Poincaré–Bendixsonの定理(Poincaré–Bendixson theorem)とは、平面の開集合 $U$ 上の $C^1$ 級の自励系 $x'=F(x)$ で、前向きの半軌道が $U$ のコンパクト集合に含まれ、その $\omega$ 極限集合が平衡点を含まなければ、$\omega$ 極限集合は周期軌道であるという定理である。証明の要は、Jordan 曲線定理から、軌道が横断する線分を単調な順序でしか横切れないことである。系として、平衡点を含まないコンパクトな正の不変集合は周期軌道を含む。平面でない相空間では成り立たず、トーラス上の無理数の傾きの流れが反例になる。
前提知識: 常微分方程式, 力学系, Jordan曲線定理
平面の自励系 $x'=F(x)$ の解を長い時間追うと、何が起こりうるだろうか。平衡点(動かない点)に近づくもの、周期的に回り続けるもの、周期的な軌道に巻きついていくものはすぐに思いつく。Poincaré–Bendixson の定理 は、平面ではほぼこれで尽きることを述べる。有界な範囲にとどまる解の行き着く先($\omega$ 極限集合)は、平衡点を含まなければ周期軌道である。
この定理の要は、平面の閉曲線が平面を内と外に分けるという Jordan曲線定理 である。軌道が自分自身と交わらないことと合わせると、軌道は横断する線分を単調な順序でしか横切れない。3 次元以上やトーラスの上ではこれが成り立たず、軌道はいつまでも周期的にならずに稠密に広がることがある(ex-pb-table)。
この記事では、$\omega$ 極限集合の基本性質、横断線分を横切る点の単調性、主定理を証明し、その系として捕捉領域があれば周期軌道があることを導く。さらに、周期軌道がないことを示す Bendixson–Dulac の判定法を証明し、例と、仮定を外すと成り立たない例を挙げる。
この記事を通して、$U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合、$F\colon U\to\mathbb{R}^2$ を $C^1$ 級の写像とし、自励系
$$
x'=F(x)
$$
を考える。$F$ は局所 Lipschitz 条件を満たすので、各 $x\in U$ について初期値 $x$ の最大解がただ 1 つあり(常微分方程式 の定理「最大解の存在と一意性」)、その時刻 $t$ での値を $\varphi(t,x)$ と書く。$\varphi$ の定義域は $\mathbb{R}\times U$ の開集合で、$\varphi$ はそこで連続であり(初期値への滑らかな依存性 の定理「初期値への滑らかな依存性」)、$\varphi(s+t,x)=\varphi(s,\varphi(t,x))$ を満たす。$\gamma(x):=\{\varphi(t,x)\}$ を $x$ の 軌道、$\gamma^+(x):=\{\varphi(t,x)\mid t\ge0\}$ を 前向きの半軌道 という。
$F(p)=0$ となる点 $p$ を 平衡点、そうでない点を 正則点 という。正則点 $x$ で、ある $T>0$ について $\varphi(T,x)=x$ となるものを 周期点 といい、その軌道を 周期軌道 という。そのような $T$ の最小値 $T_0$(最小周期)について $t\mapsto\varphi(t,x)$ は $[0,T_0)$ で単射なので、周期軌道は Jordan 曲線である(Jordan曲線定理 の定義の直後の注意)。
$x\in U$ の最大解が $[0,\infty)$ で定義されるとき、
$$
\omega(x):=\{y\in U\mid t_k\to\infty\text{ となる列 }t_k\text{ があって }\varphi(t_k,x)\to y\}
$$
を $x$ の $\omega$ 極限集合 という。時間を逆にして $t_k\to-\infty$ としたものを $\alpha$ 極限集合 $\alpha(x)$ という。
周期軌道 $\Gamma$ が、$\Gamma$ 上にない点 $x$ について $\Gamma=\omega(x)$ または $\Gamma=\alpha(x)$ となるとき、$\Gamma$ を 極限周期軌道(リミットサイクル)という。
$\omega(x)$ は $x$ の軌道だけで決まる($y=\varphi(s,x)$ なら $\varphi(t_k,y)=\varphi(t_k+s,x)$)。$x$ が周期点なら $\omega(x)=\gamma(x)$、平衡点なら $\omega(x)=\{x\}$ である。
