Schur多重ゼータ値

同義語:Schur multiple zeta valueSchur multiple zeta values

概要

Schur多重ゼータ値(Schur multiple zeta value)とは、歪 Young 図形の各箱に正の整数の指数を置き、行で広義・列で狭義に増える正の整数の書き込み(半標準盤)すべてにわたって、成分の指数乗の逆数の積を足し合わせた値である。1 列なら多重ゼータ値、1 行なら多重ゼータスター値になり、有限個の多重ゼータ値の和に分解する。正の整数の指数では、収束するのは角の指数がすべて $2$ 以上のときに限る。指数が対角線ごとに一定で各行の右端の指数が $2$ 以上なら、多重ゼータスター値を成分とする行列式で表す Jacobi–Trudi の公式が成り立ち、系として多重ゼータ値の行列式表示が得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多重ゼータ値, 多重ゼータスター値, Young図形, 行列式

多重ゼータ値 $\zeta(k_1,\dots,k_r)=\sum_{0< n_1<\cdots< n_r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$ と 多重ゼータスター値 $\zeta^\star(k_1,\dots,k_r)=\sum_{0< n_1\le\cdots\le n_r}n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}$ は、和をとる変数の並びに「狭義に増える」か「広義に増える」かの条件を課す点だけが違う。Young 図形の箱に変数を置き、行では広義に、列では狭義に増えるという Schur多項式 の半標準盤の条件を課すと、両者を特別な場合として含む和が得られる。これが Schur 多重ゼータ値(Schur multiple zeta value)であり、中筋麻貴(Maki Nakasuji)・O. Phuksuwan・山崎義徳(Yoshinori Yamasaki)が導入した(NPY18)。
この記事では Schur 多重ゼータ値を歪 Young 図形の上で定義し、それが有限個の多重ゼータ値の和に分解すること(prop-smzv-decomposition)と、収束の必要十分条件が「角の指数が $2$ 以上」であること(thm-smzv-convergence)を示す。さらに、指数が対角線ごとに一定のとき、Schur 多重ゼータ値が多重ゼータスター値を成分とする行列式で書けるという Jacobi–Trudi の公式(thm-smzv-jacobi-trudi)を、格子路の数え上げで証明する。系として、多重ゼータ値を多重ゼータスター値の行列式で表す公式が得られる。

定義

分割、Young 図形、角(右にも下にも箱がない箱)は Young図形 の記事の定義に従い、箱 $(i,j)$ は第 $i$ 行・第 $j$ 列(行は上から下、列は左から右へ番号が増える)とする。分割 $\mu\subseteq\lambda$ に対し、$D=\lambda/\mu:=D(\lambda)\setminus D(\mu)$ を歪 Young 図形という($\mu=\emptyset$ なら $D(\lambda)$ そのもの)。$D$ の第 $i$ 行は $\mu_i< j\le\lambda_i$ を満たす箱 $(i,j)$ の全体で、横に連続している。$D$ の箱で、右の箱 $(i,j+1)$ も下の箱 $(i+1,j)$ も $D$ に入らないものを $D$ の角という。

Schur 多重ゼータ値の定義

空でない歪 Young 図形 $D$ の各箱 $x$ に正の整数 $m_x$ を書き込んだもの $M=(m_x)_{x\in D}$ が、各行で左から右へ広義に増加し($m_{(i,j)}\le m_{(i,j+1)}$)、各列で上から下へ狭義に増加する($m_{(i,j)}< m_{(i+1,j)}$)とき、$M$ を $D$ の半標準盤といい、その全体を $\mathrm{SSYT}(D)$ と書く。各箱 $x$ に正の整数 $k_x$ を置いたもの $\boldsymbol k=(k_x)_{x\in D}$(指数)に対し、
$$ \zeta_D(\boldsymbol k):=\sum_{M\in\mathrm{SSYT}(D)}\prod_{x\in D}\frac1{m_x^{k_x}}\in[0,\infty] $$
を Schur 多重ゼータ値という。$D=D(\lambda)$ のときは $\zeta_\lambda(\boldsymbol k)$ とも書き、指数を Young 図形の形に並べて書くこともある。

