Jensen の不等式(Jensen's inequality)とは、区間 $I$ 上の凸関数 $f$、$I$ の点 $x_1,\dots,x_n$、$0$ 以上で和が $1$ の重み $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ について $f(\sum_i\lambda_ix_i)\le\sum_i\lambda_if(x_i)$ が成り立つという定理である。凸関数の定義(2 点の場合)から、点の個数についての帰納法で示せる。$f$ が狭義凸ですべての $\lambda_i$ が正なら、等号は $x_1=\cdots=x_n$ のときに限る。凹関数では不等号が逆向きになる。2 乗の平均と平均の 2 乗の大小や三角形の内角の正弦の和の上界が従い、凹関数 $\log$ に使うと重み付きの相加相乗平均の不等式になる。重みに負の数を許すと成り立たないことがある。
下に凸な関数(凸関数)は、グラフ上のどの 2 点を結ぶ弦もグラフより下に来ない関数である。式では、2 点 $x,y$ と $0\le\lambda\le1$ について
$$
f\bigl((1-\lambda)x+\lambda y\bigr)\le(1-\lambda)f(x)+\lambda f(y)
$$
と書ける。これは「2 点の平均」についての不等式である。では、3 点、4 点、…、$n$ 点の平均についても同じ不等式が成り立つだろうか。
答えは「成り立つ」であり、それが Jensen の不等式である。この記事では次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学での見方 |
|---|---|---|
| 3 数の平均 $\frac{a+b+c}3$、内分点 | 重み付き平均(重心) | 凸結合 |
| $\bigl(\frac{a+b+c}3\bigr)^2\le\frac{a^2+b^2+c^2}3$ | $f(x)=x^2$ の Jensen の不等式 | 期待値の形 $f(E[X])\le E[f(X)]$ |
| 「正三角形のとき最大」 | 等号条件 | 狭義凸性 |
$0$ 以上の実数 $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ で、和が $\lambda_1+\cdots+\lambda_n=1$ となるものを重みという。実数 $x_1,\dots,x_n$ に対して
$$
\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i=\lambda_1x_1+\lambda_2x_2+\cdots+\lambda_nx_n
$$
を、重み $\lambda_i$ による $x_1,\dots,x_n$ の重み付き平均という。
すべての重みが $\frac1n$ のとき、重み付き平均はふつうの平均 $\frac{x_1+\cdots+x_n}n$ である。$n=2$ で重みを $1-\lambda$、$\lambda$ とすると、凸関数の定義に出てくる $(1-\lambda)x+\lambda y$ になる。数直線上の点 $x_i$ に重さ $\lambda_i$ のおもりを置くと、重み付き平均はそのつり合いの位置(重心)である。
$x_1=0$、$x_2=3$、$x_3=6$ とする。
$m$ を $x_1,\dots,x_n$ の最小値、$M$ を最大値とすると、どの重みについても
$$
m\le\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\le M
$$
である。特に、$x_1,\dots,x_n$ がすべて区間 $I$ に入っていれば、重み付き平均も $I$ に入る。
各 $i$ で $m\le x_i\le M$ であり、$\lambda_i\ge0$ なので、掛けても不等号の向きは変わらず $\lambda_im\le\lambda_ix_i\le\lambda_iM$ である。$i=1,\dots,n$ について足すと
$$
\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_i\Bigr)m\le\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\le\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_i\Bigr)M
$$
であり、$\sum_i\lambda_i=1$ なので $m\le\sum_i\lambda_ix_i\le M$ である。区間 $I$ は、$m$ と $M$ が入っていればその間の数もすべて含むので、重み付き平均も $I$ に入る。$\square$
Jensen の不等式の証明の要は、$n$ 点の重心を「最初の $n-1$ 点の重心」と「最後の 1 点」の 2 点の平均に分けることである。
