算額の円内接多角形の定理

同義語:日本の定理(円内接多角形)Japanese theorem for cyclic polygons

概要

算額の円内接多角形の定理(Japanese theorem for cyclic polygons)とは、円に内接する凸多角形を、端点以外で交わらない対角線で三角形に分けるとき、できた三角形の内接円の半径の和が分け方によらないという定理である。各三角形は多角形と同じ外接円(中心 $O$、半径 $R$)をもつので、Carnot の定理(外心から 3 辺までの符号つき距離の和は $R+r$)を三角形ごとに使って足すと、各対角線は反対側の 2 つの三角形に反対の符号で現れて打ち消し合う。その結果、凸 $n$ 角形では半径の和は、$O$ から多角形の $n$ 本の辺までの符号つき距離の和から $(n-2)R$ を引いた値になる。円に内接しない四角形では、2 通りの分け方で和が変わる例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Carnotの定理(三角形), 円に内接する四角形, 三角形の内心と傍心, 多角形の内角の和と外角の和

高校での出発点:四角形を 2 通りに分ける

円に内接する四角形 $ABCD$ は、対角線 $AC$ で 2 つの三角形 $ABC$、$CDA$ に分けることも、対角線 $BD$ で 2 つの三角形 $BCD$、$DAB$ に分けることもできる。それぞれの三角形に内接円を描き、半径を足してみる。分け方が違えば三角形の形も違うので、和も違いそうに見える。

円に内接する四角形を 2 通りに分ける

円 $x^2+y^2=25$ の上に $A(-5,0)$、$B(3,-4)$、$C(5,0)$、$D(0,5)$ をとる。内接円の半径は $r=\dfrac{2S}{(\text{周の長さ})}$($S$ は面積)で求める(三角形の内心と傍心 の $r=\dfrac Ss$、$s$ は周の半分)。
(1) 対角線 $AC$ で分ける。$AC$ は直径なので、三角形 $ABC$ は $B$ が直角、三角形 $CDA$ は $D$ が直角である。直角三角形の内接円の半径は $\dfrac{(\text{直角をはさむ 2 辺の和})-(\text{斜辺})}2$ である。$AB=\sqrt{8^2+4^2}=4\sqrt5$、$BC=\sqrt{2^2+4^2}=2\sqrt5$、$CD=DA=5\sqrt2$ なので
$$ r_{ABC}=\frac{4\sqrt5+2\sqrt5-10}2=3\sqrt5-5\fallingdotseq1.7082,\qquad r_{CDA}=\frac{5\sqrt2+5\sqrt2-10}2=5\sqrt2-5\fallingdotseq2.0711 $$
で、和は $3\sqrt5+5\sqrt2-10\fallingdotseq3.7793$ である。
(2) 対角線 $BD$ で分ける。$BD=\sqrt{3^2+9^2}=3\sqrt{10}$ である。面積は、三角形 $BCD$ が $\dfrac12\lvert 2\cdot9-4\cdot(-3)\rvert=15$、三角形 $DAB$ が $45-15=30$(四角形の面積は (1) の 2 つの直角三角形の面積 $20+25=45$)である。よって
$$ r_{BCD}=\frac{2\cdot15}{2\sqrt5+5\sqrt2+3\sqrt{10}}\fallingdotseq1.4265,\qquad r_{DAB}=\frac{2\cdot30}{5\sqrt2+4\sqrt5+3\sqrt{10}}\fallingdotseq2.3527 $$
で、和は $\fallingdotseq3.7793$ である。
2 通りの和は、小数第 4 位まで一致する。

対角線 AC で分けた 2 つの三角形の内接円 対角線 AC で分けた 2 つの三角形の内接円
対角線 BD で分けた 2 つの三角形の内接円。半径の和は AC で分けたときと同じ 対角線 BD で分けた 2 つの三角形の内接円。半径の和は AC で分けたときと同じ

