積分で定める内積(inner product defined by an integral)とは、閉区間 $[p,q]$($p<q$)上の実数値連続関数 $f,g$ に対して $\langle f,g\rangle=\int_p^qf(x)g(x)\,dx$ と定める実数であり、ベクトルの内積 $a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$ の「和」を「積分」に置き換えたものである。線形性・対称性・正定値性($\langle f,f\rangle\ge0$ で、$0$ になるのは $f$ が恒等的に $0$ のときだけ)を満たし、正定値性の証明には $f$ の連続性を使う。これにより関数の長さ $\sqrt{\langle f,f\rangle}$ と直交が定まり、ピタゴラスの定理が関数でも成り立つ。偶関数と奇関数は区間 $[-a,a]$ で直交する。
高校では、空間ベクトル $\vec a=(a_1,a_2,a_3)$ と $\vec b=(b_1,b_2,b_3)$ の内積を、なす角 $\theta$ を使って $\vec a\cdot\vec b=|\vec a||\vec b|\cos\theta$ と定義し、成分では
$$
\vec a\cdot\vec b=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3
$$
と計算できることを学ぶ。内積からは、ベクトルの長さと、2 つのベクトルが垂直かどうかが分かる。まず、この 2 つを数で確かめておく。
$\vec a=(1,2,2)$、$\vec b=(2,-1,0)$、$\vec c=(2,1,-1)$ とする。
ex-ipf-vector の $\vec a,\vec b$ は垂直である。和 $\vec a+\vec b=(3,1,2)$ の長さの 2 乗を成分で計算すると
$$
|\vec a+\vec b|^2=3^2+1^2+2^2=14
$$
であり、$|\vec a|^2+|\vec b|^2=9+5=14$ に等しい。これは、$\vec a$ と $\vec b$ を 2 辺とする直角三角形でのピタゴラスの定理である。内積の分配法則で展開すると
$$
|\vec a+\vec b|^2=(\vec a+\vec b)\cdot(\vec a+\vec b)=|\vec a|^2+2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2
$$
となり、$\vec a\cdot\vec b=0$ なので真ん中の項が消える。これが「垂直ならピタゴラスの定理が成り立つ」理由である。
この記事では、同じことを関数について行う。関数には「なす角」も「矢印」もないが、積分を使うと内積に当たるものが定まり、関数の「長さ」や「垂直」が意味をもつ。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $\vec a\cdot\vec b=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$ | $\langle f,g\rangle=\int_p^qf(x)g(x)\,dx$ | 内積 |
| 長さの 2 乗 $=\vec a\cdot\vec a$ | 長さの 2 乗 $=\langle f,f\rangle=\int_p^qf(x)^2\,dx$ | ノルム |
| $\vec a\cdot\vec b=0$ なら垂直 | $\langle f,g\rangle=0$ なら直交 | 直交 |
| 奇関数を $-a$ から $a$ まで積分すると $0$ | 偶関数と奇関数は直交する | 直交分解 |
| 空間ベクトル全体 | 連続関数全体 $C([p,q])$ | 内積空間 |
関数には最初から「なす角」がないので、$|\vec a||\vec b|\cos\theta$ という定義は使えない。そこで、ex-ipf-vector-pythagoras の計算で実際に使った性質だけを取り出して、それを内積の定義にする。
和 $u+v$ と実数倍 $cu$ が定義され、ふつうの計算規則(結合法則・交換法則・分配法則、零ベクトル $0$ と逆ベクトル $-u$ があること)を満たす集まりを実ベクトル空間という。ここでは次の 2 つだけを使う。
実ベクトル空間 $V$ の 2 つの元 $u,v$ に実数 $\langle u,v\rangle$ を 1 つ対応させる規則が、次の 1〜3 を満たすとき、これを $V$ 上の内積という。
データを並べたベクトルの内積で共分散を表す例は 相関係数(高校数学) で扱う。
