超越次数

同義語:transcendence degree

概要

超越次数(transcendence degree)とは、体の拡大 $L/K$ について、$K$ 上代数的に独立な元の集まり $B$ で $L$ が $K(B)$ 上代数的になるもの(超越基底)の濃度のことで、$\operatorname{trdeg}_KL$ と書く。超越基底は存在し、その濃度はとり方によらない。ベクトル空間の次元の多項式版であり、有理関数体 $K(x_1,\dots,x_n)$ の超越次数は $n$、代数拡大の超越次数は $0$、$\mathbb{C}$ の $\mathbb{Q}$ 上の超越次数は連続体濃度である。塔 $K\subset L\subset M$ について加法的で、体上有限生成な整域の Krull 次元はその商体の超越次数に等しいので、代数多様体の次元を関数体の言葉で与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体の拡大, 多項式環, 有理関数体, 基底と次元, Zornの補題

定義

体の拡大 $L/K$ の「超越的な大きさ」を測る量が超越次数である。ベクトル空間の次元が線形独立な元の最大個数であるのと同じように、超越次数は「$K$ 上で多項式の関係を 1 つも満たさない元」の最大個数として定める。
$L/K$ を体の拡大とする。$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であるとは、$f(\alpha)=0$ となる $0$ でない多項式 $f\in K[x]$ が存在することをいい、そうでないとき超越的という。$L$ のすべての元が $K$ 上代数的であるとき $L/K$ を代数拡大という(体の拡大 の記事の定義「代数的元と超越的元」)。部分集合 $S\subset L$ に対し、$K\cup S$ を含む $L$ の最小の部分体を $K(S)$ と書く。$K(S)$ の元は、$S$ の有限個の元 $s_1,\dots,s_n$ と多項式 $p,q\in K[x_1,\dots,x_n]$($q(s_1,\dots,s_n)\neq0$)によって $p(s_1,\dots,s_n)/q(s_1,\dots,s_n)$ と書ける元にほかならない(この形の元の全体は $K\cup S$ を含む部分体であり、$K\cup S$ を含む部分体はこれらをすべて含む)。

代数的に独立な部分集合

$L/K$ を体の拡大とする。相異なる $n$ 個の元 $s_1,\dots,s_n\in L$ が $K$ 上代数的に独立(algebraically independent)であるとは、$p(s_1,\dots,s_n)=0$ を満たす多項式 $p\in K[x_1,\dots,x_n]$ が $p=0$ に限ることをいう。すなわち代入による環準同型
$$ K[x_1,\dots,x_n]\to L,\qquad p\mapsto p(s_1,\dots,s_n) $$
が単射であることをいう。部分集合 $S\subset L$(無限集合でもよい)が $K$ 上代数的に独立であるとは、$S$ の相異なる有限個の元がいつも $K$ 上代数的に独立であることをいう。代数的に独立でないとき代数的に従属という。

空集合は代数的に独立である。1 元集合 $\{s\}$ が代数的に独立であることは、$s$ が $K$ 上超越的であることにほかならない。代数的に独立な集合の部分集合は代数的に独立である。$\{s_1,\dots,s_n\}$ が代数的に独立なら、代入写像は多項式環からの同型 $K[x_1,\dots,x_n]\cong K[s_1,\dots,s_n]$ を与え、商体に延びて $K(x_1,\dots,x_n)\cong K(s_1,\dots,s_n)$ となる(無限集合 $S$ でも、$S$ で添字づけた変数の有理関数体と $K(S)$ が同様に同型になる)。このように、代数的に独立な集合 $S$ によって $L=K(S)$ と書ける拡大を純超越拡大という。

超越基底と超越次数

$L/K$ を体の拡大とする。部分集合 $B\subset L$ が $L/K$ の超越基底(transcendence basis)であるとは、$B$ が $K$ 上代数的に独立であり、かつ $L/K(B)$ が代数拡大であることをいう。超越基底は存在し(prop-transcendence-degree-existence)、その基数(濃度)は超越基底のとり方によらない(thm-transcendence-degree-well-defined)。この基数を $L/K$ の超越次数(transcendence degree)といい、$\operatorname{trdeg}_KL$ と書く。

