Stein空間

同義語:Stein spaceシュタイン空間

概要

Stein空間(Stein space)とは、大域正則関数が十分に豊富な複素解析空間、すなわち正則凸であり、大域正則関数が相異なる点を分離し、各点で局所座標を与えるような複素解析空間のことである。$\mathbb{C}^n$、多重円板、$\mathbb{C}^n$ の閉解析的部分空間、affine 多様体の解析化がその例であり、代数幾何の affine スキームに対応する。Stein 空間上では連接層の高次コホモロジーがすべて消え(Cartan の定理 B)、閉部分空間からの正則関数の延長や Cousin 問題の解決がここから従う。一方、$\mathbb{C}^2-\{0\}$ は正則凸でなく $H^1(\mathcal{O})\ne0$ となって Stein でなく、Stein 空間の上でも連接層の帰納極限については定理 B の結論が破れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素多様体, 複素解析空間, 正則関数, , 連接層, 層コホモロジー

定義

Stein 空間は、大域的な正則関数が十分に豊富な複素解析空間である。コンパクト空間である複素多様体では正則関数が定数しかないのと対照的に、Stein 空間では大域正則関数が点を分離して局所座標を与え、連接層の高次層コホモロジーが消える(Cartan の定理 B)。代数幾何の affine 多様体(アフィン多様体)に対応する解析的な概念である。
本記事で複素解析空間とは、Hausdorff空間第2可算公理を満たし、各点の近傍が $\mathbb{C}^n$開集合 $D$ 内の有限個の正則関数の共通零点集合(零点集合)に $\mathcal{O}_D/\mathcal{J}$$\mathcal{J}$ は連接なイデアル層)を載せたものと同型な局所環付き空間をいう。$X$ 上の正則関数の層を $\mathcal{O}_X$、大域正則関数の環を $\mathcal{O}(X):=\Gamma(X,\mathcal{O}_X)$ と書く。閉解析的部分空間とは、連接なイデアル層 $\mathcal{J}\subset\mathcal{O}_X$ の零点集合 $A$$\mathcal{O}_X/\mathcal{J}$ を載せたものをいう。

正則凸包と正則凸性

$X$ を複素解析空間、$K\subset X$ をコンパクト部分集合とする。$K$ の($X$ における)正則凸包
$$ \widehat{K}_X:=\bigl\{x\in X\ \bigm|\ |f(x)|\le\sup_{K}|f|\ \text{ for all } f\in\mathcal{O}(X)\bigr\} $$
と定める。$X$正則凸(holomorphically convex)であるとは、任意のコンパクト部分集合 $K\subset X$ について $\widehat{K}_X$ がコンパクトであることをいう。

$\widehat{K}_X$閉集合 $\{x\mid |f(x)|\le\sup_K|f|\}$ の共通部分なのでつねに閉集合である。

Stein 空間

複素解析空間 $X$Stein 空間(Stein space)であるとは、次の 3 条件を満たすことをいう。

  1. (正則凸性)$X$ は正則凸である。
  2. (点の分離)相異なる 2 点 $x\ne y$ に対して、$f(x)\ne f(y)$ となる $f\in\mathcal{O}(X)$ が存在する。
  3. (局所座標)各点 $x\in X$ に対して、有限個の $f_1,\dots,f_N\in\mathcal{O}(X)$ で、$(f_1,\dots,f_N)$$x$ のある開近傍から $\mathbb{C}^N$ の開集合の閉解析的部分空間への同型を与えるものが存在する。
    $X$複素多様体であるとき、条件 3 は「各点 $x$$df_1,\dots,df_n$$n=\dim_xX$)が一次独立(線形独立)となる $f_1,\dots,f_n\in\mathcal{O}(X)$ が存在する」、すなわち大域正則関数が $x$ の近傍の局所座標を与えることと同値である。複素多様体である Stein 空間を Stein 多様体(Stein manifold)という。
定義の変種

GR79 は条件 2・3 の代わりに「各点が有限個の大域正則関数の共通零点集合の孤立点である」を課す。条件 2・3 はこれを含意し、逆は Cartan の定理 A(thm-stein-space-cartan-ab)から従うので、両者は同じ概念を定める。$\mathbb{C}^n$ の開集合については、Stein であることは正則領域(正則領域)であること、また擬凸(擬凸領域)であることと同値である(Hor90 第 II 章・第 IV 章)。

