単元(unit)とは、環 $R$ の元 $u$ で、$uv=vu=1$ を満たす $v\in R$(逆元 $u^{-1}$)が存在するもののことである。単元の全体 $R^\times$ は乗法について群をなし、単元群と呼ばれる。$\mathbb{Z}^\times=\{\pm1\}$、体 $K$ では $K^\times=K\setminus\{0\}$、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ では $n$ と互いに素な剰余類が単元であり、整域 $A$ 上の多項式環では $A[x]^\times=A^\times$ となる。$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の単元群は $\pm(1+\sqrt2)^n$ からなる無限群である。単元は零因子にならず、有限環ではすべての元が単元か零因子のどちらかになる($\mathbb{Z}$ の $2$ のように無限環では成り立たない)。
前提知識: 環, 群, 零因子
単元は、環の元のうち乗法の逆元をもつもの、すなわち「その元で割ることができる」元である。整数環 $\mathbb{Z}$ の単元は $\pm1$ だけだが、体では $0$ 以外のすべての元が単元である。単元の全体は乗法について群をなし、単元群と呼ばれる。単元は零因子と両立しない元であり、有限な環ではすべての元が単元か零因子のどちらかになる。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつものとし(環 の記事の流儀)、乗法の可換性は必要なときだけ仮定する。
$R$ を環とする。$u\in R$ が $R$ の 単元(unit)または 可逆元(invertible element)であるとは、
$$
uv=vu=1
$$
を満たす $v\in R$ が存在することをいう。このような $v$ は $u$ によってただ 1 つに定まり、$u$ の逆元といって $u^{-1}$ と書く。$R$ の単元全体の集合を $R^\times$ と書き、$R$ の 単元群(unit group, group of units)という。
逆元の一意性と、$R^\times$ が $R$ の乗法について群をなすこと($1\in R^\times$、$u,v\in R^\times$ なら $uv\in R^\times$ で $(uv)^{-1}=v^{-1}u^{-1}$、$(u^{-1})^{-1}=u$)は、環 の記事の命題(単元群)で証明されている(DF04 §7.1、Lan02 Chapter II §1)。$R^\times$ は $R$ の乗法群ともいう。$R$ が可換なら $R^\times$ はアーベル群である。
条件 $uv=vu=1$ の片側だけを満たす元にも名前がある。$uv=1$ となる $v$ があるとき $u$ は 右逆元 $v$ をもつ(右可逆)といい、$vu=1$ となる $v$ があるとき $u$ は 左逆元 $v$ をもつ(左可逆)という。prop-unit-ring-left-right により、単元であることは左逆元と右逆元を両方もつことと同値である。可換環では左右の区別はない。
$A$ を可換環とする。$u\in A$ について次は同値である。
$\mathbb{Z}$ の中で方程式 $2x=1$ は解をもたないが、$(-1)x=1$ は解 $x=-1$ をもつ。単元とは、このように「$ux=1$ が環の中で解ける」元、つまり環の中で割り算の相手になれる元である。単元をかけても整除関係やイデアルは変わらないので、単元は環の元を「本質的に同じもの」にまとめる役割をもつ($6$ と $-6$ は $\mathbb{Z}$ の中で同じイデアル $(6)$ を生成する)。一方零因子は「$0$ でない元にかけて $0$ にしてしまう」元であり、情報を潰すので逆元をもてない。単元と零因子は対極にある。有限な環では「潰さない」元は必ず「割れる」元である(prop-unit-ring-finite)が、無限な環ではそうとは限らず、$\mathbb{Z}$ の $2$ は潰さないが割れない。
$\mathbb{Z}^\times=\{1,-1\}$ であり、これは位数 $2$ の巡回群である(証明は 環 の記事の例(整数の環 $\mathbb{Z}$)にある)。体 $K$ では定義により $K^\times=K\setminus\{0\}$ である。たとえば $\mathbb{Q}^\times=\mathbb{Q}\setminus\{0\}$、$\mathbb{R}^\times=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ であり、逆に零環でない可換環 $A$ が $A^\times=A\setminus\{0\}$ を満たせば $A$ は体である。零環 $\{0\}$ では $0\cdot0=0=1$ なので $\{0\}^\times=\{0\}$ である。