超越基底は $L$ を「生成」する必要はない。要求されるのは、$L$ が $K(B)$ の上で代数的であることだけである(ex-transcendence-degree-not-generating)。$B=\emptyset$ は $K(\emptyset)=K$ なので、$L/K$ が代数拡大であるとき、かつそのときに限り超越基底である。したがって代数拡大の超越次数は $0$ であり、逆に超越次数 $0$ の拡大は代数拡大である(超越基底がすべて空集合になるから)。

直感

ベクトル空間の基底は「線形関係を満たさず、しかも残りの元がすべてその線形結合で書ける」元の集まりであった。超越基底では、線形関係を多項式の関係に、「線形結合で書ける」を「代数的である」に置き換える。たとえば $K(x,y)$ は 2 つの独立な変数をもち、$K(x,\sqrt{x^3+1})$ は $x$ を決めると残りが 2 次方程式で決まるので独立な変数は 1 つだけである。超越次数はこの「自由に動かせる変数の個数」であり、代数多様体の関数体では多様体の次元に一致する(rem-transcendence-degree-dimension)。ベクトル空間の場合と同じく、基底の個数が一定であることの証明には「交換」の議論を使う。

例と反例

多変数の有理関数の体

$K$ 上の $n$ 変数の多項式環 $K[x_1,\dots,x_n]$ の商体 $K(x_1,\dots,x_n)$ を考える。$p(x_1,\dots,x_n)$ は多項式 $p$ そのものなので、$p(x_1,\dots,x_n)=0$ なら $p=0$ であり、$\{x_1,\dots,x_n\}$ は $K$ 上代数的に独立である。また $K(\{x_1,\dots,x_n\})$ は $K(x_1,\dots,x_n)$ 全体である。よって $\{x_1,\dots,x_n\}$ は超越基底であり、
$$ \operatorname{trdeg}_KK(x_1,\dots,x_n)=n $$
である。$n=0$ の場合は $K$ 自身で、超越次数は $0$ である。
体の同型は超越基底を超越基底に写すので、$K$ 上の同型で超越次数は変わらない。したがって $K(x_1,\dots,x_n)$ と $K(y_1,\dots,y_m)$ が $K$ 上同型であることと $n=m$ は同値である($n=m$ なら変数の名前を付け替えればよい)。これは有理関数体の記事で引用のみにとどめた主張であり、証明の要は thm-transcendence-degree-well-defined である。

代数的な拡大の超越次数

$\mathbb{Q}(\sqrt2)/\mathbb{Q}$、$\mathbb{C}/\mathbb{R}$、代数的数全体 $\overline{\mathbb{Q}}$ の $\mathbb{Q}$ 上の拡大はいずれも代数拡大なので、超越次数は $0$ である。有限次拡大は代数拡大である(体の拡大 の記事の命題「有限次拡大と有限生成な代数拡大」)から、有限次拡大の超越次数も $0$ である。逆は成り立たず、$\overline{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q}$ は超越次数 $0$ の無限次拡大である(体の拡大 の記事の例「反例:代数拡大だが有限次でない拡大」)。

反例:超越基底は体を生成するとは限らない

$L=K(x)$($x$ は不定元)で、$u=x^2$ とおく。$p\in K[T]$ が $p(u)=0$ を満たすなら、$p(x^2)$ は $x$ の多項式として次数 $2\deg p$ をもつので $p=0$ である。よって $u$ は $K$ 上超越的で、$\{u\}$ は代数的に独立である。$x$ は $K(u)$ 係数の多項式 $T^2-u$ の根なので $L/K(u)$ は代数拡大であり、$\{u\}$ は $L/K$ の超越基底である。
一方 $K(u)\neq L$ である。$x\in K(u)$ なら $x=f(x^2)/g(x^2)$($f,g\in K[T]$、$g\neq0$)と書け、$xg(x^2)=f(x^2)$ となる。左辺は $0$ でなく次数が奇数、右辺は $0$ か次数が偶数なので矛盾する。この例は「超越基底 $B$ について $L=K(B)$」という含意を破る。成り立つのは $L/K(B)$ が代数的であることだけで、$L$ が純超越拡大でも超越基底の添加で $L$ に届くとは限らない。