図 1 と図 2 では、内接円の大きさは変わるが、半径の和は同じである。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 2 つの和はちょうど等しいか。多角形でも同じことが起こるか。→ prop-jpn-quad、thm-jpn-main
  2. 和の値は何で決まるか。→ cor-jpn-formula
  3. 円に内接しないと、どうなるか。→ ex-jpn-cx-noncyclic
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    対角線で三角形に分ける三角形分割多角形の三角形分割
    外心から辺までの距離(Carnot の定理)符号つき距離の足し算向きのある量が打ち消し合う
    分け方によらない和不変な量不変量

言葉の準備:三角形分割と符号つき距離

凸多角形の三角形分割

$n\ge3$ とし、凸 $n$ 角形の頂点を順に $P_1,P_2,\dots,P_n$ とする。対角線(隣り合わない 2 頂点を結ぶ線分)をいくつか選び、どの 2 本も端点以外で交わらず、選んだ対角線で多角形の内部がすべて三角形に分かれるとき、選んだ対角線の集まり(またはそれで分けた三角形の集まり)を 三角形分割 という。三角形分割でできる三角形の頂点は、どれも多角形の頂点である。

同じ定義は Catalan数(高校数学) でも使い、そこでは凸 $n$ 角形の三角形分割の個数が Catalan 数 $C_{n-2}$ であることを示している。

三角形分割の個数
  1. 凸四角形 $ABCD$ の三角形分割は、対角線 $AC$ を選ぶか $BD$ を選ぶかの 2 通りである。両方を選ぶと 2 本が内部で交わるので、三角形分割ではない。
  2. 凸五角形では、1 つの頂点から出る 2 本の対角線を選ぶ分け方が、頂点の選び方に応じて 5 通りある。
  3. 凸六角形の三角形分割は $C_4=14$ 通りある。

三角形分割について、次の 3 つの性質を使う。

三角形分割の数え方

凸 $n$ 角形の三角形分割について、次が成り立つ。
(1) 三角形はちょうど $n-2$ 個ある。
(2) 多角形の各辺は、ちょうど 1 つの三角形の辺になっている。
(3) 選んだ各対角線は、ちょうど 2 つの三角形の辺になっていて、その 2 つの三角形は対角線の反対側にある。

角の和と、線分の両側を見る

方針:(1) は三角形の内角を全部足して多角形の内角の和と比べる。(2)(3) は、辺や対角線のすぐ両側の点がどの三角形に入るかを見る。
段 1((1))。三角形の頂点はどれも多角形の頂点なので、三角形の内角は多角形のどこかの頂点に集まる。多角形の各頂点では、そこに集まった三角形の角がすき間も重なりもなく並び、合わせて多角形の内角になる。よって、全部の三角形の内角の和は、多角形の内角の和 $(n-2)\times180^\circ$ に等しい(多角形の内角の和と外角の和)。三角形 1 つの内角の和は $180^\circ$ なので、三角形の個数は $n-2$ である。
段 2(線分のすぐ横の点)。多角形の辺か選んだ対角線を 1 本とり、その線分の端点でない点 $X$ をとる。選んだ対角線どうしは端点以外で交わらないので、$X$ を通るほかの辺・対角線はない。$X$ のすぐ近くで、線分の片側にあり多角形の内部にある点は、どれかの三角形に入る。その三角形の周は $X$ の近くを通るので、$X$ を通る線分、つまりこの線分を辺にもつ。同じ側に 2 つの三角形があると、$X$ の近くで重なってしまうので、1 つの側にはちょうど 1 つである。
段 3((2))。凸多角形の辺の片側は多角形の外なので、段 2 の三角形は内側の 1 つだけである。
段 4((3))。対角線の両側はどちらも多角形の内部なので、段 2 により両側に 1 つずつ、合わせて 2 つの三角形がある。$\square$