$x\in U$ とし、$\gamma^+(x)$ がコンパクト集合 $K\subset U$ に含まれるとする。このとき次が成り立つ。
要点:$A_T:=\overline{\{\varphi(t,x)\mid t\ge T\}}$ とおくと $\omega(x)=\bigcap_{T\ge0}A_T$ であり、コンパクトで連結な集合の減少列の共通部分は空でなくコンパクトで連結である。
1:解は $K$ にとどまるので、常微分方程式 の定理「爆発の二者択一」により $[0,\infty)$ で定義される。$y\in\bigcap_TA_T$ なら、各 $k$ について $t_k\ge k$ と $\lvert\varphi(t_k,x)-y\rvert<\frac1k$ を満たす $t_k$ があるので $y\in\omega(x)$ であり、逆も定義から明らかである。$A_T$ は $K$ に含まれる空でないコンパクト集合で、連結集合 $[T,\infty)$ の連続像の閉包なので連結であり、$T$ について減少する。有限交叉性から共通部分は空でなくコンパクトである。連結でないとすると、$\omega(x)=P\cup Q$($P,Q$ は空でない互いに素な閉集合)と書け、$P,Q$ を含む互いに素な開集合 $V,W$ がとれる。コンパクト集合 $A_T\setminus(V\cup W)$ は減少し共通部分が空なので、ある $T$ で空になり、$A_T\subset V\cup W$ となる。$A_T$ は $P$ と $Q$ の両方と交わるので $V$ とも $W$ とも交わり、連結性に反する。
2:$\varphi(t_k,x)\to y$、$t_k\to\infty$ とする。$y$ の最大解の存在区間の $s$ について、$\varphi$ の連続性から $\varphi(t_k+s,x)=\varphi(s,\varphi(t_k,x))\to\varphi(s,y)$ なので、$\varphi(s,y)\in\omega(x)\subset K$ である。$y$ の解はコンパクト集合 $K$ にとどまるので、爆発の二者択一により両方向に $\mathbb{R}$ 全体で定義される。
3:そうでないとすると、$\varepsilon>0$ と $\tau_k\to\infty$ で、$\varphi(\tau_k,x)$ と $\omega(x)$ の距離が $\varepsilon$ 以上のものがある。$K$ はコンパクトなので部分列が収束し、その極限は定義から $\omega(x)$ に属する。これは矛盾である。$\square$
1・2 は Tes12 Lemma 6.5・Lemma 6.6(pp. 193–194)、3 は Lemma 6.7(p. 194)にある。2 から $\omega(x)$ は軌道の和集合であり、$y\in\omega(x)$ なら $\omega(y)\subset\omega(x)$ である($\omega(x)$ は閉集合で $\varphi(t,y)$ を含む)。
$p\in U$、単位ベクトル $v$、$\ell>0$ について、線分 $\Sigma=\{p+sv\mid\lvert s\rvert\le\ell\}$ が $U$ に含まれ、$v$ に直交する単位ベクトル $n$ について、すべての $q\in\Sigma$ で $n\cdot F(q)\ne0$ となるとき、$\Sigma$ を 横断線分 という。$\lvert s\rvert<\ell$ の点を $\Sigma$ の内点という。
$\Sigma$ は連結なので、中間値の定理により $n\cdot F$ は $\Sigma$ の上で一定の符号をもつ。$n$ の向きを選んで $n\cdot F>0$ としておく。つまり $F$ は $\Sigma$ の上でいつも同じ側を向いている。$\Sigma$ の点はどれも正則点である。逆に、正則点 $p$ を通り $F(p)$ に直交する十分短い線分は、$F$ の連続性から横断線分になる。$\Sigma$ を含む直線を $L$ とし、$H(z):=n\cdot(z-p)$ とおく($L$ からの符号つきの距離)。
$\Sigma$ を横断線分とする。
要点:$n\cdot F>0$ となる $\Sigma$ の近傍 $N$ の中では、$\frac{d}{dt}H(\varphi(t,x))=n\cdot F(\varphi(t,x))>0$ なので $H$ は軌道に沿って狭義に増加する。
