立体射影

同義語:ステレオ射影stereographic projection

概要

立体射影(stereographic projection)とは、単位球面 $S^n$ から北極 $N$ を除いた部分の点 $x$ を、$N$ と $x$ を通る直線が赤道を含む超平面と交わる点に写す写像 $x\mapsto x'/(1-x_{n+1})$ のことである。全単射で逆写像も連続であり、北極を無限遠点に対応させると球面と $\mathbb{R}^n\cup\{\infty\}$ が同一視される。立体射影は北極を中心とする半径 $\sqrt2$ の球面に関する反転の制限であり、そのため角を保ち、球面の超平面による切り口を球面または超平面に写す($n=2$ では円を円または直線に写す)。長さと面積は保たない。有理点を有理点に写すので、$a^2+b^2+c^2=d^2$ などの整数解の表示にも使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: n次元球面, Euclid空間, 同相写像

球面の北極に光源を置き、球面上の点の影を赤道を含む平面に落とす。この「影をとる」写像が 立体射影 である。北極だけは影をもたないので、立体射影は北極を除いた球面から平面への写像であり、実は全単射で、逆写像も連続である。北極を「無限遠点」に対応させると、球面全体が平面に一点を付け加えたものと同一視できる。複素解析の Riemann球面、球面の多様体としての座標、共形変換の基本例は、どれもこの写像から来ている。
立体射影は、北極を中心とする半径 $\sqrt2$ の球面に関する 反転 を球面に制限したものである。本記事ではこの事実を証明し、そこから、立体射影が角を保つこと、2 点間の距離の変わり方の公式、球面の超平面による切り口が球面か超平面に写ること、有理点が有理点に対応することを導く。

定義

$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^{n+1}$ の点を $x=(x',x_{n+1})$($x'\in\mathbb{R}^n$)と書く。単位球面を $S^n:=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid |x|=1\}$、北極を $N:=(0,\dots,0,1)$、南極を $S:=(0,\dots,0,-1)$ とし、$\mathbb{R}^n$ を超平面 $\{x_{n+1}=0\}$ と $y\leftrightarrow(y,0)$ で同一視する。

立体射影

$x\in S^n\setminus\{N\}$ に対し、$N$ と $x$ を通る直線が超平面 $\{x_{n+1}=0\}$ と交わる点を $\sigma(x)\in\mathbb{R}^n$ とする。こうして定まる写像
$$ \sigma\colon S^n\setminus\{N\}\to\mathbb{R}^n,\qquad \sigma(x)=\frac{x'}{1-x_{n+1}} $$
を、北極からの 立体射影(stereographic projection)という。南極からの立体射影 $\sigma_S\colon S^n\setminus\{S\}\to\mathbb{R}^n$ も同様に定め、$\sigma_S(x)=x'/(1+x_{n+1})$ である。

式は次のように求まる。$N$ と $x$ を通る直線の点は $N+t(x-N)$($t\in\mathbb{R}$)であり、その第 $n+1$ 座標 $1+t(x_{n+1}-1)$ が $0$ になるのは $t=1/(1-x_{n+1})$ のときである($x\ne N$ なので $x_{n+1}<1$)。このときの最初の $n$ 座標が $x'/(1-x_{n+1})$ である。
$\sigma$ は全単射であり、逆写像は
$$ \sigma^{-1}(y)=\frac{1}{|y|^2+1}\bigl(2y,\ |y|^2-1\bigr)\qquad(y\in\mathbb{R}^n) $$
で与えられる。$\sigma$ と $\sigma^{-1}$ はどちらも分母が $0$ にならない有理式なので連続であり、$\sigma$ は同相写像である。この式と同相性、および二つの立体射影の座標変換 $\sigma_S\circ\sigma^{-1}(y)=y/|y|^2$($y\ne0$)は 多様体 の記事の命題「球面の座標近傍」にある。逆写像の式は thm-stereo-inversion からも導かれる。さらに $\sigma$ を $\sigma(N):=\infty$ で延ばすと、$S^n$ から $\mathbb{R}^n$ の一点コンパクト化 $\mathbb{R}^n\cup\{\infty\}$ への同相写像になる(n次元球面 の記事の命題「Euclid 空間の一点コンパクト化」)。

