fpqc位相(fpqc topology)とは、平坦な射の族 $\{T_i\to T\}$ で、$T$ の各アフィン開集合が有限個のアフィン開集合の像の和として覆われるものを被覆とする、スキームの圏の Grothendieck 位相である。前層がすべての fpqc 被覆について層の条件を満たすことは、Zariski 被覆と、忠実平坦な環準同型 $A\to B$ が定める 1 本の射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ について満たすことと同値であり、これと忠実平坦降下から準連接層やアフィンスキームの表す関手が層の条件を満たすことが従う。完備化や体の超越拡大のような有限表示でない忠実平坦な射も被覆に含むので、fppf 位相より細かい降下の枠組みとして使われる。
前提知識: Grothendieck位相, 平坦射, 忠実平坦降下, 準連接層, 準コンパクト
忠実平坦降下 は、忠実平坦な環準同型 $A\to B$ について、$A$ 加群が $B$ への係数拡大と重なり $B\otimes_AB$ の上のデータから復元できることを述べる。幾何的には、$\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ という 1 本の射を「開被覆」とみなせるということである。この見方をアフィンでないスキームと無限個の射の族にまで広げるには、どの族を「被覆」と呼ぶかを決めなければならない。平坦で像が全体を覆う族をすべて被覆と呼ぶと広すぎて、準連接層さえ層の条件を満たさなくなる。準コンパクト性に関する条件を 1 つ加えたものが fpqc 被覆であり、fpqc は fidèlement plate quasi-compacte(忠実平坦・準コンパクト)の頭文字である。
この記事では fpqc 被覆を定義し、それが Grothendieck 位相の公理を満たすことを示す。主定理は、前層が fpqc 被覆について層の条件を満たすかどうかを、Zariski 被覆と 1 本の忠実平坦なアフィンスキームの射の場合に帰着する判定法である。系として、準連接層とアフィンスキームの表す関手が fpqc 被覆について層の条件を満たすことを得る。最後に、定義の条件を 1 つずつ外した族では層の条件が成り立たなくなることを例で確かめる。
以下、スキームの射 $f\colon T'\to T$ と部分集合 $V\subset T'$ について $f(V)$ は像を表す。スキームの族 $\{f_i\colon T_i\to T\}_{i\in I}$ は、終域 $T$ を共有する射の族である。
スキーム $T$ への射の族 $\{f_i\colon T_i\to T\}_{i\in I}$ が fpqc 被覆(fpqc covering)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
これは Stacks Definition 34.9.1(Tag 022B、p. 2958)の定義である。条件 2 から $T=\bigcup_if_i(T_i)$、すなわち族は全体を覆う。条件 2 の $V_j$ は $T_{i_j}$ の準コンパクト開集合に置き換えてよい(準コンパクト開集合は有限個のアフィン開集合の和である)。したがって条件 2 は「$T$ の各アフィン開集合 $U$ は、ほとんどすべてが空であるような準コンパクト開集合 $U_i\subset T_i$ の像の和 $\bigcup_if_i(U_i)$ として書ける」と言い換えられる(Stacks Lemma 34.9.2、Tag 03L7、p. 2958)。
スキーム $S$ を固定し、$S$ 上のスキームの圏を $\mathbf{Sch}/S$ と書く。前層 $F\colon(\mathbf{Sch}/S)^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ と $S$ スキームの射 $V\to U$ について、$F(U)\to F(V)$ を $s\mapsto s|_V$ と書く。
前層 $F$ が族 $\{T_i\to T\}_{i\in I}$($S$ スキームの射の族)について層の条件を満たすとは、
$$
F(T)\longrightarrow\prod_{i\in I}F(T_i)\ \rightrightarrows\ \prod_{(i,j)\in I\times I}F(T_i\times_TT_j)
$$
がイコライザであること、すなわち $s_i|_{T_i\times_TT_j}=s_j|_{T_i\times_TT_j}$ を満たす族 $(s_i)_i$ に対し、$s|_{T_i}=s_i$ となる $s\in F(T)$ がただ 1 つあることをいう。すべての fpqc 被覆について層の条件を満たすとき、$F$ は fpqc 位相について層の条件を満たすという。
