三角形の射影定理

同義語:第一余弦定理projection formula for triangles

概要

三角形の射影定理(projection formula for triangles)とは、三角形 $ABC$ の辺 $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ と角 $A,B,C$ について $a=b\cos C+c\cos B$、$b=c\cos A+a\cos C$、$c=a\cos B+b\cos A$ が成り立つという定理で、第一余弦定理ともいう。$A$ から直線 $BC$ に下ろした垂線の足 $H$ で底辺を分けた長さが $b\cos C$ と $c\cos B$ で、$B$ が鈍角のとき $H$ は辺の外に出るが、$\cos B<0$ により同じ式が成り立つ。辺のベクトルの和が $\vec 0$ であることを直線 $BC$ に正射影して読んだものでもある。3 式から余弦定理が計算だけで出て、逆も成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角比と鈍角への拡張, 三平方の定理(高校数学), 余弦定理(高校数学)

高校での出発点:垂線の足で底辺を 2 つに分ける

三角形 $ABC$ で、頂点 $A,B,C$ の角の大きさを $A,B,C$、向かいの辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ と書く。この記事では、この書き方を断りなく使う。
頂点 $A$ から直線 $BC$ に垂線 $AH$ を下ろすと、底辺 $BC$ は $H$ で 2 つに分かれる。直角三角形 $ABH$、$ACH$ の中で余弦の定義を使うと、2 つの部分の長さは $c\cos B$ と $b\cos C$ になる。まず数値で確かめる。

辺が 13, 14, 15 の三角形

$B(0,0)$、$C(14,0)$、$A(5,12)$ とおく。$c=AB=\sqrt{25+144}=13$、$b=CA=\sqrt{81+144}=15$、$a=BC=14$ である。$A$ から $x$ 軸に下ろした垂線の足は $H(5,0)$ で、$BH=5$、$CH=9$ である。
直角三角形 $ABH$ で $\cos B=\dfrac{BH}{AB}=\dfrac5{13}$、直角三角形 $ACH$ で $\cos C=\dfrac{CH}{CA}=\dfrac9{15}=\dfrac35$ なので
$$ c\cos B=13\cdot\frac5{13}=5=BH,\qquad b\cos C=15\cdot\frac35=9=CH $$
である。したがって
$$ a=\underbrace{b\cos C}_{CH=9}+\underbrace{c\cos B}_{BH=5}=14 $$
が成り立つ(図 1)。

角 B が鈍角の三角形

$B(0,0)$、$C(3,0)$、$A\left(-\dfrac52,\dfrac{5\sqrt3}2\right)$ とおく。$c=AB=\sqrt{\dfrac{25}4+\dfrac{75}4}=5$、$b=CA=\sqrt{\left(\dfrac{11}2\right)^2+\dfrac{75}4}=\sqrt{\dfrac{196}4}=7$、$a=3$ で、$B=120^\circ$ である。
垂線の足は $H\left(-\dfrac52,0\right)$ で、辺 $BC$ の外、$B$ の先にある(図 2)。$BH=\dfrac52$、$CH=\dfrac{11}2$ で、今度は $a=CH-BH=\dfrac{11}2-\dfrac52=3$ と引き算になる。一方、余弦で書くと $\cos B=\cos120^\circ=-\dfrac12$、直角三角形 $ACH$ で $\cos C=\dfrac{CH}{CA}=\dfrac{11/2}7=\dfrac{11}{14}$ なので
$$ b\cos C+c\cos B=7\cdot\frac{11}{14}+5\cdot\left(-\frac12\right)=\frac{11}2-\frac52=3=a $$
である。$c\cos B=-\dfrac52$ が負になって、引き算を自動的に表している。

