仮説検定(高校数学)は、否定したい帰無仮説のもとで観測結果がどのくらい起こりにくいかを確率で調べ、あらかじめ決めた有意水準以下なら帰無仮説を棄却する方法である。棄却域を帰無仮説のもとでの確率が有意水準 $\alpha$ 以下になるように選ぶので、帰無仮説が正しいのに棄却する誤り(第 1 種の誤り)の確率は $\alpha$ 以下になる。ただし正規近似で決めた棄却域では近似的にしか成り立たない。母標準偏差が既知の母平均の両側検定で(端点 $|z|=1.96$ を棄却しない約束のもとで)棄却することは、仮説の値が信頼度 $95\%$ の信頼区間に含まれないことと同値である。棄却しないことは帰無仮説が正しい証拠ではなく、$p$ 値は帰無仮説が正しい確率ではない。標本を大きくすると小さな差でも有意になる。
前提知識: 確率変数の期待値と分散, 二項分布, 正規分布
硬貨を投げて表が多く出たとき、「この硬貨は表が出やすい」と言ってよいのか、「公平な硬貨でも偶然このくらいは起こる」のか。数学 B の 仮説検定 は、この判断を確率で行う方法である。高校では次の手順を習う。
硬貨を $400$ 回投げたら表が $220$ 回出た。帰無仮説「表の出る確率 $p$ は $\frac12$」が正しいとすると、表の回数 $X$ は二項分布に従い、
$$
E(X)=400\cdot\frac12=200,\qquad V(X)=400\cdot\frac12\cdot\frac12=100,\qquad \sigma(X)=10
$$
である(二項分布の期待値 $np$ と分散 $np(1-p)$。確率変数の期待値と分散 の主定理から出る)。$n$ が大きいので、標準化した
$$
Z=\frac{X-200}{10}
$$
はおよそ標準正規分布に従う(二項分布から正規分布へ)。観測値は $z=\frac{220-200}{10}=2.0$ である。標準正規分布では $|Z|\ge1.96$ となる確率が $0.05$ なので、$|z|=2.0\ge1.96$ は「起こる確率が $5\%$ 以下の、めったに起こらない側」に入る。有意水準 $5\%$ で帰無仮説を棄却し、「この硬貨は公平とは言えない」と判断する。
同じ設定で表が $215$ 回なら、$z=\frac{215-200}{10}=1.5$ である。$|z|<1.96$ なので、有意水準 $5\%$ では帰無仮説を棄却しない。標準正規分布で $|Z|\ge1.5$ となる確率は $0.1336\ldots$ で、公平な硬貨でも $7$ 回に $1$ 回くらいは起こる程度のずれだからである。
回数が少ないときは、正規分布に頼らずに二項分布の確率をそのまま計算できる。公平な硬貨を $10$ 回投げたときの表の回数 $X$ は $P(X=k)=\binom{10}k\big/1024$ で、二項係数は
$$
\binom{10}0,\binom{10}1,\dots,\binom{10}{10}=1,\ 10,\ 45,\ 120,\ 210,\ 252,\ 210,\ 120,\ 45,\ 10,\ 1
$$
である。表が $9$ 回出たとする。$\frac12$ から見て $9$ 回と同じかそれ以上に偏った結果は、$X\ge9$ または $X\le1$ で、その確率は
$$
P(X\ge9)+P(X\le1)=\frac{10+1+1+10}{1024}=\frac{22}{1024}=0.0214\ldots
$$
である。これは $0.05$ 以下なので、有意水準 $5\%$ で帰無仮説を棄却する。表が $8$ 回なら、同じ計算で $\frac{45+10+1+1+10+45}{1024}=\frac{112}{1024}=0.109\ldots$ となり、棄却しない。
手順は機械的だが、次の問いが残る。
| 高校の手順 | この記事での見方 | 大学の言葉 | ボックス |
|---|---|---|---|
| 帰無仮説・対立仮説・棄却域 | 「棄却する」結果の集合を先に決める | 検定 | def-htst-framework |
| 有意水準 $5\%$ | 帰無仮説が正しいのに棄却する確率 | 第 1 種の誤りの確率 | thm-htst-level |
| $\lvert z\rvert\ge1.96$ なら棄却 | 信頼区間が仮説の値を含まない | 検定と信頼区間の双対性 | thm-htst-duality |