$n\geq1$ とする。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元 $[a]$ が単元であることと、$a$ と $n$ が互いに素であることは同値である。証明は 環 の記事の例(整数の剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$)にあり、Bézoutの等式 $ua+vn=1$ から逆元 $[u]$ が得られる。したがって $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の位数は $1$ 以上 $n$ 以下で $n$ と互いに素な整数の個数、すなわち Eulerのφ関数 の値 $\varphi(n)$ である。
具体的に計算すると、$(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^\times=\{[1],[2],[3],[4]\}$ であり、$[2]^1=[2]$、$[2]^2=[4]$、$[2]^3=[8]=[3]$、$[2]^4=[16]=[1]$ だから、これは $[2]$ が生成する位数 $4$ の巡回群である。一方 $(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times=\{[1],[3],[5],[7]\}$ では
$$
[3]^2=[9]=[1],\qquad [5]^2=[25]=[1],\qquad [7]^2=[49]=[1]
$$
なので位数 $4$ の元がなく、巡回群ではない(Kleinの四元群と同型である)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の単元でない元はすべて零因子である(同じ例、および prop-unit-ring-finite)。
体 $k$ 上の多項式環 $k[x]$ の単元は $0$ でない定数多項式だけであり、$k[x]^\times=k^\times$ である。より一般に整域 $A$ について $A[x]^\times=A^\times$ が成り立つ(prop-unit-ring-polynomial)。たとえば $\mathbb{Z}[x]^\times=\{1,-1\}$ であり、$x$ や $2$ や $1+x$ は $\mathbb{Z}[x]$ の単元でない。
これと対照的に、形式的冪級数の環 $k[\![x]\!]$ では、定数項が $0$ でない冪級数はすべて単元である。たとえば $(1-x)(1+x+x^2+\cdots)=1$ であり、$1-x$ は $k[x]$ の単元ではないが $k[\![x]\!]$ の単元である。この判定(定数項が $0$ でないことと単元であることの同値)の証明は 局所環 の記事の例(一変数の形式的冪級数環)にある。
$A=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ とし、$A[x]$ の元 $f=1+2x$ を考える。
$$
(1+2x)^2=1+4x+4x^2=1
$$
(係数は $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ で計算する)なので $f$ は $A[x]$ の単元であり、その逆元は $f$ 自身である。$f$ は次数 $1$ なので $A^\times=\{[1],[3]\}$(定数多項式)に属さない。したがって $A[x]^\times\neq A^\times$ である。
この例が満たさない性質は「係数環 $A$ が整域である」($2\cdot2=0$ で $2$ は $0$ でない零因子)であり、破る含意は「多項式環の単元は定数に限る」である。prop-unit-ring-polynomial で整域の仮定が必要なこと、および次数の加法性 $\deg(fg)=\deg f+\deg g$ が零因子のある係数環では壊れること($(2x)(2x)=0$)を示している。ここで $2$ は冪零元であり、$1+2x$ は「$1$ + 冪零元」の形をしているので単元になる(prop-unit-ring-nilpotent)。
