安定性理論

同義語:stability theory

概要

安定性理論(stability theory)とは、完全な理論を、パラメータの集合 $A$ の上の型の個数によって分けるモデル理論の分野である。無限基数 $\kappa$ について、$\lvert A\rvert\le\kappa$ のとき $A$ の上の型が $\kappa$ 個以下である理論を $\kappa$-安定といい、ある $\kappa$ で $\kappa$-安定な理論を安定という。可算言語の理論が $\omega$-安定ならすべての無限基数で安定であり、論理式が無限の線形順序を写し取る順序性をもてばどの無限基数でも安定でない。無限集合の理論や標数 $0$ の代数閉体の理論は $\omega$-安定、稠密な線形順序の理論は不安定であり、非可算な濃度で範疇的な可算言語の理論は $\omega$-安定である(Morley)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: モデル理論, 完全な理論, コンパクト性定理(一階論理), カテゴリー性

一階の理論のモデルを分類しようとするとき、手がかりになるのは「元がとりうる振る舞いの種類」の数である。パラメータの集合 $A$ を固定して、$A$ の元をパラメータとする論理式のうち元が満たすものの全体を、その元の $A$ 上の 型 という。型の個数が $A$ の大きさを超えない理論では、元の振る舞いが少数の型で整理される。逆に、論理式で定義される無限の線形順序をもつ理論では、順序の「切れ目」の数だけ型が生じ、型の個数は $A$ よりずっと多くなる。
安定性理論(stability theory)は、型の個数で理論を分ける モデル理論 の分野である。Morley は非可算な濃度で範疇的な理論を調べる中で、可算な集合の上の型が可算個しかない理論($\omega$-安定な理論)を導入した。Shelah は一般の無限基数での安定性を考え、不安定性を論理式の性質で特徴づけた。この記事では、型の個数による $\kappa$-安定性を定義し、$\omega$-安定な理論はすべての無限基数で安定であること、論理式が「順序性」をもつ理論はどの無限基数でも安定でないことを証明する。例として、無限集合の理論と標数 $0$ の代数閉体の理論が $\omega$-安定であり、稠密な線形順序の理論が安定でないことを示す。

定義

この記事を通して、$L$ は可算な一階言語、$T$ は無限のモデルをもつ $L$ の 完全な理論 とする。基数の議論では選択公理を仮定する。$T$ のモデル $M$ と部分集合 $A\subset M$ について、$A$ の各元を定数記号として加えた言語を $L_A$ とし、$M$ を自然に $L_A$ 構造と見る。$L$ は可算なので、$L_A$ の論理式は $\lvert A\rvert+\aleph_0$ 個以下である。

完全型

自由変数 $x$ だけをもつ $L_A$ の論理式の集合 $p(x)$ が、次の 2 条件を満たすとき、$p$ を $M$ における $A$ 上の(1 変数の)完全型 という。

  1. $p$ は $M$ で 有限充足可能 である。すなわち、有限部分集合 $\{\varphi_1,\dots,\varphi_m\}\subset p$ ごとに、$M\models\varphi_1(b)\land\cdots\land\varphi_m(b)$ となる $b\in M$ がある。
  2. $x$ だけを自由変数とする $L_A$ の論理式 $\varphi(x)$ ごとに、$\varphi\in p$ または $\lnot\varphi\in p$ である。
    その全体を $S^M(A)$ と書く。$b\in M$ について、$M\models\varphi(b)$ となる $\varphi(x)$ の全体 $\operatorname{tp}(b/A)$ は $S^M(A)$ の元であり、これを $b$ の $A$ 上の型 という。

$S^M(A)$ の元はどれも $M$ のある初等拡大で実現される(モデル理論 の命題「型の実現定理」)。型 $p$ が $b$ で実現されれば、2 により $p$ は $b$ が満たす論理式の全体に一致する。$a\in A$ について論理式 $x=a$ を含む型は $\operatorname{tp}(a/A)$ だけなので、$\lvert S^M(A)\rvert\ge\lvert A\rvert$ である。

