全測地的部分多様体

同義語:全測地的totally geodesic submanifoldtotally geodesic

概要

全測地的部分多様体(totally geodesic submanifold)とは、Riemann 多様体 $\bar M$ の部分多様体 $M$ で、$M$ に接して出発する $\bar M$ の測地線がしばらく $M$ から出ないものである。これは第 2 基本形式が恒等的に $0$ であること、また $M$ の測地線がすべて $\bar M$ の測地線であることと同値である。全測地的部分多様体の断面曲率は外の空間の断面曲率と一致し、外の空間の曲率テンソルは接空間を保つ。等長写像の固定点集合の各連結成分は全測地的であり、連結な全測地的部分多様体は、Euclid 空間ではアフィン部分空間、球面では大球面、双曲空間では線形部分空間との交わりの開集合に限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemann多様体, 部分多様体, 測地線, Riemann接続

$\mathbb R^3$ の平面の上の直線は、平面の中でも空間の中でも「まっすぐ」である。一方、球面の大円は球面の中では測地線(まっすぐな曲線)だが、$\mathbb R^3$ の中では曲がっている。Riemann 多様体の部分多様体のうち、平面のように「部分多様体の中でまっすぐな曲線は、外の空間でもまっすぐ」となるものを全測地的部分多様体(totally geodesic submanifold)という。同じことを「外の空間の測地線が、部分多様体に接して出発すれば、しばらく部分多様体から出ない」とも言える。
部分多様体が外の空間の中でどう曲がっているかは、第 2 基本形式という法ベクトル値の双線形形式で測られる。全測地的であることは、第 2 基本形式が恒等的に $0$ であることと同値である。この記事では、第 2 基本形式を定義し、この同値性を証明し、全測地的部分多様体の曲率が外の空間の曲率と一致すること、等長写像の固定点集合の成分が全測地的であることを示す。最後に、Euclid 空間・球面・双曲空間の連結な全測地的部分多様体が、アフィン部分空間・大球面・その双曲版の開集合に限ることを証明する。

第 2 基本形式

以下 $(\bar M,\bar g)$ を $m$ 次元の Riemann 多様体、$\bar\nabla$ をその Riemann接続 とし、$M\subset\bar M$ を $n$ 次元の埋め込まれた部分多様体、$g$ を $\bar g$ から誘導される計量、$\nabla$ を $(M,g)$ の Riemann 接続とする。$p\in M$ で $T_p\bar M=T_pM\oplus N_pM$($N_pM$ は $T_pM$ の直交補空間)と分け、接成分を $Z^\top$、法成分を $Z^\perp$ と書く。

第 2 基本形式

$M$ の接ベクトル場 $X,Y$ を $\bar M$ の開集合上のベクトル場に延長して
$$ \mathrm{II}(X,Y):=\bigl(\bar\nabla_XY\bigr)^\perp $$
とおき、$M$ の第 2 基本形式という。

$\mathrm{II}(X,Y)$ は延長のとり方によらず、$X,Y$ について $C^\infty(M)$ 双線形かつ対称で、点 $p$ での値は $X_p,Y_p$ だけで決まる。また $(\bar\nabla_XY)^\top=\nabla_XY$ であり(Gauss の公式)
$$ \bar\nabla_XY=\nabla_XY+\mathrm{II}(X,Y) $$
が成り立つ。$M$ の中の曲線 $\gamma$ に沿う $M$ の接ベクトル場 $V$ については、$\bar M$ での共変微分 $\bar D_t$ と $M$ での共変微分 $D_t$ の間に
$$ \bar D_tV=D_tV+\mathrm{II}(\gamma',V) $$
が成り立つ。これらは Lee18 Proposition 8.1(p. 227)、Theorem 8.2(p. 228)、Corollary 8.3(p. 229)にあり、この記事では証明しない。対称性だけは短く確かめられる:$\bar\nabla$ に捩れがないので $\mathrm{II}(X,Y)-\mathrm{II}(Y,X)=[X,Y]^\perp$ であり、$M$ に接するベクトル場の Lie括弧 は $M$ に接するので右辺は $0$ である。
$\mathrm{II}$ は対称なので、偏極恒等式 $\mathrm{II}(v,w)=\frac14\bigl(\mathrm{II}(v+w,v+w)-\mathrm{II}(v-w,v-w)\bigr)$ により、すべての $v\in T_pM$ についての値 $\mathrm{II}(v,v)$ で決まる。
Gauss曲率 の記事の $\mathbb R^3$ の曲面の第 2 基本形式 $L,M,N$ は、単位法ベクトル $\nu$ について $\langle\mathrm{II},\nu\rangle$ の係数である。以下の結果のうち各点の近くだけで決まるもの(第 2 基本形式による特徴づけと曲率の比較)は、はめ込まれた部分多様体(等長はめ込み)にもそのまま当てはまる。

