単元

同義語:unit可逆元

概要

単元(unit)とは、環 $R$ の元 $u$ で、$uv=vu=1$ を満たす $v\in R$(逆元 $u^{-1}$)が存在するもののことである。単元の全体 $R^\times$ は乗法について群をなし、単元群と呼ばれる。$\mathbb{Z}^\times=\{\pm1\}$、体 $K$ では $K^\times=K\setminus\{0\}$、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ では $n$ と互いに素な剰余類が単元であり、整域 $A$ 上の多項式環では $A[x]^\times=A^\times$ となる。$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の単元群は $\pm(1+\sqrt2)^n$ からなる無限群である。単元は零因子にならず、有限環ではすべての元が単元か零因子のどちらかになる($\mathbb{Z}$ の $2$ のように無限環では成り立たない)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 環, 群, 零因子
単元は、環の元のうち乗法の逆元をもつもの、すなわち「その元で割ることができる」元である。整数環 $\mathbb{Z}$ の単元は $\pm1$ だけだが、体では $0$ 以外のすべての元が単元である。単元の全体は乗法について群をなし、単元群と呼ばれる。単元は零因子と両立しない元であり、有限な環ではすべての元が単元か零因子のどちらかになる。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつものとし(環 の記事の流儀)、乗法の可換性は必要なときだけ仮定する。

定義

単元

$R$ を環とする。$u\in R$ が $R$ の 単元(unit)または 可逆元(invertible element)であるとは、
$$ uv=vu=1 $$
を満たす $v\in R$ が存在することをいう。このような $v$ は $u$ によってただ 1 つに定まり、$u$ の逆元といって $u^{-1}$ と書く。$R$ の単元全体の集合を $R^\times$ と書き、$R$ の 単元群(unit group, group of units)という。

逆元の一意性と、$R^\times$ が $R$ の乗法について群をなすこと($1\in R^\times$、$u,v\in R^\times$ なら $uv\in R^\times$ で $(uv)^{-1}=v^{-1}u^{-1}$、$(u^{-1})^{-1}=u$)は、環 の記事の命題(単元群)で証明されている(DF04 §7.1、Lan02 Chapter II §1)。$R^\times$ は $R$ の乗法群ともいう。$R$ が可換なら $R^\times$ はアーベル群である。
条件 $uv=vu=1$ の片側だけを満たす元にも名前がある。$uv=1$ となる $v$ があるとき $u$ は 右逆元 $v$ をもつ(右可逆)といい、$vu=1$ となる $v$ があるとき $u$ は 左逆元 $v$ をもつ(左可逆)という。prop-unit-ring-left-right により、単元であることは左逆元と右逆元を両方もつことと同値である。可換環では左右の区別はない。

可換環での言い換えと同伴

$A$ を可換環とする。$u\in A$ について次は同値である。

  1. $u$ は単元である。
  2. $u$ は $1$ を割り切る($uv=1$ となる $v\in A$ がある)。
  3. $u$ が生成するイデアル $(u)=uA$ が $A$ 全体に等しい。
    1 と 2 の同値は可換性から明らかであり、$(u)=A$ は $1\in(u)$、すなわち 2 と同値である。$a,b\in A$ について、ある単元 $u$ で $b=ua$ となるとき $a$ と $b$ は 同伴(associate)であるという。たとえば $\mathbb{Z}$ では $a$ と $-a$ が同伴であり、整数の素因数分解の一意性は「符号(単元)の違いを除いて一意」と述べられる。単元倍は整除関係を変えない($a\mid c$ と $ua\mid c$ は同値)ので、素元・既約元・一意分解整域の理論は単元を除いて考える。

直感

$\mathbb{Z}$ の中で方程式 $2x=1$ は解をもたないが、$(-1)x=1$ は解 $x=-1$ をもつ。単元とは、このように「$ux=1$ が環の中で解ける」元、つまり環の中で割り算の相手になれる元である。単元をかけても整除関係やイデアルは変わらないので、単元は環の元を「本質的に同じもの」にまとめる役割をもつ($6$ と $-6$ は $\mathbb{Z}$ の中で同じイデアル $(6)$ を生成する)。一方零因子は「$0$ でない元にかけて $0$ にしてしまう」元であり、情報を潰すので逆元をもてない。単元と零因子は対極にある。有限な環では「潰さない」元は必ず「割れる」元である(prop-unit-ring-finite)が、無限な環ではそうとは限らず、$\mathbb{Z}$ の $2$ は潰さないが割れない。

