アフィン開集合(affine open subset)とは、スキームの開部分スキームのうち、ある環のスペクトルと同型になるものである。標準開集合 $D(f)$ は局所化環のスペクトルに同型で、任意のスキームのアフィン開集合は位相の基底をなす。しかしアフィンスキームの任意の開集合や、アフィン開集合の有限和がアフィンとは限らない。アフィン平面から原点を除いた開集合が反例となる。分離的スキームでは二つのアフィン開集合の交わりはアフィンであることも証明する。
アフィン開集合(affine open subset, affine open)とは、スキームの開集合のうち、その開部分スキームがある環のスペクトルと同型になるものである。一般のスキームは全体としてアフィンとは限らないが、どの点にもアフィン開近傍がある。したがってアフィン開集合は、スキームを局所的に環で調べる際の基本単位となる。スキームの定義そのものにも、この局所アフィン性が組み込まれている。
例えば環 $A$ のスペクトル $X=\operatorname{Spec}A$ で、元 $f\in A$ が消えない点の集合 $D(f)$ はアフィン開集合であり、$\operatorname{Spec}A_f$ と同型である。一方、アフィンなスキームのすべての開集合がアフィンとは限らない。平面から原点を除いた開集合はその基本的な反例である。本記事では、定義、標準開集合との関係、開集合の被覆、交わりに関する条件と反例を順に確かめる。
$X$ をスキーム、$U\subset X$ を開集合とする。$U$ には $X$ の構造層を制限した開部分スキーム $(U,\mathcal O_X|_U)$ の構造が入る。集合 $U$ が単に環の素イデアルの集合と一対一に対応する、というだけでは足りない。位相と構造層を合わせた同型が必要である。
$U$ が $X$ のアフィン開集合であるとは、開部分スキーム $U$ がある可換環 $B$ のアフィンスキーム $\operatorname{Spec}B$ と同型であることをいう。そのとき $B$ は $\Gamma(U,\mathcal O_X)$ と自然に同型であり、通常 $U=\operatorname{Spec}B$ と書く。
ここで $U$ が「$X$ において開」であることと「$U$ 自身がアフィン」であることは別々の条件である。アフィンスキーム $\operatorname{Spec}B$ と同型な閉部分スキームでも、一般には開集合ではない。また、開集合であってもアフィンとは限らない。開部分スキームという一般の概念は開部分スキームに、アフィンスキームそのものはアフィンスキームに詳しい。
定義は周囲のスキームを変えても局所的に扱える。$V\subset X$ が開で $U\subset V$ も開なら、$U$ が $V$ のアフィン開集合であることと $X$ のアフィン開集合であることは同値である。$U$ に入る構造層は $(\mathcal O_X|_V)|_U=\mathcal O_X|_U$ で同じだからである。ただし $U\cap V$ がアフィンかどうかは別問題であり、二つのアフィン開集合の交わりですら一般にはアフィンでない。
「アフィン開集合を持つ」と「全体がアフィン」とも異なる。例えば射影直線は二つのアフィン開集合で覆えるが、全体はアフィンでない。アフィン性は開被覆から単純には貼り合わされない性質である。どの条件の下で貼り合わせや交わりを扱えるかが、この語の使用上の要点となる。
$X=\operatorname{Spec}A$ とし、点を素イデアル $\mathfrak p\subset A$ として表す。$f\in A$ に対し
$$
D(f)=\{\mathfrak p\in\operatorname{Spec}A\mid f\notin\mathfrak p\}
$$
を標準開集合という。閉集合 $V(f)=\{\mathfrak p\mid f\in\mathfrak p\}$ の補集合なので開である。$D(1)=X$、$D(0)=\emptyset$、また $D(f)\cap D(g)=D(fg)$ となる。最後の等式は、素イデアルに $fg$ が入らないことと、$f,g$ の両方が入らないことが同値だから従う。
各 $f\in A$ について、開部分スキーム $D(f)$ は $\operatorname{Spec}A_f$ と自然に同型である。特に $D(f)$ はアフィン開集合で、$\Gamma(D(f),\mathcal O_X)\cong A_f$ となる。
局所化写像 $A\to A_f$ によって、$A_f$ の素イデアルは $f$ を含まない $A$ の素イデアルと一対一に対応する。従って $\operatorname{Spec}A_f$ の点は $D(f)$ の点と対応する。この対応は基本開集合を基本開集合へ移し、位相同型になる。
