幾何学

同義語:geometry

概要

幾何学(geometry)とは、空間とその中の図形の形や位置関係を、図形を移す変換と、その変換で変わらない量(不変量)によって研究する数学の分野である。長さと角を保つ変換を使う Euclid 幾何学、直線を直線に移す変換を使う射影幾何学、平行線公準の成り立たない球面の幾何と双曲幾何、微分で曲率を測る微分幾何学、多項式の零点の図形を扱う代数幾何学などに分かれる。単位球面の上で中心から見た角を距離とすると、その距離を保つ写像はちょうど直交行列の定める写像の制限であり、球面の等長変換の群は直交群になる。この点で、平行移動を等長変換に含む Euclid 空間と違う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Euclid空間, 距離空間, 群

幾何学(geometry)は、空間と、その中の図形の形や位置関係を研究する数学の分野である。三角形の辺の長さと角、直線が交わるかどうか、曲面がどれだけ曲がっているか、方程式の解がどんな図形を描くか、といった問いを扱う。現代の幾何学では、図形そのものよりも、図形を動かす変換と、変換で変わらない量に注目する。長さと角を保つ変換で変わらない性質を調べれば Euclid 幾何学になり、直線を直線に移す変換だけで変わらない性質を調べれば射影幾何学になる。座標を取り替える変換や、空間の対称性をなす群の元は多くの場合に行列で表され(行列、Lie群)、線形代数は幾何学の基本の道具である。
この記事では、まず「幾何」と幾何学の分野を定義し、主な問いと代表的な定理を、それを扱う記事とともに一覧にする。続いて、球面の上の 2 点の距離を保つ写像がすべて直交行列から得られることを完全に証明し、Euclid 平面・球面・双曲平面の 3 つの幾何を比べる。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。

定義

集合 $X$ の全単射 $X\to X$ のうち、恒等写像を含み、合成と逆写像で閉じている集まり $G$ を $X$ の変換群という(群、群の作用)。

幾何と不変量

集合 $X$ とその変換群 $G$ の組 $(X,G)$ を幾何という。$X$ の 2 つの部分集合(図形)$A,B$ は、$g(A)=B$ となる $g\in G$ があるとき $G$ で合同であるという。図形についての量や性質で、$G$ のどの元で図形を移しても変わらないものを、この幾何の不変量という。
幾何学とは、空間とその上の図形を、それを保つ変換と不変量によって研究する数学の分野である。

この見方は F. Klein が 1872 年に Erlangen プログラムとして示したもので、詳しくは Erlangenプログラム にある(定義「幾何(集合と変換群の組)」)。たとえば平面 $\mathbb{R}^2$ と、距離を保つ全単射の全体(合同変換群)の組では、三角形の 3 辺の長さが不変量で、3 辺の長さが等しい 2 つの三角形は合同である。群を相似変換の全体に広げると、長さは不変量でなくなり、辺の比と角だけが残る。
距離をもつ空間では、もっとも基本的な変換群は距離を保つ写像の群である。距離空間 $(X,d)$ の写像 $f\colon X\to X$ が、すべての $x,y\in X$ について $d(f(x),f(y))=d(x,y)$ を満たすとき、$f$ は距離を保つという。距離を保つ全単射を等長変換という(等長写像)。
幾何学は、扱う空間と変換によって、おおよそ次の分野に分かれる。

幾何学の主な問い

  1. 図形を見分ける。 2 つの図形が合同か相似かを、不変量で判定する。平面の三角形は、合同変換のもとでは 3 辺の長さで、相似変換のもとでは 3 辺の比で決まる(Erlangenプログラム の定理「三角形の合同類」)。
  2. 対称性を調べる。 空間や図形を自分自身に移す変換の群を決める。正多面体の回転の群や、空間全体の等長変換群がその例である。下の代表例では、球面の等長変換群が直交群 $O(n+1)$ であることを証明する。
  3. 曲がり方を測る。 曲線や曲面の曲がり方を曲率で測る。曲面の Gauss 曲率は、曲面の中で測れる長さだけで決まる(Gauss曲率 の定理「驚異の定理(Brioschi の公式)」)ので、平面の地図を、どんなに小さな部分でも、長さを変えずに球面に重ねることはできない。
  4. 局所と大域を結ぶ。 各点の近くで決まる量(曲率)を全体で積分すると、全体の形で決まる量(Euler 標数)になる、という型の定理がある(Gauss–Bonnetの定理)。
  5. 方程式の解がなす図形を調べる。 平面曲線の交点の個数や、方程式の解の集合の次元・特異点を問う(Bézoutの定理、代数多様体)。