外心から辺までの符号つき距離は、Carnotの定理(三角形) で三角形について定めた。多角形の辺についても同じように定める。

多角形の辺までの符号つき距離

円に内接する凸多角形の外接円の中心を $O$、半径を $R$ とする。多角形の辺 $e$ について、$O$ から $e$ を含む直線までの距離を $h$ とし、$O$ と多角形の内部が直線の同じ側にあれば $\delta_e=h$、$O$ が直線の上にあれば $\delta_e=0$、反対側にあれば $\delta_e=-h$ と定める。

凸多角形の内部は、各辺を含む直線の片側にある。三角形の場合は、辺の向かいの頂点がある側が内部の側なので、Carnotの定理(三角形) の符号つき距離と同じものである。そこで示した Carnot の定理は、次の形で使う。

  • 三角形 $T$ の外心 $O$ から 3 辺までの符号つき距離の和は $R+r_T$ である($R$、$r_T$ は $T$ の外接円・内接円の半径)。
符号つき距離の例

ex-jpn-start の四角形 $ABCD$ で、$O(0,0)$ から各辺までの距離は、辺の中点までの距離に等しい(外心から弦に下ろした垂線の足は弦の中点)。辺 $CD$ の中点は $\left(\dfrac52,\dfrac52\right)$、$DA$ の中点は $\left(-\dfrac52,\dfrac52\right)$、$AB$ の中点は $(-1,-2)$、$BC$ の中点は $(4,-2)$ なので
$$ \delta_{CD}=\delta_{DA}=\frac{5\sqrt2}2,\qquad \delta_{AB}=\sqrt5,\qquad \delta_{BC}=2\sqrt5 $$
である。$O$ は四角形の内部にあるので、4 つとも正である。

四角形の場合

まず四角形で、2 通りの分け方を直接比べる。

円に内接する四角形の場合

円(中心 $O$、半径 $R$)に内接する凸四角形 $ABCD$ について、三角形 $ABC$、$CDA$、$BCD$、$DAB$ の内接円の半径を $r_{ABC}$ などと書くと
$$ r_{ABC}+r_{CDA}=r_{BCD}+r_{DAB}=\delta_{AB}+\delta_{BC}+\delta_{CD}+\delta_{DA}-2R $$
である。

対角線の符号つき距離が打ち消し合う

方針:4 つの三角形はどれも同じ円に内接するので、外心 $O$ と外接円の半径 $R$ が共通である。対角線 $AC$ で分けた 2 つの三角形に Carnot の定理を使って足すと、対角線 $AC$ までの符号つき距離が打ち消し合い、四角形の 4 辺の分だけが残る。
段 1(共通の外接円)。三角形 $ABC$ の 3 頂点は四角形の外接円の上にあるので、三角形 $ABC$ の外接円はこの円で、外心は $O$、半径は $R$ である。ほかの 3 つの三角形も同じである。
段 2(三角形 $ABC$)。Carnotの定理(三角形) を三角形 $ABC$ に使う。辺 $AB$ の向かいの頂点 $C$ は四角形の頂点なので、四角形の内部の側にある。よって $O$ から辺 $AB$ までの(三角形 $ABC$ についての)符号つき距離は $\delta_{AB}$ である。辺 $BC$ についても同じく $\delta_{BC}$ である。辺 $CA$ までの符号つき距離(向かいの頂点 $B$ の側を正とする)を $t$ とおくと
$$ \delta_{AB}+\delta_{BC}+t=R+r_{ABC} $$
である。
段 3(三角形 $CDA$)。同じように、三角形 $CDA$ では辺 $CD$、$DA$ までの符号つき距離が $\delta_{CD}$、$\delta_{DA}$ である。辺 $AC$ の向かいの頂点は $D$ で、凸四角形では $B$ と $D$ は対角線 $AC$ の反対側にある。$O$ から直線 $AC$ までの距離は同じなので、$D$ の側を正とする符号つき距離は $-t$ である($O$ が直線 $AC$ の上にあれば $t=0$ で、どちらも $0$)。よって
$$ \delta_{CD}+\delta_{DA}-t=R+r_{CDA} $$
である。
段 4(足す)。段 2 と段 3 を足すと $t$ が消えて、$r_{ABC}+r_{CDA}=\delta_{AB}+\delta_{BC}+\delta_{CD}+\delta_{DA}-2R$ である。対角線 $BD$ で分けた場合も、段 2〜段 4 と同じ計算で $r_{BCD}+r_{DAB}$ が同じ式になる。$\square$

