グラフノルム

同義語:graph norm

概要

グラフノルム(graph norm)とは、Banach 空間 $X$ の部分空間 $D(T)$ で定義された線形作用素 $T\colon D(T)\to Y$ について、定義域に入れるノルム $\|x\|+\|Tx\|$ のことで、$x$ をグラフ上の点 $(x,Tx)$ として直積のノルムで測ったものである。$Y$ も Banach 空間のとき、$T$ が閉作用素であることと $D(T)$ がこのノルムで完備であることは同値で、閉作用素はグラフノルムの空間からの有界作用素とみなせる。閉包はグラフノルムによる完備化、芯(core)はグラフノルムで稠密な部分空間として特徴づけられ、相対有界性はこのノルムについての有界性である。微分作用素では Sobolev 空間のノルムになり、半群の生成作用素の定義域を Banach 空間として扱うのに使う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, 閉グラフ定理, ノルム空間

微分作用素のように、全空間では定義できず、もとのノルムについて有界でもない線形作用素 $T\colon D(T)\to Y$ は多い。しかし定義域 $D(T)$ に、$x$ の大きさと $Tx$ の大きさをあわせて測るノルム $\|x\|+\|Tx\|$ を入れ直すと、$T$ は有界な作用素になる。これを グラフノルム(graph norm)という。グラフノルムは、点 $x$ をグラフ上の点 $(x,Tx)$ と同一視して直積空間のノルムで測ったものにほかならない。
このノルムで $D(T)$ が完備になることは、$T$ が閉作用素であることと同値である。そのため、閉作用素は「グラフノルムを入れた Banach 空間からの有界作用素」として扱える。微分作用素のグラフノルムは Sobolev 空間のノルムであり、発展方程式では生成作用素の定義域をこのノルムで Banach 空間とみる。この記事では、グラフノルムの定義と完備性の判定、閉包と芯(core)の言い換え、レゾルベントとの関係、相対有界性と摂動を述べる。
以下、係数体 $\mathbb K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$X,Y,Z$ は $\mathbb K$ 上の Banach 空間とする。

定義

部分空間 $D(T)\subseteq X$ から $Y$ への線形写像 $T\colon D(T)\to Y$ を($X$ から $Y$ への)作用素という。グラフ $\Gamma(T)=\{(x,Tx):x\in D(T)\}$ が $X\times Y$ の閉集合のとき $T$ は 閉作用素 であり、$\Gamma(T)$ の閉包がある作用素 $\overline T$ のグラフになるとき $T$ は 閉包をもつ(可閉である)という(閉グラフ定理 の定義「閉作用素」と命題「閉包をもつための条件」)。$X\times Y$ にはノルム $\|(x,y)\|:=\|x\|_X+\|y\|_Y$ を入れる。この直積は Banach 空間である。実際、同記事の補題「直積の完備性」はノルム $\max\{\|x\|_X,\|y\|_Y\}$ について完備性を示しており、$\max\{\|x\|_X,\|y\|_Y\}\le\|x\|_X+\|y\|_Y\le2\max\{\|x\|_X,\|y\|_Y\}$ から二つのノルムは同値で、Cauchy 列と収束列が一致するので完備性はこちらのノルムにも移る。

グラフノルム

作用素 $T\colon D(T)\to Y$ の グラフノルム を
$$ \|x\|_T:=\|x\|_X+\|Tx\|_Y\qquad(x\in D(T)) $$
と定める。

$\|\cdot\|_T$ がノルムであることは、$\|\cdot\|_X$ がノルムで $T$ が線形であることから従う($\|x\|_T=0$ なら $\|x\|_X=0$)。定義から次が成り立つ。

