開部分スキーム

同義語:open subscheme

概要

開部分スキーム(open subscheme)とは、スキーム $X$ の開集合 $U$ に構造層の制限 $\mathcal{O}_X|_U$ を載せたスキーム $(U,\mathcal{O}_X|_U)$ である。$U$ への射は像が $U$ に入る $X$ への射と同じものであり、2 つの開部分スキームの共通部分はファイバー積になる。開集合の上の構造はただ 1 つに決まる点で、同じ閉集合の上に多くの構造がありうる閉部分スキームと異なる。アフィンスキームの開部分スキームはアフィンとは限らず、$\mathbb{A}^2_k$ から原点を除いたものがその例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, アフィンスキーム, 環付き空間

位相空間の開集合には、もとの位相を制限した位相が自然に入る。スキームでも同じことが起こり、スキーム $X$ の開集合 $U$ には、$X$ の構造層を $U$ に制限した層がそのまま載って、ふたたびスキームになる。これが開部分スキームであり、「関数を開集合の上だけで見る」という操作をスキームの言葉で述べたものである。開部分スキームの構造は開集合 $U$ だけで決まり、選ぶ余地がない。この点で、同じ閉集合の上に多くの構造がありうる閉部分スキームとは性格が大きく違う。一方で、アフィンスキームの開集合がアフィンとは限らない、準コンパクトなスキームの開集合が準コンパクトとは限らないなど、開集合に受け継がれない性質もある。開部分スキームは、スキームを貼り合わせで作るとき、射の性質を局所的に調べるとき、有理写像や双有理写像を「稠密な開集合の上で定義された射」として扱うときの基本の道具である。

定義

スキーム $X$ の開集合 $U$ に対し、$U$ 上の環の層 $\mathcal{O}_X|_U$ を、$U$ に含まれる開集合 $V$ について $\mathcal{O}_X|_U(V):=\mathcal{O}_X(V)$(制限写像も $\mathcal{O}_X$ のもの)と定める。$U$ の点 $u$ での茎は $\mathcal{O}_{X,u}$ そのものである($u$ の開近傍のうち $U$ に含まれるものだけで帰納極限をとっても同じだから)。

開部分スキーム

$X$ をスキーム、$U\subset X$ を開集合とする。局所環付き空間 $(U,\mathcal{O}_X|_U)$ を $X$ の開部分スキーム(open subscheme)といい、単に $U$ と書く。包含写像 $j_U\colon U\to X$ と、$X$ の開集合 $W$ についての制限写像
$$ j_U^\sharp\colon\mathcal{O}_X(W)\longrightarrow\mathcal{O}_X(W\cap U)=(j_{U*}\mathcal{O}_U)(W) $$
の組を包含射という。開部分スキーム $U$ がある可換環 $A$ のアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ に同型であるとき、$U$ をアフィン開部分スキーム(affine open subscheme)またはアフィン開集合という。

$(U,\mathcal{O}_X|_U)$ がふたたびスキームであることは スキーム の記事の命題「開部分スキームはスキームである」による。包含射 $j_U$ の点 $u\in U$ での茎の写像は $\mathcal{O}_{X,u}\to\mathcal{O}_{U,u}=\mathcal{O}_{X,u}$ の恒等写像なので、$j_U$ は局所環付き空間の射、すなわちスキームの射である(スキーム の記事の定義「局所環付き空間」の最後の段落)。とくに、$U$ の点の局所環 $\mathcal{O}_{U,u}$ と剰余体 $\kappa(u)$ は、$X$ の点としてのものと同じである。
用語について 2 点注意する。

  • 開部分スキーム $U$ の開集合 $V$ について、$U$ の開部分スキームとしての $V$ と $X$ の開部分スキームとしての $V$ は同じもの $(V,\mathcal{O}_X|_V)$ であり、$U$ の中の包含射 $V\to U$ と $j_U$ の合成は $j_V$ に等しい(どちらも層の射は制限写像である)。
  • スキームの射 $f\colon Y\to X$ が、$Y$ からある開部分スキーム $U$ への同型 $Y\cong U$ と包含射 $j_U$ の合成に分解するとき、$f$ を開埋め込み(open immersion)という(スキーム の記事の定義「開部分スキームと閉部分スキーム」)。開部分スキームは開埋め込みのうち包含写像であるものであり、開埋め込みは開部分スキームを同型で言い換えたものである。

