2圏の交換法則(interchange law)とは、2圏の 2射の垂直合成 $\cdot$ と水平合成 $*$ のあいだの等式 $(\beta'\cdot\beta)*(\alpha'\cdot\alpha)=(\beta'*\alpha')\cdot(\beta*\alpha)$ であり、恒等 2射の条件 $1_g*1_f=1_{gf}$ と合わせて、Hom 圏の間の合成が関手であることの言い換えになる。1射で 2射をはさむひげ付けだけをもつセスキ圏が、ひげ付けを延長する水平合成で 2圏になるための必要十分条件は、2 通りのひげ付けの順序が交換することで、このとき水平合成はただ一つに決まる。小さい圏・関手・自然変換、群・準同型・共役、空間・写像・ホモトピー類がこれで 2圏になり、交換法則と共通の単位から位相群の基本群の可換性が従う。
2圏の交換法則(interchange law)とは、2圏の 2射の 2 通りの合成、すなわち垂直合成 $\cdot$ と水平合成 $*$ のあいだに成り立つ等式
$$
(\beta'\cdot\beta)*(\alpha'\cdot\alpha)=(\beta'*\alpha')\cdot(\beta*\alpha)
$$
のことである。2 行 2 列に並べた 4 つの 2射
$$
\begin{array}{c|c}\beta'&\alpha'\\\hline\beta&\alpha\end{array}
$$
を「先に縦に合成してから横に合成する」のと「先に横に合成してから縦に合成する」のとが同じ 2射を与える、という主張であり、Mac Lane はこれを、4 つの 2射の列 $\beta',\beta,\alpha',\alpha$ の中央の 2 つを入れ替える式という意味で middle four exchange(middle four interchange)とよんだ(Mac98 §XII.3、pp. 274–275)。2圏の定義では、交換法則は恒等 2射の条件 $1_g*1_f=1_{gf}$ と合わせて、合成 $\circ\colon\mathcal K(b,c)\times\mathcal K(a,b)\to\mathcal K(a,c)$ が関手であることの言い換えになっている(2圏 の命題「交換法則による言い換え」)。
この記事では、交換法則を「水平合成をひげ付けから組み立てられるための条件」として述べ直す。1射で 2射をはさむ操作(ひげ付け)だけをもつ構造をセスキ圏とよび、セスキ圏が 2圏になることと、2 通りのひげ付けの順序が交換することとが同値であることを証明する。応用として、小さい圏・関手・自然変換、群・準同型・共役、空間・写像・ホモトピー類がそれぞれ 2圏をなすことを確かめ、交換法則から位相群の基本群の可換性を導く。
2圏 $\mathcal K$ では、2射 $\alpha\colon f\Rightarrow f'$ と 1射 $g$ の水平合成 $1_g*\alpha$ を $g\alpha$、$\alpha*1_h$ を $\alpha h$ と書いて ひげ付け(whiskering)とよぶ(2圏 の補題「すべらせの補題」)。ひげ付けだけを公理として取り出したものが次の構造である。
セスキ圏(sesquicategory)$\mathcal K$ は次のデータからなる。
関手性は、$g(-)\colon\mathcal K(a,b)\to\mathcal K(a,c)$ と $(-)h\colon\mathcal K(a,b)\to\mathcal K(z,b)$ が関手であることをいう。2圏は、上のようにひげ付けを定めるとセスキ圏になる。必要な規則は、2圏 の補題「すべらせの補題」の規則と、その左右を入れ替えたもの、および $g1_f=1_g*1_f=1_{gf}$(2圏 の命題「交換法則による言い換え」の 1)である。
セスキ圏では、2射 $\alpha\colon f\Rightarrow f'\colon a\to b$ と $\beta\colon g\Rightarrow g'\colon b\to c$ から、$gf$ から $g'f'$ への 2射が 2 通りに作れる。
$$
(\beta f')\cdot(g\alpha)\colon gf\Rightarrow gf'\Rightarrow g'f',\qquad(g'\alpha)\cdot(\beta f)\colon gf\Rightarrow g'f\Rightarrow g'f'.