$N:=\{z\in U\mid n\cdot F(z)>0\}$ は $\Sigma$ を含む開集合である。1:$\varphi(t^*,x)\in\Sigma$ なら、連続性から $t^*$ の近くの $t$ で $\varphi(t,x)\in N$ であり、そこで $t\mapsto H(\varphi(t,x))$ は狭義に増加し $t^*$ で $0$ になる。よって $t^*$ の近くのほかの時刻では軌道は $L$ の上になく、符号は主張のとおりである。
2:$r>0$ を、閉円板 $\overline B(y_0,r)$ が $N$ に含まれ、$L$ の点で $y_0$ からの距離が $r$ 未満のものがすべて $\Sigma$ に属するようにとる($y_0$ は内点)。$\sigma_0>0$ を、$\lvert s\rvert\le\sigma_0$ で $\lvert\varphi(s,y_0)-y_0\rvert<\frac r2$ となるようにとる。$0<\sigma\le\sigma_0$ を任意にとる。1 と同じ理由で $H(\varphi(\sigma,y_0))>0>H(\varphi(-\sigma,y_0))$ である。$\varphi$ の定義域は開集合で $\varphi$ は連続なので、コンパクト集合 $[-\sigma_0,\sigma_0]\times\{y_0\}$ の近くで一様に連続であり、十分大きい $k$ について $\varphi(s,z_k)$ は $\lvert s\rvert\le\sigma_0$ で定義されて $\lvert\varphi(s,z_k)-\varphi(s,y_0)\rvert<\frac r2$ を満たし、$H(\varphi(\pm\sigma,z_k))$ は $H(\varphi(\pm\sigma,y_0))$ と同じ符号をもつ。中間値の定理により $H(\varphi(s_k,z_k))=0$ となる $s_k\in(-\sigma,\sigma)$ があり、$\varphi(s_k,z_k)$ は $y_0$ からの距離が $r$ 未満の $L$ の点なので $\Sigma$ に属する。$\sigma$ は任意なので $s_k\to0$ ととれる。$\square$
1 から、軌道が $\Sigma$ と交わる時刻の集合は閉じていて離散的なので、時刻の順に並べられる。2 は、$\Sigma$ の内点の近くを通る軌道は、少し時間をずらせば $\Sigma$ を実際に横切ることを表す(Tes12 Lemma 6.9、p. 197 と同じ内容を、陰関数定理を使わずに示した)。
平面に特有の事実は次の補題である。$\Sigma$ の点には、パラメータ $s$ による順序を入れる。
$\Sigma$ を横断線分とする。
要点:相続く 2 つの交点 $x_0\ne x_1$ を軌道の弧と $\Sigma$ の線分で結ぶと Jordan 曲線 $J$ ができる。$F$ は線分の上で $J$ の内外の一方 $C^+$ だけを向くので、軌道は $x_1$ のあと $C^+$ に入り、軌道の弧に戻らない限り出られない。一方、$\Sigma$ の $x_0$ の外側の部分はもう一方の成分にある。
$x$ は平衡点でないとし、$t_0< t_1$ を $\Sigma$ と交わる相続く時刻、$x_0:=\varphi(t_0,x)\ne x_1:=\varphi(t_1,x)$ とする。$\alpha:=\varphi([t_0,t_1],x)$、$S$ を $\Sigma$ の $x_0$ と $x_1$ を結ぶ部分、$S^\circ:=S\setminus\{x_0,x_1\}$ とし、$N$ は prf-pb-local のものとする。
段 1($J:=\alpha\cup S$ は Jordan 曲線).$\varphi(t,x)=\varphi(t',x)$($t_0\le t< t'\le t_1$)なら $x$ は周期点で、最小周期 $T_0\le t_1-t_0$ について $\varphi(t_0+T_0,x)=x_0\in\Sigma$ である。$(t_0,t_1)$ に交わる時刻はないので $t_0+T_0=t_1$、$x_1=x_0$ となり矛盾する。よって $\alpha$ は単純な弧で、$\Sigma$ とは $x_0,x_1$ だけで交わる。$J$ は円周からの連続な単射の像なので Jordan 曲線である。$\mathbb{R}^2\setminus J$ の 2 つの成分を考える。