定義と特徴づけ

全測地的部分多様体

$M\subset\bar M$ が全測地的であるとは、$\bar M$ の測地線 $\gamma$ が、ある時刻 $t_0$ で $\gamma(t_0)\in M$、$\gamma'(t_0)\in T_{\gamma(t_0)}M$ を満たせば、ある $\varepsilon>0$ について $(t_0-\varepsilon,t_0+\varepsilon)$ の上で $\gamma(t)\in M$ となることをいう。

全測地性の特徴づけ

$M\subset\bar M$ について次は同値である。

  1. $M$ は全測地的である。
  2. $M$ の第 2 基本形式は恒等的に $0$ である。
  3. $(M,g)$ の測地線はすべて $(\bar M,\bar g)$ の測地線である。

1 ⇒ 2:$p\in M$、$v\in T_pM$ とし、$\gamma$ を $\gamma(0)=p$、$\gamma'(0)=v$ の $\bar M$ の測地線とする。1 により、小さな区間で $\gamma$ は $M$ の中の曲線であり、Gauss の公式を $V=\gamma'$ に当てると
$$ 0=\bar D_t\gamma'=D_t\gamma'+\mathrm{II}(\gamma',\gamma') $$
である。右辺の第 1 項は $M$ に接し、第 2 項は法ベクトルなので、両方とも $0$ である。$t=0$ で $\mathrm{II}(v,v)=0$ を得る。$v$ は任意なので、偏極により $\mathrm{II}_p=0$ である。
2 ⇒ 3:$\gamma$ を $M$ の測地線とすると $D_t\gamma'=0$ であり、Gauss の公式と $\mathrm{II}=0$ から $\bar D_t\gamma'=0$ である。
3 ⇒ 1:$\bar M$ の測地線 $\gamma$ が $\gamma(t_0)=p\in M$、$\gamma'(t_0)=v\in T_pM$ を満たすとする。$\sigma$ を $\sigma(t_0)=p$、$\sigma'(t_0)=v$ の $M$ の測地線とすると、3 により $\sigma$ は $\bar M$ の測地線でもあり、初期条件が $\gamma$ と同じである。測地線 の命題「測地線の局所存在と一意性」により、$t_0$ を含む区間で $\gamma=\sigma$ であり、そこで $\gamma(t)\in M$ である。$\square$

$\mathbb R^3$ の曲面で言えば、全測地的であることは $L=M=N=0$、すなわち形作用素が $0$ であることである。連結な曲面なら平面の開集合に限る(thm-tg-space-forms)。

全測地的部分多様体の曲率

$M$ が全測地的なら、次が成り立つ。

  1. $T_pM$ の 2 次元部分空間 $\sigma$ について、$M$ での断面曲率 と $\bar M$ での断面曲率は等しい:$K_M(\sigma)=K_{\bar M}(\sigma)$。
  2. $X,Y,Z\in T_pM$ なら $\bar R(X,Y)Z\in T_pM$ である($\bar R$ は $\bar M$ の曲率テンソル)。

1:Gauss の方程式(Lee18 Theorem 8.5、p. 230)を正規直交な $v,w\in T_pM$ に当てると
$$ K_M(v,w)=K_{\bar M}(v,w)+\bar g\bigl(\mathrm{II}(v,v),\mathrm{II}(w,w)\bigr)-\bigl|\mathrm{II}(v,w)\bigr|^2 $$
であり、$\mathrm{II}=0$ なので $K_M=K_{\bar M}$ である。2:Codazzi の方程式(Lee18 Theorem 8.9、p. 232)は $\bigl(\bar R(X,Y)Z\bigr)^\perp$ を $\mathrm{II}$ の共変微分の差で表すので、$\mathrm{II}\equiv0$ なら左辺も $0$ である。$\square$