直感

正則関数は局所的には豊富にあるが、大域的にはコンパクト性や「穴」によって制限される。コンパクトな連結(連結空間)複素多様体では大域正則関数は定数だけであり、$\mathbb{C}^2$ から原点を除いた空間では大域正則関数がすべて原点まで延びてしまう。Stein 空間とは、こうした制限が起きない空間である。条件 2・3 は大域関数が点と接方向を見分けることを、条件 1 は無限遠へ向かう点列を大域関数の増大で検出できることを表す。Cartan の定理 A・B は、連接層の局所から大域への貼り合わせに障害がないことを述べる。affine スキーム(アフィンスキーム)上で準連接層の高次コホモロジーが消えることの解析版であるが、Stein 空間で消えるのは連接層に限られ、連接層の帰納極限では消えないことがある(thm-stein-space-direct-limit)。

例と反例

複素 Euclid 空間と多重円板

$\mathbb{C}^n$ は Stein 多様体である。実際、コンパクト集合 $K\subset\mathbb{C}^n$ に対し $r_i:=\sup_K|z_i|$ とおくと、座標関数 $z_i\in\mathcal{O}(\mathbb{C}^n)$ を用いて $\widehat{K}_{\mathbb{C}^n}\subset\{z\mid |z_i|\le r_i\ (1\le i\le n)\}$ であり、右辺は有界な閉集合なのでコンパクト、$\widehat{K}_{\mathbb{C}^n}$ はその閉部分集合なのでコンパクトである。点の分離と局所座標は座標関数 $z_1,\dots,z_n$ が与える。多重円板 $D=\{z\in\mathbb{C}^n\mid |z_i|< r_i\}$$0< r_i\le\infty$)も Stein 多様体である。$K\subset D$ に対し $r_i':=\sup_K|z_i|< r_i$ とおくと、同じ議論で $\widehat{K}_D\subset\{|z_i|\le r_i'\}\subset D$ であり、これはコンパクトである。

affine 多様体の解析化

$\mathbb{C}^n$ の Zariski 閉集合(Zariski位相。有限個の多項式の共通零点集合)は、多項式が正則関数なので、解析化(GAGA)すれば $\mathbb{C}^n$ の閉解析的部分空間になる。したがって prop-stein-space-closed-subspace により、affine 多様体、より一般に $\mathbb{C}$ 上有限型(有限型スキーム)の affine スキームの解析化は Stein 空間である。逆は成り立たない(Nee88)。

閉部分多様体と超曲面の補集合

Stein 空間の閉解析的部分空間は Stein である(prop-stein-space-closed-subspace)。とくに $\mathbb{C}^n$ の閉複素部分多様体は Stein 多様体であり、逆に $n$ 次元 Stein 多様体は $\mathbb{C}^{2n+1}$ に閉複素部分多様体として固有に埋め込める(Hor90 第 V 章)。また Stein 空間 $X$$\varphi\in\mathcal{O}(X)$ に対し $X_\varphi:=\{x\in X\mid\varphi(x)\ne0\}$ は Stein である(prop-stein-space-product-complement)。たとえば $\mathbb{C}^*\times\mathbb{C}$$(\mathbb{C}^*)^2$ は Stein である。連結な非コンパクト Riemann 面(Riemann面)はすべて Stein 多様体である(Behnke–Stein の定理。GR79)。

反例:コンパクトな複素多様体

正の次元の連結成分をもつコンパクトな複素多様体 $M$ は Stein でない。実際、連結成分 $M_0$ 上で $|f|$$f\in\mathcal{O}(M)$)は最大値をとり、開写像定理(開写像定理(複素解析))と一致の定理により $f$$M_0$ 上定数になるので、条件 2 が破れる。したがって射影空間 $\mathbb{P}^n(\mathbb{C})$射影空間)、射影多様体(射影多様体)の解析化、複素トーラス(複素トーラス)は Stein でない。定理 B の観点では、楕円曲線(楕円曲線$E$ について $H^1(E,\mathcal{O}_E)\cong\mathbb{C}\ne0$ であることがその表れである。