反例:どの元も超越的だが代数的に従属な集合

$K(x)$ の 2 元 $x$ と $x^2$ はどちらも $K$ 上超越的である(ex-transcendence-degree-not-generating)。しかし $p(x_1,x_2)=x_1^2-x_2$ は $0$ でない多項式で $p(x,x^2)=0$ を満たすので、$\{x,x^2\}$ は代数的に従属である。この例は「各元が超越的な集合は代数的に独立」という含意を破る。代数的独立性は元ごとの性質ではなく、集合全体の性質である。

平面曲線の関数体

$f=y^2-x^3-1\in K[x,y]$ とする。$f$ は既約である。実際、$f=gh$ と分解すると、$y$ についての次数の和は $2$ で、$y$ についての最高次係数の積は $1$ なので、それらは $0$ でない定数である。一方の $y$ についての次数が $0$ なら、その因子は最高次係数そのものなので定数である。そうでなければどちらも $y$ について $1$ 次で、$g=c(y-a)$($c\in K$、$c\neq0$、$a\in K[x]$)と書け、$y=a$ を代入して $a^2=x^3+1$ となるが、左辺の次数は偶数、右辺の次数は $3$ なので矛盾する。$K[x,y]$ は一意分解整域なので既約元 $f$ は素元であり、$A=K[x,y]/(f)$ は整域である。その商体を $L$ とし、$x,y$ の像を $\bar x,\bar y$ と書く。
$\{\bar x\}$ は超越基底である。$p\in K[x]$ について $p(\bar x)=0$ なら $f\mid p$ だが、$p\neq0$ なら $p$ の $y$ についての次数は $0$ で、$f$ の倍元の $y$ についての次数は $2$ 以上なので、$p=0$ である。よって $\bar x$ は超越的である。また $\bar y$ は $K(\bar x)$ 係数の多項式 $T^2-\bar x^3-1$ の根であり、$L=K(\bar x,\bar y)$ は $K(\bar x)$ 上代数的である(代数的な元全体が部分体をなすことによる。体の拡大 の記事の系「代数的な元のなす部分体と推移性」)。したがって $\operatorname{trdeg}_KL=1$ である。曲線 $y^2=x^3+1$ は「1 次元」であり、座標 $x$ を決めれば $y$ が有限個の可能性に決まる、という直感と一致する。

複素数体と実数体の有理数体上の超越次数

$\operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}\mathbb{C}$ と $\operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}\mathbb{R}$ はどちらも連続体の濃度 $\mathfrak{c}=2^{\aleph_0}$ に等しい。以下、選択公理を仮定し、無限基数 $\kappa,\lambda$ について $\kappa+\lambda=\kappa\cdot\lambda=\max(\kappa,\lambda)$ であること(基数 の記事の命題「無限基数の和と積」)を使う。
$B$ を $\mathbb{R}/\mathbb{Q}$ の超越基底とし、$\kappa=\max(|B|,\aleph_0)$ とおく。$\mathbb{Q}(B)$ の元は $\mathbb{Q}$ と $B$ の有限個の元からつくる分数式で表せるので、有限列の個数を数えて $|\mathbb{Q}(B)|\le\sum_{n\ge0}\kappa^n=\kappa$ である($\kappa^n=\kappa$ は同記事の定理「無限基数の平方」の繰り返しによる)。$\mathbb{R}$ の元は $\mathbb{Q}(B)$ 係数の $0$ でない多項式の根であり、そのような多項式は $\kappa$ 個以下、各多項式の根は次数以下の有限個(多項式環 の記事の定理「根の個数」)なので、$\mathfrak{c}=|\mathbb{R}|\le\kappa\cdot\aleph_0=\kappa$ である。$\mathfrak{c}>\aleph_0$ なので $\kappa=|B|$ であり、$|B|\ge\mathfrak{c}$ である。一方 $B\subset\mathbb{R}$ なので $|B|\le\mathfrak{c}$ であり、$|B|=\mathfrak{c}$ となる。$\mathbb{C}$ についても同じ議論が通る($|\mathbb{C}|=\mathfrak{c}$)。
とくに $\mathbb{C}$ の中には $\mathbb{Q}$ 上代数的に独立な元が連続体濃度だけある。個々の元、たとえば $e$ や $\pi$ が超越的であることを示すのはまったく別の難しい問題であり(超越数、Lan02 Appendix 1)、$e$ と $\pi$ が $\mathbb{Q}$ 上代数的に独立かどうかは知られていない。

