Diophantus幾何学

同義語:ディオファントス幾何学Diophantine geometry

概要

Diophantus幾何学(Diophantine geometry)とは、代数体上の多様体の有理点や整数点を、多様体の幾何を手がかりに調べる数論幾何学の分野である。基本の道具は高さで、$\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ の点 $P$ を成分の最大公約数が $1$ の整数座標で表したときの最大の絶対値 $H(P)$ として定める。高さが有界な点は有限個であり(Northcott の性質)、次数 $d$ の射は対数高さをほぼ $d$ 倍にするので、たとえば次数 $2$ 以上の射の有理数の前周期点は有限個になる。代数的数の有理数による近似の限界(Liouville、Roth)も柱である。種数 $2$ 以上の曲線の有理点が有限個であること(Faltings の定理)、種数 $1$ 以上の曲線の整数点が有限個であること(Siegel の定理)が代表的な成果である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理点, 射影空間, 代数体, Hilbertの零点定理

Diophantus 幾何学(Diophantine geometry)は、代数体(とくに有理数体 $\mathbb{Q}$)上の多様体の有理点や整数点を、多様体の幾何を手がかりに調べる分野である。問いの典型は「方程式の有理数解は有限個か」「有限個でないなら、大きさ $B$ 以下の解はいくつあるか」である。これに答える基本の道具が高さ(height)で、有理点の「算術的な複雑さ」を分子・分母の大きさで測る。高さには「一定以下の点は有限個」(Northcott の性質)と「写像で規則的に変わる」(関手性)という 2 つの性質があり、これを組み合わせると有限性の定理が得られる。
もう 1 つの柱が Diophantus 近似で、実数を有理数でどれほどよく近似できるかを調べる。代数的数は有理数であまりよく近似できないという事実は、Liouville に始まり Thue、Siegel を経て Roth の定理に至る。Faltings の定理の Vojta による別証明も Diophantus 近似に基づいている。この記事では、高さの 2 つの性質と Liouville の近似定理を完全に証明し、それらから前周期点の有限性を導いたうえで、Mordell 予想(Faltings の定理)を頂点とする主定理の地図を示す。

高さ

定義と Northcott の性質

射影空間 $\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ の点は、成分の最大公約数が $1$ の整数の組(原始的な座標)で、全体の符号を除いてただ 1 通りに表される(数論幾何学 の命題「射影空間の有理点と還元」)。

射影空間の点の高さ

$P\in\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ を原始的な座標 $(a_0,\dots,a_n)\in\mathbb{Z}^{n+1}$ で表し、
$$ H(P):=\max_i\lvert a_i\rvert,\qquad h(P):=\log H(P) $$
とおく。$H$ を高さ(乗法的高さ)、$h$ を対数高さという。原始的な座標は符号を除いて一意なので、$H(P)$ は $P$ だけで決まる。$H(P)\ge1$、$h(P)\ge0$ である。有理数 $x=u/v$(既約、$v\ge1$)には $x=[u:v]\in\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ として $H(x)=\max(\lvert u\rvert,v)$ を対応させる。

この定義は BIJ19 Definition 15.1 と Poo17 §2.6.4.3 のものである。$H(P)$ はおおよそ「$P$ を書き表すのに必要な桁数」の指数にあたる。たとえば $H(3/5)=5$、$H(-7/2)=7$、$H([6:4:2])=H([3:2:1])=3$ である。

Northcott の性質(有理数体の場合)

$B\ge1$ について、$H(P)\le B$ となる $P\in\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ は $(2\lfloor B\rfloor+1)^{n+1}$ 個以下である。とくに、高さが有界な点の集合は有限集合である。

$H(P)\le B$ なら、$P$ の原始的な座標の各成分は $-\lfloor B\rfloor$ 以上 $\lfloor B\rfloor$ 以下の整数であり、そのような組は $(2\lfloor B\rfloor+1)^{n+1}$ 個しかない。$P\mapsto$(原始的な座標の 1 つ)は単射なので主張が従う。$\square$

$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ で $H\le B$ となる点の個数を数えると、$B=1,2,3,4,5$ で $4,8,16,24,40$ 個、$B=10$ で $128$ 個、$B=100$ で $12176$ 個である($B=1$ の 4 点は $0,\infty,1,-1$)。有理数の点が無限個あっても、高さで区切ると有限個ずつに分かれる。点の個数が $B$ とともにどう増えるかは、Poo17 §2.6.4.3 の問いである。
代数的数を座標にもつ点にも、同様の(より込み入った)高さの定義があり、$\mathbb{P}^n(K)$($K$ は代数体)や、次数が一定以下の代数体すべての点を合わせた集合についても Northcott の性質が成り立つ(BIJ19 §15、Definition 15.1 の後の段落)。この記事では $\mathbb{Q}$ の場合だけを証明する。

