接吻数

同義語:キッシング数kissing number

概要

接吻数(kissing number)とは、1 つの球に、同じ大きさの球を、どの 2 つも重ならず、どれも中心の球に接するように置くときの個数の最大値である。平面(円)では 6、直線では 2 である。半径 1 の 2 つの球が中心の球に接するとき、重ならない条件は中心から見た角が $60^\circ$ 以上であることである。空間では、面心立方格子の 12 個や正二十面体の頂点の向きの 12 個が置けるので接吻数は 12 以上であり、接点のまわりの角の半径 $30^\circ$ の球冠が重ならないことと球冠の面積から、14 以下である。空間の接吻数がちょうど 12 であること(13 個は置けないこと)の、一般に受け入れられた最初の証明は Schütte と van der Waerden(1953 年)による。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 球の詰め込み, Archimedesの帽子箱定理, ベクトルの内積(高校数学), 余弦定理(高校数学)

高校での出発点:1 枚の硬貨のまわりに何枚接するか

机の上に 1 枚の硬貨を置き、そのまわりに同じ大きさの硬貨を、真ん中の硬貨に接するように並べる。硬貨どうしは重なってはいけない。何枚まで並べられるだろうか。空間でも同じことを考える。1 個のミカンのまわりに、同じ大きさのミカンを接するように置くと、何個まで置けるだろうか。

平面で 6 枚並べる

半径 $1$ の円(硬貨)の中心を原点 $O$ とする。まわりの円が $O$ の円に接するのは、中心の距離が半径の和 $2$ のときなので、まわりの円の中心は $O$ を中心とする半径 $2$ の円の上にある。
中心を $P_k=(2\cos60^\circ k,\,2\sin60^\circ k)$($k=0,1,\dots,5$)にとる。となりの 2 つの中心 $P_0=(2,0)$、$P_1=(1,\sqrt3)$ の距離は
$$ \sqrt{(2-1)^2+(0-\sqrt3)^2}=\sqrt{1+3}=2 $$
で、半径の和 $2$ に等しい。となりの円どうしもちょうど接し、重ならない(となりでない 2 つの円は、$O$ から見た中心の角が $120^\circ$ 以上で、中心の距離は $2\sqrt3$ 以上ある)。こうして 6 枚並べられる(図 1)。6 枚でまわりは隙間なく埋まっている。

半径 1 の円のまわりに、同じ半径の円が 6 つ接する。となりの中心を O から見た角は 60° 半径 1 の円のまわりに、同じ半径の円が 6 つ接する。となりの中心を O から見た角は 60°
平面では 7 枚目の入る隙間はない。空間では、球の詰め込み で調べた面心立方格子の並べ方で、1 つの球に 12 個の球が接していた。では 13 個目は置けるだろうか。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 「何個まで接するか」をどう言い表すか。→ def-kis、lem-kis-angle
  2. 平面では何個か。→ thm-kis-main (1)
  3. 空間では何個か。→ thm-kis-main (2)(12 個以上 14 個以下まで)と rem-kis-13
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    中心から見た角 $\ge60^\circ$接する球の向きの間の角球面の上の点の角距離
    球冠の面積 $2\pi rh$球冠の面積で個数を抑える体積(面積)による上界
    正二十面体の頂点12 個の配置球面符号

言葉の準備:接吻数

接吻数

直線・平面・空間のそれぞれで、1 つの球(直線では線分、平面では円)に、同じ大きさの球を、どの 2 つの内部も共有点をもたず、どれも中心の球に接するように置く。置ける個数の最大値を、その次元の 接吻数(kissing number)という。

直線では、長さ $2$ の線分(半径 $1$ の「球」)の両側に 1 本ずつ置けるだけなので、接吻数は $2$ である。
半径を $1$ にそろえて考える。中心の球の中心を $O$ とすると、それに接する球の中心は $O$ からの距離がちょうど $2$ の点である。重ならないかどうかは、中心から見た角で判定できる。

