写像の合成(composition of maps)とは、写像 $f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ を順に適用して得られる写像 $g\circ f\colon X\to Z$ である。合成は結合律を満たし、恒等写像を単位元とする。
写像の合成(composition of maps)とは、写像 $f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ を順に適用して得られる写像 $g\circ f\colon X\to Z$ である。合成は結合律を満たし、恒等写像を単位元とする。
合成によって二段階の対応を一つの写像として扱える。適用する順序に注意が必要だが、三つ以上の合成では結合律により括弧の付け方を省略できる。
写像 $f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ に対し、$X$ の各元 $x$ に $Z$ の元 $g(f(x))$ を対応させる写像
$$
g\circ f\colon X\to Z,\qquad (g\circ f)(x)=g(f(x))\quad(x\in X)
$$
を $f$ と $g$ の合成(composition)または合成写像(composite map)という。$f$ の終域と $g$ の定義域が同じ集合 $Y$ であるときに限って定義され、先に施す $f$ を右に書く。
自己写像 $f\colon X\to X$ と非負整数 $n$ に対し、$f$ の $n$ 回反復合成 $f^n\colon X\to X$ を
$$
f^0=\operatorname{id}_X,
\qquad
f^{n+1}=f\circ f^n
$$
によって帰納的に定める。たとえば $f^1=f$、$f^2=f\circ f$、$f^3=f\circ f\circ f$ である。最後の式では合成の結合律により括弧を省略している。
合成を定義するには、先に施す写像の終域と後に施す写像の定義域が一致する必要がある。より一般には、$f(X)$ が $g$ の定義域に含まれるよう終域を取り直す場合もあるが、写像の型を明示せずに式 $g\circ f$ だけを書くと定義可能性を判定できない。
$f,g\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $f(x)=x+1$、$g(x)=x^{2}$ とすると、$(g\circ f)(x)=(x+1)^{2}$、$(f\circ g)(x)=x^{2}+1$ である。$x=1$ で前者は $4$、後者は $2$ なので $g\circ f\neq f\circ g$ であり、合成は一般に交換可能でない。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $f(x)=x+1$ とすると、正の整数 $n$ に対して $f^n(x)=x+n$ である。実際、$n=1$ では定義そのものであり、$f^n(x)=x+n$ ならば
$$
f^{n+1}(x)=f(f^n(x))=f(x+n)=x+n+1
$$
となるので、数学的帰納法で従う。
最初の例は $g\circ f\neq f\circ g$ を示す。さらに一般には、$f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ に対して $g\circ f$ は定義できても、$f\circ g$ は $Z= X$ など型が合う条件なしには定義すらできない。従って「合成の順序を交換する」という主張は、等式が偽になる以前に片方が未定義の場合がある。
合成写像 $g\circ f$ では異なる集合の間の二つの写像を接続できる。一方、$f^n$ は一つの自己写像 $f\colon X\to X$ を繰り返す記法であり、終域と定義域が同じ集合 $X$ であることを使う。したがって、任意の写像 $f\colon X\to Y$ に対して $f^2$ が定義されるわけではない。
合成写像による像は順方向に、逆像は反対方向に段階的に計算できる。
$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ とする。$A\subseteq X$、$C\subseteq Z$ に対して
$$
(g\circ f)(A)=g(f(A)),
$$
$$
(g\circ f)^{-1}(C)=f^{-1}(g^{-1}(C))
$$
が成り立つ。
$z\in(g\circ f)(A)$ であることは、ある $a\in A$ に対して $z=g(f(a))$ となることと同値である。これは、ある $y\in f(A)$ に対して $z=g(y)$ となること、すなわち $z\in g(f(A))$ と同値である。
また任意の $x\in X$ について
$$
x\in(g\circ f)^{-1}(C)
\Longleftrightarrow g(f(x))\in C
\Longleftrightarrow f(x)\in g^{-1}(C)
\Longleftrightarrow x\in f^{-1}(g^{-1}(C))
$$
である。
逆像では $g^{-1}$ を先に取り、その後で $f^{-1}$ を取る。これは元へ写像を施す順序と逆であり、連続写像や可測写像の合成が再び同じ性質をもつことの基礎になる。
$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ とする。
$X=\{0\}$、$Y=\{0,1\}$、$Z=\{0\}$ とし、$f(0)=0$、$g(0)=g(1)=0$ とする。$g\circ f\colon X\to Z$ は全単射だが、$f$ は全射でなく、$g$ は単射でない。従って「合成が単射なら $g$ も単射」「合成が全射なら $f$ も全射」という二つの含意は一般に成り立たない。
$f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ が全単射なら $g\circ f$ も全単射であり、
$$
(g\circ f)^{-1}=f^{-1}\circ g^{-1}
$$
が成り立つ。
全単射性は直前の命題から従う。合成を計算すると
$$
(f^{-1}\circ g^{-1})\circ(g\circ f)
=f^{-1}\circ(g^{-1}\circ g)\circ f
=f^{-1}\circ\operatorname{id}_Y\circ f
=\operatorname{id}_X
$$
である。反対側も
$$
(g\circ f)\circ(f^{-1}\circ g^{-1})
=g\circ(f\circ f^{-1})\circ g^{-1}
=\operatorname{id}_Z
$$
となるので、$f^{-1}\circ g^{-1}$ は $g\circ f$ の逆写像である。
自己写像 $f\colon X\to X$ と非負整数 $m,n$ に対して
$$
f^{m+n}=f^m\circ f^n
$$
が成り立つ。従って同じ自己写像の冪同士については $f^m\circ f^n=f^n\circ f^m$ である。
$n$ を固定し、$m$ に関する帰納法で示す。$m=0$ では
$$
f^{0+n}=f^n=\operatorname{id}_X\circ f^n=f^0\circ f^n
$$
である。$f^{m+n}=f^m\circ f^n$ を仮定すると、定義と結合律から
$$
f^{(m+1)+n}
=f\circ f^{m+n}
=f\circ(f^m\circ f^n)
=(f\circ f^m)\circ f^n
=f^{m+1}\circ f^n
$$
を得る。最後に $m+n=n+m$ を使えば二つの合成順が等しい。
反復合成は力学系の軌道 $x,f(x),f^2(x),\ldots$ を記述する。写像が全単射なら負の整数に対して $f^{-n}:=(f^{-1})^n$ と定められるが、一般の自己写像には負の反復を定義できない。
写像を二項関係としてグラフで表すと、合成写像のグラフは関係の合成
$$
\Gamma_{g\circ f}
=\{(x,z):\text{ある }y\in Y\text{ に対して }(x,y)\in\Gamma_f, (y,z)\in\Gamma_g\}
$$
である。合成の結合律と恒等写像の単位律は、集合と写像が圏をなすための公理である。対象を集合、射を写像とすれば、始域・終域が合う射だけを合成し、恒等写像を各対象の恒等射とする。
定義域を狭める操作は写像の制限、部分集合上の写像を広い定義域へ延ばす操作は写像の拡大で扱う。これらは合成と関係するが、合成そのものとは別の操作である。
合成、結合律・単位律、単射・全射、反復については Hara20(第3章 §§3.1--3.3)、Matsusaka68(第1章 §§3--4, pp. 22--41)を参照した。
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