Haar測度

同義語:Haar measureハール測度

概要

Haar測度(Haar measure)とは、局所コンパクト Hausdorff 群の上の、左移動で不変な $0$ でない Radon 測度(左 Haar 測度)のことであり、Euclid 空間の Lebesgue 測度や離散群の数え上げ測度を一般の群に広げたものである。局所コンパクト群には左 Haar 測度が正の定数倍を除いてただ 1 つ存在する。コンパクト群では、被覆の効率を比べる汎関数の極限と表現定理で存在を、積分の順序交換で一意性を示せ、全体の測度を $1$ にした Haar 測度は左右の移動と逆元で不変になる。一方、$x\mapsto ax+b$ の群では左右の Haar 測度が異なり、$\mathbb{Q}$ や $\ell^2$ のように局所コンパクトでない群には Haar 測度がない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相群, Riesz–Markov–角谷の表現定理, Radon測度

Haar測度(Haar measure)とは、局所コンパクトな Hausdorff 位相群の上の、群の左移動で不変な $0$ でない Radon測度 のことである。実数直線の Lebesgue測度 が平行移動で不変であることを、一般の群に移したものと言える。$\mathbb{R}^n$ では Lebesgue 測度、離散群では数え上げ測度、円周では弧の長さが Haar 測度になる。
局所コンパクト Hausdorff 群には左 Haar 測度が存在し、正の定数倍を除いて一意である。この定理によって、群の上で関数を「平行移動に依らないように」積分できるようになり、群上の調和解析や表現論(局所コンパクト群のユニタリ表現、Pontryagin双対)の出発点になる。一般の場合の証明は長いので、この記事では一般の定理を文献から引き、コンパクト群の場合に存在と一意性を完全に証明する。存在の証明では、関数を小さな台の関数の平行移動で覆うときの「被覆の効率」を比べ、その極限として不変な積分を作り、Riesz–Markov–角谷の表現定理 で測度に直す。一意性は、左不変な測度と右不変な測度を積分の順序交換で比べて示す。
コンパクト群では Haar 測度は全体の測度が有限で、$1$ に正規化した測度は左右どちらの移動でも、逆元をとる写像でも不変になる。局所コンパクトでない群(有理数の加法群や無限次元 Hilbert 空間)には Haar 測度がなく、コンパクトでない群では左右の Haar 測度が一致しないことがある。

定義

以下、$G$ は位相群(位相群)で、単位元を $e$ と書く。$x\in G$ と $E\subset G$ について $xE:=\{xy\mid y\in E\}$、$Ex:=\{yx\mid y\in E\}$、$E^{-1}:=\{y^{-1}\mid y\in E\}$ とおく。左移動 $y\mapsto xy$、右移動 $y\mapsto yx$、逆元 $y\mapsto y^{-1}$ は $G$ の同相写像である(位相群 の命題「平行移動と逆元の同相性」)ので、Borel 集合を Borel 集合に移す。$G$ が局所コンパクト Hausdorff 空間(局所コンパクト空間)のとき、$G$ を局所コンパクト群という。
$\mathcal{B}(G)$ を $G$ の Borel 集合の全体、$C_c(G)$ を台がコンパクトな実数値連続関数の全体とする。関数 $f$ と $x\in G$ について、左移動を $(\ell_xf)(y):=f(x^{-1}y)$ と書く。$\ell_x\ell_{x'}=\ell_{xx'}$ であり、$f=1_E$ なら $\ell_x1_E=1_{xE}$ である。

Haar測度

$G$ を局所コンパクト群とする。$\mathcal{B}(G)$ 上の $0$ でない Radon 測度 $\mu$(Radon測度)が、すべての $E\in\mathcal{B}(G)$ と $x\in G$ について
$$ \mu(xE)=\mu(E) $$
を満たすとき、$\mu$ を $G$ の左 Haar 測度という。$\mu(Ex)=\mu(E)$ を満たすものを右 Haar 測度という。

可換群では左右の区別はない。局所コンパクト群のユニタリ表現 の定義「左Haar測度」と同じ定義である。左 Haar 測度 $\mu$ があれば、$\tilde\mu(E):=\mu(E^{-1})$ は右 Haar 測度である。$(Ex)^{-1}=x^{-1}E^{-1}$ なので $\tilde\mu(Ex)=\mu(x^{-1}E^{-1})=\tilde\mu(E)$ であり、逆元をとる写像は同相写像なので Radon 測度の条件も保たれるからである。
測度の不変性は、積分の不変性と言い換えられる。