重ならない条件は $60^\circ$ 以上

半径 $1$ の 2 つの球が、どちらも中心 $O$ の半径 $1$ の球に接しているとし、それらの中心を $P$、$Q$ とする。2 つの球が重ならない(内部が共有点をもたない)のは、$\angle POQ\ge60^\circ$ のときであり、そのときに限る。等号のとき 2 つの球は接する。

余弦定理で距離を書く

$OP=OQ=2$ で、$\theta=\angle POQ$ とおくと、余弦定理(余弦定理(高校数学))により
$$ PQ^2=2^2+2^2-2\cdot2\cdot2\cos\theta=8-8\cos\theta $$
である。2 つの球が重ならないのは $PQ\ge2$、つまり $PQ^2\ge4$ のときで、
$$ 8-8\cos\theta\ge4\iff\cos\theta\le\frac12\iff\theta\ge60^\circ $$
である($0^\circ\le\theta\le180^\circ$ で $\cos$ は減少する)。等号 $\theta=60^\circ$ は $PQ=2$、つまり 2 つの球が接するときである。$\square$

ex-kis-start では、となりの中心を $O$ から見た角がちょうど $60^\circ$ だった。lem-kis-angle により、接吻数を求める問題は「半径 $2$ の球面(平面では円)の上に、$O$ から見てどの 2 つも $60^\circ$ 以上離れた点を、最大で何個置けるか」という問題に言いかえられる。中心の距離ではなく「向き」だけの問題になった。以下では、点 $P$ の代わりに、$O$ から $P$ に向かう長さ $1$ のベクトル(接点の位置ベクトル)で考えることも多い。

主定理:平面では 6、空間では 12 以上 14 以下

空間の上限を示すために、「角の三角不等式」を用意する。2 つの長さ $1$ のベクトル $\vec a,\vec b$ のなす角を $\angle(\vec a,\vec b)$($0^\circ$ 以上 $180^\circ$ 以下)と書く。これは単位球面の上の 2 点の大円距離(球面三角法)にあたる。

角の三角不等式

長さ $1$ の空間のベクトル $\vec a,\vec b,\vec c$ について
$$ \angle(\vec a,\vec c)\le\angle(\vec a,\vec b)+\angle(\vec b,\vec c) $$
である。

$\vec b$ に垂直な成分に分ける

要点:$\alpha=\angle(\vec a,\vec b)$、$\gamma=\angle(\vec b,\vec c)$ とし、$\vec a$ と $\vec c$ を $\vec b$ の向きの成分と $\vec b$ に垂直な成分に分けると、$\vec a\cdot\vec c\ge\cos\alpha\cos\gamma-\sin\alpha\sin\gamma=\cos(\alpha+\gamma)$ となる。$\alpha+\gamma\ge180^\circ$ なら左辺は $180^\circ$ 以下なので成り立ち、そうでなければ $\cos$ が減少することから結論を得る。

詳しい証明を開く

$\alpha+\gamma\ge180^\circ$ なら、左辺は $180^\circ$ 以下なので成り立つ。以下 $\alpha+\gamma<180^\circ$ とする。

$\vec a=\cos\alpha\,\vec b+\vec a'$、$\vec c=\cos\gamma\,\vec b+\vec c'$ とおくと、$\vec a'=\vec a-(\vec a\cdot\vec b)\vec b$ は $\vec b$ に垂直で($\vec a'\cdot\vec b=\vec a\cdot\vec b-\vec a\cdot\vec b=0$)、$\lvert\vec a'\rvert^2=1-\cos^2\alpha=\sin^2\alpha$ より $\lvert\vec a'\rvert=\sin\alpha$ である。同じく $\vec c'\perp\vec b$、$\lvert\vec c'\rvert=\sin\gamma$ である。すると

$$\vec a\cdot\vec c=\cos\alpha\cos\gamma+\vec a'\cdot\vec c'\ge\cos\alpha\cos\gamma-\lvert\vec a'\rvert\lvert\vec c'\rvert=\cos\alpha\cos\gamma-\sin\alpha\sin\gamma=\cos(\alpha+\gamma)$$

