\pi}}$($k\in\mathbb{Z}$)は $L^2([-\pi,\pi])$ の正規直交系である。実際 $k\ne l$ なら $\int_{-\pi}^{\pi}e^{i(k-l)x}\,dx=\Bigl[\frac{e^{i(k-l)x}}{i(k-l)}\Bigr]_{-\pi}^{\pi}=0$、$k=l$ なら積分は $2\pi$ である。$\mathbb{Z}$ を $0,1,-1,2,-2,\dots$ と並べて thm-rf-orthonormal を使うと、$\sum_{k\in\mathbb{Z}}\lvert c_k\rvert^2<\infty$ を満たす任意の複素数の列 $(c_k)$ について、$f\in L^2([-\pi,\pi])$ で
$$ \frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-ikx}\,dx=c_k\quad(k\in\mathbb{Z}),\qquad \frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\lvert f(x)\rvert^2\,dx=\sum_{k\in\mathbb{Z}}\lvert c_k\rvert^2 $$
を満たすものがある($f$ に $\sqrt{2\pi}$ 倍の調整をした)。たとえば $c_k=\frac1{\lvert k\rvert}$($k\ne0$)、$c_0=0$ は 2 乗総和可能なので、ある 2 乗可積分な関数の Fourier級数の係数になる。一方 $\sum_k\lvert c_k\rvert=\infty$ なので、この級数は絶対収束せず、各点での和として $f$ を定める方法はすぐには使えない。$L^2$ の完備性は、各点の収束を経由せずに極限の関数の存在を保証する。

例

数列の空間

$\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度では $L^p=\ell^p$ であり(Lp空間 の記事の定義「$L^p$ 空間」)、thm-rf-main は $\ell^p$($1\le p\le\infty$)が Banach 空間であることを与える。数え上げ測度の零集合は空集合だけなので、「ほとんど至るところ」は「すべての点で」になる。各座標について $\lvert x_j\rvert\le\|x\|_p$ なので、$\ell^p$ での収束は各座標の収束を導き、この場合は部分列をとる必要がない。部分列が要るのは、測度が正の集合の上で値が「薄く広がる」ことができる場合である(ex-rf-counterexamples の 1)。

有界な関数の列の有界でない極限

$(0,1)$ 上の Lebesgue 測度で、$f(x):=x^{-1/3}$ と $f_n:=\min(f,n)$ を考える。$f\in L^2$ で $\|f\|_2^2=\int_0^1x^{-2/3}dx=3$ である(Lp空間 の記事の例「冪関数が $L^p$ に入る条件」)。$\lvert f_n-f\rvert^2\le f^2$、各点で $f_n\to f$ なので、Lebesgue積分 の記事の定理「優収束定理」により $\|f_n-f\|_2\to0$ であり、$(f_n)$ は有界な関数からなる $L^2$ の Cauchy 列で、極限 $f$ は有界でない。$L^2$ の Cauchy 列の極限を有界な関数の中で探しても見つからず、可測関数全体に広げて初めて極限が手に入る。連続関数に限った場合の同じ現象が ex-rf-counterexamples の 3 である。

反例:条件を外すと何が崩れるか

thm-rf-main・thm-rf-subsequence・lem-rf-fast の条件を 1 つずつ外す。測度はすべて Lebesgue 測度で、$1\le p<\infty$ とする。