射による高さの変化

高さのもう 1 つの基本性質は、次数 $d$ の射が高さを「ほぼ $d$ 倍」にすることである。

射と高さ

$f_0,\dots,f_m\in\mathbb{Z}[x_0,\dots,x_n]$ を次数 $d\ge1$ の同次多項式とし、$\bar{\mathbb{Q}}^{n+1}$ で共通零点が $0$ だけであるとする。$f=[f_0:\dots:f_m]\colon\mathbb{P}^n\to\mathbb{P}^m$ とおく。定数 $C_1,C_2\ge0$ があって、すべての $P\in\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ について
$$ d\,h(P)-C_1\;\le\;h\bigl(f(P)\bigr)\;\le\;d\,h(P)+C_2 $$
が成り立つ。

$f$ は共通零点をもたないので、$P$ の座標 $a$ について $f_j(a)$ は全部は $0$ にならず、$f(P):=[f_0(a):\dots:f_m(a)]$ は座標の定数倍によらない点である。この仮定をみたす $f$ を射という(BIJ19 §3 の用語で、不定点をもたない有理写像)。上からの評価は三角不等式だけで示せるが、下からの評価には Hilbertの零点定理 を使う(BIJ19 (15.1)、(15.2))。

$P$ の原始的な座標を $a\in\mathbb{Z}^{n+1}$、$H:=H(P)=\max_i\lvert a_i\rvert$ とする。$f_j(a)$ はすべて整数である。$g:=\gcd_j f_j(a)$ とおくと、$f(P)$ の原始的な座標は $(f_j(a)/g)_j$ なので
$$ H\bigl(f(P)\bigr)=\frac{\max_j\lvert f_j(a)\rvert}{g}. $$
(上からの評価)$f_j$ の単項式の個数を $M_j$、係数の絶対値の最大を $c_j$ とすると、各単項式の値は絶対値 $H^d$ 以下なので $\lvert f_j(a)\rvert\le M_jc_jH^d$ である。$g\ge1$ なので $H(f(P))\le\bigl(\max_jM_jc_j\bigr)H^d$ であり、対数をとって $C_2:=\log\max_jM_jc_j$ とすればよい。
(下からの評価の準備)$f_0,\dots,f_m$ が $\bar{\mathbb{Q}}^{n+1}$ で共通零点を $0$ しかもたないので、各座標関数 $x_i$ はその零点集合の上で $0$ になる。Hilbertの零点定理 の定理「Hilbertの零点定理」の 3(強零点定理)により、$x_i$ はイデアル $(f_0,\dots,f_m)\subset\bar{\mathbb{Q}}[x_0,\dots,x_n]$ の根基に入る。したがって整数 $e\ge d$ と $\bar{\mathbb{Q}}[x]$ の元 $g_{ij}$ があって $x_i^e=\sum_jg_{ij}f_j$($i=0,\dots,n$)が成り立つ($i$ ごとの指数の最大をとり、必要なら両辺に $x_i$ の冪を掛ける)。両辺の $e$ 次の同次部分をとれば、$g_{ij}$ は $e-d$ 次の同次多項式としてよい。
この等式は、$g_{ij}$ の係数を未知数とする有理数係数の連立 1 次方程式が $\bar{\mathbb{Q}}$ に解をもつことを意味する。連立 1 次方程式が解をもつかどうかは係数行列と拡大係数行列の階数で決まり、階数は体を広げても変わらないので、$\mathbb{Q}$ にも解がある。分母を払うと、正の整数 $D$ と $e-d$ 次の同次多項式 $G_{ij}\in\mathbb{Z}[x]$ があって
$$ D\,x_i^e=\sum_{j=0}^mG_{ij}\,f_j\qquad(i=0,\dots,n) $$
となる。$D$ と $G_{ij}$ は $f$ だけで決まり、$P$ によらない。
(下からの評価)この等式に $x=a$ を代入すると、$g$ は右辺を割り切るので $g\mid Da_i^e$(すべての $i$)である。$\gcd_i a_i^e=1$ なので $g\mid D$、とくに $g\le D$ である。一方、$G_{ij}$ の単項式の個数と係数から上と同様に定数 $c'$ があって $\lvert G_{ij}(a)\rvert\le c'H^{e-d}$ である。$\lvert a_i\rvert=H$ となる $i$ を選ぶと
$$ DH^e=\lvert Da_i^e\rvert\le\sum_j\lvert G_{ij}(a)\rvert\,\lvert f_j(a)\rvert\le(m+1)\,c'H^{e-d}\max_j\lvert f_j(a)\rvert, $$
よって $\max_j\lvert f_j(a)\rvert\ge\dfrac{D}{(m+1)c'}H^d$ である。$g\le D$ と合わせて
$$ H\bigl(f(P)\bigr)=\frac{\max_j\lvert f_j(a)\rvert}{g}\ge\frac{1}{(m+1)c'}H^d $$
となり、$C_1:=\log\bigl((m+1)c'\bigr)$ とすればよい($C_1<0$ となる場合は $C_1:=0$ としてよい)。$\square$