四角形の場合を数値で確かめる

ex-jpn-start の四角形で、ex-jpn-signed の値を使うと
$$ \delta_{AB}+\delta_{BC}+\delta_{CD}+\delta_{DA}-2R=\sqrt5+2\sqrt5+\frac{5\sqrt2}2+\frac{5\sqrt2}2-10=3\sqrt5+5\sqrt2-10 $$
で、ex-jpn-start の (1) の和 $(3\sqrt5-5)+(5\sqrt2-5)$ とちょうど一致する。
対角線 $BD$ で分ける場合を、段 2・段 3 に沿って追う。直線 $BD$ は $3x+y=5$ で、$O$ からの距離は $\dfrac5{\sqrt{10}}=\dfrac{\sqrt{10}}2$ である。$O$ では $3x+y=0<5$、$A$ では $-15<5$、$C$ では $15>5$ なので、$O$ は $A$ と同じ側にある。三角形 $DAB$ から見た符号つき距離は $+\dfrac{\sqrt{10}}2$、三角形 $BCD$ から見ると $-\dfrac{\sqrt{10}}2$ である(図 3)。Carnot の定理から
$$ r_{BCD}=2\sqrt5+\frac{5\sqrt2}2-\frac{\sqrt{10}}2-5\fallingdotseq1.4265,\qquad r_{DAB}=\sqrt5+\frac{5\sqrt2}2+\frac{\sqrt{10}}2-5\fallingdotseq2.3527 $$
で、ex-jpn-start の (2) の値と合う。足すと $\pm\dfrac{\sqrt{10}}2$ が消えて $3\sqrt5+5\sqrt2-10$ になる。

対角線 BD までの O の距離は、三角形 DAB から見ると正、三角形 BCD から見ると負で、足すと打ち消し合う 対角線 BD までの O の距離は、三角形 DAB から見ると正、三角形 BCD から見ると負で、足すと打ち消し合う

主定理:内接円の半径の和は分け方によらない

四角形の証明は、多角形でもそのまま使える。対角線はどれも 2 つの三角形に反対の符号で現れて消え、多角形の辺の分だけが残る。

算額の円内接多角形の定理

円(中心 $O$、半径 $R$)に内接する凸 $n$ 角形を三角形分割し、できた $n-2$ 個の三角形の内接円の半径を $r_1,r_2,\dots,r_{n-2}$ とする。このとき
$$ r_1+r_2+\dots+r_{n-2}=\sum_{e}\delta_e-(n-2)R $$
である。ここで $\sum_e$ は多角形の $n$ 本の辺についての和である。右辺は三角形分割の選び方によらないので、内接円の半径の和は分け方によらない。