1 と 2 を合わせると、第 2 成分についても $\langle w,su+tv\rangle=s\langle w,u\rangle+t\langle w,v\rangle$ が成り立つ(2 で左右を入れかえ、1 を使い、もう一度 2 で入れかえる)。両方の成分について線形であることを双線形性という。また $\langle0,v\rangle=0$ である。実際、$0=0\cdot0$ なので 1 から $\langle0,v\rangle=\langle0\cdot0,v\rangle=0\cdot\langle0,v\rangle=0$ となる。
この定義は Axl24 の 6.2 で係数を実数に限った場合と同じ内容である。3 の正定値性を「$\langle u,u\rangle\ge0$」だけに弱めたもの(半内積)と、それについての Cauchy–Schwarz の不等式は Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) で扱う。
$\mathbb{R}^n$ で $\langle a,b\rangle:=a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n$ と定める。
$V$ を内積空間、$u,v\in V$ とする。
1 の前半を示す。長さの定義から $\|u+v\|^2=\langle u+v,u+v\rangle$ である。第 1 成分についての線形性で
$$
\langle u+v,u+v\rangle=\langle u,u+v\rangle+\langle v,u+v\rangle
$$
と分ける。第 2 成分についての線形性で、それぞれをさらに分けると
$$
\langle u,u+v\rangle=\langle u,u\rangle+\langle u,v\rangle,\qquad \langle v,u+v\rangle=\langle v,u\rangle+\langle v,v\rangle
$$
である。対称性から $\langle v,u\rangle=\langle u,v\rangle$ なので、合わせて
$$
\|u+v\|^2=\langle u,u\rangle+2\langle u,v\rangle+\langle v,v\rangle=\|u\|^2+2\langle u,v\rangle+\|v\|^2
$$
となる。後半は $v$ を $-v=(-1)v$ に替えればよい。線形性から $\langle u,-v\rangle=-\langle u,v\rangle$、$\langle -v,-v\rangle=(-1)^2\langle v,v\rangle=\|v\|^2$ なので、$\|u-v\|^2=\|u\|^2-2\langle u,v\rangle+\|v\|^2$ である。
2 は、1 の前半で $\langle u,v\rangle=0$ とすれば真ん中の項が消えて得られる。$\square$
この証明は ex-ipf-vector-pythagoras の計算と一字一句同じであり、成分も角も使っていない。使ったのは def-ipf-inner-product の線形性と対称性だけである。したがって、内積の条件を満たすものが見つかれば、それが関数であっても、ピタゴラスの定理はそのまま成り立つ。
$p< q$ とする。$f,g\in C([p,q])$ に対して
$$
\langle f,g\rangle:=\int_p^qf(x)g(x)\,dx,\qquad \|f\|:=\sqrt{\langle f,f\rangle}=\Bigl(\int_p^qf(x)^2\,dx\Bigr)^{1/2}
$$
と定める。$\langle f,g\rangle=0$ のとき、$f$ と $g$ は(区間 $[p,q]$ で)直交するという。
$\mathbb{R}^n$ の内積が「同じ番号の成分どうしを掛けて足す」ものだったように、各点 $x$ での値 $f(x)$ を「$x$ 番目の成分」とみなし、同じ $x$ での値どうしを掛けて、和の代わりに積分する。実際、区間を $N$ 等分した点 $x_1,\dots,x_N$ での値を並べたベクトル $(f(x_1),\dots,f(x_N))$ と $(g(x_1),\dots,g(x_N))$ の内積に、小区間の幅 $\frac{q-p}N$ を掛けたもの
$$
\sum_{k=1}^Nf(x_k)g(x_k)\cdot\frac{q-p}N
$$
は、$N\to\infty$ で $\int_p^qf(x)g(x)\,dx$ に近づく(区分求積法)。関数の内積は、「成分が無限にあるベクトルの内積」である。
後の記事で三角関数を扱うときは、周期 $2\pi$ に合わせて区間 $[-\pi,\pi]$ をとる。ここではまず、手で計算しやすい $[0,1]$ で例を見る。
