定数層

同義語:constant sheaf

概要

定数層(constant sheaf)とは、位相空間の各開集合に固定した集合への局所定数関数全体を対応させる層である。値が全域で一定の関数だけを集めた定数前層を層化して得られる。連結な開集合では切断は一つの値で決まるが、非連結な開集合では成分ごとに異なる値を取れる。各点の茎は元の集合に等しい。局所定数層は小さな開集合では定数層に見えるが、空間全体ではねじれを持つ場合がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 前層, 層

同じ値を「局所的に」選ぶ

定数層(constant sheaf)は、位相空間 $X$ の上で、固定した集合 $A$ の値を各点の近くでは変えずに選ぶための層である。開集合 $U$ 上の切断は $U\to A$ という局所定数関数であり、狭い開集合への制限は普通の関数の制限で与える。$U$ が連結なら切断は一つの値で決まる。一方、$U$ が二つの離れた開集合に分かれるなら、各部分で異なる値を選べる。
「定数」という名から、どの開集合でも切断が一つの定数だけだと思うと、層の貼り合わせを見落とす。定数前層では各開集合に $A$ そのものを置くが、これを層に直すと、局所定数関数が切断になる。両者の違いを小さな例から確認する。

定義と層の条件

$A$ は集合で、$X$ は位相空間とする。$A$ には離散位相を入れる。関数 $s:U\to A$ が局所定数であるとは、任意の $x\in U$ に対して $x$ の $U$ 内の開近傍 $V$ があり、$s|_V$ が一定になることをいう。この条件は、$A$ を離散空間と見たときの $s$ の連続性と同じである。

定数層

開集合 $U\subset X$ に対し、$A_X(U)$ を局所定数関数 $U\to A$ の集合とする。$V\subset U$ への制限写像は $s\mapsto s|_V$ とする。この層 $A_X$ を、値 $A$ の定数層という。$\underline A$ とも書く。

$U=\emptyset$ では空集合から $A$ への関数がちょうど一つあるから、$A_X(\emptyset)$ は一点集合である。$A$ がアーベル群・環・固定した環上の加群なら、切断に点ごとの演算を入れて、対応する種類の定数層にできる。例えば $\mathbb Z_X(U)$ は局所定数な整数値関数の加法群である。

局所定数関数は層をなす

$U=\bigcup_i U_i$ を開被覆とする。$s,t\in A_X(U)$ が各 $U_i$ で一致すれば $s=t$ である。また $s_i\in A_X(U_i)$ が重なり $U_i\cap U_j$ で一致するなら、$s|_{U_i}=s_i$ を満たす $s\in A_X(U)$ がただ一つある。

関数の値は各点を含む $U_i$ で決まるので、前半の局所性が成り立つ。後半は、$x\in U_i$ で $s(x)=s_i(x)$ と置く。重なりでの一致により $i$ の選び方に依存せず、関数 $s:U\to A$ が定まる。$x\in U_i$ とすると、$s_i$ は局所定数なので $x$ の開近傍 $V\subset U_i$ で $s_i|_V$ は一定であり、$s|_V=s_i|_V$ だから $s$ も $V$ で一定である。よって $s$ は局所定数で、$s|_{U_i}=s_i$ を満たす。一意性は前半から従う。$\square$

この証明では $X$ に連結性や局所連結性を仮定していない。任意の位相空間で定数層を作れることが重要である。StacksSheaves の Sheaves 節も、局所定数関数が層をなす例を挙げている。

定数前層との違い

空でない開集合 $U$ に $A$ を、空集合に一点集合を対応させ、空でない開集合間の制限を恒等写像にするものを、値 $A$ の定数前層と呼ぶ。これを $P$ と書く。各 $a\in A$ は「どの点でも値 $a$」という切断を与えるので、$P(U)$ から $A_X(U)$ への自然な写像がある。しかしこの写像は一般には全射でない。

二つの区間では異なる値を貼れる

$X=\mathbb R$、$A=\{0,1\}$、$U=(-2,-1)\cup(1,2)$ とする。左側で $0$、右側で $1$ を取る関数は $U$ 上で局所定数だから、$A_X(U)$ の元である。ところが $P(U)=A$ から来る切断は $U$ 全体で $0$ または全体で $1$ の二つだけである。左と右の切断は重なりが空なので貼り合わせられるべきだが、定数前層 $P$ にはその貼り合わせがない。このため $P$ は層でない。