和は正の項の和なので、項の並べ方によらず $[0,\infty]$ の値が定まる。正の整数の代わりに複素数を指数にとった関数は Schur 多重ゼータ関数とよばれ、NPY18 Lemma 2.1(p. 6)は、角では実部が $1$ より大きく、ほかの箱では $1$ 以上のとき絶対収束することを示している。歪 Young 図形への拡張は同論文の §4.1(p. 20)にある。

1 列と 1 行
  1. $\lambda=(1^n)=(1,\dots,1)$($n$ 個の箱が縦に並ぶ)で、上から指数 $k_1,\dots,k_n$ を置くと、半標準盤は $m_1<\cdots< m_n$ なので $\zeta_\lambda(\boldsymbol k)=\zeta(k_1,\dots,k_n)$ である。
  2. $\lambda=(n)$(横に並ぶ)で、左から $k_1,\dots,k_n$ を置くと、条件は $m_1\le\cdots\le m_n$ なので $\zeta_\lambda(\boldsymbol k)=\zeta^\star(k_1,\dots,k_n)$ である。
  3. $\lambda=(2,1)$ で第 1 行に $a,b$、第 2 行に $c$ を置くと、半標準盤は $m_{11}\le m_{12}$、$m_{11}< m_{21}$ を満たす 3 つ組で、
    $$ \zeta_{(2,1)}\begin{pmatrix}a&b\\c&\end{pmatrix}=\sum_{\substack{m_{11}\le m_{12}\\ m_{11}< m_{21}}}\frac1{m_{11}^{a}\,m_{12}^{b}\,m_{21}^{c}} $$
    である。

多重ゼータ値への分解

半標準盤の成分には等しいものがあってよいので、成分の大小関係で場合を分けると、Schur 多重ゼータ値は多重ゼータ値の和に分かれる。

多重ゼータ値の和への分解

空でない歪 Young 図形 $D$ について、正の整数 $r$ と全射 $f\colon D\to\{1,\dots,r\}$ の組 $(r,f)$ で、$D$ の中で隣り合う箱について $f(i,j)\le f(i,j+1)$ かつ $f(i,j)< f(i+1,j)$ を満たすものの全体を $\mathcal R(D)$ とする。$\mathcal R(D)$ は有限集合で、指数 $\boldsymbol k$ について
$$ \zeta_D(\boldsymbol k)=\sum_{(r,f)\in\mathcal R(D)}\zeta(K_1,\dots,K_r),\qquad K_s:=\sum_{f(x)=s}k_x $$
が $[0,\infty]$ の等式として成り立つ。

$r\le\lvert D\rvert$ で、$D$ から $\{1,\dots,r\}$ への写像は有限個なので $\mathcal R(D)$ は有限である。$M\in\mathrm{SSYT}(D)$ に現れる値を小さい順に $n_1<\cdots< n_r$ とし、$m_x=n_{f(x)}$ で $f$ を定めると、$f$ は全射で、$M$ の行と列の条件から $(r,f)\in\mathcal R(D)$ である。逆に $(r,f)\in\mathcal R(D)$ と $0< n_1<\cdots< n_r$ から $m_x:=n_{f(x)}$ とおくと、$n_s$ が狭義に増えるので $M$ は半標準盤になる。この 2 つの対応は互いに逆であり、$\mathrm{SSYT}(D)$ は組 $\bigl((r,f),(n_1<\cdots< n_r)\bigr)$ の全体と一対一に対応する。このとき $\prod_xm_x^{-k_x}=\prod_{s=1}^rn_s^{-K_s}$ なので、正の項の和を $(r,f)$ ごとにまとめると主張の式を得る。$\square$