積分による言い換え

$\mu$ を局所コンパクト群 $G$ の Radon 測度とする。次は同値である。

  1. $\mu$ は左移動で不変である:すべての $E\in\mathcal{B}(G)$、$x\in G$ で $\mu(xE)=\mu(E)$。
  2. すべての $f\in C_c(G)$、$x\in G$ で $\displaystyle\int_Gf(x^{-1}y)\,d\mu(y)=\int_Gf\,d\mu$。
    右移動についても同様である(2 は $\int f(yx)\,d\mu(y)=\int f\,d\mu$ に替える)。

$x\in G$ を固定し、$\mu_x(E):=\mu(xE)$ とおく。左移動 $T(y):=xy$ は同相写像なので、$\mu_x$ も Radon 測度であり、$\mu_x$ は $\mu$ の $T^{-1}$ による像測度である。像測度の積分の公式から、非負 Borel 関数 $f$ について $\int f\,d\mu_x=\int f(x^{-1}y)\,d\mu(y)$ が成り立つ($f=1_E$ なら両辺は $\mu(xE)$ であり、単関数の極限に移る)。
1 ⇒ 2:$\mu_x=\mu$ なので、$f\in C_c(G)$ を正の部分と負の部分に分けて上の公式を使えばよい。2 ⇒ 1:2 は $\mu_x$ と $\mu$ が $C_c(G)$ 上で同じ正値線形汎関数を表すことを言っている。Riesz–Markov–角谷の表現定理 の定理「Riesz–Markov–角谷の表現定理」の後半(Radon 測度の一意性)により $\mu_x=\mu$ である。右移動についても同じ。$\square$

基本的な性質

$\mu$ を局所コンパクト群 $G$ の左 Haar 測度とする。

  1. 空でない開集合 $U$ について $\mu(U)>0$ である。
  2. $f\in C_c(G)$、$f\ge0$、$f\ne0$ なら $\int f\,d\mu>0$ である。
  3. $\mu(G)<\infty$ であることと、$G$ がコンパクトであることは同値である。

要点:1 は有限個の平行移動でコンパクト集合を覆う。3 の「有限ならコンパクト」は、コンパクトでなければ互いに交わらない平行移動を無限個並べられることによる。

証明を開く

1.$\mu(U)=0$ とする。$u_0\in U$ を固定する。コンパクト集合 $K$ は、$x$ を含む開集合 $xu_0^{-1}U$($x\in K$)の有限個で覆えるので、$\mu(K)\le\sum\mu(xu_0^{-1}U)=0$ である。$\mu$ は開集合 $G$ で内部正則なので $\mu(G)=\sup_K\mu(K)=0$ となり、$\mu\ne0$ に反する。

2.$f(x_0)>0$ とすると、開集合 $U:=\{f>f(x_0)/2\}$ は空でなく、$f\ge\frac{f(x_0)}2 1_U$ なので $\int f\,d\mu\ge\frac{f(x_0)}2\mu(U)>0$。

3.$G$ がコンパクトなら Radon 測度の定義(コンパクト集合で有限)から $\mu(G)<\infty$。$G$ がコンパクトでないとする。閉包がコンパクトな $e$ の開近傍 $W$ を $W=W^{-1}$ ととる(位相群 の命題「対称な近傍の存在」で縮める)。$\overline{WW}\subset\overline W\,\overline W$ はコンパクトなので、有限個の $x_i\overline{W}\,\overline{W}$ の和は $G$ にならない。そこで $x_1:=e$、$x_{n+1}\notin\bigcup_{i\le n}x_iWW$ と選ぶ。$i< j$ で $x_iw=x_jw'$($w,w'\in W$)なら $x_j=x_iww'^{-1}\in x_iWW$ となり矛盾するので、$x_iW$ は互いに交わらない。よって $\mu(G)\ge\sum_n\mu(x_nW)=\sum_n\mu(W)=\infty$(1 より $\mu(W)>0$)。$\square$

存在と一意性

Haar測度の存在と一意性

局所コンパクト群 $G$ には左 Haar 測度が存在する。$\mu,\mu'$ が左 Haar 測度なら、ある $c>0$ で $\mu'=c\mu$ となる。右 Haar 測度についても同じである。