型への延長

$M$ で有限充足可能な、$x$ だけを自由変数とする $L_A$ の論理式の集合 $\Pi$ は、$S^M(A)$ のある元に含まれる。

要点:Zorn の補題で極大な有限充足可能集合をとると、それが完全型になる。

詳しい証明を開く

$\Pi$ を含む有限充足可能な集合の全体を包含で順序づける。鎖の和の有限部分集合はある 1 つの元に含まれるので、和も有限充足可能である。Zorn の補題により極大元 $q$ がある。ある $\varphi$ について $\varphi\notin q$ かつ $\lnot\varphi\notin q$ とすると、極大性から $q\cup\{\varphi\}$ と $q\cup\{\lnot\varphi\}$ はどちらも有限充足可能でなく、有限集合 $q_1,q_2\subset q$ で $q_1\cup\{\varphi\}$ と $q_2\cup\{\lnot\varphi\}$ を満たす元がないものがある。$q_1\cup q_2$ を満たす元 $b\in M$ をとると、$b$ は $\varphi$ か $\lnot\varphi$ を満たすので矛盾である。よって $q\in S^M(A)$ である。$\square$

安定性

$\kappa$ を無限基数とする。$T$ が $\kappa$-安定($\kappa$-stable)であるとは、$T$ の任意のモデル $M$ と、$\lvert A\rvert\le\kappa$ を満たす任意の $A\subset M$ について、$\lvert S^M(A)\rvert\le\kappa$ となることをいう。$\aleph_0$-安定を $\omega$-安定 という。ある無限基数 $\kappa$ について $\kappa$-安定であるとき、$T$ は 安定 であるという。安定でない理論を 不安定 という。

この定義は Sh71 Definition 2.1(p. 297)と同じで、1 変数の型を数える。$n$ 変数の型で数えても同じ概念になる(同 Lemma 2.10、p. 303。この記事では証明しない)。$\omega$-安定な理論は、Mor65 が 全超越的(totally transcendental)とよんだ理論と一致する(同 Theorem 2.8、pp. 522–523)。

直感

$\lvert A\rvert\le\kappa$ なら型は少なくとも $\lvert A\rvert$ 個あり、$L_A$ の論理式の集合の個数から $2^{\kappa}$ 個以下である。$\kappa$-安定性は、型の個数がこの上限よりずっと小さい $\kappa$ 以下に収まることを要求する。型の個数は「$A$ の上で区別できる元の種類」の数なので、安定な理論のモデルでは、元の振る舞いが少数の型で整理される。代数閉体では、型は「$A$ の上の既約多項式の根」と「超越的な元」に分かれる(ex-st-acf)。

例

次の 3 つの理論はどれも完全である(完全な理論 の例「無限集合の理論」、Löwenheim–Skolemの定理 の例「稠密な線形順序と代数閉体」)。

無限集合の理論

等号だけの言語で無限集合を公理化した理論 $T_\infty$(カテゴリー性 の例「無限集合の理論」)はすべての無限基数 $\kappa$ について $\kappa$-安定であり、とくに $\omega$-安定である。実際、$M\models T_\infty$、$A\subset M$ について、$S^M(A)$ は $\operatorname{tp}(a/A)$($a\in A$)と、$\{\lnot\,x=a\mid a\in A\}$ を含むただ 1 つの型からなり、$\lvert S^M(A)\rvert=\lvert A\rvert+1$ である。

要点:$A$ の外の 2 元は、$A$ を固定して 2 元を入れ替える置換(記号がないので自己同型)で移り合うので、同じ論理式を満たす。

詳しい証明を開く

$x=a$($a\in A$)を含む型は $\operatorname{tp}(a/A)$ だけである。そうでない型 $p,q\in S^M(A)$ は $\lnot\,x=a$ をすべて含む。$p$ を初等拡大 $M_1\succcurlyeq M$ の元 $b$ で実現する(モデル理論 の命題「型の実現定理」)。$q$ の有限部分集合を満たす元が $M$ にあることは $A$ の元をパラメータとする $L_A$ の文で書け、その文は $M_1$ でも真なので、$q$ は $M_1$ でも有限充足可能である。$q$ を $M_1$ の初等拡大 $M_2$ の元 $b'$ で実現する。$b,b'\notin A$ である。$b=b'$ なら $p=q$ である。$b\ne b'$ なら、$b$ と $b'$ を入れ替え他を動かさない $M_2$ の置換 $\pi$ は、等号だけの言語では自己同型で、$A$ の各元を固定する。同型写像は論理式の真偽を保つ(一階述語論理 の定理「同型補題」)ので、$L_A$ の論理式 $\varphi(x)$ について $M_2\models\varphi(b)\iff M_2\models\varphi(b')$ である。$M_1\preccurlyeq M_2$ により、$p$ は $b$ が $M_2$ で満たす論理式の全体、$q$ は $b'$ が満たす論理式の全体に一致するので、$p=q$ である。$M$ は無限なので $\{\lnot\,x=a\mid a\in A\}$ は $M$ で有限充足可能であり、lem-st-completion によりこれを含む型が実際に存在する($A=M$ のときも)。$\square$