辺が 13、14、15 の鋭角三角形。A から下ろした垂線の足 H は辺 BC の上にあり、BC は長さ 5 と 9 に分かれる 辺が 13、14、15 の鋭角三角形。A から下ろした垂線の足 H は辺 BC の上にあり、BC は長さ 5 と 9 に分かれる
角 B が 120° の三角形。垂線の足 H は辺 BC の外に出て、BC = CH − BH になる 角 B が 120° の三角形。垂線の足 H は辺 BC の外に出て、BC = CH − BH になる

2 つの例で、鋭角三角形でも鈍角三角形でも $a=b\cos C+c\cos B$ が成り立った。これが 三角形の射影定理 である。$b\cos C$ は辺 $CA$ を直線 $BC$ に正射影した長さ(向き付き)で、名前はここから来る。余弦定理(第二余弦定理とよばれることもある)に対して、第一余弦定理 ともいう。
この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. $a=b\cos C+c\cos B$ はすべての三角形で成り立つか。垂線の足が外に出るときはどうなるか。→ thm-pf-main
  2. ベクトルの言葉ではどう言えるか。→ prop-pf-vector
  3. 余弦定理とどう関係するか。→ thm-pf-equiv
  4. どんな計算に使えるか。→ ex-pf-identity、ex-pf-isosceles
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    $BH=c\cos B$、$CH=b\cos C$正射影の長さ(向き付き)単位ベクトルとの内積
    $a=b\cos C+c\cos B$射影定理正射影の線形性
    3 式から余弦定理射影定理と余弦定理は同値連立 1 次方程式
    $\cos^2A+\cos^2B+\cos^2C+2\cos A\cos B\cos C=1$3 式が同時に成り立つ条件Gram 行列式が $0$

射影定理

三角形の射影定理

三角形 $ABC$ について
$$ a=b\cos C+c\cos B,\qquad b=c\cos A+a\cos C,\qquad c=a\cos B+b\cos A $$
が成り立つ。

3 つの式は頂点の名前を付け替えたものなので、1 つ目の式を示せばよい。高校の図のとおり垂線の足で場合を分ける証明と、座標で場合分けをしない証明の 2 つを示す。

垂線の足の位置で場合を分ける

方針:$A$ から直線 $BC$ に下ろした垂線の足を $H$ とし、$H$ が辺 $BC$ の上にあるか外にあるかで場合を分ける。直角三角形の中の余弦の定義 $\cos\theta=\dfrac{\text{隣辺}}{\text{斜辺}}$ と、鈍角の余弦 $\cos(180^\circ-\theta)=-\cos\theta$(三角比と鈍角への拡張)を使う。
段 1($B$、$C$ がどちらも鋭角)。$H\ne B$ である($H=B$ なら $AB\perp BC$ で $B=90^\circ$)。$H$ は $B$ から $C$ の向きの半直線の上にある。反対側にあると、直角三角形 $ABH$ の $B$ での角が $180^\circ-B>90^\circ$ となり、内角の和が $180^\circ$ を超えるからである。同じ理由で $H\ne C$ で、$H$ は $C$ から $B$ の向きの半直線の上にある。2 つの半直線の共通部分は線分 $BC$ なので、$H$ は $B$ と $C$ の間にあり、$a=BH+CH$ である。直角三角形 $ABH$ で $BH=c\cos B$、直角三角形 $ACH$ で $CH=b\cos C$ なので、$a=b\cos C+c\cos B$ である。
段 2($B$ または $C$ が直角)。$B=90^\circ$ なら $H=B$ で、三角形 $ABC$ は $B$ を直角とする直角三角形である。$\cos C=\dfrac{BC}{CA}=\dfrac ab$ なので $b\cos C=a$、また $\cos B=0$ なので、$b\cos C+c\cos B=a+0=a$ である。$C=90^\circ$ の場合も同じである。
段 3($B$ が鈍角)。このとき $C$ は鋭角である(2 つの角の和が $180^\circ$ 未満なので、鈍角は 1 つまで)。段 1 と同じ理由で、$H$ は $C$ から $B$ の向きの半直線の上にあり、$B$ から $C$ の向きの半直線の上にはない(あると直角三角形 $ABH$ の $B$ での角が鈍角 $B$ になる)。したがって $H$ は $B$ の先にあり、$B$ は $H$ と $C$ の間にあるので $a=CH-BH$ である。直角三角形 $ABH$ の $B$ での角は $180^\circ-B$ なので
$$ BH=c\cos(180^\circ-B)=-c\cos B $$
であり、$CH=b\cos C$ である。よって $a=b\cos C-(-c\cos B)=b\cos C+c\cos B$ である。
段 4($C$ が鈍角)。段 3 で $B$ と $C$、$b$ と $c$ の役を入れかえると、$H$ は $C$ の先にあり、$a=BH-CH=c\cos B-(-b\cos C)=b\cos C+c\cos B$ である。
$B$、$C$ は鋭角・直角・鈍角のどれかであり、直角と鈍角は同時に 2 つ起こらないので、段 1〜段 4 ですべての場合が尽くされる。$\square$