区間 $[0,1]$ で計算する。
ex-ipf-unit-interval の 4 で、$1$ と $g(x)=x-\frac12$ は $[0,1]$ で直交した。$\|g\|^2=\int_0^1\bigl(x-\frac12\bigr)^2dx=\Bigl[\frac13\bigl(x-\frac12\bigr)^3\Bigr]_0^1=\frac13\Bigl(\frac18+\frac18\Bigr)=\frac1{12}$ である。和 $1+g$ は $x+\frac12$ なので
$$
\|1+g\|^2=\int_0^1\Bigl(x+\frac12\Bigr)^2dx=\Bigl[\frac13\Bigl(x+\frac12\Bigr)^3\Bigr]_0^1=\frac13\Bigl(\frac{27}8-\frac18\Bigr)=\frac{13}{12}
$$
であり、$\|1\|^2+\|g\|^2=1+\frac1{12}=\frac{13}{12}$ と一致する。prop-ipf-expand の 2 が関数でも成り立っている(ただし、関数の内積が内積であることは thm-ipf-is-inner-product で示す)。
区間 $[-\pi,\pi]$ に移る。
区間 $[-\pi,\pi]$ で計算する。
ex-ipf-symmetric-interval の 3 と 4 には共通の理由がある。$1$ と $x^2$ は偶関数、$x$ は奇関数である。
$a>0$ とし、$f,g\in C([-a,a])$ で、$f$ は偶関数(すべての $x$ で $f(-x)=f(x)$)、$g$ は奇関数(すべての $x$ で $g(-x)=-g(x)$)とする。このとき
$$
\int_{-a}^af(x)g(x)\,dx=0
$$
であり、$f$ と $g$ は $[-a,a]$ で直交する。
段 1(積は奇関数):$h(x):=f(x)g(x)$ とおく。仮定から $h(-x)=f(-x)g(-x)=f(x)\cdot(-g(x))=-h(x)$ なので、$h$ は奇関数である。
段 2(左半分を右半分に移す):積分を $\int_{-a}^0h(x)\,dx+\int_0^ah(x)\,dx$ に分ける。左の積分で $x=-t$ と置換すると、$dx=-dt$、$x=-a$ のとき $t=a$、$x=0$ のとき $t=0$ なので
$$
\int_{-a}^0h(x)\,dx=\int_a^0h(-t)\,(-dt)=\int_0^ah(-t)\,dt=\int_0^a\bigl(-h(t)\bigr)\,dt=-\int_0^ah(t)\,dt
$$
である(3 つ目の等号で段 1 を使った)。
段 3(打ち消し合う):よって $\int_{-a}^ah(x)\,dx=-\int_0^ah(t)\,dt+\int_0^ah(x)\,dx=0$ である。$\square$
対称な区間で奇関数の積分が消える技法は 対称性を用いた積分 で扱う。
高校で習う「奇関数を $-a$ から $a$ まで積分すると $0$」は、内積の言葉では「偶関数と奇関数は直交する」と読める。図 1 は、偶関数 $\cos x$ と奇関数 $x$ の積 $x\cos x$ のグラフである。原点について対称なので、$x$ 軸より上の面積と下の面積が等しく、合計が $0$ になる。
x と cos x の積のグラフ。原点について対称なので、正の部分と負の部分の面積が打ち消し合い、内積は 0 になる
prop-ipf-even-odd により、区間 $[-\pi,\pi]$ で次の組はすべて直交する。
ここまでの例では、関数の内積が def-ipf-inner-product の 3 条件を満たすものとして計算してきた。それを証明する。
$p< q$ とする。def-ipf-function の $\langle f,g\rangle=\int_p^qf(x)g(x)\,dx$ は $C([p,q])$ 上の内積である。すなわち、線形性・対称性・正定値性を満たす。
方針:線形性・対称性・「$0$ 以上」は積分の基本性質からすぐに出る。難しいのは「$\langle f,f\rangle=0$ ならば $f=0$」であり、対偶「$f\ne0$ ならば $\langle f,f\rangle>0$」を、$f$ の連続性を使って示す(段 5)。
段 1(積分が定まる):$f,g$ が連続なら積 $fg$ も連続であり、閉区間上の連続関数の定積分は定まる。よって $\langle f,g\rangle$ は実数として定まる。
段 2(線形性):$f,g,h\in C([p,q])$ と実数 $s,t$ について、積分の線形性から
