Hahn分解定理

同義語:Hahnの分解定理Hahn decomposition theorem

概要

Hahn分解定理(Hahn decomposition theorem)とは、$+\infty$ と $-\infty$ の一方だけを値にとりうる可算加法的な集合関数である符号付き測度 $\nu$ について、全体の集合を、すべての可測な部分集合の値が $0$ 以上である可測集合 $P$ と $0$ 以下である可測集合 $N$ に分けられる、という定理である。この分け方は、すべての可測な部分集合の値が $0$ になる集合の違いを除いて一意である。$\nu^+(E)=\nu(E\cap P)$、$\nu^-(E)=-\nu(E\cap N)$ とおくと、$\nu$ は互いに特異で少なくとも一方が有限な 2 つの測度の差 $\nu=\nu^+-\nu^-$ にただ 1 通りに書ける(Jordan 分解)。可算加法性を有限加法性に弱めると、この分解は存在しないことがある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 測度, σ-代数, Lebesgue積分

測度は集合に $0$ 以上の値を割り当てるが、電荷の分布や 2 つの確率測度の差のように、負の値もとる可算加法的な集合関数を考えたいことがある。そのような集合関数を符号付き測度(signed measure)という。Hahn 分解定理(Hahn decomposition theorem)は、符号付き測度 $\nu$ について、全体の集合 $X$ を、$\nu$ が「正の部分」としてふるまう可測集合 $P$ と「負の部分」としてふるまう可測集合 $N=X\setminus P$ に分けられる、という定理である。ここで $P$ が正の部分としてふるまうとは、$P$ に含まれるすべての可測集合の $\nu$ の値が $0$ 以上であることをいう。この分け方は一意ではないが、$\nu$ についての零集合(その中のすべての可測集合の値が $0$ である集合)の違いを除けば一意である。
Hahn 分解から、$\nu^+(E):=\nu(E\cap P)$、$\nu^-(E):=-\nu(E\cap N)$ とおくと、$\nu$ は互いに特異な 2 つの測度の差 $\nu=\nu^+-\nu^-$ に書ける(Jordan 分解)。これにより、符号付き測度の問題の多くは 2 つの測度の問題に帰着する。全変動測度 $\lvert\nu\rvert=\nu^++\nu^-$ も Jordan 分解から定まる。

符号付き測度

以下、$(X,\mathcal{S})$ を可測空間(集合 $X$ とその上の σ-代数 $\mathcal{S}$ の組)とする。$(-\infty,\infty]$ の中の和では、$\infty$ を含む和は $\infty$ と約束する。

符号付き測度

写像 $\nu\colon\mathcal{S}\to(-\infty,\infty]$ が次の 2 条件をみたすとき、$\nu$ を $(X,\mathcal{S})$ 上の符号付き測度という。

  1. $\nu(\emptyset)=0$。
  2. (可算加法性)$E_1,E_2,\ldots\in\mathcal{S}$ が互いに交わらないならば $\nu\bigl(\bigcup_nE_n\bigr)=\sum_n\nu(E_n)$。ここで右辺は、左辺が実数のときは実数の級数として収束し、左辺が $\infty$ のときは $\infty$ に等しい。
    値を $[-\infty,\infty)$ にとる写像についても同様に定め、これも符号付き測度という。

$\nu$ が $[-\infty,\infty)$ に値をとる符号付き測度であることは、$-\nu$ が $(-\infty,\infty]$ に値をとる符号付き測度であることと同じである。$+\infty$ と $-\infty$ の両方をとることは許さない。互いに交わらない $A,B$ で $\nu(A)=\infty$、$\nu(B)=-\infty$ となると、$\nu(A\cup B)$ が $\infty+(-\infty)$ になって定まらないからである。測度は符号付き測度である。
可算加法性で左辺が実数のとき、右辺の級数は絶対収束する。実際、このとき各項も実数であり、$E_n$ の番号を並べ替えても和集合は変わらないので、級数はどの並べ替えでも同じ値に収束し、Riemannの再配列定理 により絶対収束する。