  1. $\|x\|_X\le\|x\|_T$ と $\|Tx\|_Y\le\|x\|_T$ が成り立つ。つまり、包含写像 $(D(T),\|\cdot\|_T)\to X$ と $T\colon(D(T),\|\cdot\|_T)\to Y$ は、どちらもノルム $1$ 以下の有界作用素である。
  2. 写像 $J\colon D(T)\to\Gamma(T)$、$J(x)=(x,Tx)$ は線形な全単射で、$\|J(x)\|=\|x\|_T$ を満たす。つまり $(D(T),\|\cdot\|_T)$ は、$X\times Y$ の部分空間 $\Gamma(T)$ と等長に同型である。
    $1\le p< \infty$ について $(\|x\|_X^p+\|Tx\|_Y^p)^{1/p}$、また $\max\{\|x\|_X,\|Tx\|_Y\}$ も、$\|\cdot\|_T$ と同値なノルムである(平面のノルムの比較 $\max\{a,b\}\le(a^p+b^p)^{1/p}\le a+b\le2\max\{a,b\}$($a,b\ge0$)による)。$X,Y$ が Hilbert 空間のときは、内積
    $$ \langle x,y\rangle_T:=\langle x,y\rangle_X+\langle Tx,Ty\rangle_Y $$
    から定まるノルム $(\|x\|_X^2+\|Tx\|_Y^2)^{1/2}$ を使うことが多く、これもグラフノルムと呼ばれる。完備性・稠密性・有界性は同値なノルムの間で変わらないので、以下の主張はどのノルムで読んでもよい。

閉作用素とグラフノルムの完備性

閉作用素の特徴づけ

作用素 $T\colon D(T)\to Y$ について、次は同値である。

  1. $T$ は閉作用素である。
  2. $(D(T),\|\cdot\|_T)$ は Banach 空間である。
    このとき、$T\colon(D(T),\|\cdot\|_T)\to Y$ は有界作用素である。
等長な同型 $J$ で閉性と完備性を移す

$J\colon(D(T),\|\cdot\|_T)\to\Gamma(T)$ は等長な線形全単射なので、$(D(T),\|\cdot\|_T)$ が完備であることと、$\Gamma(T)$ が $X\times Y$ のノルムについて完備であることは同値である(Cauchy 列と収束列が $J$ で対応する)。
$X\times Y$ は Banach 空間である。完備な距離空間の部分集合は、閉集合であるときかつそのときに限り、それ自身完備である。実際、閉集合の Cauchy 列は全体の中で収束し、その極限は閉集合に属する。逆に部分集合 $G$ が完備なら、$G$ の点列が全体の中で $z$ に収束するとき、その列は $G$ の Cauchy 列なので $G$ の中で極限 $z'$ をもち、極限の一意性から $z=z'\in G$ である。
よって 1($\Gamma(T)$ が閉)と 2($\Gamma(T)$ が完備)は同値である。最後の主張は定義の後の 1 である。$\square$

$T$ が閉で $D(T)=X$ なら、$\|\cdot\|_X\le\|\cdot\|_T$ で、どちらのノルムでも $X$ は Banach 空間である。開写像定理 の系(同じ空間の上の 2 つのノルムがどちらも完備で、一方が他方の定数倍で抑えられるなら同値。Bre11 Corollary 2.8、p. 35)により、ある $c$ で $\|x\|_T\le c\|x\|_X$ となり、$\|Tx\|_Y\le c\|x\|_X$ が得られる。これが閉グラフ定理の一つの証明である(Bre11 Theorem 2.9 の証明、p. 37)。
閉でない作用素の場合も、閉包をもてば、グラフノルムの完備化として閉包が得られる。

閉包はグラフノルムの完備化

$T\colon D(T)\to Y$ が閉包 $\overline T$ をもつとする。$D(T)$ は $(D(\overline T),\|\cdot\|_{\overline T})$ の稠密な部分空間で、$D(T)$ の上で $\|\cdot\|_{\overline T}=\|\cdot\|_T$ である。とくに $(D(\overline T),\|\cdot\|_{\overline T})$ は $(D(T),\|\cdot\|_T)$ の完備化である。

$\overline T$ は $T$ の延長なので、$x\in D(T)$ では $\|x\|_{\overline T}=\|x\|_T$ である。$\overline J(x):=(x,\overline Tx)$ は $(D(\overline T),\|\cdot\|_{\overline T})$ から $\Gamma(\overline T)=\overline{\Gamma(T)}$ への等長な同型で、$\overline J(D(T))=\Gamma(T)$ は $\overline{\Gamma(T)}$ で稠密である。よって $D(T)$ は $D(\overline T)$ でグラフノルムについて稠密であり、thm-gn-closed により $(D(\overline T),\|\cdot\|_{\overline T})$ は完備である。完備化の一意性から主張が従う。$\square$