$$
\langle sf+tg,h\rangle=\int_p^q\bigl(sf(x)+tg(x)\bigr)h(x)\,dx=s\int_p^qf(x)h(x)\,dx+t\int_p^qg(x)h(x)\,dx=s\langle f,h\rangle+t\langle g,h\rangle
$$
である。
段 3(対称性):各点で $f(x)g(x)=g(x)f(x)$ なので、積分しても等しく、$\langle f,g\rangle=\langle g,f\rangle$ である。
段 4($0$ 以上):各点で $f(x)^2\ge0$ であり、$p< q$ なので、$0$ 以上の関数の定積分は $0$ 以上である。よって $\langle f,f\rangle=\int_p^qf(x)^2\,dx\ge0$ である。
段 5($f\ne0$ なら $\langle f,f\rangle>0$):$f$ が恒等的に $0$ の関数でないとする。すると $f(c)\ne0$ となる点 $c\in[p,q]$ がある。$m:=|f(c)|$ とおくと $m>0$ である。
段 5 の考え方を図 2 に示す。$f(c)\ne0$ なら、$c$ の近くでは $f(x)$ が $0$ から離れているので、$f^2$ のグラフの下に高さ $\frac{m^2}4$ の長方形が入る。その面積が正なので、$\int f^2\,dx$ も正になる。
正定値性の証明。f(c)≠0 なら c の近くで f(x)² が m²/4 より大きく、f² のグラフの下に面積が正の長方形が入る
区間 $[0,1]$ と $f(x)=x$ で段 5 をたどる。$c=1$ とすると $m=|f(1)|=1$ である。
証明の段 5 で、$f$ の連続性を使った。連続でない関数まで許すと、この段は崩れる(ex-ipf-not-definite)。
内積の条件を満たすものなら、ベクトルでも関数でも同じ計算ができる。そのことが役に立つ問題を 1 つ見る。
半径 $1$ の球面上に $n$ 個の点をとる。そのうちの 2 点を結ぶ線分は $\frac{n(n-1)}2$ 本ある。これらの線分の長さの 2 乗をすべて足すと、$n^2$ 以下であることを示せ。
出典:第 29 回 Putnam 数学競技会(北米の大学生向けの競技会、1968 年)問題 A4(Kal68)。問題文は本記事の言葉で述べた。
小さな $n$ で確かめる。
方針:座標で書き、$x$ 座標、$y$ 座標、$z$ 座標ごとに和を計算する。
段 1(座標で書く):点を $P_i=(x_i,y_i,z_i)$($i=1,\dots,n$)とすると、球面上にあるので $x_i^2+y_i^2+z_i^2=1$ である。2 点の距離の 2 乗は $(x_i-x_j)^2+(y_i-y_j)^2+(z_i-z_j)^2$ なので、求める和は $X+Y+Z$ である。ここで $X:=\sum_{i< j}(x_i-x_j)^2$ とし、$Y,Z$ も同様に定める。
段 2($i< j$ の和を全部の組の和に直す):$i,j$ をそれぞれ $1$ から $n$ まで動かした和 $\sum_{i,j}(x_i-x_j)^2$ を考える。$i=j$ の項は $0$ であり、$(i,j)$ の項と $(j,i)$ の項は等しいので、$\sum_{i,j}(x_i-x_j)^2=2X$ である。
段 3(展開する):$(x_i-x_j)^2=x_i^2-2x_ix_j+x_j^2$ を全部の組で足す。$x_i^2$ は $j$ が $n$ 通り動くので $n$ 回ずつ現れ、$\sum_{i,j}x_i^2=n\sum_ix_i^2$ である。$x_j^2$ も同じである。$\sum_{i,j}x_ix_j=\bigl(\sum_ix_i\bigr)\bigl(\sum_jx_j\bigr)=\bigl(\sum_ix_i\bigr)^2$ である。よって
$$
2X=2n\sum_{i=1}^nx_i^2-2\Bigl(\sum_{i=1}^nx_i\Bigr)^2,\qquad X=n\sum_{i=1}^nx_i^2-\Bigl(\sum_{i=1}^nx_i\Bigr)^2
$$
である。$Y,Z$ も同じ形になる。
段 4(足す):$\sum_i(x_i^2+y_i^2+z_i^2)=\sum_i1=n$ を使うと
$$
X+Y+Z=n\cdot n-\Bigl(\sum_ix_i\Bigr)^2-\Bigl(\sum_iy_i\Bigr)^2-\Bigl(\sum_iz_i\Bigr)^2\le n^2
$$
である。等号は $\sum_ix_i=\sum_iy_i=\sum_iz_i=0$、すなわち $n$ 点の重心が球の中心にあるときに成り立つ。$\square$