測度の差と密度
  1. $\alpha,\beta$ を $(X,\mathcal{S})$ 上の測度とし、$\beta$ は有限($\beta(X)<\infty$)とすると、$\nu(E):=\alpha(E)-\beta(E)$ は $(-\infty,\infty]$ に値をとる符号付き測度である。
  2. $\mu$ を測度、$f\colon X\to[-\infty,\infty]$ を可測関数とし、$\int f^-\,d\mu<\infty$($f^\pm:=\max(\pm f,0)$)とする。$\nu(E):=\int_Ef^+\,d\mu-\int_Ef^-\,d\mu$ は 1 の形の符号付き測度である。

1 の可算加法性は、$\alpha$ と $\beta$ の可算加法性の式の差をとればよい($\beta$ の側の級数は有限の値に収束する)。2 で $E\mapsto\int_Ef^\pm\,d\mu$ が測度であることは、指示関数の部分和に Lebesgue積分 の記事の定理「単調収束定理」を当てればわかる。

正集合・負集合・零集合とHahn分解

$\nu$ を符号付き測度とする。$A\in\mathcal{S}$ が

  • 正集合であるとは、$B\subset A$ をみたすすべての $B\in\mathcal{S}$ について $\nu(B)\ge0$ であることをいう。
  • 負集合であるとは、$B\subset A$ をみたすすべての $B\in\mathcal{S}$ について $\nu(B)\le0$ であることをいう。
  • $\nu$-零集合であるとは、正集合かつ負集合であること、すなわち $B\subset A$ をみたすすべての $B\in\mathcal{S}$ について $\nu(B)=0$ であることをいう。
    $P,N\in\mathcal{S}$ が $P\cap N=\emptyset$、$P\cup N=X$ をみたし、$P$ が正集合、$N$ が負集合であるとき、組 $(P,N)$ を $\nu$ の Hahn 分解という。

$\nu(A)=0$ であっても $A$ が $\nu$-零集合とは限らない。たとえば $\mathbb{R}$ の上の $\nu:=\delta_0-\delta_1$($\delta_a$ は点 $a$ の Dirac 測度、すなわち $a\in E$ なら $\delta_a(E)=1$、そうでなければ $0$)について $\nu(\{0,1\})=0$ だが、$\nu(\{0\})=1$ である。測度については、$\nu$-零集合は測度が $0$ の可測集合のことである。

符号付き測度の基本性質

$\nu\colon\mathcal{S}\to(-\infty,\infty]$ を符号付き測度とする。

  1. $E,F\in\mathcal{S}$、$E\subset F$、$\nu(F)<\infty$ ならば $\nu(E)<\infty$ である。
  2. 正集合の可測な部分集合は正集合であり、負集合の可測な部分集合は負集合である($[-\infty,\infty)$ に値をとる符号付き測度でも同じである)。
  3. 可算個の負集合の和集合は負集合である。可算個の正集合の和集合も正集合である。

1:$\nu(F)=\nu(E)+\nu(F\setminus E)$ であり、右辺の 2 項はどちらも $-\infty$ でない。$\nu(E)=\infty$ なら $\nu(F)=\infty$ となるので、$\nu(E)<\infty$ である。
2 は定義から明らかである。
3:$A_1,A_2,\ldots$ を負集合とし、$B_1:=A_1$、$B_n:=A_n\setminus(A_1\cup\dots\cup A_{n-1})$ とおく。$B_n$ は互いに交わらず、和集合は $\bigcup_nA_n$ であり、$B_n\subset A_n$ である。可測集合 $C\subset\bigcup_nA_n$ について、$C\cap B_n\subset A_n$ なので $\nu(C\cap B_n)\le0$ であり、可算加法性により $\nu(C)=\sum_n\nu(C\cap B_n)\le0$ である。正集合についても同様である。$\square$

Hahn 分解定理

証明の鍵は、値が負の集合からは、値がそれ以下の負集合を取り出せるという補題である。負の集合の中に正の値をとる部分があれば、それを大きいものから順に取り除いていく。

負集合の取り出し

$\nu\colon\mathcal{S}\to(-\infty,\infty]$ を符号付き測度とし、$E\in\mathcal{S}$、$\nu(E)<0$ とする。このとき負集合 $A\subset E$ で $\nu(A)\le\nu(E)$ となるものがある。