反例:原点を除いた複素 2 次元空間

$X:=\mathbb{C}^2-\{0\}$ は Stein 多様体ではない。座標関数が点を分離し局所座標を与えるので条件 2・3 は満たすが、条件 1(正則凸性)が破れ、同時に定理 B の結論 $H^1(X,\mathcal{O}_X)=0$ も破れる(prop-stein-space-c2-minus-origin)。超曲面(超曲面$\{\varphi=0\}$ を除いても Stein 性は保たれるが、複素多様体から余次元 $2$ 以上の空でない解析的集合(解析的集合)を除くと、Hartogs 型の拡張定理(Hartogsの拡張定理)によりすべての正則関数が延びるので、prop-stein-space-c2-minus-origin の 2 と同じ理由で正則凸性が壊れる(Hor90 第 II 章)。

原点を除いた $\mathbb{C}^2$ の正則関数と第 1 コホモロジー

$X:=\mathbb{C}^2-\{0\}$ とする。

  1. $X$ 上の任意の正則関数は $\mathbb{C}^2$ 上の正則関数に一意に延びる。
  2. $X$ は正則凸でない。
  3. $H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は無限次元であり、とくに $0$ でない。

1:$f\in\mathcal{O}(X)$ とする。$|z_1|<1$ と任意の $z_2$ に対し
$$ F(z_1,z_2):=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|\zeta|=1}\frac{f(\zeta,z_2)}{\zeta-z_1}\,d\zeta $$
とおく。積分路上の点 $(\zeta,z_2)$ は原点でないので、$F$$\{|z_1|<1\}\times\mathbb{C}$ 上正則である。$z_2\ne0$ なら $\zeta\mapsto f(\zeta,z_2)$ は円板 $|\zeta|\le1$ の近傍で正則なので、Cauchy の積分公式(Cauchyの積分公式)により $F(z_1,z_2)=f(z_1,z_2)$$|z_1|<1$)である。よって $F$$f$$X\cap(\{|z_1|<1\}\times\mathbb{C})$ の稠密(稠密)な部分集合 $\{z_2\ne0\}$ で一致し、連続性により全体で一致する。ゆえに $F$$X$ 上の $f$ と貼り合わせたものが $f$$\mathbb{C}^2$ への延長を与え、一意性は一致の定理による。
2:$K:=\{\|z\|=1\}$ とし、$f\in\mathcal{O}(X)$ の延長を $F$ とする。閉単位球上で最大値原理(最大値原理)により $|F(z)|\le\sup_K|f|$$\|z\|\le1$)なので、$\widehat{K}_X\supset\{z\in X\mid\|z\|\le1\}$ である。右辺は $X$ の閉集合だが、点列 $(1/m,0)$$X$ に集積点(集積点)をもたないのでコンパクトでなく、ゆえに $\widehat{K}_X$ もコンパクトでない。
3:$U_1:=\{z_1\ne0\}$$U_2:=\{z_2\ne0\}$ とおくと $X=U_1\cup U_2$ であり、$U_1\cong\mathbb{C}^*\times\mathbb{C}$$U_2\cong\mathbb{C}\times\mathbb{C}^*$$U_1\cap U_2=(\mathbb{C}^*)^2$ はいずれも Stein である(ex-stein-space-subvariety)。定理 B(thm-stein-space-cartan-ab)によりこれらの上で $\mathcal{O}$ の高次コホモロジーは消えるので、Leray の定理(Čechコホモロジー)により $H^1(X,\mathcal{O}_X)$ は被覆 $\{U_1,U_2\}$ の Čech コホモロジー
$$ \mathcal{O}(U_1\cap U_2)\big/\{\,g-h\mid g\in\mathcal{O}(U_1),\ h\in\mathcal{O}(U_2)\,\} $$
に等しい。Laurent展開により $\mathcal{O}(U_1\cap U_2)$ の元は $\sum_{(a,b)\in\mathbb{Z}^2}c_{ab}z_1^az_2^b$ の形に一意に展開され、$\mathcal{O}(U_1)$ の元の展開は $b\ge0$ の項だけ、$\mathcal{O}(U_2)$ の元の展開は $a\ge0$ の項だけをもつ(正則な変数の負冪の係数は Cauchy の積分公式により $0$ である)。ゆえに $g-h$ の展開に $a<0$ かつ $b<0$ の項は現れず、$z_1^{-a}z_2^{-b}$$a,b\ge1$)の類は展開の一意性により $H^1(X,\mathcal{O}_X)$ の中で一次独立である。$\square$

