数論(number theory)とは、整数と、整数から自然に生じる方程式・代数系・解析的関数・幾何学的空間の性質を研究する数学の分野である。$x^2+y^2=4k+3$ が法 $4$ の合同式で解を持たないことや、$x^2-2y^2=1$ の解が $(3+2\sqrt{2})^n$ から無限個作れることのように、離散的な解の背後の構造を合同式・因数分解・単数などで捉え、Bézout 等式、中国剰余定理、素数の無限性がその基本原理になる。$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で $6=2\cdot 3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ と分解が一意でないことからイデアルの分解へ進む代数的数論、素数定理などの解析的数論、加法的数論、有理点を扱う数論幾何へ広がる。整数的な問いを代数・解析・幾何の構造へ移し、局所的な情報と大域的な可解性を結ぶことが特色である。
数論(number theory)または整数論とは、整数と、整数から自然に生じる方程式・代数系・解析的関数・幾何学的空間の性質を研究する数学の分野である。
中心的な問いは、例えば次のような形を取る。
数論の出発点は整数であるが、研究対象を整数そのものに限定する分野ではない。代数的整数の環、$p$ 進数体、有限体、ゼータ関数、楕円曲線、モジュラー形式などを導入するのは、整数に関する離散的な問いを、代数・解析・幾何の構造に移して調べるためである。この広がりにより、数論は一つの対象群ではなく、「整数的な制約の下で解や分布をどう読むか」という問題意識によって結ばれる。
実数上の方程式は連続的に解を動かせることが多いが、整数解は飛び飛びに現れる。例えば $x^2-2y^2=1$ の実数解は曲線をなすが、整数解は $(\pm1,0)$、$(\pm3,\pm2)$、$(\pm17,\pm12)$ などの離散集合である。しかしこれらはでたらめではなく、$3+2\sqrt2$ の冪によって統制される。数論は、このような「離散的な解の背後にある構造」を見つけ、合同式・因数分解・解析的推定・幾何学的不変量などの形で記述する。
方程式
$$
x^2+y^2=4k+3
$$
は整数解を持たない。実際、任意の整数 $n$ に対して $n^2$ の $4$ での余りは $0$ または $1$ である。したがって $x^2+y^2$ の余りは $0,1,2$ のいずれかであり、$3$ にはならない。
これは、解を直接探す代わりに、有限個の剰余類へ落として不可能性を証明する初等数論の典型的な方法である。平方数 の整数論的性質は、このような合同条件と結びつく。
$x^2-2y^2=1$ に対し、
$$
(x_n+y_n\sqrt2)=(3+2\sqrt2)^n\qquad(n\geq0)
$$
とおく。共役を取れば
$$
(x_n+y_n\sqrt2)(x_n-y_n\sqrt2)
=(3+2\sqrt2)^n(3-2\sqrt2)^n=1
$$
だから $x_n^2-2y_n^2=1$ である。二項定理により $x_n,y_n$ は整数であり、$n$ を動かすと無限個の異なる正の解を得る。ここでは、整数方程式が実二次体の単数の乗法構造に置き換わっている。二項係数 はこの展開に現れる。
$2\cdot3\equiv0\pmod6$ であるが、$2\not\equiv0\pmod6$ かつ $3\not\equiv0\pmod6$ である。したがって「$ab\equiv0\pmod n$ なら $a\equiv0\pmod n$ または $b\equiv0\pmod n$」という含意は、一般の法 $n$ では成り立たない。この反例は、合成数を法とする剰余環が零因子を持ちうることを示す。法が素数 $p$ のときは、$\mathbb Z/p\mathbb Z$ は体なのでこの含意が回復する。
$\mathbb Z[\sqrt{-5}]$ では
$$
6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
$$
という二つの本質的に異なる分解がある。ノルムを $N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ とおくと、ノルムは乗法的であり、単元のノルムは $1$ である。方程式 $a^2+5b^2=2$ および $a^2+5b^2=3$ は整数解を持たない。一方、$2,3,1+\sqrt{-5},1-\sqrt{-5}$ のノルムはそれぞれ $4,9,6,6$ である。したがって、これらの元が二つの非単元の積に分解すれば、因子のノルムとして $2$ または $3$ が必要になって矛盾するので、四元はすべて既約元である。また、両辺の因子はノルムが異なるため互いに同伴ではない。したがって「整数環 $\mathbb Z$ での素因数分解の一意性が、代数的整数の環にもそのまま成り立つ」という含意は破れる。代数的整数論では元の分解の代わりにイデアルの分解を用いる。Dedekind整域 はその標準的な舞台である Neu99。