$\nu(E)$ は負の実数であり、lem-hahn-basic の 1 により $E$ の可測な部分集合の値はすべて実数である。$E$ の互いに交わらない可測な部分集合 $B_1,B_2,\ldots$ と正の整数 $n_1,n_2,\ldots$ を、次のように順に選ぶ。$B_1,\dots,B_{k-1}$ まで選んだとし、$F_k:=E\setminus(B_1\cup\dots\cup B_{k-1})$ とおく($F_1=E$)。$F_k$ が負集合なら、そこで止める。そうでなければ $\nu(B)>0$ となる可測集合 $B\subset F_k$ があるので、可測集合 $B\subset F_k$ で $\nu(B)\ge1/n$ となるものがある最小の正の整数 $n$ を $n_k$ とし、そのような $B$ を 1 つ選んで $B_k$ とする。
途中で止まった場合は $A:=F_k$ とおく。$A$ は負集合で、$\nu(B_i)\ge0$ なので $\nu(A)=\nu(E)-\sum_{i< k}\nu(B_i)\le\nu(E)$ である。
止まらなかった場合は $A:=E\setminus\bigcup_kB_k$ とおく。可算加法性により $\nu(E)=\nu(A)+\sum_k\nu(B_k)$ であり、$\nu(E)$、$\nu(A)$ は実数なので $\sum_k\nu(B_k)$ は収束する。$\nu(B_k)\ge1/n_k$ なので $n_k\to\infty$ であり、$\nu(B_k)\ge0$ から $\nu(A)\le\nu(E)$ である。$A$ が負集合であることを示す。可測集合 $C\subset A$ で $\nu(C)>0$ となるものがあったとし、$\nu(C)\ge1/m$ となる正の整数 $m$ をとる。$n_k>m$ となる $k$ をとると、$C\subset A\subset F_k$ なので、$F_k$ の中に値が $1/m$ 以上の可測集合があることになり、$n_k$ の最小性に反する。$\square$

Hahn分解定理

$\nu$ を $(X,\mathcal{S})$ 上の符号付き測度とする。

  1. $\nu$ の Hahn 分解 $(P,N)$ が存在する。
  2. $(P,N)$、$(P',N')$ がともに $\nu$ の Hahn 分解ならば、対称差 $P\triangle P'=N\triangle N'$ は $\nu$-零集合である。

存在.まず $\nu$ が $(-\infty,\infty]$ に値をとる場合を示す。空集合は負集合なので、
$$ L:=\inf\{\nu(A)\mid A\text{ は負集合}\}\in[-\infty,0] $$
が定まる。負集合の列 $A_1,A_2,\ldots$ で $\nu(A_n)\to L$ となるものをとり、$N:=\bigcup_nA_n$ とおく。lem-hahn-basic の 3 により $N$ は負集合なので $\nu(N)\ge L$ である。一方、各 $n$ で $N\setminus A_n\subset N$ は負集合の部分集合なので $\nu(N\setminus A_n)\le0$ であり、$\nu(N)=\nu(A_n)+\nu(N\setminus A_n)\le\nu(A_n)$ である。$n\to\infty$ として $\nu(N)\le L$ を得る。よって $\nu(N)=L$ であり、$\nu$ は $-\infty$ をとらないので $L$ は実数である。
$P:=X\setminus N$ が正集合であることを示す。可測集合 $B\subset P$ で $\nu(B)<0$ となるものがあったとすると、lem-hahn-negative-subset により負集合 $A\subset B$ で $\nu(A)\le\nu(B)<0$ となるものがある。$N\cup A$ は負集合(lem-hahn-basic の 3)で、$A\cap N=\emptyset$ なので $\nu(N\cup A)=L+\nu(A)< L$ となり、$L$ の定義に反する。よって $(P,N)$ は Hahn 分解である。
$\nu$ が $[-\infty,\infty)$ に値をとる場合は、$-\nu$ の Hahn 分解 $(P_0,N_0)$ をとれば $(N_0,P_0)$ が $\nu$ の Hahn 分解である。
零集合を除いた一意性.$P\setminus P'=P\cap N'$ は、正集合 $P$ の部分集合なので正集合であり、負集合 $N'$ の部分集合なので負集合でもある(lem-hahn-basic の 2)。よって $\nu$-零集合である。同様に $P'\setminus P$ も $\nu$-零集合であり、$P\triangle P'$ の可測な部分集合 $C$ は $C\cap(P\setminus P')$ と $C\cap(P'\setminus P)$ の互いに交わらない和なので $\nu(C)=0$ である。$N=X\setminus P$、$N'=X\setminus P'$ なので $N\triangle N'=P\triangle P'$ である。$\square$