| 片側検定の $1.645$ | 対立仮説の向きに棄却域を寄せる | 尤度比による最強力検定 | def-htst-one-sided、rem-htst-neyman-pearson |
| (高校では扱わない)棄却できる確率 | 帰無仮説が誤りのときに棄却する確率 | 検出力 | ex-htst-power |
母集団について否定したい仮説を 帰無仮説 $H_0$、それが成り立たないときの仮説を 対立仮説 $H_1$ という。標本から計算する確率変数 $T$(検定統計量)と、$T$ の値の集合 $R$(棄却域)を、データをとる前に決めておく。観測した $T$ の値が $R$ に入れば $H_0$ を 棄却する、入らなければ 棄却しない。
$0<\alpha<1$ とする。$H_0$ が正しいとして計算した確率で
$$
P_{H_0}(T\in R)\le\alpha
$$
となるように $R$ を選ぶとき、この $\alpha$ を 有意水準 という。$P_{H_0}$ は「$H_0$ が正しいとして計算した確率」を表す記号である。
図1:公平な硬貨を 10 回投げたときの表の回数の分布。赤い棒が棄却域 {0, 1, 9, 10} で、その確率の合計は 22/1024 である。棄却域を内側に広げると合計が 0.05 を超えることを見る図。
検定の判断は 2 通りに間違いうる。
$H_0$ が正しいのに $H_0$ を棄却することを 第 1 種の誤り、$H_0$ が正しくない(対立仮説のある状態が正しい)のに $H_0$ を棄却しないことを 第 2 種の誤り という。$H_0$ が正しくないときに正しく $H_0$ を棄却する確率を、その状態での 検出力 という。検出力は $1-(\text{第 2 種の誤りの確率})$ である。
ex-htst-framework の 2 の検定($R=\{0,1,9,10\}$)を考える。
標本の大きさを固定したまま棄却域だけを動かすと、2 つの誤りの確率を同時には小さくできない。棄却域を広げると第 1 種の誤りは増え、第 2 種の誤りは減る。両方を小さくするには標本を大きくする(ex-htst-power)。仮説検定では、第 1 種の誤りの確率のほうを有意水準以下に抑えることを優先する。帰無仮説を「否定したい仮説」に選ぶのはこのためで、「帰無仮説は誤り」と主張するときの誤りの確率が保証される。二項分布での 2 種類の誤りの計算と、その兼ね合いで棄却域を選ぶ例は GS06 Example 3.11 にもある。
方針:第 1 種の誤りの確率を、定義に従って確率の式に書き直す。
段 1(1 の証明)。第 1 種の誤りは「$H_0$ が正しい」ときに「$T\in R$ となって棄却する」ことである。その確率は $H_0$ が正しいとして計算した $P_{H_0}(T\in R)$ であり、有意水準の定義(def-htst-framework)によりこれは $\alpha$ 以下である。
段 2(2 の証明)。段 1 により、第 1 種の誤りの確率は $P(|Z|\ge1.96)$ である。事象「$|Z|\ge1.96$」は事象「$-1.96< Z<1.96$」の余事象なので、$P(|Z|\ge1.96)=1-P(-1.96< Z<1.96)$ である。密度関数で確率が決まる分布では 1 点の確率は幅 $0$ の区間上の積分なので $0$ であり、$P(-1.96< Z<1.96)=P(-1.96\le Z\le1.96)=0.9500\ldots$(区間推定(高校数学) で使った数値)である。よって $P(|Z|\ge1.96)=1-0.9500\ldots=0.0499\ldots$ である。
段 3(3 の証明)。ex-htst-ten の $n=10$ の検定で、$\alpha=0.05$ とする。$H_0$ のもとでの各値の確率は $\frac{\binom{10}k}{1024}$ で、分子は整数なので、どんな棄却域 $R$ についても $P_{H_0}(X\in R)$ は $\frac{\text{整数}}{1024}$ の形である。$0.05\times1024=51.2$ は整数でないので、$P_{H_0}(X\in R)=0.05$ となる $R$ は存在しない。$\square$
2 は「$Z$ がちょうど標準正規分布に従う」という仮定のもとの主張である。硬貨の検定の $Z=\frac{X-200}{10}$ は近似的にしか正規分布に従わないので、第 1 種の誤りの確率も近似的にしか $0.05$ にならない。