段 3 の式 $BH=-c\cos B$ が要点である。長さ $BH$ は正だが、$\cos B$ が負なので、$c\cos B$ は負の数 $-BH$ になる。「$H$ が辺の外に出て引き算になる」ことを、余弦の符号が引き受けている。座標を使うと、この場合分けがいらなくなる。

座標で 2 通りに書く

方針:点 $A$ の $x$ 座標を、$B$ から見た式と $C$ から見た式の 2 通りに書いて等しいとおく。
段 1($B$ から見る)。$B(0,0)$、$C(a,0)$ とし、$A$ は $x$ 軸より上にあるようにおく。$A$ は原点 $B$ を中心とする半径 $c$ の円の上半分にあり、半直線 $BC$($x$ 軸の正の向き)となす角が $B$ なので、三角比と鈍角への拡張 の定義により $A=(c\cos B,\ c\sin B)$ である。$B$ が鈍角でもこの式は同じである。
段 2($C$ から見る)。左右を入れかえた座標 $x'=a-x$、$y'=y$ を考える。この座標では $C$ が原点、$B$ が $(a,0)$ で、半直線 $CB$ が $x'$ 軸の正の向きになる。段 1 と同じ理由で、$A$ の座標は $(x',y')=(b\cos C,\ b\sin C)$ である。
段 3(比べる)。$A$ の $x$ 座標を 2 通りに書くと、段 1 から $c\cos B$、段 2 から $a-x'=a-b\cos C$ である。よって $c\cos B=a-b\cos C$、つまり $a=b\cos C+c\cos B$ である。$\square$

段 3 で $y$ 座標を比べると $c\sin B=b\sin C$、つまり $\dfrac b{\sin B}=\dfrac c{\sin C}$ が出る。これは 正弦定理(高校数学) の一部である。座標の 2 つの成分から、射影定理と正弦定理が同時に出てくる。

二等辺三角形と直角三角形
  1. 3 辺が $a=6$、$b=c=5$ の二等辺三角形。$A$ から $BC$ に下ろした垂線は $BC$ の中点を通り、$BH=CH=3$ である。$\cos B=\cos C=\dfrac35$ で、$b\cos C+c\cos B=3+3=6=a$ である。残りの式も確かめる。高さは $AH=\sqrt{25-9}=4$ で、余弦定理(高校数学) により $\cos A=\dfrac{25+25-36}{50}=\dfrac7{25}$ なので、$c\cos A+a\cos C=5\cdot\dfrac7{25}+6\cdot\dfrac35=\dfrac75+\dfrac{18}5=5=b$ である。
  2. $C=90^\circ$、$a=3$、$b=4$、$c=5$ の直角三角形。$\cos C=0$ なので 1 つ目の式は $a=c\cos B$、2 つ目の式は $b=c\cos A$ となり、どちらも直角三角形での余弦の定義 $\cos B=\dfrac35$、$\cos A=\dfrac45$ そのものである。3 つ目の式は $c=a\cos B+b\cos A=3\cdot\dfrac35+4\cdot\dfrac45=\dfrac95+\dfrac{16}5=5$ で、斜辺が $C$ から下ろした垂線の足で $\dfrac95$ と $\dfrac{16}5$ に分かれることを表している(三平方の定理(高校数学) の Euclid の証明に出てきた長さ $HB$、$AH$ である)。