$$
前者は先に $\alpha$ を、後者は先に $\beta$ を適用している。
$\mathcal K$ をセスキ圏とする。次の 2 条件は同値である。
2 ならば 1、および一意性. $\mathcal K$ が 2圏なら交換法則が成り立つ。$\beta=\beta\cdot1_g$、$\alpha=1_{f'}\cdot\alpha$ と分けて交換法則を当てると
$$
\beta*\alpha=(\beta\cdot1_g)*(1_{f'}\cdot\alpha)=(\beta*1_{f'})\cdot(1_g*\alpha)=(\beta f')\cdot(g\alpha)
$$
であり、$\beta=1_{g'}\cdot\beta$、$\alpha=\alpha\cdot1_f$ と分けると
$$
\beta*\alpha=(1_{g'}\cdot\beta)*(\alpha\cdot1_f)=(1_{g'}*\alpha)\cdot(\beta*1_f)=(g'\alpha)\cdot(\beta f)
$$
である。2 つの式から 1 が従い、1 つ目の式から水平合成は $\beta*\alpha=(\beta f')\cdot(g\alpha)$ に限られる。
1 ならば 2. $\beta*\alpha:=(\beta f')\cdot(g\alpha)$ とおき、これが 2圏の公理を満たすことを示す。1射の合成の結合法則と単位法則は $\mathcal K_1$ が圏であることから成り立つので、2射について確かめればよい。
(a) 合成 $\circ\colon\mathcal K(b,c)\times\mathcal K(a,b)\to\mathcal K(a,c)$、$(\beta,\alpha)\mapsto\beta*\alpha$ は関手である。恒等射については関手性から $1_g*1_f=(1_gf)\cdot(g1_f)=1_{gf}\cdot1_{gf}=1_{gf}$ である。合成については、$\alpha'\colon f'\Rightarrow f''$、$\beta'\colon g'\Rightarrow g''$ をとると、関手性により
$$
(\beta'\cdot\beta)*(\alpha'\cdot\alpha)=(\beta'f'')\cdot(\beta f'')\cdot(g\alpha')\cdot(g\alpha)
$$
である。中央の 2 つに 1 を $\alpha'$ と $\beta$ について当てると $(\beta f'')\cdot(g\alpha')=(g'\alpha')\cdot(\beta f')$ なので、右辺は
$$
(\beta'f'')\cdot(g'\alpha')\cdot(\beta f')\cdot(g\alpha)=(\beta'*\alpha')\cdot(\beta*\alpha)
$$
に等しい。
(b) ひげ付けを延長する。関手性と単位の規則から $1_g*\alpha=(1_gf')\cdot(g\alpha)=1_{gf'}\cdot(g\alpha)=g\alpha$、$\beta*1_f=(\beta f)\cdot(g1_f)=(\beta f)\cdot1_{gf}=\beta f$ である。
(c) 水平合成は結合的で単位をもつ。$\gamma\colon h\Rightarrow h'\colon c\to d$ をとる。結合と単位の規則、右ひげ付けの関手性を使うと
$$
(\gamma*\beta)*\alpha=\bigl((\gamma g')\cdot(h\beta)\bigr)f'\cdot(hg)\alpha=(\gamma g'f')\cdot(h\beta f')\cdot(hg\alpha),
$$
左ひげ付けの関手性を使うと
$$
\gamma*(\beta*\alpha)=\gamma(g'f')\cdot h\bigl((\beta f')\cdot(g\alpha)\bigr)=(\gamma g'f')\cdot(h\beta f')\cdot(hg\alpha)
$$
となり、両者は等しい(括弧を省いた $h\beta f'$ などは結合の規則で意味が定まる)。単位については $1_{1_b}*\alpha=(1_{1_b}f')\cdot(1_b\alpha)=1_{f'}\cdot\alpha=\alpha$、$\beta*1_{1_b}=(\beta1_b)\cdot(g1_{1_b})=\beta\cdot1_g=\beta$ である。
(a)〜(c) により、合成関手は関手の等式として結合的で単位的であり、$\mathcal K$ は 2圏である(2圏 の定義「2圏」)。$\square$