例と反例

基本開集合

可換環 $A$ と $f\in A$ に対し、基本開集合 $D(f)=\{\mathfrak{p}\in\operatorname{Spec}A\mid f\notin\mathfrak{p}\}$ は $\operatorname{Spec}A$ のアフィン開部分スキームであり、局所化 $\iota\colon A\to A_f$ が定める射 $\operatorname{Spec}A_f\to\operatorname{Spec}A$ は $\operatorname{Spec}A_f$ から開部分スキーム $D(f)$ への同型を与える(アフィンスキーム の記事の命題「基本開集合はアフィン」)。この同型のもとで、$D(f)$ 上の関数は分母に $f$ の冪を許した分数 $a/f^n$ である。たとえば $\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$($k$ は体)から原点を除いた開部分スキーム $D(x)$ は $\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]$ に同型である。

整数環のスペクトルの開部分スキーム

$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の点は零イデアル $(0)$ と素数 $p$ が生成する $(p)$ である。$\mathbb{Z}$ のイデアルは $(m)$($m\ge0$)の形なので、閉集合は $V(0)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ と $V(m)=\{(p)\mid p\text{ は }m\text{ の素因数}\}$($m\ge1$)に限る。したがって空でない開集合はちょうど $D(m)$($m\ge1$)の形の集合であり、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ の空でない開部分スキームはすべてアフィンで、$D(m)\cong\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[1/m]$ である。$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[1/m]$ は「$m$ の素因数での情報を捨てた整数環」であり、数論で有限個の悪い素数を除いて考えるときに現れる。

射影空間の標準的な開被覆

可換環 $A$ 上の射影空間 $\mathbb{P}^n_A$ は、$n+1$ 個のアフィン開部分スキーム $U_i\cong\operatorname{Spec}A[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]\cong\mathbb{A}^n_A$($i=0,\dots,n$)で覆われ、$U_i\cap U_j$ は $U_i$ の基本開集合 $D(x_j/x_i)$ である(スキーム の記事の例「射影空間の貼り合わせ」)。$n\ge1$、$A\neq0$ のとき $\mathbb{P}^n_A$ 自身はアフィンでないが、アフィン開部分スキームの有限個で覆われる。

離散付値環の生成点

$A$ を離散付値環、$\pi$ を素元、$K$ を $A$ の商体とする。$A$ の素イデアルは $(0)$ と $(\pi)$ だけなので、$\operatorname{Spec}A$ は生成点 $\eta=(0)$ と閉点 $\mathfrak{m}=(\pi)$ の 2 点からなり、開集合は $\emptyset$、$\{\eta\}$、全体の 3 つである。1 点 $\{\eta\}$ は基本開集合 $D(\pi)$ に等しく、$A$ の $0$ でない元は単元と $\pi$ の冪の積なので $A_\pi=K$ となり、開部分スキーム $\{\eta\}$ は $\operatorname{Spec}K$ に同型である。これに対して、$k$ 上のアフィン直線 $\mathbb{A}^1_k$ の生成点だけからなる集合は開集合でない。$\mathbb{A}^1_k$ の $\operatorname{Spec}k[x]$ 全体でない閉集合は $V(g)$($g\neq0$)で、$g$ の既約因子に当たる有限個の閉点からなるが、$k[x]$ のモニックな既約多項式は無限個ある(有限個なら、それらの積に $1$ を足した多項式の既約因子がどれとも異なる)ので、閉点全体は閉集合でないからである。生成点が開部分スキームになるかどうかは、空間によって違う。

開部分スキームには、もとのスキームの性質のうち受け継がれないものがある。次の表の各行は、左の仮定のもとで期待したくなる含意が成り立たないことを示す。

仮定・外す条件反例成り立たなくなること
開集合が基本開集合 $D(f)$ であること$\mathbb{A}^2_k$ から原点を除いた開部分スキームアフィンスキームの開部分スキームはアフィンである
$X$ が Noether であること$\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\dots]$ から 1 つの閉点を除いた開部分スキーム準コンパクトなスキームの開部分スキームは準コンパクトである
$X$ が分離的であること原点を 2 重にした平面の 2 つの平面2 つのアフィン開部分スキームの共通部分はアフィンである
$X$ が既約であること2 本の座標軸 $\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$ から原点を除いたもの連結なスキームの開部分スキームは連結である

