射影直線(projective line)とは、体 $k$ 上では、原点を通る直線の全体 $(k^2\setminus\{0\})/k^\times$ として $k$ に無限遠点 $\infty$ を 1 つ加えた集合 $k\cup\{\infty\}$ であり、スキームとしては 2 本のアフィン直線を $t\leftrightarrow1/t$ で貼り合わせたもの、あるいは次数付き環 $k[x_0,x_1]$ の Proj である。大域切断が定数だけなのでアフィンでない曲線の最も簡単な例であり、1 次分数変換の群 $\mathrm{PGL}_2(k)$ が相異なる 3 点を 3 点にただ 1 通りに写し、複比はその不変量である。実数上では円、複素数上では Riemann 球面になり、種数 $0$ の曲線の原型である。
平面の原点を通る直線を 1 本選ぶと、それが縦の直線 $x_0=1$ と交わる点の高さ $t$ が 1 つ決まる。逆に、高さ $t$ を決めれば原点と点 $(1,t)$ を結ぶ直線が決まる。ただ 1 本、縦の座標軸 $x_0=0$ だけは直線 $x_0=1$ と平行で交わらない。この直線に「無限遠点 $\infty$」を対応させると、原点を通る直線の全体は、数の全体に 1 点 $\infty$ を加えたものと 1 対 1 に対応する。これが射影直線である。射影直線は $\infty$ を含めることで「割り算の分母が $0$ になる例外」をなくした数直線であり、1 次分数変換 $t\mapsto\frac{\alpha t+\beta}{\gamma t+\delta}$($\alpha\delta-\beta\gamma\neq0$)はその上の全単射になる。代数幾何学では、射影直線は 2 本のアフィン直線を $t\leftrightarrow1/t$ で貼り合わせたスキームとして、あるいは次数付き環 $k[x_0,x_1]$ の $\operatorname{Proj}$ として定義され、アフィンでない代数多様体の最も簡単な例、種数 $0$ の曲線の原型、多くのコホモロジー計算の出発点となる。
原点を通る直線と、直線 x0=1 との交点の高さ t。x1 軸は交わらず、無限遠点に対応する
射影直線には 3 つの見方がある。点の集合としての見方、2 本のアフィン直線の貼り合わせとしての見方、$\operatorname{Proj}$ としての見方である。以下、環は可換環、$k$ は体とする。
体 $k$ について、$k^2\setminus\{(0,0)\}$ に、$(a_0,a_1)\sim(\lambda a_0,\lambda a_1)$($\lambda\in k^\times$)で同値関係を入れた商集合
$$
\mathbb{P}^1(k):=\bigl(k^2\setminus\{(0,0)\}\bigr)/k^\times
$$
を $k$ 上の 射影直線(projective line)の点の集合という。$(a_0,a_1)$ の類を $[a_0:a_1]$ と書き、斉次座標 という。
$a_0\neq0$ なら $[a_0:a_1]=[1:a_1/a_0]$ なので、$[a_0:a_1]\mapsto a_1/a_0$ はこれらの点と $k$ の元を 1 対 1 に対応させる。$a_0=0$ の点は $[0:1]$ ただ 1 つで、これを $\infty$ と書く。よって
$$
\mathbb{P}^1(k)=\{[1:t]\mid t\in k\}\sqcup\{[0:1]\}=k\sqcup\{\infty\}
$$
である。図で言えば、$[a_0:a_1]$ は点 $(a_0,a_1)$ を通る原点を通る直線で、$t=a_1/a_0$ はその直線が $x_0=1$ と交わる高さである。$a_1\neq0$ の点については座標 $u=a_0/a_1$ も使え、$a_0a_1\neq0$ の点では $u=1/t$ である。$\mathbb{P}^1(k)$ は射影空間 $k\mathrm{P}^n$ の $n=1$ の場合である。
環 $A$ について、2 つのアフィン直線 $U_0=\operatorname{Spec}A[t]$、$U_1=\operatorname{Spec}A[u]$ を、開集合 $D(t)=\operatorname{Spec}A[t,t^{-1}]\subset U_0$ と $D(u)=\operatorname{Spec}A[u,u^{-1}]\subset U_1$ で、環の同型 $A[u,u^{-1}]\to A[t,t^{-1}]$、$u\mapsto t^{-1}$ により貼り合わせたスキームを $A$ 上の 射影直線 といい、$\mathbb{P}^1_A$ と書く。
2 つの開集合の貼り合わせなので貼り合わせ条件は自明に成り立ち、スキーム の記事の命題「スキームの貼り合わせ」により $\mathbb{P}^1_A$ が定まる。$U_0$ の点 $t=a$ と $U_1$ の点 $u=1/a$($a$ が単元のとき)が同一視され、$U_0$ の $t=0$ の点と $U_1$ の $u=0$ の点は同一視されずに残る。後者が無限遠点 $\infty$ である。スキーム の記事の例「射影空間の貼り合わせ」の $n=1$ の場合にあたる。