2 は強い制約である。$T_pM$ を含む全測地的部分多様体があるためには、その接空間 $V$ が $\bar R(V,V)V\subset V$ を満たさなければならない。一般の計量では、この条件を満たす部分空間は少ない。

局所的な一意性

$M$ が全測地的で $p\in M$ なら、$\varepsilon>0$ を小さくとると、$\exp_p\bigl(T_pM\cap B_\varepsilon(0)\bigr)$ は $M$ の中での $p$ の開近傍である($\exp_p$ は $\bar M$ の正規座標 の指数写像、$B_\varepsilon(0)$ は $T_p\bar M$ の半径 $\varepsilon$ の球)。とくに、同じ次元の 2 つの全測地的部分多様体が点 $p$ を共有し、$p$ での接空間が等しければ、$p$ の近傍で一致する。

thm-tg-characterization の 3 により、$v\in T_pM$ について $M$ の測地線 $t\mapsto\exp^M_p(tv)$ は $\bar M$ の測地線 $t\mapsto\exp_p(tv)$ と一致する。よって $M$ の指数写像 $\exp^M_p$ は、定義される範囲で $\exp_p$ の $T_pM$ への制限に等しい。正規座標 の命題「指数写像の原点での微分」を $(M,g)$ に当てると、$\varepsilon$ が小さければ $\exp^M_p$ は $T_pM\cap B_\varepsilon(0)$ から $M$ の中の $p$ の開近傍への微分同相である。後半は、2 つの部分多様体がどちらも $\exp_p\bigl(V\cap B_\varepsilon(0)\bigr)$($V$ は共通の接空間)を $p$ の開近傍として含むことから従う。$\square$

等長写像の固定点集合

全測地的部分多様体を作るいちばん便利な方法は、対称性を使うことである。

等長写像の固定点集合

$\Phi$ を $(\bar M,\bar g)$ の等長写像($\bar M$ から自分自身への等長な微分同相)からなる集合とし、
$$ F:=\{p\in\bar M\mid\text{すべての }\phi\in\Phi\text{ について }\phi(p)=p\} $$
とおく。このとき $F$ の各連結成分は $\bar M$ の閉集合で、埋め込まれた全測地的部分多様体であり、$p\in F$ での接空間は
$$ T_pF=E_p:=\{v\in T_p\bar M\mid\text{すべての }\phi\in\Phi\text{ について }d\phi_p(v)=v\} $$
である。

$F$ は連続写像の固定点の集合の共通部分なので閉集合である。$p\in F$ とし、$\varepsilon>0$ を $\exp_p$ が $B_\varepsilon(0)\subset T_p\bar M$ から $\bar M$ の開集合 $U$ への微分同相になるようにとる(正規座標 の定義「正規近傍と正規座標」)。$\phi\in\Phi$ について $\phi(p)=p$ であり、Riemann幾何学 の命題「等長写像は測地線を測地線に写す」により $\phi\circ\exp_p=\exp_p\circ d\phi_p$ である。$d\phi_p$ は $T_p\bar M$ の線形等長写像なので $B_\varepsilon(0)$ を保つ。したがって $v\in B_\varepsilon(0)$ について
$$ \phi(\exp_pv)=\exp_pv\iff\exp_p(d\phi_pv)=\exp_pv\iff d\phi_pv=v $$
である(最後の同値は $\exp_p$ の $B_\varepsilon(0)$ 上の単射性による)。よって $F\cap U=\exp_p\bigl(E_p\cap B_\varepsilon(0)\bigr)$ で、これは線形部分空間 $E_p$ の一部を微分同相で写したものだから、$\dim E_p$ 次元の埋め込まれた部分多様体で、$p$ での接空間は $E_p$ である($d(\exp_p)_0=\mathrm{id}$)。とくに $F$ は局所連結で、各連結成分は $F$ の中で開かつ閉であり、次元は成分の上で一定である。
全測地的であること:$q\in F$、$w\in T_qF=E_q$ とし、$\gamma_w$ を $q$ を初速度 $w$ で出る $\bar M$ の測地線とする。$\phi\in\Phi$ について $\phi\circ\gamma_w$ は初速度 $d\phi_qw=w$ の測地線なので $\phi\circ\gamma_w=\gamma_w$ であり、$\gamma_w(t)$ は定義されるすべての $t$ で $F$ に入る。$\gamma_w$ は連結なので $q$ を含む成分に入る。$\square$