段 2(線分の両側).$p\in S^\circ$ に対し、$\alpha$ と交わらず、$L$ との交わりが $S^\circ$ に含まれる小さい円板 $B_p$ をとる。$B_p\setminus J$ は 2 つの開いた半円板 $B_p^+$($H>0$)と $B_p^-$($H<0$)からなり、それぞれ連結なので一方の成分に含まれる。Jordan曲線定理 により $p$ は両方の成分の境界の点なので、$B_p^+$ と $B_p^-$ は別の成分に含まれる。近い 2 点の円板の $+$ の側どうしは交わるので、$S^\circ$ の連結性から、すべての $B_p^+$ を含む成分 $C^+$ と、すべての $B_p^-$ を含む成分 $C^-$ がある。$\overline{C^+}\subset C^+\cup J$ である。
段 3($t_1$ の直後は $C^+$).$\delta>0$ を小さくとり、$\lvert t-t_1\rvert\le\delta$ と $\lvert t-t_0\rvert\le\delta$ で $\varphi(t,x)\in N$ とする。$\alpha_1:=\varphi([t_0,t_1-\delta],x)$ は $x_1$ を含まないコンパクト集合で、$x_1$ からの距離 $d>0$ をもつ。$\alpha\setminus\alpha_1$ の点は $H\le0$ を満たす。$\tau>0$ を小さく、$p\in S^\circ$ を $x_1$ に近くとると、$0<\sigma\le\tau$ で $\varphi(\sigma,p)\in N$、$H(\varphi(\sigma,p))>0$、$\lvert\varphi(\sigma,p)-x_1\rvert< d$ なので、$\varphi(\sigma,p)\notin J$ である。$\sigma$ が小さいと $\varphi(\sigma,p)\in B_p^+$ なので、連結性から $\varphi(\tau,p)\in C^+$ である。$p\to x_1$ として $\varphi(t_1+\tau,x)\in\overline{C^+}$ を得る。この点は同じ理由で $J$ にないので $C^+$ に属する。
段 4($C^+$ から出られない).$t^*>t_1$ を、$t_1$ より後で初めて $\varphi(t^*,x)\in J$ となる時刻とする(あれば)。$(t_1,t^*)$ では軌道は $C^+$ にある。$q:=\varphi(t^*,x)\in S^\circ$ なら、lem-pb-local の 1 により $t^*$ の直前の点は $H<0$ で $q$ に近く、$B_q^-\subset C^-$ に入るので矛盾する。よって $q\in\alpha$ であり、$x$ は周期点である。
段 5($x_0$ の外側は $C^-$).$\Sigma_0$ を、$\Sigma$ のうち $x_0$ に関して $x_1$ と反対側の点($x_0$ を除く)の集合とする。$\Sigma_0$ は $J$ と交わらず連結なので、一方の成分に含まれる。$\varphi([t_0+\delta,t_1],x)$ と交わらない $x_0$ の小さい円板 $B_0$ をとると、$J\cap B_0$ は $S$ の部分と $H>0$ の部分に含まれるので、開いた半円板 $B_0^-$($H<0$)は $J$ と交わらず、$x_0$ に近い $p\in S^\circ$ の $B_p^-$ と交わるから $C^-$ に含まれる。$\Sigma_0$ の $x_0$ に近い点は $B_0^-$ の点の極限で $J$ にないので、$\Sigma_0\subset C^-$ である。
2 の証明:$x$ は周期点でないので、交点はすべて異なる($x_i=x_j$ なら周期点)。段 4 より $t>t_1$ で軌道は $C^+$ にあり、$x_2\in C^+$ である。$x_2\notin S\subset J$、$x_2\notin\Sigma_0\subset C^-$ なので、$x_2$ は $x_1$ に関して $x_0$ と反対側にある。