$S=A[x_0,x_1]$ を標準の次数の次数付き環とする(次数付き環 の記事の例「多項式環と重み付きの次数」)。
$\operatorname{Proj}A[x_0,x_1]$ は $D_+(x_0)$ と $D_+(x_1)$ で覆われ、
$$
D_+(x_0)\cong\operatorname{Spec}A[x_1/x_0],\qquad D_+(x_1)\cong\operatorname{Spec}A[x_0/x_1],\qquad D_+(x_0)\cap D_+(x_1)\cong\operatorname{Spec}A[x_1/x_0,\ x_0/x_1]
$$
である。$t=x_1/x_0$、$u=x_0/x_1$ とおくと、これは def-projective-line-scheme の貼り合わせそのものであり、$\operatorname{Proj}A[x_0,x_1]\cong\mathbb{P}^1_A$ である。
$\operatorname{Proj}S$ の点は $S_+=(x_0,x_1)$ を含まない斉次素イデアルなので、$x_0$ か $x_1$ の少なくとも一方を含まない。よって $\operatorname{Proj}S=D_+(x_0)\cup D_+(x_1)$ である。正の次数の斉次元 $f$ について、開集合 $D_+(f)$ はアフィンスキーム $\operatorname{Spec}S_{(f)}$($S_{(f)}$ は局所化 $S_f$ の次数 $0$ の部分)と同型であり(Stacks26 Tag 01M7、Tag 01MB。次数付き環 の記事の節「$\operatorname{Proj}$ への入口」も参照)、素イデアルが $fg$ を含まないことと $f,g$ をどちらも含まないことは同値なので $D_+(f)\cap D_+(g)=D_+(fg)$ である。
次数 $0$ の分数を単項式ごとに計算すると、$S_{(x_0)}=A[x_1/x_0]$、$S_{(x_1)}=A[x_0/x_1]$(どちらも 1 変数の多項式環)、$S_{(x_0x_1)}=A[x_1/x_0,(x_1/x_0)^{-1}]$ である。
$S_{(x_0)}$ の元は $g/x_0^n$($g\in S_n$)の形で、$g=\sum_{j=0}^nc_jx_0^{n-j}x_1^j$($c_j\in A$)と書くと $g/x_0^n=\sum_jc_j(x_1/x_0)^j$ である。$x_1/x_0$ の冪は Laurent 単項式 $x_0^{-j}x_1^j$ として相異なるので $A$ 上一次独立であり、$S_{(x_0)}=A[x_1/x_0]$ は 1 変数の多項式環である。$S_{(x_1)}$ も同様である。$S_{(x_0x_1)}$ の元は $g/(x_0x_1)^n$($g\in S_{2n}$)で、$g$ の単項式 $x_0^{2n-j}x_1^j$ を $(x_0x_1)^n$ で割ると $(x_1/x_0)^{j-n}$ になる。
この一致により、射影直線は射影空間の一般の定義 $\mathbb{P}^n_A=\operatorname{Proj}A[x_0,\dots,x_n]$ の $n=1$ の場合である(Stacks26 Tag 01NF、Vak25 4.5.9)。$\operatorname{Proj}$ の見方では、斉次座標 $x_0,x_1$ が最初から与えられ、1 次分数変換が座標の 1 次変換として自然に扱える。
$\mathbb{P}^1(\mathbb{R})=\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ は円周 $S^1$ と同相であり、$\mathbb{P}^1(\mathbb{C})=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ は球面 $S^2$ と同相である(射影空間 の記事の命題「射影直線と球面」)。$\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ は Riemann 面としては Riemann球面 にほかならない(Riemann球面 の記事の定理「Riemann 面としての構造と射影直線との一致」)。実数直線の両端 $\pm\infty$ が 1 点 $\infty$ でつながって円になる、と考えるとよい。
$[s:t]\mapsto[s^2:st:t^2]$ は $\mathbb{P}^1_k$ から射影平面の円錐曲線 $xz=y^2$ への同型を与える(代数曲線 の記事の定理「2 次曲線 $xz=y^2$ は射影直線と同型」)。代数の側では、これは $k[x_0,x_1]$ の 2 次の Veronese 部分環が $k[u,v,w]/(uw-v^2)$ と同型であることにあたる(次数付き環 の記事の命題「2 変数の多項式環の 2 次の Veronese 部分環」)。