代表的な定理

幾何学の基本となる定理を、それを扱う記事とともに挙げる。

定理主張の要点記事
三平方の定理直角三角形の斜辺の 2 乗は他の 2 辺の 2 乗の和三平方の定理
三角形の内角の和平面の三角形の内角の和は $\pi$三角形の内角の和
平行線公準の独立性平行線公準は他の公理から証明できない平行線公準
Euclid 空間の等長写像距離を保つ写像は直交変換と平行移動の合成等長写像
Desargues の定理・Pappus の定理射影平面の点と直線の結合についての定理Desarguesの定理, Pappusの六角形定理
複比の不変性射影変換は直線上の 4 点の複比を保つ複比
球面三角形の面積単位球面の三角形の面積は内角の和から $\pi$ を引いたもの球面三角形の面積
驚異の定理Gauss 曲率は曲面の内在的な量Gauss曲率
Gauss–Bonnet の定理向き付け可能な閉曲面の Gauss 曲率の積分は $2\pi$ 倍の Euler 標数Gauss–Bonnetの定理
Hopf–Rinow の定理Riemann 多様体の完備性の同値な条件Hopf–Rinowの定理
Bézout の定理共通成分のない次数 $m$ と $n$ の複素射影平面曲線は、重複度を込めて $mn$ 点で交わるBézoutの定理

代表例:球面の等長変換

球面は、Euclid 平面と並ぶもっとも基本的な幾何の舞台である。ここでは、球面の 2 点の距離を球の中心から見た角で測り、その距離を保つ写像をすべて決定する。答えは、直交行列による回転と鏡映の合成だけである。これは「空間の幾何は、その空間の等長変換群で決まる」という Klein の見方の典型例であり、同時に、Euclid 空間の等長変換が平行移動を含むのと違って、球面の等長変換はすべて中心を止める線形写像から来ることを示す。

角距離

$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^{n+1}$ の標準内積を $\langle x,y\rangle$、ノルムを $\lvert x\rvert$ と書く。単位球面を $S^n:=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid\lvert x\rvert=1\}$ とする(球面)。$x,y\in S^n$ について Cauchy–Schwarz の不等式(Cauchy–Schwarzの不等式)から $-1\le\langle x,y\rangle\le1$ である。

角距離

$x,y\in S^n$ について
$$ d(x,y):=\arccos\langle x,y\rangle\in[0,\pi] $$
を $x$ と $y$ の角距離という。ここで $\arccos\colon[-1,1]\to[0,\pi]$ は余弦関数の逆関数である(逆余弦関数)。

$d(x,y)$ は、原点から見た $x$ と $y$ の間の角である。$x\ne\pm y$ のとき、$x,y$ と原点を通る平面が球面と交わる円(大円)の、$x$ と $y$ を結ぶ短い方の弧の長さに等しい。また $\lvert x-y\rvert^2=2-2\langle x,y\rangle=2-2\cos d(x,y)$ なので、角距離は Euclid 距離 $\lvert x-y\rvert$ の狭義単調増加な関数である。

角距離は距離である

$d$ は $S^n$ の上の距離である。

要点:三角不等式は、$y$ に直交する成分に分けて内積を下から評価すれば出る。

詳しい証明を開く

$d(x,y)=0$ は $\langle x,y\rangle=1$、すなわち $\lvert x-y\rvert^2=0$ と同値なので $x=y$ と同値である。対称性は内積の対称性から従う。

三角不等式を示す。$x,y,z\in S^n$ とし、$\alpha:=d(x,y)$、$\beta:=d(y,z)$ とおく。$\alpha+\beta\ge\pi$ なら $d(x,z)\le\pi\le\alpha+\beta$ である。$\alpha+\beta<\pi$ とする。$x-\cos\alpha\,y$ は $y$ と直交し、そのノルムの 2 乗は $1-\cos^2\alpha=\sin^2\alpha$ である。そこで $y$ と直交する単位ベクトル $u$ を、$\sin\alpha>0$ なら $u:=(x-\cos\alpha\,y)/\sin\alpha$、$\sin\alpha=0$(このとき $\alpha=0$、$x=y$)なら任意にとると、$x=\cos\alpha\,y+\sin\alpha\,u$ である。同様に $z=\cos\beta\,y+\sin\beta\,w$($w$ は $y$ と直交する単位ベクトル)と書ける。$\langle y,u\rangle=\langle y,w\rangle=0$、$\sin\alpha,\sin\beta\ge0$、$\langle u,w\rangle\ge-1$ から、$\langle x,z\rangle=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta\,\langle u,w\rangle\ge\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta=\cos(\alpha+\beta)$ である。$0\le\alpha+\beta<\pi$ で $\arccos$ は単調減少なので、$d(x,z)=\arccos\langle x,z\rangle\le\alpha+\beta$ である。$\square$