1 行目は下の prop-open-subscheme-punctured で示す。残りの 3 行を確かめる。

反例:準コンパクトでない開部分スキーム

$k$ を体、$A=k[x_1,x_2,x_3,\dots]$ を可算無限個の変数の多項式環、$\mathfrak{m}=(x_1,x_2,\dots)$ とする。$A/\mathfrak{m}\cong k$ なので $\mathfrak{m}$ は極大イデアルで、$V(\mathfrak{m})=\{\mathfrak{m}\}$ である。$\operatorname{Spec}A$ は準コンパクトである(アフィンスキーム の記事の命題「素スペクトルの準コンパクト性」)。
開集合 $U:=\operatorname{Spec}A\setminus\{\mathfrak{m}\}$ は $D(x_1)\cup D(x_2)\cup\cdots$ に等しい(素イデアル $\mathfrak{p}$ がすべての $x_i$ を含むことと $\mathfrak{p}\supset\mathfrak{m}$、すなわち $\mathfrak{p}=\mathfrak{m}$ は同値)。この開被覆は有限部分被覆をもたないので、開部分スキーム $U$ は準コンパクトでない。

有限部分被覆がないことの確認を開く

有限個の $D(x_{i_1}),\dots,D(x_{i_r})$ をとり、$N$ をそれらの添字の最大値とする。素イデアル $\mathfrak{p}_N:=(x_1,\dots,x_N)$($A/\mathfrak{p}_N\cong k[x_{N+1},x_{N+2},\dots]$ は整域)は $x_{N+1}\notin\mathfrak{p}_N$ なので $\mathfrak{m}$ と異なり $U$ に属するが、$x_{i_l}\in\mathfrak{p}_N$ なのでどの $D(x_{i_l})$ にも属さない。


この例は「準コンパクトなスキーム(ここではアフィンスキーム)の開部分スキーム」を満たすが「準コンパクト」を満たさない。Noetherスキーム の開部分スキームは Noether であり、とくに準コンパクトである(同記事の命題「開部分スキームと閉部分スキーム」)。

反例:アフィン開部分スキームの共通部分がアフィンでない

$k$ を体とし、$X_1=X_2=\mathbb{A}^2_k$、$U_{12}\subset X_1$ と $U_{21}\subset X_2$ をともに原点を除いた開部分スキームとし、$\varphi_{12}\colon U_{12}\to U_{21}$ を恒等写像とする。スキーム の記事の命題「スキームの貼り合わせ」により、$X_1,X_2$ を $U_{12}$ に沿って貼り合わせたスキーム $X$(原点を 2 重にした平面)と、開部分スキームへの同型 $\psi_i\colon X_i\to\psi_i(X_i)$ が得られ、$\psi_1(X_1)\cap\psi_2(X_2)=\psi_1(U_{12})$ である。$\psi_1(X_1)$、$\psi_2(X_2)$ は $\mathbb{A}^2_k$ に同型なアフィン開部分スキームだが、その共通部分は $U_{12}$、すなわち原点を除いた $\mathbb{A}^2_k$ に同型であり、prop-open-subscheme-punctured によりアフィンでない。
分離的なスキームでは、2 つのアフィン開集合の共通部分はアフィンである(分離射 の記事の系「分離スキームのアフィン開集合の共通部分」)。$X$ は分離的でなく、この反例は「アフィン開部分スキーム 2 つの共通部分」を満たすが「アフィン」を満たさない。

反例:連結なスキームの連結でない開部分スキーム

$k$ を体、$X=\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$ とする。$X$ は 2 本の座標軸 $V(y)$ と $V(x)$ の和で、2 本は原点 $\mathfrak{o}=(x,y)$ で交わり、$X$ は連結である(既約成分 の記事の例「2 本の座標軸」)。原点を除いた開部分スキーム $U=X\setminus\{\mathfrak{o}\}$ では、$D(x)\cap U=D(x)$ と $D(y)\cap U=D(y)$ は $U$ を覆い、$xy=0$ なので $D(x)\cap D(y)=D(xy)=D(0)=\emptyset$ である。よって $U$ は交わらない 2 つの空でない開集合 $D(x)$、$D(y)$ の和であり、連結でない。$D(x)\cong\operatorname{Spec}k[x,y,x^{-1}]/(xy)=\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]$($x$ が可逆なので $y=0$)である。
この例は「連結なスキームの開部分スキーム」を満たすが「連結」を満たさない。$X$ が既約なら空でない開部分スキームは既約、とくに連結である(既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」)。