$n\ge2$ とし、重み $\lambda_1,\dots,\lambda_n$ で $\lambda_n<1$ とする。$s:=1-\lambda_n$ とおくと $s=\lambda_1+\cdots+\lambda_{n-1}>0$ であり、
$$
\mu_i:=\frac{\lambda_i}s\quad(i=1,\dots,n-1),\qquad y:=\sum_{i=1}^{n-1}\mu_ix_i
$$
とおくと、$\mu_1,\dots,\mu_{n-1}$ は重みであり、
$$
\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i=s\,y+\lambda_nx_n,\qquad s+\lambda_n=1
$$
が成り立つ。
$\lambda_1+\cdots+\lambda_n=1$ から $s=1-\lambda_n=\lambda_1+\cdots+\lambda_{n-1}$ であり、$\lambda_n<1$ より $s>0$ である。$\mu_i=\frac{\lambda_i}s$ は $0$ 以上で、和は $\frac{\lambda_1+\cdots+\lambda_{n-1}}s=\frac ss=1$ なので重みである。また $s\mu_i=\lambda_i$ なので
$$
s\,y+\lambda_nx_n=\sum_{i=1}^{n-1}s\mu_ix_i+\lambda_nx_n=\sum_{i=1}^{n-1}\lambda_ix_i+\lambda_nx_n=\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i
$$
である。$s+\lambda_n=1$ は $s$ の定義そのものである。$\square$
ex-jens-weights-numeric の $x=(0,3,6)$、重み $\bigl(\frac12,\frac13,\frac16\bigr)$ では、$s=1-\frac16=\frac56$、$\mu_1=\frac{1/2}{5/6}=\frac35$、$\mu_2=\frac{1/3}{5/6}=\frac25$ で、$y=\frac35\cdot0+\frac25\cdot3=\frac65$ である。確かに $s\,y+\lambda_3x_3=\frac56\cdot\frac65+\frac16\cdot6=1+1=2$ となり、全体の重心 $2$ と一致する。
以下、凸関数の定義は次のとおりとする(2 階導関数による判定と接線の不等式は 曲線の凹凸と接線 で証明した。この記事ではその結果を使う)。
区間 $I$ で定義された関数 $f$ が、$I$ のすべての $x,y$ と $0\le\lambda\le1$ について $f\bigl((1-\lambda)x+\lambda y\bigr)\le(1-\lambda)f(x)+\lambda f(y)$ を満たすとき、$f$ を $I$ 上の凸関数(下に凸な関数)という。$x\ne y$、$0<\lambda<1$ で常に $<$ が成り立つとき狭義凸関数という。$-f$ が凸関数(狭義凸関数)のとき、$f$ を凹関数(狭義凹関数、上に凸な関数)という。
一般の証明の前に、3 点の場合を数でたどる。
$f(x)=x^2$、$x=(0,3,6)$、重み $\bigl(\frac12,\frac13,\frac16\bigr)$ とする。示したいのは
$$
f(2)=4\ \le\ \frac12f(0)+\frac13f(3)+\frac16f(6)=0+3+6=9
$$
である。ex-jens-split-numeric のように $2=\frac56\cdot\frac65+\frac16\cdot6$ と分ける。
段 1:2 点 $\frac65$ と $6$、重み $\frac56,\frac16$ に凸関数の定義を使うと
$$
f(2)\le\frac56f\Bigl(\frac65\Bigr)+\frac16f(6)=\frac56\cdot\frac{36}{25}+6=\frac65+6=7.2
$$
段 2:$\frac65=\frac35\cdot0+\frac25\cdot3$ なので、2 点 $0,3$ に凸関数の定義を使うと $f\bigl(\frac65\bigr)\le\frac35f(0)+\frac25f(3)=\frac{18}5$ であり、
$$
\frac56f\Bigl(\frac65\Bigr)+\frac16f(6)\le\frac56\cdot\frac{18}5+6=3+6=9
$$
こうして $4\le7.2\le9$ となる。2 点の不等式を 2 回使えば 3 点の不等式が出る。一般の $n$ 点でも同じことを繰り返す。
$f$ を区間 $I$ 上の凸関数とし、$x_1,\dots,x_n$ を $I$ の点、$\lambda_1,\dots,\lambda_n$ を重み($0$ 以上で和が $1$)とする。このとき
$$