硬貨を $n$ 回投げ、$\bigl|\frac{X-n/2}{\sqrt n/2}\bigr|\ge1.96$ で棄却する検定を考える。公平な硬貨で棄却してしまう確率(第 1 種の誤りの確率)を、二項分布で厳密に計算すると次のようになる。
| $n$ | 棄却域 | 第 1 種の誤りの確率 |
|---|---|---|
| $100$ | $X\ge60$ または $X\le40$ | $0.0568\ldots$ |
| $400$ | $X\ge220$ または $X\le180$ | $0.0510\ldots$ |
| $1600$ | $X\ge840$ または $X\le760$ | $0.0482\ldots$ |
$n=100$、$400$ では $0.05$ をわずかに超える。つまり、この棄却域は厳密には有意水準 $5\%$ の検定になっていない。$n$ を大きくすると $0.05$ に近づく(二項分布から正規分布へ の de Moivre–Laplace の定理による)。
帰無仮説のもとでの分布が式で計算しにくいときは、計算機の乱数で帰無仮説のもとの試行(ここでは公平な硬貨を $n$ 回投げること)を何千回も再現し、棄却域に入った割合で本当の有意水準を見積もることもできる。次の節の $p$ 値も、観測値と同じかそれより極端な結果が出た割合として同じように見積もれる(乱数とシミュレーション。区間推定(高校数学) の図2 も乱数による再現である)。
棄却域を決めて「棄却する・しない」だけを答える代わりに、観測値がどのくらい極端かを数で報告することも多い。
$H_0$ が正しいとしたとき、検定統計量が観測値と同じか、それより(対立仮説の向きに)極端な値をとる確率を、観測値の $p$ 値 という。両側検定では、$Z$ の観測値が $z$ のとき $p$ 値は $P(|Z|\ge|z|)$ である。
$P(|Z|\ge t)$ は $t$ が大きいほど小さいので、両側検定で「$|z|\ge1.96$」と「$p$ 値 $\le P(|Z|\ge1.96)$」は同じ条件である($P(|Z|\ge1.96)=0.04999\ldots\approx0.05$)。つまり「$p$ 値が有意水準以下なら棄却する」と言い換えられる。
ここまでの検定は、表が多すぎる場合も少なすぎる場合も棄却した(両側検定)。「表が出やすい」ことだけを疑っているなら、棄却域を右側だけに置く。
対立仮説を $H_1$:$p>\frac12$ のように一方向に決め、棄却域をその向きの端だけに置く検定を 片側検定 という。$Z$ がおよそ標準正規分布に従うとき、有意水準 $5\%$ の片側検定の棄却域は $z\ge1.645$ である($P(Z\ge1.645)=0.0499\ldots$)。対立仮説の向きは、データを見る前に決めなければならない(ex-htst-post-hoc)。
硬貨を $400$ 回投げて表が $217$ 回出た。$z=\frac{217-200}{10}=1.7$ である。
図2:標準正規分布と、有意水準 5% の棄却域(赤)。左は両側検定、右は片側検定。表 217 回(z = 1.7)は片側検定では棄却域に入り、両側検定では入らないことを見る図。
区間推定(高校数学) では、$\bar X\pm1.96\frac{\sigma}{\sqrt n}$ という区間を作った。この区間と両側検定は、同じ不等式を逆から読んだものである。
母標準偏差 $\sigma$ が分かっている母集団から大きさ $n$ の無作為標本をとり、標本平均の値 $\bar x$ を得たとする。帰無仮説 $H_0$:$\mu=\mu_0$ を、検定統計量 $Z=\dfrac{\bar X-\mu_0}{\sigma/\sqrt n}$ と棄却域 $|z|>1.96$ で検定する(端点 $|z|=1.96$ を棄却域に入れない約束。理由は証明の段 3)。このとき、次の 2 つは同値である。
方針:「棄却しない」と「区間に含まれる」が同値であることを示す。どちらも否定をとれば 1 と 2 の同値になる。$d:=\frac{\sigma}{\sqrt n}>0$ とおく。
段 1(棄却しない条件)。棄却域が $|z|>1.96$ なので、棄却しないのは $|z|\le1.96$、すなわち $-1.96\le\frac{\bar x-\mu_0}d\le1.96$ のときである。$d>0$ を各辺に掛けても向きは変わらないので、これは $-1.96d\le\bar x-\mu_0\le1.96d$ と同値である。