反例:超越次数が等しいが同型でない体

$L_1=\mathbb{Q}(x)$ と $L_2=\mathbb{Q}(\sqrt2)(x)$($x$ は不定元)は、どちらも $\{x\}$ を超越基底にもつ($L_2$ は $\mathbb{Q}(x)$ 上 $\sqrt2$ で生成され、$\sqrt2$ は代数的)ので、$\operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}L_1=\operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}L_2=1$ である。しかし $L_1$ と $L_2$ は体として同型でない。$L_2$ には $r^2=2$ となる元 $r=\sqrt2$ があるが、$L_1$ にはない。実際、$r=f/g\in\mathbb{Q}(x)$($f,g\in\mathbb{Q}[x]$、$g\neq0$)が $r^2=2$ を満たすなら $f^2=2g^2$ である。$g$ の根は有限個なので $g(a)\neq0$ となる $a\in\mathbb{Q}$ がとれ、$(f(a)/g(a))^2=2$ となって $\sqrt2$ が有理数になり矛盾する(無理数)。体の同型は $2=1+1$ を $2$ に写すので、$r^2=2$ の解の有無は同型で保たれる。
この例は「同じ基礎体の上で超越次数が等しい体は同型」という含意を破る。超越次数は超越基底の個数だけを測り、その上の代数拡大の部分は測らない。

基礎体を替えると超越次数は変わる

$\mathbb{C}(t)$($t$ は不定元)は $\mathbb{C}$ 上では $\{t\}$ を超越基底にもち、$\operatorname{trdeg}_{\mathbb{C}}\mathbb{C}(t)=1$ である。$\mathbb{Q}$ 上では、後の thm-transcendence-degree-additivity と ex-transcendence-degree-complex により
$$ \operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}\mathbb{C}(t)=\operatorname{trdeg}_{\mathbb{Q}}\mathbb{C}+\operatorname{trdeg}_{\mathbb{C}}\mathbb{C}(t)=\mathfrak{c}+1=\mathfrak{c} $$
である。超越次数は拡大 $L/K$ の不変量であり、体 $L$ だけの不変量ではない。

性質

代数的独立性と添加

代数的に独立な集合の合併

$L/K$ を体の拡大とし、$S,T\subset L$ を $S\cap T=\emptyset$ を満たす部分集合とする。次の 2 条件は同値である。

  1. $S\cup T$ は $K$ 上代数的に独立である。
  2. $S$ は $K$ 上代数的に独立であり、$T$ は $K(S)$ 上代数的に独立である。
    とくに $S$ が $K$ 上代数的に独立で $a\in L\setminus S$ ならば、$S\cup\{a\}$ が $K$ 上代数的に独立であることと、$a$ が $K(S)$ 上超越的であることは同値である。
係数の分母を払う