これは Grothendieck位相 の記事の定義「景上の層」の条件と同じ形であり、Stacks Definition 34.9.13(Tag 022G、p. 2961)の定義である。fpqc 被覆の全体は次の節で見るように Grothendieck 位相の公理を満たすが、Stacks は fpqc 位相の景と層の圏を導入せず、層の条件だけを使う。理由は集合論的なもので、$0$ でない環 $R$ について、$\operatorname{Spec}R$ の fpqc 被覆の集合で、どの fpqc 被覆もそのいずれかの元で細分されるようなものは存在しないこと(Lemma 34.9.15、Tag 0BBK、pp. 2962–2963)と、集合論的な困難を無視すると層化をもたない前層に出会うことが、同書 p. 2960 で注意されている。この記事でも「fpqc 層の圏」は扱わず、個々の前層が層の条件を満たすかだけを問題にする。
要点:アフィン開集合は準コンパクトなので、有限個で覆える。
開埋め込みと局所化は平坦である(平坦射 の記事の例「平坦射の基本例」)。1:アフィン開集合 $U$ は $U\cap T_i$ で覆われ、各 $U\cap T_i$ は $T_i$ に含まれる $U$ の基本開集合の和である。$U$ は準コンパクトなので有限個の基本開集合 $V_1,\dots,V_n$($V_j\subset T_{i_j}$、アフィン)で覆われる。2:$U$ がアフィンなら $f^{-1}(U)$ は準コンパクト開集合で、全射なので $f(f^{-1}(U))=U$ である。準コンパクト開集合は有限個のアフィン開集合の和だから条件 2 が成り立つ。$A\to B$ が忠実平坦なら $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ は平坦かつ全射(忠実平坦 の記事の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)で、アフィンスキームの間の射なので準コンパクトである。3:$T$ の任意のアフィン開集合 $U$ について $f_j^{-1}(U)$ は準コンパクトであり(アフィンスキームの間の射は準コンパクト射である)、$U=\bigcup_jf_j(f_j^{-1}(U))$ である。4:平坦かつ局所有限表示の射は開写像である(平坦射 の記事の定理「平坦射は開写像」)。アフィン開集合 $U$ について、$f_i^{-1}(U)$ のアフィン開集合 $V$ の像 $f_i(V)$ は $U$ の開集合で、それらは $U$ を覆う。$U$ は準コンパクトなので有限個で覆える。これは Stacks Lemma 34.9.7(Tag 022C、p. 2959)の証明である。$\square$
要点:平坦性は合成と底変換で保たれ、準コンパクト開集合の像と逆像を追えば条件 2 が保たれる。
平坦射の合成と底変換は平坦である(平坦射 の記事の命題「合成と底変換」)。条件 2 は、定義の直後に述べた準コンパクト開集合による言い換えで確かめる。1 は prop-fpqc-examples の 2 の特別な場合である。2:$T$ のアフィン開集合 $U$ について、準コンパクト開集合 $U_i\subset T_i$(有限個を除いて空)で $U=\bigcup_if_i(U_i)$ となるものをとる。空でない $U_i$ は有限個のアフィン開集合 $U_{i,1},\dots,U_{i,m_i}$ の和であり、各 $U_{i,l}$ について準コンパクト開集合 $W_{i,l,j}\subset T_{ij}$(有限個を除いて空)で $U_{i,l}=\bigcup_jg_{ij}(W_{i,l,j})$ となるものがある。$W_{ij}:=\bigcup_lW_{i,l,j}$ は準コンパクト開集合で、有限個を除いて空であり、$U=\bigcup_{i,j}f_i(g_{ij}(W_{ij}))$ である。3:$U'\subset T'$ をアフィン開集合とする。$h(U')$ は準コンパクトなので、有限個のアフィン開集合 $U_1,\dots,U_m\subset T$ で覆われ、$U'$ は有限個のアフィン開集合 $U'_1,\dots,U'_r$ で $h(U'_k)\subset U_{a(k)}$ となるものの和に書ける。各 $U_a$ について準コンパクト開集合 $U_{a,i}\subset T_i$(有限個を除いて空)で $U_a=\bigcup_if_i(U_{a,i})$ となるものをとる。$U_{a,i}$ は有限個のアフィン開集合の和だから、$U_{a,i}\times_{U_a}U'_k$ はアフィンスキームのファイバー積の有限和として準コンパクトであり、$T_i\times_TT'$ の開集合である。全射は底変換で保たれる(点の像は剰余体のテンソル積が $0$ でないことから従う)ので、$\bigcup_i\operatorname{pr}_2(U_{a(k),i}\times_{U_{a(k)}}U'_k)=U'_k$ である。$W_i:=\bigcup_kU_{a(k),i}\times_{U_{a(k)}}U'_k$ は準コンパクト開集合で、有限個を除いて空であり、$U'=\bigcup_i\operatorname{pr}_2(W_i)$ である。$\square$