このように空集合への値を一点集合にしておいても、上の欠点は残る(空集合にも $A$ を置くと、反例の表の最終行のとおり別の理由で層にならない)。層化はこの欠けた貼り合わせを追加する操作であり、定数前層の層化は $A_X$ になる。言い換えると、各点の周りで一定に見える関数をすべて許したものが定数層である。StacksSheafify の Example 6.17.4 は、この層化による構成を記している。
層化で何が増えるかを、芽からもう少し具体的に見る。定数前層 $P$ の点 $x$ での芽は、近傍を小さくしても値が変わらないため、$A$ の一つの元で表せる。したがって全ての点の芽を並べた集合は $X\times A$ になる。値 $a$ の定数切断が開集合 $V$ 上で与える芽の集合は $V\times\{a\}$ である。これらを基本開集合とすると、$A$ を離散位相にした積位相が $X\times A$ に入る。$U$ 上の切断は射影 $X\times A\to X$ の連続な右逆写像、つまり $x\mapsto(x,s(x))$ である。その連続性は $s:U\to A$ が局所定数であることと同じになる。
この見方では、定数前層から定数層へ移る際に各点の値 $A$ 自体は変えない。変えるのは、点ごとに選んだ値をどの開集合の切断として許すかである。二つの離れた区間で $0$ と $1$ を選んだ切断は、それぞれの点の芽として既に存在していたが、定数前層には両方を同時に表す切断がなかった。層化でその貼り合わせを加えると、局所定数関数として表せる。逆に、点ごとに無制限に値を選ぶわけではない。各点の近くでは一つの定数切断から来る必要があるので、切断には局所定数性という条件が残る。

開集合上の切断と連結性

$U$ が空でなく連結なら、$A_X(U)$ のどの切断も $U$ 全体で一定であり、評価 $s\mapsto s(x)$ によって $A_X(U)\cong A$ となる。$U$ が局所連結なら、その連結成分は開集合であり、$A_X(U)$ は成分ごとに一つずつ $A$ の値を選んだものと同一視できる。

局所定数関数 $s$ について、各 $a\in A$ の逆像 $s^{-1}(a)$ は開集合である。その補集合も他の値の逆像の和として開だから、この逆像は開かつ閉である。$U$ が連結なら、空でない逆像は $U$ 全体でなければならず、$s$ は一定となる。局所連結なら各連結成分は開であり、成分ごとに選んだ値からできる関数は各点の近くで一定になる。逆向きには連結成分への制限は前半により一定である。$\square$

この命題の後半から、局所連結な $U$ では $A_X(U)\cong A^{\pi_0(U)}$ と書ける。ここで $\pi_0(U)$ は連結成分の集合である。局所連結性がない場合、成分ごとの任意の値の選び方が局所定数になるとは限らない。例えば $\mathbb Q$ を通常の位相で見れば各連結成分は一点だが、$0$ だけで $1$、他で $0$ を取る関数は $0$ の近くで一定にならない。この違いは、「成分ごとに一定」と「局所的に一定」を混同しないための目印になる。
$\mathbb Q$ の例を開集合で検算できる。$A=\{0,1\}$ に離散位相を入れ、$s(0)=1$、$q\ne0$ では $s(q)=0$ とする。もし $s$ が連続なら $s^{-1}(\{1\})=\{0\}$ は $\mathbb Q$ で開くはずだが、どの実数区間も $0$ 以外の有理数を含むので開かない。したがってこの成分ごとの指定は定数層の切断ではない。他方、無理数 $\alpha$ を固定し、$q<\alpha$ で $0$、$q>\alpha$ で $1$ とすれば、値の逆像は $\mathbb Q$ の中で開くので局所定数な切断になる。$\mathbb Q$ 上の切断は全域で一定である必要はないが、任意の点別指定を許すわけでもない。
この二つの指定の差は、点の連結成分がすべて一点であるという情報だけからは読めない。局所定数性は、点のすぐ近くにも同じ値を割り当てられるかを見る条件である。$A_X(U)\cong A^{\pi_0(U)}$ と書くときは、成分が開くという仮定を落とさない。
次の表では $A=\{0,1\}$ として、実際の切断の数え方を比べる。