f\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\Bigr)\le\sum_{i=1}^n\lambda_if(x_i)
$$
が成り立つ。さらに、$f$ が狭義凸関数で、すべての $\lambda_i$ が正ならば、等号が成り立つのは $x_1=x_2=\cdots=x_n$ のときに限る。
特に、重みをすべて $\frac1n$ にすると $f\Bigl(\dfrac{x_1+\cdots+x_n}n\Bigr)\le\dfrac{f(x_1)+\cdots+f(x_n)}n$ である。凹関数では不等号の向きが逆になる。
方針:ex-jens-three-points と同じく、$n$ 点の重心を lem-jens-split で 2 点の平均に分け、凸関数の定義と、$n-1$ 点の場合(帰納法の仮定)を 1 回ずつ使う。左辺の $\sum_i\lambda_ix_i$ は lem-jens-between により $I$ に入るので、$f$ の値が意味をもつ。
段 1($n=1$)。重みは $\lambda_1=1$ だけで、両辺はともに $f(x_1)$ である。
段 2(帰納法の仮定)。$n\ge2$ とし、$n-1$ 点では不等式が正しいとする。$\lambda_n=1$ なら、他の重みはすべて $0$ で、両辺はともに $f(x_n)$ である。以下 $\lambda_n<1$ とし、lem-jens-split の $s$、$\mu_i$、$y$ を使う。$y$ は $x_1,\dots,x_{n-1}$ の重み付き平均なので、lem-jens-between により $I$ に入る。
段 3(2 点に凸関数の定義を使う)。lem-jens-split より $\sum_i\lambda_ix_i=s\,y+\lambda_nx_n$ で $s+\lambda_n=1$ なので、2 点 $y,x_n$、重み $s,\lambda_n$ に凸関数の定義を使って
$$
f\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\Bigr)=f(s\,y+\lambda_nx_n)\le s\,f(y)+\lambda_nf(x_n)\qquad(1)
$$
である。
段 4($n-1$ 点に帰納法の仮定を使う)。$y=\sum_{i=1}^{n-1}\mu_ix_i$ で $\mu_i$ は重みなので、帰納法の仮定から
$$
f(y)\le\sum_{i=1}^{n-1}\mu_if(x_i)\qquad(2)
$$
である。両辺に $s>0$ を掛けると、$s\mu_i=\lambda_i$ より $s\,f(y)\le\sum_{i=1}^{n-1}\lambda_if(x_i)$ となる。
段 5(つなぐ)。(1) と段 4 から
$$
f\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\Bigr)\le s\,f(y)+\lambda_nf(x_n)\le\sum_{i=1}^{n-1}\lambda_if(x_i)+\lambda_nf(x_n)=\sum_{i=1}^n\lambda_if(x_i)
$$
であり、$n$ 点でも不等式が成り立つ。帰納法により、すべての $n$ で成り立つ。
段 6(等号の条件)。$f$ は狭義凸で、すべての $\lambda_i>0$ とする。$x_1=\cdots=x_n$ なら、重み付き平均は $x_1$ で、両辺はともに $f(x_1)$ である。逆に「等号なら $x_1=\cdots=x_n$」を $n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では示すことはない。$n\ge2$ とする。すべての $\lambda_i>0$ なので $0<\lambda_n<1$、$0< s<1$ で、$\mu_i$ もすべて正である。全体で等号が成り立つなら、段 5 の 2 つの $\le$ はどちらも等号でなければならない(どちらかが $<$ なら全体も $<$ になる)。
図1:y=x^2 上の 3 点に重さ 1/2, 1/3, 1/6 を置いた重心 (2, 9) は、グラフ上の点 (2, 4) より上にある
図 1 は ex-jens-three-points を図にしたものである。グラフ上の点 $(x_i,f(x_i))$ に重さ $\lambda_i$ を置くと、重心は $\bigl(\sum\lambda_ix_i,\sum\lambda_if(x_i)\bigr)=(2,9)$ である。Jensen の不等式は「この重心はグラフより下に来ない」と読める。図では、重心は 3 点を結ぶ三角形の中にあり、その三角形はグラフより上の部分に収まっている。下に凸なグラフでは、グラフより上の部分に属する 2 点を結ぶ線分はその部分からはみ出さない(弦がグラフより下に来ないことの言いかえ)ので、3 点を結ぶ三角形もはみ出さない。
$f''\ge0$ となる関数については、接線を使うともう 1 つの証明ができる。