積分の存在と一意性からの導出

Sal20 Theorem 8.14(p. 265)は、$C_c(G)$ 上の左不変で $0$ でない正値線形汎関数(左 Haar 積分)が存在し、正の定数倍を除いて一意であることを示している(証明は同書 pp. 268–275)。この汎関数を Riesz–Markov–角谷の表現定理 で表す Radon 測度は、prop-haar-integral により左 Haar 測度である。逆に左 Haar 測度 $\mu$ の積分 $f\mapsto\int f\,d\mu$ は左 Haar 積分であり($\mu\ne0$ と内部正則性から $0$ でない)、表現定理の一意性により測度は汎関数で決まるので、測度の一意性も積分の一意性から従う。右 Haar 測度は $\tilde\mu(E)=\mu(E^{-1})$ で左 Haar 測度と 1 対 1 に対応する。$\square$

測度の形の主張は Sal20 Theorem 8.12(p. 264)にもある。ただし同書の Radon 測度はすべての Borel 集合で内部正則なものを指し、この記事(Radon測度 の定義)とは流儀が異なる(Radon測度 の注意「定義の流儀」)ので、上では積分の形の定理から導いた。左 Haar 測度 $\mu$ を右から平行移動した $E\mapsto\mu(Ex)$ も左 Haar 測度なので、一意性から $\mu(Ex)=\Delta(x)\mu(E)$ となる $\Delta(x)>0$ がある。この $\Delta$ がモジュラー関数であり、局所コンパクト群のユニタリ表現 で扱われている(同記事では $\mu(Eg^{-1})=\Delta(g)^{-1}\mu(E)$ の形で書かれている)。下の ex-haar-ax-plus-b の群では $\Delta(a,b)=a^{-1}$ である。

例

例では、$C_c(G)$ 上の正値線形汎関数 $\Lambda$ を積分で与え、その左不変性 $\Lambda(\ell_xf)=\Lambda(f)$ を変数変換で確かめる。Riesz–Markov–角谷の表現定理 で $\Lambda$ を表す Radon 測度は、prop-haar-integral により左 Haar 測度である。

実数・Euclid空間・離散群
  1. $G=\mathbb{R}$ では、Riemann 積分 $\Lambda f=\int f(x)\,dx$ を表す測度は Lebesgue 測度 $\lambda$ の Borel 集合への制限である(Riesz–Markov–角谷の表現定理 の例「Riemann積分とLebesgue測度」)。$\int f(x-t)\,dx=\int f(x)\,dx$ なので、$\lambda$ は Haar 測度である。$\mathbb{R}^n$ でも同じく Lebesgue 測度が Haar 測度である。
  2. 離散群 $G$(すべての部分集合が開集合)では、数え上げ測度 $\mu(E):=\lvert E\rvert$ が Haar 測度である。コンパクト集合は有限集合なので測度は有限、すべての集合が開集合なので外部正則、開集合 $U$ の測度は有限部分集合の測度の上限なので内部正則であり、$\lvert xE\rvert=\lvert E\rvert$ である。$G$ が有限群なら $\mu/\lvert G\rvert$ が全体の測度 $1$ の Haar 測度である。
円周群と正の実数の乗法群
  1. 円周群 $\mathbb{T}=\{z\in\mathbb{C}\mid\lvert z\rvert=1\}$(円周群)では、$\Lambda f:=\int_0^1f(e^{2\pi i\theta})\,d\theta$ が回転で不変である。$a\in\mathbb{R}$ について $g(\theta):=f(e^{2\pi i\theta})$ は周期 $1$ の連続関数なので $\int_0^1g(\theta-a)\,d\theta=\int_0^1g(\theta)\,d\theta$ だからである。表す測度は弧の長さを $2\pi$ で割ったものであり、全体の測度は $1$ である。
  2. 正の実数の乗法群 $\mathbb{R}_{>0}$ では、$\Lambda f:=\int_0^\infty f(t)\,\frac{dt}{t}$ が不変である。$a>0$ について $t=as$ と置換すると $\int_0^\infty f(a^{-1}t)\frac{dt}t=\int_0^\infty f(s)\frac{ds}s$ となる。区間 $[a,b]$($0< a< b$)の測度は $\log(b/a)$ である。$\log\colon\mathbb{R}_{>0}\to\mathbb{R}$ は位相群の同型で、この測度を $\mathbb{R}$ の Lebesgue 測度に移す。
左右の Haar 測度が異なる群