多重指数 $\beta=(\beta_1,\dots,\beta_n)$ について $Y^\beta=Y_1^{\beta_1}\cdots Y_n^{\beta_n}$ と書く。$K[X_1,\dots,X_m,Y_1,\dots,Y_n]$ の元 $P$ は、$Y$ の単項式ごとにまとめて $P=\sum_\beta c_\beta(X)Y^\beta$($c_\beta\in K[X_1,\dots,X_m]$、有限和)とただ一通りに書ける。
2 ⇒ 1:$S$ の相異なる元 $s_1,\dots,s_m$ と $T$ の相異なる元 $t_1,\dots,t_n$ をとり($S\cap T=\emptyset$ なので $m+n$ 個の元は相異なる)、$P(s,t)=0$ とする。$Q(Y):=\sum_\beta c_\beta(s)Y^\beta\in K(S)[Y_1,\dots,Y_n]$ は $Q(t)=P(s,t)=0$ を満たすので、$T$ が $K(S)$ 上代数的に独立であることから $Q=0$、すなわちすべての $\beta$ で $c_\beta(s)=0$ である。$S$ が $K$ 上代数的に独立なので $c_\beta=0$ であり、$P=0$ となる。
1 ⇒ 2:$S$ は $S\cup T$ の部分集合なので代数的に独立である。$T$ の相異なる元 $t_1,\dots,t_n$ と $Q\in K(S)[Y_1,\dots,Y_n]$ が $Q(t)=0$ を満たすとする。$Q$ の係数は有限個の $K(S)$ の元なので、def-transcendence-degree-independent の前の記述により、$S$ の有限個の元 $s_1,\dots,s_m$ と $p_\beta,q\in K[X_1,\dots,X_m]$($q(s)\neq0$)を用いて $Q=q(s)^{-1}\sum_\beta p_\beta(s)Y^\beta$ と書ける(係数ごとの分母の積を共通の分母 $q$ にとる)。$P:=\sum_\beta p_\beta(X)Y^\beta$ とおくと $P(s,t)=q(s)Q(t)=0$ であり、1 により $P=0$、すなわちすべての $p_\beta=0$ であるから $Q=0$ である。
最後の主張は $T=\{a\}$ の場合である。1 元集合 $\{a\}$ が $K(S)$ 上代数的に独立であることは、$a$ が $K(S)$ 上超越的であることにほかならない。$\square$

超越基底の存在

超越基底の存在と延長

$L/K$ を体の拡大、$T\subset L$ を $L/K(T)$ が代数拡大となる部分集合、$S_0\subset T$ を $K$ 上代数的に独立な部分集合とする。このとき $S_0\subset B\subset T$ を満たす $L/K$ の超越基底 $B$ が存在する。とくに次が成り立つ。

  1. $L/K$ の超越基底が存在する($T=L$、$S_0=\emptyset$)。
  2. $K$ 上代数的に独立な任意の部分集合は、ある超越基底に含まれる($T=L$)。
  3. $L=K(T)$ ならば、$T$ はある超越基底を含む($S_0=\emptyset$)。
Zornの補題による極大な独立集合

$\Sigma$ を、$S_0\subset S\subset T$ を満たし $K$ 上代数的に独立な $S$ 全体の集合とし、包含で順序づける。$S_0\in\Sigma$ なので $\Sigma\neq\emptyset$ である。$\Sigma$ の全順序部分集合 $\{S_\lambda\}$(空でない)の合併 $S^*$ は $\Sigma$ に属する。実際、$S^*$ の有限個の元はそれぞれある $S_\lambda$ に属し、全順序性からそれらは 1 つの $S_\lambda$ に含まれるので、代数的に独立である。Zornの補題により $\Sigma$ は極大元 $B$ をもつ($T$ が有限集合なら $\Sigma$ は有限集合なので、Zorn の補題は要らない)。
$B$ が超越基底であることを示す。$t\in T\setminus B$ とすると、極大性から $B\cup\{t\}$ は代数的に従属であり、lem-transcendence-degree-union により $t$ は $K(B)$ 上代数的である。$t\in B$ なら $t$ はもちろん $K(B)$ 上代数的である。$L$ の元のうち $K(B)$ 上代数的なもの全体は $K(B)$ を含む部分体である(体の拡大 の記事の系「代数的な元のなす部分体と推移性」の 1)から、それは $K\cup T$ を含み、したがって $K(T)$ を含む。よって $K(T)/K(B)$ は代数拡大である。$L/K(T)$ も代数拡大なので、同じ系の 2(推移性)により $L/K(B)$ は代数拡大である。$\square$