標数 0 の代数閉体

標数 $0$ の代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}_0$ は $\omega$-安定である。$K\models\mathrm{ACF}_0$、$A\subset K$ が可算のとき、$A$ が生成する部分体を $k$ とすると、$S^K(A)$ の元は、$k[X]$ の素イデアル($0$ か、既約多項式が生成するイデアル)と 1 対 1 に対応する。$k[X]$ は可算なので、その素イデアルは可算個しかない。

要点:量化記号消去により、型は「どの多項式の根か」で決まる。

詳しい証明を開く

$R$ を $A$ が生成する $K$ の部分環($A$ の元の整数係数の多項式の値の全体)とし、$k$ をその商体とする。$\mathrm{ACF}$ は量化記号消去をもつ(量化記号消去 の定理「代数閉体の量化記号消去」)ので、$L_A$ の論理式 $\varphi(x)$ は $K$ の中で、$g(x)=0$($g\in R[X]$)の形の原子論理式から $\lnot,\land,\lor$ で作った論理式 $\psi(x)$ と同値になる。型 $p$ は有限充足可能で完全なので、$\varphi\in p\iff\psi\in p$ であり、$p$ は $I_p:=\{g\in R[X]\mid(g(x)=0)\in p\}$ で決まる。

$p$ を初等拡大 $N\succcurlyeq K$ の元 $b$ で実現すると、$I_p=\{g\in R[X]\mid g(b)=0\}$ は環準同型 $R[X]\to N$、$g\mapsto g(b)$ の核であり、$N$ は体なので素イデアルである。$I_p\cap R=0$($R\subset K\subset N$ への埋め込みは単射)なので、$k[X]$ は $R[X]$ を $R\setminus\{0\}$ で局所化した環で、$I_p$ は $R\setminus\{0\}$ と交わらないので、$I_p$ が $k[X]$ で生成するイデアル $J_p$ は素イデアルで $J_p\cap R[X]=I_p$ を満たす(分母を払えばよい:$h\in J_p\cap R[X]$ なら $dh\in I_p$ となる $0\ne d\in R$ があり、$d\notin I_p$ と素イデアル性から $h\in I_p$)。よって $p\mapsto J_p$ は単射である。全射でもある。既約多項式 $f\in k[X]$ には、$K$ での根 $b$ の型 $\operatorname{tp}(b/A)$ が対応する($k[X]$ の元は分母を払うと $R[X]$ の元になるので $J_p=\{h\in k[X]\mid h(b)=0\}$ であり、$f$ は $b$ を根にもつ既約多項式なので、これは $(f)$ に等しい)。$0$ には、$\{\lnot\,g(x)=0\mid 0\ne g\in R[X]\}$ を含む型が対応する($K$ は代数閉体なので無限であり、各 $g$ の $K$ での根は有限個なので、この集合は $K$ で有限充足可能であり、lem-st-completion により型に延びる。その型 $p$ では $I_p=0$、したがって $J_p=0$ である)。$k[X]$ は単項イデアル整域なので、素イデアルは $0$ か既約多項式 $f$ が生成する $(f)$ である。$A$ が可算なら $k[X]$ は可算なので、$\lvert S^K(A)\rvert\le\aleph_0$ である。$\square$

この記述は Mor65 Example I(pp. 523–524)にある。$J_p=(f)$ の型は既約多項式 $f$ の根の型、$J_p=0$ の型は $k$ 上超越的な元の型である。

稠密な線形順序

端点のない稠密な線形順序の理論 $\mathrm{DLO}$ は $\omega$-安定でない。実際、$M=(\mathbb R,<)$、$A=\mathbb Q$ とすると、実数 $r$ ごとの型 $\operatorname{tp}(r/\mathbb Q)$ は互いに異なる。$r< s$ なら $r< q< s$ となる有理数 $q$ があり、論理式 $x< q$ は $\operatorname{tp}(r/\mathbb Q)$ に属し $\operatorname{tp}(s/\mathbb Q)$ に属さないからである。よって可算な $A$ の上に $2^{\aleph_0}$ 個以上の型がある。