直感

北極の近くの点ほど影は遠くへ伸び、北極に近づく点の影は無限遠へ逃げていく。赤道上の点は動かず、南半球は赤道の内側(単位球の内部)に、北半球は外側に写る。影をとる操作は長さも面積も変えるが、角は変えず、球面上の円を平面上の円または直線に写す。これらの性質は、立体射影が「反転」という角を保つ写像の一部であることから一度に説明できる。

例

円周の立体射影

$n=1$ のとき、$S^1$ の点 $(\cos\theta,\sin\theta)$($\sin\theta\ne1$)について
$$ \sigma(\cos\theta,\sin\theta)=\frac{\cos\theta}{1-\sin\theta}=\tan\Bigl(\frac{\theta}{2}+\frac{\pi}{4}\Bigr) $$
である。逆写像は $\sigma^{-1}(t)=\bigl(2t/(t^2+1),\ (t^2-1)/(t^2+1)\bigr)$ で、$t$ が $\mathbb{R}$ 全体を動くと、この点は北極以外の $S^1$ の点をちょうど 1 回ずつ通る。

正接の式の確かめを開く

$c:=\cos(\theta/2)$、$s:=\sin(\theta/2)$ とおくと、$\cos\theta=c^2-s^2=(c-s)(c+s)$、$1-\sin\theta=c^2+s^2-2cs=(c-s)^2$ なので、$\cos\theta/(1-\sin\theta)=(c+s)/(c-s)$ である。$c-s\ne0$ として分母分子を $c$ で割ると $(1+\tan(\theta/2))/(1-\tan(\theta/2))=\tan(\theta/2+\pi/4)$ である($c=0$ のときは $(c+s)/(c-s)=-1=\tan(\theta/2+\pi/4)$ を直接確かめる)。

緯線と経線

$n=2$ とする。高さ $h$($-1\le h<1$)の緯線 $\{x\in S^2\mid x_3=h\}$ の点は $|x'|^2=1-h^2$ を満たすので、
$$ |\sigma(x)|^2=\frac{1-h^2}{(1-h)^2}=\frac{1+h}{1-h} $$
となり、緯線は原点を中心とする半径 $\sqrt{(1+h)/(1-h)}$ の円に写る。赤道($h=0$)は単位円に、南極($h=-1$)は原点に写る。北極と南極を通る大円(経線)の $N$ 以外の点は、$x'$ の向きが一定なので、原点を通る直線の上に写る。緯線と経線は球面上で直交し、像の同心円と放射状の直線も直交する。これは cor-stereo-conformal の例である。

対蹠点と南極からの射影

$x\in S^n\setminus\{N,S\}$、$y:=\sigma(x)$ とする。南極からの射影との関係 $\sigma_S(x)=y/|y|^2$(多様体 の記事の命題「球面の座標近傍」の座標変換)と $\sigma(-x)=-x'/(1+x_{n+1})=-\sigma_S(x)$ から、対蹠点 $-x$ の像は
$$ \sigma(-x)=-\frac{y}{|y|^2} $$
である。すなわち $y$ と $\sigma(-x)$ は原点をはさんで反対側にあり、原点からの距離の積が $1$ になる。

反転としての立体射影

$c\in\mathbb{R}^{n+1}$、$r>0$ について、中心 $c$、半径 $r$ の球面に関する 反転 を
$$ \iota_{c,r}(z):=c+\frac{r^2}{|z-c|^2}(z-c)\qquad(z\ne c) $$
で定める。$\iota_{c,r}(z)$ は $c$ から $z$ へ向かう半直線上にあり、$|\iota_{c,r}(z)-c|\cdot|z-c|=r^2$ を満たす。したがって $\iota_{c,r}\circ\iota_{c,r}$ は恒等写像であり、$\iota_{c,r}$ は $\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{c\}$ の全単射で、自分自身が逆写像である。$n+1=2$ の場合が 円による反転 である。

立体射影は反転の制限である

$\iota:=\iota_{N,\sqrt2}$ を、北極 $N$ を中心とする半径 $\sqrt2$ の球面に関する反転とする。

  1. $x\in S^n\setminus\{N\}$ について $\iota(x)=(\sigma(x),0)$ である。
  2. $y\in\mathbb{R}^n$ について $\iota(y,0)=\dfrac{1}{|y|^2+1}\bigl(2y,\ |y|^2-1\bigr)\in S^n\setminus\{N\}$ である。
  3. $\iota$ は $S^n\setminus\{N\}$ を超平面 $\{x_{n+1}=0\}$ の上へ全単射に写し、$\sigma$ の逆写像は $y\mapsto\iota(y,0)$ である。
北極からの距離を計算する