NPY18 の式 (2.2)(p. 7)は、同じ分解を全単射 $f$ と隣り合う成分の和の言葉で述べている。1 行の場合は、多重ゼータスター値 の命題「縮約インデックスによる表示」そのものである。

形 (2,1) の分解

ex-smzv-row-column の 3 で $a=1$、$b=c=2$ とする。箱 $(1,1)$ は他のどの箱以下でもあるので $f(1,1)=1$ である。$(1,2)$ と $(2,1)$ の値の大小で分けると、$(r,f)$ は「$f(1,2)=1$、$f(2,1)=2$」「$f(1,2)=f(2,1)=2$」「$f(1,2)=2$、$f(2,1)=3$」「$f(2,1)=2$、$f(1,2)=3$」の 4 つで、
$$ \zeta_{(2,1)}\begin{pmatrix}1&2\\2&\end{pmatrix}=\zeta(3,2)+\zeta(1,4)+2\,\zeta(1,2,2) $$
となる。右辺の各項は最後の成分が $2$ 以上なので収束する。

収束

収束の必要十分条件

空でない歪 Young 図形 $D$ と指数 $\boldsymbol k$(各 $k_x$ は正の整数)について、$\zeta_D(\boldsymbol k)<\infty$ となることと、$D$ のすべての角 $c$ で $k_c\ge2$ であることは同値である。

角の条件があれば収束すること。$(r,f)\in\mathcal R(D)$ をとる。$f(x)=r$ となる箱 $x=(i,j)$ をとり、$x$ と同じ行の右端の箱を $y=(i,j')$ とする。行の条件から $f(y)\ge f(x)=r$ なので $f(y)=r$ である。$y$ の下の箱が $D$ にあれば、列の条件からその値は $r$ より大きくなるが、そのような値はない。$y$ の右の箱は $D$ にない。よって $y$ は角であり、$K_r\ge k_y\ge2$ である。各 $K_s$ は正の整数なので、多重ゼータ値 の命題「収束条件」により $\zeta(K_1,\dots,K_r)$ は収束する。prop-smzv-decomposition の和は有限和なので、$\zeta_D(\boldsymbol k)<\infty$ である。
収束すれば角の条件が成り立つこと。ある角 $c$ で $k_c=1$ とする。$m^0_{(i,j)}:=i$ とおくと、行で一定、列で狭義に増加するので $M^0\in\mathrm{SSYT}(D)$ である。$c$ の右と下に箱はないので、$M^0$ の $c$ の成分を $m^0_c$ 以上の任意の整数 $n$ に替えても半標準盤のままである(左の箱の値は $m^0_c$ 以下、上の箱の値は $m^0_c$ 未満)。よって
$$ \zeta_D(\boldsymbol k)\ge\prod_{x\ne c}\frac1{(m^0_x)^{k_x}}\sum_{n\ge m^0_c}\frac1n=\infty $$
である。$\square$

指数を正の整数に限ったので、収束の条件は角だけで決まる。1 列の場合は「最後の成分が $2$ 以上」という多重ゼータ値の許容条件に、1 行の場合は多重ゼータスター値の同じ条件に一致する。

Jacobi–Trudi の公式

Schur多項式 の定理「Jacobi–Trudi の公式」は、Schur 多項式を完全対称多項式の行列式で表す。Schur 多重ゼータ値でも、指数が対角線ごとに一定なら、完全対称多項式の役を多重ゼータスター値が担う同じ形の公式が成り立つ。
以下、長さ $\ell$ の分割 $\lambda=(\lambda_1\ge\cdots\ge\lambda_\ell>0)$ を固定する。箱 $(i,j)$ の内容を $j-i$ とよぶ。指数 $\boldsymbol k$ が対角線ごとに一定であるとは、整数 $t$ ごとの正の整数 $a_t$ があって、すべての箱で $k_{(i,j)}=a_{j-i}$ となることをいう($a_t$ を使うのは $1-\ell\le t\le\lambda_1-1$ の範囲だけである)。整数 $u,w$ に対し
$$ Z(u,w):=\begin{cases}\zeta^\star(a_u,a_{u+1},\dots,a_w)&(w\ge u),\\ 1&(w=u-1),\\ 0&(w< u-1)\end{cases} $$
とおく。