後の thm-st-order により、$\mathrm{DLO}$ はどの無限基数でも安定でない。

$\omega$-安定な理論はすべての無限基数で安定

$\omega$-安定性から $\kappa$-安定性へ

$T$ が $\omega$-安定ならば、$T$ はすべての無限基数 $\kappa$ について $\kappa$-安定である。

$T$ が $\kappa$-安定でないとし、$T$ のモデル $M$ と $A\subset M$ で $\lvert A\rvert\le\kappa< \lvert S^M(A)\rvert$ となるものをとる。$x$ だけを自由変数とする $L_A$ の論理式を単に論理式とよび、$\varphi$ を含む型の集合を $[\varphi]:=\{p\in S^M(A)\mid\varphi\in p\}$ と書く。$\lvert[\varphi]\rvert>\kappa$ のとき $\varphi$ は 大きい という。$x=x$ は大きい。
段 1(大きい論理式は 2 つに割れる). 大きい $\varphi$ について、$\varphi\land\psi$ と $\varphi\land\lnot\psi$ がともに大きい論理式 $\psi$ があることを示す。型は $\psi$ か $\lnot\psi$ を含むので $[\varphi]=[\varphi\land\psi]\cup[\varphi\land\lnot\psi]$ であり、$\kappa+\kappa=\kappa$ だから少なくとも一方は大きい。そのような $\psi$ がないとすると、どの $\psi$ についてもちょうど一方だけが大きい。$q:=\{\psi\mid\varphi\land\psi\text{ は大きい}\}$ とおく。$r\in[\varphi]$ が $q$ と異なれば、$\psi\in r\setminus q$(このとき $\varphi\land\psi$ は大きくない)か、$\psi\in q\setminus r$(このとき $\lnot\psi\in r$ で $\varphi\land\lnot\psi$ は大きくない)となる $\psi$ がある。どちらの場合も、$r$ は大きくない論理式 $\varphi\land\chi$ の $[\varphi\land\chi]$ に属する。論理式は $\kappa$ 個以下なので
$$ \lvert[\varphi]\rvert\le1+\kappa\cdot\kappa=\kappa $$
となり、$\varphi$ が大きいことに反する。
段 2(2 分木を作る). 有限の 0-1 列 $s$ ごとに大きい論理式 $\varphi_s$ を、$\varphi_{\emptyset}:=(x=x)$ とし、$\varphi_s$ に段 1 の $\psi_s$ をとって $\varphi_{s0}:=\varphi_s\land\psi_s$、$\varphi_{s1}:=\varphi_s\land\lnot\psi_s$ と定める。これらの可算個の論理式に現れるパラメータの集合 $A_0\subset A$ は可算である。
段 3(可算集合の上の型を $2^{\aleph_0}$ 個作る). 無限の 0-1 列 $\eta$ ごとに $\Pi_\eta:=\{\varphi_{\eta\restriction n}\mid n\in\mathbb N\}$ とおく($\eta\restriction n$ は最初の $n$ 項)。$\Pi_\eta$ の有限部分集合は最も長い $\varphi_{\eta\restriction n}$ に含意され、$\varphi_{\eta\restriction n}$ は大きいのである型に含まれ、したがって $M$ のある元が満たす。よって $\Pi_\eta$ は $M$ で有限充足可能な $L_{A_0}$ の論理式の集合であり、lem-st-completion により $p_\eta\in S^M(A_0)$ に延びる。$\eta\ne\eta'$ が最初に $n$ 項目で異なるとき、$s:=\eta\restriction n$ について $\psi_s$ と $\lnot\psi_s$ が $p_\eta$ と $p_{\eta'}$ に分かれて属するので、$p_\eta\ne p_{\eta'}$ である。よって $\lvert S^M(A_0)\rvert\ge2^{\aleph_0}>\aleph_0$ となり、$T$ は $\omega$-安定でない。$\square$