超越基底の濃度の一意性

超越基底の濃度の一意性

$L/K$ を体の拡大とする。

  1. $T\subset L$ を $L/K(T)$ が代数拡大となる $n$ 元集合とする($n\ge0$)。$K$ 上代数的に独立な集合 $S\subset L$ は有限集合で、$|S|\le n$ である。
  2. $L/K$ の任意の 2 つの超越基底 $B,B'$ は同じ濃度をもつ。
交換の議論

1:$S$ の相異なる $m$ 個の元 $s_1,\dots,s_m$ をとり、$m\le n$ を示せばよい(そうすれば $S$ の有限部分集合の元の個数がすべて $n$ 以下なので、$S$ は有限集合で $|S|\le n$ である)。$0\le k\le m$ について次の主張 $(A_k)$ を $k$ に関する帰納法で示す。
$(A_k)$:$|T_k|\le n-k$ を満たす $T_k\subset T$ で、$L$ が $K(s_1,\dots,s_k)(T_k)$ 上代数的であるものが存在する。
$(A_0)$ は $T_0=T$ でよい。$(A_k)$($k< m$)を仮定し、$F=K(s_1,\dots,s_k)$、$E=F(s_{k+1})$ とおく。$E(T_k)\supset F(T_k)$ なので $L/E(T_k)$ は代数拡大であり、拡大 $L/E$ に prop-transcendence-degree-existence を $T_k$、$S_0=\emptyset$ で適用すると、$L/E$ の超越基底 $B\subset T_k$ が得られる。$B\neq T_k$ を示す。$B=T_k$ と仮定すると、$T_k$ は $E$ 上代数的に独立であり、特に $T_k$ の元は $E$ に属さない。$\{s_1,\dots,s_{k+1}\}$ は $K$ 上代数的に独立($S$ の部分集合)で、$E=K(s_1,\dots,s_{k+1})$ だから、lem-transcendence-degree-union(2 ⇒ 1)により $\{s_1,\dots,s_{k+1}\}\cup T_k$ は $K$ 上代数的に独立である。すると同じ補題の最後の主張を $\{s_1,\dots,s_k\}\cup T_k$ と $a=s_{k+1}$ に使って、$s_{k+1}$ は $F(T_k)$ 上超越的となる。これは $L$ が $F(T_k)$ 上代数的であることに反する。よって $B\subsetneq T_k$、$|B|\le|T_k|-1\le n-k-1$ であり、$L$ は $E(B)=K(s_1,\dots,s_{k+1})(B)$ 上代数的なので、$T_{k+1}=B$ として $(A_{k+1})$ が成り立つ。$(A_m)$ の $0\le|T_m|\le n-m$ から $m\le n$ である。
2:$B$ が有限集合で $n$ 個の元をもつなら、1 を $T=B$、$S=B'$ に適用して $B'$ は有限集合で $|B'|\le n$ である。$B$ と $B'$ を入れ替えれば $n\le|B'|$ であり、$|B|=|B'|$ となる。$B'$ が有限集合の場合も同様である。
$B,B'$ がともに無限集合の場合を考える(ここで選択公理を使う)。各 $b\in B$ は $K(B')$ 上代数的なので、$b$ を根にもつ $K(B')$ 係数の $0$ でない多項式を 1 つ選ぶと、その有限個の係数に現れる $B'$ の元は有限個である。それらの集合を $F_b\subset B'$ とすると、$b$ は $K(F_b)$ 上代数的である。$B''=\bigcup_{b\in B}F_b\subset B'$ とおくと、すべての $b\in B$ は $K(B'')$ 上代数的なので、prf-transcendence-degree-existence の後半と同じ議論により $K(B)$ の元は $K(B'')$ 上代数的であり、推移性により $L/K(B'')$ は代数拡大である。もし $b'\in B'\setminus B''$ があれば、$b'$ は $K(B'')$ 上代数的となるが、$B''\cup\{b'\}\subset B'$ は代数的に独立なので lem-transcendence-degree-union に反する。よって $B'=B''$ であり、
$$ |B'|\le\sum_{b\in B}|F_b|\le|B|\cdot\aleph_0=|B| $$
である(最後の等号は 基数 の記事の命題「無限基数の和と積」)。対称に $|B|\le|B'|$ であり、基数 の記事の定理「Cantor–Bernstein の定理:単射の往復から全単射」により $|B|=|B'|$ である。$\square$