閉作用素を扱うとき、定義域全体ではなく扱いやすい部分空間の上で計算をすませ、極限で全体に広げることが多い。そのための部分空間の条件がグラフノルムの稠密性で書ける。

芯

$T\colon D(T)\to Y$ を閉作用素とする。部分空間 $D\subseteq D(T)$ が $T$ の 芯(core)であるとは、制限 $T|_D$ が閉包をもち、$\overline{T|_D}=T$ となることをいう。

芯の判定

$T$ を閉作用素、$D\subseteq D(T)$ を部分空間とする。$D$ が $T$ の芯であることと、$D$ が $(D(T),\|\cdot\|_T)$ で稠密であることは同値である。

$\Gamma(T|_D)=J(D)\subseteq\Gamma(T)$ で、$\Gamma(T)$ は閉なので $\overline{\Gamma(T|_D)}\subseteq\Gamma(T)$ はつねにグラフであり、$T|_D$ は閉包をもつ。$\overline{T|_D}=T$ は $\overline{J(D)}=\Gamma(T)$ と同じで、$J$ が等長な同型であることから、これは $D$ が $D(T)$ でグラフノルムについて稠密であることと同値である。$\square$

例

微分作用素と Sobolev 空間

$1\le p\le\infty$、$I=(0,1)$ とし、$X=Y=L^p(I)$、$D(T)=W^{1,p}(I)$、$Tu=u'$(弱導関数)とする(1次元Sobolev空間 の定義「1次元Sobolev空間」)。グラフノルム $\|u\|_p+\|u'\|_p$ は $W^{1,p}(I)$ のノルムそのものである。
$T$ は閉作用素である。$u_n\in W^{1,p}(I)$、$u_n\to u$、$u_n'\to g$(どちらも $L^p$ で)とする。$\varphi\in C_c^1(I)$ を固定すると $\varphi,\varphi'$ は有界で台が有界なので、Hölder の不等式により $\int_Iu_n\varphi'\,dx\to\int_Iu\varphi'\,dx$、$\int_Iu_n'\varphi\,dx\to\int_Ig\varphi\,dx$ である。$\int_Iu_n\varphi'\,dx=-\int_Iu_n'\varphi\,dx$ で極限をとると $\int_Iu\varphi'\,dx=-\int_Ig\varphi\,dx$ となり、$u\in W^{1,p}(I)$、$u'=g$ である。
したがって thm-gn-closed により、$W^{1,p}(I)$ は Banach 空間である。Sobolev 空間の完備性は、微分作用素が閉であることの言い換えになっている。

対角作用素と重み付きの数列空間

$H=\ell^2$ で $(Ax)_n=nx_n$、$D(A)=\{x\in\ell^2:\sum_nn^2\lvert x_n\rvert^2< \infty\}$ とする。Hilbert 版のグラフノルムは
$$ \|x\|_A^2=\sum_n(1+n^2)\lvert x_n\rvert^2 $$
で、$(D(A),\|\cdot\|_A)$ は重み $1+n^2$ の重み付き $\ell^2$ 空間である。$y_n=(1+n^2)^{1/2}x_n$ とおけば $\ell^2$ と等長に同型なので完備であり、thm-gn-closed により $A$ は閉作用素である。
有限個を除いて $0$ である数列の空間 $c_{00}$ は $A$ の芯である。$x\in D(A)$ の第 $N$ 項までを残した $x^{(N)}\in c_{00}$ について $\|x-x^{(N)}\|_A^2=\sum_{n>N}(1+n^2)\lvert x_n\rvert^2\to0$ なので、prop-gn-core が使える。$D(A)$ の部分空間が芯であるかどうかは、$\ell^2$ のノルムでの稠密性だけでは決まらない(ex-gn-not-core)。