証明の要点は、型が多すぎると「2 つに割れ続ける論理式の木」ができ、その枝が可算個のパラメータの上に連続体濃度個の型を生むことである。Mor65 は同じ結論を Theorem 2.7・2.8(pp. 522–523)で、型の空間の Cantor–Bendixson 型の階数を使って示している。言語が可算であることは、段 1 で論理式の個数を $\kappa$ 以下に抑えるところで使った(無限基数の和と積は 濃度 の命題「無限基数の和と積」による)。

順序性をもつ理論は安定でない

順序性

$r\ge1$ とし、$\varphi(x;\bar y)$ を自由変数が $x$ と $\bar y=(y_1,\dots,y_r)$ の中にある $L$ の論理式とする。$T$ のあるモデル $M$ に元 $a_i\in M$ と組 $\bar b_j\in M^r$($i,j\in\mathbb N$)があって
$$ M\models\varphi(a_i;\bar b_j)\iff i< j\qquad(i,j\in\mathbb N) $$
となるとき、$\varphi$ は 順序性(order property)をもつという。

$\mathrm{DLO}$ では $\varphi(x;y):=x< y$ が、$M=(\mathbb Q,<)$、$a_i=b_i=i$ により順序性をもつ。順序性は「論理式が無限の線形順序を写し取る」ことを表している。

切れ目の多い線形順序

無限基数 $\kappa$ について、線形順序 $(J,<)$ を含む線形順序 $(I,<)$ と部分集合 $Z\subset I\setminus J$ で、次を満たすものがある。

  1. $\lvert J\rvert\le\kappa< \lvert Z\rvert$。
  2. $\zeta< \zeta'$($\zeta,\zeta'\in Z$)なら、$\zeta< \theta< \zeta'$ となる $\theta\in J$ がある。
  3. $J$ には最小元 $o$ があり、すべての $\zeta\in Z$ について $o< \zeta$ である。

要点:$2^\mu>\kappa$ となる最小の基数 $\mu$ をとり、長さ $\mu$ の 0-1 列を辞書式に並べる。「いつかから先すべて $0$」の列を $J$、どちらの値も限りなく現れる列を $Z$ とする。

詳しい証明を開く

$2^\kappa>\kappa$(濃度 の定理「Cantor の定理:冪集合は真に大きい」)なので、$2^\mu>\kappa$ となる最小の基数 $\mu$ があり、$\mu\le\kappa$ である。有限の $n$ では $2^n$ は有限なので $\mu$ は無限であり、極限順序数である。$I$ を写像 $\mu\to\{0,1\}$ の全体とし、$\eta\ne\zeta$ が最初に異なる位置 $\beta$ で $\eta(\beta)=0$ のとき $\eta< \zeta$ と定める(辞書式順序。線形順序である)。

$J$ を、ある $\alpha< \mu$ より先($\beta\ge\alpha$)で値がすべて $0$ の列の全体とする。$\alpha$ を固定した部分は $2^{\lvert\alpha\rvert}$ 個で、$\lvert\alpha\rvert< \mu$ と $\mu$ の最小性から $\kappa$ 以下なので、$\lvert J\rvert\le\mu\cdot\kappa=\kappa$ である。同様に、ある所から先すべて $1$ の列も $\kappa$ 個以下である。$Z$ を、どの $\alpha< \mu$ についても $\alpha$ より先に値 $0$ と値 $1$ がともに現れる列の全体とすると、$I$ はこの 3 つの集合の和なので、$\lvert Z\rvert\le\kappa$ なら $2^\mu=\lvert I\rvert\le\kappa$ となって矛盾する。よって 1 が成り立つ。

2:$\zeta< \zeta'$ が最初に位置 $\beta$ で異なるとする($\zeta(\beta)=0$、$\zeta'(\beta)=1$)。$\zeta\in Z$ なので $\gamma>\beta$ で $\zeta(\gamma)=0$ となるものがある。$\theta$ を、$\gamma$ より前は $\zeta$ と同じ、$\theta(\gamma)=1$、$\gamma$ より先はすべて $0$ と定めると、$\gamma+1< \mu$ なので $\theta\in J$ である。$\theta$ と $\zeta$ は位置 $\gamma$ で初めて異なるので $\zeta< \theta$、$\theta$ と $\zeta'$ は位置 $\beta$ で初めて異なり $\theta(\beta)=\zeta(\beta)=0$ なので $\theta< \zeta'$ である。