一意性は「零集合を除いて」までしか成り立たない。$\nu$-零集合 $Z$ があれば、Hahn 分解 $(P,N)$ から $(P\cup Z,N\setminus Z)$ も Hahn 分解になる(ex-hahn-dirac)。

Jordan 分解と全変動

2 つの測度 $\alpha,\beta$ が互いに特異であるとは、$A\cap B=\emptyset$、$A\cup B=X$ となる $A,B\in\mathcal{S}$ で $\alpha(B)=0$、$\beta(A)=0$ となるものがあることをいい、$\alpha\perp\beta$ と書く。$\alpha$ は $A$ の上に、$\beta$ は $B$ の上に載っている。

Jordan分解

$\nu$ を符号付き測度とし、$(P,N)$ をその Hahn 分解とする。$E\in\mathcal{S}$ について
$$ \nu^+(E):=\nu(E\cap P),\qquad\nu^-(E):=-\nu(E\cap N) $$
とおく。

  1. $\nu^+,\nu^-$ は測度で、$\nu=\nu^+-\nu^-$、$\nu^+\perp\nu^-$ である。$\nu$ が $-\infty$ をとらなければ $\nu^-$ は有限であり、$\nu$ が $+\infty$ をとらなければ $\nu^+$ は有限である。
  2. $\nu^+(E)=\sup\{\nu(F)\mid F\in\mathcal{S},\ F\subset E\}$、$\nu^-(E)=\sup\{-\nu(F)\mid F\in\mathcal{S},\ F\subset E\}$ である。とくに $\nu^\pm$ は Hahn 分解の選び方によらない。
  3. (一意性)$\alpha,\beta$ を測度で、少なくとも一方は有限、$\nu=\alpha-\beta$、$\alpha\perp\beta$ とすると、$\alpha=\nu^+$、$\beta=\nu^-$ である。

1:$P$ は正集合なので $\nu^+$ は $0$ 以上の値をとり、$\nu$ の可算加法性から測度である。$\nu^-$ も同様である。$\nu(E)=\nu(E\cap P)+\nu(E\cap N)=\nu^+(E)-\nu^-(E)$ であり、$\nu^+(N)=0$、$\nu^-(P)=0$ なので互いに特異である。$\nu$ が $-\infty$ をとらなければ $\nu^-(X)=-\nu(N)<\infty$ であり、もう一方も同様である。
2:$F\subset E$ が可測なら、$\nu(F)=\nu^+(F)-\nu^-(F)\le\nu^+(F)\le\nu^+(E)$ である($\nu^-(F)=\infty$ のときは $\nu(F)=-\infty$ で不等式は自明)。$F:=E\cap P$ で等号が成り立つ。$\nu^-$ も同様である。右辺は $(P,N)$ によらないので、$\nu^\pm$ も $(P,N)$ によらない。
3:$A,B$ を $\alpha\perp\beta$ を与える集合とする。可測集合 $C\subset A$ について $\beta(C)\le\beta(A)=0$ なので $\nu(C)=\alpha(C)\ge0$ であり、$C\subset B$ については $\nu(C)=-\beta(C)\le0$ である。よって $(A,B)$ は $\nu$ の Hahn 分解であり、2 により $\nu^+(E)=\nu(E\cap A)=\alpha(E\cap A)=\alpha(E)$($\alpha(E\cap B)=0$ による)である。同様に $\nu^-=\beta$ である。$\square$

全変動測度

符号付き測度 $\nu$ について、測度 $\lvert\nu\rvert:=\nu^++\nu^-$ を $\nu$ の全変動測度といい、$\lvert\nu\rvert(X)$ を $\nu$ の全変動という。

全変動の性質

$\nu$ を符号付き測度、$E\in\mathcal{S}$ とする。

  1. $\lvert\nu\rvert(E)=\sup\Bigl\{\sum_{i=1}^m\lvert\nu(E_i)\rvert\Bigm|E_1,\dots,E_m\in\mathcal{S}\text{ は互いに交わらず }E_1\cup\dots\cup E_m=E\Bigr\}$ である。
  2. $\lvert\nu(E)\rvert\le\lvert\nu\rvert(E)$ である。
  3. $E$ が $\nu$-零集合であることと、$\lvert\nu\rvert(E)=0$ であることは同値である。