三角形ごとの Carnot の定理を全部足す

方針:prf-jpn-quad と同じく、各三角形に Carnot の定理を使って全部足す。現れる符号つき距離を、どの線分についてのものかで分けて数える。
段 1(各三角形)。三角形分割の三角形 $T_k$($k=1,\dots,n-2$)の頂点は多角形の頂点なので、外接円は多角形の外接円で、外心は $O$、半径は $R$ である。$T_k$ の 3 辺までの($T_k$ についての)符号つき距離の和を $D_k$ とすると、Carnotの定理(三角形) により $D_k=R+r_k$ である。lem-jpn-count の (1) より三角形は $n-2$ 個なので、足すと
$$ D_1+D_2+\dots+D_{n-2}=(n-2)R+(r_1+r_2+\dots+r_{n-2}) $$
である。
段 2(多角形の辺の分)。左辺の和に現れる項を、線分ごとにまとめる。多角形の辺 $e$ は、lem-jpn-count の (2) よりちょうど 1 つの三角形の辺である。その三角形の辺 $e$ の向かいの頂点は多角形の頂点で、凸多角形では辺 $e$ について内部の側にある。よって辺 $e$ の項は $\delta_e$ である。
段 3(対角線の分)。選んだ対角線は、lem-jpn-count の (3) よりちょうど 2 つの三角形の辺で、2 つの三角形はその対角線の反対側にある。$O$ から対角線を含む直線までの距離は 1 つに決まるので、2 つの項は絶対値が同じで符号が反対である($O$ が直線の上にあれば両方 $0$)。よって対角線の項は 2 つずつ打ち消し合う。
段 4(まとめ)。段 2・段 3 より、左辺は $\sum_e\delta_e$ に等しい。段 1 の式と比べて
$$ r_1+r_2+\dots+r_{n-2}=\sum_e\delta_e-(n-2)R $$
を得る。右辺は多角形とその外接円だけで決まり、どの対角線を選んだかによらない。$\square$

$\delta_e$ は角で書くこともできる。

半径の和を角で書く

円(半径 $R$)に内接する凸 $n$ 角形の辺が切りとる弧の中心角を $2\alpha_1,2\alpha_2,\dots,2\alpha_n$($\alpha_1+\alpha_2+\dots+\alpha_n=180^\circ$)とすると、どの三角形分割でも内接円の半径の和は
$$ R\bigl(\cos\alpha_1+\cos\alpha_2+\dots+\cos\alpha_n-(n-2)\bigr) $$
である。特に正 $n$ 角形では $\alpha_i=\dfrac{180^\circ}n$ で、和は $R\left(n\cos\dfrac{180^\circ}n-n+2\right)$ である。

辺 $e$ の両端と、多角形のほかの頂点 $Q$ でできる三角形を考える。$Q$ は辺 $e$ が切りとる弧(ほかの頂点を含まない方)の上にないので、円周角の定理により $\angle Q=\alpha_e$ である。Carnotの定理(三角形) の補題(外心から辺までの符号つき距離は $R\cos(\text{向かいの角})$)をこの三角形に使うと、$Q$ は多角形の内部の側にあるので $\delta_e=R\cos\alpha_e$ である。$n$ 本の辺が切りとる弧を合わせると円周全体なので $2\alpha_1+\dots+2\alpha_n=360^\circ$ である。これを thm-jpn-main の右辺に代入すると $R\bigl(\cos\alpha_1+\dots+\cos\alpha_n-(n-2)\bigr)$ を得る。正 $n$ 角形では各辺の弧の中心角が $\frac{360^\circ}n$ なので $\alpha_i=\frac{180^\circ}n$ である。$\square$

$n=3$ のときは三角形そのもので、$R(\cos A+\cos B+\cos C-1)=r$ となり、Carnotの定理(三角形) の恒等式 $\cos A+\cos B+\cos C=1+\dfrac rR$ にもどる(三角形の辺 $BC$ が切りとる弧の中心角は $2A$)。