固定点集合として得られる全測地的部分多様体
  1. 大球面。$W\subset\mathbb R^{n+1}$ を $k+1$ 次元の線形部分空間($1\le k\le n-1$)とし、$R_W$ を $W$ の上で恒等写像、直交補空間 $W^\perp$ の上で $-1$ 倍の直交変換とする。$R_W$ は単位球面 $S^n$ の等長写像で、固定点集合は $S^n\cap W$($k$ 次元の大球面)である。よって大球面は全測地的で、$k=1$ の大円が $S^n$ の測地線であることもここから分かる。
  2. 双曲空間の中の双曲空間。双曲空間 の定義「Minkowski 空間と双曲空間」の $H^n\subset\mathbb R^{n,1}$ と、$H^n$ の点を含む $k+1$ 次元の線形部分空間 $W$ をとる。$W$ は時間的なベクトルを含むので $\langle\ ,\ \rangle$ は $W$ の上で非退化で、$\mathbb R^{n+1}=W\oplus W^{\perp}$(Minkowski の直交補空間)と分かれる。$W$ の上で恒等、$W^\perp$ の上で $-1$ 倍の線形写像 $R_W$ は $\langle\ ,\ \rangle$ を保ち、$W\cap H^n$ の点を固定するので上側の葉 $H^n$ を保ち、$H^n$ の等長写像になる。固定点集合 $H^n\cap W$ は全測地的である。$H^n$ の測地線(双曲空間 の定理「測地線と距離の公式」の大双曲線)は $k=1$ の場合である。
  3. 対角線。$(M,g)$ について積 $M\times M$ に積の計量を入れると、入れ替え $(x,y)\mapsto(y,x)$ は等長写像で、固定点集合は対角線 $\{(x,x)\}$ である。よって対角線は全測地的である。

固定点集合とは別の仕方で全測地的部分多様体が見つかることもある。Warped積多様体 の命題「葉とファイバーの幾何」により、Warped 積 $B\times_fF$ の葉 $B\times\{q\}$ はいつも全測地的であり($f\equiv1$ なら直積の葉)、ファイバー $\{p\}\times F$ が全測地的であることは $\mathrm{grad}f(p)=0$ と同値である。リーマン沈め込み の命題「$T$と全測地的ファイバー」は、Riemann 沈め込みのファイバーがすべて全測地的であることを O'Neill のテンソル $T$ の消滅で言い換えている。

Euclid 空間・球面・双曲空間の全測地的部分多様体

Euclid 空間 $\mathbb R^N$ の部分多様体の上では、$\mathbb R^N$ の値をもつ関数をそのまま微分できる。$M$ の接ベクトル $X$ と $\mathbb R^N$ 値の関数 $Z$ について、$Z$ の $X$ 方向の微分を $D_XZ$ と書く。$\mathbb R^N$ の Riemann 接続は $D$ そのものである。

微分で閉じた部分空間の族は一定

$M\subset\mathbb R^N$ を連結な部分多様体とし、各 $x\in M$ に $\mathbb R^N$ の $k$ 次元の線形部分空間 $W(x)$ が対応しているとする。各点の近傍で $W(x)$ を張る滑らかな $\mathbb R^N$ 値関数 $Z_1,\dots,Z_k$ がとれ、すべての $X\in T_xM$ について $D_XZ_i\in W(x)$ が成り立つなら、$W(x)$ は $x$ によらず一定である。