性質

普遍性

開部分スキームへの射は、像が $U$ に入る $X$ への射と同じものである。これが開部分スキームのもっとも基本的な性質で、以下の証明はすべてこれに帰着する。

開部分スキームの普遍性

$X$ をスキーム、$U\subset X$ を開集合、$j=j_U\colon U\to X$ を包含射とする。スキーム $T$ と射 $f\colon T\to X$ が $f(T)\subset U$ をみたすとき、$j\circ g=f$ となる射 $g\colon T\to U$ がただ 1 つある。
$$ \xymatrix{ T \ar[r]^{f} \ar@{.>}[d]_{g} & X \\ U \ar@{^{(}->}[ur]_{j} & } $$
図式が可換とは $j\circ g=f$ ということである。逆に、任意の射 $g\colon T\to U$ について $j\circ g$ の像は $U$ に含まれる。したがって $g\mapsto j\circ g$ は全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathbf{Sch}}(T,U)\xrightarrow{\ \sim\ }\{f\in\operatorname{Hom}_{\mathbf{Sch}}(T,X)\mid f(T)\subset U\} $$
を与える。

逆向きの主張は $j$ の像が $U$ であることから明らかなので、存在と一意性を示す。
存在。連続写像 $g\colon T\to U$ を $g(t):=f(t)$ で定める。$U$ の開集合 $V$ は $X$ の開集合でもあり $g^{-1}(V)=f^{-1}(V)$ なので、$g$ は連続である。$V\subset U$ を開集合とすると
$$ \mathcal{O}_U(V)=\mathcal{O}_X(V),\qquad (g_*\mathcal{O}_T)(V)=\mathcal{O}_T(g^{-1}(V))=\mathcal{O}_T(f^{-1}(V))=(f_*\mathcal{O}_T)(V) $$
なので、$g^\sharp_V:=f^\sharp_V$ とおけば、制限と両立する環準同型の族、すなわち層の射 $g^\sharp\colon\mathcal{O}_U\to g_*\mathcal{O}_T$ が得られる。点 $t\in T$ での茎の写像は $g^\sharp_t=f^\sharp_t\colon\mathcal{O}_{X,f(t)}=\mathcal{O}_{U,f(t)}\to\mathcal{O}_{T,t}$ であり、$f$ が局所射なので局所準同型である。よって $g=(g,g^\sharp)$ はスキームの射である。
$j\circ g=f$ を確かめる。連続写像としては明らかである。$X$ の開集合 $W$ について、合成の層の射は
$$ (j\circ g)^\sharp_W\colon\mathcal{O}_X(W)\xrightarrow{\ j^\sharp_W\ }\mathcal{O}_X(W\cap U)\xrightarrow{\ g^\sharp_{W\cap U}\ }\mathcal{O}_T(g^{-1}(W\cap U)) $$
である。$f(T)\subset U$ なので $g^{-1}(W\cap U)=f^{-1}(W\cap U)=f^{-1}(W)$ であり、$s\in\mathcal{O}_X(W)$ は $f^\sharp_{W\cap U}(s|_{W\cap U})=f^\sharp_W(s)|_{f^{-1}(W\cap U)}=f^\sharp_W(s)$ に送られる($f^\sharp$ が制限と両立すること)。よって $(j\circ g)^\sharp=f^\sharp$ である。
一意性。$g'\colon T\to U$ も $j\circ g'=f$ をみたすとする。$j$ は単射なので、連続写像として $g'=g$ である。$V\subset U$ が開集合なら $j^\sharp_V\colon\mathcal{O}_X(V)\to\mathcal{O}_X(V\cap U)=\mathcal{O}_X(V)$ は恒等写像なので、上の合成の式で $W=V$ とおくと
$$ g'^\sharp_V=(j\circ g')^\sharp_V=f^\sharp_V=g^\sharp_V $$
である。よって $g'=g$ である。$\square$