$f$ を開区間 $I$ で 2 回微分可能で $f''\ge0$ を満たす関数とし、$x_1,\dots,x_n$ を $I$ の点、$\lambda_1,\dots,\lambda_n$ を重みとする。$c:=\sum_i\lambda_ix_i$ とおくと、lem-jens-between により $c$ も $I$ に入る。そこで 曲線の凹凸と接線 の接線の不等式を接点 $c$ で使うことができ、$I$ のすべての点 $x$ について
$$
f(x)\ge f(c)+f'(c)(x-c)
$$
である。これを $x=x_i$ に使って $\lambda_i\ge0$ を掛け(向きは変わらない)、$i$ について足すと
$$
\sum_{i=1}^n\lambda_if(x_i)\ge\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_i\Bigr)f(c)+f'(c)\sum_{i=1}^n\lambda_i(x_i-c)
$$
となる。$\sum_i\lambda_i=1$ であり、$\sum_i\lambda_i(x_i-c)=\sum_i\lambda_ix_i-c\sum_i\lambda_i=c-c=0$ なので、右辺は $f(c)$ である。よって $f\bigl(\sum_i\lambda_ix_i\bigr)=f(c)\le\sum_i\lambda_if(x_i)$ である。これは「重心の位置での接線 1 本で、すべての点を下から押さえる」証明である。
等号の条件:さらに $I$ で常に $f''>0$ で、すべての $\lambda_i>0$ とする。接線の不等式の等号条件により、$x_i\ne c$ なら $f(x_i)>f(c)+f'(c)(x_i-c)$ である。そのような $i$ が 1 つでもあれば、$\lambda_i>0$ を掛けて足した和でも $>$ になり、等号は成り立たない。よって等号が成り立つなら、すべての $i$ で $x_i=c$、つまり $x_1=\cdots=x_n$ である。帰納法の証明は微分を使わないので、$|x|$ のような微分できない凸関数にも使える。
凸関数・凹関数であることは、曲線の凹凸と接線 の 2 階導関数による判定で確かめる。
$f(x)=x^2$ は $f''=2>0$ なので $\mathbb{R}$ 上の狭義凸関数である。重み $\frac1n$ の thm-jens-jensen により
$$
\Bigl(\frac{x_1+\cdots+x_n}n\Bigr)^2\le\frac{x_1^2+\cdots+x_n^2}n
$$
であり、等号はすべての $x_i$ が等しいときに限る。数値:$x=(1,2,6)$ では左辺 $\bigl(\frac93\bigr)^2=9$、右辺 $\frac{1+4+36}3=\frac{41}3=13.66\ldots$ である。
正の数 $x,y,z$ が $x+y+z=1$ を満たすとき、$\frac1x+\frac1y+\frac1z\ge9$ であることを示す。$f(t)=\frac1t$ は $f''(t)=\frac2{t^3}>0$($t>0$)なので $(0,\infty)$ 上の狭義凸関数である。重み $\frac13$ の thm-jens-jensen により
$$
\frac13\Bigl(\frac1x+\frac1y+\frac1z\Bigr)\ge f\Bigl(\frac{x+y+z}3\Bigr)=f\Bigl(\frac13\Bigr)=3
$$
なので、$\frac1x+\frac1y+\frac1z\ge9$ である。等号は $x=y=z=\frac13$ のときに限る。数値:$\bigl(\frac12,\frac13,\frac16\bigr)$ では $2+3+6=11\ge9$ である。
三角形の内角 $A,B,C$($A+B+C=\pi$、各角は $0$ より大きく $\pi$ より小さい)について
$$
\sin A+\sin B+\sin C\le\frac{3\sqrt3}2=2.598\ldots
$$
であり、等号は正三角形のときに限る。$\sin$ は $[0,\pi]$ 上の狭義凹関数なので($0< x<\pi$ で $(\sin x)''=-\sin x<0$)、重み $\frac13$ の thm-jens-jensen を凹関数の向きに使うと
$$
\frac{\sin A+\sin B+\sin C}3\le\sin\frac{A+B+C}3=\sin\frac\pi3=\frac{\sqrt3}2
$$
である。数値:直角二等辺三角形($\frac\pi2,\frac\pi4,\frac\pi4$)では $1+\sqrt2=2.414\ldots$、$\frac\pi2,\frac\pi3,\frac\pi6$ の三角形では $1+\frac{\sqrt3}2+\frac12=2.366\ldots$ で、どちらも $2.598\ldots$ より小さい。