ベクトルで見る:正射影の和は $0$

射影定理は「三角形を一周すると元に戻る」ことを、直線 $BC$ の上に映して読んだものでもある。ベクトルの内積(ベクトルの内積(高校数学))を使って述べる。

辺のベクトルの正射影

$\vec e:=\dfrac1a\overrightarrow{BC}$(直線 $BC$ の向きの長さ $1$ のベクトル)とすると
$$ \overrightarrow{BC}\cdot\vec e=a,\qquad \overrightarrow{CA}\cdot\vec e=-b\cos C,\qquad \overrightarrow{AB}\cdot\vec e=-c\cos B $$
であり、3 つの和は $0$ である。したがって $a-b\cos C-c\cos B=0$、つまり $a=b\cos C+c\cos B$ が成り立つ。

一周するベクトルの和に内積をとる

方針:3 つの内積をそれぞれ内積の定義 $\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta$ で計算し、最後に分配法則で足す。
段 1(1 つ目)。$\overrightarrow{BC}=a\vec e$ で $\vec e\cdot\vec e=1$ なので、$\overrightarrow{BC}\cdot\vec e=a$ である。
段 2(2 つ目)。$\overrightarrow{CA}$ と $\overrightarrow{CB}$ のなす角は $C$ なので、$\overrightarrow{CA}\cdot\overrightarrow{CB}=ab\cos C$ である。$\vec e=-\dfrac1a\overrightarrow{CB}$ なので、$\overrightarrow{CA}\cdot\vec e=-\dfrac1a\cdot ab\cos C=-b\cos C$ である。
段 3(3 つ目)。$\overrightarrow{BA}$ と $\overrightarrow{BC}$ のなす角は $B$ なので、$\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}=ca\cos B$ である。$\overrightarrow{AB}=-\overrightarrow{BA}$、$\vec e=\dfrac1a\overrightarrow{BC}$ なので、$\overrightarrow{AB}\cdot\vec e=-\dfrac1a\cdot ca\cos B=-c\cos B$ である。
段 4(和)。$\overrightarrow{BC}+\overrightarrow{CA}+\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{BB}=\vec 0$ なので、内積の分配法則により
$$ \overrightarrow{BC}\cdot\vec e+\overrightarrow{CA}\cdot\vec e+\overrightarrow{AB}\cdot\vec e=\left(\overrightarrow{BC}+\overrightarrow{CA}+\overrightarrow{AB}\right)\cdot\vec e=\vec 0\cdot\vec e=0 $$
である。段 1〜段 3 を代入して $a-b\cos C-c\cos B=0$ を得る。$\square$

角 B が鈍角の三角形の 3 本の辺のベクトルを直線 BC に正射影した図。符号付きの長さは 3、−11/2、5/2 で、和は 0 になる 角 B が鈍角の三角形の 3 本の辺のベクトルを直線 BC に正射影した図。符号付きの長さは 3、−11/2、5/2 で、和は 0 になる
長さ $1$ のベクトル $\vec e$ との内積 $\vec u\cdot\vec e$ は、$\vec u$ を $\vec e$ の向きの直線に正射影した長さに、向きが $\vec e$ と同じなら $+$、反対なら $-$ の符号を付けたものである。図 3 は ex-pf-357 の三角形で、3 本の辺の正射影は $3$、$-\dfrac{11}2$、$\dfrac52$ となり、和は $0$ である。証明の段 4 で使った分配法則は「正射影は足し算を保つ」ということで、射影定理はこの性質を三角形に当てはめたものといえる。正射影の性質は 正射影と射影行列 で詳しく扱う。