包含射はモノ射

包含射 $j\colon U\to X$ はスキームの圏のモノ射である。すなわち、射 $a,b\colon T\to U$ が $j\circ a=j\circ b$ をみたせば $a=b$ である。

$f:=j\circ a=j\circ b$ は像が $U$ に含まれる射であり、$a$ と $b$ はどちらも $j\circ g=f$ をみたす $g$ である。thm-open-subscheme-universal の一意性により $a=b$ である。$\square$

普遍性は、$U$ への射が「$X$ への射であって、行き先がたまたま $U$ に入っているもの」にすぎないことを述べている。層の情報を付け足す必要がないのは、$U$ の構造層が $\mathcal{O}_X$ の制限そのものだからである。閉部分スキームでは事情が違い、像が閉集合に入っていても、その閉部分スキームを経由するとは限らない(閉部分スキーム の記事の補題「閉埋め込みを経由する射」では、イデアル層が $0$ に写ることが条件になる)。

共通部分はファイバー積

開部分スキームの共通部分はファイバー積

$X$ をスキーム、$U,V\subset X$ を開集合とする。開部分スキーム $U\cap V$ と包含射 $p\colon U\cap V\to U$、$q\colon U\cap V\to V$ は、$j_U\colon U\to X$ と $j_V\colon V\to X$ のファイバー積である。すなわち、スキーム $T$ と射 $a\colon T\to U$、$b\colon T\to V$ が $j_U\circ a=j_V\circ b$ をみたすとき、$p\circ c=a$ かつ $q\circ c=b$ となる射 $c\colon T\to U\cap V$ がただ 1 つある。
$$ \xymatrix{ T \ar@/^1pc/[drr]^{b} \ar@/_1pc/[ddr]_{a} \ar@{.>}[dr]|{c} & & \\ & U\cap V \ar[r]^{q} \ar[d]_{p} & V \ar@{^{(}->}[d]^{j_V} \\ & U \ar@{^{(}->}[r]_{j_U} & X } $$
図式の等式は $j_U\circ p=j_V\circ q$、$p\circ c=a$、$q\circ c=b$ である。記号では $U\times_XV=U\cap V$ と書ける。

包含射の合成は包含射なので(def-open-subscheme の後の注意)、$j_U\circ p=j_{U\cap V}=j_V\circ q$ であり、四角形は可換である。
存在。$f:=j_U\circ a=j_V\circ b$ とおくと、$f(T)=a(T)\subset U$ かつ $f(T)=b(T)\subset V$ なので $f(T)\subset U\cap V$ である。thm-open-subscheme-universal を開部分スキーム $U\cap V\subset X$ に使うと、$j_{U\cap V}\circ c=f$ となる $c\colon T\to U\cap V$ がある。このとき $j_U\circ(p\circ c)=j_{U\cap V}\circ c=f=j_U\circ a$ であり、cor-open-subscheme-monomorphism により $p\circ c=a$ である。同様に $q\circ c=b$ である。
一意性。$c'$ も $p\circ c'=a$、$q\circ c'=b$ をみたせば、$j_{U\cap V}\circ c'=j_U\circ p\circ c'=f=j_{U\cap V}\circ c$ なので、ふたたび cor-open-subscheme-monomorphism($U\cap V$ の包含射に使う)により $c'=c$ である。$\square$

位相空間の開集合の共通部分が、スキームの圏のファイバー積として構造層まで込めて実現されている。一般のファイバー積の点は点の組ではない(スキーム の記事の注意「ファイバー積の構成の筋と出典」の $\operatorname{Spec}\mathbb{C}\times_{\operatorname{Spec}\mathbb{R}}\operatorname{Spec}\mathbb{C}$)が、開部分スキームどうしのファイバー積では、点の集合は共通部分そのものである。