$k$ の標数が $2$ でなければ、$[s:t]\mapsto[s^2-t^2:2st:s^2+t^2]$ が $\mathbb{P}^1_k$ から円 $x^2+y^2=z^2$ への同型である(同記事の例「円の射影版」)。$s=1$ とおくと、単位円 $x^2+y^2=1$ の媒介変数表示
$$
t\longmapsto\Bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\ \frac{2t}{1+t^2}\Bigr),\qquad\infty\longmapsto(-1,0)
$$
が得られる($1+t^2=0$ となる $t$ があるときは、その点は円の無限遠点に行く)。$k=\mathbb{Q}$ では $1+t^2\neq0$ なので、これは $\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})=\mathbb{Q}\cup\{\infty\}$ と単位円の有理点の全体の間の全単射であり、$t$ は点 $(-1,0)$ と円上の点を結ぶ直線の傾きである(2次曲線の媒介変数表示 の記事の注意「大学数学で見ると:有理曲線と射影直線」、有理点 の記事の例「単位円の有理点」)。
$k=\mathbb{F}_q$ なら $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_q)=\mathbb{F}_q\sqcup\{\infty\}$ は $q+1$ 個の点からなる(射影空間 の記事の命題「有限体上の射影空間の点の個数」の $n=1$)。たとえば $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_2)=\{[1:0],[1:1],[0:1]\}$ は 3 点で、$\mathbb{F}_2^2\setminus\{0\}$ の 3 つの元がそれぞれ 1 点をなす。
環 $A$ について $\Gamma(\mathbb{P}^1_A,\mathcal{O})=A$ である。とくに、$A\neq0$ なら $\mathbb{P}^1_A$ はアフィンスキームでない。
def-projective-line-scheme の貼り合わせにより、大域切断は $f(t)\in A[t]$ と $g(u)\in A[u]$ の組で、$A[t,t^{-1}]$ の中で $f(t)=g(t^{-1})$ となるものである。左辺は $t$ の非負の冪だけ、右辺は非正の冪だけの和であり、$t$ の冪は $A[t,t^{-1}]$ で $A$ 上一次独立なので、両辺は定数 $a\in A$ に等しい。よって $\Gamma(\mathbb{P}^1_A,\mathcal{O})=A$ である。
$\mathbb{P}^1_A$ がアフィンなら、それは $\operatorname{Spec}\Gamma(\mathbb{P}^1_A,\mathcal{O})=\operatorname{Spec}A$ と同型で、標準射 $\mathbb{P}^1_A\to\operatorname{Spec}A$ が同型になる(スキーム の記事の系「標準射とアフィン性の判定」)。しかし $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ の上には、$U_0$ の点 $(\mathfrak{m},t)$ と $U_1$ の点 $(\mathfrak{m},u)$ という 2 つの点がある(前者は $t=0$、後者は $u=0$、すなわち $\infty$ で、$D(t)$ にも $D(u)$ にも入らないので同一視されない)。よって標準射は単射でなく、矛盾する。$\square$
$k$ 上のアフィン直線 $\mathbb{A}^1_k$ の大域切断は $k[t]$ で、$\mathbb{P}^1_k$ の大域切断 $k$ と違うので、$\mathbb{P}^1_k$ は $\mathbb{A}^1_k$ と同型でない。$\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ で言えば、Riemann 球面上の正則関数は定数に限る(Riemann球面 の記事の定理「Riemann 球面上の正則関数」)ことの代数版である。
$\mathbb{P}^1_A$ は $A$ 上分離的である(分離射)。
分離射 の記事の命題「アフィン開被覆による分離性の判定」の 3 を、$\operatorname{Spec}A$ 自身と被覆 $\{U_0,U_1\}$ に当てる。$U_0\cap U_0=U_0$、$U_1\cap U_1=U_1$ については $A[t]\otimes_AA[t]\to A[t]$ が掛け算で全射なのでよい。$U_0\cap U_1=\operatorname{Spec}A[t,t^{-1}]$ はアフィンで、$A[t]\otimes_AA[u]\to A[t,t^{-1}]$ は $t\otimes1\mapsto t$、$1\otimes u\mapsto t^{-1}$ を送るので、像は $t$ と $t^{-1}$ を含み全射である。よって $\mathbb{P}^1_A$ は $A$ 上分離的である。$\square$