例と反例

整数と体

$\mathbb{Z}^\times=\{1,-1\}$ であり、これは位数 $2$ の巡回群である(証明は 環 の記事の例(整数の環 $\mathbb{Z}$)にある)。体 $K$ では定義により $K^\times=K\setminus\{0\}$ である。たとえば $\mathbb{Q}^\times=\mathbb{Q}\setminus\{0\}$、$\mathbb{R}^\times=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ であり、逆に零環でない可換環 $A$ が $A^\times=A\setminus\{0\}$ を満たせば $A$ は体である。零環 $\{0\}$ では $0\cdot0=0=1$ なので $\{0\}^\times=\{0\}$ である。

整数の剰余環の単元

$n\geq1$ とする。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元 $[a]$ が単元であることと、$a$ と $n$ が互いに素であることは同値である。証明は 環 の記事の例(整数の剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$)にあり、Bézoutの等式 $ua+vn=1$ から逆元 $[u]$ が得られる。したがって $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の位数は $1$ 以上 $n$ 以下で $n$ と互いに素な整数の個数、すなわち Eulerのφ関数 の値 $\varphi(n)$ である。
具体的に計算すると、$(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^\times=\{[1],[2],[3],[4]\}$ であり、$[2]^1=[2]$、$[2]^2=[4]$、$[2]^3=[8]=[3]$、$[2]^4=[16]=[1]$ だから、これは $[2]$ が生成する位数 $4$ の巡回群である。一方 $(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times=\{[1],[3],[5],[7]\}$ では
$$ [3]^2=[9]=[1],\qquad [5]^2=[25]=[1],\qquad [7]^2=[49]=[1] $$
なので位数 $4$ の元がなく、巡回群ではない(Kleinの四元群と同型である)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の単元でない元はすべて零因子である(同じ例、および prop-unit-ring-finite)。

行列環と直積

体 $k$ 上の $n$ 次行列環 $M_n(k)$ の単元は可逆行列、すなわち行列式が $0$ でない行列であり、単元群は一般線形群 $GL_n(k)$ である。$n\geq2$ ではこれは可換でない群である。環の直積については $(R\times S)^\times=R^\times\times S^\times$ が成り立つ(環 の記事の例(環の直積))。たとえば $(\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})^\times=\{(\pm1,\pm1)\}$ は 4 元からなる。

多項式環と冪級数環

体 $k$ 上の多項式環 $k[x]$ の単元は $0$ でない定数多項式だけであり、$k[x]^\times=k^\times$ である。より一般に整域 $A$ について $A[x]^\times=A^\times$ が成り立つ(prop-unit-ring-polynomial)。たとえば $\mathbb{Z}[x]^\times=\{1,-1\}$ であり、$x$ や $2$ や $1+x$ は $\mathbb{Z}[x]$ の単元でない。
これと対照的に、形式的冪級数の環 $k[\![x]\!]$ では、定数項が $0$ でない冪級数はすべて単元である。たとえば $(1-x)(1+x+x^2+\cdots)=1$ であり、$1-x$ は $k[x]$ の単元ではないが $k[\![x]\!]$ の単元である。この判定(定数項が $0$ でないことと単元であることの同値)の証明は 局所環 の記事の例(一変数の形式的冪級数環)にある。

反例:整域でない係数環上の多項式

$A=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ とし、$A[x]$ の元 $f=1+2x$ を考える。
$$ (1+2x)^2=1+4x+4x^2=1 $$
(係数は $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ で計算する)なので $f$ は $A[x]$ の単元であり、その逆元は $f$ 自身である。$f$ は次数 $1$ なので $A^\times=\{[1],[3]\}$(定数多項式)に属さない。したがって $A[x]^\times\neq A^\times$ である。
この例が満たさない性質は「係数環 $A$ が整域である」($2\cdot2=0$ で $2$ は $0$ でない零因子)であり、破る含意は「多項式環の単元は定数に限る」である。prop-unit-ring-polynomial で整域の仮定が必要なこと、および次数の加法性 $\deg(fg)=\deg f+\deg g$ が零因子のある係数環では壊れること($(2x)(2x)=0$)を示している。ここで $2$ は冪零元であり、$1+2x$ は「$1$ + 冪零元」の形をしているので単元になる(prop-unit-ring-nilpotent)。