ex-ipf-putnam の 3 では、座標の和が $(1,1,1)$ なので、式は $9-(1+1+1)=6$ となり、直接計算した値と合う。
高校数学の解は、$x,y,z$ の 3 回、同じ展開をくり返している。内積の言葉で書くと 1 回で済む。
内積空間の元 $u_1,\dots,u_n$ について
$$
\sum_{1\le i< j\le n}\|u_i-u_j\|^2=n\sum_{i=1}^n\|u_i\|^2-\Bigl\|\sum_{i=1}^nu_i\Bigr\|^2
$$
が成り立つ。特に、すべての $i$ で $\|u_i\|=1$ ならば左辺は $n^2$ 以下であり、等号は $\sum_iu_i=0$ のときに限る。
段 1:高校数学の解の段 2 と同じ理由で、左辺は $\frac12\sum_{i,j}\|u_i-u_j\|^2$ に等しい($i,j$ はそれぞれ $1$ から $n$ まで動く)。
段 2:prop-ipf-expand の 1 から $\|u_i-u_j\|^2=\|u_i\|^2-2\langle u_i,u_j\rangle+\|u_j\|^2$ である。これを全部の組で足すと、高校数学の解の段 3 と同じ数え方で
$$
\sum_{i,j}\|u_i-u_j\|^2=2n\sum_i\|u_i\|^2-2\sum_{i,j}\langle u_i,u_j\rangle
$$
となる。
段 3:双線形性から、和の内積は内積の和に分けられるので $\sum_{i,j}\langle u_i,u_j\rangle=\bigl\langle\sum_iu_i,\sum_ju_j\bigr\rangle=\bigl\|\sum_iu_i\bigr\|^2$ である。段 1〜3 を合わせて恒等式を得る。
段 4:$\|u_i\|=1$ なら右辺は $n\cdot n-\bigl\|\sum_iu_i\bigr\|^2$ である。正定値性から $\bigl\|\sum_iu_i\bigr\|^2\ge0$ なので右辺は $n^2$ 以下であり、等号は $\bigl\|\sum_iu_i\bigr\|^2=0$、すなわち(正定値性の後半により)$\sum_iu_i=0$ のときに限る。$\square$
prop-ipf-distance-sum の証明には、座標も「3 次元であること」も現れない。使ったのは線形性・対称性・正定値性だけである。$\mathbb{R}^3$ の点の位置ベクトルに使えば ex-ipf-putnam の答になり、thm-ipf-is-inner-product により関数にもそのまま使える:$\int_{-\pi}^{\pi}f_i(x)^2\,dx=1$ を満たす連続関数 $f_1,\dots,f_n$ について
$$
\sum_{i< j}\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(f_i(x)-f_j(x)\bigr)^2dx\le n^2 .
$$
たとえば $f_1(x):=\frac1{\sqrt{2\pi}}$、$f_2(x):=\sqrt{\frac3{2\pi^3}}\,x$ は、ex-ipf-symmetric-interval から長さがともに $1$ で、偶関数と奇関数なので直交する。ピタゴラスの定理から $\|f_1-f_2\|^2=1+1=2$ であり、$n=2$ の上限 $4$ より小さい。等号には $f_1+f_2=0$ が必要だが、そうなっていないからである。
問題を「球面上の点」から「長さ $1$ の元」に言いかえると、どの空間で考えているかを気にせずに済む。これが、内積の条件だけを取り出しておくことの効き目である。
def-ipf-inner-product のどれかの条件が欠けると、この記事の結論のどれかが崩れる。
| 外した条件 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 正定値性の後半(長さ $0$ なら $0$) | 等号条件「$\sum u_i=0$ に限る」 | ex-ipf-not-definite |
| 関数の連続性 | thm-ipf-is-inner-product の段 5 | ex-ipf-not-definite |
| 正定値性の前半($\langle u,u\rangle\ge0$) | 長さ $\sqrt{\langle u,u\rangle}$ が定まること | ex-ipf-indefinite |
$\mathbb{R}^2$ で $\langle a,b\rangle'':=a_1b_1-a_2b_2$ とする。
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