1:各 $i$ で $\lvert\nu(E_i)\rvert=\lvert\nu^+(E_i)-\nu^-(E_i)\rvert\le\nu^+(E_i)+\nu^-(E_i)$ なので、和は $\lvert\nu\rvert(E)$ 以下である。分割 $E\cap P$、$E\cap N$ では $\lvert\nu(E\cap P)\rvert+\lvert\nu(E\cap N)\rvert=\nu^+(E)+\nu^-(E)$ となり、上限に達する。2 は 1 で $m=1$ とした場合である。3:$\lvert\nu\rvert(E)=0$ なら、可測集合 $C\subset E$ について 2 により $\lvert\nu(C)\rvert\le\lvert\nu\rvert(C)\le\lvert\nu\rvert(E)=0$ である。逆に $E$ が $\nu$-零集合なら $\nu^+(E)=\nu(E\cap P)=0$、$\nu^-(E)=-\nu(E\cap N)=0$ である。$\square$

1 の右辺とそれに同値な形は、有限な符号付き測度の全変動の定義としてよく使われる(Radon測度 の記事の定義「符号付き測度と全変動」、Axler20 9.8・9.9)。

例

密度で与えられる符号付き測度

$\mu$ を測度、$f\colon X\to[-\infty,\infty]$ を可測関数で $\int f^-\,d\mu<\infty$ とし、$\nu(E):=\int_Ef^+\,d\mu-\int_Ef^-\,d\mu$ とおく(ex-hahn-difference の 2)。このとき $P:=\{f\ge0\}$、$N:=\{f<0\}$ は $\nu$ の Hahn 分解であり、
$$ \nu^+(E)=\int_Ef^+\,d\mu,\qquad\nu^-(E)=\int_Ef^-\,d\mu,\qquad\lvert\nu\rvert(E)=\int_E\lvert f\rvert\,d\mu $$
である。

確かめる

可測集合 $B\subset P$ では $f^-=0$ なので $\nu(B)=\int_Bf^+\,d\mu\ge0$、$B\subset N$ では $f^+=0$ なので $\nu(B)=-\int_Bf^-\,d\mu\le0$ である。$\nu^+(E)=\nu(E\cap P)=\int_{E\cap P}f^+\,d\mu=\int_Ef^+\,d\mu$($N$ の上で $f^+=0$)であり、$\nu^-$ も同様である。最後の式は $\lvert f\rvert=f^++f^-$ と積分の線形性による。

$\{f=0\}$ は $\nu$-零集合であり、その任意の可測な部分集合を $P$ から $N$ に移しても Hahn 分解のままである。

点の質量の差

$\mathbb{R}$ の Borel 集合全体の上で $\nu:=\delta_0-\delta_1$ とする。$0\in P$、$1\notin P$ をみたす任意の Borel 集合 $P$ について、$(P,\mathbb{R}\setminus P)$ は $\nu$ の Hahn 分解である。2 つの Hahn 分解の正集合の対称差は $\{0,1\}$ と交わらず、$\mathbb{R}\setminus\{0,1\}$ は $\nu$-零集合なので、thm-hahn-main の 2 と合っている。Jordan 分解は $\nu^+=\delta_0$、$\nu^-=\delta_1$、全変動は $\lvert\nu\rvert(\mathbb{R})=2$ である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
可算加法性(有限加法性だけにする)$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ 上の $\sum_{n\in E}2^{-n-1}-2\cdot1_U(E)$($U$ は非主超フィルター)Hahn 分解の存在
$\alpha\perp\beta$(Jordan 分解の一意性で)$\lambda$ の制限による $\nu=\lambda_{[0,1]}-\lambda_{[1,2]}$ の 2 通りの表し方差としての表し方の一意性
反例:有限加法的だが可算加法的でない集合関数

$\mathbb{N}=\{0,1,2,\ldots\}$ の上の非主超フィルター $U$ を 1 つとる(超フィルター の記事の定理「超フィルターへの拡張」。選択公理を使う)。$\mathcal{P}(\mathbb{N})$ の上で
$$ \nu(E):=\sum_{n\in E}2^{-n-1}-2\cdot1_U(E) $$
とおく。ここで $1_U(E)$ は、$E\in U$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。$\nu$ は有限加法的で値は実数だが、Hahn 分解をもたない。