Schur 多重ゼータ値の Jacobi–Trudi の公式

指数 $\boldsymbol k$ は対角線ごとに一定で $k_{(i,j)}=a_{j-i}$ とし、各行の右端の箱で $a_{\lambda_i-i}\ge2$($1\le i\le\ell$)とする。このとき行列式の各成分は収束し、
$$ \zeta_\lambda(\boldsymbol k)=\det\bigl(Z(1-j,\ \lambda_i-i)\bigr)_{1\le i,j\le\ell} $$
が成り立つ。

角は行の右端の箱なので、仮定のもとで thm-smzv-convergence により左辺も収束する。成分 $Z(1-j,\lambda_i-i)$ は、内容 $1-j$ から $\lambda_i-i$ までの $a_t$ を順に並べた深さ $\lambda_i-i+j$ の多重ゼータスター値である。

成分の収束。$Z(1-j,\lambda_i-i)$ が多重ゼータスター値のとき、最後の成分は $a_{\lambda_i-i}\ge2$ なので、多重ゼータスター値 の命題「縮約インデックスによる表示」と 多重ゼータ値 の命題「収束条件」により収束する。
有限の場合。正の整数 $N$ を固定し、成分が $N$ 以下の半標準盤だけにわたる和を $\zeta^{(N)}_\lambda(\boldsymbol k)$、$Z(u,w)$ の和の変数を $N$ 以下に制限したものを $Z_N(u,w)$ とする($Z_N(u,u-1)=1$、$w< u-1$ なら $0$)。
$$ \zeta^{(N)}_\lambda(\boldsymbol k)=\det\bigl(Z_N(1-j,\ \lambda_i-i)\bigr)_{1\le i,j\le\ell} $$
を Lindström–Gessel–Viennotの補題 で示す。格子点 $\mathbb Z\times\{1,\dots,N\}$ を頂点とし、東向きの辺 $(x,y)\to(x+1,y)$ に重み $y^{-a_{x+1}}$、北向きの辺 $(x,y)\to(x,y+1)$ に重み $1$ を与える。始点を $A_i:=(-i,1)$、終点を $B_j:=(\lambda_j-j,N)$ とする。$A_i$ から $B_j$ への格子路は、$x=-i$ から $x=\lambda_j-j$ まで東へ $\lambda_j-j+i$ 歩進み、$x$ から $x+1$ への歩みの高さ $y_x$ は $x$ について広義に増加する。逆にそのような高さの列から格子路がただ 1 つ決まる。重みは $\prod_xy_x^{-a_{x+1}}$ で、$t=x+1$ は $1-i$ から $\lambda_j-j$ まで動くので、道の重みの和は $Z_N(1-i,\lambda_j-j)$ である(歩数 $0$ なら北へ進むだけの 1 本で重み $1$、負なら道はない)。始点の $x$ 座標 $-i$ も終点の $x$ 座標 $\lambda_j-j$ も添字について狭義に減少するので、同記事の命題「平面で始点と終点が両立する条件」と定理「Lindström–Gessel–Viennot の補題」により、$\det\bigl(Z_N(1-i,\lambda_j-j)\bigr)_{i,j}$ は、交わらない格子路の組 $P_i\colon A_i\to B_i$($1\le i\le\ell$)の重みの和に等しい。この行列式を転置したものが示すべき等式の右辺である。
$P_i$ は東へちょうど $\lambda_i$ 歩進む。その $k$ 歩目($x=-i+k-1$ から $-i+k$ への辺)の高さを $T(i,k)$ とすると、その重みは $T(i,k)^{-a_{k-i}}=T(i,k)^{-k_{(i,k)}}$ である。こうして交わらない組 $(P_1,\dots,P_\ell)$ と、各行が広義増加で成分が $N$ 以下の配置 $T$ で「各列が狭義増加」のもの、すなわち成分が $N$ 以下の半標準盤とが一対一に対応する。この対応は、同記事の定理「半標準盤の母関数と Jacobi–Trudi の行列式」の証明で作ったもの(始点と終点も同じ)で、辺の重みには関係しない。組の重みは盤 $T$ の項 $\prod_xT_x^{-k_x}$ に等しいので、有限の場合の等式が成り立つ。
極限。$N\to\infty$ のとき、各 $Z_N(u,w)$ は増加して $Z(u,w)$ に収束し、行列式は成分の多項式なので 有限の場合の等式の右辺は $\det(Z(1-j,\lambda_i-i))$ に収束する。左辺は正の項の和を増大する有限集合の上でとったもので、その和集合は $\mathrm{SSYT}(\lambda)$ 全体なので、$\zeta_\lambda(\boldsymbol k)$ に収束する。$\square$