$G:=\{(a,b)\mid a>0,\ b\in\mathbb{R}\}$ に積 $(a,b)(c,d):=(ac,\ ad+b)$ を入れる。これは実数直線の変換 $x\mapsto ax+b$ の合成に対応し($x\mapsto a(cx+d)+b$)、単位元は $(1,0)$、逆元は $(a,b)^{-1}=(a^{-1},-a^{-1}b)$ である。$\mathbb{R}^2$ の開集合 $(0,\infty)\times\mathbb{R}$ の位相で局所コンパクト群になる。このとき
$$ \Lambda_{\mathrm{L}}f:=\iint f(c,d)\,\frac{dc\,dd}{c^2},\qquad\Lambda_{\mathrm{R}}f:=\iint f(c,d)\,\frac{dc\,dd}{c} $$
はそれぞれ左不変、右不変であり、$\Lambda_{\mathrm{L}}$ は右不変でない。したがって左 Haar 測度 $\mu_{\mathrm{L}}$ は右 Haar 測度でなく、$\mu_{\mathrm{L}}(Ex)=a^{-1}\mu_{\mathrm{L}}(E)$($x=(a,b)$)である。
確かめ:要点は、左移動 $z\mapsto xz$ が行列式 $a^2$、右移動 $y\mapsto yx$ が行列式 $a$ のアフィン写像であることである。

計算を開く

$x=(a,b)$ とする。左移動 $z=(c',d')\mapsto xz=(ac',ad'+b)$ は線形部分 $\operatorname{diag}(a,a)$、行列式 $a^2$ のアフィン写像なので、置換 $y=xz$ で $dy=a^2\,dz$(Tao11 Exercise 1.2.21、p. 41 の線形変換による Lebesgue 測度の変化と平行移動不変性)、重みは $y_1^{-2}=(ac')^{-2}$ である。よって $\Lambda_{\mathrm{L}}(\ell_xf)=\iint f(x^{-1}y)\,y_1^{-2}\,dy=\iint f(z)(ac')^{-2}a^2\,dz=\Lambda_{\mathrm{L}}f$。右移動 $y=(c,d)\mapsto yx=(ca,cb+d)$ は線形部分 $\begin{pmatrix}a&0\\b&1\end{pmatrix}$、行列式 $a$ なので、$z=yx$ と置換すると $dz=a\,dy$、$c=z_1/a$ であり、$\iint f(yx)\,c^{-2}\,dy=\iint f(z)\,a^2z_1^{-2}\,a^{-1}\,dz=a\,\Lambda_{\mathrm{L}}f$ となる。$a\ne1$ なら $\Lambda_{\mathrm{L}}f\ne0$ となる $f\ge0$ で両辺が異なる(prop-haar-basic の 2)。同じ置換で $\iint f(yx)\,c^{-1}\,dy=\iint f(z)\,(z_1/a)^{-1}a^{-1}\,dz=\Lambda_{\mathrm{R}}f$。最後の式 $\mu_{\mathrm{L}}(Ex)=a^{-1}\mu_{\mathrm{L}}(E)$ は、$f=1_E$ の場合の $\iint1_E(yx^{-1})c^{-2}dy$ の計算($x^{-1}=(a^{-1},\cdot)$ について同じ置換)による。

コンパクト群の Haar 測度

この節では $G$ をコンパクト Hausdorff 群とし、存在と一意性を証明する。$G$ はコンパクトなので $C_c(G)=C(G)$ であり、$\|f\|:=\max_G\lvert f\rvert$ と書く。$C_+(G)$ を値が $0$ 以上の連続関数の全体とする。