外す条件反例成り立たなくなること
部分列に移ること(各点の収束)$[0,1)$ 上の区間を動く指示関数の列 $g_n$列全体のほとんど至るところの収束
部分列に移ること(優関数)$(0,1)$ 上の $f_n=c_n1_{(1/(n+1),1/n)}$、$c_n=\bigl(\frac{n(n+1)}{\log(n+1)}\bigr)^{1/p}$列全体を 1 つの $L^p$ の関数で押さえること
関数を可測関数全体からとること$[0,1]$ 上の連続関数だけの空間に $\|\cdot\|_1$ を入れる完備性
Cauchy 列であること(隣どうしの差が $0$ に近づくだけ)$[0,1]$ 上の定数関数 $f_k=1+\frac12+\cdots+\frac1k$$L^p$ での収束
反例の確認
  1. $n=2^j+i$($0\le i<2^j$)について $g_n:=1_{[i2^{-j},(i+1)2^{-j})}$ とおく。$\|g_n\|_p=2^{-j/p}\to0$ なので $L^p$ で $g_n\to0$ だが、どの $x\in[0,1)$ でも $g_n(x)=1$ となる $n$ と $g_n(x)=0$ となる $n$ が無限個あり、$(g_n(x))$ は収束しない(Lp空間 の記事の例「反例:$L^p$ で収束するが各点では収束しない列」)。部分列 $g_{2^j}=1_{[0,2^{-j})}$ は $x>0$ で $0$ に収束し、thm-rf-subsequence のとおりである。
  2. 区間 $(\frac1{n+1},\frac1n)$ は互いに交わらず長さ $\frac1{n(n+1)}$ なので、$\|f_n\|_p^p=\frac1{\log(n+1)}\to0$ であり、各点では十分先の $f_n$ が $0$ なので $f_n\to0$ でもある。しかし、すべての $n$ でほとんど至るところ $\lvert f_n\rvert\le h$ となる $h$ は、区間ごとに見てほとんど至るところ $h\ge\sum_nf_n$ を満たし、$\int h^p\ge\sum_n\frac1{\log(n+1)}=\infty$ となる($\frac1{\log(n+1)}\ge\frac1{n}$)。列は $L^p$ でもほとんど至るところでも収束するのに、列全体は押さえられない。thm-rf-subsequence の 2 は部分列についての主張である。
  3. Banach空間 の記事の例「反例:積分のノルムでは完備でない」の連続関数の列 $g_n$ は $\|\cdot\|_1$ の Cauchy 列だが、連続関数の中に極限をもたない。$L^1([0,1])$ の中では、$[0,\frac12]$ で $0$、$(\frac12,1]$ で $1$ の関数に収束する。
  4. $\|f_{k+1}-f_k\|_p=\frac1{k+1}\to0$ だが、$\|f_k\|_p=1+\frac12+\cdots+\frac1k\to\infty$ である(調和級数)。収束する列はノルムが有界なので、$(f_k)$ は $L^p$ で収束しない。$\|f_m-f_k\|_p$ は $m\to\infty$ で $\infty$ に発散し、Cauchy 列でない。lem-rf-fast の仮定 $\sum\|f_{k+1}-f_k\|_p<\infty$ も、差が $0$ に近づくだけの条件には弱められない。

補足

名前と文献

Bre11 Theorem 4.8(pp. 93–94)は「$1\le p\le\infty$ について $L^p$ は Banach 空間である」という thm-rf-main の形で述べ(同書では Fischer–Riesz の定理と呼ぶ)、prf-rf-main と同じく、Cauchy 列から $\|f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\|_p\le2^{-k}$ となる部分列を選び、単調収束定理と優収束定理で示している。Theorem 4.9(pp. 94–95)は thm-rf-subsequence の形である。同書の第 4 章は σ-有限な測度空間と実数値の関数を前提にしているが、上の証明は σ-有限性を使わず、複素数値でも同じに成り立つ。$L^2$ と正規直交系の係数についての thm-rf-orthonormal の形も、同じ名前で呼ばれることがある(Rud76 Theorem 11.43、pp. 330–331)。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, 第 4 章冒頭(p. 89、測度空間の前提)、Theorem 4.8(pp. 93–94、Fischer–Riesz の定理)、Theorem 4.9(pp. 94–95、ほとんど至るところ収束し L^p の関数で押さえられる部分列)
[2]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976, Theorem 11.43(The Riesz-Fischer theorem、pp. 330–331)

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