段 2($\mu_0$ について解く)。右側の $\bar x-\mu_0\le1.96d$ は、両辺に $\mu_0-1.96d$ を足して $\bar x-1.96d\le\mu_0$ と同値である。左側の $-1.96d\le\bar x-\mu_0$ は、両辺に $\mu_0+1.96d$ を足して $\mu_0\le\bar x+1.96d$ と同値である。よって、棄却しないことは $\bar x-1.96d\le\mu_0\le\bar x+1.96d$、すなわち $\mu_0$ が信頼区間に含まれることと同値である。
段 3(否定と端点)。段 1・段 2 の否定をとると、「棄却する」と「$\mu_0$ が信頼区間に含まれない」が同値になる。これが主張である。信頼区間は端点を含む閉区間なので、端点 $\mu_0=\bar x\pm1.96d$($|z|=1.96$)は「区間に含まれる」側に入る。棄却域を $|z|\ge1.96$ とすると端点が「棄却する」側に入り、端点だけで対応がずれる。そのため棄却域を $|z|>1.96$ とした。正規分布では 1 点の確率は $0$ なので、この違いで第 1 種の誤りの確率は変わらない。$\square$
高校の教科書は棄却域を $|z|\ge1.96$ と書くことが多い。観測値がちょうど $\pm1.96$ になることはほとんどないので、実際の判断は変わらない。
区間推定(高校数学) の製品の例($\sigma=2$、$n=100$、$\bar x=50.3$)では、信頼区間は $[49.908,\ 50.692]$ であった。$d=0.2$ である。
母比率の検定では、ex-htst-coin220 のように分母に帰無仮説の値から計算した $\sqrt{p_0(1-p_0)/n}$ を使い、信頼区間では $\hat p$ から計算した $\sqrt{\hat p(1-\hat p)/n}$ を使う。分母が違うので、thm-htst-duality の対応は境目の近くでは正確には成り立たない。表 $220$ 回の場合は、信頼区間 $0.55\pm1.96\sqrt{0.55\cdot0.45/400}$、すなわち $[0.5012\ldots,\ 0.5987\ldots]$ が $0.5$ を含まず、検定の結論(棄却)と一致する。
母比率の検定で帰無仮説を $p=p_0$($0< p_0<1$)とし、標本比率の観測値 $\hat p$ が $\hat p\ne p_0$ であるとする。検定統計量の値は
$$
z=\frac{\hat p-p_0}{\sqrt{p_0(1-p_0)/n}}=\frac{(\hat p-p_0)\sqrt n}{\sqrt{p_0(1-p_0)}}
$$
であり、有意水準 $5\%$ の両側検定で棄却される($|z|\ge1.96$)のは
$$
n\ge\frac{1.96^2\,p_0(1-p_0)}{(\hat p-p_0)^2}
$$
のとき、かつそのときに限る。
段 1。$X=n\hat p$ を表の回数とすると、$H_0$ のもとで $E(X)=np_0$、$\sigma(X)=\sqrt{np_0(1-p_0)}$ なので、$z=\frac{n\hat p-np_0}{\sqrt{np_0(1-p_0)}}$ である。分子と分母を $n$ で割り、$\frac{\sqrt{n}}{n}=\frac1{\sqrt n}$ を使うと上の 2 つの式になる。
段 2。$|z|$ も $1.96$ も $0$ 以上なので、$|z|\ge1.96$ は両辺を 2 乗した $z^2\ge1.96^2$ と同値である。$z^2=\frac{(\hat p-p_0)^2n}{p_0(1-p_0)}$ で、$\frac{(\hat p-p_0)^2}{p_0(1-p_0)}>0$ なので、両辺をこの正の数で割って $n\ge\frac{1.96^2p_0(1-p_0)}{(\hat p-p_0)^2}$ と同値である。$\square$
帰無仮説 $p_0=\frac12$ で、標本比率が $\hat p=0.51$ だったとする。$\sqrt{p_0(1-p_0)}=\frac12$ なので $z=0.01\sqrt n\cdot2=0.02\sqrt n$ である。