1:$x\in S^n$ なので $|x-N|^2=|x|^2-2x_{n+1}+1=2(1-x_{n+1})$ である。よって
$$ \iota(x)=N+\frac{2}{2(1-x_{n+1})}(x-N)=N+\frac{x-N}{1-x_{n+1}} $$
であり、その第 $n+1$ 座標は $1+(x_{n+1}-1)/(1-x_{n+1})=0$、最初の $n$ 座標は $x'/(1-x_{n+1})=\sigma(x)$ である。
2:$|(y,0)-N|^2=|y|^2+1$ なので
$$ \iota(y,0)=N+\frac{2}{|y|^2+1}(y,-1)=\Bigl(\frac{2y}{|y|^2+1},\ 1-\frac{2}{|y|^2+1}\Bigr)=\frac{1}{|y|^2+1}\bigl(2y,\ |y|^2-1\bigr) $$
である。$|2y|^2+(|y|^2-1)^2=(|y|^2+1)^2$ なのでこの点は $S^n$ 上にあり、第 $n+1$ 座標が $1$ より小さいので $N$ ではない。
3:1 により $\iota$ は $S^n\setminus\{N\}$ を超平面に写し、2 により超平面を $S^n\setminus\{N\}$ に写す。$\iota\circ\iota$ は恒等写像なので、この二つの写像は互いに逆である。とくに $y\in\mathbb{R}^n$ について $x:=\iota(y,0)$ とおくと、1 により $(\sigma(x),0)=\iota(x)=(y,0)$ なので $\sigma(\iota(y,0))=y$ であり、$x\in S^n\setminus\{N\}$ について $\iota(\sigma(x),0)=\iota(\iota(x))=x$ である。$\square$

反転の中心 $N$ は $S^n$ の上にあり、中心を通る球面は反転で超平面に写る。赤道 $\{x\in S^n\mid x_{n+1}=0\}$ の点は $|x-N|^2=2$ を満たすので反転で動かない。これが「赤道上の点は動かない」ことの理由である。

角と長さ

立体射影は角を保つ

$x\in S^n\setminus\{N\}$ と $x$ における接ベクトル $v,w$($v\cdot x=w\cdot x=0$)について、$\sigma$ の微分 $d\sigma_x$ は
$$ d\sigma_x(v)\cdot d\sigma_x(w)=\frac{1}{(1-x_{n+1})^2}\,v\cdot w $$
を満たす。とくに $\sigma$ は接ベクトルのなす角を保つ。逆写像については、$y\in\mathbb{R}^n$ で $|d\sigma^{-1}_y(u)|=\dfrac{2}{1+|y|^2}|u|$ である。

反転の微分は相似

$\iota_0(u):=u/|u|^2$ とおくと $\iota(z)=N+2\,\iota_0(z-N)$ である。$\iota_0$ の微分は $|d(\iota_0)_u(w)|=|w|/|u|^2$ を満たす(共形変換 の記事の例「反転」)。よって $|d\iota_z(w)|=2|w|/|z-N|^2$ であり、$z=x\in S^n$ では $|x-N|^2=2(1-x_{n+1})$ から倍率は $1/(1-x_{n+1})$ である。thm-stereo-inversion の 1 により、$S^n\setminus\{N\}$ 上で $\sigma$ は $\iota$ の制限なので、接ベクトル $v$ について $d\sigma_x(v)=d\iota_x(v)$ である。長さを一定倍する線形写像は内積をその 2 乗倍する($a\cdot b=\tfrac14(|a+b|^2-|a-b|^2)$ による)ので、主張の式を得る。逆写像については、$x=\sigma^{-1}(y)$ で $1-x_{n+1}=2/(|y|^2+1)$ なので倍率はその逆数 $2/(1+|y|^2)$ である。$\square$