コンパクト群のHaar測度の存在

コンパクト Hausdorff 群 $G$ には、$\mu(G)=1$ となる左 Haar 測度 $\mu$ が存在する。

要点:$e$ の近くに台をもつ関数 $g$ を 1 つ固定し、$f$ を $g$ の左移動の正係数の和で上から覆うときの係数の和の下限 $(f:g)$ を考える。正規化した $I_g(f):=(f:g)/(1:g)$ は左不変・単調・劣加法的で、$g$ の台を小さくすると加法性の誤差が小さくなる。$g$ の台を縮める方向の超フィルター極限をとると、左不変な正値線形汎関数が得られ、表現定理で測度に直す。
段 1:被覆数.$e$ の開近傍 $U$ について、$g\in C_+(G)$ で $0\le g\le1$、$g(e)=1$、$\operatorname{supp}g\subset U$ となるものがある(Riesz–Markov–角谷の表現定理 の補題「局所コンパクト空間のUrysohnの補題」を $K=\{e\}$ に当てる)。このような $g$ を試験関数と呼ぶ。$f\in C_+(G)$ と試験関数 $g$ について
$$(f:g):=\inf\Bigl\{\sum_{i=1}^mc_i\Bigm|m\ge0,\ c_i\ge0,\ x_i\in G,\ f\le\sum_{i=1}^mc_i\,\ell_{x_i}g\Bigr\}$$
とおく。開集合 $\{g>\frac12\}$ は $e$ を含むので、その左移動 $x\{g>\frac12\}$ の全体は $G$ を覆い、コンパクト性から有限個 $x_1,\dots,x_m$ で覆える。すると $\sum_i2\ell_{x_i}g\ge1$ なので $f\le\sum_i2\|f\|\ell_{x_i}g$ であり、$(f:g)<\infty$。また $1\le\sum c_i\ell_{x_i}g$ なら各点で $1\le\sum c_i$($g\le1$)なので $(1:g)\ge1$。$I_g(f):=(f:g)/(1:g)$ とおく。
段 2:基本性質.被覆の定義から次がすぐわかる:$f\le h$ なら $I_g(f)\le I_g(h)$。$c\ge0$ なら $I_g(cf)=cI_g(f)$。2 つの被覆を並べれば $I_g(f+h)\le I_g(f)+I_g(h)$。被覆に $\ell_a$ を施すと $\ell_a\ell_{x}g=\ell_{ax}g$ なので $(\ell_af:g)\le(f:g)$、$a^{-1}$ についても同じなので $I_g(\ell_af)=I_g(f)$。$I_g(1)=1$。さらに $f\le h+\|f-h\|\cdot1$ から $I_g(f)\le I_g(h)+\|f-h\|$ なので、$\lvert I_g(f)-I_g(h)\rvert\le\|f-h\|$、とくに $0\le I_g(f)\le\|f\|$。
段 3:加法性の誤差.$f,h\in C_+(G)$ で $f+h>0$(各点で)とし、$\varepsilon>0$ とする。$\rho:=f/(f+h)$ は値が $[0,1]$ の連続関数である。$e$ の開近傍 $U$ で、すべての $x\in G$、$u\in U$ について $\lvert\rho(xu)-\rho(x)\rvert<\varepsilon$ となるものがある。実際、$F(x,u):=\rho(xu)-\rho(x)$ は連続で $F(x,e)=0$ なので、各 $x$ に開近傍 $V_x\ni x$、$U_x\ni e$ で $V_x\times U_x$ 上 $\lvert F\rvert<\varepsilon$ となるものがあり、$V_x$ の有限個で $G$ を覆って対応する $U_x$ の共通部分を $U$ とすればよい。$\operatorname{supp}g\subset U$ とし、$f+h\le\sum c_i\ell_{x_i}g$ を被覆とする。$\ell_{x_i}g(y)>0$ なら $x_i^{-1}y\in U$ なので $\lvert\rho(y)-\rho(x_i)\rvert<\varepsilon$ であり、$f=\rho(f+h)$ から各点で