構造層も確かめる。$D(f)$ の内部で $D(g)\cap D(f)=D(fg)$ は基本開集合である。その上の $X$ の構造層の切断は $A_{fg}$ である。一方、$\operatorname{Spec}A_f$ で $g/1$ が消えない基本開集合の切断は $(A_f)_{g/1}\cong A_{fg}$ である。これらの同型は、基本開集合の包含に伴う制限写像と両立する。基本開集合は位相の基底なので、構造層を含む同型が得られる。特に $g=1$ とすれば $\Gamma(D(f),\mathcal O_X)=A_f$ である。$\square$
例えば $A=k[t]$、$f=t$ なら $D(t)=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ であり、アフィン直線から原点を除いた開集合である。$A=\mathbb Z$ で $f=n$ なら、$D(n)=\operatorname{Spec}\mathbb Z[1/n]$ となる。これらは「元 $f$ を可逆にした環」で開集合を記述する例である。$f$ が零因子でも命題は成り立ち、$A$ に整域性を仮定しない。
標準開集合には包含を計算できる利点がある。$D(g)\subset D(f)$ なら $f$ は $A_g$ のすべての素イデアルを避け、$A_g$ の単元となる。そこで $A_f\to A_g$ が定まり、これは開集合の包含 $D(g)\hookrightarrow D(f)$ に対応する切断の制限写像である。向きは開集合の包含と逆になる。この環の写像を使えば、局所的に与えたデータを重なりで比較できる。
標準開集合が全体を覆う条件も環で表せる。$D(f_1),\ldots,D(f_n)$ が $\operatorname{Spec}A$ を覆うことは、イデアル $(f_1,\ldots,f_n)$ が単位イデアルであることと同値である。一方向には、真のイデアルならそれを含む極大イデアルが被覆から漏れる。逆方向には $1=\sum_i a_if_i$ と書ければ、どの素イデアルもすべての $f_i$ を含むことはできない。この判定によって、アフィン開被覆の位相的な条件を環の有限個の等式へ変換できる。例えば $A=k[x,y]$ で $D(x)$ と $D(y)$ は全体を覆わず、ちょうど $(x,y)$ に対応する点が漏れる。
スキーム $X$ のどの点 $x$ にもアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}A$ がある。さらに $x$ を含む任意の開集合 $W\subset X$ に対して、$x\in D(f)\subset W\cap V$ となる $f\in A$ を選べる。これは標準開集合が $\operatorname{Spec}A$ の位相の基底であるためである。上の命題によって $D(f)$ はアフィン開集合になる。
任意のスキーム $X$ について、アフィン開集合の全体は $X$ の位相の基底をなす。特に、任意の開部分スキームはアフィン開集合の合併である。
開集合 $W\subset X$ と点 $x\in W$ を取る。スキームの定義から $x$ を含むアフィン開近傍 $V=\operatorname{Spec}A$ を取れる。$W\cap V$ は $V$ の開集合だから、$x$ を含み $W\cap V$ に含まれる標準開集合 $D(f)$ が存在する。標準開集合はアフィンで、$X$ の開集合でもある。従って $x\in D(f)\subset W$。すべての $x\in W$ についてこの操作を行えば $W$ はアフィン開集合の合併となり、基底性も従う。$\square$
基底であることは、任意の二つのアフィン開集合の交わり自体がアフィンであることを意味しない。基底の条件は、交わりにある各点の周りにその交わりへ収まる基底要素があるというものである。交わりの全体が基底要素一つになる必要はない。この区別は、一般のスキームの被覆を選ぶときに重要である。
各アフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A$ は準コンパクトでもある。実際、標準開集合による被覆 $U=\bigcup_iD(f_i)$ が与えられると、$f_i$ の生成するイデアルは $A$ 全体になる。さもなければ真のイデアルとしてある極大イデアルに含まれ、その点がどの $D(f_i)$ にも入らないからである。$1=\sum_{j=1}^n a_jf_{i_j}$ と有限和で書けるので、$D(f_{i_1}),\ldots,D(f_{i_n})$ が有限部分被覆を与える。任意の開被覆も標準開集合による被覆へ細分できるので、準コンパクト性が従う。