$f(x)=x^2$、すなわち $f=[x_0^2:x_1^2]$ では、原始的な $(u,v)$ について $(u^2,v^2)$ も原始的なので $h(f(P))=2h(P)$ が等号で成り立つ。一般には誤差 $C_1,C_2$ が避けられない。たとえば $f=[x_0^2+x_1^2:x_1^2]$($x\mapsto x^2+1$)で $P=[1:1]$ なら $f(P)=[2:1]$ で、$h(f(P))=\log2\ne2h(P)=0$ である。

応用:前周期点の有限性

高さの 2 つの性質を組み合わせると、有限性の定理が得られる。写像 $f\colon\mathbb{P}^n\to\mathbb{P}^n$ について、点 $P$ の軌道 $\{P,f(P),f(f(P)),\dots\}$ が有限集合であるとき、$P$ を $f$ の前周期点(preperiodic point)という。

Northcott の定理(有理数体の場合)

$f\colon\mathbb{P}^n\to\mathbb{P}^n$ を thm-dg-functoriality の仮定をみたす次数 $d\ge2$ の射とする。$f$ の前周期点で $\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ に属するものは有限個である。

thm-dg-functoriality の定数 $C_1$ をとり、$h(f(Q))\ge d\,h(Q)-C_1$(すべての $Q\in\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$)とする。$h(P)>C_1/(d-1)$ となる $P$ は前周期点でないことを示す。このとき
$$ h\bigl(f(P)\bigr)-h(P)\ge(d-1)\,h(P)-C_1>0 $$
なので $h(f(P))>h(P)>C_1/(d-1)$ である。同じ議論を $f(P),f(f(P)),\dots$ に繰り返すと、軌道の点の高さは狭義単調に増加する。高さの違う点は違う点なので軌道は無限集合であり、$P$ は前周期点でない。したがって前周期点はすべて $h(P)\le C_1/(d-1)$ をみたし、prop-dg-northcott により有限個である。$\square$

この定理は代数体上でも成り立ち、Northcott(1950 年)による(BIJ19 Theorem 4.1)。証明は「高さは射でほぼ $d$ 倍になる」ことと「高さが有界な点は有限個」の 2 つだけを使っている。同じ 2 つの性質(楕円曲線の点の高さについての類似)は、楕円曲線の有理点の群が有限生成であることの証明でも使われる(Mordell–Weilの定理 の補題「降下の補題」)。

$x^2-1$ の有理数の前周期点

$f(x)=x^2-1$、すなわち $f=[x_0^2-x_1^2:x_1^2]$ とする(共通零点は $0$ だけ)。$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ の前周期点はちょうど $\infty,-1,0,1$ の 4 点である。
実際、$\infty$ は固定点で、$1\mapsto0\mapsto-1\mapsto0$ なので $-1,0,1$ は前周期点である。逆に、$x=u/v$(既約、$v\ge2$)なら $f(x)=(u^2-v^2)/v^2$ で、$\gcd(u^2-v^2,v^2)=\gcd(u^2,v^2)=1$ なので $f(x)$ の既約分母は $v^2$ である。繰り返すと $f^k(x)$ の分母は $v^{2^k}$ で、これらはすべて異なるので軌道は無限である。$x$ が $\lvert x\rvert\ge2$ の整数なら $\lvert x^2-1\rvert\ge\lvert x\rvert^2-1>\lvert x\rvert$ で、$\lvert f(x)\rvert\ge2$ も保たれるので、絶対値が狭義単調に増えて軌道は無限である。残る整数は $-1,0,1$ だけである。