稠密だが芯でない部分空間

ex-gn-diagonal の $A$ について、$D_0:=\{x\in D(A):\sum_nx_n=0\}$ とおく。$x\in D(A)$ なら Cauchy–Schwarz の不等式で $\sum_n\lvert x_n\rvert\le(\sum_n(1+n^2)\lvert x_n\rvert^2)^{1/2}(\sum_n(1+n^2)^{-1})^{1/2}$ なので、$f(x):=\sum_nx_n$ はグラフノルムについて連続な線形汎関数で、$D_0=\ker f$ は $(D(A),\|\cdot\|_A)$ の閉部分空間である。$f(e_1)=1$ なので $D_0\ne D(A)$ であり、$D_0$ はグラフノルムで稠密でない。よって $D_0$ は芯でない。一方、$y\perp D_0$($\ell^2$ の内積)なら $e_1-e_n\in D_0$ から $y_1=y_n$ がすべての $n$ で成り立ち $y=0$ となるので、$D_0$ は $\ell^2$ では稠密である。

有界作用素 $T\colon X\to Y$($D(T)=X$)では $\|x\|_X\le\|x\|_T\le(1+\|T\|)\|x\|_X$ なので、グラフノルムはもとのノルムと同値で、新しいことは起こらない。グラフノルムが役に立つのは有界でない作用素の場合である。

レゾルベントとグラフノルム

$X$ から $X$ 自身への作用素では、ある $\lambda$ で $\lambda-T$ が有界な逆をもてば、グラフノルムの空間は $X$ と同型になる。

レゾルベントによる同型

$T\colon D(T)\to X$ を $X$ から $X$ への作用素、$\lambda\in\mathbb K$ とし、$\lambda-T\colon D(T)\to X$ が全単射で、逆写像 $R:=(\lambda-T)^{-1}$ が $X$ 上の有界作用素であるとする。このとき、すべての $y\in X$ で
$$ \frac{\|y\|}{\max\{1,\lvert\lambda\rvert\}}\le\|Ry\|_T\le\bigl(1+(1+\lvert\lambda\rvert)\|R\|\bigr)\|y\| $$
が成り立つ。とくに $R\colon X\to(D(T),\|\cdot\|_T)$ は有界な逆をもつ線形全単射であり、$T$ は閉作用素である。

$y\in X$、$x:=Ry\in D(T)$ とおくと、$\lambda x-Tx=y$ である。上からの評価:$\|x\|\le\|R\|\|y\|$ と $\|Tx\|=\|\lambda x-y\|\le\lvert\lambda\rvert\|R\|\|y\|+\|y\|$ を足せばよい。下からの評価:$\|y\|=\|\lambda x-Tx\|\le\lvert\lambda\rvert\|x\|+\|Tx\|\le\max\{1,\lvert\lambda\rvert\}\|x\|_T$ である。$R$ は $X$ から $D(T)$ への線形全単射なので、2 つの評価から $(D(T),\|\cdot\|_T)$ は Banach 空間 $X$ と同型で完備であり、thm-gn-closed により $T$ は閉である。$\square$

強連続半群の生成作用素 $A$ では、十分大きい実数 $\lambda$ について $\lambda-A$ が有界な逆をもつ(Hille–吉田の定理)。そのため $D(A)$ はグラフノルムで Banach 空間になり、発展方程式 $u'=Au$ の解を「$D(A)$ に値をとる連続関数」として扱える。Hilbert 空間の極大単調作用素について、$D(A)$ にグラフノルム $\lvert v\rvert+\lvert Av\rvert$ か、同値な Hilbert ノルム $(\lvert v\rvert^2+\lvert Av\rvert^2)^{1/2}$ を入れる使い方が Bre11 の Theorem 7.4 の脚注(p. 185)にある。

相対有界性と摂動

相対有界

$T\colon D(T)\to Y$ と $S\colon D(S)\to Z$ を $X$ からの作用素とする。$D(T)\subseteq D(S)$ で、定数 $a,b\ge0$ により
$$ \|Sx\|_Z\le a\|Tx\|_Y+b\|x\|_X\qquad(x\in D(T)) $$
が成り立つとき、$S$ は $T$ 有界($T$ に関して相対有界)であるという。このような $a$ の下限を $S$ の $T$ 限界 という。