以下では、数論の基本的な方法である「整除性を一次結合へ翻訳する」「局所的な合同条件を統合する」「有限性を仮定して新しい素数を作る」を整理する。各定理の証明は対応する記事に譲り、ここでは相互の役割を比較する。
$a,b\in\mathbb Z$ が同時に $0$ でないとする。$d=\gcd(a,b)>0$ ならば、ある $u,v\in\mathbb Z$ が存在して $au+bv=d$ となる。
証明は Bézoutの等式 の記事の定理「Bézoutの等式」を参照。
$m_1,\ldots,m_r$ を $2$ 以上の二つずつ互いに素な整数とし、$a_1,\ldots,a_r\in\mathbb Z$ とする。このとき連立合同式 $x\equiv a_i\pmod{m_i}$($i=1,\ldots,r$)は解を持ち、その解は $M=m_1\cdots m_r$ を法として一意である。
証明は 中国剰余定理 の記事の定理「中国剰余定理」を参照。
素数全体の集合は無限集合である。
証明は 素数 の記事の定理「素数の無限性」を参照。
これらの結果は初等的だが、数論全体で繰り返し現れる原型を持つ。Bézout 等式は可逆性と局所解の構成に、中国剰余定理は互いに独立な局所条件の統合に、素数の無限性は有限個の候補の外に新しい対象を作る対角線的論法に対応する HW60。
各分野は対象によって完全に分かれるのではない。一つの問題に代数的、解析的、幾何学的な方法が同時に使われることも多い。表の分類は、問いの立て方と主な道具の違いを見るための地図である。
| 分野 | 主な対象・問い | 主な方法 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 初等数論 | 整除性、素数、合同式、整数列、数論的関数 | Euclid の互除法、数学的帰納法、剰余類、有限和 | 一意分解、中国剰余定理、平方剰余 |
| 代数的数論 | 代数体、代数的整数、イデアル、局所体、Galois 表現 | 群論、環と加群、イデアル分解、完備化、局所大域原理 | 類群、単数群、分岐、類体論 |
| 解析的数論 | 素数や整数点の分布、数論的関数の平均 | Dirichlet 級数、ゼータ関数、Fourier 解析、複素解析、篩法 | 素数定理、等差数列中の素数、約数問題 |
| 加法的・組合せ的数論 | 整数や集合を和として表す方法、加法的基 | 円法、和集、篩法、組合せ論、調和解析 | Goldbach 問題、Waring 問題、等差数列 |
| 数論幾何・算術幾何 | 多項式方程式の整数点・有理点、法 $p$ での解 | 代数幾何、楕円曲線、コホモロジー、Galois 表現 | Mordell–Weil 定理、局所大域原理、合同ゼータ関数 |
| 計算数論 | 素数判定、因数分解、離散対数、方程式の解の実際の計算 | 高速アルゴリズム、計算量、格子縮約、確率的方法 | 因数分解、楕円曲線法、AKS 素数判定 |
「数論的関数」は、初等数論で定義され、解析的数論で平均や Dirichlet 級数を調べる横断的な言語である。例えば約数の個数、約数の和、Euler の $\varphi$ 関数、Möbius 関数がある。篩法は素数や素因数の条件を満たす整数を数えるための方法群であり、Eratosthenes–Legendre の篩から Brun の篩、現代篩法へと発展する。
また、多重ゼータ値
$$
\zeta(s_1,\ldots,s_r)=\sum_{n_1>\cdots>n_r\geq1}\frac{1}{n_1^{s_1}\cdots n_r^{s_r}}
$$
は、特殊値、反復積分、組合せ的関係式を結ぶ対象である。この枝は、初等整数論の索引だけでは見えにくいが、数論的な特殊値を研究する重要な主題である。ただし収束には例えば $s_1\geq2$ と $s_2,\ldots,s_r\geq1$ が必要であり、形式的な多重和と収束値を区別する。
整数は出発点であるが、代数体のイデアル、$p$ 進数体の距離、複素変数のゼータ関数、楕円曲線の有理点群はいずれも数論の中心対象である。したがって「対象が整数自身でないなら数論ではない」という分類基準は成り立たない。分野を特徴づけるのは、整数的・有理数的な問いと、それを解くための局所的・大域的な構造の関係である。