である(内積は長さの積の $-1$ 倍以上。ベクトルの内積(高校数学))。$\cos\angle(\vec a,\vec c)=\vec a\cdot\vec c\ge\cos(\alpha+\gamma)$ で、$0^\circ$ から $180^\circ$ の範囲で $\cos$ は減少するので、$\angle(\vec a,\vec c)\le\alpha+\gamma$ である。$\square$

平面と空間の接吻数
  1. 平面の接吻数は $6$ である。
  2. 空間の接吻数は $12$ 以上 $14$ 以下である。
平面は角の和、空間は球冠の面積で数える

半径をすべて $1$、中心の球の中心を $O$ とする。lem-kis-angle により、置いた球の中心の向きは、どの 2 つも $O$ から見て $60^\circ$ 以上離れている。
段 1(平面の上限)。平面に $n$ 個の円を置いたとする。中心 $P_1,\dots,P_n$ を、$O$ のまわりの向きの角の小さい順に並べる。となりどうし($P_n$ から $P_1$ へも含む)を反時計回りに測った角を $\theta_1,\theta_2,\dots,\theta_n$ とすると、合わせて $O$ のまわりを 1 周するので和は $360^\circ$ である。また $\theta_i$ は $\angle P_iOP_{i+1}$ 以上($\angle P_iOP_{i+1}$ は $\theta_i$ と $360^\circ-\theta_i$ の小さい方)なので、どれも $60^\circ$ 以上である。よって $60^\circ\times n\le360^\circ$、$n\le6$ である。ex-kis-start で 6 個置けたので、平面の接吻数は $6$ である。
段 2(空間の下限)。12 個のベクトル
$$ (\pm1,\pm1,0),\quad(\pm1,0,\pm1),\quad(0,\pm1,\pm1) $$
(符号はすべての組合せ)は、どれも長さ $\sqrt2$ である。異なる 2 つの内積は、成分ごとの積の和なので整数で、$-2,-1,0,1$ のどれかになる(内積が $2$ になるのは同じベクトルのときだけ)。よってなす角の余弦は $\dfrac{\text{内積}}{\sqrt2\cdot\sqrt2}\le\dfrac12$ で、なす角は $60^\circ$ 以上である。これらの向きに、$O$ から距離 $2$ の点を中心とする半径 $1$ の球を置けば、lem-kis-angle により 12 個が重ならずに接する。これは 球の詰め込み の面心立方格子で 1 つの球に接する 12 個の球である(座標を $\sqrt2$ 倍した)。
段 3(空間の上限:球冠を作る)。$n$ 個の球を置き、中心の球との接点を $T_1,\dots,T_n$ とする($T_i$ は $O$ と中心 $P_i$ を結ぶ線分の中点で、中心の球の表面にある)。各 $T_i$ について、中心の球の表面の点 $X$ で $\angle XOT_i<30^\circ$ となるものの全体を $C_i$ とする。$C_i$ は、中心の球を $OT_i$ に垂直な平面で切り取った球冠(縁を除く)である(図 2)。
段 4(球冠は重ならない)。$X$ が $C_i$ と $C_j$($i\ne j$)の両方に入るとすると、lem-kis-tri により
$$ \angle T_iOT_j\le\angle T_iOX+\angle XOT_j<30^\circ+30^\circ=60^\circ $$
となり、$\angle T_iOT_j\ge60^\circ$ に反する。よって $C_1,\dots,C_n$ は互いに重ならない。
段 5(面積で数える)。球冠 $C_i$ の高さは、極 $T_i$ から切り口の平面までの距離で、$1-\cos30^\circ=1-\dfrac{\sqrt3}2$ である。Archimedesの帽子箱定理 の系「球冠の面積」により、半径 $1$ の球の高さ $h$ の球冠の面積は $2\pi\cdot1\cdot h$ なので、1 つの球冠の面積は
$$ 2\pi\left(1-\frac{\sqrt3}2\right)=\pi(2-\sqrt3) $$
である。$n$ 個の球冠は重ならずに表面積 $4\pi$ の球面(球の体積と表面積)にのっているので
$$ n\cdot\pi(2-\sqrt3)\le4\pi,\qquad n\le\frac4{2-\sqrt3}=\frac{4(2+\sqrt3)}{(2-\sqrt3)(2+\sqrt3)}=8+4\sqrt3\approx14.93 $$
である。$n$ は整数なので $n\le14$ である。段 2 と合わせて、空間の接吻数は $12$ 以上 $14$ 以下である。$\square$