正六角形の 2 つの分け方

半径 $1$ の円に内接する正六角形 $P_1P_2\cdots P_6$($P_k$ は偏角 $60^\circ\times(k-1)$ の点)をとる。1 辺は $1$ である。
(1) 3 種類の三角形。三角形 $P_1P_2P_3$ は 2 辺 $1$、間の角 $120^\circ$、面積 $\dfrac{\sqrt3}4$、周 $2+\sqrt3$ なので、$r=\dfrac{2\cdot\frac{\sqrt3}4}{2+\sqrt3}=\dfrac{\sqrt3(2-\sqrt3)}2=\sqrt3-\dfrac32\fallingdotseq0.2321$ である。三角形 $P_1P_3P_4$ は $P_1P_4$ が直径なので $P_3$ が直角で、直角をはさむ 2 辺は $\sqrt3$ と $1$、斜辺は $2$ なので、$r=\dfrac{\sqrt3+1-2}2=\dfrac{\sqrt3-1}2\fallingdotseq0.3660$ である。三角形 $P_1P_3P_5$ は 1 辺 $\sqrt3$ の正三角形で、$r=\dfrac{\sqrt3}{2\sqrt3}=\dfrac12$ である。
(2) $P_1$ から 3 本の対角線を引く分け方(図 4)。三角形は $P_1P_2P_3$、$P_1P_3P_4$、$P_1P_4P_5$、$P_1P_5P_6$ で、和は
$$ 2\left(\sqrt3-\frac32\right)+2\cdot\frac{\sqrt3-1}2=3\sqrt3-4\fallingdotseq1.1962 $$
である。
(3) 正三角形 $P_1P_3P_5$ を含む分け方(図 5)。三角形は $P_1P_3P_5$ と、$P_1P_2P_3$ と合同な 3 つで、和は
$$ \frac12+3\left(\sqrt3-\frac32\right)=3\sqrt3-4 $$
である。
(4) cor-jpn-formula では $6\cos30^\circ-6+2=3\sqrt3-4$ で、(2)(3) と一致する。

正六角形を P1 から出る 3 本の対角線で分けた 4 つの三角形の内接円 正六角形を P1 から出る 3 本の対角線で分けた 4 つの三角形の内接円
正六角形を正三角形 P1P3P5 と 3 つの二等辺三角形に分けた内接円。半径の和は左と同じ 正六角形を正三角形 P1P3P5 と 3 つの二等辺三角形に分けた内接円。半径の和は左と同じ

形のそろっていない六角形でも確かめる。円 $x^2+y^2=25$ の上の 6 点 $P_1(5,0)$、$P_2(3,4)$、$P_3(-3,4)$、$P_4(-5,0)$、$P_5(-3,-4)$、$P_6(4,-3)$ を結んだ凸六角形の 14 通りの三角形分割すべてで、内接円の半径の和を計算した(Python による数値計算)。そのうち 2 通りを示す。

選んだ対角線三角形と内接円の半径和
$P_1P_3$、$P_1P_4$、$P_1P_5$$P_1P_2P_3$:$1.2361$、$P_1P_3P_4$:$1.7082$、$P_1P_4P_5$:$1.7082$、$P_1P_5P_6$:$1.0429$$5.6954$
$P_1P_3$、$P_3P_5$、$P_5P_1$$P_1P_3P_5$:$2.4721$、$P_1P_2P_3$:$1.2361$、$P_3P_4P_5$:$0.9443$、$P_5P_6P_1$:$1.0429$$5.6954$
14 通りすべての和を開く
選んだ対角線半径の和
$P_2P_6$、$P_3P_6$、$P_4P_6$$5.6953582612$
$P_2P_6$、$P_3P_5$、$P_3P_6$$5.6953582612$
$P_2P_4$、$P_2P_6$、$P_4P_6$$5.6953582612$
$P_2P_5$、$P_2P_6$、$P_3P_5$$5.6953582612$
$P_2P_4$、$P_2P_5$、$P_2P_6$$5.6953582612$
$P_1P_3$、$P_3P_6$、$P_4P_6$$5.6953582612$
$P_1P_3$、$P_3P_5$、$P_3P_6$$5.6953582612$
$P_1P_4$、$P_2P_4$、$P_4P_6$$5.6953582612$
$P_1P_3$、$P_1P_4$、$P_4P_6$$5.6953582612$
$P_1P_5$、$P_2P_5$、$P_3P_5$$5.6953582612$
$P_1P_5$、$P_2P_4$、$P_2P_5$$5.6953582612$
$P_1P_3$、$P_1P_5$、$P_3P_5$$5.6953582612$
$P_1P_4$、$P_1P_5$、$P_2P_4$$5.6953582612$
$P_1P_3$、$P_1P_4$、$P_1P_5$$5.6953582612$