従って無限個のアフィン開集合の合併がアフィンであるためには、少なくとも有限部分被覆を持たねばならない。ただし有限個で覆えることだけではアフィン性を保証しない。次の二次元の例は、二個の標準開集合で覆えるにもかかわらずアフィンでない。
アフィン開集合の定義には、環が有限生成であるという条件も入っていない。任意の可換環 $A$ に対して $\operatorname{Spec}A$ 自身がアフィン開集合である。例えば無限個の変数を持つ多項式環のスペクトルでも、全体を一枚のアフィン開集合として扱える。アフィンであることと、体の上で有限型であることは別の性質である。個々の幾何学的な議論で有限生成性や Noether 性が要る場合は、その仮定を別に確かめる必要がある。
$k$ を体、$A=k[x,y]$、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。原点に当たる極大イデアル $\mathfrak m=(x,y)$ を除いた
$$
U=X\setminus\{\mathfrak m\}=D(x)\cup D(y)
$$
を考える。右辺の二つは標準開集合なのでアフィンであり、$U$ は準コンパクトな開部分スキームである。しかし $U$ 自身はアフィンでない(StacksSch Example 26.9.3)。
$U=\operatorname{Spec}k[x,y]\setminus\{(x,y)\}$ はアフィンではない。それにもかかわらず、$U$ の大域切断環は $k[x,y]$ に等しい。
$U=D(x)\cup D(y)$ であり、交わりは $D(xy)$ である。層の貼り合わせ条件より、$\Gamma(U,\mathcal O_U)$ は $k[x,y]_x$ と $k[x,y]_y$ の元で、$k[x,y]_{xy}$ への制限が一致する組からなる。これらの環を分数体 $k(x,y)$ に埋め込むと、
$$
\Gamma(U,\mathcal O_U)=k[x,y]_x\cap k[x,y]_y=k[x,y]
$$
となる。最後の等号を確かめるには、共通部分の元を $a/x^m=b/y^n$ と書く。$y^na=x^mb$ であり、$k[x,y]$ は一意分解整域で $x,y$ は互いに素だから $x^m$ は $a$ を割る。よって $a/x^m\in k[x,y]$ である。
包含写像 $U\hookrightarrow X$ は大域切断環の同型 $k[x,y]\to\Gamma(U,\mathcal O_U)$ を誘導する。もし $U$ がアフィンなら、アフィンスキームが自分の大域切断環のスペクトルと自然に同型であることから、この包含写像は同型になる。しかし包含写像の像は原点を欠くので全射ではない。矛盾し、$U$ はアフィンでない。$\square$
この反例は二つの誤解を同時に防ぐ。第一に、アフィン開集合の有限和がアフィンとは限らない。第二に、大域切断環が元のアフィン平面と同じでも、開部分スキーム自体は元の平面と同型とは限らない。環だけから空間を復元できるのは、その空間がアフィンだと分かっている場合である。
一変数の場合との違いも有益である。アフィン直線から原点を除くと $D(t)=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ となりアフィンである。二変数では原点を除いた開集合が $D(x)$ と $D(y)$ の和となり、同じ操作の結果はアフィンでない。「一点を除く」という集合論的な説明だけからアフィン性を推測してはいけない。
一つのアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ の内部の標準開集合については $D(f)\cap D(g)=D(fg)$ であり、交わりもアフィンである。より一般に、周囲のスキーム $X$ が分離的なら、任意の二つのアフィン開集合の交わりがアフィンになる。これは標準開集合の式だけでは説明できず、対角射の閉性を使う。
$X$ が $\operatorname{Spec}\mathbb Z$ 上分離的なスキームで、$U,V\subset X$ がアフィン開集合なら $U\cap V$ はアフィン開集合である。
$U=\operatorname{Spec}A$、$V=\operatorname{Spec}B$ と書く。積 $U\times V$ は $\operatorname{Spec}(A\otimes_{\mathbb Z}B)$ でアフィンである。$X$ が分離的なので、対角射 $\Delta_X:X\to X\times X$ は閉埋め込みである。$U\times V$ 上へ制限した対角射の逆像は $U\cap V$ であり、その $U\times V$ への射も閉埋め込みになる。アフィンスキームの閉部分スキームは、対応する環のイデアルによる商のスペクトルなのでアフィンである。従って $U\cap V$ はアフィンで、$X$ の開集合でもある。$\square$