逆写像についての式は、$\mathbb{R}^n$ の計量で表すと $S^n$ の計量の引き戻しが $4(1+|y|^2)^{-2}$ 倍の Euclid 計量になるということであり、共形変換 の記事の例「ステレオ射影」では同じ式が直接の計算で示されている。$n=2$ の角の保存は Hit18 Theorem 3.3.5 に(証明なしで)述べられており、一般の $n$ の計算は Mic08 の 23.7(p. 296)にある。
倍率 $2/(1+|y|^2)$ は $y$ によって変わるので、立体射影は長さも面積も保たない。$n=2$ で面積の倍率はその 2 乗 $4/(1+|y|^2)^2$ であり、極座標で積分すると
$$ \int_0^\infty\frac{4}{(1+r^2)^2}\,2\pi r\,dr=4\pi\Bigl[-\frac{1}{1+r^2}\Bigr]_0^\infty=4\pi $$
となって、単位球面の面積 $4\pi$ が再現される。長さの変わり方は、2 点の間の距離についても正確に書ける。

弦の長さの公式

$x,\tilde x\in S^n\setminus\{N\}$、$y:=\sigma(x)$、$\tilde y:=\sigma(\tilde x)$ とすると
$$ |x-\tilde x|=\frac{2\,|y-\tilde y|}{\sqrt{(1+|y|^2)(1+|\tilde y|^2)}},\qquad |x-N|=\frac{2}{\sqrt{1+|y|^2}} $$
である。

反転の距離の公式を使う

中心 $c$、半径 $r$ の反転について、$c$ と異なる 2 点 $z,w$ に対し
$$ |\iota_{c,r}(z)-\iota_{c,r}(w)|=\frac{r^2\,|z-w|}{|z-c|\,|w-c|} $$
が成り立つ。$c,z,w$ を含む平面(3 点が一直線上にあればその直線を含む平面)は反転で自分自身に写り、そこでの反転は円による反転なので、これは 円による反転 の記事の命題「反転と距離の公式」である。thm-stereo-inversion により $x=\iota(y,0)$、$\tilde x=\iota(\tilde y,0)$ であり、$|(y,0)-N|^2=1+|y|^2$ なので、$r^2=2$ を代入して前半を得る。後半は $|\iota(z)-N|\cdot|z-N|=2$ を $z=(y,0)$ に使えばよい。$\square$

右辺を $\mathbb{R}^n\cup\{\infty\}$ の 2 点の距離と定めると($\infty$ との距離は $2/\sqrt{1+|y|^2}$)、延長した立体射影は球面の弦の長さを保つ写像になる。この距離を使うと、無限遠点を含めて点の近さや収束を測ることができる。たとえば $|y|\to\infty$ のとき $y$ と $\infty$ の距離 $2/\sqrt{1+|y|^2}$ は $0$ に近づく。

球面の切り口の像

超平面による切り口の像

$a=(a',a_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}$、$c\in\mathbb{R}$ で $|c|<|a|$ とし、超平面 $H:=\{x\mid a\cdot x=c\}$ と $S^n$ の共通部分 $\Gamma:=S^n\cap H$ を考える。

  1. $N\in H$(すなわち $a_{n+1}=c$)なら $a'\ne0$ であり、$\sigma(\Gamma\setminus\{N\})$ は $\mathbb{R}^n$ の超平面 $\{y\mid a'\cdot y=c\}$ である。
  2. $N\notin H$ なら、$\sigma(\Gamma)$ は中心 $-a'/(a_{n+1}-c)$、半径 $\sqrt{|a|^2-c^2}/|a_{n+1}-c|$ の $\mathbb{R}^n$ の球面である。
  3. 逆に、$\mathbb{R}^n$ の超平面と正の半径の球面は、どれもこのようにして得られる。

条件 $|c|<|a|$ は、原点から $H$ までの距離 $|c|/|a|$ が $1$ より小さいこと、すなわち $H$ が $S^n$ と 2 点以上で交わることを意味する。