3:すべて $0$ の列 $o$ は $J$ の最小元で、$Z$ の元は $0$ でない値をとるので $o$ より大きい。$\square$

順序性をもつ理論は安定でない

ある論理式 $\varphi(x;\bar y)$ が順序性をもつならば、$T$ はどの無限基数 $\kappa$ についても $\kappa$-安定でない。

$\kappa$ を無限基数とし、lem-st-cuts の $J,Z$ をとる。
段 1($J$ で添字づけた列を作る). $L$ に新しい定数記号 $c_\eta$ と $r$ 個組の定数記号 $\bar d_\eta$($\eta\in J$)を加え、
$$ \Sigma:=T\cup\{\varphi(c_\eta;\bar d_\theta)\mid\eta< \theta\}\cup\{\lnot\varphi(c_\eta;\bar d_\theta)\mid\theta\le\eta\} $$
とおく($\eta,\theta\in J$)。$\Sigma$ の有限部分集合に現れる添字を $\eta_1< \cdots< \eta_m$ とし、順序性を与えるモデル $M$ で $c_{\eta_i}$ を $a_i$、$\bar d_{\eta_i}$ を $\bar b_i$ と解釈すれば、$M\models\varphi(a_i;\bar b_j)\iff i< j\iff\eta_i< \eta_j$ なので、この有限部分集合は満たされる。コンパクト性定理(一階論理) により $\Sigma$ はモデルをもち、その $L$ への簡約を $N$、定数記号の値を $a_\eta,\bar b_\eta$ とする。$N\models T$ で、
$$ N\models\varphi(a_\eta;\bar b_\theta)\iff\eta< \theta\qquad(\eta,\theta\in J) $$
である。$\bar b_\theta$($\theta\in J$)の成分の全体を $B$ とすると $\lvert B\rvert\le r\cdot\lvert J\rvert\le\kappa$ である。
段 2(切れ目ごとに型を作る). $\zeta\in Z$ について
$$ \Pi_\zeta:=\{\varphi(x;\bar b_\theta)\mid\theta\in J,\ \zeta< \theta\}\cup\{\lnot\varphi(x;\bar b_\theta)\mid\theta\in J,\ \theta< \zeta\} $$
とおく($Z\cap J=\emptyset$ なので、$J$ の元は $\zeta$ より大きいか小さい)。$\Pi_\zeta$ の有限部分集合に現れる $\theta$ のうち $\zeta$ より小さいものの最大を $\eta$ とする(なければ $\eta:=o$)。$\zeta$ より小さい $\theta$ については $\theta\le\eta$ なので $\lnot\varphi(a_\eta;\bar b_\theta)$ が、$\zeta< \theta$ なら $\eta< \zeta< \theta$ なので $\varphi(a_\eta;\bar b_\theta)$ が成り立ち($\eta=o$ のときも lem-st-cuts の 3 により $o< \zeta$)、$a_\eta$ がこの有限部分集合を満たす。よって $\Pi_\zeta$ は $N$ で有限充足可能であり、lem-st-completion により $p_\zeta\in S^N(B)$ に延びる。
段 3(型は互いに異なる). $\zeta< \zeta'$ なら、lem-st-cuts の 2 により $\zeta< \theta< \zeta'$ となる $\theta\in J$ があり、$\varphi(x;\bar b_\theta)\in p_\zeta$、$\lnot\varphi(x;\bar b_\theta)\in p_{\zeta'}$ である。よって $\zeta\mapsto p_\zeta$ は単射で、$\lvert S^N(B)\rvert\ge\lvert Z\rvert>\kappa\ge\lvert B\rvert$ となり、$T$ は $\kappa$-安定でない。$\square$

$\mathrm{DLO}$ はどの無限基数でも安定でない。逆向きも成り立ち、Shelah は次を示した(この記事では証明しない)。

Shelah の不安定性の特徴づけ

$T$ が不安定であることと、ある論理式 $\psi(\bar x_1;\bar x_2)$($\bar x_1,\bar x_2$ は同じ長さの変数の組)と組の列 $(\bar e_n)_{n\in\mathbb N}$ が $T$ のあるモデルにあって「$\psi(\bar e_k;\bar e_l)$ が成り立つ $\iff k< l$」となることは同値である。