14 通りとも小数第 10 位まで同じ値である。thm-jpn-main の右辺は、辺の中点までの距離 $2\sqrt5$、$4$、$2\sqrt5$、$2\sqrt5$、$\dfrac{5\sqrt2}2$、$\dfrac{3\sqrt{10}}2$($O$ は六角形の内部にあるので、どれも正)を足して $4R=20$ を引いた
$$ 6\sqrt5+\frac{5\sqrt2}2+\frac{3\sqrt{10}}2-16\fallingdotseq5.6954 $$
である。

算額と、4 つの内心がつくる長方形

この定理は、日本の寺社に奉納された算額(数学の問題と答えを記して奉納した額)の問題として知られている(Wei26)。四角形の場合には、内接円の中心についても美しい事実がある。ここでは証明せず、数値で確かめて紹介する。

4 つの内心は長方形をつくる(紹介)

円に内接する凸四角形 $ABCD$ で、三角形 $ABC$、$BCD$、$CDA$、$DAB$ の内心を $I_1$、$I_2$、$I_3$、$I_4$ とすると、四角形 $I_1I_2I_3I_4$ は長方形である(Wei26b)。この記事では証明しない。

長方形になることを座標で確かめる

ex-jpn-start の四角形で、4 つの内心は(小数第 4 位まで)
$$ I_1(2.2361,\,-1.7082),\quad I_2(3.2643,\,-0.2817),\quad I_3(0,\,2.0711),\quad I_4(-1.0282,\,0.6445) $$
である。$I_1=(\sqrt5,\,5-3\sqrt5)$、$I_3=(0,\,5\sqrt2-5)$ は、直角三角形の内心が直角の頂点から 2 辺へ $r$ ずつ進んだ点であることから求まる。4 つの角で、隣り合う 2 辺のベクトルの内積を sympy で正確に計算すると、どれも $0$ になる。向かい合う辺の長さは $I_1I_2=I_3I_4\fallingdotseq1.7585$、$I_2I_3=I_4I_1\fallingdotseq4.0238$ である(図 6)。

円に内接する四角形の 4 つの三角形の内心 I1、I2、I3、I4 は長方形の頂点になる 円に内接する四角形の 4 つの三角形の内心 I1、I2、I3、I4 は長方形の頂点になる

例と反例

thm-jpn-main の条件は「円に内接する」「凸」の 2 つで、比べる量は「内接円の半径の和」である。条件や量を変えると、次のようになる。

外す条件・変える量反例成り立たなくなること
円に内接する$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(4,4)$、$D(0,2)$ の四角形和が分け方によらない($1.8311$ と $2$)
内接円の半径の和を比べる周の長さの和を比べる分け方によらない($47.559$ と $46.532$)
反例:円に内接しない四角形

$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(4,4)$、$D(0,2)$ とする。$\angle A=90^\circ$ で、$\angle C$ は $\cos\angle C=\dfrac{\overrightarrow{CB}\cdot\overrightarrow{CD}}{CB\cdot CD}=\dfrac{(0,-4)\cdot(-4,-2)}{4\cdot2\sqrt5}=\dfrac1{\sqrt5}$ から約 $63.4^\circ$ である。向かい合う角の和が $180^\circ$ でないので、この四角形は円に内接しない(円に内接する四角形)。
(1) 対角線 $AC$ で分ける。三角形 $ABC$ は直角をはさむ 2 辺が $4$ の直角二等辺三角形で、$r=\dfrac{8-4\sqrt2}2=4-2\sqrt2\fallingdotseq1.1716$ である。三角形 $CDA$ は面積 $4$、周 $4\sqrt2+2\sqrt5+2$ で、$r=\dfrac{8}{4\sqrt2+2\sqrt5+2}\fallingdotseq0.6596$ である。和は $\fallingdotseq1.8311$ である。
(2) 対角線 $BD$ で分ける。三角形 $DAB$ は直角をはさむ 2 辺が $4$ と $2$、斜辺が $2\sqrt5$ で、$r=\dfrac{6-2\sqrt5}2=3-\sqrt5$ である。三角形 $BCD$ は面積 $8$、周 $4+4\sqrt5$ で、$r=\dfrac{16}{4+4\sqrt5}=\dfrac4{1+\sqrt5}=\sqrt5-1$ である。和は $(3-\sqrt5)+(\sqrt5-1)=2$ である。
2 つの和は違う。prf-jpn-quad では、4 つの三角形が同じ外接円をもつこと(段 1)を使った。円に内接しない四角形では外心が三角形ごとに違い、対角線の項が打ち消し合わない。