$$f\le\sum_i(\rho(x_i)+\varepsilon)c_i\,\ell_{x_i}g,\qquad h\le\sum_i(1-\rho(x_i)+\varepsilon)c_i\,\ell_{x_i}g$$
となる。よって $(f:g)+(h:g)\le(1+2\varepsilon)\sum c_i$、下限をとって
$$I_g(f)+I_g(h)\le(1+2\varepsilon)I_g(f+h)\le I_g(f+h)+2\varepsilon\|f+h\|.$$
段 4:極限.試験関数とその台を含む近傍の組 $(U,g)$ 全体を $\mathcal{D}$ とし、$e$ の開近傍 $W$ について $\mathcal{T}_W:=\{(U,g)\in\mathcal{D}\mid U\subset W\}$ とおく。$\mathcal{T}_{W_1}\cap\mathcal{T}_{W_2}=\mathcal{T}_{W_1\cap W_2}$ は空でないので、$\mathcal{T}_W$ を含む集合の全体は $\mathcal{D}$ 上のフィルターであり、選択公理によりこれを含む超フィルター $\mathfrak{U}$ がある(超フィルター の定理「超フィルターへの拡張」)。$f\in C_+(G)$ について $(U,g)\mapsto I_g(f)$ は $[0,\|f\|]$ に値をとるので、超フィルター の定理「超フィルター極限」と同じ区間の二分による証明で、極限 $\Phi(f):=\mathfrak{U}\text{-}\lim I_g(f)$ がただ 1 つ定まる(同定理は $\omega$ 上で述べられているが、証明は超フィルターの性質だけを使う)。極限は有限和・正の定数倍・不等式を保つので、$\Phi$ は段 2 の性質(単調、正斉次、劣加法的、左不変、$\Phi(1)=1$、$\lvert\Phi(f)-\Phi(h)\rvert\le\|f-h\|$)をもつ。$f+h>0$ なら、段 3 の $U$ について $\mathcal{T}_U\in\mathfrak{U}$ の上で $I_g(f)+I_g(h)\le I_g(f+h)+2\varepsilon\|f+h\|$ なので $\Phi(f)+\Phi(h)\le\Phi(f+h)+2\varepsilon\|f+h\|$、$\varepsilon\to0$ と劣加法性から $\Phi(f+h)=\Phi(f)+\Phi(h)$。一般の $f,h\in C_+(G)$ では $h$ を $h+\delta$($\delta>0$)に替えて等式を得てから、$\lvert\Phi(h+\delta)-\Phi(h)\rvert\le\delta$ などで $\delta\to0$ とする。
段 5:測度.$f\in C(G)$ について $\Lambda f:=\Phi(f^+)-\Phi(f^-)$ とおく。$f=a-b$($a,b\in C_+(G)$)と別の表し方 $f=c-d$ があれば $a+d=b+c$ と加法性から $\Phi(a)-\Phi(b)=\Phi(c)-\Phi(d)$ なので、$\Lambda$ は表し方によらず、線形で、$f\ge0$ なら $\Lambda f\ge0$、$\Lambda1=1$ である。$(\ell_af)^\pm=\ell_a(f^\pm)$ なので $\Lambda$ は左不変である。Riesz–Markov–角谷の表現定理 により $\Lambda f=\int f\,d\mu$ となる Radon 測度 $\mu$ があり、$\mu(G)=\Lambda1=1$、prop-haar-integral により $\mu$ は左移動で不変である。$\square$