$f(x)=x^2$ の場合は「2 乗の平均から平均の 2 乗を引いた値は $0$ 以上」という主張で、この差が分散になること(分散の公式 $s^2=\overline{x^2}-\bar x^2$)は 平均値と二乗誤差 で扱う。
| 外した条件 | 崩れること | ボックス |
|---|---|---|
| $f$ が凸関数 | 不等式そのもの | ex-jens-nonconvex |
| 重みが $0$ 以上 | 不等式そのもの | ex-jens-negative-weights |
| $f$ が狭義凸関数 | 等号から $x_1=\cdots=x_n$ が従うこと | ex-jens-affine |
$f(x)=x^3$ を $\mathbb{R}$ で考え、$x_1=-2$、$x_2=0$、重み $\frac12,\frac12$ とすると、左辺は $f(-1)=-1$、右辺は $\frac{-8+0}2=-4$ であり、$-1\le-4$ は成り立たない。$f''(x)=6x$ は $x<0$ で負なので、$x^3$ は $\mathbb{R}$ 上の凸関数ではない。
凸関数 $f(x)=x^2$ で、$x_1=0$、$x_2=1$、「重み」$\lambda_1=2$、$\lambda_2=-1$(和は $1$ だが $\lambda_2<0$)とする。$\lambda_1x_1+\lambda_2x_2=-1$ なので、左辺は $f(-1)=1$、右辺は $2f(0)-f(1)=-1$ であり、$1\le-1$ は成り立たない。点 $-1$ は $0$ と $1$ の間になく、弦を外に延ばした直線の上の点になってしまう(図 2)。凸関数の情報は弦の上でしか使えないので、重みが $0$ 以上という条件は外せない。
図2:負の重みでは点 −1 は 0 と 1 の外に出て、弦を延ばした直線の高さ −1 はグラフの高さ 1 より低い
1 次関数 $f(x)=2x+1$ は凸関数であり、どの点と重みについても $f\bigl(\sum\lambda_ix_i\bigr)=2\sum\lambda_ix_i+1=\sum\lambda_i(2x_i+1)$ なので、Jensen の不等式は常に等号になる。たとえば $x_1=0$、$x_2=10$、重み $\frac12,\frac12$ では両辺とも $11$ だが、$x_1\ne x_2$ である。
すべての正の実数 $a,b,c$ について
$$
\frac a{\sqrt{a^2+8bc}}+\frac b{\sqrt{b^2+8ca}}+\frac c{\sqrt{c^2+8ab}}\ge1
$$
が成り立つことを証明せよ。
出典:国際数学オリンピック(2001 年、ワシントン)第 2 問(Oly01)。和訳は本記事による。
$a=b=c$ のとき各項は $\frac a{\sqrt{9a^2}}=\frac13$ で、左辺はちょうど $1$ になる。$a=1$、$b=2$、$c=3$ では、左辺は $\frac1{\sqrt{49}}+\frac2{\sqrt{28}}+\frac3{\sqrt{25}}=0.142\ldots+0.377\ldots+0.6=1.120\ldots$ である。
方針:$S:=a^{4/3}+b^{4/3}+c^{4/3}$ とおき、各項を $\frac{a^{4/3}}S$ のように「3 つ足すと $1$ になる形」で下から押さえる。
指数 $\frac43$ の見つけ方(証明には使わない)。指数を $r$ として、$\frac a{\sqrt{a^2+8bc}}\ge\frac{a^r}{a^r+b^r+c^r}$ を目指す。$b=c=1$ とすると、左辺は $g(a):=\frac a{\sqrt{a^2+8}}$、右辺は $h(a):=\frac{a^r}{a^r+2}$ で、$a=1$ ではどちらも $\frac13$ になる。$a=1$ の前後で $g$ が $h$ を下回らないためには、$a=1$ での傾き(微分係数)が等しくなければならない。実際、$(g-h)'(1)>0$ なら、$a$ が $1$ より少し小さいところで $g(a)-h(a)<0$ となり、$(g-h)'(1)<0$ なら、$a$ が $1$ より少し大きいところで $g(a)-h(a)<0$ となってしまう。微分すると
$$
g'(a)=\frac1{\sqrt{a^2+8}}-\frac{a^2}{(a^2+8)^{3/2}}=\frac8{(a^2+8)^{3/2}},\qquad h'(a)=\frac{ra^{r-1}(a^r+2)-a^r\cdot ra^{r-1}}{(a^r+2)^2}=\frac{2ra^{r-1}}{(a^r+2)^2}
$$
なので、$g'(1)=\frac8{27}$、$h'(1)=\frac{2r}9$ である。$\frac{2r}9=\frac8{27}$ から $r=\frac43$ となる。こうして見つけた指数で、次の段 1〜5 の証明が通る。
段 1(示すこと)。次の不等式 $(\ast)$ を示せば十分である。