定理と証明

$(n+1)$ 次の実正方行列 $A$ で ${}^tAA=I$ を満たすものを直交行列といい、その全体を $O(n+1)$ と書く(直交群)。直交行列の定める線形写像は内積を保つ。

球面の等長変換

$f\colon S^n\to S^n$ を、角距離を保つ写像、すなわちすべての $x,y\in S^n$ について $d(f(x),f(y))=d(x,y)$ を満たす写像とする。このとき、直交行列 $A\in O(n+1)$ で、すべての $x\in S^n$ について $f(x)=Ax$ となるものがただ 1 つある。逆に、各 $A\in O(n+1)$ について $x\mapsto Ax$ は $(S^n,d)$ の等長変換である。とくに、$(S^n,d)$ の等長変換の全体は合成について群をなし、$A\mapsto(x\mapsto Ax)$ はその群と $O(n+1)$ の同型を与える。

$f$ が連続であることも全単射であることも仮定していないことに注意する。これらは結論から従う。

段 1:内積が保たれる。 $\arccos$ は $[-1,1]$ の上で単射なので、$d(f(x),f(y))=d(x,y)$ は $\langle f(x),f(y)\rangle=\langle x,y\rangle$ と同値である。
段 2:行列を作る。 $\mathbb{R}^{n+1}$ の標準基底を $e_0,\dots,e_n$ とする。これらは $S^n$ の点である。$u_i:=f(e_i)$ とおくと、段 1 により $\langle u_i,u_j\rangle=\langle e_i,e_j\rangle=\delta_{ij}$ なので、$u_0,\dots,u_n$ は $\mathbb{R}^{n+1}$ の正規直交基底である。$u_i$ を第 $i$ 列にもつ行列を $A$ とすると、${}^tAA$ の $(i,j)$ 成分は $\langle u_i,u_j\rangle=\delta_{ij}$ なので $A\in O(n+1)$ であり、$Ae_i=u_i=f(e_i)$ である。
段 3:$f$ は $A$ と一致する。 $x\in S^n$ をとる。${}^tA=A^{-1}$ も内積を保つので、各 $i$ について
$$ \langle {}^tA\,f(x),e_i\rangle=\langle f(x),Ae_i\rangle=\langle f(x),f(e_i)\rangle=\langle x,e_i\rangle $$
である。ベクトルは標準基底との内積(座標)で決まるので ${}^tA\,f(x)=x$、すなわち $f(x)=Ax$ である。
段 4:一意性と逆。 $f(x)=Ax=Bx$ がすべての $x\in S^n$ で成り立てば、$x=e_i$ として $A$ と $B$ の各列が等しく、$A=B$ である。逆に $A\in O(n+1)$ なら $\lvert Ax\rvert=\lvert x\rvert$ なので $A$ は $S^n$ を $S^n$ に移し、$\langle Ax,Ay\rangle=\langle x,y\rangle$ から角距離を保つ。$x\mapsto{}^tAx$ が逆写像なので全単射であり、等長変換である。
段 5:群の同型。 段 2〜4 により、等長変換と $O(n+1)$ の元は 1 対 1 に対応する。写像 $x\mapsto Ax$ と $x\mapsto Bx$ の合成は $x\mapsto ABx$ なので、この対応は合成を行列の積に移す。よって等長変換の全体は群をなし、$O(n+1)$ と同型である。$\square$

Euclid 空間 $\mathbb{R}^n$ では事情が違う。$\mathbb{R}^n$ の距離を保つ写像は $x\mapsto Ax+b$($A$ は直交行列、$b\in\mathbb{R}^n$)の形であり(等長写像 の定理「Euclid 空間の等長埋め込み」)、平行移動 $x\mapsto x+b$ を含む。球面には平行移動にあたるものがなく、すべての等長変換が球の中心を止める線形写像から来る。