証明で使った極限は、試験関数の台を $e$ に縮めていく極限であり、$I_g$ は「$g$ を単位としたときの $f$ の大きさの見積もり」である。各 $I_g$ ははじめから左不変で、加法性だけが近似的にしか成り立たない。台を小さくすると関数の値の変化が台の上でほぼ一定になり、加法性の誤差が消える。

コンパクト群のHaar測度の一意性

$G$ をコンパクト Hausdorff 群、$\mu$ を $\mu(G)=1$ となる左 Haar 測度とする。

  1. $\mu$ は右移動でも不変であり、すべての Borel 集合 $E$ で $\mu(E^{-1})=\mu(E)$ である。
  2. $G$ の任意の左 Haar 測度は $\mu$ の正の定数倍であり、任意の右 Haar 測度も $\mu$ の正の定数倍である。

要点:左 Haar 確率測度 $\mu'$ と右 Haar 確率測度 $\rho$ について、$\iint f(xy)\,d\mu'(y)\,d\rho(x)$ を 2 通りの順序で計算すると、$\int f\,d\mu'=\int f\,d\rho$ になる。
積分の順序交換.$\alpha,\beta$ を $G$ 上の有限な Borel 測度、$F\in C(G\times G)$ とする。$x\mapsto\int F(x,y)\,d\beta(y)$ と $y\mapsto\int F(x,y)\,d\alpha(x)$ は連続で、
$$\int\Bigl(\int F(x,y)\,d\beta(y)\Bigr)d\alpha(x)=\int\Bigl(\int F(x,y)\,d\alpha(x)\Bigr)d\beta(y)$$
が成り立つ。実際、$g(x)h(y)$($g,h\in C(G)$)の形の関数の有限和の全体 $\mathcal{A}$ は $C(G\times G)$ の部分代数で、定数を含み、点を分離する($G$ はコンパクト Hausdorff なので、異なる 2 点の値が異なる連続関数がある。Riesz–Markov–角谷の表現定理 の補題「局所コンパクト空間のUrysohnの補題」)。Stone–Weierstrassの定理 の定理「Stone–Weierstrassの定理(実数値)」により、$\|F-F_n\|\to0$ となる $F_n\in\mathcal{A}$ がある。$F_n$ については内側の積分は連続関数の有限和で、2 つの累次積分はどちらも $\sum\int g\,d\alpha\int h\,d\beta$ に等しい。$\lvert\int(F-F_n)(x,y)\,d\beta(y)\rvert\le\|F-F_n\|\beta(G)$ なので内側の積分は一様収束し、極限も連続で、累次積分も収束する。
比較.$\mu'$ を $\mu'(G)=1$ となる左 Haar 測度、$\rho$ を $\rho(G)=1$ となる右 Haar 測度とし、$f\in C(G)$、$F(x,y):=f(xy)$ とおく。prop-haar-integral により $\int f(xy)\,d\mu'(y)=\int f\,d\mu'$($x$ によらない)、$\int f(xy)\,d\rho(x)=\int f\,d\rho$($y$ によらない)なので、順序交換から $\int f\,d\mu'=\int f\,d\rho$ である。表現定理の一意性により $\mu'=\rho$。
結論.$\rho(E):=\mu(E^{-1})$ は $\rho(G)=1$ の右 Haar 測度なので、上で $\mu'=\mu$ として $\mu=\rho$、すなわち 1 の後半が従い、$\mu$ は右 Haar 測度 $\rho$ に等しいので右移動でも不変である。左 Haar 測度 $\nu$ は $0<\nu(G)<\infty$(prop-haar-basic)を満たし、$\nu/\nu(G)$ も上の $\mu'$ の条件を満たすので $\nu/\nu(G)=\rho=\mu$。右 Haar 測度 $\nu$ も同様に $\nu/\nu(G)=\mu$(上で $\mu'=\mu$、$\rho=\nu/\nu(G)$ とする)。$\square$

この節の 2 つの定理を合わせると、コンパクト Hausdorff 群には、左右の移動と逆元で不変で全体の測度が $1$ の Radon 測度がただ 1 つある。これを正規化された Haar 測度といい、その積分を群の上の「平均」とみなす(コンパクト群)。有限群では各点に $1/\lvert G\rvert$、p進整数 の加法群 $\mathbb{Z}_p$ では各剰余類 $a+p^n\mathbb{Z}_p$ に $p^{-n}$ を与える測度である(コンパクト群 の例「Haar 測度の例」)。
位相群の定義に Hausdorff 性を含めない流儀(位相群 の定義)では、Hausdorff でないコンパクト群も考えられる。その場合も、Hausdorff な商群を経由して左不変な確率測度が得られる。

Hausdorffでないコンパクト群

$G$ をコンパクトな位相群(Hausdorff とは限らない)とし、$N:=\overline{\{e\}}$、$q\colon G\to Q:=G/N$ を商写像とする。

  1. $G$ のすべての開集合は $N$ の剰余類の和であり、$Q$ はコンパクト Hausdorff 群である。
  2. $G$ の Borel 集合はちょうど $q^{-1}(B)$($B$ は $Q$ の Borel 集合)の形の集合であり、$Q$ の正規化された Haar 測度 $\mu_Q$ について $\nu(q^{-1}(B)):=\mu_Q(B)$ と定めると、$\nu$ は $G$ の Borel 集合の上の左不変な確率測度である。

要点:$N$ は $e$ のすべての近傍に含まれるので、開集合は $N$ の剰余類について飽和しており、$G$ と $Q$ の開集合・Borel 集合は $q$ で 1 対 1 に対応する。

証明を開く

1.$N$ は閉正規部分群である(位相群 の命題「部分群の位相」の 2)。$n\in N$ と $e$ の開近傍 $U$ について、$n^{-1}\in N=\overline{\{e\}}$ なので $n^{-1}$ の近傍 $n^{-1}U$ は $e$ を含み、$n\in U$ である。よって $N\subset U$。開集合 $O$ と $x\in O$ について $x^{-1}O$ は $e$ の開近傍なので $xN\subset O$、すなわち $O=ON=q^{-1}(q(O))$ である。$N$ は閉なので、位相群 の命題「剰余空間の位相」と定理「位相群の分離公理」により $Q$ は Hausdorff な位相群であり、連続な全射の像としてコンパクトである。