射影定理と余弦定理は同値

余弦定理(高校数学) は、三平方の定理を使って証明した。ここでは、射影定理の 3 つの式から余弦定理が代数の計算だけで出ること、逆に余弦定理から射影定理が出ることを示す。$\cos A,\cos B,\cos C$ を文字 $x,y,z$ で置きかえて、計算だけの主張として述べる。

射影定理と余弦定理の同値

正の数 $a,b,c$ と実数 $x,y,z$ について、次の (P) と (L) は同値である。
(P) $a=bz+cy$、$b=cx+az$、$c=ay+bx$
(L) $a^2=b^2+c^2-2bcx$、$b^2=c^2+a^2-2cay$、$c^2=a^2+b^2-2abz$

掛けて足す/解いて代入する

方針:(P) から (L) へは、3 つの式にそれぞれ $a,b,c$ を掛けて足し引きする。(L) から (P) へは、(L) を $x,y,z$ について解いて代入する。
段 1((P) $\Rightarrow$ (L))。(P) の 3 式にそれぞれ $a$、$b$、$c$ を掛けると
$$ a^2=abz+acy,\qquad b^2=bcx+abz,\qquad c^2=acy+bcx $$
である。2 つ目と 3 つ目を足して 1 つ目を引くと
$$ b^2+c^2-a^2=(bcx+abz)+(acy+bcx)-(abz+acy)=2bcx $$
で、これは (L) の 1 つ目の式 $a^2=b^2+c^2-2bcx$ である。残りの 2 式も、足す 2 式と引く 1 式を選び直すと同じ計算で出る($b^2$ なら 1 つ目と 3 つ目を足して 2 つ目を引く)。
段 2((L) $\Rightarrow$ (P))。$a,b,c>0$ なので、(L) を $x,y,z$ について解くと
$$ x=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc},\qquad y=\frac{c^2+a^2-b^2}{2ca},\qquad z=\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab} $$
である。これを代入すると
$$ bz+cy=\frac{a^2+b^2-c^2}{2a}+\frac{c^2+a^2-b^2}{2a}=\frac{2a^2}{2a}=a $$
で、(P) の 1 つ目の式が成り立つ。残りの 2 式も同じ計算である。$\square$

$x=\cos A$、$y=\cos B$、$z=\cos C$ とおくと、(P) は射影定理、(L) は余弦定理である。thm-pf-main は垂線と余弦の定義だけで証明したので、段 1 は三平方の定理を直接使わない余弦定理の証明になっている(prf-pf-perp の中で直角三角形の余弦の定義を使っているので、図形の性質としては同じ土台に立っている)。

辺 3, 5, 7 で確かめる

ex-pf-357 の三角形($a=3$、$b=7$、$c=5$)で、$\cos B=-\dfrac12$、$\cos C=\dfrac{11}{14}$ だった。$\cos A$ は (P) の 2 つ目の式 $b=c\cos A+a\cos C$ から
$$ 7=5\cos A+3\cdot\frac{11}{14},\qquad 5\cos A=7-\frac{33}{14}=\frac{65}{14},\qquad \cos A=\frac{13}{14} $$
と求まる。3 つ目の式も確かめると $a\cos B+b\cos A=-\dfrac32+\dfrac{13}2=5=c$ で合っている。(L) の 2 つ目は $b^2=c^2+a^2-2ca\cos B=25+9-2\cdot5\cdot3\cdot\left(-\dfrac12\right)=34+15=49$ で、$b=7$ と一致する。