可算個の構造層の直和の第 1 コホモロジー

$\mathcal{O}$ を複素平面 $\mathbb{C}$ の正則関数の層とし、$\mathcal{F}:=\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O}$ を可算個の直和(直和)とする。$\mathcal{F}$ は連接層 $\mathcal{O}^{\oplus M}$$M\ge1$)の帰納極限(帰納極限)であるが、$H^1(\mathbb{C},\mathcal{F})\ne0$ である。

準備:開集合 $V\subset\mathbb{C}$ 上の直積(直積$\prod_m\mathcal{O}$ の切断は正則関数の任意の列 $(s_m)_{m\ge1}$ であり、$\bigoplus_m\mathcal{O}$ の切断はそのうち局所有限(局所有限)なもの、すなわち各点の近傍で有限個を除くすべての $s_m$ が恒等的に $0$ になるものである。$V$ が連結なら、一致の定理により、局所有限な列とは有限個を除いて恒等的に $0$ の列にほかならない。包含 $\bigoplus\mathcal{O}\to\prod\mathcal{O}$ の余核を $\mathcal{P}$ とおくと、短完全列(短完全列$0\to\bigoplus\mathcal{O}\to\prod\mathcal{O}\to\mathcal{P}\to0$ の長完全列(長完全列)の一部
$$ \prod_m\mathcal{O}(\mathbb{C})=\Gamma\bigl(\mathbb{C},\prod\mathcal{O}\bigr)\to\Gamma(\mathbb{C},\mathcal{P})\xrightarrow{\ \delta\ }H^1\bigl(\mathbb{C},\bigoplus\mathcal{O}\bigr) $$
は完全なので、左の写像の像に入らない $\sigma\in\Gamma(\mathbb{C},\mathcal{P})$ を作れば $\delta(\sigma)\ne0$ である。
$\sigma$ の構成:$k\ge1$ に対し $D_k:=\{|z|< k\}$ とし、$D_k$ 上の列 $t^{(k)}$$t^{(k)}_m:=1/(z-m)$$m>k$)、$t^{(k)}_m:=0$$m\le k$)で定める。$m>k$ なら $z=m$$D_k$ の外なので $t^{(k)}\in\Gamma(D_k,\prod\mathcal{O})$ である。$k< k'$ のとき $D_k$ 上で $t^{(k)}-t^{(k')}$ の成分は $k< m\le k'$ の有限個以外 $0$ なので $\Gamma(D_k,\bigoplus\mathcal{O})$ に属し、$t^{(k)}$$t^{(k')}|_{D_k}$$\Gamma(D_k,\mathcal{P})$ で同じ類を定める。層の貼り合わせの公理により、$D_k$ への制限が $t^{(k)}$ の類になる $\sigma\in\Gamma(\mathbb{C},\mathcal{P})$ が存在する。
$\sigma$ が持ち上がらないこと:整関数(整関数)の列 $(F_m)_m$ の類が $\sigma$ に等しいと仮定する。各 $k$$(F_m|_{D_k}-t^{(k)}_m)_m$ の類は $\Gamma(D_k,\mathcal{P})$$0$ なので、この列は $\Gamma(D_k,\bigoplus\mathcal{O})$ の元、すなわち $D_k$ 上で局所有限な列である。$D_k$ は連結なので、有限個の $m$ を除いて $D_k$$F_m=t^{(k)}_m$ である。$k=1$ をとると、十分大きいすべての $m$ について $D_1$$F_m(z)=1/(z-m)$ であり、一致の定理により $\mathbb{C}-\{m\}$ 上でも $F_m(z)=1/(z-m)$ となる。左辺は $z\to m$ で有界、右辺は非有界であり矛盾する。$\square$