$x^2+c$($c\in\mathbb{Q}$)の形の写像について、有理数の前周期点の個数は $c$ によらず $9$ 以下であると予想されている(Poonen の予想のもとでの帰結。BIJ19 Conjecture 4.4、Theorem 4.5)。

Diophantus 近似

Liouville の近似定理

無理数 $\alpha$ には、$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^2$ をみたす有理数 $p/q$($q\ge1$)が無限個ある(連分数による。Bug11 §2 冒頭)。代数的な無理数は、それより大幅によく近似することはできない。その最初の結果が次の定理である。

Liouville の近似定理

$\alpha$ を $d$ 次($d\ge2$)の実代数的数とする。定数 $c>0$ があって、すべての有理数 $p/q$($p\in\mathbb{Z}$、$q\ge1$)について
$$ \Bigl\lvert\alpha-\frac pq\Bigr\rvert\ge\frac{c}{q^d} $$
が成り立つ。

$\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式に分母の公倍数を掛けて、整数係数の $d$ 次多項式 $F$ を作る。$F$ は $\mathbb{Q}$ 上既約で次数 $d\ge2$ なので、有理数の根をもたない。したがって $F(p/q)\ne0$ であり、$q^dF(p/q)$ は $0$ でない整数だから $\lvert F(p/q)\rvert\ge1/q^d$ である。
$M:=\max\{\lvert F'(x)\rvert\mid\lvert x-\alpha\rvert\le1\}$ とおく(閉区間上の連続関数の最大値)。$\lvert\alpha-p/q\rvert\le1$ なら、平均値の定理により $\alpha$ と $p/q$ の間の $\xi$ があって
$$ \frac1{q^d}\le\Bigl\lvert F\Bigl(\frac pq\Bigr)-F(\alpha)\Bigr\rvert=\lvert F'(\xi)\rvert\,\Bigl\lvert\frac pq-\alpha\Bigr\rvert\le M\Bigl\lvert\alpha-\frac pq\Bigr\rvert $$
である($F(\alpha)=0$)。$M>0$ である($M=0$ なら $F$ はこの区間で定数となり $F(\alpha)=0$ から $F=0$ となって矛盾)。$\lvert\alpha-p/q\rvert>1$ なら $\lvert\alpha-p/q\rvert>1\ge1/q^d$ である。よって $c:=\min(1,1/M)$ とすればよい。$\square$

Liouville 数

$L:=\sum_{k\ge1}10^{-k!}=0.110001000\dots$ は超越数である。
$q_n:=10^{n!}$、$p_n:=q_n\sum_{k=1}^n10^{-k!}\in\mathbb{Z}$ とおくと
$$ 0< L-\frac{p_n}{q_n}=\sum_{k>n}10^{-k!}<2\cdot10^{-(n+1)!}=\frac{2}{q_n^{\,n+1}} $$
である(右の不等式は $\sum_{k>n}10^{-k!}\le10^{-(n+1)!}\sum_{j\ge0}10^{-j}$ による)。$L$ が $d\ge2$ 次の代数的数なら、thm-dg-liouville により $c/q_n^d<2/q_n^{n+1}$、すなわち $c<2q_n^{d-n-1}$ がすべての $n$ で成り立つが、右辺は $n\to\infty$ で $0$ に近づくので矛盾する。$L$ は有理数でもない($L=u/v$ なら $\lvert L-p_n/q_n\rvert\ge1/(vq_n)$ だが、これは $n$ が大きいと $2/q_n^{n+1}$ より大きい)。よって $L$ は超越数である。

Roth の定理まで

Liouville の指数 $d$ は、Thue(1909 年)、Siegel(1921 年)、Dyson、Gelfond によって改良され(Bug11 §6 冒頭)、Roth が最良の形に到達した。

Roth の定理

$\alpha$ を実代数的な無理数、$\varepsilon>0$ とする。$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^{2+\varepsilon}$ をみたす有理数 $p/q$($q\ge1$)は有限個しかない。

指数 2 の意味

指数 $2+\varepsilon$ の $\varepsilon$ は $0$ にできない。無理数 $\alpha$ の連分数展開の近似分数は $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^2$ をみたし、無限個ある。したがって指数 $2$ そのものでは有限性は成り立たず、Roth の定理は代数的な無理数の有理数による近似の指数について最良の値を与える。