$$
\frac a{\sqrt{a^2+8bc}}\ge\frac{a^{4/3}}S\qquad(\ast)
$$
実際、$b,c$ についても文字を入れかえて同じ不等式を作り、3 つを足すと、右辺の和は $\frac{a^{4/3}+b^{4/3}+c^{4/3}}S=1$ になる。
段 2($(\ast)$ を言い換える)。両辺は正なので、$(\ast)$ は分母を払った $S\ge a^{1/3}\sqrt{a^2+8bc}$ と同じであり(両辺に $\frac{S\sqrt{a^2+8bc}}{a}$ を掛けた)、両辺は正なので 2 乗した
$$
S^2\ge a^{2/3}(a^2+8bc)=a^{8/3}+8a^{2/3}bc
$$
と同じである。
段 3(因数分解)。$a^{8/3}=\bigl(a^{4/3}\bigr)^2$ なので、$X^2-Y^2=(X-Y)(X+Y)$ を $X=S$、$Y=a^{4/3}$ に使うと
$$
S^2-a^{8/3}=\bigl(b^{4/3}+c^{4/3}\bigr)\bigl(2a^{4/3}+b^{4/3}+c^{4/3}\bigr)
$$
である。
段 4(2 つの因子を相加相乗平均で押さえる)。第 1 因子には 2 数の相加相乗平均を使って $b^{4/3}+c^{4/3}\ge2\sqrt{b^{4/3}c^{4/3}}=2b^{2/3}c^{2/3}$ である。第 2 因子には 4 数 $a^{4/3},a^{4/3},b^{4/3},c^{4/3}$ の相加相乗平均(2 数の場合を 2 回使うと得られる:$\frac{p+q+r+t}4\ge\frac{\sqrt{pq}+\sqrt{rt}}2\ge\sqrt[4]{pqrt}$)を使って
$$
2a^{4/3}+b^{4/3}+c^{4/3}\ge4\sqrt[4]{a^{8/3}b^{4/3}c^{4/3}}=4a^{2/3}b^{1/3}c^{1/3}
$$
である。
段 5(掛ける)。2 つの不等式の両辺は正なので掛け合わせてよく、
$$
S^2-a^{8/3}\ge2b^{2/3}c^{2/3}\cdot4a^{2/3}b^{1/3}c^{1/3}=8a^{2/3}bc
$$
となる。これは段 2 の不等式であり、$(\ast)$ が示された。$\square$
凸関数 $f(t):=\frac1{\sqrt t}$($t>0$。$f''(t)=\frac34t^{-5/2}>0$)と、重み付きの thm-jens-jensen を使うと、指数を探す必要がなくなる。
段 1(正規化)。左辺は $a,b,c$ を同じ正の数 $k$ 倍しても変わらない(各項の分子は $k$ 倍、分母は $\sqrt{k^2}=k$ 倍になる)。そこで $a+b+c=1$ としてよい。すると $a,b,c$ は重みになり、左辺は
$$
a\,f(a^2+8bc)+b\,f(b^2+8ca)+c\,f(c^2+8ab)
$$
と書ける。
段 2(Jensen)。重み $a,b,c$、点 $a^2+8bc$、$b^2+8ca$、$c^2+8ab$ に thm-jens-jensen を使うと、重み付き平均は $a(a^2+8bc)+b(b^2+8ca)+c(c^2+8ab)=a^3+b^3+c^3+24abc$ なので
$$
\text{左辺}\ge f\bigl(a^3+b^3+c^3+24abc\bigr)=\frac1{\sqrt{a^3+b^3+c^3+24abc}}
$$
である。
段 3(残りは多項式の不等式)。$f$ は減少関数なので、$a^3+b^3+c^3+24abc\le1=(a+b+c)^3$ を示せばよい。展開すると
$$
(a+b+c)^3-(a^3+b^3+c^3+24abc)=3\bigl(a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b\bigr)-18abc
$$
なので、$a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b\ge6abc$ を示せばよい。これは $b(a^2+c^2)\ge2abc$、$c(a^2+b^2)\ge2abc$、$a(b^2+c^2)\ge2abc$(それぞれ $s^2+t^2\ge2st$ による)を足せば得られる。$\square$
要点は、左辺の各項が「係数 $a$ × 関数の値」の形をしていることに注目し、重みを変数自身にとることである。等しい重み $\frac13$ の Jensen では係数 $a$ を扱えない。また、重みの和が $1$ になるように正規化できたのは、左辺が全変数の定数倍で変わらない(0 次同次である)からである。高校数学の解は、等号の点で「接する」関数を項ごとに探していた。Jensen の不等式は、rem-jens-tangent-proof のとおり、重心での接線 1 本で全部の項をまとめて押さえている。
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