$\max\{a,b\}\|x\|_T$ が右辺を上から抑えるので、$S$ が $T$ 有界であることは、$D(T)\subseteq D(S)$ かつ制限 $S|_{D(T)}\colon(D(T),\|\cdot\|_T)\to Z$ が有界であることと同値である。つまり相対有界性は、グラフノルムについての普通の有界性である。閉グラフ定理により、$T$ が閉で $S$ が閉包をもつなら、定義域の包含だけで相対有界性が従う。

定義域の包含から相対有界性が従う

$T\colon D(T)\to Y$ を閉作用素、$S\colon D(S)\to Z$ を閉包をもつ作用素とし、$D(T)\subseteq D(S)$ とする。このとき $S$ は $T$ 有界である。

グラフノルムの空間で閉グラフ定理を使う

$S_0:=S|_{D(T)}$ を、Banach 空間 $(D(T),\|\cdot\|_T)$(thm-gn-closed)から $Z$ への全域で定義された線形写像とみる。$S_0$ のグラフが閉であることを示す。$x_n\to x$(グラフノルムで)かつ $S_0x_n\to z$ とする。$\|x_n-x\|_X\le\|x_n-x\|_T\to0$ であり、$x_n-x\in D(T)\subseteq D(S)$ について $S(x_n-x)=Sx_n-Sx\to z-Sx$ である。$S$ は閉包をもつので、閉グラフ定理 の命題「閉包をもつための条件」により $z-Sx=0$、すなわち $z=S_0x$ である。よって $S_0$ のグラフは閉で、閉グラフ定理 の定理「閉グラフ定理」により $S_0$ は有界である。上の同値な言い換えにより $S$ は $T$ 有界である。$\square$

閉包をもつことは十分条件であって必要条件ではない。ex-gn-derivative の $T=d/dx$($p< \infty$)と、連続な代表の値 $S u:=\tilde u(0)$($D(S)=W^{1,p}(I)$、値は $\mathbb K$)を考える。1次元Sobolev空間 の定理「一様ノルムの評価」により $\lvert\tilde u(0)\rvert\le\|u\|_{W^{1,p}}$($I=(0,1)$ では定数は $1$)なので、$S$ は $T$ 有界である。一方 $u_n(x):=\max\{1-nx,0\}$ は $\|u_n\|_p\to0$ だが $Su_n=1$ なので、$S$ は $L^p(I)$ からの作用素として閉包をもたない。
相対限界が $1$ より小さい摂動では、グラフノルムが変わらない。

小さい摂動とグラフノルム

$T\colon D(T)\to Y$ を作用素、$S\colon D(S)\to Y$ を $T$ 有界な作用素とし、定義の不等式が $a<1$ で成り立つとする。$D(T+S):=D(T)$ の上の $T+S$ について、
$$ \|x\|_{T+S}\le(1+a+b)\|x\|_T,\qquad\|x\|_T\le\frac{1+b}{1-a}\|x\|_{T+S}\qquad(x\in D(T)) $$
が成り立つ。とくに、$T$ が閉であることと $T+S$ が閉であることは同値である。

$\|(T+S)x\|\le\|Tx\|+a\|Tx\|+b\|x\|$ に $\|x\|$ を足せば 1 つ目が出る。また $\|Tx\|\le\|(T+S)x\|+\|Sx\|\le\|(T+S)x\|+a\|Tx\|+b\|x\|$ から $(1-a)\|Tx\|\le\|(T+S)x\|+b\|x\|$ であり、
$$ \|x\|_T\le\|x\|+\frac{\|(T+S)x\|+b\|x\|}{1-a}\le\frac{1+b}{1-a}\bigl(\|x\|+\|(T+S)x\|\bigr) $$
となる($1\le1/(1-a)$ を使った)。2 つのノルムは同値なので、完備性は一方で成り立てば他方でも成り立ち、thm-gn-closed から閉性の同値が従う。$\square$