体 $k$ 上の多項式全体 $V=k[t]$ を $k$ 上のベクトル空間とみなし、$V$ から $V$ への $k$ 線形写像(線形写像)全体を $R=\operatorname{End}_k(V)$ とする。$R$ は和と合成を演算とする環であり、単位元は恒等写像 $\mathrm{id}$ である。$S,T\in R$ を
$$
S(f)=tf,\qquad T(f)=\frac{f-f(0)}{t}
$$
で定める($f-f(0)$ は定数項をもたないので $t$ で割り切れる)。$f=a_0+a_1t+\cdots+a_mt^m$ に対し $S$ は係数を 1 つ右へずらし、$T$ は $a_0$ を捨てて 1 つ左へずらす。すると任意の $f$ について $T(S(f))=T(tf)=f$ なので $TS=\mathrm{id}$ であるが、$S(T(1))=S(0)=0\neq1$ なので $ST\neq\mathrm{id}$ である。
$S$ は左逆元 $T$ をもつが単元ではない。実際、$S$ が単元なら $S$ は全射のはずだが、定数 $1$ は $S$ の像 $tV$ に属さない。この例は「$vu=1$ ならば $uv=1$」という含意を破る。また $S$ は左零因子でない($SX=0$ なら $S$ の単射性から $X=0$)ので、「左零因子でない元は単元である」という含意も破る。これらの含意は有限な環では成り立つ(prop-unit-ring-finite)ので、この反例は $R$ が無限であることによる。
$\mathbb{Z}$ の $2$ は、$2b=0$ なら $b=0$ なので零因子でなく、$2v=1$ となる整数 $v$ がないので単元でもない。したがって「零因子でない元は単元である」という含意は $\mathbb{Z}$ で破れる。満たさない仮定は「環が有限である」であり、prop-unit-ring-finite の有限性の仮定が外せないことを示す。$2$ は $\mathbb{Z}$ を部分環として含む $\mathbb{Q}$ では単元になる。どの元を単元にするかは環によって変わり、零因子でない元を強制的に単元にする操作が局所化(特に商体)である。
環 $R$ の元 $u$ が左逆元 $v$($vu=1$)と右逆元 $w$($uw=1$)をともにもてば、$v=w$ であり、$u$ は単元で $u^{-1}=v=w$ である。
乗法の結合性により
$$
v=v1=v(uw)=(vu)w=1w=w
$$
である。よって $v=w$ は $uv=vu=1$ を満たし、$u$ は単元である。
ex-unit-ring-one-sided の $S$ は左逆元をもつが右逆元をもたない。このように片側の逆元しかもたない元では、その逆元は一意とは限らない(同じ例で $T'(f):=T(f)+f(0)g$($g\in V$ は任意に固定)とおいても $T'S=\mathrm{id}$ である。$S(f)=tf$ の定数項は $0$ だからである)。
$R$ を有限な環とし、$a\in R$ とする。
1 を可換な有限整域に適用すると、有限な整域は体であるという定理(体 の記事の定理(有限な整域は体である))が再び得られる。証明の要点は「有限集合上の単射は全射」だけなので、同じ議論は有限次元の代数にも通用する。体 $k$ 上の $n$ 次行列環 $M_n(k)$ では、$L_A\colon X\mapsto AX$ は有限次元ベクトル空間 $M_n(k)$ の線形写像であり、単射な線形写像は全射である(次元定理)。したがって $M_n(k)$ の行列は可逆か零因子かのどちらかであり、$AB=E$ なら $BA=E$ である。ex-unit-ring-one-sided は無限次元ではこれが崩れることを示している。
$R$ を環とし、$x\in R$ を冪零元(ある $m\geq1$ で $x^m=0$)とする。
ex-unit-ring-z4-polynomial の $1+2x$ は、$(2x)^2=4x^2=0$ より $1$ と冪零元 $2x$ の和なので、1 により単元である。2 では可換性の仮定を外せない。非可換環では単元と冪零元の和は単元とは限らず、たとえば $M_2(k)$ で $u=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$(単元)と $x=\begin{pmatrix}0&-1\\0&0\end{pmatrix}$(冪零)の和は $\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ であり、行列式が $0$ なので単元でない。