この定理は Stacks Lemma 34.9.8(Tag 022D、p. 2960)である。Zariski 被覆・エタール被覆・fppf 被覆はすべて fpqc 被覆なので(prop-fpqc-examples の 1・4、エタール位相)、fpqc 被覆について層の条件を満たす前層は、これらの位相についても層の条件を満たす(Grothendieck位相 の記事の命題「細かい位相の層は粗い位相の層」と同じ理由)。
fpqc 被覆は無限個の射を含み、$T$ もアフィンとは限らないので、層の条件を直接確かめるのは難しい。次の定理は、それを Zariski 被覆と 1 本の忠実平坦な射に分ける。
$S$ をスキーム、$F\colon(\mathbf{Sch}/S)^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ を前層とする。$F$ が fpqc 位相について層の条件を満たすことは、次の 2 条件がともに成り立つことと同値である。
(Z) と (A) の族はどちらも fpqc 被覆なので(prop-fpqc-examples の 1・2)、条件が必要であることは明らかである。十分であることを示す。
(Z) と (A) を仮定する。
段階 1:標準 fpqc 被覆。 $W$ をアフィン、$\{V_k\to W\}_{k=1}^n$ を標準 fpqc 被覆とする。$B:=\prod_k\mathcal{O}(V_k)$ とおくと $\operatorname{Spec}B=\coprod_kV_k$ であり、$B$ は $\mathcal{O}(W)$ 上平坦で、$\operatorname{Spec}B\to W$ は全射だから $B$ は忠実平坦である(忠実平坦 の記事の命題「忠実平坦環写像と素イデアル」)。(Z) から $F$ は有限直和を直積に写す(Grothendieck位相 の記事の命題「Zariski層は有限直和を直積に写す」)ので、同記事の命題「有限個の被覆と直和」により、族 $\{V_k\to W\}$ についての層の条件は $\{\operatorname{Spec}B\to W\}$ についての層の条件と同値であり、これは (A) により成り立つ。
段階 2:分離性。 $\{f_i\colon T_i\to T\}_{i\in I}$ を fpqc 被覆、$s,s'\in F(T)$ をすべての $i$ で $s|_{T_i}=s'|_{T_i}$ を満たすものとする。$T$ のアフィン開集合 $W$ をとると、定義により有限個のアフィン開集合 $V_k\subset T_{i_k}$ で $W=\bigcup_kf_{i_k}(V_k)$ となるものがある。$\{V_k\to W\}$ は標準 fpqc 被覆であり、$s|_W$ と $s'|_W$ の $V_k$ への制限は $T_{i_k}$ を経由して一致する。段階 1 の一意性から $s|_W=s'|_W$ である。アフィン開集合は $T$ を覆うので、(Z) により $s=s'$ である。
段階 3:アフィン開集合の上の切断。 $(s_i)_i$ を $s_i|_{T_i\times_TT_j}=s_j|_{T_i\times_TT_j}$ を満たす族とする。$T$ のアフィン開集合 $W$ と、段階 2 と同じ $V_k\subset T_{i_k}$ をとる。$W\to T$ は開埋め込みなので $V_k\times_WV_l=V_k\times_TV_l$ であり、これは $T_{i_k}\times_TT_{i_l}$ に写るから、$t_k:=s_{i_k}|_{V_k}$ は $V_k\times_WV_l$ の上で一致する。段階 1 により、$t_W|_{V_k}=t_k$ となる $t_W\in F(W)$ がただ 1 つある。
段階 4:$t_W$ と $s_i$ の両立。 各 $i$ について $t_W|_{W\times_TT_i}=s_i|_{W\times_TT_i}$ を示す。$W\times_TT_i=f_i^{-1}(W)$ である。族 $\{V_k\times_TT_i\to W\times_TT_i\}_k$ は fpqc 被覆 $\{V_k\to W\}$ の底変換なので fpqc 被覆である(thm-fpqc-pretopology の 3)。$V_k\times_TT_i$ の上で、$t_W$ の制限は第 1 射影 $V_k\times_TT_i\to V_k\to T_{i_k}$ に沿った $s_{i_k}$ の引き戻しであり、$s_i$ の制限は第 2 射影に沿った $s_i$ の引き戻しである。この 2 つは $V_k\times_TT_i\to T_{i_k}\times_TT_i$ を経由し、そこでは $s_{i_k}$ と $s_i$ が一致するので等しい。段階 2 の分離性を被覆 $\{V_k\times_TT_i\to W\times_TT_i\}_k$ に当てはめて主張を得る。