確かめる

有限加法性:第 1 項は可算加法的である。$E\mapsto1_U(E)$ は、互いに交わらない $E,F$ について $1_U(E\cup F)=1_U(E)+1_U(F)$ をみたす(超フィルター の記事の命題「超フィルターと二値測度」)。

Hahn 分解がないこと:$(P,N)$ を、$\mathbb{N}$ の互いに交わらない 2 つの部分集合で和が $\mathbb{N}$ のものとする。超フィルターの性質から $P$ と $N$ のちょうど一方が $U$ に属する。$P\in U$ なら $\nu(P)\le\sum_n2^{-n-1}-2=-1<0$ なので、$P$ は正集合でない。$N\in U$ なら、非主超フィルターは有限集合を含まないので(超フィルター の記事の命題「有限集合を含めば主」)$N$ は空でなく、$n\in N$ について $\{n\}\notin U$ から $\nu(\{n\})=2^{-n-1}>0$ となり、$N$ は負集合でない。

可算加法的でないこと:$\nu(\mathbb{N})=1-2=-1$ だが、$\sum_n\nu(\{n\})=\sum_n2^{-n-1}=1$ である。

満たさない性質は可算加法性、破る含意は「有限加法的で実数値の集合関数は Hahn 分解をもつ」である。Hahn 分解定理の証明で可算加法性を使うのは、lem-hahn-basic の 3(負集合の可算個の和)と lem-hahn-negative-subset の取り除きの極限である。

反例:互いに特異でない差

$\lambda$ を $\mathbb{R}$ の Lebesgue 測度とし、Borel 集合 $I$ について $\lambda_I(E):=\lambda(E\cap I)$ と書く。$\nu:=\lambda_{[0,1]}-\lambda_{[1,2]}$ は
$$ \nu=\bigl(\lambda_{[0,1]}+\lambda_{[2,3]}\bigr)-\bigl(\lambda_{[1,2]}+\lambda_{[2,3]}\bigr) $$
とも書ける。どちらの表し方も有限な測度の差だが、後者の 2 つの測度は $[2,3]$ の上でともに正なので互いに特異でない。満たさない性質は $\alpha\perp\beta$、破る含意は「$\nu=\alpha-\beta$ と有限な測度の差に書けば $\alpha=\nu^+$ である」である。$\nu^+=\lambda_{[0,1]}$ であり、一般に $\nu=\alpha-\beta$ なら $\alpha\ge\nu^+$、$\beta\ge\nu^-$ である(thm-hahn-jordan の 2 から $\nu^+(E)=\sup_{F\subset E}(\alpha(F)-\beta(F))\le\alpha(E)$)。

補足

  • Radon–Nikodym の定理との関係:$\nu$ が有限な符号付き測度で、σ-有限な測度 $\mu$ について「$\mu(E)=0$ なら $\nu(E)=0$」をみたすとき、Jordan 分解の $\nu^+,\nu^-$ にそれぞれ Radon–Nikodymの定理 を当てると、$\nu$ は ex-hahn-density の形に書ける(同記事の注意「符号付き測度・Lebesgue分解・双対性」)。
  • 双対空間:コンパクト距離空間 $X$ の上の連続関数の空間の双対空間は、全変動をノルムとする有限な符号付き Borel 測度の空間と同一視できる(Radon測度 の記事の定理「C(X)の双対空間」)。
  • 関数の Jordan 分解:有界変動関数を 2 つの単調増加関数の差に書く分解も Jordan 分解と呼ばれる(単調関数 の記事の定理「Jordan 分解」)。この記事の分解は集合関数についてのものである。
  • 文献:符号付き測度を $(-\infty,\infty]$ に値をとる集合関数として扱う流儀は Bass24 Definition 12.1(p. 103)にあり、負集合の取り出しは Proposition 12.4(pp. 104–105)、Hahn 分解定理は Theorem 12.5(pp. 105–106)、Jordan 分解は Theorem 12.8(pp. 107–108)にある。Axler20 9.23(p. 267)は有限な符号付き測度について、$\nu$ の値の上限を与える集合を作る別の証明を与えている。

関連項目

参考文献

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