中心の球(O)の断面。接点 T1、T2 のまわりの角の半径 30° の球冠(赤い弧)は、2 つの球が接するとき 1 点で触れ合う 中心の球(O)の断面。接点 T1、T2 のまわりの角の半径 30° の球冠(赤い弧)は、2 つの球が接するとき 1 点で触れ合う
平面の段 1 は、空間の段 3〜5 と同じ形に書き直せる。円周の上で、接点のまわりに角の半径 $30^\circ$ の弧(長さ $2\cdot\dfrac{\pi}{6}=\dfrac\pi3$)をとると、弧は重ならず、円周の長さは $2\pi$ なので $n\le\dfrac{2\pi}{\pi/3}=6$ である。平面では 6 つの弧が円周を隙間なく埋めるので上限 $6$ がちょうど達成される。空間では、上限 $14.93$ と実際に置ける個数の間に差が残る(rem-kis-13)。

12 個の置き方:正二十面体と面心立方

thm-kis-main の段 2 の 12 個とは別に、正二十面体(正多面体の分類)の 12 個の頂点の向きに置く方法もある。

正二十面体の頂点の向き

$\varphi=\dfrac{1+\sqrt5}2$(黄金比。$\varphi^2=\varphi+1$ をみたす。正五角形と黄金比)とし、12 個のベクトル
$$ (0,\pm1,\pm\varphi),\quad(\pm1,\pm\varphi,0),\quad(\pm\varphi,0,\pm1) $$
をとる。これらは正二十面体の頂点で、どれも長さの 2 乗が $1+\varphi^2=\varphi+2$ である。
異なる 2 つの内積を調べる。同じ形どうしでは、たとえば
$$ (0,1,\varphi)\cdot(0,-1,\varphi)=-1+\varphi^2=\varphi,\quad (0,1,\varphi)\cdot(0,1,-\varphi)=1-\varphi^2=-\varphi,\quad (0,1,\varphi)\cdot(0,-1,-\varphi)=-(\varphi+2) $$
である。違う形どうしでは、$0$ でない成分の位置が 1 か所だけ重なり、たとえば $(0,1,\varphi)\cdot(1,\varphi,0)=\varphi$ のように $\pm\varphi$ になる。よって内積の最大値は $\varphi$ で、なす角の余弦の最大値は
$$ \frac{\varphi}{\varphi+2}=\frac{\frac{1+\sqrt5}2}{\frac{5+\sqrt5}2}=\frac{1+\sqrt5}{\sqrt5(\sqrt5+1)}=\frac1{\sqrt5}\approx0.447 $$
である。なす角の最小値は約 $63.43^\circ$ で、$60^\circ$ より大きい。lem-kis-angle により、この 12 個の向きに置いた球は重ならず、しかもどの 2 つも接していない。となりの球の中心の距離は $\sqrt{8-\dfrac8{\sqrt5}}\approx2.103$ で、$2$ より約 $0.103$ 大きい。

正二十面体の頂点の向きに置いた 12 個の球(青)。まわりの球どうしは接していない 正二十面体の頂点の向きに置いた 12 個の球(青)。まわりの球どうしは接していない
面心立方格子の 12 個の球(青)。まわりの球どうしも接している 面心立方格子の 12 個の球(青)。まわりの球どうしも接している