これで def-transcendence-degree の超越次数が矛盾なく定まる。1 を超越基底と組み合わせると、超越次数を上下から評価できる。

独立な集合と生成系による評価

$L/K$ を体の拡大とする。

  1. $K$ 上代数的に独立な $S\subset L$ について $|S|\le\operatorname{trdeg}_KL$ である。
  2. $L/K(T)$ が代数拡大となる $T\subset L$ について $|T|\ge\operatorname{trdeg}_KL$ であり、$T$ はある超越基底を含む。とくに $L=K(a_1,\dots,a_n)$ ならば $\operatorname{trdeg}_KL\le n$ であり、$a_1,\dots,a_n$ の中から超越基底を選べる。
  3. $\operatorname{trdeg}_KL=n<\infty$ とする。$n$ 個の元からなる代数的に独立な集合は超越基底である。また $L/K(T)$ が代数拡大となる $n$ 元集合 $T$ は超越基底である。

1:prop-transcendence-degree-existence の 2 により $S$ を含む超越基底 $B$ があり、$|S|\le|B|$ である。2:同命題を $S_0=\emptyset$ で使うと $T$ は超越基底 $B$ を含み、$|T|\ge|B|$ である。$L=K(a_1,\dots,a_n)$ なら $T=\{a_1,\dots,a_n\}$ にこれを適用する。3:$S$ を含む超越基底 $B$ は $n$ 個の元をもつ有限集合なので $B=S$ である。$T$ が含む超越基底 $B$ も $n$ 個の元をもつので $B=T$ である。$\square$

塔に関する加法性

超越次数の加法性

$K\subset L\subset M$ を体の拡大の塔とし、$B$ を $L/K$ の超越基底、$C$ を $M/L$ の超越基底とする。このとき $B\cap C=\emptyset$ であり、$B\cup C$ は $M/K$ の超越基底である。したがって
$$ \operatorname{trdeg}_KM=\operatorname{trdeg}_KL+\operatorname{trdeg}_LM $$
(基数の和)が成り立つ。

独立性と代数性を別々に確かめる

$C$ の元は $L$ 上超越的なので $L$ に属さず、$B\subset L$ と交わらない。$C$ は $L$ 上代数的に独立なので、部分体 $K(B)\subset L$ の上でも代数的に独立である($K(B)$ 係数の多項式は $L$ 係数の多項式である)。lem-transcendence-degree-union により $B\cup C$ は $K$ 上代数的に独立である。
$L$ の元は $K(B)$ 上代数的であり、$K(B)\subset K(B\cup C)$ なので $K(B\cup C)$ 上代数的である。$M$ の元のうち $K(B\cup C)$ 上代数的なもの全体は部分体であり(体の拡大 の記事の系「代数的な元のなす部分体と推移性」の 1)、$L$ と $C$ を含むので $L(C)$ を含む。よって $L(C)/K(B\cup C)$ は代数拡大である。$M/L(C)$ は代数拡大なので、推移性(同じ系の 2)により $M/K(B\cup C)$ は代数拡大である。$\square$

とくに $K\subset L\subset M$ なら $\operatorname{trdeg}_KL\le\operatorname{trdeg}_KM$ であり、$M/L$ が代数拡大なら $\operatorname{trdeg}_KL=\operatorname{trdeg}_KM$ である。

有理関数体の中間体

$K(x)$ を 1 変数の有理関数体とし、$M$ を $K\subsetneq M\subset K(x)$ を満たす中間体とする。このとき $\operatorname{trdeg}_KM=1$ であり、$K(x)/M$ は有限次拡大である。