3 辺で余弦が決まる

(P) を $x,y,z$ の連立 1 次方程式とみると、prf-pf-equiv の段 2 の値がただ 1 つの解である。実際、(P) を満たす $x,y,z$ があれば、段 1 により (L) を満たし、(L) から $x,y,z$ は段 2 の値に決まる。つまり 3 辺の長さを与えると 3 つの角の余弦が決まり、角も決まる。これは 余弦定理(高校数学) の系「3 辺で角が決まる」と同じ内容である。

使い方:辺と角の関係式を 1 次の式で扱う

射影定理は辺について 1 次の式なので、余弦定理(2 次)に比べて計算が軽いことがある。

恒等式 $a(b\cos C-c\cos B)=b^2-c^2$

すべての三角形で $a(b\cos C-c\cos B)=b^2-c^2$ が成り立つことを示す。
prf-pf-equiv の段 2 の式(余弦定理を解いたもの)から
$$ b\cos C=\frac{a^2+b^2-c^2}{2a},\qquad c\cos B=\frac{c^2+a^2-b^2}{2a} $$
である。引くと
$$ b\cos C-c\cos B=\frac{(a^2+b^2-c^2)-(c^2+a^2-b^2)}{2a}=\frac{2b^2-2c^2}{2a}=\frac{b^2-c^2}a $$
で、両辺に $a$ を掛けて示す式を得る。
図で見ると、鋭角三角形では $b\cos C=CH$、$c\cos B=BH$、$a=CH+BH$ なので、左辺は $(CH+BH)(CH-BH)=CH^2-BH^2$ である。三平方の定理から $CH^2=b^2-AH^2$、$BH^2=c^2-AH^2$ なので、差は $b^2-c^2$ になる。
数値では、ex-pf-131415 の三角形で $a(b\cos C-c\cos B)=14\cdot(9-5)=56$、$b^2-c^2=225-169=56$ である。

$b\cos C=c\cos B$ となる三角形

三角形 $ABC$ で $b\cos C=c\cos B$ となるのは、$b=c$ のとき、かつそのときに限ることを示す。
($\Rightarrow$) $b\cos C=c\cos B$ なら、ex-pf-identity の恒等式の左辺が $0$ なので $b^2-c^2=0$ で、$b,c>0$ より $b=c$ である。図で言えば、thm-pf-main により $b\cos C=c\cos B=\dfrac a2>0$ で、垂線の足 $H$ が辺 $BC$ の中点にある。$AH$ は $BC$ の垂直二等分線になり、$AB=AC$ となる。
($\Leftarrow$) $b=c$ なら二等辺三角形の底角は等しいので $B=C$ で、$b\cos C=c\cos B$ である。
ex-pf-small の (1)($a=6$、$b=c=5$)では $b\cos C=c\cos B=3$ である。ex-pf-131415 では $b\cos C=9$、$c\cos B=5$ で等しくなく、確かに $b\ne c$ である。このように、辺と角の関係式から三角形の形を決める問題は、次の 三角形の形状決定 で扱う。

射影定理・余弦定理・正弦定理を比べる。

射影定理余弦定理正弦定理
式$a=b\cos C+c\cos B$$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A$$\dfrac a{\sin A}=2R$
辺について1 次2 次1 次(比)
図形の意味底辺を垂線の足で分ける三平方の定理の補正外接円の直径
主な使い道辺と角の混じった式を辺の 1 次式にする2 辺と間の角から辺、3 辺から角1 辺と 2 角から辺、外接円の半径 $R$
証明の道具垂線と余弦の定義(または座標)三平方の定理(または座標)円周角の定理

例と反例

ex-pf-small の (2) のように、$C=90^\circ$ では $b\cos C$ の項が消えて、射影定理は直角三角形での余弦の定義に戻る。次の表は、射影定理が崩れる読み方と場面である。