Hilbert 空間 $H$ で $T$ が自己共役、$S$ が対称で $T$ 限界が $1$ より小さいとき $T+S$ も(定義域 $D(T)$ の上で)自己共役になる(Tes09 Theorem 6.4、p. 135)。この定理は、十分大きい $\lambda>0$ で $\operatorname{ran}(T+S\pm i\lambda)=H$ を示し、自己共役作用素 の定理「自己共役性の判定」($\pm i$ を $\pm i\lambda$ に替えた形)を当てて示される。この記事ではこの定理を証明しない。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
$T$ が閉(thm-gn-closed)$X=Y=C([0,1])$(上限ノルム)、$D(T)$=多項式全体、$Tf=f'$$(D(T),\|\cdot\|_T)$ が完備
$X$ が完備(thm-gn-closed)$X=c_{00}$($\ell^2$ のノルム)、$Y=\mathbb K$、$D(T)=X$、$T=0$閉作用素なら $(D(T),\|\cdot\|_T)$ が完備
$Y$ が完備(thm-gn-closed)$X=\ell^2$、$Y=c_{00}$($\ell^2$ のノルム)、$D(T)=c_{00}$、$Tx=x$閉作用素なら $(D(T),\|\cdot\|_T)$ が完備
$S$ が閉包をもつ(thm-gn-relative)$X=\ell^2$、$T=I$、$S$=$\ell^2$ 上の不連続な線形汎関数$D(T)\subseteq D(S)$ なら $T$ 有界
$a<1$(prop-gn-perturbation)$T=d/dx$(ex-gn-derivative、$p< \infty$)、$S=-T$($a=1$)$T$ が閉なら $T+S$ も閉
反例の表の確かめ

1 行目:$p_N(x):=\sum_{k\le N}x^k/k!$ は $e^x$ に一様収束し、$p_N'=p_{N-1}$ も $e^x$ に一様収束するので、$(p_N)$ はグラフノルムの Cauchy 列である。極限 $f\in D(T)$ があれば $p_N\to f$ が一様収束になり $f=e^x$ だが、$e^x$ は多項式でない。
2 行目:グラフ $c_{00}\times\{0\}$ は $X\times Y$ で閉であり、$T$ は閉作用素である。グラフノルムは $\ell^2$ のノルムで、$c_{00}$ はこのノルムで完備でない($\sum_{k\le N}k^{-1}e_k$ は Cauchy 列だが、$\ell^2$ での極限 $\sum_kk^{-1}e_k$ は $c_{00}$ にない)。
3 行目:$x_n\to x$($\ell^2$ で)、$x_n\to y$($Y$ で)なら、$Y$ のノルムも $\ell^2$ のノルムなので $x=y\in c_{00}$ であり、グラフは閉である。グラフノルムは $\ell^2$ のノルムの $2$ 倍で、2 行目と同じく $c_{00}$ は完備でない。
4 行目:$\ell^2$ 上の不連続な線形汎関数 $S$ は選択公理を使って作れる(不連続な線形汎関数)。$T=I$ のグラフノルムは $2\|x\|$ なので、$T$ 有界とは有界であることであり、$S$ は $T$ 有界でない。定理より、$S$ は閉包をもたない。
5 行目:$T+S$ は $D(T)=W^{1,p}(I)$ の上の零写像である。そのグラフ $W^{1,p}(I)\times\{0\}$ が閉なら $W^{1,p}(I)$ は $L^p(I)$ の閉部分空間だが、$W^{1,p}(I)$ は $C_c^\infty(I)$ を含み $L^p(I)$($p< \infty$)で稠密なので $L^p(I)$ 全体になる。$L^p(I)$ には $W^{1,p}(I)$ に入らない関数(たとえば $(0,\frac12)$ で $0$、$[\frac12,1)$ で $1$ の関数。弱導関数をもてば連続な代表をもつ)があるので矛盾する。

補足

文献

グラフノルムによる閉グラフ定理の証明は Bre11 Theorem 2.9 の証明(p. 37)、同値なノルムについての開写像定理の系は Corollary 2.8(p. 35)にある。閉包、芯、Hilbert 版のグラフノルムによる閉性の言い換えは Tes09 §2.2(pp. 63–64)、相対有界性と $T$ 限界の定義は §6.1(p. 133)にある。thm-gn-closed、cor-gn-closure、prop-gn-core、prop-gn-resolvent、thm-gn-relative、prop-gn-perturbation と例は、この記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

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