球面の幾何の性質
  1. $S^n$ の任意の 2 点 $p,q$ について、$p$ を $q$ に移す等長変換がある。
  2. $p\in S^n$ を止める等長変換の全体は、$p$ に直交する $n$ 次元部分空間の直交変換の群 $O(n)$ と同型である。
  3. 原点を通る $\mathbb{R}^3$ の平面と $S^2$ の共通部分を大円という。$S^2$ の相異なる 2 つの大円は、ちょうど 2 点で交わり、その 2 点は互いに対蹠点($x$ と $-x$)である。

1:$p$ を第 0 列にもつ直交行列 $P$($p$ を正規直交基底に延長して並べる)をとると $Pe_0=p$ である。同様に $Qe_0=q$ となる $Q$ をとれば、$Q\,{}^tP$ は $p$ を $q$ に移す直交行列である。
2:thm-geom-sphere-isometry により、$p$ を止める等長変換は $Ap=p$ を満たす $A\in O(n+1)$ と対応する。このような $A$ は内積を保つので、$p$ の直交補空間 $p^\perp$ を $p^\perp$ に移し、その制限は $p^\perp$ の直交変換である。逆に $p^\perp$ の直交変換 $B$ は、$p\mapsto p$ と合わせて $O(n+1)$ の元に延びる。$A$ は $p$ と $p^\perp$ での値で決まるので、$A\mapsto A|_{p^\perp}$ は群の同型である。
3:大円を $S^2\cap P$、$S^2\cap P'$($P\ne P'$ は原点を通る平面)とする。$P+P'$ は $P$ を真に含む部分空間なので $\mathbb{R}^3$ に等しく、次元の公式から $\dim(P\cap P')=2+2-3=1$ である。$P\cap P'=\mathbb{R}v$($\lvert v\rvert=1$)とすると、共通部分は $\mathbb{R}v\cap S^2=\{v,-v\}$ である。$\square$

3 は、球面の幾何には平行線がないことを表している。大円は球面の測地線であり(球面 の注意「標準的計量と定曲率」)、球面の幾何での「直線」の役をするが、どの 2 本も交わる。

球面の等長変換の例
  1. 単位ベクトル $a$ について $x\mapsto x-2\langle x,a\rangle a$ は、$a$ に直交する超平面に関する鏡映で、直交行列で表される。
  2. 対蹠写像 $x\mapsto-x$ は $-I\in O(n+1)$ であり、どの点も止めない。
  3. $n=2$ のとき、$SO(3)=\{A\in O(3)\mid\det A=1\}$ の元は原点を通る軸のまわりの回転である(特殊直交群 の定理「直交する平面の回転の積」で $n=3$ とすると $m\le1$ になる)。$O(3)$ の元は回転か、回転と対蹠写像の合成である。

3 つの幾何の比較

平面の幾何には、曲率が $0$ の Euclid 平面、正の球面、負の双曲平面の 3 つの基本の型がある。上の定理は球面の列の「等長変換」の欄にあたる。

Euclid 平面 $\mathbb{R}^2$球面 $S^2$双曲平面 $H^2$
Gauss 曲率$0$$1$$-1$
等長変換$x\mapsto Ax+b$($A\in O(2)$)$O(3)$ の元(thm-geom-sphere-isometry)$O^+(2,1)$ の元は等長変換で、点と正規直交基底の組に推移的に働く
三角形の内角の和$\pi$$\pi$ より大きい$\pi$ より小さい
直線の外の点を通る平行線ちょうど 1 本ない(cor-geom-sphere の 3)無数にある

曲率の値は 断面曲率 の例「定曲率空間の代表例」に、等長変換は 等長写像 の定理「Euclid 空間の等長埋め込み」と 双曲空間 の定理「等質性と等方性」に、内角の和は 三角形の内角の和、球面三角形の面積 の系「球面三角形の内角の和の範囲」と Gauss–Bonnetの定理 の命題「測地三角形の角度の過不足」に、双曲平面の平行線は 双曲幾何学 の命題「平行線は無数にある」にある。内角の和と曲率の関係は、Gauss–Bonnet の定理の型の「局所の量の積分が大域の量になる」現象の最初の例である。