1 の証明:周期軌道 $\gamma(x)$(最小周期 $T$)が $\Sigma$ と 2 点以上で交わるとする。1 周期の間の交わる時刻は有限個なので、相続く時刻 $t_0< t_1$ で $x_0\ne x_1$ となるものがある。段 1 と同じ理由で $t_0+T>t_1$ であり、$\varphi(t_0+T,x)=x_0\in J$ なので、段 4 の $t^*$ は $t_0+T$ 以下にあり、$\varphi(t^*,x)=\varphi(t',x)$($t'\in[t_0,t_1]$)と $0< t^*-t'\le T$ から $t^*=t'+T$、よって $t'=t_0$、$t^*=t_0+T$ である。$t^*$ の直前の点 $\varphi(t,x)=\varphi(t-T,x)$ は $H<0$ で $x_0$ に近いので $B_0^-\subset C^-$ にあるが、$(t_1,t^*)$ の点として $C^+$ にもあり、矛盾する。$\square$
この補題と証明の方針は Tes12 Lemma 7.9(p. 221)による。そこでは $\Sigma$ は曲がった弧でもよいが、この記事では線分に限った。
$\Sigma$ を横断線分とし、$x$ の最大解が $[0,\infty)$ で定義されるとすると、$\omega(x)\cap\Sigma$ は高々 1 点である。
要点:$\omega(x)\cap\Sigma$ の 2 点に、交わる点の列の部分列がそれぞれ収束するが、交わる点の列は単調なので極限は 1 つしかない。
$x$ が平衡点なら $\omega(x)=\{x\}$、周期点なら $\omega(x)=\gamma(x)$ なので lem-pb-monotone の 1 による。そうでないとし、$y_1,y_2\in\omega(x)\cap\Sigma$ とする。横断性は開条件なので、$\Sigma$ を両端で少し延ばした横断線分 $\hat\Sigma$ があり、$y_1,y_2$ はその内点である。$\varphi(t_k,x)\to y_1$($t_k\to\infty$)に lem-pb-local の 2 を使うと、$\hat\Sigma$ と交わる時刻 $t_k+s_k\to\infty$ で交点が $y_1$ に収束するものがある。$y_2$ についても同様である。交わる時刻を順に $\tau_1<\tau_2<\cdots$ と並べると、lem-pb-monotone の 2 により交点 $\varphi(\tau_j,x)$ は $\hat\Sigma$ の上で狭義単調で、有界なので収束する。その部分列の極限 $y_1$ と $y_2$ は一致する。$\square$
$x\in U$ とし、$\gamma^+(x)$ がコンパクト集合 $K\subset U$ に含まれ、$\omega(x)$ が平衡点を含まないとする。このとき $\omega(x)$ は周期軌道 $\Gamma$ である。さらに、$x$ が $\Gamma$ 上にあれば $x$ は周期点で $\gamma^+(x)=\Gamma$ であり、そうでなければ $\Gamma$ は極限周期軌道で、$\varphi(t,x)$ と $\Gamma$ の距離は $t\to\infty$ で $0$ に近づく。
要点:$y\in\omega(x)$ をとり、$\omega(y)$ の点 $z$ を通る横断線分を考えると、$y$ の軌道は $z$ の近くで線分を横切るが、cor-pb-one-point によりその交点は $z$ しかない。よって $y$ は周期点である。次に $\omega(x)$ の連結性を使って、$\omega(x)$ がこの周期軌道に等しいことを示す。
段 1.prop-pb-omega により $\omega(x)$ は空でないコンパクトな連結集合で、その点の軌道は $\omega(x)$ にとどまる。$y\in\omega(x)$ をとると、$\gamma^+(y)\subset\omega(x)$ はコンパクト集合に含まれるので $\omega(y)\ne\emptyset$、$\omega(y)\subset\omega(x)$ である。$z\in\omega(y)$ をとると、仮定から $z$ は正則点なので、$z$ を内点とする横断線分 $\Sigma$ がある。$\varphi(t_k,y)\to z$($t_k\to\infty$)に lem-pb-local の 2 を使うと、$\Sigma$ と交わる時刻 $t_k+s_k\to\infty$ がとれる。交点は $\gamma(y)\subset\omega(x)$ の点なので、cor-pb-one-point により $z$ に等しい。異なる 2 つの時刻で $y$ の軌道が $z$ を通るので、$y$ は周期点であり($y$ は正則点)、$\Gamma:=\gamma(y)\subset\omega(x)$ は周期軌道である。