2 つの置き方を比べる。

正二十面体の向き面心立方の向き
向きの例$(0,1,\varphi)$$(1,1,0)$
向きの間の角の最小値約 $63.43^\circ$$60^\circ$
1 つのまわりの球に接するまわりの球$0$ 個$4$ 個
12 個の中心が作る多面体正二十面体立方八面体

面心立方の向きでは、$(1,1,0)$ と角 $60^\circ$ をなす(内積が $1$ の)ものは $(1,0,\pm1)$、$(0,1,\pm1)$ の 4 個である。正二十面体の向きでは、まわりの球どうしに少しずつ隙間があり、球を少し動かせる。それでも 13 個目を入れる隙間は作れない、というのが次の注意である。

13 個は置けない

thm-kis-main の上限は $14$ で、12 と 14 の間が残っている。実際には、空間の接吻数はちょうど $12$ である。Wei26 によると、この問題は 1694 年に Newton と D. Gregory の間で論じられ、Newton は 12 個、Gregory は 13 個の可能性を考えた。一般に受け入れられた最初の証明は Schütte と van der Waerden が 1953 年に発表し、Leech が 1956 年により短い証明を与えた(Wei26)。この記事では「13 個は置けない」ことを証明しない。
面積の議論だけで 13 個を否定できないことは、数でも分かる。正二十面体の向きの 12 個の球冠(角の半径 $30^\circ$)がおおう割合は
$$ \frac{12\cdot\pi(2-\sqrt3)}{4\pi}=6-3\sqrt3\approx0.804 $$
で、球面の約 $20\%$ が球冠に含まれずに残る(図 5)。1 つの球冠の割合は $\dfrac{2-\sqrt3}4\approx0.067$ なので、残りの面積だけ見れば球冠をあと 2 つ分入れる余地がある。しかし残りの部分は細かく分かれている。たとえば頂点から遠い向きである正二十面体の面の中心の向きでも、最も近い頂点との角は約 $37.4^\circ$ で、13 個目に必要な $60^\circ$ に届かない。12 個をどう動かしても 13 個目の場所が作れないことを示すには、面積の比較より細かい議論が要る。

単位球面の上の、正二十面体の頂点の向きのまわりの 12 個の球冠(赤、角の半径 30°)。球冠どうしの間に隙間が残る 単位球面の上の、正二十面体の頂点の向きのまわりの 12 個の球冠(赤、角の半径 30°)。球冠どうしの間に隙間が残る

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
まわりの円が中心の円と同じ大きさ半径 $1$ の円のまわりに半径 $\frac12$ の円を 9 個平面では 6 個まで
中心がすべて同じ平面にある面心立方の向きの 12 個の球6 個まで(平面の段 1 の議論)
球冠の角の半径は $60^\circ$ の半分角の半径 $60^\circ$ の球冠球冠が重ならない
反例:小さい円なら 6 個より多く接する

半径 $1$ の円のまわりに、半径 $\dfrac12$ の円を接するように置く。中心は $O$ から距離 $1+\dfrac12=\dfrac32$ の円の上にある。9 個の中心を $40^\circ$ おきに置くと、となりの中心の距離は
$$ 2\cdot\frac32\sin20^\circ=3\sin20^\circ\approx1.026 $$
で、半径の和 $1$ より大きいので重ならない(図 6)。9 個が接し、6 個より多い。lem-kis-angle の「$60^\circ$」は、まわりの円が中心の円と同じ大きさであることから出てきた値である。

半径 1 の円のまわりに、半径 1/2 の円が 9 個接する 半径 1 の円のまわりに、半径 1/2 の円が 9 個接する

反例:平面の議論は空間では使えない

平面の段 1 は「中心を $O$ のまわりの向きの順に並べると、となりどうしの角の和が $360^\circ$」を使った。空間の 12 個(thm-kis-main の段 2)では、中心は 1 つの平面にのっていない。たとえば $(1,1,0)$、$(1,0,1)$、$(0,1,1)$ は $O$ を通る 1 つの平面にない。もし同じ平面にあれば $(0,1,1)=s(1,1,0)+t(1,0,1)$ となる実数 $s,t$ があるが、成分を比べると $y$ 成分から $s=1$、$z$ 成分から $t=1$ で、$x$ 成分 $s+t=2$ が $0$ にならず矛盾する(空間ベクトルと1次独立)。向きを 1 列に並べて角を足す議論ができないので、上限 6 は出ず、実際に 12 個置ける。