反例:仮定を外すと崩れること

thm-geom-sphere-isometry の仮定は、(a) 写像が距離を保つこと、(b) すべての 2 点の組について距離を保つこと、(c) 空間が球面であること、である。1 つずつ外すと、結論(写像が直交行列の制限であること)が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
(a) 距離を保つ(角を保つだけにする)北極 $N$ からの立体射影 $\sigma\colon S^2\setminus\{N\}\to\mathbb{C}$ で $z\mapsto2z$ を引き戻し、$N$ を $N$ に移す写像 $g$$g$ は全単射で角を保つが、直交行列の制限でない
(b) すべての 2 点の組(距離 $\pi$ の組だけにする)直交する単位ベクトル $p,q$ について $\pm p$ と $\pm q$ を入れ替え($p\mapsto q$、$-p\mapsto-q$、$q\mapsto p$、$-q\mapsto-p$)、他の点を動かさない写像 $h$$h$ は対蹠点の組を対蹠点の組に移すが、連続でなく、直交行列の制限でない
(c) 球面であること(Euclid 平面にする)平行移動 $x\mapsto x+b$($b\ne0$)の $\mathbb{R}^2$距離を保つが、線形写像でない(原点を止めない)
表の反例の確かめ

(a):$\sigma$ は角を保ち(立体射影 の系「立体射影は角を保つ」)、$z\mapsto2z$ は複素平面の相似変換なので角を保つ。よって $g=\sigma^{-1}\circ(2\,\cdot)\circ\sigma$ は $S^2\setminus\{N\}$ の上で角を保つ全単射である。南極 $s:=(0,0,-1)$ は $\sigma(s)=0$ なので動かない。赤道の点 $x$ について $d(s,x)=\pi/2$ だが、$\lvert\sigma(x)\rvert=1$ から $\lvert\sigma(g(x))\rvert=2$ で、$g(x)$ は北半球の赤道でない点なので $d(s,g(x))>\pi/2$ である。よって $g$ は距離を保たず、thm-geom-sphere-isometry の逆の部分から直交行列の制限でない。
(b):$d(x,y)=\pi$ は $y=-x$ と同値である。$h$ はすべての $x$ で $h(-x)=-h(x)$ を満たすので、距離 $\pi$ の組を距離 $\pi$ の組に移す。$p$ に近い点は動かないのに $h(p)=q\ne p$ なので、$h$ は $p$ で連続でない。直交行列の制限は連続なので、$h$ はそうでない。
(c):$0\mapsto b\ne0$ なので線形写像でない。等長写像 の定理「Euclid 空間の等長埋め込み」の $b$ がこの部分にあたる。

学ぶ順の道筋

幾何学の基礎は、次の順に記事をたどると学べる。各段の記事は、前の段の記事の定義と定理を使う。

  1. 平面と空間の幾何:Euclid幾何学 → 三角形の内角の和 → 三平方の定理 → Hilbertの幾何学の公理。三角形の五心などの古典的な定理(Euler線、九点円、Menelausの定理、Cevaの定理)。
  2. 座標と変換:ベクトル・内積 → 行列 → 直交群・特殊直交群 → アフィン変換 → 等長写像 → 群の作用 → Erlangenプログラム。
  3. 射影幾何と非 Euclid 幾何:射影平面 → 複比 → Desarguesの定理 → 射影幾何学。平行線公準 → 球面三角形の面積 → 双曲幾何学 → 非Euclid幾何学。
  4. 曲線と曲面:曲線の曲率 → Gauss曲率 → Gauss–Bonnetの定理。
  5. 多様体の幾何:可微分多様体 → Riemann計量 → 測地線 → Riemann幾何学 → 断面曲率・双曲空間。全体は 微分幾何学 が見渡す。
  6. その先:代数幾何学、位相幾何学、シンプレクティック幾何学、Lie群、幾何学的群論、離散幾何学。
    1・2 は高校数学から大学の線形代数への橋渡しで、上の代表例の定理は 2 の内容(内積と直交行列)だけで証明できる。

歴史

Euclid の『原論』(紀元前 300 年ごろ)は、点・直線・円についての定理を公理から導く形で幾何学をまとめた。17 世紀に Descartes と Fermat が座標を導入し、図形の問題を方程式の問題に直す解析幾何が始まった。19 世紀前半に Gauss が曲面の曲率を研究し、Lobachevsky と Bolyai が平行線公準の成り立たない幾何を発表した。Riemann は 1854 年の講演で多様体と計量の考え方を示し、Klein は 1872 年に変換群による幾何の分類(Erlangen プログラム)を提唱した。20 世紀には、微分幾何学・代数幾何学・位相幾何学がそれぞれ大きく発展し、互いに道具を与え合っている。

関連項目

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