反例:片側だけの逆元

体 $k$ 上の多項式全体 $V=k[t]$ を $k$ 上のベクトル空間とみなし、$V$ から $V$ への $k$ 線形写像(線形写像)全体を $R=\operatorname{End}_k(V)$ とする。$R$ は和と合成を演算とする環であり、単位元は恒等写像 $\mathrm{id}$ である。$S,T\in R$ を
$$ S(f)=tf,\qquad T(f)=\frac{f-f(0)}{t} $$
で定める($f-f(0)$ は定数項をもたないので $t$ で割り切れる)。$f=a_0+a_1t+\cdots+a_mt^m$ に対し $S$ は係数を 1 つ右へずらし、$T$ は $a_0$ を捨てて 1 つ左へずらす。すると任意の $f$ について $T(S(f))=T(tf)=f$ なので $TS=\mathrm{id}$ であるが、$S(T(1))=S(0)=0\neq1$ なので $ST\neq\mathrm{id}$ である。
$S$ は左逆元 $T$ をもつが単元ではない。実際、$S$ が単元なら $S$ は全射のはずだが、定数 $1$ は $S$ の像 $tV$ に属さない。この例は「$vu=1$ ならば $uv=1$」という含意を破る。また $S$ は左零因子でない($SX=0$ なら $S$ の単射性から $X=0$)ので、「左零因子でない元は単元である」という含意も破る。これらの含意は有限な環では成り立つ(prop-unit-ring-finite)ので、この反例は $R$ が無限であることによる。

反例:零因子でも単元でもない元

$\mathbb{Z}$ の $2$ は、$2b=0$ なら $b=0$ なので零因子でなく、$2v=1$ となる整数 $v$ がないので単元でもない。したがって「零因子でない元は単元である」という含意は $\mathbb{Z}$ で破れる。満たさない仮定は「環が有限である」であり、prop-unit-ring-finite の有限性の仮定が外せないことを示す。$2$ は $\mathbb{Z}$ を部分環として含む $\mathbb{Q}$ では単元になる。どの元を単元にするかは環によって変わり、零因子でない元を強制的に単元にする操作が局所化(特に商体)である。

性質

左逆元と右逆元

環 $R$ の元 $u$ が左逆元 $v$($vu=1$)と右逆元 $w$($uw=1$)をともにもてば、$v=w$ であり、$u$ は単元で $u^{-1}=v=w$ である。

結合法則による比較

乗法の結合性により
$$ v=v1=v(uw)=(vu)w=1w=w $$
である。よって $v=w$ は $uv=vu=1$ を満たし、$u$ は単元である。

ex-unit-ring-one-sided の $S$ は左逆元をもつが右逆元をもたない。このように片側の逆元しかもたない元では、その逆元は一意とは限らない(同じ例で $T'(f):=T(f)+f(0)g$($g\in V$ は任意に固定)とおいても $T'S=\mathrm{id}$ である。$S(f)=tf$ の定数項は $0$ だからである)。