出典と位置づけ

Sh71 Theorem 2.13 の (1) と (5) の同値(pp. 304–305)である。順序性をもつ $\varphi(x;\bar y)$ があれば、$\bar e_n:=(a_n,\bar b_n)$ と $\psi(x_1\bar y_1;x_2\bar y_2):=\varphi(x_1;\bar y_2)$ がこの条件を満たすので、thm-st-order は Theorem 2.13 の (5) から (1) への向きの、左側の変数が 1 つの場合にあたる。同論文の Lemma 2.3(p. 299)も、lem-st-cuts と同じ最小の $\mu$($2^\mu>\kappa$)を使って不安定性を導いている。安定な理論は、どの論理式も thm-st-shelah の形で組の列の順序を写し取らない理論と言い換えられる。

範疇性との関係

Morley の $\omega$-安定性定理

可算言語の完全な理論 $T$ が無限のモデルをもち、ある非可算基数 $\kappa$ について $\kappa$-範疇的ならば、$T$ は $\omega$-安定である。

出典と帰結

Mor65 Theorem 3.8(p. 528)である(同論文の「全超越的」は Theorem 2.8 により $\omega$-安定と同じ。この記事では証明しない)。thm-st-omega と合わせると、非可算な濃度で範疇的な可算言語の理論はすべての無限基数で安定である。Morley の範疇性定理(カテゴリー性 の定理「Morley の範疇性定理」)は、同論文の §5 で、この定理と全超越的な理論のモデルの性質(同 §4)を組み合わせて証明されている(同論文の序文、p. 515)。
$\mathrm{DLO}$ は $\aleph_0$-範疇的(カテゴリー性 の定理「Cantor の定理」)だが $\omega$-安定でない(ex-st-dlo)。したがって thm-st-morley の「非可算」は外せない。同じことは Mor65 の Theorem 3.8 の直後(p. 528)でも、有理数の切断が相異なる型を与えることとして指摘されている。$\mathrm{DLO}$ が非可算な濃度で範疇的でないことも、thm-st-morley と ex-st-dlo から改めて分かる。

理論$\omega$-安定安定非可算濃度で範疇的根拠
無限集合 $T_\infty$はいはいはいex-st-infinite-sets、カテゴリー性
標数 $0$ の代数閉体 $\mathrm{ACF}_0$はいはいはいex-st-acf、Löwenheim–Skolemの定理
稠密な線形順序 $\mathrm{DLO}$いいえいいえいいえex-st-dlo、thm-st-order、thm-st-morley

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
thm-st-omega の「$\omega$-安定」$\mathrm{DLO}$すべての無限基数で安定であること
thm-st-order の「順序性をもつ」$T_\infty$ と論理式 $x=y$どの無限基数でも安定でないこと
thm-st-morley の「非可算基数で範疇的」($\aleph_0$ に替える)$\mathrm{DLO}$$\omega$-安定であること
反例の確かめ

1 行目:ex-st-dlo により $\mathrm{DLO}$ は $\omega$-安定でなく、thm-st-order によりどの無限基数でも安定でない。
2 行目:$T_\infty$ は ex-st-infinite-sets によりすべての無限基数で安定である。したがって thm-st-order の対偶により、$T_\infty$ のどの論理式 $\varphi(x;\bar y)$ も順序性をもたず、とくに $x=y$ ももたない(直接にも、$a_0=b_1$ かつ $a_0=b_2$ から $b_1=b_2$ となり、$a_1=b_2$ と $a_1\ne b_1$ に反する)。
3 行目:ex-st-dlo と、上の注意の $\aleph_0$-範疇性による。

関連項目

参考文献

[1]
Michael Morley, Categoricity in power, Transactions of the American Mathematical Society, 1965, 序文 pp. 514–515、Theorem 2.7・2.8(全超越的な理論と可算集合の上の型)pp. 522–523、Example I(標数 0 の代数閉体)pp. 523–524、Theorem 3.8(非可算濃度で範疇的なら全超越的)とその直後の注意 p. 528
[2]
Saharon Shelah, Stability, the f.c.p., and superstability; model theoretic properties of formulas in first order theory, Annals of Mathematical Logic, 1971, Definition 2.1(stable in λ)p. 297、Lemma 2.3 p. 299、Lemma 2.10(1 変数の型と n 変数の型)p. 303、Theorem 2.13(不安定性の特徴づけ)pp. 304–305

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