貼り合わせの同型を $u\mapsto t^{-1}$ から恒等写像 $u\mapsto t$ に替えると、得られるスキームは分離的でない。これが「原点を 2 つもつ直線」である(スキーム の記事の例「原点を 2 つもつ直線」、分離射 の記事の例「反例:原点を 2 重にした直線」)。このときは $A[t]\otimes_AA[u]\to A[t,t^{-1}]$ の像が $A[t]$ で、$t^{-1}$ に届かない。2 つのスキームはどちらも 2 本のアフィン直線を同じ開集合で貼り合わせたものだが、$t\leftrightarrow1/t$ で貼ると、$t\to0$ と $u\to0$ が「反対側の端」になり、分離的な曲線ができる。さらに構造射 $\mathbb{P}^1_A\to\operatorname{Spec}A$ は普遍閉であり(Stacks26 Tag 01NH)、分離的で有限型でもあるので、$\mathbb{P}^1_A$ は $A$ 上固有である。
以下、$k$ は体とする。
$\mathbb{P}^1_k$ の点は次のものである。
$U_0=\operatorname{Spec}k[t]$ の点は $(0)$ と $(p(t))$($p$ はモニックな既約多項式)である($k[t]$ は単項イデアル整域で、$0$ でない素イデアルは既約多項式で生成される)。$U_1$ の点で $U_0$ に入らないのは、$u$ を含む素イデアル、すなわち $(u)$ だけである($U_0\cap U_1=D(u)\subset U_1$ だから)。よって点は 1〜3 で尽きる。
閉点であること:$\{x\}$ が閉であることは、補集合と各 $U_i$ との交わりが $U_i$ で開であること、すなわち $x\in U_i$ なら $x$ が $U_i$ の閉点であることと同値である。$(p(t))$ の点は $U_0$ の閉点で、$U_1$ にも入るなら $U_1$ でも閉点である。$\infty$ も同様で、$\eta$ は閉包が全体なので閉点でない。剰余体は $k[t]/(p(t))$、$k[u]/(u)=k$ である。
$(p(t))$ の点が $U_1$ にも入るのは $p(t)\neq t$ のときで、それは $U_0\cap U_1=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ の極大イデアル $p(t)k[t,t^{-1}]$ の点である。これを $k[u]$ に引き戻した素イデアルは $0$ でない($u^{\deg p}p(1/u)$ を含む)ので、$k[u]$ の極大イデアルであり、この点は $U_1$ の閉点である。$\infty=(u)$ は $U_0$ に入らず、$U_1$ の極大イデアルの点である。$\square$
有限体の上では、次数ごとの閉点の個数が数えられる。$\mathbb{P}^1_{\mathbb{F}_q}$ の次数 $d$ の閉点(剰余体が $\mathbb{F}_{q^d}$ の閉点)の個数を $a_d$ とする。
$\mathbb{F}_q$ 上のモニックな $d$ 次既約多項式の個数を $N_q(d)$ とすると、$a_1=N_q(1)+1=q+1$、$d\ge2$ で $a_d=N_q(d)$ であり、すべての $n\ge1$ について
$$
\sum_{d\mid n}d\,a_d=q^n+1
$$
が成り立つ。右辺は $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_{q^n})$ の点の個数である。
前半は prop-projective-line-points から直ちに従う($\infty$ は次数 $1$)。既約多項式 の記事の定理「有限体上の既約多項式の個数」の 2 により $\sum_{d\mid n}d\,N_q(d)=q^n$ であり、$d=1$ の項に $\infty$ の分の $1$ が加わるので、左辺は $q^n+1$ である。$\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_{q^n})=\mathbb{F}_{q^n}\sqcup\{\infty\}$ は $q^n+1$ 点からなる。$\square$
$q=2$ のとき、$a_d$ は $d=1,\dots,6$ で $3,1,2,3,6,9$ であり、たとえば $n=4$ で $1\cdot3+2\cdot1+4\cdot3=17=2^4+1$、$n=6$ で $1\cdot3+2\cdot1+3\cdot2+6\cdot9=65=2^6+1$ となる。幾何学的には、次数 $d$ の閉点は $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_{q^n})$($d\mid n$)の中の、Frobenius 写像で互いに移り合う $d$ 個の点の組にあたり、この等式は $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_{q^n})$ の点をその組ごとに数えたものである。