有限環の元は単元か零因子

$R$ を有限な環とし、$a\in R$ とする。

  1. $a$ が左零因子でなければ(すなわち $ab=0\Rightarrow b=0$ ならば)、$a$ は単元である。
  2. $a$ が右零因子でなければ、$a$ は単元である。
  3. したがって $R$ の各元は、単元であるか零因子であるかのどちらか一方である。
  4. $a,b\in R$ について $ab=1$ ならば $ba=1$ である。
掛け算写像の単射性から全射性を導く
  1. 写像 $L_a\colon R\to R$、$x\mapsto ax$ を考える。$ax=ay$ なら分配法則から $a(x-y)=0$ であり、$a$ は左零因子でないから $x-y=0$ である。よって $L_a$ は単射である。$R$ は有限集合なので、有限集合から自分自身への単射は全射である(鳩の巣原理)。したがって $ab=1$ となる $b\in R$ がある。次に
    $$ a(ba)=(ab)a=1a=a=a1 $$
    であり、$L_a$ の単射性から $ba=1$ である。よって $ab=ba=1$ となり、$a$ は単元である。
  2. 写像 $x\mapsto xa$ について同じ議論をすればよい。$xa=ya$ なら $(x-y)a=0$ から $x=y$ なので単射、したがって全射であり、$ca=1$ となる $c$ がある。$(ac)a=a(ca)=a=1a$ と右からの掛け算の単射性から $ac=1$ である。
  3. 単元は零因子でない(環 の記事の命題(単元と零因子))。逆に零因子でない元は左零因子でないので、1 により単元である。
  4. $ab=1$ とし、$b$ を考える。$bx=0$ なら $x=1x=(ab)x=a(bx)=0$ だから、$b$ は左零因子でない。1 により $b$ は単元であり、prop-unit-ring-left-right により $b$ の左逆元 $a$ は $b^{-1}$ に等しい($a=a(bb^{-1})=(ab)b^{-1}=b^{-1}$)。よって $ba=bb^{-1}=1$ である。

1 を可換な有限整域に適用すると、有限な整域は体であるという定理(体 の記事の定理(有限な整域は体である))が再び得られる。証明の要点は「有限集合上の単射は全射」だけなので、同じ議論は有限次元の代数にも通用する。体 $k$ 上の $n$ 次行列環 $M_n(k)$ では、$L_A\colon X\mapsto AX$ は有限次元ベクトル空間 $M_n(k)$ の線形写像であり、単射な線形写像は全射である(次元定理)。したがって $M_n(k)$ の行列は可逆か零因子かのどちらかであり、$AB=E$ なら $BA=E$ である。ex-unit-ring-one-sided は無限次元ではこれが崩れることを示している。

冪零元と単元

$R$ を環とし、$x\in R$ を冪零元(ある $m\geq1$ で $x^m=0$)とする。

  1. $1-x$ と $1+x$ は単元であり、$(1-x)^{-1}=1+x+x^2+\cdots+x^{m-1}$ である。
  2. $R$ が可換なら、単元 $u$ と冪零元 $x$ の和 $u+x$ は単元である。
有限等比級数
  1. $s:=1+x+\cdots+x^{m-1}$ とおくと、分配法則により
    $$ (1-x)s=(1+x+\cdots+x^{m-1})-(x+x^2+\cdots+x^m)=1-x^m=1 $$
    であり、同様に $s(1-x)=1-x^m=1$ である。よって $1-x$ は単元で $(1-x)^{-1}=s$ である。$-x$ も冪零($(-x)^m=\pm x^m=0$)なので、$1+x=1-(-x)$ も単元である。
  2. $R$ が可換なら $(u^{-1}x)^m=u^{-m}x^m=0$ なので $u^{-1}x$ は冪零であり、1 により $1+u^{-1}x$ は単元である。よって $u+x=u(1+u^{-1}x)$ は単元の積であり、単元である。

ex-unit-ring-z4-polynomial の $1+2x$ は、$(2x)^2=4x^2=0$ より $1$ と冪零元 $2x$ の和なので、1 により単元である。2 では可換性の仮定を外せない。非可換環では単元と冪零元の和は単元とは限らず、たとえば $M_2(k)$ で $u=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$(単元)と $x=\begin{pmatrix}0&-1\\0&0\end{pmatrix}$(冪零)の和は $\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ であり、行列式が $0$ なので単元でない。

整域上の多項式環の単元

$A$ を整域とする。$A$ 上の 1 変数多項式環 $A[x]$ の単元は、$A$ の単元である定数多項式に限る。すなわち $A[x]^\times=A^\times$ である。特に体 $k$ について $k[x]^\times=k^\times=k\setminus\{0\}$ である。