(a) の議論は、2 変数の関手を 1 変数ずつの関手の族から組み立てる一般的な判定(関手 の命題「二変数の関手の判定」)を、$L_f:=(-)f$、$M_g:=g(-)$ に当てたものである。この判定の条件 $M_{g'}(\alpha)\cdot L_f(\beta)=L_{f'}(\beta)\cdot M_g(\alpha)$ が、ひげ付けの交換にあたる。Mac Lane も、2圏の 2射に 1射を合成する操作をひげ(whisker)として図示し、Hom 圏による 2圏の記述と 2 通りの合成による記述とが同値であることを述べている(Mac98 §XII.3、pp. 274–275)。
小さい圏を対象、関手を 1射とし、$\mathcal K(\mathcal C,\mathcal D)$ を関手圏 $[\mathcal C,\mathcal D]$ とする。自然変換 $\alpha\colon F\Rightarrow F'\colon\mathcal C\to\mathcal D$ と関手 $G\colon\mathcal D\to\mathcal E$、$H\colon\mathcal B\to\mathcal C$ について、ひげ付けを成分で
$$
(G\alpha)_c:=G(\alpha_c),\qquad(\alpha H)_b:=\alpha_{Hb}
$$
と定める。$G\alpha$ が自然であることは $\alpha$ の自然性の正方形に $G$ を当てれば分かり、$\alpha H$ が自然であることは $\alpha$ の自然性を $H$ の像の射に当てれば分かる。セスキ圏の公理は成分ごとの等式に帰着し、$G$ が関手であることから成り立つ。
自然変換 $\beta\colon G\Rightarrow G'\colon\mathcal D\to\mathcal E$ をとると、ひげ付けの交換は $c\in\mathcal C$ の成分で
$$
\beta_{F'c}\circ G(\alpha_c)=G'(\alpha_c)\circ\beta_{Fc}
$$
となる。これは $\beta$ の自然性を射 $\alpha_c\colon Fc\to F'c$ に当てたものにほかならない。よって thm-tci-main により小さい圏・関手・自然変換は 2圏 $\mathbf{Cat}$ をなし、水平合成は $(\beta*\alpha)_c=\beta_{F'c}\circ G(\alpha_c)$ である。これは 2圏 の定理「Cat は 2圏である」と 自然変換 の命題「水平合成と交換法則」の水平合成と一致する(HTT09 Example 1.1.1.3、p. 3、Mac98 §II.5、pp. 42–43)。
この確かめで使ったのは $\beta$ の自然性だけで、$\alpha$ の自然性はひげ付け $G\alpha$ が自然変換になることにしか使っていない。逆に、2射を自然とは限らない成分の族に広げると、セスキ圏の公理は保たれるがひげ付けの交換が崩れる(反例の表の 1 行目)。
群を対象、群準同型を 1射とし、準同型 $f,f'\colon G\to H$ の間の 2射 $h\colon f\Rightarrow f'$ を、すべての $x\in G$ で $hf(x)h^{-1}=f'(x)$ を満たす元 $h\in H$ とする(HTT09 Example 1.1.1.1、p. 2)。垂直合成は $H$ の積 $h'\cdot h:=h'h$、恒等 2射は単位元である。準同型 $k_0\colon H\to K$ と $e_0\colon G_0\to G$ によるひげ付けを
$$
k_0h:=k_0(h)\colon k_0f\Rightarrow k_0f',\qquad he_0:=h\colon fe_0\Rightarrow f'e_0
$$
で定める。$k_0(h)\,k_0f(x)\,k_0(h)^{-1}=k_0\bigl(hf(x)h^{-1}\bigr)=k_0f'(x)$ なので $k_0h$ は 2射であり、$he_0$ が 2射であることは $x$ を $e_0(y)$ にとればよい。セスキ圏の公理は、$k_0$ が準同型であることと写像の合成の結合性から従う。
$k\colon k_0\Rightarrow k_0'\colon H\to K$ を 2射とすると、ひげ付けの交換は
$$
(kf')\cdot(k_0h)=k\,k_0(h),\qquad(k_0'h)\cdot(kf)=k_0'(h)\,k
$$