逆写像を超平面の式に代入する

$\sigma$ は $S^n\setminus\{N\}$ から $\mathbb{R}^n$ への全単射なので、$\sigma(\Gamma\setminus\{N\})$ は $\sigma^{-1}(y)\in H$ となる $y$ の全体である。$\sigma^{-1}(y)=(2y,|y|^2-1)/(|y|^2+1)$ を $a\cdot x=c$ に代入して分母を払うと
$$ 2\,a'\cdot y+a_{n+1}(|y|^2-1)=c\,(|y|^2+1),\quad\text{すなわち}\quad(a_{n+1}-c)|y|^2+2\,a'\cdot y-(a_{n+1}+c)=0 $$
となる。$a\cdot N=a_{n+1}$ なので、$N\in H$ は $a_{n+1}=c$ と同値である。
1:$a_{n+1}=c$ なら式は $2a'\cdot y-2c=0$ である。$a'=0$ とすると $|a|=|a_{n+1}|=|c|$ となり仮定に反するので $a'\ne0$ であり、これは超平面の方程式である。
2:$a_{n+1}\ne c$ なら $N\notin\Gamma$ で、両辺を $a_{n+1}-c$ で割って平方完成すると
$$ \Bigl|y+\frac{a'}{a_{n+1}-c}\Bigr|^2=\frac{a_{n+1}+c}{a_{n+1}-c}+\frac{|a'|^2}{(a_{n+1}-c)^2}=\frac{a_{n+1}^2-c^2+|a'|^2}{(a_{n+1}-c)^2}=\frac{|a|^2-c^2}{(a_{n+1}-c)^2} $$
となる。右辺は正なので、これは主張の中心と半径の球面である。
3:超平面 $\{y\mid b\cdot y=c\}$($b\ne0$)は、$a:=(b,c)$ とおけば $a_{n+1}=c$ で $|a|^2-c^2=|b|^2>0$ なので、1 により得られる。中心 $p$、半径 $\rho>0$ の球面 $|y-p|^2=\rho^2$、すなわち $|y|^2-2p\cdot y+|p|^2-\rho^2=0$ は、
$$ a':=-p,\qquad a_{n+1}:=\frac{1-|p|^2+\rho^2}{2},\qquad c:=\frac{-1-|p|^2+\rho^2}{2} $$
とおくと $a_{n+1}-c=1$、$a_{n+1}+c=\rho^2-|p|^2$ なので、代入した式に一致する。このとき $|a|^2-c^2=|p|^2+(a_{n+1}-c)(a_{n+1}+c)=\rho^2>0$ である。$\square$

$n=2$ では $\Gamma$ は球面上の円であり、この定理は「立体射影は球面上の円を平面上の円または直線に写し、直線になるのは円が北極を通るときに限る」という主張になる。$n=2$ の場合の証明は Riemann球面 の記事の定理「立体射影は円を円に写す」にもあり、Bec25 Theorem 3.3.4 にあたる。

円の中心は中心に写らない

$n=2$ で、$S^2$ と平面 $x_1=1/2$ の共通部分の円 $\Gamma$ を考える($a=(1,0,0)$、$c=1/2$)。thm-stereo-spheres の 2 により、$\sigma(\Gamma)$ は中心 $(2,0)$、半径 $\sqrt{1-1/4}/(1/2)=\sqrt3$ の円である。実際、$\Gamma$ の点 $(1/2,0,\pm\sqrt3/2)$ は $2\pm\sqrt3$ に写り、どちらも $(2,0)$ から距離 $\sqrt3$ にある。一方、$\Gamma$ の球面上の中心($\Gamma$ 上の点から球面上で等距離にある 2 点のうち $\Gamma$ に近い方)$(1,0,0)$ は $(1,0)$ に写り、像の円の中心 $(2,0)$ とは一致しない。立体射影は円を円に写すが、中心を中心に写すとは限らない。

有理点

有理点の対応

$\sigma$ は、$S^n$ の有理点(座標がすべて有理数の点)のうち北極以外のものの全体を、$\mathbb{Q}^n$ の上へ全単射に写す。

有理式の係数が有理数

$x\in S^n\setminus\{N\}$ の座標が有理数なら、$\sigma(x)=x'/(1-x_{n+1})$ の座標も有理数である。逆に $y\in\mathbb{Q}^n$ なら、$\sigma^{-1}(y)=(2y,|y|^2-1)/(|y|^2+1)$ の座標も有理数である。$\sigma$ は全単射なので、有理点どうしの全単射を与える。$\square$