段 2.$\omega(x)\ne\Gamma$ とする。$\Gamma$ は $\omega(x)$ の空でない閉部分集合であり、$\omega(x)$ は連結なので $\Gamma$ は $\omega(x)$ の中で開集合でない。よって $\tilde y\in\Gamma$ と、$z_k\to\tilde y$ となる $z_k\in\omega(x)\setminus\Gamma$ がある。$\tilde y$ を内点とする横断線分 $\Sigma$ をとり、lem-pb-local の 2 で $\varphi(s_k,z_k)\in\Sigma$ とする。この点は $\omega(x)\cap\Sigma=\{\tilde y\}$ に属するので、$z_k=\varphi(-s_k,\tilde y)\in\Gamma$ となり矛盾する。よって $\omega(x)=\Gamma$ である。
段 3.距離の収束は prop-pb-omega の 3 による。$x\in\Gamma$ なら $x$ は周期点で $\gamma^+(x)=\Gamma$ である。$x\notin\Gamma$ なら、定義により $\Gamma$ は極限周期軌道である。$\square$
定理と証明は Tes12 Corollary 7.10・Lemma 7.13・Lemma 7.14(p. 222)に従った。LebDQ26 Theorem 8.4.1(p. 374)は、平衡点のない有界閉領域の中に前向きの解がとどまるなら、解は周期的か周期解に近づくという形で述べている。
$K\subset U$ を空でないコンパクト集合とし、$K$ が 正の不変集合($x\in K$ ならすべての $t\ge0$ で $\varphi(t,x)\in K$)で、平衡点を含まないとする。このとき $K$ は周期軌道を含む。
$x\in K$ をとると $\gamma^+(x)\subset K$ であり、$\omega(x)$ は閉集合 $K$ に含まれるので平衡点を含まない。thm-pb-main により $\omega(x)\subset K$ は周期軌道である。$\square$
このような $K$ を 捕捉領域 という。典型的には、平衡点を囲む円環で、境界の上でベクトル場が内側を向くものを探す(ex-pb-vdp)。
平衡点を含む場合には次が知られている(この記事では証明しない。Tes12 Theorem 7.16、pp. 223–224):$\gamma^+(x)$ がコンパクト集合に含まれ、$\omega(x)$ が有限個の平衡点しか含まないなら、$\omega(x)$ は 1 つの平衡点、周期軌道、または有限個の平衡点とそれらを $t\to\pm\infty$ で結ぶ軌道の和集合のいずれかである。
$U=\mathbb{R}^2$ で
$$
x'=x-y-x(x^2+y^2),\qquad y'=x+y-y(x^2+y^2)
$$
を考える。極座標 $x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ では $r'=r(1-r^2)$、$\theta'=1$ となり、$r_0>0$ から出る解は $r(t)^{-2}=1+(r_0^{-2}-1)e^{-2t}$ を満たす。よって原点以外のすべての点 $x$ で $\omega(x)$ は単位円 $\Gamma$ であり、$\Gamma$ 上にない点については $\Gamma$ は極限周期軌道である。$0< r_0<1$ なら $\alpha(x)=\{0\}$ である。
$xx'+yy'=r^2-r^4$ から $rr'=r^2(1-r^2)$、$xy'-yx'=x^2+y^2=r^2$ から $\theta'=1$ である。$u:=r^{-2}$ とおくと $u'=-2r^{-3}r'=-2(u-1)$ なので $u-1=(u_0-1)e^{-2t}$ である。
この例では解が具体的に解ける。次の例では解の式はわからないが、cor-pb-trapping で周期軌道の存在がわかる。
$U=\mathbb{R}^2$ で
$$
x'=y,\qquad y'=-x+y\,(1-x^2-2y^2)
$$
を考える。これは $x''+x=x'(1-x^2-2x'^2)$ と同じで、原点の近くでは負の減衰(振動を大きくする力)、遠くでは正の減衰がはたらく。$V:=x^2+y^2$ とおくと、解に沿って
$$