の一致であり、これは $k$ が 2射であることの式 $kk_0(y)k^{-1}=k_0'(y)$ を $y=h$ に当てたものである。よって thm-tci-main によりこれは 2圏で、水平合成は $k*h=k\,k_0(h)$ である。
この 2圏の Hom 圏 $\mathcal K(G,H)$ はすべての射が可逆な圏(亜群)であり、2 つの準同型が共役であることと、$\mathcal K(G,H)$ で同型であることとは同じである。
位相空間 $X,Y$ と連続写像 $f_0,f_1\colon X\to Y$ について、$f_0$ から $f_1$ へのホモトピーとは、連続写像 $F\colon X\times I\to Y$($I=[0,1]$)で $F(x,0)=f_0(x)$、$F(x,1)=f_1(x)$ となるものをいう。同じ $f_0,f_1$ をもつ 2 つのホモトピー $F,F'$ が 端点を止めてホモトピック であるとは、連続写像 $A\colon X\times I\times I\to Y$ で
$$
A(x,t,0)=F(x,t),\quad A(x,t,1)=F'(x,t),\quad A(x,0,s)=f_0(x),\quad A(x,1,s)=f_1(x)
$$
となるものがあることをいう。これは同値関係である(推移性は $A$ を $s$ 方向につなぐ)。その類を $[F]$ と書く。ホモトピー $F\colon f_0\Rightarrow f_1$、$F_2\colon f_1\Rightarrow f_2$ の つなぎ合わせ $F_2\cdot F$ を、$t\le1/2$ で $F(x,2t)$、$t\ge1/2$ で $F_2(x,2t-1)$ と定める($F$ を先に通る)。
位相空間を対象、連続写像を 1射とし、$f_0\Rightarrow f_1$ の 2射を、$f_0$ から $f_1$ へのホモトピーの端点を止めたホモトピー類とする。垂直合成を $[F_2]\cdot[F]:=[F_2\cdot F]$、ホモトピー $F\colon f_0\Rightarrow f_1\colon X\to Y$ と $G\colon g_0\Rightarrow g_1\colon Y\to Z$ の水平合成を
$$
(G*F)(x,t):=G\bigl(F(x,t),t\bigr)
$$
の類で定める。このとき次が成り立つ。
1. $t\le1/2$ では、左辺も右辺も $G\bigl(F(x,2t),2t\bigr)$ である。$t\ge1/2$ では、左辺も右辺も $G_2\bigl(F_2(x,2t-1),2t-1\bigr)$ である。よって両辺は同じ写像である。
2. $G*F$ は連続写像 $(x,t)\mapsto(F(x,t),t)$ と $G$ の合成なので連続で、$t=0,1$ で $g_0f_0$、$g_1f_1$ に等しい。
水平合成が類の上で定まること. $A$ が $F$ と $F'$ を、$B$ が $G$ と $G'$ を端点を止めて結ぶとき、$(x,t,s)\mapsto B\bigl(A(x,t,s),t,s\bigr)$ は連続で、$s=0,1$ で $G*F$、$G'*F'$ に等しく、$t=0$ では $B(f_0(x),0,s)=g_0f_0(x)$、$t=1$ では $g_1f_1(x)$ に止まる。
Hom が圏になること. つなぎ合わせが類の上で定まり、結合的で、定値ホモトピー $c_f(x,t):=f(x)$ の類を単位にもつことは、基本群 の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」と定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」の証明に $x\in X$ を径数として加えたものである。
そこでの結合法則と単位法則の証明は $t$ の再径数化 $\varphi\colon I\to I$($\varphi(0)=0$、$\varphi(1)=1$)と、その径数化を $(1-s)\varphi(t)+st$ で恒等写像へ結ぶホモトピーで書かれている。$F(x,\varphi(t))$ を $F(x,(1-s)\varphi(t)+st)$ で $F$ へ結べば、$t=0,1$ では $f_0(x)$、$f_1(x)$ に止まり、$x$ について連続である。結合法則では $\varphi$ を区分的に 1 次の写像に、単位法則では $\varphi(t)=\min\{2t,1\}$ と $\max\{0,2t-1\}$ にとる。代表のとり替えについては、端点を止めたホモトピー $A,A_2$ を $t$ 方向に同じ規則でつなげば、つなぎ目が $s$ によらず $f_1(x)$ なので連続である。