逆に、本当に差があっても、標本が小さいと見逃しやすい。検出力は、正規近似でも二項分布の厳密な計算でも求められる。
$400$ 回投げて「$X\ge220$ または $X\le180$」で棄却する検定(ex-htst-framework の 1)で、本当は $p=0.55$ だとする。$X$ の期待値は $220$、標準偏差は $\sqrt{400\cdot0.55\cdot0.45}=9.949\ldots$ である。正規近似では、連続補正なしで
$$
P(X\ge220)\approx P\Bigl(Z\ge\frac{219.6-220}{9.949\ldots}\Bigr)=P(Z\ge-0.040\ldots)=0.516\ldots
$$
(棄却域の境目 $z=1.96$ を $X$ に直した値 $200+1.96\cdot10=219.6$ を使った。連続補正なし)で、反対側の $P(X\le180)$ は $0.0001$ より小さい。二項分布で厳密に計算すると検出力は $0.520\ldots$ である。表の出る確率が $0.55$ の硬貨を、$400$ 回では半分近く見逃す。
同じ検定で、$p=0.6$ なら検出力は $0.981\ldots$ である。$n=1600$ にすると(棄却域 $X\ge840$ または $X\le760$)、$p=0.55$ での検出力は $0.978\ldots$ に上がる。$n=100$ では $0.184\ldots$ しかない(図3、いずれも二項分布による厳密な計算)。
図3:硬貨を n 回投げて有意水準 5% の両側検定をしたとき、帰無仮説 p = 1/2 を棄却する確率(検出力曲線)。p = 1/2 での高さが第 1 種の誤りの確率(約 0.05)、それ以外での高さが検出力で、n が大きいほど小さなずれを見つけやすいことを見る図。
仮説検定は、読み方を誤ったり、手順の前提を崩したりすると、第 1 種の誤りの保証(thm-htst-level)が意味を失う。
| 外した前提・誤った読み方 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 「棄却しない」を「帰無仮説が正しい」と読む | 帰無仮説の正しさ | ex-htst-not-reject |
| $p$ 値を「帰無仮説が正しい確率」と読む | 「棄却した仮説が正しい確率は $5\%$ 以下」 | ex-htst-pvalue-bayes |
| 片側の向きをデータを見る前に決める | 第 1 種の誤りの確率が $\alpha$ 以下 | ex-htst-post-hoc |
| 検定を 1 回だけ行う | 「どこかで誤る確率」が $\alpha$ 以下 | ex-htst-multiple |
| 正規近似が十分よい | 境目での結論 | ex-htst-continuity |
| (読み方の誤り)「有意」を「差が大きい」と読む | 差の大きさ | ex-htst-large-n |
ex-htst-ten で表が $8$ 回のとき、帰無仮説(公平)は棄却しなかった。しかし本当は $p=0.7$ でも、表が $8$ 回以上出る確率は
$$
P(X\ge8)=\binom{10}8\,0.7^8\,0.3^2+\binom{10}9\,0.7^9\,0.3+0.7^{10}=0.3827\ldots
$$
で、決して珍しくない。ex-htst-errors-ten で見たとおり、この検定は $p=0.7$ の硬貨を $85\%$ の確率で見逃す。棄却しないことは、「このデータでは公平でないと言い切れない」という意味で、「公平である」ことの証拠にはならない。
満たさない前提:検出力が十分大きいこと。破る主張:「棄却しなかった帰無仮説は正しい」。
$1000$ 枚の硬貨があり、$900$ 枚は公平、$100$ 枚は表の確率が $0.6$ だとする。無作為に 1 枚選んで $400$ 回投げ、ex-htst-framework の 1 の検定をする。ex-htst-level-exact と ex-htst-power の厳密な値から
「$z>0$ なら右側、$z<0$ なら左側の片側検定を、それぞれ有意水準 $5\%$ で行う」という手順を考える。これは「$z\ge1.645$ または $z\le-1.645$ なら棄却」と同じなので、公平な硬貨で棄却する確率は
$$