開集合 $U$$A_X(U)$見るべき点
$(-1,1)$二つの定数関数区間は連結。
$(-2,-1)\cup(1,2)$四つの局所定数関数二つの成分でそれぞれ $0$ または $1$ を選ぶ。
$\bigcup_{n\ge1}(2n,2n+1)$各 $n$ に $0$ または $1$ を選ぶ全ての関数成分が無限個でも、値を成分ごとに独立に選べる。

二行目には「左も右も $0$」「左 $0$・右 $1$」「左 $1$・右 $0$」「左も右も $1$」の四つがある。定数前層 $P(U)$ は、このうち両側で同じ値を取る二つしか見ない。三行目では $U$ は実数直線の開集合なので局所連結であり、各区間が開いた成分である。成分が無限個あること自体は、定数層の切断を作る障害にならない。

茎は元の集合になる

点 $x\in X$ での茎 $(A_X)_x$ は、$x$ の近くで定義された切断を、より小さい近傍で一致するものどうし同一視して作る。定数層では、この芽は $x$ での値だけで決まる。

定数層の茎

任意の $x\in X$ について、評価写像
$$ (A_X)_x\longrightarrow A,\qquad [s]_x\longmapsto s(x) $$
は全単射である。$A$ に群や加群の構造がある場合は、その構造を保つ同型である。

同じ芽の代表はある小さな近傍で一致するので、$x$ での値も同じであり、写像はよく定まる。任意の $a\in A$ は $x$ の近傍で定数値 $a$ を取る関数の芽から得られるので全射である。$s(x)=t(x)$ なら、局所定数性から $x$ の近傍 $V,W$ でそれぞれ $s,t$ はその同じ値で一定になる。$V\cap W$ 上で一致するので芽も同じで、単射である。$\square$

集合の写像 $h:A\to B$ があれば、各開集合 $U$ で局所定数関数 $s:U\to A$ を $h\circ s:U\to B$ に送れる。$s$ が点の近くで一定なら合成もそこで一定なので、これは定数層の射 $h_X:A_X\to B_X$ になる。制限してから合成しても、合成してから制限しても結果は同じである。点 $x$ の茎でこの射を見れば、上の同型 $(A_X)_x\cong A$ と $(B_X)_x\cong B$ のもとで、まさに元の写像 $h$ になる。
例えば $A=\mathbb Z$、$B=\mathbb Z/2\mathbb Z$ として $h(n)$ を $n$ の偶奇にすると、局所定数な整数値切断から局所定数な偶奇値切断が得られる。$X$ が連結なら、大域切断の写像も整数から偶奇への通常の写像そのものである。$X$ が二つの開いた連結成分を持てば、整数値をそれぞれ独立に選び、それぞれの偶奇を取る。このように定数層は一つの集合だけでなく、その集合の写像も空間上の切断の操作として運ぶ。
全ての茎が $A$ であることだけから、層が定数層だとは結論できない。異なる近傍での値の対応のさせ方が、空間を一周すると変わる場合がある。次の例はその違いを表す。

制限と切断の値

$V\subset X$ が開集合なら、$A_X$ を $V$ に制限した層は、$V$ 上で同じ集合 $A$ から作る定数層 $A_V$ に自然に同型である。$x\in V$ での茎の同型は、どちらも値 $s(x)$ で $A$ に同一視される。

$V$ の開集合 $W$ は $X$ の開集合でもある。どちらの層でも $W$ 上の切断は同じ局所定数関数 $W\to A$ であり、制限写像も同じ関数の制限だからである。茎の記述は thm-constant-sheaf-stalk を両側に適用すればよい。$\square$