$A$ を整域とする。$A$ 上の 1 変数多項式環 $A[x]$ の単元は、$A$ の単元である定数多項式に限る。すなわち $A[x]^\times=A^\times$ である。特に体 $k$ について $k[x]^\times=k^\times=k\setminus\{0\}$ である。
$0$ でない多項式 $f=a_0+a_1x+\cdots+a_mx^m$($a_m\neq0$)の次数を $\deg f=m$ とする。$0$ でない $f,g\in A[x]$ について、$f$ の最高次係数を $a_m$、$g$ の最高次係数を $b_l$ とすると、$fg$ の $x^{m+l}$ の係数は $a_mb_l$ であり、それより高い次数の項はない。$A$ は整域なので $a_mb_l\neq0$ であり、
$$
\deg(fg)=\deg f+\deg g
$$
が成り立つ。
$f\in A[x]^\times$ とし、$fg=1$ とする。$f\neq0$、$g\neq0$ であり($0\cdot g=0\neq1$。整域では $1\neq0$)、上の式から $\deg f+\deg g=\deg1=0$ である。次数は非負なので $\deg f=\deg g=0$、すなわち $f=a_0$、$g=b_0$ は定数で $a_0b_0=1$ である。よって $a_0\in A^\times$ である。逆に $a\in A^\times$ なら $aa^{-1}=1$ は $A[x]$ の中でも成り立つので $a\in A[x]^\times$ である。体 $k$ では $k^\times=k\setminus\{0\}$ だから最後の主張が従う。
$A$ が整域でない可換環のときは、$f=a_0+a_1x+\cdots+a_mx^m\in A[x]$ が単元であることと、$a_0$ が $A$ の単元で $a_1,\dots,a_m$ がすべて冪零元であることが同値になる(AM69 Chapter 1, Exercise 2)。「$\Leftarrow$」は prop-unit-ring-nilpotent の 2 から従う($a_1x+\cdots+a_mx^m$ は冪零元の和であり、可換環では冪零元の和は冪零である。後者は 可換環 の記事の命題(冪零根基はイデアル))。ex-unit-ring-z4-polynomial の $1+2x$ はこの判定の例である。整域には $0$ 以外の冪零元がないので、この判定は prop-unit-ring-polynomial を含んでいる。
$\mathbb{Z}[\sqrt2]=\{a+b\sqrt2\mid a,b\in\mathbb{Z}\}\subset\mathbb{R}$(部分環)において、$N(a+b\sqrt2):=a^2-2b^2$ とおく。
$\sqrt2$ は無理数なので、$a+b\sqrt2$($a,b\in\mathbb{Z}$)の表示は一意である($a+b\sqrt2=c+d\sqrt2$、$b\neq d$ なら $\sqrt2=(a-c)/(d-b)\in\mathbb{Q}$ となる)。したがって写像 $\sigma(a+b\sqrt2):=a-b\sqrt2$ が定まる。$\sigma$ は加法を保ち、
$$
(a+b\sqrt2)(c+d\sqrt2)=(ac+2bd)+(ad+bc)\sqrt2,\qquad (a-b\sqrt2)(c-d\sqrt2)=(ac+2bd)-(ad+bc)\sqrt2
$$
から乗法も保つ。
2 は、単元を求めることがPell方程式 $a^2-2b^2=\pm1$ の整数解を求めることと同じであることを示している。$\varepsilon^2=3+2\sqrt2$、$\varepsilon^3=7+5\sqrt2$ はそれぞれ $3^2-2\cdot2^2=1$、$7^2-2\cdot5^2=-1$ に対応する。$\mathbb{Z}[i]^\times=\{\pm1,\pm i\}$ が有限群である(環 の記事の例(Gauss整数環と数の体))のと対照的に、$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の単元群は無限巡回群 $\langle\varepsilon\rangle$ と $\{\pm1\}$ の直積に同型である。この違いは、$\mathbb{Z}[i]$ のノルム $a^2+b^2$ が正定値で $a^2+b^2=1$ の整数解が有限個しかないのに対し、$a^2-2b^2$ は正負の値をとり、$a^2-2b^2=\pm1$ が無限個の整数解をもつことに対応している。
単元は次のように他の概念と結び付いている。
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