円に内接しない四角形を対角線 AC で分けると、半径の和は約 1.8311 円に内接しない四角形を対角線 AC で分けると、半径の和は約 1.8311
同じ四角形を対角線 BD で分けると、半径の和は 2 で、AC のときと違う 同じ四角形を対角線 BD で分けると、半径の和は 2 で、AC のときと違う
反例:周の長さの和は分け方で変わる

ex-jpn-start の円に内接する四角形で、2 つの三角形の周の長さの和を比べる。どちらの分け方でも、四角形の 4 辺はちょうど 1 回、選んだ対角線は 2 回数えられるので
$$ (\text{周の長さの和})=(\text{四角形の周})+2\times(\text{選んだ対角線の長さ}) $$
である。$AC=10$、$BD=3\sqrt{10}\fallingdotseq9.487$ なので、和は $AC$ で分けると約 $47.559$、$BD$ で分けると約 $46.532$ で、違う。一方、面積の和はどちらも四角形の面積 $45$ で、いつも分け方によらない。内接円の半径の和が分け方によらないのは、面積の和のように当たり前ではない。

凸でない多角形では、そもそも対角線の一部が多角形の外を通るので、三角形分割の選び方が限られる。円周上の点を順に結んでできる多角形は凸なので、円に内接する多角形では、この心配はいらない。

大学数学で見る:対角線の入れ替えと不変量

凸多角形の三角形分割どうしは、「対角線の入れ替え(flip)」をくり返して移り合う。入れ替えとは、選んだ対角線を 1 本外し、それを対角線とする四角形のもう一方の対角線に取りかえる操作である。四角形の場合(prop-jpn-quad)は、1 回の入れ替えで和が変わらないことを示していた。

入れ替えによる別の証明を開く

段 1(入れ替えで移り合う)。凸 $n$ 角形の頂点を $P_1,\dots,P_n$ とし、$P_1$ から $n-3$ 本の対角線をすべて引いた分け方を $\mathcal F$ とする。$\mathcal F$ でない三角形分割では、$P_1$ を頂点とする三角形の中に、$P_1$ の向かいの辺 $P_jP_k$ が多角形の辺でないもの($k-j\ge2$ の対角線)がある。$P_jP_k$ の反対側の三角形を $P_jP_mP_k$($j< m< k$)とすると、四角形 $P_1P_jP_mP_k$ で対角線 $P_jP_k$ を $P_1P_m$ に入れ替えられ、$P_1$ から出る対角線が 1 本増える。これをくり返すと $\mathcal F$ に着く。入れ替えは逆にもたどれるので、どの 2 つの三角形分割も入れ替えで移り合う。

段 2(1 回の入れ替え)。入れ替えで変わるのは、1 つの四角形の中の 2 つの三角形だけで、その四角形も同じ円に内接する凸四角形である。prop-jpn-quad により、その 2 つの三角形の内接円の半径の和は変わらない。

段 1・段 2 より、半径の和はどの三角形分割でも同じである。この証明は「分け方によらない」ことだけを示し、和の値(cor-jpn-formula)は出さない。


このように、形を変える操作をくり返しても変わらない量を 不変量 という。入れ替えの操作で移り合うものの全体を考え、その上で不変な量を見つけるという考え方は、大学の組合せ論や幾何学でよく使われる。
逆向きの主張として、凸多角形のどの三角形分割でも内接円の半径の和が同じなら、その多角形は円に内接することも知られている(Wei26。この記事では証明しない)。

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関連項目

参考文献

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