$\mathbb{C}$ は Stein であり各 $\mathcal{O}^{\oplus M}$ は連接なので、定理 B により $H^1(\mathbb{C},\mathcal{O}^{\oplus M})=0$ であるが、帰納極限 $\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O}$$H^1$ は消えない。$\mathbb{C}$ がコンパクトでないためコホモロジーが帰納極限と可換でないのであり、Noether スキーム(Noether環)上で準連接層(準連接層)のコホモロジーが帰納極限と可換であることと対照的である。

連接層の帰納極限に対する定理 B の破れ

$X:=\mathbb{C}^2$$Y:=\{z_1=0\}$$i\colon Y\to X$ を包含とする。$Y$ に沿って極をもつ有理型関数(有理型関数)の層 $\mathcal{O}_X(*Y):=\varinjlim_nz_1^{-n}\mathcal{O}_X$(切断は局所的に $g/z_1^N$$g$ 正則、と書ける関数)は連接層 $z_1^{-n}\mathcal{O}_X\cong\mathcal{O}_X$ の帰納極限であるが、
$$ H^1\bigl(\mathbb{C}^2,\mathcal{O}_X(*Y)\bigr)\cong H^1\bigl(\mathbb{C},\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O}\bigr)\ne0 $$
である。

段 1(商層):$\mathcal{Q}:=\mathcal{O}_X(*Y)/\mathcal{O}_X$ とおく。$Y$ の外では $\mathcal{O}_X(*Y)=\mathcal{O}_X$ なので $\mathcal{Q}$$Y$ に台をもつ。$Y$ の点の近傍で正則な $g$$z_1$ について $g=\sum_{j\ge0}g_j(z_2)z_1^j$$g_j$$Y\cong\mathbb{C}$ の開集合上の正則関数)と展開し、$g/z_1^N$ に主要部
$$ P\Bigl(\frac{g}{z_1^N}\Bigr):=\sum_{m=1}^{N}g_{N-m}(z_2)\,z_1^{-m} $$
を対応させる。$g/z_1^N=g'/z_1^{N'}$ なら $gz_1^{N'}=g'z_1^{N}$ で、両辺の展開係数を比べれば主要部は一致するので $P$ は表示に依らない。係数列 $(g_{N-m})_{1\le m\le N}$$m>N$$0$ として延ばせば、$P$ は層の準同型 $P\colon\mathcal{O}_X(*Y)\to i_*(\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O}_Y)$ を与える(切断は局所的に $g/z_1^N$ と書けるので係数列は局所有限である)。$P(g/z_1^N)=0$ となるのは $g_0=\dots=g_{N-1}=0$、すなわち $g/z_1^N$ が正則なときに限るので $\ker P=\mathcal{O}_X$ である。また $y\in Y$ での $i_*(\bigoplus\mathcal{O}_Y)$ の茎()の元は有限列 $(h_1,\dots,h_M)$ であり、$g:=\sum_{m=1}^{M}h_m(z_2)z_1^{M-m}$ とおけば $P(g/z_1^M)=(h_1,\dots,h_M)$ なので $P$ は茎の上で全射である。ゆえに $\mathcal{Q}\cong i_*(\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O}_Y)$ である。
段 2(順像):$i$ は閉埋め込み(閉埋め込み)なので $i_*$ は茎の上で見て完全関手(完全関手)であり、flasque 層(flasque層)を flasque 層に送り、$\Gamma(X,i_*\mathcal{A})=\Gamma(Y,\mathcal{A})$ を満たす。よって $\mathcal{A}$ の flasque 分解を $i_*$ で送れば $i_*\mathcal{A}$ の flasque 分解になり、$H^q(X,i_*\mathcal{A})\cong H^q(Y,\mathcal{A})$ である。
段 3(長完全列):$0\to\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X(*Y)\to\mathcal{Q}\to0$ の長完全列 $H^1(X,\mathcal{O}_X)\to H^1(X,\mathcal{O}_X(*Y))\to H^1(X,\mathcal{Q})\to H^2(X,\mathcal{O}_X)$ の両端は、$\mathbb{C}^2$ が Stein で $\mathcal{O}_X$ が連接なので定理 B により $0$ である。よって $H^1(X,\mathcal{O}_X(*Y))\cong H^1(X,\mathcal{Q})\cong H^1(\mathbb{C},\bigoplus_{m\ge1}\mathcal{O})$ であり、これは lem-stein-space-direct-sum により $0$ でない。$\square$