反例:球冠を大きくとりすぎる

prf-kis-main の段 3 で、球冠の角の半径を $30^\circ$ ではなく $60^\circ$ にとると、面積は $2\pi(1-\cos60^\circ)=\pi$ になり、段 5 と同じ計算で $n\le\dfrac{4\pi}{\pi}=4$ となる。しかし 12 個置けるので、これは誤りである。誤りの原因は段 4 で、2 つの向きの角が $60^\circ$ のとき、角の半径 $60^\circ$ の球冠は重なる。たとえば $(1,1,0)$ と $(1,0,1)$ の向き(角 $60^\circ$)について、2 つの向きのちょうど中間の向き $(2,1,1)$ は、どちらとも角がちょうど $30^\circ$(余弦 $\dfrac{3}{\sqrt2\sqrt6}=\dfrac{\sqrt3}2$)で、両方の球冠に入る。球冠が重ならないために使える角の半径は、最小の角 $60^\circ$ の半分 $30^\circ$ までである。

大学数学で見る:高い次元の接吻数

接吻数は 4 次元以上の空間(点を $n$ 個の実数の組で表す空間)でも同じように定義される。距離の 2 乗は成分の差の 2 乗の和で定め、lem-kis-angle の「$60^\circ$ 以上」も、内積で書いた「余弦が $\dfrac12$ 以下」がそのまま使える。

次元 $n$$1$$2$$3$$4$$8$$24$
接吻数$2$$6$$12$$24$$240$$196560$

この表の値は Wei26 の表による(1〜3 次元はこの記事の thm-kis-main と rem-kis-13)。

4 次元・8 次元・24 次元について開く

Wei26 によると、4 次元の値 $24$ は Musin が 2008 年に証明した。8 次元の $240$ と 24 次元の $196560$ は、それぞれ E8 と呼ばれる格子と Leech 格子と呼ばれる格子で実現される。Wei26 によると、ほかの次元(5〜7 次元、9〜23 次元など)では、接吻数の上限と下限が知られているだけで、正確な値は分かっていない(Wei26 の表は上限と下限を並べている)。この記事ではこれらを証明しない。

高い次元の空間では、4 次元の 24 個の例は具体的に書ける。$(\pm1,\pm1,0,0)$ の形で、$0$ でない 2 つの成分の位置を 4 か所から選ぶ $6$ 通りと、符号 $4$ 通りで $24$ 個のベクトルがあり、どれも長さ $\sqrt2$、異なる 2 つの内積は $1$ 以下である(thm-kis-main の段 2 と同じ計算)。これで 4 次元の接吻数が $24$ 以上であることが分かる。

球面の上に、どの 2 つも決まった角以上離れた点を多く置く問題は、通信の誤り訂正で使う符号の設計にもつながり、球面符号と呼ばれる。

さらに先へ

  • 面心立方の向きの 12 個の点($(\pm1,\pm1,0)$ など)を頂点とする多面体は、正方形 6 枚と正三角形 8 枚でできた立方八面体で、半正多面体 の 1 つである。
  • 正二十面体の頂点の座標と黄金比の関係は 正五角形と黄金比、正多面体が 5 種類であることは 正多面体の分類 で扱う。
  • 球面の上の 2 点の角は大円距離で、球面三角法 の余弦定理で計算できる。
  • 平面で 1 枚の硬貨に接する硬貨が 6 枚までであることは、硬貨の接し方をグラフで表す ペニーグラフ でも使われる。

関連項目

参考文献

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