アフィン開部分スキームの開基

スキームのアフィン開部分スキームの全体は位相の開基をなす(スキーム の記事の命題「開部分スキームはスキームである」の後半)。より詳しく、アフィン開部分スキーム $U\cong\operatorname{Spec}A$ の中では基本開集合 $D(f)\cong\operatorname{Spec}A_f$ が開基をなす(アフィンスキーム の記事の命題「Zariski位相の基本性質」)。2 つのアフィン開部分スキームの共通部分はアフィンとは限らない(ex-open-subscheme-doubled-plane)が、両方の基本開集合になっている開集合で覆うことはできる。これが、アフィン開被覆ごとに定義した性質を別のアフィン開被覆へ移すときの基本の補題である。
スキーム $X$ の開集合 $W$ と $s\in\mathcal{O}_X(W)$ に対し、$s$ が点 $x\in W$ で $0$ でないとは、$s$ の芽 $s_x$ が局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の極大イデアルに属さないこと、すなわち剰余体 $\kappa(x)$ での値 $s(x)$ が $0$ でないことをいう。$W=\operatorname{Spec}A$ がアフィンで $x=\mathfrak{p}$ なら、$s_x\in A_{\mathfrak{p}}$ が $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ に属さないことは $s\notin\mathfrak{p}$ と同値なので、$s$ が $0$ でない点の集合はちょうど $D(s)$ である。芽は開集合への制限で変わらないので、この集合は $s$ を小さい開集合に制限しても、その開集合との共通部分をとるだけで変わらない。

2 つのアフィン開部分スキームに共通な基本開集合

$X$ をスキーム、$U\cong\operatorname{Spec}A$ と $V\cong\operatorname{Spec}B$ をアフィン開部分スキームとする。任意の点 $x\in U\cap V$ に対し、$x$ を含む開集合 $W\subset U\cap V$ で、$A$ のある元 $h$ による $U$ の基本開集合 $D_U(h)$ であり、同時に $B$ のある元 $g$ による $V$ の基本開集合 $D_V(g)$ でもあるものがある。したがって $U\cap V$ は、$U$ と $V$ の両方で基本開集合である開集合で覆われる。

要点:$x\in D_V(g)\subset D_U(f)\subset U\cap V$ と基本開集合を 2 段とり、$g$ を $D_U(f)\cong\operatorname{Spec}A_f$ に制限して $a/f^m$ と書くと、$g$ が $0$ でない点の集合を 2 通りに計算して $D_V(g)=D_U(af)$ を得る。

詳しい証明を開く

基本開集合が開基をなすことから、$x\in D_U(f)\subset U\cap V$ となる $f\in A$ がとれ、さらに $x\in D_V(g)\subset D_U(f)$ となる $g\in B$ がとれる。$D_U(f)$ は $\operatorname{Spec}A_f$ に同型なアフィン開部分スキームである(ex-open-subscheme-basic-open)。

$g$ を $D_U(f)$ に制限したものを $\bar g\in\mathcal{O}_X(D_U(f))\cong A_f$ とし、$\bar g=a/f^m$($a\in A$、$m\ge0$)と書く。補題の前で述べたことにより、$D_U(f)$ の点のうち $\bar g$ が $0$ でない点の集合は $D_U(f)\cap D_V(g)=D_V(g)$ である。一方、$\operatorname{Spec}A_f$ の点 $\mathfrak{p}A_f$($\mathfrak{p}\in D_U(f)$)で $a/f^m$ が $0$ でないことは、$f$ が $A_f$ の単元なので $a\notin\mathfrak{p}$ と同値であり、$D_U(f)$ の点のうち $\bar g$ が $0$ でない点の集合は $D_U(f)\cap D_U(a)=D_U(af)$ である。したがって $D_V(g)=D_U(af)$ であり、$W:=D_V(g)$、$h:=af$ とおけばよい。$\square$

この補題の後半は Stacks Lemma 26.11.5(Tag 01IW)であり、同じ補題が 有限型射 の記事の補題「2 つのアフィン開集合に共通な基本開集合」にもある。これを使うと、「アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ について $A$ が性質 P をもつ」という条件が、$A$ から $A_f$ へ移り、$A_{f_1},\dots,A_{f_n}$($(f_1,\dots,f_n)=A$)から $A$ へ戻る性質であれば、あるアフィン開被覆で確かめればすべてのアフィン開集合で成り立つことが示せる(Stacks Lemma 28.4.3、Tag 01OO)。局所 Noether 性はこうして定義され、被約性もこの形の性質である。

原点を除いたアフィン空間

アフィンスキームの開部分スキームがアフィンでない典型例を、次元 $n\ge2$ のアフィン空間で示す。$n=2$ の場合は アフィンスキーム の記事の例「反例:原点を除いた平面はアフィンでない」でも扱われている。