Grothendieck の de Rham 論文の Corollary b) との関係

Grothendieck の論文 Gro66 は、代数的 de Rham コホモロジー(de Rhamコホモロジー)の比較定理の系の場合 b) として、$X$ が Stein 空間、$Y$ がその超曲面のとき $H^p(X,\Omega^q_X(*Y))=0$$p>0$)が成り立つと述べ、正則凸コンパクト集合上の消滅から $X$ 全体の消滅を導く。thm-stein-space-direct-limit$q=0$$p=1$$X=\mathbb{C}^2$ でこの主張が偽であることを示す。正則凸コンパクト集合上の消滅は正しく、破れるのは尽くし列で各段の消滅を貼り合わせる部分で、Milnor の完全列の $\varprojlim^1$ の項(射影極限Mittag-Leffler条件)が連接層なら Runge 型の近似(Rungeの定理)で消えるのに対し $\mathcal{O}_X(*Y)$ では消えない。$\dim X=1$ では商層が flasque になるため消滅は成り立つ。この破れは Gro66 の主定理(比較定理)には影響しない。

性質

Cartan の定理 A・B

$X$ を Stein 空間、$\mathcal{F}$$X$ 上の連接層とする。

  • 定理 A:任意の点 $x\in X$ について、茎 $\mathcal{F}_x$ は大域切断 $\Gamma(X,\mathcal{F})$ の像によって $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群(加群)として生成される。
  • 定理 B:$H^q(X,\mathcal{F})=0$$q\ge1$)。
    逆に、複素解析空間 $X$ 上のすべての連接イデアル層 $\mathcal{J}$ について $H^1(X,\mathcal{J})=0$ ならば、$X$ は Stein 空間である。
Cartan の定理の出典

定理 A・B は Cartan と Serre により 1951–52 年の Cartan セミナーで確立された(Car53)。証明は教科書レベルを超えるので述べない。完全な証明は GR79 第 IV 章、GuR65 第 VIII 章、Stein 多様体については Hor90 第 VII 章にあり、逆(Serre の判定法)は GR79 第 V 章にある。

閉解析的部分空間からの正則関数の延長

$X$ を Stein 空間、$A\subset X$ を閉解析的部分空間とすると、制限写像 $\mathcal{O}(X)\to\mathcal{O}(A)$ は全射である。とくに、離散閉部分集合の各点で任意に指定した値をとる大域正則関数が存在する。

$A$ を定める連接イデアル層を $\mathcal{J}$、包含を $j\colon A\to X$ とすると、層の短完全列 $0\to\mathcal{J}\to\mathcal{O}_X\to j_*\mathcal{O}_A\to0$ がある。長完全列 $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)\to\Gamma(X,j_*\mathcal{O}_A)\to H^1(X,\mathcal{J})$ において $\Gamma(X,j_*\mathcal{O}_A)=\mathcal{O}(A)$ であり、$\mathcal{J}$ は連接なので定理 B により $H^1(X,\mathcal{J})=0$ である。ゆえに制限写像は全射である。離散閉部分集合は被約(被約)な閉解析的部分空間であり、その上の正則関数は各点での値の指定にほかならない。$\square$

同様に $H^1(X,\mathcal{O}_X)=0$ から、Stein 空間上では加法的 Cousin 問題(Cousin問題)がつねに解ける。

閉解析的部分空間は Stein である

$X$ を Stein 空間、$A\subset X$ を閉解析的部分空間とする。このとき $A$ は Stein 空間である。

$A$ は複素解析空間であり、$X$ 上の大域正則関数の制限 $f|_A$$A$ 上の大域正則関数である。正則凸性:$K\subset A$ をコンパクト集合とする。$x\in\widehat{K}_A$ なら任意の $f\in\mathcal{O}(X)$ について $|f(x)|\le\sup_K|f|_A|=\sup_K|f|$ なので $x\in\widehat{K}_X$ であり、$\widehat{K}_A\subset\widehat{K}_X\cap A$ である。$\widehat{K}_X$ はコンパクト、$A$ は閉なので右辺はコンパクト、$\widehat{K}_A$ はその閉部分集合なのでコンパクトである。点の分離:$x\ne y\in A$ を分離する $f\in\mathcal{O}(X)$ の制限 $f|_A$ が分離する。局所座標:$x\in A$ に対し、$X$ の条件 3 の $f_1,\dots,f_N$$x$ の開近傍 $W$ から $\mathbb{C}^N$ の開集合 $D$ の閉解析的部分空間への同型を与え、$A\cap W$$W$ の閉解析的部分空間なので、その像は $D$ の閉解析的部分空間である。$\square$