この命題の「制限」は開部分空間に限ったものだが、定数層は連続写像に沿う逆像でも安定する。連続写像 $f:Y\to X$ なら、層の逆像 $f^{-1}A_X$ は $A_Y$ に同型になる。例えば $Y$ が円周上の一本の弧でも、弧に引き戻した定数層の切断は弧上の局所定数関数である。一般の逆像の記述は逆像層に委ねる。この性質は「同じ集合 $A$ から各空間の上に定数層を作る」という構成の自然さを表している。
逆像での同型は、芽を使う模型からも見える。定数層 $A_X$ の芽を全点に並べた空間は、前節で得た $X\times A$ である。これを $f:Y\to X$ に沿って引き戻した空間は
$$ Y\times_X(X\times A)\cong Y\times A $$
となる。右辺は $Y$ 上の定数層 $A_Y$ の芽の空間であり、$Y$ の開集合上の連続切断は局所定数関数 $Y\supset V\to A$ である。ここでは $f$ が全射である必要も、$X$ と $Y$ が連結である必要もない。例えば一点への写像 $Y\to\{\ast\}$ に沿って一点上の値 $A$ を引き戻しても、$Y$ 上では切断が局所定数関数となり、非連結な $Y$ では異なる成分に異なる値を選べる。

定数層への射と大域切断

定数層から任意の層への射は、値の集合 $A$ の元をどの大域切断に送るかだけで決まる。これは「$A$ から自由に作った層」という性格を表す。

定数層の普遍性

$X$ を位相空間、$\mathcal F$ を $X$ 上の集合の層、$A$ を集合とする。層の射 $\psi:A_X\to\mathcal F$ に対して、$a\in A$ を大域定数関数 $c_a\in A_X(X)$ の像 $\psi_X(c_a)\in\mathcal F(X)$ へ送る写像を対応させると、全単射
$$ \operatorname{Hom}(A_X,\mathcal F)\;\cong\;\operatorname{Map}(A,\mathcal F(X)) $$
が得られる。

写像 $\varphi:A\to\mathcal F(X)$ から射 $\psi^\varphi$ を作る。開集合 $U$ と局所定数関数 $s:U\to A$ を取る。各 $a\in A$ について $U_a:=s^{-1}(a)$ は開集合であり(局所定数性)、$U$ は互いに交わらない開集合 $U_a$ の和である。切断の族 $\varphi(a)|_{U_a}\in\mathcal F(U_a)$ は、相異なる $a,b$ で $U_a\cap U_b=\emptyset$ なので重なりの条件を自動的に満たし、層条件から $\psi^\varphi_U(s)\in\mathcal F(U)$ にただ一つに貼り合う。$V\subset U$ に制限すると $s|_V$ の逆像は $U_a\cap V$ なので、貼り合わせの一意性から $\psi^\varphi_U(s)|_V=\psi^\varphi_V(s|_V)$ であり、$\psi^\varphi$ は層の射である。$c_a$ では $U_a=X$ なので $\psi^\varphi_X(c_a)=\varphi(a)$ となり、$\varphi\mapsto\psi^\varphi$ は対応の右逆である。
逆に射 $\psi$ が与えられ、$\varphi(a):=\psi_X(c_a)$ とする。任意の $s\in A_X(U)$ について、$s|_{U_a}=c_a|_{U_a}$ だから射の制限との両立から
$$ \psi_U(s)|_{U_a}=\psi_{U_a}(c_a|_{U_a})=\psi_X(c_a)|_{U_a}=\varphi(a)|_{U_a} $$
である。$\psi_U(s)$ と $\psi^\varphi_U(s)$ は各 $U_a$ への制限が一致するので、層条件の局所性から等しい。よって $\psi=\psi^\varphi$ であり、対応は全単射である。$\square$

$A$ がアーベル群で $\mathcal F$ がアーベル群の層なら、同じ証明で、群の層の射 $A_X\to\mathcal F$ と群準同型 $A\to\mathcal F(X)$ が一対一に対応する。特に $A=\mathbb Z$ とすると、$\mathbb Z_X\to\mathcal F$ という射は大域切断 $\psi_X(c_1)\in\mathcal F(X)$ 一つで決まり、$\operatorname{Hom}(\mathbb Z_X,\mathcal F)\cong\mathcal F(X)$ となる。この全単射は $\mathcal F$ についても $A$ についても自然であり(射を合成してから $c_a$ で評価しても、評価してから合成しても同じ)、「集合 $A$ から定数層 $A_X$ を作る関手」は「大域切断を取る関手 $\mathcal F\mapsto\mathcal F(X)$」の左随伴である。