$P(x)$ を $W(x)$ への(標準内積についての)直交射影とする。$Z_i$ を Gram–Schmidt の方法で正規直交化すれば、$P$ は滑らかである。$W(x)$ に値をとる滑らかな関数 $s=\sum_if_iZ_i$ については $D_Xs=\sum_i(Xf_i)Z_i+\sum_if_iD_XZ_i\in W(x)$ である。$W(x)^\perp$ に値をとる滑らかな関数 $\nu$ については、$\langle\nu,Z_i\rangle=0$ を微分して $\langle D_X\nu,Z_i\rangle=-\langle\nu,D_XZ_i\rangle=0$ なので $D_X\nu\in W(x)^\perp$ である。
定ベクトル $a\in\mathbb R^N$ をとり、$s=Pa$、$\nu=a-Pa$ とおく。$s+\nu=a$ は定数なので $D_Xs=-D_X\nu$ であり、左辺は $W(x)$、右辺は $W(x)^\perp$ に入るので $D_X(Pa)=0$ である。$M$ は連結なので $Pa$ は一定であり、$a$ は任意だから $P$ も一定、したがって $W(x)$ も一定である。$\square$

定曲率空間の全測地的部分多様体

$M$ を $k$ 次元($1\le k< n$)の連結な部分多様体とする。

  1. $M\subset\mathbb R^n$ が全測地的であることと、$M$ が $k$ 次元のアフィン部分空間の開集合であることは同値である。
  2. $M\subset S^n$ が全測地的であることと、$M$ がある $k+1$ 次元の線形部分空間 $W$ についての大球面 $S^n\cap W$ の開集合であることは同値である。
  3. $M\subset H^n$ が全測地的であることと、$M$ が $H^n$ の点を含むある $k+1$ 次元の線形部分空間 $W$ について $H^n\cap W$ の開集合であることは同値である。

「開集合なら全測地的」は、アフィン部分空間では $D_XY$ が接空間に入ることから、2・3 では ex-tg-fixed-point-examples から従う(全測地的な部分多様体の開集合は全測地的である)。逆を示す。
1:$M$ の接ベクトル場 $X,Y$ について、Gauss の公式と $\mathrm{II}=0$ から $D_XY=\nabla_XY$ は $M$ に接する。$M$ の局所的な接枠 $Z_1,\dots,Z_k$ に lem-tg-constant-subspace を当てると、$T_xM=V$ は一定である。$\nu\in V^\perp$ について $X\langle x,\nu\rangle=\langle X,\nu\rangle=0$ なので $\langle x,\nu\rangle$ は $M$ の上で一定であり、$p\in M$ をとれば $M\subset p+V$ である。$M$ から $k$ 次元のアフィン空間 $p+V$ への包含は同じ次元の多様体の間の単射なはめ込みなので、逆関数定理 により開写像であり、$M$ は $p+V$ の開集合である。
2:$S^n\subset\mathbb R^{n+1}$ の点 $x$ での単位法ベクトルは $x$ で、$S^n$ の接ベクトル場 $X,Y$ について $\langle Y,x\rangle=0$ を微分すると $\langle D_XY,x\rangle=-\langle X,Y\rangle$ である。よって $S^n$ の $\mathbb R^{n+1}$ の中での Gauss の公式は $D_XY=\nabla^{S^n}_XY-\langle X,Y\rangle x$ である。$M\subset S^n$ が全測地的なら $\nabla^{S^n}_XY=\nabla^M_XY$ なので、$M$ の接ベクトル場 $X,Y$ について
$$ D_XY=\nabla^M_XY-\langle X,Y\rangle x\in W(x):=\mathrm{span}(x,\ T_xM),\qquad D_Xx=X\in W(x) $$
である。位置ベクトル $x$ と局所的な接枠に lem-tg-constant-subspace を当てると、$k+1$ 次元の $W(x)=W$ は一定である。$x\in W(x)$ なので $M\subset S^n\cap W$ であり、1 と同じく次元を比べて $M$ は $S^n\cap W$ の開集合である。
3:双曲空間 の定理「双曲空間の曲率」の証明の段 1 により、$H^n$ の $\mathbb R^{n,1}$ の中での Gauss の公式は $D_XY=\nabla^{H^n}_XY+g(X,Y)\,x$ である($D$ は $\mathbb R^{n+1}$ の普通の微分で、$\mathbb R^{n,1}$ の Riemann 接続でもある)。2 と同じく $D_XY$ と $D_Xx$ は $\mathrm{span}(x,T_xM)$ に入り、lem-tg-constant-subspace(標準内積を使う補題であり、Minkowski の形式は使わない)から $\mathrm{span}(x,T_xM)=W$ は一定で、$M\subset H^n\cap W$ の開集合である。$\square$