この 2圏は HTT09 Example 1.1.1.2(p. 3)で 2圏の例として挙げられ、Mac Lane はホモトピーそのものを 2射にするとつなぎ合わせが結合的にならないので類をとる必要があることを注意している(Mac98 §XII.3、p. 273)。上の証明では、交換法則と水平合成の結合法則はホモトピーの段階で成り立っており、類をとる必要があるのは垂直合成のほうだけである(反例の表の 2 行目)。この 2圏で 2射 $f_0\Rightarrow f_1$ があることは $f_0$ と $f_1$ がホモトピックであることにほかならず、水平合成があることから、写像のホモトピー類の合成が代表のとり方によらないことが分かる(ホモトピー圏)。
対象がただ 1 つの 2圏は、1射を対象、2射を射とし、水平合成をテンソル積とする厳格モノイダル圏と同じものである(2圏 の例「そのほかの例」の 1)。このとき交換法則は、テンソル積が 2 変数の関手であること $(f'\circ f)\otimes(g'\circ g)=(f'\otimes g')\circ(f\otimes g)$ そのものである(モノイダル圏 の命題「テンソル積の交換法則」)。
体 $\mathbb F$ を固定し、自然数 $n$ を対象、$\mathbb F$ 成分の $n\times m$ 行列を射 $m\to n$、行列の積を合成とする圏を考える。行列 $A,B$ のブロック対角和 $B\oplus A:=\begin{pmatrix}B&0\\0&A\end{pmatrix}$ をテンソル積とすると、積が定義される範囲で
$$
(B'B)\oplus(A'A)=(B'\oplus A')(B\oplus A)
$$
が成り立つ。これはブロックごとの積の計算そのものであり、交換法則の一例である(Mac98 §II.5、p. 44)。
交換法則は、2 つの合成が共通の単位をもつ場面では強い制約になる。2 つの演算が交換法則を満たし共通の単位をもつと、2 つの演算は一致して可換になる(Eckmann–Hilton 論法)。2圏では、恒等 1射の自己 2射の全体がつねに可換モノイドになる(2圏 の命題「恒等 1射の自己 2射は可換」)。$n\ge2$ のホモトピー群 $\pi_n$ が可換であることも同じ議論による(ホモトピー群 の命題「$n\geq2$のときホモトピー群はアーベル群である」)。ここでは、ループのつなぎ合わせと点ごとの積が交換法則を満たすことから、位相群の基本群の可換性を導く。
$G$ を位相群、$e$ をその単位元とする。基本群 $\pi_1(G,e)$ は可換群である。
$e$ を基点とするループ $\sigma,\tau$ について、$\sigma$ を先に通るつなぎ合わせを $\tau\cdot\sigma$($t\le1/2$ で $\sigma(2t)$、$t\ge1/2$ で $\tau(2t-1)$)と書き、点ごとの積を $(\tau\odot\sigma)(t):=\tau(t)\sigma(t)$ と書く。$G$ の積は連続なので $\tau\odot\sigma$ は $e$ を基点とするループである。
交換法則. ループ $\sigma,\sigma',\tau,\tau'$ について
$$
(\tau'\odot\sigma')\cdot(\tau\odot\sigma)=(\tau'\cdot\tau)\odot(\sigma'\cdot\sigma)
$$
が写像として成り立つ。実際、$t\le1/2$ では両辺とも $\tau(2t)\sigma(2t)$、$t\ge1/2$ では両辺とも $\tau'(2t-1)\sigma'(2t-1)$ である。
類の上の演算. つなぎ合わせが端点を止めたホモトピー類の上で定まることは 基本群 の命題「道の積はホモトピー類の上で矛盾なく定まる」による。$A$ が $\sigma$ と $\sigma'$ を、$B$ が $\tau$ と $\tau'$ を端点を止めて結ぶなら、$(t,s)\mapsto B(t,s)A(t,s)$ は $\tau\odot\sigma$ と $\tau'\odot\sigma'$ を端点 $ee=e$ を止めて結ぶ。よって $[\tau]\cdot[\sigma]:=[\tau\cdot\sigma]$ と $[\tau]\odot[\sigma]:=[\tau\odot\sigma]$ はどちらも $\pi_1(G,e)$ 上の演算で、上の交換法則は類の等式としても成り立つ。定値ループ $c$ について $c\odot\sigma=\sigma=\sigma\odot c$ は写像の等式であり、$[c]\cdot[\sigma]=[\sigma]=[\sigma]\cdot[c]$ は 基本群 の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」の 2 である。したがって $[c]$ は 2 つの演算の共通の単位である。