この定理はこの記事では証明しない(Bug11 §2 の Theorem (Roth, 1955))。指数 $2$ は、ほとんどすべての実数について成り立つ指数と同じである(同所)。Roth の定理の証明は、どの $p/q$ が例外かを計算できる形にはなっていない(非有効性。同 §1)。Schmidt の部分空間定理はこれを多変数に一般化したもので、ノルム形式方程式(Thue 方程式を含む)の解の有限性に使われる(同 §1、§3)。

主定理の地図

Diophantus 幾何学の主な定理と予想を、有理点と整数点に分けて並べる。どれもこの記事では証明しない。

曲線の有理点と整数点

曲線の種数有理点 $C(K)$整数点
$0$空か無限($\mathbb{P}^1(K)$ と 1 対 1)無限個になりうる(例:$\mathbb{A}^1$ の整数点 $\mathbb{Z}$)
$1$空か有限生成アーベル群(Mordell–Weil)有限個(Siegel)
$2$ 以上有限個(Faltings)有限個
  1. Mordell–Weil の定理:代数体 $K$ 上の楕円曲線の有理点の群は有限生成である(Mordell–Weilの定理)。証明は、楕円曲線の点の高さの性質(高さが有界な点の有限性と、2 倍写像での高さの変化)と弱 Mordell–Weil の定理を組み合わせる降下法による。
  2. Siegel の定理:種数 $1$ 以上の曲線は整数点を有限個しかもたない(BIJ19 §21、Theorem 21.2 の前の段落)。たとえば $k\ne0$ のとき $y^2=x^3+k$ の整数解は有限個である(この曲線の射影閉包は楕円曲線で、種数は $1$)。
  3. Faltings の定理(Mordell 予想):代数体 $K$ 上の種数 $2$ 以上の滑らかな射影曲線 $X$ について $X(K)$ は有限である(Poo17 Theorem 9.5.1)。Mordell が 1922 年に予想し、Faltings が 1983 年に証明した。Faltings の証明は Parshin の考えを使って、有限個の素点の外でよい還元をもつ、次元を固定したアーベル多様体が同型を除いて有限個であること(Shafarevich 予想)に帰着する。Vojta は Diophantus 近似に基づく別証明を与え、Bombieri がそれを簡易化した(同所)。
  4. Mordell–Lang 予想(Faltings の定理):複素数体上のアーベル多様体 $A$、部分多様体 $Y\subset A$、点 $P,Q\in A(\mathbb{C})$ について、$P+nQ\in Y$ となる整数 $n\ge0$ の集合は有限個の等差数列(1 点を含む)の和である。これは有限生成部分群 $\Gamma$ と $Y$ の交わりについての一般の主張の、$\Gamma$ が 1 個の点で生成される場合にあたる(BIJ19 Remark 7.7)。3 の高次元への一般化の 1 つである。

高次元の予想

  • Bombieri–Lang 予想:代数体 $k$ 上の、正の次元の一般型の幾何的に整な多様体 $X$ について、$X(k)$ は Zariski 稠密でない(Poo17 Conjecture 9.5.11)。Poo17 §9.5 は種数 $2$ 以上の曲線をこの枠組みの最初の場合として扱っており、この予想は 3 の一般化になっている。$X$ がアーベル多様体の部分多様体のときは Faltings により証明されている(同所)。
  • 有理点の個数の増え方:$X(\mathbb{Q})$ が無限のとき、$H(P)\le B$ となる点の個数 $N_X(B)$ の増え方を予測する問題がある(Poo17 Question 2.6.10)。
  • 力学系の類似:thm-dg-preperiodic の個数を写像によらず一様に抑える予想(Morton–Silverman の一様有界性予想)など、高さを使う有限性の問題は力学系にも広がっている(BIJ19 Conjecture 4.2)。