| 定理・原理 | 主張の要点 | 何を結ぶか | 出典・証明の所在 |
|---|---|---|---|
| 算術の基本定理 | $1$ より大きい整数は素数の積に、順序を除いて一意に分解される | 整除性と乗法構造 | HW60 §1.3(証明は §2.10、別証は §2.11)。本記事では定理全体は再証明しない |
| 中国剰余定理 | 互いに素な法に関する合同条件を一つの剰余類に統合できる | 局所的な合同条件と大域的な解 | 中国剰余定理 の記事で完全証明 |
| 二次剰余の相互法則 | 異なる奇素数 $p,q$ について、$p$ を法とする $q$ の二次剰余性と $q$ を法とする $p$ の二次剰余性を結ぶ | 素数ごとの局所情報 | HW60 §6.12, Theorem 98 |
| Dirichlet の算術級数定理 | $\gcd(a,q)=1$ なら $p\equiv a\pmod q$ を満たす素数 $p$ は無限に存在する | 合同式と解析 | HW60 §2.3, Theorem 15(主張) |
| 素数定理 | $x$ 以下の素数の個数 $\pi(x)$ は $x/\log x$ と漸近的に等しい | 素数の離散的分布と解析的関数 | HW60 §1.6, Theorem 6; §§22.14–22.16 |
| イデアルの一意分解 | Dedekind 整域の零でない真のイデアルは素イデアルの積に一意分解される | 整数の素因数分解と代数体 | Dedekind整域, Neu99 I, §3, Theorem 3.3 |
| Mordell–Weil 定理 | 数体上の楕円曲線の有理点群は有限生成である | 方程式の有理解と幾何学的群構造 | Sil09 VIII, Theorem 6.7 |
この地図の定理は難易度が大きく異なる。特に素数定理と Mordell–Weil 定理は、それぞれ解析的数論と算術幾何の本格的な理論を必要とする。これらの大定理はこの記事では証明しない。表に挙げた出典へ証明を委ね、相互の位置を示す。
数論では、同じ問題でも何を知りたいかによって道具が変わる。例えば $x^2+y^2=n$ を考える。
最初に、整数の整除性、最大公約数、Euclid の互除法、素因数分解、合同式を学ぶ。ここまでで Bézout 等式と中国剰余定理を自力で証明できることが一つの目安である。次に、学びたい方向に応じて次の経路へ進む。
整数方程式について「解ける」と言うとき、少なくとも三つの異なる成果が考えられる。一つの解を発見すること、すべての解を記述すること、指定した高さ以下の解の個数を評価することである。Pell方程式の例では、冪から無限個の解を作るだけで、すべての正の解がその方法で得られるとまではまだ証明していない。この区別は、楕円曲線の有理点を数える際にも、素数の分布を論じる際にも現れる。
$x_0=1,y_0=0$ とし、
$$
x_{n+1}=3x_n+4y_n,\qquad y_{n+1}=2x_n+3y_n
$$
と定める。このとき $x_n,y_n$ は非負整数で、$x_n^2-2y_n^2=1$ を満たす。また $x_n$ は狭義単調増加し、相異なる解が無限個得られる。
初期値は非負整数で方程式を満たす。漸化式は整数係数で非負の係数をもつので、整数性と非負性は帰納的に保たれる。直接計算すると
$$
(3x+4y)^2-2(2x+3y)^2=x^2-2y^2
$$
となる。したがって方程式の左辺の値は各段階で1のままである。さらに $x_n\ge1$ であり、$x_{n+1}-x_n=2x_n+4y_n>0$ だから $x_n$ は狭義単調増加する。従って生成した解は相異なり、無限個である。$\square$
この漸化式は、$\mathbb Z[\sqrt2]$ の元に $3+2\sqrt2$ を掛ける操作を二つの整数座標に書いたものである。ノルムが1の元を掛けるとノルム1の条件が保たれるという代数的説明と、二変数の二次式を直接展開する説明とが同じ計算を表している。数論では、具体的な漸化式から始めて、その背後にある環や群を見つけることが多い。
法が合成数だと体ではなくなるが、それだけで中国剰余定理が使えなくなるわけではない。互いに素な法 $4$ と $9$ に対しても、$x\equiv1\pmod4$、$x\equiv2\pmod9$ の解は $x\equiv29\pmod{36}$ である。各法が素数であることではなく、法どうしの互いに素性が条件となっている。
環の言葉では、$\mathbb Z/36\mathbb Z$ から $\mathbb Z/4\mathbb Z\times\mathbb Z/9\mathbb Z$ へ両方の剰余を取る写像が環同型になる。どちらの因子も体ではなく、積の環も体ではない。しかし加法と乗法を各成分で計算でき、合同条件をそれぞれの成分へ分ける利点は保たれる。