局所定数層との境界

層 $\mathcal F$ が局所定数層であるとは、各点の近くでは何らかの定数層に同型になることをいう。定数層は局所定数層だが、その逆は一般には成り立たない。StacksLocal の Definition 18.43.1 も「全体で定数層に同型」と「被覆上で定数層に同型」を区別している。

円周を一周すると符号が変わる

円周を $S^1=\mathbb R/\mathbb Z$ と書く。$\mathbb R\times\mathbb Z$ に $(t,n)\sim(t+1,-n)$ という同一視を入れ、その商から $S^1$ への射影を考える。十分短い弧の上では、整数 $n$ を一つ選ぶと、その弧の各点で同じ値を持つ局所切断が得られる。したがって局所切断の層は短い弧の上で定数層 $\mathbb Z$ に見え、各茎は $\mathbb Z$ に同型である。
しかし円周を一周すると値 $n$ は $-n$ と同一視される。全周にわたる局所定数な切断があれば、その値は $n=-n$ を満たすため $n=0$ だけである。一方、通常の定数層 $\mathbb Z_{S^1}$ の大域切断は全ての整数値を選べる。大域切断の群が異なるので、この層は $\mathbb Z_{S^1}$ と同型ではない。

短い弧での見え方と一周後の条件を手順として追う。$S^1$ の長さが一周より小さい弧 $U$ を選ぶと、$\mathbb R$ 上の互いに交わらない開区間に持ち上がる。そのうち一つを選べば、弧の上の各点に整数 $n$ を対応させる座標が得られる。この区間内では連続な整数値の切断は一定だから、$U$ 上の層は $\mathbb Z_U$ と同型に見える。別の持ち上げ区間を一周ずらして選ぶと、同じ幾何学的な点での座標が $n$ から $-n$ に変わる。局所的にはどちらも整数の定数層だが、座標のつなぎ目には符号反転が残る。
大域切断が $0$ に限られることも、持ち上げて確かめられる。全周の切断を $\mathbb R$ 上へ引き戻すと、連結な $\mathbb R$ 上の局所定数整数値関数 $n(t)$ になるので、これはある整数 $n$ に等しい。元の円周上で同じ切断に戻るには $t$ と $t+1$ の値が商の関係 $n(t+1)=-n(t)$ を満たす必要がある。定数性と合わせて $n=-n$、したがって $n=0$ である。各茎が $\mathbb Z$ であることは、この大域条件を検出しない。
この例で違うのは各点で見える値ではなく、近傍どうしの値のつなぎ方である。層を考えるとき、茎の一覧に加えて制限写像や貼り合わせを記録する理由がここにある。なお、値の集合が $A$ の定数層そのものを作る場合には、このような符号のねじれは入れない。
三つの対象を同じ名前で呼ばないように、条件を表にまとめる。

対象開集合 $U$ での姿貼り合わせ円周上での例
定数前層$U$ ごとに同じ $A$ を置く離れた開集合の異なる値を貼れないことがある$A=\mathbb Z$ を各開集合に置く。
定数層 $A_X$局所定数関数 $U\to A$いつも一意に貼れる整数値の局所定数関数。全周では整数一つを選ぶ。
局所定数層小さな開集合上で定数層に同型いつも一意に貼れる上の符号が反転する例では、全周の切断は $0$ だけ。

定数前層を層化すると二行目になる。三行目は二行目を含む広い種類であり、円周の例のように全体では二行目と同型にならないものもある。いずれの比較でも「各茎の集合は $A$」という情報だけでは二行目と三行目を区別できない。

幾何とコホモロジーでの位置

多様体 $M$ 上では、$\mathbb R_M$ は局所定数な実数値関数の層であり、滑らかな関数全体の層とは異なる。滑らかな関数は近くで値が変わってよいが、$\mathbb R_M$ の切断は各点の近くで値が一定でなければならない。滑らかな関数の微分 $df=0$ という条件は、連結な小さな開集合上で $f$ が一定になることと対応し、de Rham 複体の先頭に $\mathbb R_M$ が現れる。