この公式は NPY18 Theorem 1.1 の (1)(p. 3)で、同論文はほかに、多重ゼータ値を成分とする E 型の公式
$$ \zeta_\lambda(\boldsymbol k)=\det\bigl(\zeta(a_{j-1},a_{j-2},\dots,a_{j-(\lambda'_i-i+j)})\bigr)_{1\le i,j\le\lambda_1} $$
($\lambda'$ は共役分割、各列の下端の箱で $a\ge2$ を仮定する。深さ $0$ の成分は $1$、負なら $0$)を Theorem 1.1 の (2) として示している。この記事では E 型の公式は証明しない。対角線ごとに一定という仮定を外したとき、同じ形の行列式で書ける例と書けそうにない例が、同論文の Remark 3.10(p. 16)に挙がっている。

多重ゼータ値の行列式表示

正の整数 $k_1,\dots,k_n$ がすべて $2$ 以上なら、
$$ \zeta(k_1,\dots,k_n)=\det\begin{pmatrix} \zeta(k_1)&\zeta^\star(k_2,k_1)&\zeta^\star(k_3,k_2,k_1)&\cdots&\zeta^\star(k_n,\dots,k_1)\\ 1&\zeta(k_2)&\zeta^\star(k_3,k_2)&\cdots&\zeta^\star(k_n,\dots,k_2)\\ 0&1&\zeta(k_3)&\cdots&\zeta^\star(k_n,\dots,k_3)\\ \vdots&&\ddots&\ddots&\vdots\\ 0&\cdots&0&1&\zeta(k_n) \end{pmatrix} $$
が成り立つ。$(i,j)$ 成分は、$j\ge i$ なら $\zeta^\star(k_j,k_{j-1},\dots,k_i)$、$j=i-1$ なら $1$、$j< i-1$ なら $0$ である。

$\lambda=(1^n)$ とし、第 $i$ 行の箱 $(i,1)$(内容 $1-i$)に $k_i$ を置く。どの対角線にも箱は 1 つなので指数は対角線ごとに一定で、$a_{1-i}=k_i$ である。各行の右端は $(i,1)$ で、仮定 $k_i\ge2$ が thm-smzv-jacobi-trudi の仮定になる。ex-smzv-row-column の 1 により左辺は $\zeta(k_1,\dots,k_n)$ である。右辺の成分 $Z(1-j,1-i)$ は、$j\ge i$ なら $\zeta^\star(a_{1-j},\dots,a_{1-i})=\zeta^\star(k_j,\dots,k_i)$、$j=i-1$ なら $1$、$j< i-1$ なら $0$ である。$\square$