次数の比較

$0$ でない多項式 $f=a_0+a_1x+\cdots+a_mx^m$($a_m\neq0$)の次数を $\deg f=m$ とする。$0$ でない $f,g\in A[x]$ について、$f$ の最高次係数を $a_m$、$g$ の最高次係数を $b_l$ とすると、$fg$ の $x^{m+l}$ の係数は $a_mb_l$ であり、それより高い次数の項はない。$A$ は整域なので $a_mb_l\neq0$ であり、
$$ \deg(fg)=\deg f+\deg g $$
が成り立つ。
$f\in A[x]^\times$ とし、$fg=1$ とする。$f\neq0$、$g\neq0$ であり($0\cdot g=0\neq1$。整域では $1\neq0$)、上の式から $\deg f+\deg g=\deg1=0$ である。次数は非負なので $\deg f=\deg g=0$、すなわち $f=a_0$、$g=b_0$ は定数で $a_0b_0=1$ である。よって $a_0\in A^\times$ である。逆に $a\in A^\times$ なら $aa^{-1}=1$ は $A[x]$ の中でも成り立つので $a\in A[x]^\times$ である。体 $k$ では $k^\times=k\setminus\{0\}$ だから最後の主張が従う。

一般の可換環上の多項式の単元

$A$ が整域でない可換環のときは、$f=a_0+a_1x+\cdots+a_mx^m\in A[x]$ が単元であることと、$a_0$ が $A$ の単元で $a_1,\dots,a_m$ がすべて冪零元であることが同値になる(AM69 Chapter 1, Exercise 2)。「$\Leftarrow$」は prop-unit-ring-nilpotent の 2 から従う($a_1x+\cdots+a_mx^m$ は冪零元の和であり、可換環では冪零元の和は冪零である。後者は 可換環 の記事の命題(冪零根基はイデアル))。ex-unit-ring-z4-polynomial の $1+2x$ はこの判定の例である。整域には $0$ 以外の冪零元がないので、この判定は prop-unit-ring-polynomial を含んでいる。

整数に2の平方根を添加した環の単元群

$\mathbb{Z}[\sqrt2]=\{a+b\sqrt2\mid a,b\in\mathbb{Z}\}\subset\mathbb{R}$(部分環)において、$N(a+b\sqrt2):=a^2-2b^2$ とおく。

  1. $N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta)$ が任意の $\alpha,\beta\in\mathbb{Z}[\sqrt2]$ について成り立つ。
  2. $\alpha\in\mathbb{Z}[\sqrt2]$ が単元であることと $N(\alpha)=\pm1$ は同値である。
  3. $\varepsilon:=1+\sqrt2$ とおくと、
    $$ \mathbb{Z}[\sqrt2]^\times=\{\pm\varepsilon^n\mid n\in\mathbb{Z}\} $$
    であり、これは無限群である。
共役とノルムによる証明

$\sqrt2$ は無理数なので、$a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb{Z}$)の表示は一意である($a+b\sqrt2=c+d\sqrt2$、$b\neq d$ なら $\sqrt2=(a-c)/(d-b)\in\mathbb{Q}$ となる)。したがって写像 $\sigma(a+b\sqrt2):=a-b\sqrt2$ が定まる。$\sigma$ は加法を保ち、
$$ (a+b\sqrt2)(c+d\sqrt2)=(ac+2bd)+(ad+bc)\sqrt2,\qquad (a-b\sqrt2)(c-d\sqrt2)=(ac+2bd)-(ad+bc)\sqrt2 $$
から乗法も保つ。