微分の核としての定数層

滑らかな多様体 $M$ の開集合 $U$ 上の滑らかな関数 $f:U\to\mathbb R$ について、$df=0$ であることと、$f$ が局所定数であることは同値である。したがって、滑らかな関数の層から $1$ 形式の層への微分 $d$ の核は $\mathbb R_M$ である。

局所定数関数は各点の近くで一定なので、その微分は $0$ である。逆に $df=0$ とし、$x_0\in U$ を取る。$x_0$ の座標近傍の中に、座標で見て凸な開近傍 $W\subset U$ を選ぶ(座標の像の中の小さな開球の逆像)。二点 $x,y\in W$ を座標で結ぶ線分に沿う一変数関数 $g(t)=f((1-t)x+ty)$ の導関数は、連鎖律から $g'(t)=df_{(1-t)x+ty}(y-x)=0$ である。平均値の定理より $g(1)=g(0)$、すなわち $f(x)=f(y)$ となり、$f$ は $W$ で一定である。よって $f$ は局所定数である。各開集合 $U$ でこの同値が成り立つので、層として $\ker d=\mathbb R_M$ である。$\square$

これは定数層が単に「定数を並べたもの」ではなく、微分の核として現れる具体例である。$U$ が連結でなければ、$df=0$ でも $f$ は成分ごとに違う値を取ってよい。
代数幾何でも、スキームのエタール景で固定した集合やアーベル群から定数層を作る。ただしこの場合の「局所」は通常の位相空間の開近傍だけでなく、エタール被覆で判定する。StacksEtale の Definition 59.64.1 は、定数前層の層化で定数層を定義する。位相空間上の具体的な $U\mapsto\{U\to A\text{ 局所定数}\}$ という式と、任意の景で使える層化による定義を取り違えないことが大切である。

反例:条件を外すと崩れること

定数層について成り立ちそうに見えるが、条件を外すと成り立たない主張を並べる。各行の反例は右の列の主張を破る。

外す条件反例成り立たなくなること
$U$ の連結性$U=(-2,-1)\cup(1,2)\subset\mathbb R$、$A=\{0,1\}$$A_X(U)\cong A$(切断は一つの値で決まる)
$U$ の局所連結性$U=\mathbb Q$、$0$ だけで値 $1$ を取る関数連結成分ごとに一定な関数は切断
層条件(前層のまま)定数前層 $P$ と二つの区間重なりで一致する切断は貼り合う
空間全体での同型円周の符号がねじれた層茎がすべて $A$ なら定数層に同型
$U$ が空でないこと$U=\emptyset$、$A$ が二元以上$A_X(U)\cong A$
  • 連結性:ex-constant-sheaf-two-intervals と表のとおり、二つの成分で独立に値を選べて $A_X(U)$ は $4$ 元であり、$A$ の $2$ 元と一致しない。prop-constant-sheaf-connected の前半は $U$ の連結性を使っている。
  • 局所連結性:$\mathbb Q$ の連結成分は一点だが、$0$ だけで $1$ を取る関数は $0$ の近くで一定でない(本文の検算)。成分ごとの値の選び方がすべて切断になるのは、成分が開集合のとき、例えば $U$ が局所連結なときである。
  • 層条件:定数前層 $P$ では $P(U)=A$ の元は $U$ 全体で同じ値なので、二つの区間で $0$ と $1$ を選んだ族を貼り合わせる元がない。重なりは空なので一致の条件は満たされており、層の貼り合わせ公理が破れている。
  • 全体での同型:ex-constant-sheaf-twist の層は茎がすべて $\mathbb Z$ だが、大域切断は $0$ だけで、$\mathbb Z_{S^1}$ の大域切断 $\mathbb Z$ と異なる。茎の同型は、層の同型を与えない。
  • 空な開集合:空集合から $A$ への関数はただ一つなので、$A_X(\emptyset)$ は一点集合である。$A$ が二元以上なら $A_X(\emptyset)\not\cong A$ である。一方、定数前層を「空でない開集合に $A$」と定めたまま空集合にも $A$ を置くと、空集合の開被覆(空の族)についての貼り合わせ公理が破れる。

関連項目

参考文献

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