小さい場合の確かめ
  1. cor-smzv-mzv-determinant で $n=2$ とすると $\zeta(k_1,k_2)=\zeta(k_1)\zeta(k_2)-\zeta^\star(k_2,k_1)$ である。
  2. $\lambda=(2,1)$ で第 1 行に $a,b$、第 2 行に $c$ を置く(内容は $0,1,-1$ で、$a_0=a$、$a_1=b$、$a_{-1}=c$)。$b,c\ge2$ なら thm-smzv-jacobi-trudi により
    $$ \zeta_{(2,1)}\begin{pmatrix}a&b\\c&\end{pmatrix}=\det\begin{pmatrix}\zeta^\star(a,b)&\zeta^\star(c,a,b)\\1&\zeta(c)\end{pmatrix}=\zeta^\star(a,b)\,\zeta(c)-\zeta^\star(c,a,b) $$
    である。
直接の確かめを開く

1:$\zeta(k_1)\zeta(k_2)$ は $m_1,m_2$ の大小で $m_1< m_2$、$m_1>m_2$、$m_1=m_2$ に分かれ、$\zeta(k_1,k_2)+\zeta(k_2,k_1)+\zeta(k_1+k_2)$ に等しい。一方 $\zeta^\star(k_2,k_1)=\zeta(k_2,k_1)+\zeta(k_1+k_2)$ なので、差は $\zeta(k_1,k_2)$ である。2:$\zeta^\star(a,b)\zeta(c)$ は $x\le y$ と任意の $z$ にわたる $x^{-a}y^{-b}z^{-c}$ の和で、$\zeta^\star(c,a,b)$ はそのうち $z\le x$ の部分である。差は $x\le y$、$x< z$ にわたる和で、$m_{11}=x$、$m_{12}=y$、$m_{21}=z$ とおけば左辺に一致する。

例と反例

thm-smzv-convergence と thm-smzv-jacobi-trudi の仮定は外せない。表の各行は仮定を 1 つだけ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
指数がすべて正の整数$\lambda=(2)$、指数 $(0,2)$thm-smzv-convergence:角の指数は $2$ なのに発散する
角の指数が $2$ 以上$\lambda=(1)$、指数 $1$収束:$\zeta_{(1)}(1)=\sum_n\frac1n=\infty$
各行の右端で $a_{\lambda_i-i}\ge2$$\lambda=(1,1)$、上から指数 $1,2$($a_0=1$、$a_{-1}=2$)thm-smzv-jacobi-trudi:左辺 $\zeta(1,2)$ は収束するが、右辺の成分 $\zeta(1)$ と $\zeta^\star(2,1)$ が発散する
表の反例の確かめ

1 行目:和は $\sum_{m_1\le m_2}m_2^{-2}=\sum_{m_2\ge1}m_2\cdot m_2^{-2}=\sum_{m_2}\frac1{m_2}=\infty$ である(定義の $k_x$ を $0$ に広げて読んだもの)。3 行目:角は $(2,1)$ だけなので thm-smzv-convergence により左辺は収束し、Euler の等式により $\zeta(1,2)=\zeta(3)$ である(多重ゼータ値 の例「深さ1と重さ2、3の値」)。右辺の行列式は $\zeta(1)\zeta(2)-\zeta^\star(2,1)$ の形で、$\zeta^\star(2,1)=\sum_{m_1\le m_2}m_1^{-2}m_2^{-1}$ は最後の指数が $1$ なので発散する。

関連項目

参考文献

[1]
Maki Nakasuji, Ouamporn Phuksuwan, Yoshinori Yamasaki, On Schur multiple zeta functions: A combinatoric generalization of multiple zeta functions, Advances in Mathematics, 2018, pp. 570–619。番号と頁は arXiv:1704.08511v3 による:Theorem 1.1(p. 3、Jacobi–Trudi の公式の H 型 (1) と E 型 (2))、Corollary 1.2(p. 4)、§2.2 と Lemma 2.1(pp. 5–6、定義と収束域)、式 (2.2)(p. 7、多重ゼータ値の和への分解)、Remark 3.10(p. 16)、§4.1(p. 20、歪 Young 図形の場合)

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