外す条件反例成り立たなくなること
正射影の長さを符号付きで測るex-pf-357 の三角形で $BH$ を正の長さのまま足す$a=BH+CH$
平面の上で考える単位球面の上の直角三角形$a=b\cos C+c\cos B$
反例:長さをいつも足すと崩れる

ex-pf-357 の三角形($a=3$、$B=120^\circ$)で、「底辺は垂線の足で 2 つに分かれるから $a=BH+CH$」とすると、$BH+CH=\dfrac52+\dfrac{11}2=8\ne3$ となって崩れる。同じく、余弦の値の代わりに絶対値を使って $b\lvert\cos C\rvert+c\lvert\cos B\rvert=\dfrac{11}2+\dfrac52=8$ としても合わない。垂線の足が辺の外に出るときは引き算になり、その引き算を表すのが $\cos B<0$ である。prf-pf-perp の段 3 がこの場合である。

反例:球面の上の直角三角形

原点を中心とする半径 $1$ の球面の上で、$C(1,0,0)$、$A\left(\dfrac1{\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2},0\right)$、$B\left(\dfrac1{\sqrt2},0,\dfrac1{\sqrt2}\right)$ を頂点とする三角形を考える。辺は球面に沿った大円の弧で、長さは中心角で測る。$CA$、$CB$ の長さは $\dfrac\pi4$、$C$ の角は直角で、$\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OB}=\dfrac12$ から斜辺は $c=\dfrac\pi3$ である(この三角形は 三平方の定理(高校数学) の反例と同じもの)。$A$、$B$ の角は、頂点での大円の弧の向きのなす角として計算すると、どちらも $\cos A=\cos B=\dfrac1{\sqrt3}$(約 $54.74^\circ$)である。
平面の射影定理が成り立つなら、$C=90^\circ$ なので $a=c\cos B$ となるはずだが
$$ c\cos B=\frac\pi3\cdot\frac1{\sqrt3}\approx0.6046,\qquad a=\frac\pi4\approx0.7854 $$
で一致しない。3 つ目の式 $c=a\cos B+b\cos A$ も、右辺 $\approx0.9069$、左辺 $\approx1.0472$ で合わない。prf-pf-perp は直角三角形の余弦の定義(隣辺と斜辺の比)を使ったが、球面の直角三角形では「隣辺÷斜辺」が角の余弦にならない。

球面の三角形の角の計算を開く

頂点 $B$ での角は、$B$ から $C$、$A$ へ向かう大円の弧が $B$ で出ていく向きのなす角である。$B$ から $C$ への向きは $\overrightarrow{OC}$ から $\overrightarrow{OB}$ 方向の成分を除いた $\vec t_C=\overrightarrow{OC}-(\overrightarrow{OC}\cdot\overrightarrow{OB})\overrightarrow{OB}=\left(\dfrac12,0,-\dfrac12\right)$、$A$ への向きは $\vec t_A=\overrightarrow{OA}-(\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OB})\overrightarrow{OB}=\left(\dfrac1{2\sqrt2},\dfrac1{\sqrt2},-\dfrac1{2\sqrt2}\right)$ である($\overrightarrow{OC}\cdot\overrightarrow{OB}=\dfrac1{\sqrt2}$、$\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OB}=\dfrac12$)。$\vec t_C\cdot\vec t_A=\dfrac1{4\sqrt2}+\dfrac1{4\sqrt2}=\dfrac1{2\sqrt2}$、$\lvert\vec t_C\rvert^2=\dfrac12$、$\lvert\vec t_A\rvert^2=\dfrac18+\dfrac12+\dfrac18=\dfrac34$ なので、$\cos B=\dfrac{1/(2\sqrt2)}{\sqrt{1/2}\cdot\sqrt{3/4}}=\dfrac{1/(2\sqrt2)}{\sqrt3/(2\sqrt2)}=\dfrac1{\sqrt3}$ となる。$A$ と $B$ は $y$ 座標と $z$ 座標を入れかえると移り合うので、$\cos A=\dfrac1{\sqrt3}$ でもある。