  1. $N(\alpha)=\alpha\,\sigma(\alpha)$ である($(a+b\sqrt2)(a-b\sqrt2)=a^2-2b^2$)。よって $N(\alpha\beta)=\alpha\beta\,\sigma(\alpha)\sigma(\beta)=N(\alpha)N(\beta)$ である。
  2. $\alpha\beta=1$ なら 1 により $N(\alpha)N(\beta)=N(1)=1$ であり、$N(\alpha),N(\beta)$ は整数だから $N(\alpha)=\pm1$ である。逆に $N(\alpha)=\pm1$ なら $\alpha\cdot(\pm\sigma(\alpha))=\pm N(\alpha)=1$ であり、$\pm\sigma(\alpha)\in\mathbb{Z}[\sqrt2]$ だから $\alpha$ は単元である。
  3. $N(\varepsilon)=1-2=-1$ なので 2 により $\varepsilon$ は単元であり、$\varepsilon^{-1}=-\sigma(\varepsilon)=-1+\sqrt2$ である。したがって $\pm\varepsilon^n$($n\in\mathbb{Z}$)はすべて単元である。$\varepsilon>1$ なので $n\mapsto\varepsilon^n$ は狭義単調増加であり、$\varepsilon^n$ は互いに異なる。よって単元群は無限集合である。
    残りは、任意の単元 $\alpha$ が $\pm\varepsilon^n$ の形であることを示すことである。単元は $0$ でない実数なので、必要なら $-\alpha$ に取り替えて $\alpha>0$ としてよい。$\varepsilon>1$ だから $\varepsilon^n\leq\alpha<\varepsilon^{n+1}$ となる整数 $n$ があり、$\beta:=\alpha\varepsilon^{-n}$ は $1\leq\beta<\varepsilon$ を満たす単元である。$\beta=1$ を示せばよい。
    $1<\beta<\varepsilon$ と仮定し、$\beta=a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb{Z}$)と書く。2 により $\beta\,\sigma(\beta)=N(\beta)=\pm1$ なので $|\sigma(\beta)|=1/\beta<1$ である。すると
    $$ a=\frac{\beta+\sigma(\beta)}{2}>\frac{1-1}{2}=0,\qquad b\sqrt2=\frac{\beta-\sigma(\beta)}{2}>\frac{1-1}{2}=0 $$
    であり、$a,b$ は正の整数、すなわち $a\geq1$、$b\geq1$ である。よって $\beta=a+b\sqrt2\geq1+\sqrt2=\varepsilon$ となり、$\beta<\varepsilon$ に反する。したがって $\beta=1$、$\alpha=\varepsilon^n$ である。

2 は、単元を求めることがPell方程式 $a^2-2b^2=\pm1$ の整数解を求めることと同じであることを示している。$\varepsilon^2=3+2\sqrt2$、$\varepsilon^3=7+5\sqrt2$ はそれぞれ $3^2-2\cdot2^2=1$、$7^2-2\cdot5^2=-1$ に対応する。$\mathbb{Z}[i]^\times=\{\pm1,\pm i\}$ が有限群である(環 の記事の例(Gauss整数環と数の体))のと対照的に、$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の単元群は無限巡回群 $\langle\varepsilon\rangle$ と $\{\pm1\}$ の直積に同型である。この違いは、$\mathbb{Z}[i]$ のノルム $a^2+b^2$ が正定値で $a^2+b^2=1$ の整数解が有限個しかないのに対し、$a^2-2b^2$ は正負の値をとり、$a^2-2b^2=\pm1$ が無限個の整数解をもつことに対応している。

単元とイデアル・準同型

単元は次のように他の概念と結び付いている。

  1. 単元を含むイデアルは環全体である(環 の記事の命題(イデアルの基本性質))。零環でない可換環 $A$ では、$a\in A$ が単元であることと、$a$ がどの極大イデアルにも含まれないことが同値である(可換環 の記事の系(極大イデアルと非単元))。
  2. 単元でない元の全体がイデアルになる可換環が局所環である。体、$k[\![x]\!]$、$\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ はその例であり、$\mathbb{Z}$ はそうでない($2$ と $3$ は単元でないが $3-2=1$ は単元)。
  3. 環準同型 $f\colon R\to S$ は単元を単元に送り、群準同型 $R^\times\to S^\times$ を引き起こす(環準同型 の記事の命題(環準同型の初等的性質))。これにより $R\mapsto R^\times$ は環の圏から群の圏への関手になる。$\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は全射だが、単元群の間の写像 $\{\pm1\}\to(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ は $\varphi(n)>2$ なら全射でない。
  4. 部分環 $S\subset R$ について $S^\times\subset R^\times$ であるが、$S\cap R^\times$ より小さいことがある($\mathbb{Z}\subset\mathbb{Q}$ の $2$)。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §7.1(単元・零因子・二次整数環の例)、§7.2(多項式環)

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