$n=2$ で $y=(p/q,\,s/q)$($p,s,q$ は整数、$q\ne0$)とおいて分母を払うと、
$$ (2pq)^2+(2sq)^2+(p^2+s^2-q^2)^2=(p^2+s^2+q^2)^2 $$
という恒等式が得られ、$a^2+b^2+c^2=d^2$ の整数解が作れる。$(p,s,q)=(1,1,1)$ で $2^2+2^2+1^2=3^2$、$(1,2,1)$ で $2^2+4^2+4^2=6^2$ である。$n=1$ の場合は単位円の有理点とピタゴラス数の対応であり、ピタゴラス数と円の有理点 の記事で、点 $(-1,0)$ を通る直線を使って扱われている。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
射影の中心が球面上にある球の中心からの射影(心射図法)角を保つ
中心とする点を球面から除く$S^n$ 全体と $\mathbb{R}^n$球面から平面への同相写像がある
中心を通る直線で射影する直交射影 $(x',x_{n+1})\mapsto x'$単射であること・角を保つこと
反例の確認
  1. 球の中心からの射影。$n=2$ で、南半球 $\{x_3<0\}$ の点 $x$ を、原点と $x$ を通る直線が平面 $x_3=-1$ と交わる点に写す($x\mapsto -x'/x_3$)。南極からの角 $\varphi$($0\le\varphi<\pi/2$)の緯線は半径 $\tan\varphi$ の円に写るので、緯線方向の長さの倍率は $\tan\varphi/\sin\varphi=1/\cos\varphi$、経線方向の倍率は $d(\tan\varphi)/d\varphi=1/\cos^2\varphi$ である。$0<\varphi<\pi/2$ でこの二つは異なるので、直交する 2 方向の倍率が違い、角を保たない(たとえば緯線と経線に対して斜め $45^\circ$ の方向は、像では $45^\circ$ にならない)。満たす性質は「直線に沿って平面へ射影する」こと、満たさない性質は「射影の中心が球面上にある」ことである。
  2. 球面全体。$S^n$ は $\mathbb{R}^{n+1}$ の有界閉集合なのでコンパクトであり、$\mathbb{R}^n$ はコンパクトでない(コンパクト空間 の記事の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」)。コンパクト性は同相写像で保たれるので、$S^n$ と $\mathbb{R}^n$ は同相でない。1 点を除くこと、または $\mathbb{R}^n$ に無限遠点を付け加えることが必要である。
  3. 直交射影。$(x',x_{n+1})\mapsto x'$ は $x$ と $(x',-x_{n+1})$ を同じ点に写すので単射でない。南半球に制限すれば単射であるが、赤道に近い点で経線方向の長さが $|x_{n+1}|$ 倍に縮み、緯線方向は縮まないので、角を保たない。満たす性質は「平面への射影である」こと、満たさない性質は「北極を通る直線に沿って射影する」ことである。

補足

流儀の違い

射影先の平面を赤道を含む平面 $\{x_{n+1}=0\}$ にとる本記事の流儀(Bec25 Definition 3.3.1、Hit18 §3.3)のほかに、南極で球面に接する平面 $\{x_{n+1}=-1\}$ にとる流儀もある。後者の像は前者の像の $2$ 倍であり(北極からの距離が $2$ 倍の平面で直線を切るため)、式の係数が変わるが、角を保つこと、円を円または直線に写すことは変わらない。Mic08 の 1.2(p. 2)は、単位ベクトル $a$ に直交する超平面への $a$ からの射影 $x\mapsto(x-\langle x,a\rangle a)/(1-\langle x,a\rangle)$ として、任意の点を中心とする立体射影を扱っている。

他の分野での現れ方

$n=2$ で $\mathbb{R}^2$ を複素平面 $\mathbb{C}$ とみると、延長した立体射影は $S^2$ と $\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ の同一視を与え、Riemann球面 の標準的な実現になる。このとき ex-stereo-antipodal の対蹠写像は $z\mapsto-1/\bar z$ である。Möbius変換 は円を円に写し、thm-stereo-spheres を通じて球面上の円を保つ変換と対応する。また、二つの立体射影 $\sigma,\sigma_S$ は $S^n$ を 2 枚の座標近傍で覆い、座標変換 $y\mapsto y/|y|^2$ が滑らかなので、$S^n$ に可微分多様体の構造を与える。

関連項目

参考文献

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