直積と正則関数の非零集合
  1. $X$$Y$ が Stein 空間ならば直積 $X\times Y$ は Stein 空間である。
  2. $X$ が Stein 空間、$\varphi\in\mathcal{O}(X)$ ならば $X_\varphi:=\{x\in X\mid\varphi(x)\ne0\}$ は Stein 空間である。

1:射影を $p$$q$ とする。コンパクト集合 $K\subset X\times Y$$f\in\mathcal{O}(X)$$g\in\mathcal{O}(Y)$ について $f\circ p$$g\circ q$ は正則なので、$(x,y)\in\widehat{K}_{X\times Y}$ なら $|f(x)|\le\sup_{p(K)}|f|$$|g(y)|\le\sup_{q(K)}|g|$、すなわち $\widehat{K}_{X\times Y}\subset\widehat{p(K)}_X\times\widehat{q(K)}_Y$ である。右辺はコンパクトなので閉部分集合 $\widehat{K}_{X\times Y}$ もコンパクトである。点の分離は $f\circ p$ または $g\circ q$ で行い、局所座標は $x$ の近傍と $y$ の近傍の閉埋め込みの直積が与える。
2:$\Gamma:=\{(x,t)\in X\times\mathbb{C}\mid t\varphi(x)=1\}$ は正則関数 $t\varphi-1$ の零点集合なので $X\times\mathbb{C}$ の閉解析的部分空間である。正則写像(正則写像$x\mapsto(x,1/\varphi(x))$ は射影 $\Gamma\to X_\varphi$ を逆にもつので $X_\varphi\cong\Gamma$ である。$\mathbb{C}$ は Stein(ex-stein-space-cn-polydisc)なので 1 により $X\times\mathbb{C}$ は Stein であり、prop-stein-space-closed-subspace により $\Gamma\cong X_\varphi$ は Stein である。$\square$

補足

$n$ 次元 Stein 多様体 $X$ では、正則 $p$ 形式(微分形式)の層 $\Omega^p_X$ が連接なので Dolbeault コホモロジー(Dolbeaultコホモロジー$H^q(X,\Omega^p_X)$$q\ge1$ で消え、正則 Poincaré の補題(Poincaréの補題)と超コホモロジー(超コホモロジー)により $H^q(X,\mathbb{C})$$\Gamma(X,\Omega^\bullet_X)$ のコホモロジーに等しく、$q>n$ で消える。
代数幾何との対応(GAGA)のもとで Stein 空間は affine スキームに対応し、affine スキーム上で準連接層の高次コホモロジーが消える Serre の定理と定理 B が対応する。ただし、代数多様体の解析化が Stein でも affine とは限らず(Nee88)、affine スキーム上では連接層の帰納極限についてもコホモロジーが消えるのに対し Stein 空間上では消えないことがあり(thm-stein-space-direct-limit)、$\mathcal{O}(X)$ は一般に Noether 環でない。本記事の記述はおおむね GR79GuR65Hor90、連接層の一般論について GR84 に従う。

関連項目

参考文献

[1]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Theory of Stein Spaces, Springer, 1979, 第 IV 章(Stein 空間と定理 A・B)、第 V 章(応用)
[3]
Lars Hörmander, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables, North-Holland, 1990, 第 II 章(正則領域・Hartogs の拡張)、第 IV 章(Levi 問題)、第 V 章(Stein 多様体と埋め込み)、第 VII 章(連接層と定理 B)
[6]
Henri Cartan, Variétés analytiques complexes et cohomologie, Colloque sur les fonctions de plusieurs variables (Bruxelles, 1953), Georges Thone, Liège; Masson, Paris, 1953, 41–55
[7]
Amnon Neeman, Steins, affines and Hilbert's fourteenth problem, Annals of Mathematics, 1988, 229–244

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