段階 5:貼り合わせ。 アフィン開集合 $W,W'$ について、$t_W$ と $t_{W'}$ の $W\cap W'$ への制限は、段階 4 によりどちらも $(W\cap W')\times_TT_i$ の上で $s_i$ に一致する。$\{(W\cap W')\times_TT_i\to W\cap W'\}_i$ は fpqc 被覆(thm-fpqc-pretopology の 3)なので、段階 2 により $t_W|_{W\cap W'}=t_{W'}|_{W\cap W'}$ である。(Z) により $t|_W=t_W$ となる $t\in F(T)$ がある。各 $T_i$ は開集合 $f_i^{-1}(W)=W\times_TT_i$ で覆われ、その上で $t|_{T_i}$ と $s_i$ は段階 4 により一致するので、(Z) により $t|_{T_i}=s_i$ である。一意性は段階 2 である。$\square$
この判定は Stacks Lemma 34.9.14(Tag 022H、pp. 2961–2962)と同じ主張である。そこでの証明は「一意な切断が存在する最大の開集合」を考えるもので、上の証明はそれを、先に分離性(段階 2)を一般の fpqc 被覆について示しておき、アフィン開集合ごとに作った切断を分離性だけで比べる形に書き直したものである。証明で準コンパクト性の条件(定義の条件 2)を使ったのは段階 2 と 3 で、アフィン開集合 $W$ を有限個のアフィンスキームの像で覆い、段階 1 の 1 本の忠実平坦な環準同型に帰着するところである。
1:$F(T):=\Gamma(T,g^*\mathcal{F})$ とおく。開集合 $U\subset T$ について $(g|_U)^*\mathcal{F}=(g^*\mathcal{F})|_U$ なので、(Z) は $g^*\mathcal{F}$ が $T$ 上の層であることにほかならない。(A) を示す。$T=\operatorname{Spec}A$ とすると、$g^*\mathcal{F}$ は準連接層なので $A$ 加群 $M:=\Gamma(T,g^*\mathcal{F})$ について $g^*\mathcal{F}=\widetilde M$ である。$h\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ について $\Gamma(\operatorname{Spec}B,h^*\widetilde M)=M\otimes_AB$ であり、$\operatorname{Spec}B\times_{\operatorname{Spec}A}\operatorname{Spec}B=\operatorname{Spec}(B\otimes_AB)$ の上の切断は $M\otimes_AB\otimes_AB$ である。2 本の制限写像は $m\otimes b\mapsto m\otimes b\otimes1$ と $m\otimes b\mapsto m\otimes1\otimes b$ である。したがって層の条件は $M\to M\otimes_AB\rightrightarrows M\otimes_AB\otimes_AB$ がイコライザであることで、これは 忠実平坦降下 の定理「Amitsur複体の完全性」である。thm-fpqc-sheaf-criterion により 1 が従う。
2:スキーム $T$ について $\operatorname{Hom}(T,\operatorname{Spec}R)$ は環準同型の集合 $\operatorname{Hom}(R,\Gamma(T,\mathcal{O}_T))$ と自然に一致する(アフィンスキーム)。fpqc 被覆 $\{T_i\to T\}$ について、1 により $\Gamma(T,\mathcal{O}_T)\to\prod_i\Gamma(T_i,\mathcal{O})\rightrightarrows\prod_{i,j}\Gamma(T_i\times_TT_j,\mathcal{O})$ は環のイコライザ(集合としてのイコライザに環の構造が入ったもの)である。$\operatorname{Hom}(R,-)$ は環のイコライザを集合のイコライザに写す(イコライザの普遍性)ので、$h_X$ は層の条件を満たす。$\square$
1 は Stacks Lemma 35.8.1(Tag 03DT、p. 2998)と同じ主張である。2 は、表現するスキームがアフィンでなくても、また $S$ 上の相対的な $\operatorname{Hom}_S(-,X)$ についても成り立つ。すなわち、任意のスキーム $X$ が表す関手は fpqc 位相について層の条件を満たす(Grothendieck の定理。Stacks Lemma 35.13.7、Tag 023Q、p. 3016。Grothendieck位相 の記事の定理「表現可能関手は層」)。一般の $X$ の場合は、貼り合わせた写像が $X$ のどのアフィン開集合に入るかを $T$ の側で知る必要があり、そのために、忠実平坦かつ準コンパクトな射の底空間の写像が商写像であること(普遍的に submersive であること)を使う。この記事では証明しない。