V'=2y^2\,(1-x^2-2y^2)
$$
である。円環 $K:=\{\frac12\le V\le1\}$ は正の不変集合であり、平衡点は原点だけなので、cor-pb-trapping により $K$ は周期軌道 $\Gamma$ を含む。$\Gamma$ は原点を中心とする円ではない。
$V\ge1$ なら $x^2+2y^2\ge V\ge1$ なので $V'\le0$、$V\le\frac12$ なら $x^2+2y^2\le2V\le1$ なので $V'\ge0$ である。$V(\varphi(0,x))\le1$ で、ある $t_1>0$ で $V(\varphi(t_1,x))>1$ とすると、$t_0:=\sup\{t\le t_1\mid V(\varphi(t,x))\le1\}$ について $[t_0,t_1]$ で $V\ge1$、$V'\le0$ なので $V(\varphi(t_1,x))\le V(\varphi(t_0,x))=1$ となり矛盾する。$V\ge\frac12$ も同様に保たれる。解は $K$ にとどまるので $t\ge0$ で定義される。平衡点は $y=0$、$-x=0$ から原点だけである。
$\Gamma$ が円 $V=c$($\frac12\le c\le1$)なら $\Gamma$ の上で $V'\equiv0$ のはずである。しかし $\frac12\le c<1$ では、点 $(\sqrt c\cos\theta,\sqrt c\sin\theta)$ で $\theta\ne0,\pi$ が $0,\pi$ に十分近いと $1-x^2-2y^2$ は $1-c>0$ に近く $V'>0$ である。$c=1$ では $1-x^2-2y^2=-\sin^2\theta$ なので $\theta\ne0,\pi$ で $V'<0$ である。
van der Pol の方程式 $x''-\mu(1-x^2)x'+x=0$($\mu>0$)も、原点以外から出る解がすべて 1 つの極限周期軌道に近づく(この記事では証明しない。Tes12 Theorem 7.8(p. 219)と pp. 219–220 の van der Pol の方程式への適用)。
Poincaré–Bendixson の定理は周期軌道があることを示す道具である。逆に、周期軌道がないことは次の判定法で示せることが多い。
$D\subset U$ を開集合とし、次の条件 (∗) を満たすとする:$D$ に含まれる Jordan 曲線の内部は $D$ に含まれる。$D$ 上の $C^1$ 級関数 $B$ について、$\operatorname{div}(BF)=\partial_1(BF_1)+\partial_2(BF_2)$ が $D$ で $0$ 以上(または $0$ 以下)で、空でないどの開集合の上でも恒等的に $0$ ではないとする。このとき、$D$ に含まれる周期軌道はない。
要点:周期軌道 $\Gamma\subset D$ の内部 $\Omega$ で発散の積分を考えると、2 次元の発散定理により $\Gamma$ を横切る $BF$ の流束に等しい。$F$ は $\Gamma$ に接するので流束は $0$ だが、仮定から発散の積分は $0$ でない。
$D$ に含まれる周期軌道 $\Gamma$ があるとし、$x(t)=\varphi(t,x_0)$($0\le t\le T$、$T$ は最小周期)とする。$\Gamma$ は $C^1$ 級の Jordan 曲線で、(∗) によりその内部 $\Omega$ は $D$ に含まれ、$\overline\Omega=\Omega\cup\Gamma\subset D$ である。Greenの定理 の命題「流束の形(2 次元の発散定理)」を $BF$ に使うと(向きを正にとる)、
$$\iint_\Omega\operatorname{div}(BF)\,dx\,dy=\pm\int_0^T B(x(t))\bigl(F_1(x(t))\,x_2'(t)-F_2(x(t))\,x_1'(t)\bigr)\,dt=0$$
である。$x'=F(x)$ なので被積分関数は $B(F_1F_2-F_2F_1)=0$ となる。一方、$\operatorname{div}(BF)$ は連続で $\Omega$ の上で $0$ 以上、かつ空でない開集合 $\Omega$ の上で恒等的に $0$ でないので、ある点の近傍で正であり、積分は正である。これは矛盾である。$\square$