逆に法 $4$ と $6$ は互いに素でない。$x\equiv0\pmod4$ と $x\equiv1\pmod6$ は解をもたない。第1式は $x$ が偶数であること、第2式は奇数であることを要求するからである。非互いに素な法では、重なった素因数に関する条件が両立する必要がある。一般形の定理を読む前にも、この小さな反例から条件の意味を理解できる。
方程式 $2x=1$ は有理解 $x=1/2$ をもつが、整数解をもたない。有理数上で解を作ったあとに分母を払うことは、元の整数方程式の解を作ることと同じではない。$ax+b=0$ を $x=u/v$ と書き直して $au+bv=0$ とすると、方程式の変数は一つから二つへ増え、元の問題は $v=1$ という追加条件をもつ問題になる。
一方、同次方程式では分母を払って整数解を得ることができる。例えば有理数 $x,y,z$ が $x^2+y^2=z^2$ を満たすなら、共通分母 $D>0$ を掛けた $Dx,Dy,Dz$ は整数で同じ方程式を満たす。この違いは、整数点と有理点を同じものと扱えない理由の一つである。
$t=u/v$($u,v\in\mathbb Z$, $v\ne0$)とすると
$$
x=\frac{1-t^2}{1+t^2},\qquad y=\frac{2t}{1+t^2}
$$
は $x^2+y^2=1$ を満たす有理点である。また
$$
(v^2-u^2)^2+(2uv)^2=(v^2+u^2)^2
$$
であり、整数のPythagoras三つ組を得る。
$1+t^2>0$ なので分母は零でない。分子を展開すると $(1-t^2)^2+4t^2=(1+t^2)^2$ だから、両辺を $(1+t^2)^2$ で割れば $x^2+y^2=1$ となる。$t=u/v$ を代入して分母を払うと、表示した整数恒等式を得る。各成分は整数であり、平方の和が平方となる。$\square$
ここでも、この公式で生成できることと、重複を除いてすべての三つ組を分類することは異なる。原始的な三つ組の分類には $\gcd(u,v)=1$ や偶奇の条件が現れる。$u,v$ に共通因子があると三成分にその平方が共通因子として現れ、両方が奇数なら三成分がすべて偶数になるからである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 整数解と有理解を区別する | $2x=1$ | 有理数で解ければ整数でも解ける |
| 合同式の法の互いに素性 | 法4で0、法6で1 | 個々に解があれば連立しても解がある |
| 素数の法と合成数の法を区別する | $2\cdot3=0$、法6 | 零でない積は零でない |
| 解の生成と全解の分類を区別する | Pell漸化式の偶数番号 $n=2m$ の解だけを取る | 無限個の解を生成しても $(3,2)$ を含まず、全解の列挙にはならない |
整数方程式に解があれば、すべての正整数を法として合同式の解が得られる。従ってある法で解がないことは、整数解がないことの十分な根拠になる。しかしこの必要条件の逆は、方程式の種類に依存する。各法の解を別々に見つけるだけでは、同じ整数からそれらが得られることも、整数の大きさに上限を与えることも保証しない。
数論でいう局所的な情報には、単なる有限環の剰余だけでなく、$p$ 進数体や実数体上での可解性も含まれる。大域的な問いは、有理数体や数体上で一つの解が存在するかという問いである。二次形式などで成立する局所大域原理を、任意の多項式方程式に無条件に拡張することはできない。このため、局所情報がどこまで十分かを決めること自体が研究主題になる。
素数の分布では、有限個の素数を列挙することと、すべての $x$ に関する漸近法則を証明することが異なる。$\pi(x)\sim x/\log x$ は比が1へ近づくことを述べ、各 $x$ で等しいという主張ではない。例えば $\pi(10)=4$ であるが $10/\log10$ は整数ですらない。また等差数列の素数定理やDirichletの定理では、剰余類の互いに素性が本質的である。$p\equiv0\pmod3$ を満たす素数は3だけなので、どの剰余類にも素数が無限にあるという言い換えは誤りである。
分野の地図を読むときは、扱う集合、固定するパラメータ、存在・分類・評価のどれを主張しているかを確認するとよい。整数という一つの出発点から、具体的な計算、代数的構造、解析的分布、幾何学的可解性へ進む道筋は、これらの問いを区別したうえで互いに結び直すことで見える。
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