原点を除いたアフィン空間

$k$ を体、$n\ge2$、$A=k[x_1,\dots,x_n]$、$X=\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}A$ とし、原点 $\mathfrak{o}=(x_1,\dots,x_n)$ を除いた開部分スキームを $U=X\setminus\{\mathfrak{o}\}$ とする。

  1. 制限写像 $r\colon A=\Gamma(X,\mathcal{O}_X)\to\Gamma(U,\mathcal{O}_X)$ は同型である。
  2. $U$ はアフィンでない。
    $n=1$ のときは $U=D(x_1)\cong\operatorname{Spec}k[x_1,x_1^{-1}]$ はアフィンであり、$r$ は同型でない($x_1^{-1}$ が像にない)。

$A/\mathfrak{o}\cong k$ なので $\mathfrak{o}$ は極大イデアルで $V(\mathfrak{o})=\{\mathfrak{o}\}$ であり、素イデアルがすべての $x_i$ を含むことは $\mathfrak{o}$ に等しいことと同値だから $U=D(x_1)\cup\cdots\cup D(x_n)$ である。
1 の証明。層の条件と アフィンスキーム の記事の定理「基本開集合の上の切断」($\mathcal{O}(D(f))=A_f$)により、$\Gamma(U,\mathcal{O}_X)$ は、族 $(s_i)_i\in\prod_iA_{x_i}$ で、すべての $i,j$ について $s_i$ と $s_j$ の $A_{x_ix_j}$ での像が等しいものの全体と同一視される($D(x_i)\cap D(x_j)=D(x_ix_j)$)。$A$ は整域なので、これらの局所化はすべて商体 $K=k(x_1,\dots,x_n)$ の部分環であり、局所化どうしの写像は $K$ の中の包含である。したがって $\Gamma(U,\mathcal{O}_X)=\bigcap_iA_{x_i}$($K$ の中の共通部分)であり、$r$ は包含 $A\subset\bigcap_iA_{x_i}$ である。$r$ は単射なので、全射を示せばよい。
$s\in\bigcap_iA_{x_i}$ をとり、$s=g/x_1^m=h/x_2^l$($g,h\in A$、$m,l\ge0$)と書くと、$gx_2^l=hx_1^m$ である。$A$ は一意分解整域で $x_1$ は素元であり、$x_1$ は $x_2^l$ を割らないので、$x_1^m$ は $g$ を割る。よって $s=g/x_1^m\in A$ である。ここで $n\ge2$ を使った。
2 の証明。$U$ がアフィンだとすると、スキーム の記事の系「標準射とアフィン性の判定」により、恒等写像 $\Gamma(U,\mathcal{O}_U)\to\Gamma(U,\mathcal{O}_U)$ に対応する標準射 $c\colon U\to\operatorname{Spec}\Gamma(U,\mathcal{O}_U)$ は同型である。同記事の命題「アフィンスキームへの射と大域切断」の全単射を $\rho$ と書くと、包含射 $j\colon U\to X$ について $\rho(j)=j^\sharp_X=r$ である。一方、$r$ が定める射 $\operatorname{Spec}r\colon\operatorname{Spec}\Gamma(U,\mathcal{O}_U)\to\operatorname{Spec}A=X$ について、同じ命題の自然性から
$$ \rho(\operatorname{Spec}r\circ c)=\rho(c)\circ\rho(\operatorname{Spec}r)=\mathrm{id}\circ r=r=\rho(j) $$
であり($c$ の大域切断の写像 $\rho(c)$ は、$c$ の定義により恒等写像)、$\rho$ の単射性から $j=\operatorname{Spec}r\circ c$ である。1 により $r$ は同型なので $\operatorname{Spec}r$ も同型であり、$j$ は同型の合成として同型になる。しかし $j$ の像 $U$ は $\mathfrak{o}$ を含まないので、$j$ は全射でなく同型でない。これは矛盾である。$\square$