$p$ を素数とし、$\mathbb{Z}_{(p)}\to\mathbb{Z}_p$($p$ 進整数環への包含)を考える。$\mathbb{Z}_p$ は捩れをもたないので離散付値環 $\mathbb{Z}_{(p)}$ 上平坦であり(平坦射 の記事の命題「整域上の平坦加群と捩れ」)、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_p=\{(0),(p)\}$ は $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}=\{(0),(p)\}$ の上に全射に写る。よって忠実平坦であり、$\{\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_p\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}\}$ は fpqc 被覆である。一方、これは fppf 被覆ではない。有限生成 $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数は $\mathbb{Z}_{(p)}$ 係数の有限変数多項式環の像なので可算集合であるが、$\mathbb{Z}_p$ は非可算集合だから、$\mathbb{Z}_p$ は $\mathbb{Z}_{(p)}$ 上有限型ですらない。それでも、$\mathbb{Z}_{(p)}$ 加群は $\mathbb{Z}_p$ 加群と降下データから復元でき(忠実平坦降下 の定理「加群の降下」)、アフィンスキーム $X$ への射 $\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)}\to X$ は、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_p\to X$ で 2 つの引き戻しが $\operatorname{Spec}(\mathbb{Z}_p\otimes_{\mathbb{Z}_{(p)}}\mathbb{Z}_p)$ の上で一致するものと一対一に対応する(cor-fpqc-quasi-coherent の 2)。
体 $k$ の任意の拡大体 $K$ について、$K$ は $k$ 上の自由加群だから $k\to K$ は忠実平坦であり、$\{\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k\}$ は fpqc 被覆である。$K=k(t)$(有理関数体)のとき、これは fppf 被覆ではない。体であるような有限生成 $k$ 代数は $k$ 上有限次元である(Zariski の補題、Hilbertの零点定理)が、$k(t)$ は $k$ 上無限次元だからである。
定義の 3 つの要素(平坦性、全体を覆うこと、準コンパクト性の条件 2)は、どれを外しても cor-fpqc-quasi-coherent の結論が成り立たなくなる。以下 $k$ を体とし、1・2 行目では $S=\operatorname{Spec}k$、3 行目では $S=X=\mathbb{A}^1_k$ とする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 平坦性 | $\{\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\}$($\varepsilon\mapsto0$) | $\Gamma(-,\mathcal{O})$ の分離性 |
| 全体を覆うこと | $\{\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]\to\operatorname{Spec}k[t]\}$ | $\Gamma(-,\mathcal{O})$ の貼り合わせ |
| 条件 2(準コンパクト性) | $X=\mathbb{A}^1_k$ の局所環の族 $\{\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}\to X\}_{x\in X}$ | 準連接層 $\widetilde M$ の貼り合わせ |
1 行目。 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\to k$ は全射で、底空間の写像は 1 点から 1 点への全単射だが、$A:=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とおくと $k=A/(\varepsilon)$ は平坦な $A$ 加群ではない。実際、イデアル $(\varepsilon)$ は $A$ 加群として $k$ に同型なので $(\varepsilon)\otimes_Ak\cong k$ であり、包含 $(\varepsilon)\to A$ に $\otimes_Ak$ を施した写像 $k\to k$ は $\varepsilon\otimes1\mapsto\varepsilon\cdot1=0$ だから零写像で、単射でない。$\varepsilon\in\Gamma(\operatorname{Spec}k[\varepsilon]/(\varepsilon^2),\mathcal{O})$ と $0$ はどちらも $\operatorname{Spec}k$ への制限が $0$ なので、層の条件の一意性が破れる。