$u\in M\setminus K$ をとると、$u\in K(x)\setminus K$ は $K$ 上超越的であり、$[K(x):K(u)]$ は有限である(有理関数体 の記事の命題「有理関数による部分体上の次数」)。$\{u\}$ は $M$ の代数的に独立な部分集合なので $\operatorname{trdeg}_KM\ge1$ であり、thm-transcendence-degree-additivity から $\operatorname{trdeg}_KM\le\operatorname{trdeg}_KK(x)=1$ である。また $K(u)\subset M\subset K(x)$ なので、$K(x)$ の $K(u)$ 上の基底は $M$ 上でも $K(x)$ を張り、$[K(x):M]\le[K(x):K(u)]<\infty$ である。$\square$

Lüroth の定理はこの状況をさらに精密にし、$M=K(v)$ となる $v\in M$ が存在すること、すなわち $M/K$ が純超越拡大であることを主張する(有理関数体 の記事の定理「Lürothの定理」)。上の系が示すのはその手前の、$M$ の超越次数が $1$ であることまでである。

体上有限生成な環の次元

体上有限生成な整域の次元

$K$ を体、$A$ を $K$ 上有限生成な整域(体上有限生成環)とする。このとき $A$ の Krull次元 は、$A$ の商体の $K$ 上の超越次数に等しい:
$$ \dim A=\operatorname{trdeg}_K\operatorname{Frac}(A). $$

次元との関係の出典と例

この定理は Krull次元 の記事の定理「体上有限生成な環の次元」の 2 であり、証明は Mat86 §5 に譲る。証明の筋は、Noether正規化定理により $d=\operatorname{trdeg}_K\operatorname{Frac}(A)$ 個の代数的に独立な元 $z_1,\dots,z_d$ で $A$ が $K[z_1,\dots,z_d]$ 上整拡大になるものをとり、整拡大が Krull 次元を保つことと $\dim K[z_1,\dots,z_d]=d$ に帰着させるものである。基礎体 $K$ に代数閉性は要らない。
例:$K[x_1,\dots,x_n]$ の商体は $K(x_1,\dots,x_n)$ なので(ex-transcendence-degree-rational)、$\dim K[x_1,\dots,x_n]=n$ である。ex-transcendence-degree-curve の $A=K[x,y]/(y^2-x^3-1)$ は $\dim A=1$ である。代数幾何学の言葉では、$K$ が代数閉体のとき、既約な代数多様体 $X$ の次元(既約閉集合の鎖の長さ)はその関数体 $K(X)$ の超越次数に等しい(Har77 Chapter I §1・§3)。「曲線は超越次数 1、曲面は超越次数 2」という言い方はこの意味である。

補足

超越基底の理論は、ベクトル空間の基底の理論と同じ骨組みをもつ。「$a$ が $S$ に従属する」を、線形代数では「$a$ が $S$ の線形結合で書ける」、ここでは「$a$ が $K(S)$ 上代数的である」と読むと、lem-transcendence-degree-union は「独立な集合に従属しない元を足しても独立」に、thm-transcendence-degree-well-defined の 1 は Steinitz の交換定理に当たる。この共通の構造はマトロイドとして抽象化される。標準的な記述は Lan02 Chapter VIII §1 にある。
有限集合 $T$ で $L/K(T)$ が代数的になるもの(たとえば $L/K$ が有限生成)があれば、超越基底の存在も濃度の一意性も 選択公理 なしに示せる(prop-transcendence-degree-existence の証明で $T$ を有限な生成系にとる)。無限の場合は存在に Zorn の補題を、一意性に基数の算術を使う。
標数 $p>0$ の体では、超越基底 $B$ で $L/K(B)$ が分離拡大になるもの(分離超越基底)がとれるかどうかが問題になり、とれる拡大を分離生成な拡大という。$K$ が完全体なら、有限生成な拡大は分離生成である(Mat86 §26)。この性質はKähler微分の加群の次元と超越次数の比較に現れる。

関連項目

参考文献

[1]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter VIII §1(超越基底、濃度の一意性)、Appendix 1($e$ と $\pi$ の超越性)
[3]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, Chapter I §1・§3(代数閉体上の多様体の次元と関数体の超越次数)

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