$U$ 上の正則関数はすべて $\mathbb{A}^n_k$ 全体に延びる。これは、複素多様体で余次元 $2$ 以上の集合の外で正則な関数が延長できるという Hartogs の現象の代数版であり、「原点を除いても関数は増えないのに空間は小さくなる」ことがアフィンでない理由である。命題は $U$ が「アフィンスキームの開部分スキーム」と「大域切断の環が $A$」を満たすが「アフィン」を満たさない反例を与える。とくに、$U\to X$ はアフィン射でない(アフィン射 の記事の例「反例:原点を除いた平面」)。

開部分スキームに受け継がれる性質

開部分スキーム $U\subset X$ の点の局所環は $X$ の点の局所環そのものなので、茎で判定できる性質はそのまま $U$ に受け継がれる。一方、大域的な性質は受け継がれないことが多い。

性質開部分スキームに受け継がれるか根拠
被約受け継がれる茎が同じ(被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」)
既約・整空でなければ受け継がれる既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」、整スキーム の記事の命題「開部分スキームと局所環」
局所 Noether・Noether受け継がれるNoetherスキーム の記事の命題「開部分スキームと閉部分スキーム」
分離的受け継がれる分離射 の記事の命題「モノ射とはめ込みの分離性」
アフィン受け継がれないprop-open-subscheme-punctured
準コンパクト受け継がれないex-open-subscheme-not-quasi-compact
連結受け継がれないex-open-subscheme-disconnected

アフィンの場合でも、基本開集合 $D(f)$ への制限はアフィンのままであり(ex-open-subscheme-basic-open)、アフィンスキーム上の議論の多くはこの形の開集合だけで済むように組み立てられる。

補足

開部分スキームと閉部分スキームの違い

開集合 $U\subset X$ の上の開部分スキームの構造は $\mathcal{O}_X|_U$ ただ 1 つである。開埋め込み $f\colon Y\to X$ で像が $U$ のものも、$X$ 上の同型を除いてただ 1 つである。実際、定義により $f$ はある開部分スキーム $U'$ への同型 $\alpha\colon Y\to U'$ と包含射 $j_{U'}$ の合成であり、$U'=f(Y)=U$ である。さらに $j_U\circ\alpha=j_U\circ\alpha'$ となる同型 $\alpha,\alpha'$ は cor-open-subscheme-monomorphism により等しい。これに対し、閉集合の上には一般に多くの閉部分スキームの構造がある。たとえば $\mathbb{A}^1_k$ の原点という同じ閉集合の上に $\operatorname{Spec}k[x]/(x)$ と $\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$ が載り、両者は同型でない(閉埋め込み の記事の例「点と 2 重点」)。

開部分スキーム閉部分スキーム
台開集合 $U$閉集合 $Z$
台の上の構造$\mathcal{O}_X\vert_U$ ただ 1 つ準連接イデアル層ごとに 1 つ(一般に多数)
$\operatorname{Spec}A$ の中での形アフィンとは限らない($D(f)$ ならアフィン)つねに $\operatorname{Spec}A/I$ でアフィン
包含の茎の写像同型全射
経由する射の条件像が $U$ に入ることイデアル層が $0$ に写ること

閉部分スキームとイデアル層の対応は 閉部分スキーム の記事の定理「閉部分スキームと準連接イデアル層の対応」、アフィンスキームの閉部分スキームの形は 閉埋め込み の記事の定理「アフィンスキームへの閉埋め込み」にある。開部分スキームの閉部分スキームを局所閉部分スキームといい、その包含を局所閉埋め込み(はめ込み)という。

文献

開部分スキームの定義と基本的な例は Stacks にある。

所在の一覧を開く

Stacks:Schemes の章の Definition 26.3.3(Tag 01HG、局所環付き空間の開部分空間)、Lemma 26.9.2(Tag 01IK、開部分空間はスキーム)、Example 26.9.3(Tag 01IL、原点を除いた平面の大域切断と非アフィン性)、Definition 26.10.2(Tag 01IO、開部分スキームと開埋め込み)、Lemma 26.11.5(Tag 01IW、共通な基本開集合)、Lemma 26.11.6(Tag 01IX、アフィン開集合の開基)。Properties of Schemes の章の Lemma 28.4.3(Tag 01OO、アフィン開被覆で確かめる局所的性質)。本記事の thm-open-subscheme-universal と prop-open-subscheme-intersection の証明、およびその他の反例は、層の射と環の計算を本文中で確かめた。

関連項目

参考文献

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