$\mathrm{GL}_2(k)$ の元 $M=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ は、斉次座標の 1 次変換
$$
M\cdot[x_0:x_1]:=[ax_0+bx_1:cx_0+dx_1]
$$
により $\mathbb{P}^1(k)$ の全単射を定める($M$ は可逆なので $(0,0)$ でないベクトルを $(0,0)$ でないベクトルに送り、スカラー倍と交換する)。スカラー行列 $\lambda I$ は恒等写像を与えるので、作用は $\mathrm{PGL}_2(k):=\mathrm{GL}_2(k)/k^\times$ の作用になる。座標 $t=x_1/x_0$ で書くと
$$
t\longmapsto\frac{c+dt}{a+bt}
$$
であり(分母が $0$ になる $t$ は $\infty$ へ、$\infty=[0:1]$ は $[b:d]$ へ行く)、これが 1 次分数変換 である。
$\mathbb{P}^1(k)$ の相異なる 3 点の組 $(p_1,p_2,p_3)$ と、相異なる 3 点の組 $(q_1,q_2,q_3)$ について、$g(p_i)=q_i$($i=1,2,3$)を満たす $g\in\mathrm{PGL}_2(k)$ がただ 1 つある。
$0=[1:0]$、$\infty=[0:1]$、$1=[1:1]$ とおき(座標 $t=x_1/x_0$ で $0$、$\infty$、$1$ にあたる)、$(p_1,p_2,p_3)$ を $(0,\infty,1)$ に写す $g$ がただ 1 つあることを示せば足りる。実際、$(q_1,q_2,q_3)$ についても同じ $h$ をとれば $h^{-1}g$ が求めるものであり、2 つあれば $h$ を合成して $(0,\infty,1)$ への写し方が 2 つになる。
存在:$p_i=[v_i]$($v_i\in k^2\setminus\{0\}$)とする。$p_1\neq p_2$ なので $v_1,v_2$ は一次独立で $k^2$ の基底であり、$v_3=\alpha v_1+\beta v_2$ と書ける。$p_3\neq p_2$ なので $\alpha\neq0$、$p_3\neq p_1$ なので $\beta\neq0$ である。列ベクトルが $\alpha v_1$、$\beta v_2$ の行列を $P$ とすると $P$ は可逆で、$Pe_1=\alpha v_1$、$Pe_2=\beta v_2$、$P(e_1+e_2)=v_3$ である。よって $g:=P^{-1}$ は $p_1\mapsto[e_1]=0$、$p_2\mapsto[e_2]=\infty$、$p_3\mapsto[e_1+e_2]=1$ と写す。
一意性:$M$ が $0,\infty,1$ をそれぞれ固定するとする。$[Me_1]=[e_1]$、$[Me_2]=[e_2]$ から $M=\begin{pmatrix}\lambda&0\\0&\mu\end{pmatrix}$ で、$[M(e_1+e_2)]=[\lambda:\mu]=[1:1]$ から $\lambda=\mu$ である。よって $M$ はスカラー行列で、$\mathrm{PGL}_2(k)$ の単位元である。$\square$
$\mathbb{R}$ 上のこの定理は 射影変換と複比 の記事の定理「3 点を 3 点に移す射影変換はただ 1 つ」にあり、この証明は任意の体で同じように通る。定理から、4 点の配置の不変量が 1 つの数で表せる。
相異なる 3 点 $a,b,c\in\mathbb{P}^1(k)$ について、$a\mapsto\infty$、$b\mapsto0$、$c\mapsto1$ と写す唯一の $\varphi_{a,b,c}\in\mathrm{PGL}_2(k)$ をとり、$d\in\mathbb{P}^1(k)$ について $(a,b;c,d):=\varphi_{a,b,c}(d)\in\mathbb{P}^1(k)$ とおく。このとき、すべての $g\in\mathrm{PGL}_2(k)$ について $(ga,gb;gc,gd)=(a,b;c,d)$ である。$a,b,c,d\in k$ のとき
$$
(a,b;c,d)=\frac{(a-c)(b-d)}{(a-d)(b-c)}
$$
である($d=a$ なら $\infty$)。