可換性. 交換法則と共通の単位から
$$
[\tau]\odot[\sigma]=\bigl([\tau]\cdot[c]\bigr)\odot\bigl([c]\cdot[\sigma]\bigr)=\bigl([\tau]\odot[c]\bigr)\cdot\bigl([c]\odot[\sigma]\bigr)=[\tau]\cdot[\sigma],
$$
$$
[\tau]\odot[\sigma]=\bigl([c]\cdot[\tau]\bigr)\odot\bigl([\sigma]\cdot[c]\bigr)=\bigl([c]\odot[\sigma]\bigr)\cdot\bigl([\tau]\odot[c]\bigr)=[\sigma]\cdot[\tau]
$$
となる。よって $[\tau]\cdot[\sigma]=[\sigma]\cdot[\tau]$ であり、$\pi_1(G,e)$ の群演算は可換である。$\square$
この命題は、H空間 の定理「H 空間の基本群は可換」の位相群の場合にあたる。H 空間の単位元は一般にはホモトピーの意味での単位でしかないので、そこではホモトピーで単位を補う証明をしている。位相群では定値ループが点ごとの積の単位に厳密になるので、交換法則から直接に結論が出る。この筋道は Mac98 §II.5 の演習 4〜6(p. 45)として出題されている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| ひげ付けの交換(thm-tci-main の 1) | 小さい圏・関手と、自然とは限らない成分の族を 2射とするセスキ圏 | ひげ付けを延長する 2圏の水平合成の存在 |
| Hom が圏であること(2圏 の命題「交換法則による言い換え」の前提) | 空間・連続写像と、類をとらないホモトピーそのものを 2射とし、つなぎ合わせと $G*F$ で合成する構造 | 2圏であること(交換法則と $1_g*1_f=1_{gf}$ は成り立つ) |
| $G$ が位相群であること(prop-tci-topgroup) | 8 の字 $S^1\vee S^1$ | 基本群の可換性 |
各行で外した条件と、成り立たなくなる結論を確かめる。
1 行目:関手 $F,F'\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の間の 2射を、自然性を課さない射の族 $(\alpha_c\colon Fc\to F'c)_c$ とし、垂直合成とひげ付けを ex-tci-cat と同じ成分の式で定める。セスキ圏の公理は成分ごとの等式なので成り立つ。$\mathcal C$ を一点圏 $\mathbf 1$、$\mathcal D=\mathcal E$ を 3 次対称群 $S_3$ を射とする一対象圏 $BS_3$、$F=F'$ を唯一の関手、$G=G'=\mathrm{id}$ とし、$\alpha_\ast=a$、$\beta_\ast=b$ とおく。$(\beta F')\cdot(G\alpha)$ の成分は $ba$、$(G'\alpha)\cdot(\beta F)$ の成分は $ab$ で、$a=(1\,2)$、$b=(1\,3)$ なら異なる。よってひげ付けの交換が成り立たず、thm-tci-main によりひげ付けを延長する 2圏の水平合成はない。
2 行目:prf-tci-homotopy の 1 と $c_g*c_f=c_{gf}$ の確かめは類をとらずに成り立つ。一方、$X$ を一点、$Y=\mathbb R$ とし、$F(t)=t$、$F_2(t)=1+t$、$F_3(t)=2+t$ とすると、$\bigl((F_3\cdot F_2)\cdot F\bigr)(1/2)=F(1)=1$、$\bigl(F_3\cdot(F_2\cdot F)\bigr)(1/2)=(F_2\cdot F)(1)=2$ なので、つなぎ合わせは結合的でない。よって Hom は圏でなく、この構造は 2圏でない。
3 行目:8 の字は位相群の構造をもたない(もてば基本群が可換になる)。その基本群は 2 元で生成される自由群で可換でない(基本群 の例「円周のウェッジ和」)。
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