とくに、完備で連結な全測地的部分多様体は、$\mathbb R^n$ ではアフィン部分空間、$S^n$ では大球面、$H^n$ では $H^n\cap W$($k$ 次元の双曲空間と等長)そのものである。双曲空間 の例「上半空間の測地線と全測地的な超曲面」は、上半空間モデルでの $k=n-1$ の場合の形(境界に垂直な超平面と、中心が境界の上にある球面)を求めている。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
すべての $v\in T_pM$ で $\mathrm{II}(v,v)=0$(一部の向きだけにする)$\mathbb R^3$ の円柱 $x^2+y^2=1$部分多様体の測地線がすべて外の空間の測地線である
$\phi$ が等長写像である(微分同相だけにする)$\phi(x,y)=(x,\ 2y-x^2)$ の固定点集合固定点集合が全測地的である
$M$ が連結である$\mathbb R^2$ の 2 本の平行線 $y=0$、$y=1$ の和$M$ が 1 つのアフィン部分空間の開集合である
等長写像の固定点集合の成分である(全測地的なはめ込みにする)平坦なトーラス $\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ の、傾き $\sqrt2$ の直線の像閉集合で、埋め込まれた部分多様体である
反例の確かめ

1 行目:円柱の母線($z$ 軸に平行な直線)の向き $v$ では $\mathrm{II}(v,v)=0$ で、母線は $\mathbb R^3$ の直線である。円周 $z=$ 定数 の向き $w$ では、円周は円柱の測地線(円柱を平面に展開すると直線になる)だが、$\mathbb R^3$ の中では加速度が中心を向くので測地線でない。$\mathrm{II}(w,w)\ne0$ で、円柱は全測地的でない。
2 行目:$\phi$ は逆写像 $(x,y)\mapsto\bigl(x,\ (y+x^2)/2\bigr)$ をもつ微分同相で、$\phi(x,y)=(x,y)$ は $y=x^2$ と同値である。放物線は直線の開集合でないので、thm-tg-space-forms の 1 により全測地的でない。
3 行目:各直線の上で $\mathrm{II}=0$ なので和は全測地的な(埋め込まれた)部分多様体だが、1 本の直線には含まれない。証明の中で $\langle x,\nu\rangle$ が一定になるのは連結成分ごとである。
4 行目:直線 $t\mapsto(t,\sqrt2\,t)$ を射影した曲線は、局所等長な射影 $\mathbb R^2\to\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ によってトーラスの測地線で、その像の各局所的な小片は全測地的である。傾きが無理数なので曲線は閉じず、像はトーラスで稠密である。像は閉集合でなく、埋め込まれた部分多様体でもない。

補足

極小部分多様体との関係。 第 2 基本形式のトレースを $n$ で割ったものを平均曲率ベクトルといい、それが $0$ の部分多様体を極小部分多様体という。全測地的部分多様体は極小であるが、逆は成り立たない(等温座標 の命題「極小曲面の等温表示」の懸垂面は極小だが、$L=-1$、$N=1$ で全測地的でない)。第 2 基本形式が計量の倍数である部分多様体は 全臍的部分多様体 で、全測地的部分多様体はその特別な場合である。
曲率への応用。 cor-tg-curvature の 1 は、2 次元の全測地的部分多様体の Gauss 曲率として断面曲率を読み取れることを示す。全測地的な曲面がない場合でも、断面曲率は「その平面に接する測地線で掃いた 2 次元の曲面」の、点 $p$ での Gauss 曲率として読み取れる(Lee18 p. 250 の定義と Proposition 8.29、p. 251)。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 176, Springer, 2018, Proposition 8.1(第 2 基本形式の性質、p. 227)、Theorem 8.2(Gauss の公式、p. 228)、Corollary 8.3(曲線に沿う Gauss の公式、p. 229)、Theorem 8.5(Gauss の方程式、p. 230)、Theorem 8.9(Codazzi の方程式、p. 232)、Proposition 8.12(全測地性の特徴づけ、p. 234)、p. 250 と Proposition 8.29(断面曲率の解釈、p. 251)

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