$\varphi_{a,b,c}\circ g^{-1}$ は $ga\mapsto\infty$、$gb\mapsto0$、$gc\mapsto1$ と写すので、thm-projective-line-three-points の一意性により $\varphi_{ga,gb,gc}=\varphi_{a,b,c}\circ g^{-1}$ であり、$(ga,gb;gc,gd)=\varphi_{a,b,c}(g^{-1}gd)=(a,b;c,d)$ である。$a,b,c\in k$ のとき、$\varphi(x):=\frac{(x-b)(c-a)}{(x-a)(c-b)}$ は 1 次分数変換で $a\mapsto\infty$、$b\mapsto0$、$c\mapsto1$ を満たすので $\varphi=\varphi_{a,b,c}$ であり、$\varphi(d)=\frac{(d-b)(c-a)}{(d-a)(c-b)}=\frac{(a-c)(b-d)}{(a-d)(b-c)}$ である。$\square$
$k=\mathbb{R}$ のとき、この式は 射影変換と複比 の記事の定義「直線上の 4 点の複比」と一致する。
次の事実は射影直線の基本的な性質だが、この記事では証明しない。
$k$ を体とする。
1 は Vak25 Exercise 15.5.A($\mathbb{P}^n_k$ の自己同型群が $\mathrm{PGL}_{n+1}(k)$ であること)の $n=1$ の場合である。要点は、自己同型が $\mathcal{O}(1)$ を $\mathcal{O}(1)$ に引き戻し、その大域切断の空間 $kx_0\oplus kx_1$ の 1 次変換を引き起こすことである。2 は 可逆層 の記事の例「射影直線」と Vak25 Exercise 15.1.E・15.4.15 にある。3 は 層コホモロジー の記事の例「射影直線上の $\mathcal{O}(d)$」で、2 つのアフィン開集合 $U_0,U_1$ による Čech 複体で計算されている。とくに $d=0$ の場合の $H^0=k$ は prop-projective-line-global-sections と一致する。
3 の $d=0$ の場合 $H^1(\mathbb{P}^1_k,\mathcal{O})=0$ は、$\mathbb{P}^1_k$ の種数が $0$ であることを表す。逆に、代数閉体上の種数 $0$ の非特異射影曲線は $\mathbb{P}^1$ と同型である(Riemann–Rochの定理 の記事の定理「射影直線の特徴づけ」)。この意味で射影直線は「最も簡単な射影曲線」である。複素数体上では、$\mathbb{P}^1(\mathbb{C})$ の正則な自己同型が 1 次分数変換(Möbius 変換)に限ることが Riemann球面 の記事の系「Riemann 球面の自己同型」にある。
次の表は、射影直線と似た作り方・似た性質の対象が、射影直線と同型にならない例を並べたものである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 貼り合わせが $u=1/t$ | $u=t$ で貼った「原点を 2 つもつ直線」 | 分離的である |
| 無限遠点 $\infty$ がある | アフィン直線 $\mathbb{A}^1_k$ | 大域切断が $k$ だけ($\mathbb{A}^1_k$ では $k[t]$)で、アフィンでない |
| $k$ 有理点をもつ | $\mathbb{R}$ 上の円錐曲線 $x^2+y^2+z^2=0$ | $\mathbb{P}^1_\mathbb{R}$ と同型である |
1 行目は prop-projective-line-separated の後の段落、2 行目は prop-projective-line-global-sections の後の段落で確かめた。
$\mathbb{R}$ 上の円錐曲線 $Q'=V_+(x^2+y^2+z^2)\subset\mathbb{P}^2_\mathbb{R}$ は、$\mathbb{R}$ 有理点をもたない($x^2+y^2+z^2=0$ となる実数の組は $(0,0,0)$ だけ)。一方 $\mathbb{P}^1_\mathbb{R}$ は $\mathbb{R}$ 有理点 $\infty$ をもち、同型は有理点の間の全単射を引き起こすので、$Q'$ は $\mathbb{P}^1_\mathbb{R}$ と同型でない。係数を $\mathbb{C}$ に広げると $\mathbb{P}^1_\mathbb{C}$ と同型になる(代数曲線 の記事の例「反例:実点をもたない 2 次曲線」)。この例は「非特異な 2 次曲線」「係数を代数閉体に広げると $\mathbb{P}^1$ と同型」を満たすが、「$\mathbb{P}^1_\mathbb{R}$ と同型」を満たさない。破れている仮定は「$\mathbb{R}$ 有理点をもつ」である。標数が $2$ でない体の上では、有理点をもつ非特異な円錐曲線は $\mathbb{P}^1$ と同型になる(同記事の例「反例:実点をもたない 2 次曲線」の後の段落)。
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