分離性は十分条件であって、二つのアフィン開集合の交わりが一度アフィンだったから $X$ 全体が分離的だとは言えない。また、相対的な射 $X\to S$ の分離性だけを使う場合は、二つのアフィン開集合の像が $S$ の共通のアフィン開集合に入るという条件を確認する。上の命題は基底を $\operatorname{Spec}\mathbb Z$ とした絶対的な形で述べた(StacksSep Lemma 26.21.7)。
分離性を外すと交わりが非アフィンになる例を作れる。$k$ 上のアフィン平面を二枚用意し、それぞれの原点を除いた開集合 $U$ を恒等写像で貼り合わせる。得られるスキーム $Y$ では二枚の平面の像がアフィン開集合で、その交わりは先に示した非アフィンな $U$ である。これはStacksGlue Example 26.14.3 の二次元の場合である。従って「アフィン開集合の交わりは常にアフィン」という命題は、一般のスキームでは偽である。
ただし非分離的なスキームでは交わりが必ず非アフィンになるわけではない。アフィン直線二枚を原点以外の部分で貼り合わせる「原点を二重にした直線」では、二枚のアフィン開集合の交わりは $D(t)=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ でアフィンである。このスキームは分離的でないが、当該交わりはアフィンである。分離性はすべてのアフィン開集合の組に対する十分条件であり、一組の計算結果と取り違えない。
アフィン開被覆とは、$X=\bigcup_iU_i$ と書けて各 $U_i$ がアフィン開集合である被覆である。どのスキームにもこの被覆は存在するが、被覆の選び方は一意でない。例えば $\operatorname{Spec}A$ 自身を一枚で覆ってもよいし、適切な元 $f_i$ の標準開集合 $D(f_i)$ で細かく覆ってもよい。局所的な環の計算を行う際には、標準開集合への細分により $A_{f_i}$ と制限写像 $A_{f_i}\to A_{f_if_j}$ を直接使える。
被覆が有限であることは全体の準コンパクト性に関わる。$X$ が準コンパクトなら、アフィン開被覆から有限部分被覆を選べる。逆に有限個のアフィン開集合で覆われれば、各アフィン開集合が準コンパクトなので $X$ も準コンパクトである。これは準コンパクト性の特徴づけであり、全体のアフィン性の特徴づけではない。原点を除いたアフィン平面は二枚で覆える反例である。
射 $f:X\to Y$ をアフィン射というときは、$Y$ のアフィン開集合の逆像が $X$ のアフィン開集合になることを要求する(StacksMor Definition 29.11.1)。これは $X$ にアフィン開被覆が存在するという、すべてのスキームが満たす条件より強い。例えば $Y=\operatorname{Spec}k[x,y]$ から原点を除いた $U$ の開埋め込み $j:U\hookrightarrow Y$ は、$Y$ 自身というアフィン開集合の逆像が非アフィンな $U$ なのでアフィン射ではない。開埋め込みとアフィン射は同義ではない。
反対に、$D(f)\hookrightarrow\operatorname{Spec}A$ はアフィン開集合の包含であり、分離的なアフィンスキームのアフィン開集合どうしの交わりがアフィンであることからアフィン射になる。射の性質を調べる際は、定義域のある一枚のアフィン開集合を見つけるだけでなく、対象のアフィン開集合の逆像を調べる必要がある。
射影直線 $\mathbb P^1_k$ は二つのアフィン直線 $\mathbb A^1_k$ で覆え、両者の交わりは $\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ である。それでも $\mathbb P^1_k$ 全体はアフィンでない。大域切断環が $k$ である一方、点は一つではないからである(StacksGlue Example 26.14.4)。この例も、アフィン開被覆による局所表示と全体のアフィン性を区別する。
定義とアフィン開基底、非アフィン開集合の例は StacksSch Section 26.9 にある。標準開集合と局所化は StacksAff Section 26.5、分離的スキームの交わりは StacksSep Lemma 26.21.7、二枚の平面の貼り合わせと射影直線は StacksGlue Section 26.14 を参照した。アフィン射との違いは StacksMor Section 29.11 の定義による。
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