$B\equiv1$ の場合を Bendixson の判定法 という。$D$ が凸なら (∗) が成り立つ:$D$ に含まれる Jordan 曲線 $J$ の凸包の外の点は、凸包と交わらない開いた半平面(連結で有界でない)に含まれるので $J$ の外部にあり、内部は凸包に、したがって $D$ に含まれる。LebDQ26 Theorem 8.4.2(p. 376)は $D$ が単連結な場合について述べている。Green の定理を区分的に滑らかな単純閉曲線が囲む一般の領域で使う部分は、Greenの定理 の注意「定理の証明の所在」のとおり引用による。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-pb-main の「相空間が平面の開集合」 | $\mathbb{R}^3$ から $z$ 軸を除いた開集合の上の、トーラスに巻きつく流れ(傾き $\alpha$ は無理数) | $\omega(x)$ が周期軌道 |
| thm-pb-main の「$\gamma^+(x)\subset K$($K\subset U$ はコンパクト)」 | $U=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上の $x'=-x-y$、$y'=x-y$ | $\omega(x)$ が周期軌道 |
| thm-pb-main の「$\omega(x)$ が平衡点を含まない」 | $\mathbb{R}^2$ 上の $x'=-x$、$y'=-y$ | $\omega(x)$ が周期軌道 |
| thm-pb-dulac の条件 (∗) | $D=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上の $F=\bigl(-\frac y{r^2}+x(1-\frac1{r^2}),\ \frac x{r^2}+y(1-\frac1{r^2})\bigr)$、$B\equiv1$ | $D$ に周期軌道がない |
1 行目:円柱座標 $(\rho,\theta,z)$ で、$\theta'=2\pi$、$(\rho-2)'=-2\pi\alpha z$、$z'=2\pi\alpha(\rho-2)$ となるベクトル場を考える。直交座標では $F=2\pi(-y,x,0)+2\pi\alpha\bigl(-\frac{zx}\rho,-\frac{zy}\rho,\rho-2\bigr)$($\rho=\sqrt{x^2+y^2}$)で、$z$ 軸を除いた開集合で $C^\infty$ 級である。$w:=(\rho-2)+iz$ とおくと $w'=2\pi i\alpha w$ なので $\lvert w\rvert$ は一定で、トーラス $T:=\{(\rho-2)^2+z^2=1\}$ はコンパクトな不変集合である。$F$ の $\theta$ 方向の成分は $0$ にならないので平衡点はない。
$T$ の点を角 $(\theta,\psi)$($w=e^{i\psi}$)で表すと、解は $\theta=\theta_0+2\pi t$、$\psi=\psi_0+2\pi\alpha t$ である。目標の点 $(\theta_1,\psi_1)$ に対し $t=m+\frac{\theta_1-\theta_0}{2\pi}$($m$ は自然数)とすると $\theta\equiv\theta_1$、$\psi=\psi_0+\alpha(\theta_1-\theta_0)+2\pi\alpha m$ である。$\alpha$ は無理数なので、どの $M$ についても $\{m\alpha\bmod1\mid m\ge M\}$ は円周で稠密である(力学系 の例「1 次関数と回転」の 2 を、$M\alpha$ から出る前向き軌道に使う)。よって $m\to\infty$ となる列で $\psi\to\psi_1$($\bmod2\pi$)とでき、$\omega(x)=T$ である。$T$ のどの点も周期点でない($\theta$ がもとに戻る時刻は整数で、そのとき $\psi$ は $2\pi\alpha m\not\equiv0$ だけずれる)ので、$\omega(x)$ は周期軌道でない。
1 行目で崩れるのは、lem-pb-monotone の証明で使った「閉曲線が相空間を 2 つに分ける」ことである。トーラスの子午線はトーラスを分けない(Jordan曲線定理 の例「反例:トーラスの子午線」)。
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