大学数学で見る:3 つの式が同時に成り立つ条件

行列式と余弦の恒等式

射影定理の 3 式を、$a,b,c$ を未知数とする連立 1 次方程式とみる。
$$ \begin{pmatrix}-1&\cos C&\cos B\\ \cos C&-1&\cos A\\ \cos B&\cos A&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\ b\\ c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\ 0\\ 0\end{pmatrix} $$
(1 行目は $-a+b\cos C+c\cos B=0$、つまり $a=b\cos C+c\cos B$ である。)三角形の辺 $(a,b,c)$ は $(0,0,0)$ でない解なので、係数の行列の行列式は $0$ でなければならない(行列式が $0$ でない正方行列は逆行列をもち、両辺に左から逆行列を掛けると解は $(0,0,0)$ だけになる。この事実はここでは証明しない。正則行列、連立1次方程式)。行列式を計算すると次の恒等式になる。
$$ \cos^2A+\cos^2B+\cos^2C+2\cos A\cos B\cos C=1 $$

行列式の計算と、Gram 行列としての見方を開く

1 行目で展開する($3\times3$ 行列の行列式の Sarrus の方法でも同じ)。$$\det=-1\cdot\bigl((-1)(-1)-\cos^2A\bigr)-\cos C\bigl(\cos C\cdot(-1)-\cos A\cos B\bigr)+\cos B\bigl(\cos C\cos A-(-1)\cos B\bigr)$$ $$=-1+\cos^2A+\cos^2C+\cos A\cos B\cos C+\cos A\cos B\cos C+\cos^2B$$ で、これが $0$ であることが恒等式である。

数値で確かめる。ex-pf-131415 の三角形では $\cos A=\dfrac{33}{65}$、$\cos B=\dfrac{25}{65}$、$\cos C=\dfrac{39}{65}$ で、$\dfrac{1089+625+1521}{4225}+\dfrac{2\cdot33\cdot25\cdot39}{274625}=\dfrac{3235}{4225}+\dfrac{64350}{274625}=\dfrac{210275+64350}{274625}=1$ である。

行列にマイナスを掛けた行列の成分は、長さ $1$ のベクトル $\vec e_1=\dfrac1a\overrightarrow{BC}$、$\vec e_2=\dfrac1b\overrightarrow{CA}$、$\vec e_3=\dfrac1c\overrightarrow{AB}$ どうしの内積である(たとえば $\vec e_1\cdot\vec e_2=\cos(180^\circ-C)=-\cos C$)。このようにベクトルどうしの内積を並べた行列を Gram 行列という(Gram行列)。平面の 3 つのベクトルは $a\vec e_1+b\vec e_2+c\vec e_3=\vec 0$ のように 1 次従属になるので、Gram 行列の行列式は $0$ になる。prop-pf-vector は、この 1 次従属の関係式と $\vec e_1$ との内積をとったものである。

この恒等式は、$A+B+C=180^\circ$ を満たす角について、加法定理を使って直接確かめることもできる(ここでは証明しない)。大学では、余弦定理(高校数学) の「大学数学で見る」の Gram 行列式と面積の話と合わせて、ベクトルの組の「体積」を内積で測る道具として Gram 行列を使う。

さらに先へ

  • 射影定理は「辺と角の混じった関係式を辺だけの式にする」ときに便利である。$a\cos A=b\cos B$ のような条件から三角形の形を決める問題は 三角形の形状決定 で扱う。
  • 正射影の長さを符号付きで測ることは、空間の図形でも同じように使える。面の正射影で面積が $\cos\theta$ 倍になることは 正射影と面積 で、正射影を行列で表すことは 正射影と射影行列 で扱う。
  • Euclid『原論』第 II 巻の命題 12・13 は、余弦を使わずに、鈍角・鋭角の三角形で辺の 2 乗の差を「辺と正射影の長さの積の 2 倍」で表している(Hea56)。射影定理の $BH$、$CH$ にあたる長さがそのまま出てくる。

関連項目

参考文献

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