P(|Z|\ge1.645)=2\times0.0499\ldots=0.0999\ldots
$$
で、約 $10\%$ になる。有意水準 $5\%$ と言いながら、第 1 種の誤りの確率は 2 倍である。
満たさない前提:対立仮説の向きをデータの前に決めること。破る主張:thm-htst-level の 1(第 1 種の誤りの確率は $\alpha$ 以下)。
公平な硬貨 $20$ 枚について、それぞれ独立に第 1 種の誤りの確率がちょうど $0.05$ の検定を行う。少なくとも 1 枚で「公平でない」と誤って棄却する確率は、余事象(1 枚も棄却しない)を考えて
$$
1-0.95^{20}=0.641\ldots
$$
である。1 回ごとの誤りは $5\%$ でも、$20$ 回行えば、どこかで誤る確率は $64\%$ を超える。たくさんの検定のうち「有意」になったものだけを報告すると、偶然を発見と取り違えやすい。
満たさない前提:検定を 1 回だけ行うこと。破る主張:「誤って棄却する確率は $5\%$ 以下」を、検定の全体について読むこと。対策は rem-htst-multiple で述べる。
ex-htst-coin220 の表 $220$ 回は、$z=2.0$ で棄却された。しかし
第 1 種の誤りの確率が同じ値以下の検定の中で、検出力が最も大きい検定はどれか。帰無仮説と対立仮説がどちらも分布を 1 つに決める場合(たとえば $H_0$:$p=\frac12$、$H_1$:$p=0.6$)、観測値 $x$ の起こりやすさの比(尤度比)
$$
\frac{P_{H_1}(X=x)}{P_{H_0}(X=x)}
$$
がある値以上になる $x$ をすべて棄却域に入れた検定は、第 1 種の誤りの確率がそれ以下のどの検定と比べても、検出力が大きいか等しい。これが Neyman–Pearsonの補題 である(NP33。本記事では証明しない)。「最もよい」と言うときに比べる相手は、第 1 種の誤りの確率がそれ以下の検定に限られる。値が離散的な分布では第 1 種の誤りの確率をちょうど $\alpha$ にできないことが多い(thm-htst-level の 3)ので、「有意水準をちょうど $\alpha$ にそろえて比べる」とは言えない。
硬貨を $n$ 回投げて表が $x$ 回なら、この比は
$$
\frac{\binom nx0.6^x0.4^{n-x}}{\binom nx0.5^x0.5^{n-x}}=1.2^x\cdot0.8^{n-x}=0.8^n\cdot1.5^x
$$
で、$x$ が大きいほど大きい。したがって棄却域は「$x$ が大きい側」になり、右側の片側検定が最良である。これが def-htst-one-sided で右側だけに棄却域を置いた理由である。
ex-htst-multiple の問題には、$m$ 回の検定をそれぞれ有意水準 $\frac\alpha m$ で行うという対策がある(Bonferroni の補正)。$i$ 回目の検定で誤って棄却する事象を $A_i$ とすると、確率の性質 $P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)\le P(A)+P(B)$ をくり返し使って
$$
P(A_1\cup\dots\cup A_m)\le P(A_1)+\dots+P(A_m)\le m\cdot\frac\alpha m=\alpha
$$
となる。この評価は検定どうしが独立でなくても成り立つ。$m=20$、$\alpha=0.05$ なら各検定を $0.0025$ で行い、独立な場合の「どこかで誤る確率」は $1-(1-0.0025)^{20}=0.0488\ldots\le0.05$ である。
大学の統計学では、p値・検出力 を一般の母数について定義し、Neyman–Pearsonの補題 から尤度比検定へ進む。母標準偏差が分からない小さい標本では t 分布を使う検定(t 検定)が、多くの検定を同時に行う場面では 多重比較 の方法が使われる。「帰無仮説を仮定して矛盾(起こりにくさ)を導く」という形は 背理法 に似ているが、背理法が本当の矛盾を導くのに対し、検定は「起こりにくい」ことしか示さないので、結論には必ず誤りの確率が伴う。背理法を含む論理の基本は 集合と論理:必要条件・十分条件 で扱う。
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