2.$q$ は連続なので $q^{-1}(B)$ は Borel 集合である。逆に $\{q^{-1}(B)\mid B\text{ は }Q\text{ の Borel 集合}\}$ は σ-代数であり、1 により $G$ の開集合 $O=q^{-1}(q(O))$($q(O)$ は開集合、位相群 の命題「剰余空間の位相」の 1)をすべて含むので、$G$ の Borel 集合をすべて含む。$q$ は全射なので $q^{-1}(B)$ から $B$ が決まり、互いに交わらない列は互いに交わらない列に対応するので、$\nu$ は確率測度である。$a\in G$ について $a\,q^{-1}(B)=q^{-1}(q(a)B)$ なので、$\nu(a\,q^{-1}(B))=\mu_Q(q(a)B)=\mu_Q(B)$ である。$\square$

$\nu$ は $Q$ の測度を写しただけのものなので、$N$ の内部は測度では区別できない。たとえば密着位相(開集合が $\emptyset$ と $G$ だけ)を入れた群では $N=G$、Borel 集合は $\emptyset$ と $G$ だけである。

応用:非可測集合

Haar 測度は全体の測度が有限で左不変なので、実数の Vitali 集合と同じ議論ができる。無限のコンパクト群 $G$ は可算無限の部分群 $H$ をもち、$H$ の右剰余類の代表系は Haar 測度について可測でない(Vitali集合 の定理「有限の不変測度をもつ群の代表系」と系「無限のコンパクト群」)。GO03 第 8 章 Example 11(p. 94)は、円周での非可測集合の構成が、可算無限の正規部分群をもつコンパクト群に拡張できると述べている。Hausdorff でないコンパクト群でも、prop-haar-non-hausdorff の $\nu$ を使えば、$H$ の像が $Q$ で有限になる場合も含めて、$G$ の中で同じ議論ができる。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件例成り立たなくなること
局所コンパクト性加法群 $\mathbb{Q}$($\mathbb{R}$ からの位相)$0$ でない左不変な Radon 測度がない
局所コンパクト性数列空間 $\ell^2$ の加法群半径 $1$ の開球で有限で平行移動不変な Borel 測度は $0$ だけ
コンパクト性(左右の一致)ex-haar-ax-plus-b の群左 Haar 測度が右不変でない
コンパクト性(全体の測度の有限性)$\mathbb{R}$Haar 測度で全体が $1$ のものがない
表の確かめ

要点:$\mathbb{Q}$ では収束列とその極限からなるコンパクト集合が無限個の点をもつので 1 点の測度が $0$、$\ell^2$ では単位球に半径 $\frac14$ の互いに交わらない球が無限個入る。

確かめを開く

1 行目:$\mu$ を $\mathbb{Q}$ の左不変な(加法群なので平行移動不変な)Borel 測度でコンパクト集合で有限なものとする。1 点の測度 $c:=\mu(\{q\})$ は $q$ によらない。$K:=\{0\}\cup\{1/n\mid n\ge1\}$ はコンパクトで無限個の点をもつので $\infty>\mu(K)\ge\sum_nc$ から $c=0$、$\mathbb{Q}$ は可算なので $\mu(\mathbb{Q})=0$ である。

2 行目:$e_n$ を標準基底とすると、$\|e_n/2-e_m/2\|=\sqrt2/2>\frac12$($n\ne m$)なので開球 $B(e_n/2,\frac14)$ は互いに交わらず、$\frac12+\frac14< 1$ なのですべて $B(0,1)$ に含まれる。平行移動不変な Borel 測度 $\mu$ で $\mu(B(0,1))<\infty$ なら、これらの球の測度は等しく、和が有限なので $0$ である。$\ell^2$ は可分なので、半径 $\frac14$ の可算個の開球で覆え、$\mu(\ell^2)=0$ となる。

3 行目:ex-haar-ax-plus-b で計算した。

4 行目:$\mathbb{R}$ はコンパクトでないので、prop-haar-basic の 3 により Haar 測度の全体の測度は $\infty$ である。

関連項目

参考文献

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