例と反例

有限性の定理の仮定を外すと、結論は成り立たなくなる。確かめは表の下にある。

外す条件反例成り立たなくなること
高さで測る実数の絶対値 $\lvert x\rvert\le1$大きさが有界な有理数は有限個
射であること(共通零点なし)$f=[x_0x_1:x_1^2]$$h(f(P))\ge2h(P)-C_1$
次数 $d\ge2$恒等写像($d=1$)前周期点は有限個
代数的数Liouville 数 $L$$\lvert\alpha-p/q\rvert\ge c/q^d$
代数体上定数曲線 $X_0\times_{\mathbb{C}}\mathbb{C}(t)$種数 $2$ 以上の曲線の有理点は有限個
反例の確かめ
  1. $\lvert x\rvert\le1$ の有理数 $1/n$($n\ge1$)は無限個ある。高さは分母も測るので、$H(1/n)=n$ は有界でない。
  2. $f=[x_0x_1:x_1^2]$ は点 $[1:0]$ で両成分が $0$ になり、射ではない。$P=[u:v]$(原始的、$v\ne0$)について $f(P)=[uv:v^2]=[u:v]=P$ なので $h(f(P))=h(P)$ であり、$h(P)$ が大きい点では $2h(P)-C_1\le h(P)$ が成り立たない。
  3. 恒等写像ではすべての点が固定点なので、$\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ のすべての点が前周期点で、無限個ある。thm-dg-preperiodic の証明で $d-1>0$ を使うところが崩れる。
  4. ex-dg-liouville-number の $L$ は、どの $d$ と $c>0$ についても $\lvert L-p_n/q_n\rvert< c/q_n^d$ となる $n$ をもつ。
  5. $X_0$ を $\mathbb{C}$ 上の曲線とし、$K=\mathbb{C}(t)$ 上に基底変換した曲線 $X$ は $X_0(\mathbb{C})\subset X(K)$ を含み、$X(K)$ は無限集合である(Poo17 Example 9.5.5)。種数が $2$ 以上でもそうなるので、Faltings の定理の類似は関数体では「定数でない」という仮定なしには成り立たない(同 Theorem 9.5.10)。

直感

Diophantus 幾何学の中心にある直観は、「幾何が算術を決める」ということである。曲線の場合、複素数の点のなす閉曲面は、種数 $0$、$1$、$2$ 以上でそれぞれ球面、トーラス、穴が 2 つ以上ある曲面である。有理点の多さは、穴が増えるこの順に「無限・有限生成・有限」と減っていく(上の表)。高さはこの直観を定量的にする道具で、「有理点が多い」ことを「高さ $B$ 以下の点が $B$ の冪ほどある」と言い換え、「写像が高さを $d$ 倍にする」ことから有限性を引き出す(thm-dg-preperiodic)。Diophantus 近似は、「代数的数の近くには高さの小さい有理数が少ない」という形で、同じ高さの言葉に乗る。

関連する分野との区別

  • 数論幾何学:Diophantus 幾何学を含むより広い分野で、有限体・局所体上の多様体、Galois 表現、ゼータ関数・$L$ 関数なども扱う。Diophantus 幾何学は、そのうち大域体上の有理点・整数点の有限性と分布に焦点を当てる部分である。
  • **不定方程式の解法**:個々の方程式の整数解を、合同式や因数分解などの初等的な方法で求める。Diophantus 幾何学は、方程式の族について、解の有限性や個数を幾何の性質から一般的に論じる。
  • 超越数論:Liouville 数のように、数が代数的でないことを示す分野である。Diophantus 近似という共通の道具をもつ(Bug11 §4、§7)。

関連項目

参考文献

[1]
Robert Benedetto, Patrick Ingram, Rafe Jones, Michelle Manes, Joseph H. Silverman, Thomas J. Tucker, Current trends and open problems in arithmetic dynamics, arXiv:1806.04980, 2019, arXiv 版 §3(射と不定点)、Theorem 4.1(Northcott の定理)・Conjecture 4.2・Conjecture 4.4・Theorem 4.5、Remark 7.7(Mordell–Lang 予想の 1 点で生成される部分群の場合)、§15 Definition 15.1 と (15.1)・(15.2)(高さとその射による変化)、§21 冒頭(Siegel の定理)
[2]
Bjorn Poonen, Rational Points on Varieties, American Mathematical Society, 2017, §2.6.4.3・Question 2.6.10(有理点の高さと個数の増え方)p.51、§9.5:Theorem 9.5.1(Faltings の定理とその証明の経緯)p.286、Example 9.5.5・Theorem 9.5.10(関数体上の類似)p.287–288、Conjecture 9.5.11(Bombieri–Lang 予想)p.288
[3]
Yann Bugeaud, Quantitative versions of the Subspace Theorem and applications, Journal de Théorie des Nombres de Bordeaux, 2011, §1(部分空間定理、Thue 方程式、非有効性)p.35–36、§2(連分数による近似、Roth の定理)p.36–37、§6 冒頭(Liouville から Roth までの歴史)p.46、§3(部分空間定理の古典的な応用:ノルム形式方程式)p.38–40、§4・§7(超越数論への応用)p.40–44・p.52–

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