2 行目。 局所化 $k[t]\to k[t,t^{-1}]$ は平坦で、アフィンスキームの射なので準コンパクトだが、原点を覆わない。$k[t,t^{-1}]\otimes_{k[t]}k[t,t^{-1}]=k[t,t^{-1}]$(局所化どうしのテンソル積)なので、2 本の写像 $k[t,t^{-1}]\rightrightarrows k[t,t^{-1}]$ はどちらも恒等写像であり、イコライザは $k[t,t^{-1}]$ である。$k[t]\to k[t,t^{-1}]$ は全射でないので、たとえば $t^{-1}$ は両立する族だが $k[t]$ の元から来ない。
3 行目。 各 $\mathcal{O}_{X,x}$ は $k[t]$ の局所化なので平坦であり、$x$ は $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ の閉点の像だから族は全体を覆う。しかし fpqc 被覆ではない。$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}\to X$ の像は $x$ の一般化の全体で、$x$ が閉点なら $\{x,\eta\}$($\eta$ は生成点)である。どのアフィン開集合 $V\subset\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}$ の像もこれに含まれるので、有限個の像の和は有限個の閉点しか含まず、無限個の閉点をもつ $X$ にはならない($k[t]$ には無限個の極大イデアルがある)。
層の条件が破れることを見る。$X$ の閉点の全体を $\Sigma$ とし、$k[t]$ 加群 $M:=\bigoplus_{x\in\Sigma}\kappa(x)$(剰余体の直和)を考える。閉点 $x$ での局所化は $M_x=\kappa(x)$($y\ne x$ の成分 $\kappa(y)$ は $x$ の外の元で消える)、生成点では $M\otimes k(t)=0$ である。閉点 $x\ne y$ について、$\mathcal{O}_{X,x}\otimes_{k[t]}\mathcal{O}_{X,y}$ は $k[t]$ の $x$ の外の元と $y$ の外の元をともに逆にした局所化であり、その素イデアルは $x$ と $y$ の両方に含まれる素イデアル、すなわち $(0)$ だけである。この局所化は整域 $k[t]$ の分数環で素イデアルが $(0)$ だけなので体 $k(t)$ に一致し、その上の $\widetilde M$ の切断は $M\otimes k(t)=0$ である。生成点を含む重なりでも同様に切断は $0$ であり、$x=y$ のときは $\mathcal{O}_{X,x}\otimes\mathcal{O}_{X,x}=\mathcal{O}_{X,x}$ である。したがって両立条件は何も課さず、両立する族の全体は $\prod_{x\in\Sigma}\kappa(x)$ である。一方 $M=\bigoplus_{x\in\Sigma}\kappa(x)\to\prod_{x\in\Sigma}\kappa(x)$ は全射でない($\Sigma$ は無限集合)。よって、$X$ スキーム $g\colon T\to X$ に $\Gamma(T,g^*\widetilde M)$ を対応させる前層は、この族について層の条件を満たさない。cor-fpqc-quasi-coherent により fpqc 被覆についてはつねに満たされるので、これは条件 2 を外せないことを示している。
fpqc 被覆は、コホモロジーを計算するための景としてではなく、降下の言葉として使われる。忠実平坦降下 の加群・代数の降下は、thm-fpqc-sheaf-criterion と同じく Zariski 被覆での貼り合わせと組み合わせることで、準コンパクトで忠実平坦な射に沿ったスキーム上の準連接層の降下になる(忠実平坦降下 の注意「代数とアフィンスキームの降下(引用)」)。Grothendieck の定理(表現可能関手が fpqc 位相について層の条件を満たすこと)により、スキームの射は fpqc 被覆の上で決まり、群スキームの準同型やトーサーの同型も fpqc 局所的に調べてよい。エタール被覆・fppf 被覆では足りず fpqc 被覆が要るのは、ex-fpqc-completion の完備化や ex-fpqc-field-extension の大きな体の拡大のように、有限表示でない忠実平坦な射に沿って降下したいときである。他方、fpqc 位相の層コホモロジーは集合論的な理由で通常は考えず、平坦な位相でのコホモロジーには fppf位相 を使う(同記事の注意「fpqc位相との違い」)。
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